朝霧の少女 |
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(一) 朝霧の中に、その少女は立っていた。 身にまとう衣裳は袖のない麻の簡素なものだが、腰にしめた紫色の布は絹らしい。日に焼けた肌は、かすかに汗ばんでいる。素足だった。長い黒髪をうなじのあたりでたばね、胸元に翡翠の勾玉を細紐にとおした首飾りをかけている。左の手首には、南の海の巻き貝でつくられた腕輪を着けていた。 年のころは、十四~五だろうか。かすかな吐息をつきながら、少女はつぶやくように言った。 「あの山なみのずっと向こうに、ナ国がある」 かたわらに立っていた長身の若者がふりかえって、少女の横顔を見た。 少女は、その冴え冴えとした眼差しを、まだほの昏い西の彼方の山々に向けていた。 「ナ国の向こうには大きな外海が広がっている。その先には、われらの思いもおよばぬ広大な世界が遙かに広がっていると聞いた。古来、ナ国の民は海に乗り出し、遠い国から貴重な品々を持ち帰ってきた。行ってみたい。天子の住まう都とやらを見てみたい」 若者は少女の言葉にはとりあわず、あたりに油断のない視線をくばる。 まだ彼らの住むウサ国から外にでたことのない若者にとっては、少女のつぶやきはあまりにも途方もなく、想像の範囲をこえていた。だから興味もないのだった。 「今、屋形の外は危ないですよ。もう戻られた方がいいと思います」 「なんだ、キクチヒコ。こわいのか?」 「俺のことはご心配なくっ」 若者が気色ばむ。 「あなたの身が危ないって言っているんですよ、お姫様」 かつてはこの国は平和だった。しかし今はそうではない。 南方から荒々しく好戦的なハヤト族が北上し、村々が略奪の被害を受けているのである。 遠い山の端がしだいに明け染めはじめる夏の終わりの早朝。まだ涼しい風に吹かれて、二人の若い男女は佇んでいた。 西暦で言うなら三世紀初頭。この国にまだ年号というものはない。 キクチヒコがウサ王の妹の護衛を命じられたのは、四月ほど前のことだった。 「あのお方にも、ほとほと困ったものだ」 彼を呼び出した村の長老は、そんなふうに話を切り出した。 「姫様のことよ。放っておくと、すぐお屋形を出てどこかへ行ってしまわれるそうだ。それがどれほど危険なことか、いくらお聞かせ申し上げても耳もかさぬと言う。王はたいそうご心配でな。昨日お目通りしたおり、何とかせよと直々に申し付けられたわ」 キクチヒコは黙って話を聞きながら、いやな予感がした。長老から何を命じられるか、うすうす想像がついたからだ。 「キクチヒコ」 「はい」 「そなた、年はいくつになる?」 「……十六になります」 「ふむ。姫様は今年たしか十四になられたはずだ」 年が近いと言いたいのだろう。予感が確信に変わった。 「キクチヒコ。そなたなら姫様も気を許そう。あの方のお友達になってさしあげろ」 「お友達など……そんな、畏れ多い」 「畏れ多いことなどあるものか」 長老は大げさに手をふりながら、畳みかけてきた。 「おまえだって、一応、王族の血が流れておる。平民ではない」 その通りだが、分家の分家ぐらいだった。 「おまえの父上は先の王に仕えられた方だ。赫々たる手柄もある。なんともご立派なものだ」 それも事実ではあろうが、キクチヒコの父も先の王もすでに死んでいる。姫君がキクチヒコのことなど知っているとは思えない。 いちいちそんなことを思っているのが素直に顔に出ているのか、長老は、 「とにかく、だ!」 と声を荒らげた。若者は首をすくめる。 「おまえに申し付けるのは姫様の護衛役だが、良き相談相手にもなってさしあげてほしいのだ。そして、できたらあまりチョコマカしないようにさせろ。何なら首に縄ぐらいつけてもよいぞ」 「そんな乱暴な」 「そのぐらいの気構えでのぞめということだ! もし、それがかなわぬなら、せめて何処へでもくっ付いて行け。下の用を足すときにも、おそばをはなれるな」 「それは無理です! 目がつぶれます!」 「アホウか、おまえは?! あたりまえだ、誰がじろじろ覗き見しろといった?! 少し離れて音を聞いていれば様子くらいわかろうが?」 音を聞けって、何の音を? それはそれでつい想像してしまい、思わず顔を赤らめるキクチヒコだった。しかし長老は委細かまわない。 「よいか、キクチヒコ。もし姫様の身に何かあれば、そのときは」 手の平で首を斬るしぐさをしてみせる。 「わかったか? わかったら、さっさと行け」 もう話は終わりだと言わんばかりに背中を向ける長老に、キクチヒコは言い返す言葉もなかった。 キクチヒコの村から王の屋形のある丘の上の集落までは、歩いて半日ほどの距離だった。 村を出るときに、何人かの知り合いから声をかけられた。 「お気をつけて」 村ではそれなりの身分に属する若者だったから、平民たちは恭しく接してくれる。 