不安 |
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苦しまなければそれで良い。 ボクのような者が一人くらいいても良いとおもう。 ボクは独り言のように考えた。 拳銃を握りしめた。冷たい、ボクの手が冷たいのか。 時計を見た。まだ、時間はある。 冷たい拳銃を握りしめると爺の引きつった顔を思い出す。 1「三朗。お前は本当にバカだな」 爺の値踏みしたような笑顔が鼻についた。 余計なお世話だ。視線を爺の鼻先に集めて、目をできるだけ合わせないようにして、とりあえず、笑った。 だいたい、人を呼び出しておいて、ファミリーレストランのチェーン店というのはなんともバカにしている。 居心地が悪くなり、「ちょっとトイレ」と言って、席を立った。 店のねえちゃんとは顔が合ったが、どうもこの居心地の悪さを気づかれたくはない。会釈で顔を背けて、トイレに向かおうとしたが、トイレが見つからない。苛立って引き返して、ねえちゃんに聴いたら、さっき自分たちが座っていた席のすぐ側だという。 いよいよ顔が蒸気するのを感じながら席に戻った。 「トイレはどうした、三朗」 「いえ、大丈夫です、気になさらないでくださいお爺さま、注文はどうなされますか」 言ったら、テーブルに店員が割って入った。珈琲とメロンソーダだ。冷たそうな氷とバニラアイスが目につく。 「お前はコレが子どもの頃から好きだった、なあ、うまいか」 「はい、おいしいです」 アイスクリームの冷たさが頭痛を誘発して、対して、バニラの香りと甘さに脳もとろけてしまった。目線は既に、鼻に向けて居た目もすでに爺の浴衣にまで目線が落ち込んでいた。 チラチラと左右を所在なく見渡してしまう。もう、心はどうしようもなく不安で、落ち着きがなくなっている。 自分はもう爺の手の内の中にいた。お手だって、おすわりだってちんちん、だって爺が命じればなんでもはい、と言うだろう。 爺は珈琲を啜って、一拍おくと唐突に切り出した。 「三朗、仕事を始めて何年が経ったかな」 「4年が経ちました、年月はとても早いもので、社会とはいかなるものか日々勉強の毎日でございまして、」 「ん、ちょっとまて、三朗、ワシはお前が今の会社に入って何年かきいたつもりだったんだが、もう4年も経ったのだったか、確か、最初にワシが紹介してやった会社を一年で辞めて、次はー」 「ーち、3年が経ちました、お爺さま、失礼しました、話をよく聴かなかった私のミスです」 爺の後ろで配膳しているウエイトレスがお盆から紅茶を爺の頭にこぼせ、と想像した。 「おい、三朗今、お前はワシに向かって舌打ちをしただろう」 「・・・・・・いいえ、していません」 「いや、したな、しただろう、この目と耳でしかと聞いたぞ、お前はワシがお前にやってやった恩義を忘れあろうことかワシをバカにしているんだな」 「いいえ」 「そんなことはない、そうでなければ舌打ちが出るはずがないからだ、そうだろう、だいたいお前は社会人として失格だ、なあ」 「・・・・・・はい」 面倒臭い。 それから、どれほどの時間が経過しただろうか。とりあえず、爺が収まりがつくのを待つのだが、その時間が苦痛だ。 いつもの手だが、俺はこれにいつも騙されている。タネは分かっているのだ。こうして俺の自尊心とか自己肯定感とかを根こそぎ奪い、はい、というだけの機械にすることがこいつの目的なのだ。 「というわけで、頼んだからな」 「・・・・・・はい」 「もし、お前が約束を破ったらそのときは、会社にお前の席はないと思え、全てばらすからな」 「はい、分かりました決して約束は違いません」 俺の返事を爺は満足したように笑みを返した。とりあえず、ここの支払いは持ってやると言い残し、席を立った。 残された俺は嵐が過ぎ去った焦燥感に身を震わせ、飲み終わったメロンソーダにさしたストローからまだ口を離せず、しばらくチューチューと吸い口を吸っていた。 2 そういうわけで、お前はこれからはあの爺の養子として生きて行くことになるから、よろしくね。 「何それ、理不尽すぎないかな、あの爺、最近どうかしてる」 電話口からは妹の不平不満が出てきた。俺に言われても仕方ない。 手続きはそこまで煩雑じゃないから、大丈夫、最近知り合いでもそういう奴がいたから手続き方法聞いておくよ。 「あたしは絶対に、絶対に養子なんかにならないから」 そんなこと言うけどな、あの爺、金は持ってるから、良いと思うぞ、楽して暮らせるぞ、ないいだろ。 「絶対にしない」 そういうこと言われてもなあ、爺にもし無理だって言ったら、そのときは俺の生活が・・・・・・。 「え、なに聞こえない」 「殺してこいって言われてるんだよ」 「誰を」 「俺がお前を」 「え~マジで意味わかんない、頭沸いてるでしょ、殺せるものなら殺してみろっての」 「はあ~、とりあえず、書類持って行くからよろしくな」 「来ても意味ないけどね」 「だからさあ、そしたら俺がどうしたらいいかって」 電話はガチャリと切れた。