ラーメン一杯の召喚勇者

Rev.01　枚数： 7 枚（ 2,575 文字）
<<一覧に戻る | 作者コメント | 感想・批評 | ページ最下部
　冬山では奇妙な体験をすることがある。
　突然の吹雪に巻き込まれて進むべき道を見失ったときに、暖かいラーメンの幻影が俺の前に現われた。そのラーメンに導かれて進むと、立ちはだかる崖へとたどり着いた。崖には洞穴が口を開いていた。
　吹雪を避けるため、俺は洞窟の中へと入っていった。
「おかーさん、勇者様を召喚できたよ！」
　幼い子供の声が聞こえた。
　若い女性の声が応えた。
「こんな時に、そんな風に化かしたりしてないで……」
　トサッ、と小さな音がしたので振り向くと、女の子が床に座り込んでいる。
「ほ、本当に勇者様を、……」
　中学生くらいにも見えるが、たぶんこれが、おかーさんなのだろう。やや面長だが、整った顔立ちをしている。
　おかーさんは俺に向かって頭をさげた。
「恥ずかしい所をお見せして、申し訳ありませんでした」
　洗練された動作は、なんとなく長い人生経験の裏付けを感じさせる。
　おかーさんから少し離れたところに、平らな石が置かれている。そのうえに、キノコや白菜、山菜などが置かれている。
　一人分としても、ラーメンの具にはちょっと少ないかな。
　俺は、背負っていた荷物を降ろして、雪を払い落した。
「吹雪が終わるまで、少しお邪魔させてもらうよ」
　おかーさんは、なんだかよく分からないようすで、「どーぞ」と答えた。
　俺は荷物を開いて、組み立て式の炊事道具を用意した。
　雪を集め、火を点けようとして、吹雪の中でマッチを箱ごと飛ばされたことを思い出した。
　点火方法は、最低三つ用意しろ、という先輩の忠告が思い出される。いまとなっては手遅れだけどな。
「火を借りれる？」
　ダメもとで尋ねてみた。
　おかーさんは指を伸ばして、固形燃料に触れた。蒼白い炎がゆらめいて、燃料に着火される。
　道具を使ってるようには見えなかったが、そんな訳ないよな。
　雪が溶けて湯になったところで、持参のインスタント・ラーメンを入れる。俺の好みは塩味だ。
「これ、いただいて良いのかな？」
　一応、断りを入れる。
　おかーさんは、激しく何度もうなずいた。
　平たい石の上にあった野菜を有難くいただいた。
　ラーメンは、冷え切った体にしみわたった。
　暖かいラーメンを食べたおかげで、凍えていた体が温まり、ようやくものを考える余裕が生まれた。
　脳みそまで半分凍ってたのだろう。外にいたら、たぶん死んでたな。
　おかーさんが、遠慮がちに話しかけてきた。
「こんなに美味しそうな香りを立ててしまっては、また魔物がやってくるかもしれません」
「魔物が来たのか？」
「はい。洞窟の奥から」
　魔物がでるのか。
　それじゃ、俺は本当に勇者として召喚されたのか。
　なら、やってやろうじゃないか。
　でも、どうやって？
　おかーさんは続けた。
「わたくしの連れ合いは、魔物と戦って姿を消しました。たぶん魔物に喰われたのでございましょう」
　ガサリ、と洞窟の奥で何かが動く音が聞こえた。
　おびただしい数の足がそろって動く音が聞こえる。
　だんだんと近づいてくる。
　俺は、ピッケルを雪で清め、たっぷりとツバを塗って待ち受けた。
　巨大な百足の怪物が洞窟の中から姿をあらわした。
　こんなヤツと、どうやって戦うのだよ。
　そのとき俺は、百足の頭に、かすかなキズが付いてることに気づいた。おかーさんの連れ合いが付けたのだろう。たぶん、あそこが急所だな。
　百足は、俺に向かって、襲い掛かってきた。
　喰らいついて、俺の胴体を食いちぎる気だ。
　百足の頭が迫ってくる。
　俺は、構えたピッケルを百足の頭に叩きつけた。
　ピッケルは頭のキズにピタリとあたり、キズを見事に貫いた。
　夏の間、バイトでツルハシをふるい続けた勇者の底力を舐めるなよ！
　洞窟の中に百足の断末魔の声が響いた。
　百足はしばらく激しく体を震わせていたが、やがて洞窟の奥へズルリ、ズルリと戻っていった。
　さすがに倒し切れなかったか。
　ふと見ると、洞窟の脇に五芒星の描かれた石があった。
　こんなところにダビデの星かよ。
　そう思いながら、俺はツバで五芒星を描き直した。
　すると、星は青白い光を放った。
　なんか、魔法が発現したらしい。
　俺はその石を洞窟の奥に置いた。
　おかーさんは、俺を見て涙を流しそうに感激していた。
「これほど強力な結界を結んでくださるとは。本当に有難うございます。これで魔物が出ることはなくなるでしょう」
　おかーさんは真顔になった。なんだかとても心配そうだ。
「このお礼は、どのようにすればよろしいのでございましょうか」
「礼なら、もう充分に受け取ってるよ」
　召喚されたおかげで、吹雪を避けることができた。
　それに、雪山で凍えたときに食べる暖かいラーメン以上のお礼なんてないからな。
　やっとまともに働きだした俺の脳裏に、帰りの道筋がはっきりと浮かんでいた。
　これが消える前に帰らないと、今度こそ本当に遭難してしまう。
　俺は、下山に必要な最低限の装備と食糧に、二回分の予備食を足して、荷物を作り直した。
「食べ物は食べてくれて構わない。それ以外は、預かっておいてくれ。もう来れないかもしれないけど、頼んだぜ」
　そう言って、俺は洞窟を出ようとした。
「私、ついてく～」
　可愛い声が聞こえた。
「お礼のつもりなら、いらないよ。でも、お前が付いてきたいなら、付いてきてもいいぜ。俺は構わないから」
　そう言って、俺は洞窟を後にした。
　吹雪の中を歩き続けても、ラーメンの温もりで、腹のあたりがずっと暖かかった。
　視界が悪い中でも、道に迷うことなく下山できた。
　後から考えると、よく無事に帰れたと不思議なのだが、その時には間違いなく帰れることが分かっていたんだ。
　それと、帰ってから気が付いたら、予備の二回分の食糧が無くなっていたな。
　不思議だ。