ただ、お気をつけてという言葉はけしてただの挨拶ではなかった。空堀の外は本当に危険なのだ。 村から一歩外に出ると、地形は起伏が多いし、草は高く木々も多い。どこに敵が身を潜めているかわからない。 しかし、それについてはさほど恐れてはいなかった。 「大丈夫だよ」 キクチヒコは軽く笑みを浮かべながら腰の剣をかるく叩いて見せた。 一応、剣の腕には自信がある。見送る者たちもそれは知っているから、心配そうな顔は見せなかった。 キクチヒコにとって不安なのは、敵ではなく護衛を言いつけられたお姫様のことだった。色々と噂は聞いている。どうにも大変な少女らしい。あれは並大抵の小娘ではないと誰もが口をそろえるのだ。中には神童とほめる者もいたが、大人を小馬鹿にする嫌な娘だと露骨に顔をしかめる者もいる。もっとひどい方だと、あれは性悪の小鬼だと吐き捨てる者さえいた。 どれが当たっているのかは知らないが、神童だろうと小鬼だろうとあまりお付き合いしたいという気持ちにはなれなかった。 やがて、丘の上の集落が見えてきた。 木々に囲まれた緩やかな坂道にさしかかったところで、キクチヒコは足をとめた。 剣の柄をそっと握り、あたりを見まわす。 彼は武術で鍛えた鋭敏な感覚に自信があった。そして、これでも王族のはしくれだったから、ここは何度も訪れてよく知っている。この陽の高さ、この気候、この風の向きと強さならば、木々のざわめきや動物の動く微かな物音がどんなものか知っている。 しかし――それとは違う気配を感じた。 人がいる。そう感じたのだ。 やがて少し離れた樹木の枝の上に、人が座っているのが視界に入った。 (まさかハヤトがこんなところまで?) こんな国の中心地にまで不審な者が入り込んできているとしたら、ゆゆしきことだ。そう思ったのだが。 その人影は妙に気楽そうに足をぶらぶらさせて、果物をかじりながらキクチヒコを見下ろしていた。殺気はみじんもない。それによく見ると、その姿はかなり小柄でほっそりしているようだった。 少年だろうか? 短い衣服からのびたしなやかな手足は、日焼けしているが滑らかそうに見えた。 「おい、おまえ、危ないぞ。おりてこいっ」 声を投げかけると。 「落ちやしない」 そう返してきた。まだ声変わりもしていないようだ。 「そうじゃない。村の外は不貞な輩が徘徊しているから危険だと親に教わってないのか? さらわれても知らんぞ」 「そんな者はいないよ。いるのは鳥と猪と毛虫くらいだ。さらわれたりはしないさ。物騒なのはおまえの方だ。剣なぞに手をかけて凄むものじゃない」 口のへらない小童だった。いや、よく澄んだ高い声を聞いているうちに気が付いた。男の子ではない。少女だ。 「……わかった」 キクチヒコは苦笑して、剣から手を離した。 「これでいいか?」 少女は応えなかった。果実を投げ捨てて、大人の背丈以上の高さからためらいもなく飛び降りた。敏捷な獣のように着地し、すっと真っすぐに立ってキクチヒコの方に歩み寄ってきた。 キクチヒコは少女の身のこなしのよさに驚き、間近に見た彼女の顔立ちが思いのほか美しいことにも驚いた。身の丈は彼の胸もとくらいしかない。身に着けているのは簡素な純白の衣服で、袖はなく、丈も膝から下があらわだ。そして、そのいでたちでとりわけ奇異に見えたのは、紐で肩から斜めにかけた麻の袋だった。何が入っているのか分からないが、大きく膨れている。 少女はにこりともせず、きらきら光る大きな瞳でじっと見つめてきた。 その唇がうごいた。 「おまえがキクチヒコか?」 若者は三たび驚いた。むろん、少女が彼の名を知っていたことにだ。 「なぜ、俺の名を?」 少女はふふんと鼻で笑った。 「知らなくてどうする。私に仕えろと命じられたのだろう?」 「それじゃあ……」 口ごもった。四度目の驚きがそれほど大きくなかったのは、何となくそんな気がしはじめていたからだ。 「姫様……でしたか」 慌てて数歩さがり、片膝をついた。 少女の相貌に微かな記憶もあったのだ。もう五年か六年はたつだろうか。そのころはまだ存命だった先王が、幼い娘とともに民衆に言葉をかけてくださったことがあった。その時の姫君の面影が、ほんの少し残っているようだ。ただ記憶の中の少女は、微笑ましいほどあどけなかった。年上の青年をふてぶてしく睨み据えてくるような女の子ではなかった。 それはそうだろう。まだ九つくらいだったはずなのだから。 「ご無礼をいたしました」 頭をさげると、 「よい」 短い応えが返ってきた。 「そんなにかしこまるな。こちらがやりずらい」 「は、はあ……」 当惑した。かしこまるなと言われても、仮にも相手は先王の愛娘、今の王の妹君だ。どんな態度をとれと言うのだろう。 そんなキクチヒコを少女は少し首をかしげるように眺めていたが、 「膝なぞつくな。足が悪いわけでもなかろうに」 どこか苛立たしげに言った。 キクチヒコはむっとして、わざと荒々しく立ち上がり少女を見下ろした。 