幼女探偵L おっぱいぱーいの謎 |
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●事件発生● 「おっぱいぱーい!」 突如奇声が放たれたのは変哲のないオフィスでだった。 音源は美魔女と評判のAさん。 三十代の色香を放ちながらも、まじめなプログラマーである。バグも少なくみなの信頼の厚いひとだ。 そんな彼女が、周囲の目を集めながらもそれを気にする風もなく、「おっぱいぱーい!」と楽しげに繰り返している。しばらくそれを繰り返すと、なにごともなかったかのように席に座り業務へともどる。 「あの、Aさん?」 「なにかしら?」 おそるおそる僕は彼女にたずねる。が彼女は仕事上の質問を受けるように平然と返した。 やはりそうだ、Aさんにはいまの奇行に自覚がない。 僕はそれをどう彼女に伝えるか迷っていると、察しのよい彼女は自ら気づいたようだ。 「まさか、あたしなの?」 「ええ、まあ、はい……」 なんとうちの会社ではこのような奇行が繰り返されているのだ。奇行を行った者たちにその自覚はなかった。まさに謎だ。 そして困ったことに、その事件解決の探偵役になぜが僕ことMが選ばれてしまったのである。 事件解決の見込みは……ない。 ●状況整理● うちの会社では、数週間ほど前から『おっぱいぱーい!』と連呼される事件が起きている。 それを行ったのは、みな問題のあるような人たちではない。しかも奇行に及んだ人たちは、そのことを一切覚えていないのだ。さきほどのAさんとおなじように。 むしろまるで憑き物がおちたようにさっぱりとしている。 平成も終わり令和がはじまろうというこの時代に妖怪の仕業だなんて言ったら怒られるにちがいない。 だが解決の糸口すらつかめぬ僕にはいっそすべてをほうり捨てて、逃げ出したかった。面倒ごとはイヤだ。 だがだが自体を放置してはおけないと、社長直々に頼まれてはそれを口にはできない。すくなくとも夏のボーナスをもらうまでは。 僕が選ばれたのは単に仕事に余裕があったからだろう。 別段頭がいいわけでも、特殊な能力を有しているわけではない。 むしろ探偵のちかくにいて、「うわー」とか言って驚く役柄こそがふさわしいと思う。 ――そうか 探偵を雇えばいいんだ。 ●探偵登場● 僕は事件の解決を外部に委託することにした。 ネットで安く事件を解決してくれる人を見つけ依頼メールをおくる。するとさっそく着てくれることになった。探偵というと浮気調査が基本と聞くけれど、その探偵会社ではそういう依頼は断ると書いてあった。 だが応接室で現れたその人を見ておどろく。 「こちわ、ようじょたんていLでしゅ」 現れたのはシャーロックホームズを意識したようなトレンチコートを着た幼女だった。背が低く、瞳は青く、髪の毛はくるくるとクセのついた金髪。フレームのふといセンスのない眼鏡をかけているのがもったいない。だがどう身ても小学校低学年。しかもコートを着込んでいるせいで下の服がみえず、なんだか全裸にコートの痴女スタイルに見えてしかたがない。たぶんきっと気のせいだ。 「あの、ほんとに探偵なんですか?」 「しょーこれす」 それは色のついた画用紙を自分で切ったのだろう。手書きの証明書だった。『ようじょたんてい』とひらがなで書かれている。 たぶん自作なんだろうな。 ここでつっこんでもたぶんなにもはじまらない。 どうせ探偵に資格なんてないんだろうし、自称でもおなじことか。 ちなみに依頼料は無料である。事件が本当に解決できるのか、経費で探偵を雇う代金がおちるか不明だったため、自費でもなんとかなるよう、なるべく安いところを探していたら彼女にたどりついた。 ソシャゲのように、無料には罠がしかけられているのだと僕は学習した。 でもまだ彼女が無能だと決まったわけじゃない。コナンくんばりの名推理を披露してくれる可能性だってあるハズ。 その場合、僕らは幼女でも解ける事件を解けなかったことになるのだが……そこはそれ閻魔の使いということで有耶無耶にしてしまおう。 そのまえにいちおう確認しておくことがある。 「あの、Lちゃん?、その、学校はいいのかな?」 