ラーメン一杯の召喚勇者 |
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冬山では奇妙な体験をすることがある。 突然の吹雪に巻き込まれて進むべき道を見失ったときに、暖かいラーメンの幻影が俺の前に現われた。そのラーメンに導かれて進むと、立ちはだかる崖へとたどり着いた。崖には洞穴が口を開いていた。 吹雪を避けるため、俺は洞窟の中へと入っていった。 「おかーさん、勇者様を召喚できたよ!」 幼い子供の声が聞こえた。 若い女性の声が応えた。 「こんな時に、そんな風に化かしたりしてないで……」 トサッ、と小さな音がしたので振り向くと、女の子が床に座り込んでいる。 「ほ、本当に勇者様を、……」 中学生くらいにも見えるが、たぶんこれが、おかーさんなのだろう。やや面長だが、整った顔立ちをしている。 おかーさんは俺に向かって頭をさげた。 「恥ずかしい所をお見せして、申し訳ありませんでした」 洗練された動作は、なんとなく長い人生経験の裏付けを感じさせる。 おかーさんから少し離れたところに、平らな石が置かれている。そのうえに、キノコや白菜、山菜などが置かれている。 一人分としても、ラーメンの具にはちょっと少ないかな。 俺は、背負っていた荷物を降ろして、雪を払い落した。 「吹雪が終わるまで、少しお邪魔させてもらうよ」 おかーさんは、なんだかよく分からないようすで、「どーぞ」と答えた。 俺は荷物を開いて、組み立て式の炊事道具を用意した。 雪を集め、火を点けようとして、吹雪の中でマッチを箱ごと飛ばされたことを思い出した。 点火方法は、最低三つ用意しろ、という先輩の忠告が思い出される。いまとなっては手遅れだけどな。 「火を借りれる?」 ダメもとで尋ねてみた。 おかーさんは指を伸ばして、固形燃料に触れた。蒼白い炎がゆらめいて、燃料に着火される。 道具を使ってるようには見えなかったが、そんな訳ないよな。 雪が溶けて湯になったところで、持参のインスタント・ラーメンを入れる。俺の好みは塩味だ。 「これ、いただいて良いのかな?」 一応、断りを入れる。 おかーさんは、激しく何度もうなずいた。 平たい石の上にあった野菜を有難くいただいた。 ラーメンは、冷え切った体にしみわたった。 暖かいラーメンを食べたおかげで、凍えていた体が温まり、ようやくものを考える余裕が生まれた。 脳みそまで半分凍ってたのだろう。外にいたら、たぶん死んでたな。 おかーさんが、遠慮がちに話しかけてきた。 「こんなに美味しそうな香りを立ててしまっては、また魔物がやってくるかもしれません」 「魔物が来たのか?」 「はい。洞窟の奥から」 魔物がでるのか。 それじゃ、俺は本当に勇者として召喚されたのか。 なら、やってやろうじゃないか。 でも、どうやって? おかーさんは続けた。 「わたくしの連れ合いは、魔物と戦って姿を消しました。たぶん魔物に喰われたのでございましょう」 ガサリ、と洞窟の奥で何かが動く音が聞こえた。 おびただしい数の足がそろって動く音が聞こえる。 だんだんと近づいてくる。 俺は、ピッケルを雪で清め、たっぷりとツバを塗って待ち受けた。 巨大な百足の怪物が洞窟の中から姿をあらわした。 こんなヤツと、どうやって戦うのだよ。 そのとき俺は、百足の頭に、かすかなキズが付いてることに気づいた。おかーさんの連れ合いが付けたのだろう。たぶん、あそこが急所だな。 百足は、俺に向かって、襲い掛かってきた。 喰らいついて、俺の胴体を食いちぎる気だ。 百足の頭が迫ってくる。 俺は、構えたピッケルを百足の頭に叩きつけた。 ピッケルは頭のキズにピタリとあたり、キズを見事に貫いた。 夏の間、バイトでツルハシをふるい続けた勇者の底力を舐めるなよ! 洞窟の中に百足の断末魔の声が響いた。 百足はしばらく激しく体を震わせていたが、やがて洞窟の奥へズルリ、ズルリと戻っていった。 さすがに倒し切れなかったか。 ふと見ると、洞窟の脇に五芒星の描かれた石があった。 こんなところにダビデの星かよ。 そう思いながら、俺はツバで五芒星を描き直した。 すると、星は青白い光を放った。 なんか、魔法が発現したらしい。 俺はその石を洞窟の奥に置いた。 おかーさんは、俺を見て涙を流しそうに感激していた。 「これほど強力な結界を結んでくださるとは。本当に有難うございます。これで魔物が出ることはなくなるでしょう」 おかーさんは真顔になった。なんだかとても心配そうだ。 「このお礼は、どのようにすればよろしいのでございましょうか」 「礼なら、もう充分に受け取ってるよ」 召喚されたおかげで、吹雪を避けることができた。 それに、雪山で凍えたときに食べる暖かいラーメン以上のお礼なんてないからな。 やっとまともに働きだした俺の脳裏に、帰りの道筋がはっきりと浮かんでいた。 これが消える前に帰らないと、今度こそ本当に遭難してしまう。 俺は、下山に必要な最低限の装備と食糧に、二回分の予備食を足して、荷物を作り直した。 「食べ物は食べてくれて構わない。それ以外は、預かっておいてくれ。もう来れないかもしれないけど、頼んだぜ」 そう言って、俺は洞窟を出ようとした。 「私、ついてく~」 可愛い声が聞こえた。 「お礼のつもりなら、いらないよ。でも、お前が付いてきたいなら、付いてきてもいいぜ。俺は構わないから」 そう言って、俺は洞窟を後にした。 吹雪の中を歩き続けても、ラーメンの温もりで、腹のあたりがずっと暖かかった。 視界が悪い中でも、道に迷うことなく下山できた。 後から考えると、よく無事に帰れたと不思議なのだが、その時には間違いなく帰れることが分かっていたんだ。 それと、帰ってから気が付いたら、予備の二回分の食糧が無くなっていたな。 不思議だ。 本当に嬉しそうに話を聞いてくれるなあ。 こんな話は、つまらなくないのか? うちのクラスにはイケメンが多いぜ。 中途半端な時期に転校してきたから、友達を作りたいのはわかるけど、なんで俺なのかなあ? お前は、可愛いから、誰にでもモテると思うけどな。 そう言われるとうれしいか。そりゃそうだよな。 でも、だったら、なんで俺なんだよ。 俺が頼りになるから? う~ん、確かにそうかもな。 だけど、ときどきお前の頭にケモノのミミがピョコピョコ動いてるように見えるのは、たぶん気のせいだよな。 |
朱鷺(とき) 2019年04月27日 17時58分35秒 公開 ■この作品の著作権は 朱鷺(とき) さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2019年05月19日 10時55分36秒 | |||
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Re: | 2019年05月19日 10時54分52秒 | |||
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Re: | 2019年05月19日 10時54分25秒 | |||
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Re: | 2019年05月19日 10時54分03秒 | |||
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Re: | 2019年05月19日 10時53分35秒 | |||
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Re: | 2019年05月19日 10時53分10秒 | |||
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Re: | 2019年05月19日 10時52分45秒 | |||
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