少女は一瞬驚いたように目をみはったが、負けずに若者を見上げ、白い歯をのぞかせて微笑した。 「その方がよい。勇者らしくてな」 「勇者……」 「私の護衛をせよと仰せつかったのだろう? まったく余計なことをするものだ。私は護衛などいらないし、おまえとて迷惑に違いない。私のような生意気な小娘のお守などしたくもなかろう」 「いえ、そのようなことは」 口ごもってしまった。勇者などと言われたことがないので、少し動揺していた。でも、悪い気はしなかった。 「まあ、私の邪魔さえしなければ別にかまわないがな」 そう言うと少女は腰の麻袋に手を入れて、何かをつかみ出した。ぐいと差し出されたのはスモモだった。さっき少女が木の上でかぶりついていたのは、これだろうか? 「近づきのしるしだ。これから、よろしく頼む」 キクチヒコはしかたなく、その小さな果実を受け取った。かじると酸っぱくて、思わず顔をしかめる。 少女はかるく笑い、 「おまえ、面白いな。素直なやつだ」 そう言うと、くるっと背中を向けてさっさと歩き始めた。 姿勢のよいほっそりとした背中を慌てて追いながら、キクチヒコは自分の胸が妙にドキドキしていることに気がついた。なぜなのかはよく分からなかった。 (ニ) それ以来、キクチヒコはいつも少女の背中を見ている。 本当に、じっとしていることのない少女だった。毎日のように屋形を出て、村々を訪ねてまわるのだ。 長老にはチョコマカしないようにさせろと命じられていたが、元よりお姫様の首に縄をつけるなどできようはずもなく、黙って背中を見つめながら付き従うほかなかった。 興味もあった。 この娘、いったい何をしようとしているのだろう? そう思うようになったのだ。 訪れた村で、少女は思いつくままにその土地の作物や収穫の様子、人々の暮らしぶりなどについて訊ねている。時には他愛のない愚痴や戯れ言に耳を傾け、声を立てて笑っている。他の集落への往来や周辺の地形、植生などにも関心を示すようだった。 そして必ず足を向けるのは、巫女の庵だった。 どこの村にも巫女がいる。彼女らは村のはずれや森の奥などに怪しげな庵をむすび、一人でひっそりと暮らしていた。 キクチヒコは彼女たちがあまり好きではなかった。薄気味悪いのだ。彼女らは神のお告げを伝える者として敬われているのが常ではあったが、本音を言えばむしろ魔女に見えてしまうのだ。 少女は巫女たちの言葉によく耳を傾けていた。はじめキクチヒコは、少女が他の多くの者たちと同じように巫女に対して敬虔な気持ちをいだいているのだろうと思った。しかし少女の様子をそれとなく見ていると、必ずしもそうではないらしいことに気がついた。膝を抱え、そっぽを向きながらつまらなさそうに話を聞き、たまにぽつりと何か問いただしたりしていた。 「巫女のお告げにあまり興味はないんだ」 体が汗ばむような夏の終わりのある日、森のほとりの小道を歩きながら少女はそんなことを打ち明けた。 「へえ。そうなんですか?」 キクチヒコは気安い口調で相槌をうつ。この頃には少女に対してだいぶ打ち解けた気持ちになっていた。少女も咎めたりはしてこない。ざっくばらんに言葉を交わす方が話しやすいのだろう。彼女は興がのると饒舌になることがあった。 「あの者らは、まるで嘘をつく舌をもって生まれてきた特別な生き物のようだ。その舌で無知な民をたぶらかす。星によって吉凶を占ってみせるが、星の運行は計算できるものだ。あの者らの薬草の知識は貴重ではあるが、病は悪霊のなせる業であるなどと勿体ぶり、それによって自らの値打ちを高くみせようとする浅ましさが少し不快だ」 「そんな悪口言って、祟られたりしないんですか?」 キクチヒコはさすがに不安になった。彼も巫女によい印象を抱いてこそいないが、人智を超える術を用いる者として恐れと畏敬の念を感じている。 少女の言葉はいささか不遜ではないかと思えたのだ。しかし、 「祟りなんてあるのか? 私は見たことがないが」 少女はあっさりと言ってのけた。 彼女はときどきこういう身も蓋もない言い方をする。そういう彼女の思考にもキクチヒコは慣れてきていた。しかし、何となく心に引っかかるものもあった。 だから言葉をかえしてみた。 「目に見えるものだけがすべてなんですか?」 「さあ、どうなのだろうな? 少なくとも私には目に見えるものしか信じる術がないが。それ以外は誰かの口から出た言葉でしかない」 「でも、姫様のそのような考えも目に見えませんよね?」 「ん?」 「それも誰かの言葉なんじゃないのかなって」 少女は驚いたように彼を見返し、しばらく考え込んだ。 思いつきの当てずっぽうに言ってみたに過ぎなかったが、案外いいところを突いたのだろうか? いつもこの年下の少女に振りまわされていたが、一矢報いた気分だった。 ややあって少女は口を開いた。 「おまえ、思ったより頭がいいのかもしれないな」 「思ったよりはよけいです」 「よけいか? すまない」 少女は楽しそうに笑った。 