「だいじょぶです。じけんがおきたひはそーりつきねんびなのです」 彼女のもとに届くかは別として、なにかしらの事件は毎日起きているだろうから、単に『今日は創立記念日』と嘘をつきたいのだろうな。 「あちゃしはたしかにようじょです。かわいいです。でもちがうのれす」 「はぁ?」 「おとなたちではわからないりょーしきいがいのものをみるちからがそなわっているのです」 「常識に捕らわれないですか」 たしかに、彼女なら常識に捕らわれないだろう。そもそも常識を備えてなさそうだから。 「まじゅは、じけんのぜんようをきかせてくだしゃい」 一応、仕事を依頼した手前むげにするのもかわいそうである。 僕は僕なりに調べたことをLちゃんに伝えることにした。 事件内容は社内で繰り返し『おっぱいぱーい!』と叫ぶ人物が出てくること。発生場所も人物も不特定。強いて言えば若手や室内でPCを扱っている連中に多い。だが社員の大半がそうなのだから絞りきれない。 一度、みなの了承を得て監視カメラで仕事の様子を録画することにした。だが、犯行に及んだ者はその動画をみても、「トリックだ」「偽造だ」と言うだけで奇行を認めようとはしなかった。 「ふむ」 Lちゃんはコートの内ポケットからとりだしたぺろぺろキャンディーをちっちゃな舌で舐めあげる。ひどく真面目な顔をしているが、僕が気にしているのは別のところだった。 ――やばい、この子、コートの下になにも着てない。 その理由はまったくわからなかったけれど、なるべくことを荒立てずに帰ってもらえるよう心がけることにした。まちがってもこの場に警察なんてよばれないように。 「あのー、なにかわかりましたか?」 「まったくです」 予想していたとはいえ、改めて言われるとがっくりくるものがある。 「そもそも、このじけんのひがいしゃはだれなにょれすか?」 「えっ、そりゃもちろん……」 誰だろう。指摘されてはじめてそこに疑問をもった。 恥ずかしい思いをしたという意味では、奇行におよんだ人だろう。 びっくりしたという意味では、それを目撃した人なのかもしれない。 だが、どちらと確定することは難しいように思えた。 「誰なんでしょう?」 「わかりません」 聞いたのに答えはわからなかった。 そんな時、ふたたび応接室のとびらがあいた。 「事件です!」 どうやら、つぎの事件が起こってしまったようだ。 ●捜査開始● 今回奇行に及んだのは経理部のBさんだった。 Bさんは、すっごくおっぱいの大な社内でも注目の新人だ。その彼女が楽しげに「おっぱいぱーい」と叫んでいるところを見られなくて残念だ。 念のため確認したところBさんに自覚はなく「嘘でしょ?」と信じようとはしなかった。 軽くLちゃんがBさんの身と机周りを調べる。とくになにかを見つけたようなことはなかった。 事件の様子を確認しようと、監視カメラを管理しているPCがおいてある会議室へと移る。中小企業の会議室の一部が物置と化しているのはよくあることだ。 録画データを呼び起こし、奇行が行われた時間を再生してみる。 そこにはやはり楽しげに『おっぱいぱーい!』と叫んでいる。その動きがダイナミックで胸元も大きく揺れ動いている。眼福だ。あとでデータを複製しておこう。 Lちゃんは幼女なので、Bさんのおっぱいには興味がないようだ。 ほかの事件のときの映像を出すように要求する。 何件目かの映像を見ているときに、画面を指さして質問した。 「これはなんですか?」 Lちゃんが指さしていたのはPCだった。 「なにって、PCですよ」 「それはわかりましゅ。ピーチーでなにをしてたんでちゅかというのでしゅ」 頬をふくらませ抗議する。 「仕事ですよ。飲食店の会計とかでパソコン使ってるお店があるでしょ? そういうとこで使うプログラムを組んでます。あっ、Bさんは経理なんでふつうの事務仕事だと思いますけど」 共通点といえば共通点だ。だが我が社ではほぼ全員使っているとみていい。警備のおじさんと、掃除のおばさん、それと会食と女遊びで忙しい社長以外はみなPCを使う。 「ちょっと聞いてみます」 そう言ってLちゃんはメガネのフレームをコツコツたたく。 