　本当に嬉しそうに話を聞いてくれるなあ。
　こんな話は、つまらなくないのか？
　うちのクラスにはイケメンが多いぜ。
　中途半端な時期に転校してきたから、友達を作りたいのはわかるけど、なんで俺なのかなあ？
　お前は、可愛いから、誰にでもモテると思うけどな。
　そう言われるとうれしいか。そりゃそうだよな。
　でも、だったら、なんで俺なんだよ。
　俺が頼りになるから？
　う～ん、確かにそうかもな。
　だけど、ときどきお前の頭にケモノのミミがピョコピョコ動いてるように見えるのは、たぶん気のせいだよな。　
朱鷺（とき）

2019年04月27日 17時58分35秒 公開
■この作品の著作権は 朱鷺（とき） さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー：雪山で凍えたときに食べる暖かいラーメン以上のお礼なんてないからな。
◆作者コメント：
　テーマは『彼女いない歴は終わりをつげ、俺の新たな時代が始まる』です。
　新たな時代の到来を告げるゴールデン・ウィーク企画がいよいよ開幕ですね。おめでとうございます。無事に開催できたのも、すべては主催様、運営の皆様のおかげです。ありがとうございます。
　本作は、ラーメン一杯で召喚される勇者を描いています。こんな作品を書くのは自分だけかな、と思ってます。

2019年05月19日 10時52分17秒
 作者レス
  • 　作者の朱鷺（とき）と申します。
    　本作には、九名の方から感想を賜りました。
    　ありがとうございます。
    　感想で共通しているのは、
    　「説明不足で分かりにくかった」
    　でした。
    　もう少し書き足して鍛錬室に再投稿いたします。
    　感想を賜りありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年05月12日 22時41分13秒
 +20点
  • こんばんは。とおせんぼ係といいます。

    なるほど？
    雪山で助けてくれた獣が転校生になってぼっちの僕に話しかけてくれるんですね。
    背景を想像するとなんとなくお話の輪郭がつかめる感じがします。逆に言うとあまり本文で状況を説明しきれていないかも、と思いました。

    お話自体はすっきりしていて好みです！

    では！

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時55分59秒
  • とおせんぼ係　様
    　感想を賜り、ありがとうございました。
    　「本文で状況を説明しきれてない」
    　加筆して、鍛錬室に投稿いたします。
    　ありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年05月11日 21時56分44秒
 0点
  • 　ども、目が疲れているのかｗｅｂ小説がなかなか読み進められないＨｉｒｏです。
    　拝読しましたので、拙いながらも感想らしきものを残させていただこうと思います。


    　う～ん、上手く楽しめませんでした。

    　文章として変なところはないのですが、「こういう状況かな？」と思って読んでいたら「実はこうで～」というような後出し設定が多く、読み飛ばしたかと思いなんども文章をさかのぼって確認することになりました。