「父上が生きておられたころ、屋形に海の向こうの賢者さまがいてな。物の理(ことわり)とやらを少しだけ教えていただいた。先ほどの考えはその方の受け売りではある。巫女の言葉と賢者さまの言葉のどちらが真実かなど私には分からない。分からないが賢者さまの言葉の方が筋が通っているようには思えたんだ」 「はあ、そうですか」 話がこうなってくるとキクチヒコには遠い世界のことのようで、あまりピンとこない。 「賢者さまの言われるには、海の向こうにもこの国の巫女のように知識を利用して民を欺く者がいるらしい。星の動き、空の模様の移り変わり、薬草の効き目。すべて知識があれば予測できることだが、それを天の力、精霊の力などと偽る。いかがわしいとは思わないか」 「どうでしょうねえ」 返答のしようがなかった。 「でも、巫女を信用していないのなら、どうしてよく会いに行くんです?」 「さあ、どうしてだと思う?」 少女は謎めいた笑みを浮かべた。 (三) そんな少女の奇妙な行動が打ち切りになったのは、冬を迎えるころだった。ついに敵と出くわしたのだ。 人里から少し離れた谷間を歩いていたとき、暗い樹木の陰から武器を手にした数人の男が姿をあらわした。顔の入れ墨からハヤテ族だとわかった。 (四人か) 何とかなる人数だが、少女を守りながら戦わなければならないのが厄介だ。そう思案していると、背後から声が聞こえた。 「自分の身くらい守る。存分に戦え」 ちらっと見ると、少女は短剣を手にして身構えている。痛々しいほど華奢ではあったが、本能的に戦い方を心得ている眼差しだった。とっさに決断した。 「じゃあ、お言葉に甘えて、あなたのことはしばらく忘れる! そのオモチャを振りまわしても、噛みついても、逃げまわってもいいから、絶対に人質にだけはならないようにっ」 言うが早いか剣を手にして敵に向かって走り出した。少女を信じ、自分の生死も考えない。それが最も切り抜けられる可能性が高いと瞬時に判断したのだ。 意表をつかれたのか後ずさりする一人にまず強引に斬りつけ、斬りかかってきたもう一人に対しては、懐にがむしゃらにもぐりこんだ。腰を抱くようにして近くの木の幹に背中を叩きつけた。振り向くと目の前まで肉薄していた三人目が一瞬、尻込みする。そいつの横っ面を剣で斬るというより殴った。ここまでの動きは、ただ直観のままに体を動かしただけだ。 少女の方を見ると案の定、回り込んだ四人目がにじり寄っていた。少女を殺すなら簡単だっただろうが、生け捕りにしようとしているようだ。少女の突き出した短剣の切っ先に動きを制されている。小娘だって武器を手にして腹をくくれば、このくらいできるのだ。 男の背後に駆け寄って、斬りつけた。 四人のうち何人か死んだか、まだ息があるのか分からない。確かめている余裕もない。少女を小脇に抱え上げて、後も見ないで走った。息が切れて力尽きるまで走りに走り、草の上に俯せに倒れこんだ。 冬だというのに、全身汗だくだった。しばらく息を整えて、かたわらの少女を見ると、地面に尻をつけて両足を投げ出すように座り、両手を少し後ろについて空を仰いでいた。同じように汗の浮かんだ顔をキクチヒコに向け、にっこりと笑った。 「おまえ、強いな。さすがは私の護衛だ」 キクチヒコはまだ荒い息をつきながら、 「集落の外に勝手に出ていくのは、もうやめてもらいます」 そう言うと、少女は意外に素直にうなずいた。 「うん、そうする」 こうして少女の無謀な野外活動は終わりを告げたのだった。 冬が終わり、気候が少しずつ暖かさを取り戻す頃、ハヤト族の動きは熾烈さを増していた。南から次々に増援がやって来ているようだった。ウサ王が兵を送って砦としていた国境いの村がいくつも陥とされ、国中が恐れおののいた。 少女もさすがに丘の上の集落から一歩も外に出なくなった。 この丘全体を占める集落は広大で、三重の空堀に囲まれていた。最も内側の郭には食料を蓄える倉が建ち並んでいる。それを取り巻く二の郭、三の郭には菜園もあった。周辺に住む平民たちもこの集落に移して難を逃れさせているが、それでも一年くらいの食料は確保できると思われた。 「ここは父上が危急の事態に備えて築かれた城塞でもある。容易に攻め陥とされることはない」 この日、少女とキクチヒコは菜園の様子を見てまわりながら言葉を交わしていた。 ハヤト族はウサの国内に拠点を築きつつある。 しかし彼らにとってはここは敵国であり、補給も楽ではないはずだ。 「だからハヤトは南の本国に増援を求めているのだろう。まだまだやって来るかもしれない。それを許せばこちらはジリ貧だが、兄ももちろん手をこまねいてはいない」 「東のヤマト国、キビ国、西のイト国に使者を送って参戦をうながしているのですね」 それらはいずれもハヤトに匹敵する大国だった。