この分だと養子の件は無理だろう。 俺はスマホを自分の布団の上に投げ出して、寝転んだ。 あの後、アパートに帰り、早速電話したが成果はこの通りなし。打つ手なし。 俺は溜息をついた。 コップに赤ワインをなみなみと注いで、一息で飲み干した。 頬が赤く蒸気して、頭が熱くなる。同時に眠気が増す。 いつものとおり日課としてパソコンを立ち上げて何十行か書いたが、すぐに全部消した。 小説なんて書けるわけがない。 ぼんやりと書いては消して書いては消してを繰り返す。罪人がスコップで穴を掘ってまた、埋めるように、文字の羅列を書き込んではまた消していく。 三朗は考えていた。 鉛筆を鼻と唇の間に挟みたいが、手元に鉛筆もない。 諦めたようにコップに赤ワインを注いだ。 コップになみなみと注いだ赤ワインを飲み干して、頬が熱くなってきた。 眠くなってきた。 このままふて寝してしまおうか。 社会人になり数年が経って実感したことは、目先のことを受け流すことが毎日の生活を成り立たせる初歩的なコツだということだった。 大きな問題は確かにある、しかし、忘れて目先の娯楽に心を注いで・・・・・・。 薄らとパソコンの画面が点滅し始めた。いや、正確には自分の脳のスイッチがついたり消えたりしているだけなのだが。 もういいだろう。ふて寝しよう。 諦めるわけではない。ふて寝して、時間が過ぎてしまうことは自分のどうしようもできないところなのだから。 意識の切れるままに身を任せ目を閉じた。明日の俺に身を任せてしまおう。 ドガーン 耳に爆音がなって、俺は目覚めた。 目の前には、中学生くらいの少年が手に拳銃を握っていた。少年とは言っても、フードに身を包んで、本当に少年かどうかは怪しい。華奢な手足から少女の線も考えられる。実際には謎のままである。 「おい、目覚めろ」 耳元で大声で言われて、俺は封印されたドラゴンなんかじゃないぞとライトノベルみたいな浮ついたことを思ったが、思ったのも底までで、目の前で、拳銃を握りしめた少年を見てからは、脳がシャットダウンした。 「おい、養子の件を撤回しろ、さもないと」 ちょっと待て、なんの話だ、だれだお前は、何なんだ。頭では色々な質問を投げかけていたが、実際はただ、あーとかなんとか声にならない声を上げてただけらしい。 少年は俺の声に眉をひそめると、 「おい、とりあえず、顔を洗ってこい、ちゃんと目を覚ませ」 言われるままに俺は洗面台に言って、熱いお湯を被った。冷水は脳が痺れるので嫌いだ。 俺が洗面台から戻ると、少年はやっぱり少女だった。フードを外すと、長いロングの黒髪があらわとなった。やはりだ。 「なに笑ってんだ、気持ち悪い」 気分を害したが、気にしてないとばかりに赤ワインをあおった。 話を聞くと、どうやら、少女は爺の愛人の子どもで、本来養子となるのは自分になる予定だとかなんとか、エトセトラエトセトラ。 正直俺には、どうでも良い話だったため、大事な部分を聞き落としたような気がしたが、それはそれで構わないと、今度はゆっくり赤ワインを味わった。 「しかし、どうしたものかね」 「お前がもし約束を守れないと会社を辞めさせられるって件か」 「ああ、ぶっちゃけ爺様のコネありきで入社したから爺様の手が引いたら俺は会社にいられなくなる」 「辞めちゃえばいいじゃん」 「そんなことできるかよ、俺だって、生活があるんだよ、はい辞めますで辞められるわけないだろ」 「辞めれば良いって、無理しても良いことないよ」 「お前はどうなんだよ、無理して養子になって、財産目当てか」 「違うよ」 そう言って、ワインがたっぷり入ったコップを煽って真剣に一点を見つめている。思い詰めた様子だ。 これ以上、聞くのは難しそうなので、黙って居た。沈黙に耐えられず、いらないことを言った。 「爺に借金があるんだよ、会社に入るときにだいぶ金を使ってね、それもあるから俺は爺に頭が上がらないんだ」 「ふ~ん、じゃあ、諦めちゃえば」 「え?」 「人生なんて諦めちゃえよ、まともに生きようと思うから、辛いんだよ、どう生きたって最後は死ぬんだから」 「そんなもんかね・」 「そうだよ、そうそう」 「そうか、そうだよなあ」 「・・・・・・」 「おい、なんとか言えって」 少女になんどか声を掛けたが、返事はまるでない。どうやら、目を開けたまま眠ってしまったようだ。 いいや、俺も寝てしまえ。明日の俺がどうにかしてくれるだろう。 翌日、俺は爺様に断りの連絡をするために、電話を掛けた。なんどか電話をかけたが、つながらない。 爺様からの連絡を待つことにした。少女はいつの間にか出て行っていた。 |
罠B 2019年04月29日 23時48分18秒 公開 ■この作品の著作権は 罠B さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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