    　作者の脳内で描いてた状況を読者にうまく伝えられないのか、いきあたりばったりで文章をつづっただけなのか判断できませんが、現状ではおちついて話を楽しむことができず、必然的に評価をさげる結果となってしまいました。


    　私からはこんなところです。

    　本感想は一般読者からずいぶんと感性のかけ離れてしまった『偏った生き物』が書いております。
    　内容の取捨所得には細心の注意を払ってください。

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時55分36秒
  • Ｈｉｒｏ　様
    「作者が脳内で描いた状況を読者にうまく伝えられていない」
    　描写を増やし、改稿いたします。
    　感想を賜り、ありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年05月10日 21時48分49秒
 0点
  • お疲れさまです。
    としき、と申します。よろしくお願いします。

    「ラーメン一杯の召喚勇者」拝読しました。

    寒い時のラーメンは美味しいですもんね。
    冬山でなら、そりゃあ、生き返るものでしょうね。

    ＜キャラ＞
    正直なところ、よく分からないキャラばかりでした。
    もう少し特徴なり、キャラ立てなりがあれば嬉しいです。

    ＜ストーリー＞
    少し不思議な体験をした少年のお話って感じでしょうか。
    ラストシーンが教室らしいから、高校生ぐらいなんですかね。
    楽しそうなシーンなのは伝わってきました。

    ＜気になった点／改善案＞
    もう少し描写や説明をお願いしたいです。
    多分もう少し書いてくれれば、主人公や、あとからついてきた
    女の子が、どれくらいカッコいいのか、可愛いのか、魅力を
    もっと伝えられるものになるんだろうと思いました。


    感想やコメントは以上です。執筆、お疲れさまでした。

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時55分15秒
  • としき　様
    「キャラ立てが不足。説明、描写をもっと」
    　短い文章の中でキャラをうまく立てることを課題にしてみます。
    　有益なご助言をありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年05月07日 14時41分03秒
 0点
  • 『ラーメン一杯の召喚勇者』拝読しました。

    ・ラーメンを食べて助かったり、魔物を退治して親子を助けたりするのは心温まるものがありましたが……ラストシーンの意味がよくわかりませんでした。
    　転校生の子＝助けた親子の娘さん、ということでしょうか？「そんな風に化かしたりしてないで」というセリフからすると、親子はキツネだったとか？

    ・文章はしっかりしていると思うのですが、話の内容はよく理解できなかったというのが正直なところです。ちょっと説明が不足しているように感じました。

    　感想は以上です。指摘点が私自身の作品にブーメランになっていたらごめんなさい。
    　執筆お疲れさまでした。

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時54分52秒
  • いりえミト　様
    「説明不足！」
    　思い当たる部分が多々あるので、改稿いたします。
    　一回では、完成は無理だろうなァ。
    　再々投稿を視野に入れてみます。
    　感想を賜り、ありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年05月06日 07時11分40秒
 0点
  • これって高校生の主人公が出来た彼女に妄想というか作った話を話してる、そんな感じでいいのかな？よくわからん。
    なんか物語ってわけでもなく起きたことを並べてるだけ、そんな感じを受けます（主人公もわかってるのか『こんなつまらない話』って言ってますね）。それを読者がどう受け取るか。それを無視してまで書くことに意味はあるのでしょうか？　確かに小説なんて作者のオナニーですがね。

    自分にはこの作品に評価はつけられません。私からの感想は以上です。それでは、ご縁があればまたお会いしましょう。

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時54分25秒
  • 桝多部とある　様
    　感想を賜り、ありがとうございました。
    「主人公の妄想か、作った話なのか？」
    　主人公が冬山で体験した奇妙な話……のつもりです。
    「起きたことを、並べているだけ」
    　もう少し工夫しながら書き込みをしてみます。
    　ありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年05月04日 17時19分57秒
 +10点
  • 拝読しましたので、感想を書かせて頂きます。

    ちょっとフシギな小さな物語、という感じですね。
    やや面長だが、整った顔立ち。狐なのかなぁと思いました。大ムカデを洞窟の奥に追い返して、五芒星をツバで描き直したら青白い光を放ち、「なんか魔法が発現」してえらく感謝されます。
    ピッケルでムカデを撃退したのはまあ、そんなことも有ろうかと（？）思わなくもありませんでしたが、キツネ（？）にもできない強力な結界を結ぶ力がどうしてこの主人公にあるのか、少し謎でした。