兄王の努力でヤマト国、キビ国と同盟を結ぶところまではこぎつけたが、かの国々は東の内海を隔てた遠方にあり、すぐには動員できないようだ。ただちに動けるのは地理的に近いイト国だが、彼らはどうやら剽悍なハヤト族と正面衝突する度胸がないらしい。国境付近まで兵は出してくれたが、そこに止まって日和見を決め込んでいるのだ。 「それでも、まあ、ハヤト族に対する牽制にはなっているさ」 と少女は言う。 「ハヤトは強いが、彼らも敵地に深く入り込んで苦しいはずだ。少しでも劣勢になれば弱味につけこんでイト国が介入してくる可能性がある。そうなるとハヤトは袋の鼠だ。しかし、逆に我々の方が不利になるとイト国は手を引いてしまうだろう。ウサ国は孤軍となって滅亡する」 「えらい切迫した状況になってしまっていますねえ」 「生きた心地もしないというやつだな」 少女は笑った。 「よく笑っていられますね」 「だって、しょうがないだろう? こうなってしまったんだから。まあ、兄もヘタレなりに外交の才を発揮してがんばってくれているし、私は私で思いつく限りの手は打ったつもりだ。しかし私だって神じゃあない。こんな小娘にこれ以上期待するな。天命がつきたら諦めろ。一緒に滅びるまでさ」 「嫌です! 絶対に嫌です!」 「往生際の悪いやつだな」 「それが俺の取柄ですから」 「そうかもしれないな」 少女は案外まじめな表情で言った。 「おまえの諦めきれない憂いの一つは……お姉さんのことだろう?」 じっと心の奥を射貫くような視線を向けられて、キクチヒコは言葉を失った。 図星だったのだ。 キクチヒコには六つ年上の姉がいて、すでに嫁いでいる。嫁ぎ先の村は丘の上の集落と南の国境いのちょうど半ばあたりにあった。ハヤト勢に脅かされていないか、夜も眠れないほど気がかりだったのだ。 少女は静かに言った。 「安心しろ。おまえの姉の住まう地域には、ハヤトの爪はおよんでいないはずだ」 「どうして、そんなことが?」 キクチヒコの言葉には、かすかな反発が含まれていた。少女が根拠のない気休めを言っているのだと勘ぐったからだ。 しかし、少女が次に口にした言葉は思いがけないものだった。 「これは確かな情報だ。巫女が狼煙で伝えてくるんだ」 キクチヒコははっとした。 巫女の庵は国の要所に散らばっている。そして獰猛なハヤト族と言えども、巫女に手をかけることはない。彼女たちを殺せば呪いがかかると信じているからだ。 (巫女たちとよしみを結んでいたのは、こういう時のための布石だったのか) キクチヒコの驚きをよそに、少女は急にしゃがみこんだ。そして小枝を拾って、土の上に何かを書き始めた。 キクチヒコは怪訝に思った。少女が何を始めたのか見当がつかなかったのだ。 「わかるか、キクチヒコ? ここが私たちのいる丘。これらがハヤトの手に落ちた村だ」 そう言われてもまだ釈然としなかった。 地図というものを見たことがなかったからだ。 この時代の倭人は、まだ文字というものを知らない。紙も伝わっていない。 だから地形や村々を図に置きかえて示すという少女の行為が、まったく理解できなかった。 少女はそんなキクチヒコに視線を向けて、困ったようにしばらく思案していた。やがて言った。 「鳥ならば、空から私たちの国をこのように見下ろしているだろう」 (鳥のように見下ろす) キクチヒコはもう一度、地面の上に書かれた線の集まりを見直した。そしてあっと思った。少しずつ見えてきたのだ。 輪のように描かれた線があった。大きなものが一つと、小さのものがいくつか。そして、その間を長く曲がりくねるように引かれた線が、川だと気づいたのだ。すると、大きな輪は彼らのいる丘で、小さな輪は村々だと分かった。確かにそんな位置関係だと思えたのだ。 「分かったか?」 「何となく分かりました。俺たちの国は、そんなふうになっていたんですね」 少女は満足したように笑みをみせた。 「こうして眺めると、ずいぶん違った感じに見えるものだろう?」 「そうですね」 キクチヒコは、少女が毎日のように集落の外に出て歩き回っていたことを思い出した。おそらく彼女は、その気になればこの国の姿をもっと詳しく描き出すことができるのだろう。 (そのために飽きもしないで歩いていたんだ。俺たちの国を鳥のように見るために) 「もう一度、ここを見てみろ。これがハヤトの動きだ」 少女は再び地面の上に線を書き加えていく。 今度ははっきりと理解できた。少女の描く図を見ると、ハヤト族に制圧された地域と、彼らの最近の動き、それらが手に取るように分かり、彼らの狙いさえも推測することができたのだ。 ハヤトはウサ国の一部を支配地として確保しようとしている。その範囲を固めることを優先し、それ以上手を広げる意図は今のところ薄いようだった。 「おまえのお姉さんの嫁いだ村はここだ。ハヤトの狙いからは外れているだろう?」 確かにその通りだと、キクチヒコも思った。胸に安堵の思いが広がる。少女の言葉は気休めではなかったのだ。 