「ふむふむ、なるほど……」 「なにしてるんですか?」 「じつはこのめがね、おそとににつながるの。いまおともだちにきいてるからまって」 ネットネイティブは、探偵でも自分でわからないことは他人に聞くのが基本らしい。なんでもそれぞれ得意分野があるそうだ。 でも、探偵が他力本願でいいのかな? 僕がいうのもなんだけれど。 「わかりました。やっぱりはんにんはこいつでしゅね」 Lちゃんが自身満々に指さしたのはPCだった。 ●幼女の力● 「理由を聞いてもよいでしょうか?」 「そのまえに、ちょっといいですか?」 幼女はメガネにコードをつなげると、その反対側を会議室に置かれたPCのUSB端子につなげる。 「ちょっ、ちょっと……こまります」 幼女相手とはいえ、さすがにPC内部の情報を見られるのは問題だ。このPCに重要なデータがなくとも、社内のPCはすべてローカルネットワークでつながっている。顧客情報が漏れでもしたら会社としての信用にかかわる。 セキュリティはかかっているが、それは外部からの進入を防ぐもの。内部からどの程度有効に働くかは僕には未知数だ。 「いいからみててください。そこですよ」 ハダカの幼女にうかつに触れては事案になる。 だが、それ以上に恐ろしいことが僕の身におこった。 「おっぱぱーい♪」 なんと僕の口からそれが吐き出されたのだ。 「どうして!?」 「だから、いったっしょう、こいつがはんにんだって」 「さいみんじゅつれす」 Lちゃんは僕にそう説明した。 催眠術で難しいこと、本人が嫌がることなどはさせられないらしい。だが条件がそろえば発動できるようになるとのことだ。卑猥な言葉を発する程度なら、少々の条件付けで可能となるそうだ。そしてその条件はのひとつが疲労とストレスだった。考えてみれば、みな納期間近のときだった。 「りゅうにゅうけいろはこれですね。ねっとでつながってるでしょ?」 Lちゃんはディスプレイをコツコツとたたく。 どうやら社内サーバーに悪質なウィルスが進入していたらしい。それが何秒かに一度、サブリミナル効果で叫ぶように命令文を発しているのだ。 「でも、最近の実験でサブリミナル効果は否定されたってニュースががありませんでした?」 「かんぜんにではないです。ろうりょくにあわせて、せいかがうすいというらけれす。ひごろからつかれているヒトにくりかえしみせるようなじっけんはされてないです」 そして何度も繰り返されているうちに、疲れのたまった人間が叫び出す仕組みだという。 なるほど、それならあり得るかもしれない。 でも、だとしたら誰が対応すればいいんだ? 社内のPCが汚染されているとすれば、ウィルスを除去している間に再び事件が起こるかもしれない。 するとLちゃんが僕に水をむけた。 「いまならカクヤスでトモダチにたのんであげるでしゅよ?」 僕は料金が上乗せされるのを覚悟しながらもそれを頼むことにした。だって面倒なんだもん。 「それで犯人は誰なんでしょ?」 「さぁ?」 犯人はわからずじまいだ。でも、僕が社長から依頼されたのは事件の再発防止だし、犯人を見つけろとは言われてない。これでいいかな。 そうこうしているうちに、Lちゃんから「おわりました」との報告を受ける。 Lちゃんはたどたどしい手つきでPCを再起動させる。 そして「おっぱいぱーい!」と大声で叫んだ。それもなぜかコートをぬぎさりすっぽんぽんだ。 「どうしたのLちゃん」 だが、被害はこれだけでおさまっていなかった。 なんと社内でPCを使っていた者全員が全裸で「おっぱいぱーい!」と叫んでいる。楽しそうでまるでサバトだった。 後に判明したことだが、ウィルスを駆除すると、あらたなウィルスが発動するようになっていたとのことだった。 どうやら、新時代の探偵はいろいろと問題があるらしい。 |
Hiro 2019年04月29日 23時54分35秒 公開 ■この作品の著作権は Hiro さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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