    ＞雪山で凍えたときに食べる暖かいラーメン以上のお礼なんてないからな。

    誰がうまいこと言えといった？　みたいな（笑）。ラーメンは持参ですが、まあ野菜を少しもらったし、火もつけてもらいましたしね。
    で、予備の二回分の食料が無くなっていたのと、ケモノのミミが動いてる転校生。何かついてきちゃったね、というお話でした。

    ダビデの星なら六芒星じゃなかったですか？　五芒星はドーマンセーマン。

    私からはこれくらいです。企画参加、お疲れ様でした。

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時54分03秒
  • あまくさ　様
    　よく読みこんでくださいました。
    　ありがとうございます。
    　五芒星は安倍清明の家紋である。さらに、清明は狐の子供だという伝承がある。
    　だけど、五芒星だけで、おかーさん達が狐にゆかりのあることに気が付けと読者に求めるのは、いくらなんでも無茶でした。
    　ダビデの星などというミスリードまでしてしまっている。
    　執筆中には、五芒星と書けば全ての読者が、「ああ、安倍清明がらみの狐の眷属か」と気づいてくれるものと思いこんでいました。
    　読者は、みな気付くから、主人公には少し見当違いな解釈をさせておこう、と考えていました。
    　我ながら困ったものです。
    　おかーさんが腰を抜かした場面で、狐の耳とシッポを出させるべきでした。その後にも、おかーさんが「こん」と軽く咳払いをする場面を挿入するべきでした。
    　感想を賜り、ありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年05月03日 12時31分53秒
  • 魔物を追い払って親子を助けたら、可愛い獣娘が彼女になったという筋でよいのでしょうか？　それで正しければ、１００円３つの小袋に入ったチキンラーメンみたいな掌小説であったという印象を受けました。それほど栄養素もないけど、小腹がすいたときに食べるみたいな。ちょっとだけどほっこりしました。
    短い作品ゆえに、記述できないことが多かったようにお見受けしました。ダビデの刻まれた石が何の脈絡もなく落ちていたり、ついてきた子が同級生になった説明が足りなかったりなど。

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時53分35秒
  • おはぎやま　様
    　感想を賜り、ありがとうございました。
    「説明不足」
    　いろいろな読者の方が十分に状況や内容を理解できるように書き込む。
    　課題にしていますが、まだまだ不十分でした。
    　ご指摘いただき、ありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年04月30日 08時55分42秒
 +10点
  • クロウと申します。拝読させていただきました。

    掌編ということで隅々までじっくり読むことができたのですが……

    読解力がなくて申し訳ありませんが、最後のシーンの意味が分かりませんでした。

    「ラーメン一杯の召喚勇者」の話を勇者がしている？　それを助けた女の子が聞いている？　それとも別の誰か？

    ラーメンと勇者という組み合わせは面白いのですが、それを生かせていたかというとピンときませんでした。勇者である必要あったかな？　と。

    以上、拙い感想ではありますが、作者様の参考になれば幸いです。
    それでは失礼します。

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時53分10秒
  • クロウ　様
    　感想を賜り、ありがとうございました。
    「分かりにくい。設定を生かせていない」
    　設定を生かすには、かなり工夫が必要そうです。
    　すこし時間を掛けて、改稿してみます。
    　ありがとうございました。

    E-Mail pass
2019年04月30日 00時32分53秒
 +10点
  • 　あ～
    　雪山登山中にまぎれこんだ洞窟には、かわいらしい親子がこまってて、助けてあげて下山したらなんか女の子がついてきて、みたいな。
    　ラーメンおいしそうだなぁとはおもったんですけど、ちょっと状況がよくわからんかったかも。主人公は高校生？　なんで雪山のぼってるんやろ、親子の正体は…？　とうとう。
    　もっと書きこむか、逆に削るかしたほうが、すっきりした気もします。
    　ふわっとした読後感だったんですけどなんとなくよかった印象もあったので、うーん、ラーメンと女の子をだな！　もっとだな！　書くのだ！
    　でわでわ～

    E-Mail pass
Re: 2019年05月19日 10時52分45秒
  • etunama 様
    　感想を賜り、ありがとうございました。
    「書き込むか、削るかしたほうがいい」
    　削れば、さらに分かりにくくなりそうです。
    　書き込む方向で改稿してみます。
    　ありがとうございました。

    E-Mail pass
合計 9人 50点

お名前(必須)　
E-Mail (必須)　
－－　メッセージ　－－
作者レス
評価する
　PASSWORD(必須)　 　トリップ　？　

<<一覧に戻る || ページ最上部へ
作品の編集・削除
E-Mail pass