「しかし」 少女は緊張した面持ちにもどって、言葉をつづけた。 「この戦は長引きそうだ。これから状況はどう変わるかわからない。お姉さんをこの丘に迎えることもできるが、どうする?」 言葉に詰まった。そうしたいのは山々だったのだ。しかし彼は言い出せないでいた。 今はウサ国のすべての民が、姉と同じ脅威にさらされている。丘の周辺の者はみな避難させた。しかし国中のすべての民を救うことはできない。 それが分かっているから、キクチヒコは王の妹君の護衛という立場を利用して、自分の身内だけを救ってほしいと言い出すことができなかったのだ。 少女は柔らかな光をたたえた瞳を、じっとキクチヒコにそそいだ。 「キクチヒコ。すべての者を救うことなんて、誰にもできないんだ。ならば、せめて大切に思う者だけでも救おうと願うことは悪いことか?」 そう言って少女はキクチヒコの肩に軽く手を置いた。 「まあ、一晩でも二晩でも、ゆっくり考えてみるといい」 少女は踵を返して歩き去っていく。そのほっそりとした背中を、キクチヒコはいつも見つめてきた。この時も、視界から消えるまでじっと見つめ続けた。 彼は一晩考え、姉とその家族を迎えに行きたいと少女に申し出た。少女は許した。 (四) 少女は、十人の兵をキクチヒコにつけてくれた。姉の住む村につくまでは、さほどの障害もなかった。しかし、姉とその家族を伴って村を後にしてからはそうはいかなかった。 姉夫婦には五歳の息子と二歳の娘がいたからだ。行きの道中は屈強の戦士だけの行動だったから、険しい山あいの獣道のような行路を選ぶこともできたが、幼児を二人も連れての帰り道はそれが難しかったのだ。人目につく道を使わざるを得ない時があったが、戦慣れしたウサ兵たちの力をたのんで押し通ることにした。 一行にとって救いとなったこともある。 帰路が危なげな地点に差し掛かるたびに、木の陰、岩の陰からひっそりと巫女が姿をあらわしたのだ。彼女らは危険の少ない道筋を教えてくれた。 これも、少女が手を回してくれたことなのだろうと思った。おかげで彼らは何とか丘の上の集落の近くまで戻ってくることができた。 しかし、そこで待ち受けていたのは思ってもみなかった光景だった。 彼らが身をひそめる森のほとりからは、集落のある丘を望むことができた。生い茂る樹木の切れ間に丸太を連ねてつくられた塀の一部と、一きわ高い望楼が見える。森と丘の間には広い平地があり、いつもなら高く生い茂る草が風になびいているばかりのはずだった。 しかし今、そこにハヤトの軍勢およそ数百余りが布陣していたのだ。まだ戦闘は始まっていなかったが、敵勢はあたかも獲物をうかがう猛獣のように不気味に静まっている。 「どうします?」 かたわらのウサ兵が固唾をのみながら聞いてきた。 「いっそ、このまま突っ込んでみますか?」 かなり無謀だが、無くはない進言だと思った。姉と子供たちは義兄にまかせる。彼も一時家族を守るくらいはできるだろう。ハヤト勢はまだこちらに気づいていないから、不意を打てば混乱させることはできよう。引っ掻き回して時をかせぎ、そこに丘の上の集落から守備兵が打って出れば、あるいは勝機があるかもしれない。 キクチヒコも若さに加え、死の予感と隣り合わせの帰路に堪えながらここまで辿り着いたため、神経が異常に昂ってもいた。戦えば勝てるような気がしてしまうのだ。 そのとき。 「今、動いてはいけません」 囁くような女性の声を背後に聞いて、ぎょっとした。 振り向くと、すらっとした長身の女が切れ長の瞳でキクチヒコを見つめていた。彼女がどこからあらわれ、いつの間に忍び寄ったのか分からない。他のウサ兵たちの様子にも、動揺の色がありありと見えた。 「巫女か」 この妖しい女たちは、いつもこうだった。ここまでの道中の数か所でも、彼女たちはどこからともなく不意にあらわれた。人の気配を察知することに自信のあるキクチヒコでさえ、忍び寄る彼女らに気づくことができなかったのだ。それは彼女らに殺意があれば彼はもう生きていないことを意味していた。それが、何ともおぞましい。 「私はトトヒと申します。この地方の巫女を束ねる者です。お見知りおきください」 低く冷ややかな声だった。 年のころは三十を少し超えているだろうか。美しいといってよい相貌だった。物腰に風格があり、背後に数人のやはり巫女らしい者たちを従えていた。 「俺がだれだか知っているのか?」 不快さをおさえて、問いかけてみた。 「はい。キクチヒコさま」 「今は、まだ動くなと?」 「あの方の謀りごとの邪魔をしてはいけません」 トトヒと名乗る女は、刃物を思わせる視線をキクチヒコに向けてくる。 「あの方とは、姫様のことか?」 「そうです」 キクチヒコはトトヒをうながして、他の者たちから少し離れた場所に移動した。腕組みして樹木に背中をあずけながら、あらためて口を開く。 「どうしてこうなったのか教えてくれ。俺がここを離れたときには、ハヤトがこんなに性急な攻撃を仕掛けて来るなんて話は聞いていなかったぞ」 「まったく兆候がなかったわけではありません。イト国の軍勢が国境いに駐屯したため、ハヤトは焦ったのでしょう。動いてくるかもしれないとはあの方も仰っていたのですが、予想よりも少し早かったのです。危険な時期にあなたを集落の外に出してしまったと悔やんでおられました。あなたが無事にここまで戻って来られるようにお導きせよと、私たちに命じられたのです」 「どうりで、やたらあっちこっちで巫女が顔を出すと思った」 トトヒは無言で微笑した。 「でも、あんたはこのへんの巫女たちを手下にしてる大物さんなんだろう? あんな小娘に命令されて何とも思わないのか?」 「あんな小娘ではありますが」 トトヒは今度は少しだけ声を立てて笑った。 「私たちは、あの方の命令には従います。あの方がこの国の上に立ったとき、神を祀る宮を建てると約束してくださいましたから」 「神を祀る宮……?」 「この国の半分を支配しているのは私たちです。それなのに日陰者扱いされるのには、もう飽き飽きしたのですよ。宮ができたとき、その主はこの国のもう一人の王となられます。男王は国の兄。女王は国の姉となるのです」 「その宮とやらの主に、あんたがおさまるという寸法か?」 「いいえ、私ではありません」 トトヒは首を横にふった。 「宮の主になられるのは、あの方ご自身です」 「ふうん。いいのか、それで。たかが小娘と内心では思っているのだろう?」 「おや? 小娘と仰ったのはあなたではなかったかしら?」 「そうだったかな?」 キクチヒコはにやりと笑い、トトヒもうっすらとした微笑をうかべた。 「お神輿が必要なのです。私たちのような闇の者が光の下に出るためには、まずああいう陽の光を一身に浴びてきたような方をお立てしなければならないのです。あの方には、天照らす日輪の巫女として私たちの上に立っていただきます」 「天照らす日輪の巫女、か」 あのこましゃくれたお姫様が、ひょっとするとそんな御大層な人になるのかと思うと、何だか不思議な気がした。 「さて」 トトヒは草原に陣を張るハヤト族の方に視線を向けた。 「そろそろあの方のご計画が動き始める時間です。このところ下品な山犬共が遠吠えをあげるため、煩くてしかたがなかった。少し懲らしめてやるとしましょうか」 (五) 姉とその家族は、巫女たちが安全なところに避難させてくれた。 キクチヒコがウサ兵たちと見守るうち、先に動いたのは丘の上の集落だった。二百ほどの兵が鬨の声と共に丘を駆け下りて、ハヤトの陣に襲い掛かったのだ。 しかし打って出た手勢のうち半分くらいは農民であることにキクチヒコは気づいた。 (あの様子なら、まだかなりの兵が温存されているはずだ) ウサ勢はしばらく戦ってから逃走しはじめた。丘に向かって逃げていくように見えた。ハヤトがそれを追撃する。 丘の麓には、いくつもの入り組んだ支谷がある。ウサ兵はその一つに逃げ込んだ。ハヤト勢のうちの数十ばかりが勢い余ったように谷の中に飛び込んでいったが、残りの大半はさすがに谷の入り口で警戒するように踏みとどまった。 当然、谷にはウサの伏兵が手ぐすねを引いていたはずだ。はたして暫くたった後、谷の奥からハヤトたちが無残な様子で駆け出してきた。谷の手前で止まった者たちもそれは予想していたのだろうが、血気にはやったあげくに潰走した数十人が自軍の集団に飛び込んだため、全体が大混乱をきたし始めた。 そして、伏兵は谷の中だけではなかった。 最初に出撃させた手勢は平民を使って水増しし、残るすべての守備兵を木々の生い茂る麓の全体に潜ませていたらしい。彼らはハヤト勢を大きく取り囲むように散開して、まず矢を射かけ、それから剣を抜いて突入した。 激戦はそう長くは続かず、ハヤトの兵たちが戦意を失っていくのがありありと見て取れた。すでに勝敗は決したと言えよう。もはやハヤト勢に軍としてのまとまりはなく、ほとんどの者が戦場から離脱しようとしていた。 「ああなっては、もう赤子の手をひねるようなものです」 トトヒがひややかに言った。 「森に逃げ込むやつらは私たちが始末しましょう。残る敵はウサ兵の方々におまかせします。死に物狂いで散らばった敗残兵が、凶徒となって村に逃げ込んだりしたら厄介。そうさせないように、この見通しのよい平地で仕留めてくれるとよいですね」 丘の上の集落に戻ると、少女は屋形にはいなかった。菜園の方で見かけた者がいると聞かされて、そちらに足を運んだ。 少女は植え付け前の畑のほとりにしゃがんで、土をいじっていた。 「お姫様。いくら堀の内側とは言え、一人でこんなところに出てきたら危ないですよ。まさかとは思うが、血迷って逃げ込んでくる敵が居ないともかぎりません」 少女は腰をおとしたまま、キクチヒコを見上げた。 「私も人を殺しているのだから、運がつきれば誰かに殺されることもあるさ。大したことではない」 どこか寂しそうな声音だった。 「大変なご活躍だったようですね」 「いや……皆に命じて、ただ見ていただけだ」 「燃え尽きましたか?」 少女は苦笑をうかべた。 「私を何だと思っている。まだ十四の子供だぞ」 「確かに。十四の子供なのにねえ。大きな仕事をなさいましたよね」 「そうだろ? 少しくらい休ませろよ」 「休ませて差し上げたいですが、ハヤトの手にかかって永遠の休息につかれても困ります。この国に侵入したハヤトはまだ残っていますし。国境いの村に居座ってる連中はどう出ると思います?」 「それは、イト国次第だろうな。日和見している彼らも、ここまでの圧勝を見せつけてやれば重い腰をあげるだろう。イト国が我らにつくことによって、ハヤトが勝ち目なしと判断して尻尾を巻いてくれればいいのだが。さもなければ、イト国の兵と協力してすり潰していくまでだ。その場合は、一人としてこの国から生きては出さない。ウサは迂闊に手を出すと皆殺しにされる死神のような国だという噂くらい作っておかないと、また性懲りもなく攻めてくる連中があらわれるかもしれないからな」 (降りかかる火の粉は払わなければならない、というやつか) 攻めてくる敵は皆殺しにするというようなことを、トトヒという女も言っていたが。彼女は平然として、微笑さえ浮かべていた。 キクチヒコも戦士のつもりだから、人を殺すことをためらう気はない。しかしこの少女に「手を出すと皆殺しにされる死神の国」などという言葉を言わせるのは、ちょっと痛々しい気もした。 「まあ、お姫様さあ」 「なんだ、その馴れ馴れしい口のきき方は」 「すみませんね。なにせ剣を振りまわして戦うくらいしか能のない武骨者なもんで、口のきき方なんか知らないんですよ。ただ、剣にかけては少しは自信がありますから、これからも頑張ってあなたを守ります。必要なときは人だって殺しますから。だから――」 「だから?」 「あなたは民衆を照らす日輪の巫女様になってください」 「日輪の巫女……」 「そうです、日輪の巫女……ヒミコ様です。どうやら田植え前には片付きそうで、良かったですね」 遠い昔、この国は或る不思議な女性とともに、新たな時代を迎えたらしい。 卑弥呼というその女性の名は中国の史書にのみ記されており、実像はほとんどわからない。彼女の姿はまるで朝霧のむこうに立つように、朧げにしか見えないのだ。 この女性は倭国の争いを鎮め、西暦239年に中国の都に使いを送ったという。その時の献上品のなかに絹織物があったことを史書は伝えている。 女王卑弥呼の遣使に先立つ西暦107年に倭国王帥升という人物が同じように中国に使者を送っている。その時の献上品は生口(奴隷)106人だった。それから100年余りのうちに倭国はまがりなりにも絹織物を生産して他国の朝廷に献上できるようになった。その功績は卑弥呼によるものかどうかは分からないが、そこには倭国の新しい時代の幕開けを告げる誇りが示されてるように思われる。 (了) |
あまくさ 2019年04月29日 23時27分50秒 公開 ■この作品の著作権は あまくさ さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2019年05月20日 19時24分56秒 | |||
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Re: | 2019年05月17日 07時05分53秒 | |||
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Re: | 2019年05月15日 19時09分07秒 | |||
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Re: | 2019年05月14日 19時01分46秒 | |||
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Re: | 2019年05月14日 07時41分50秒 | |||
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Re: | 2019年05月13日 21時58分19秒 | |||
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Re: | 2019年05月13日 18時42分29秒 | |||
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Re: | 2019年05月13日 07時21分14秒 | |||
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