盗作だと!?

Rev.04 枚数: 6 枚( 2,001 文字)

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 夏目洋介は雷光文庫の誇る天才新人小説家だ。
 日頃は、規則正しい生活をするごくごく平凡な高校二年生である。
 そんな彼は自室でパソコン画面に釘付けになっていた。
 デビュー作『恋する乙女の冒険譚』に対する読者の反応を検索していたのだが、思わぬ発言を見つけてしまったのだ。
 それは匿名掲示板に書かれていた。
 
 ”夏目洋介は盗作作家だ。買ってはいけない。”

「盗作……だと……?」
 洋介は震えながら続きを読む。クズ、カス、死ねなどと誹謗中傷の嵐となっていた。
 デビュー作は完全にオリジナルだ。いわれのない暴言を読み進めるほどに、洋介の表情は怒りに染まっていった。
 しかし、ネット上にはいろいろな人物がいる。感情的な発言は火に油を注ぐ。場が荒れるのは避けなければならない。
 何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
 ようやく書き込んだ時には、五分以上の時間を費やしていた。

 ”作者です。『恋する乙女の冒険譚』はオリジナルです。パクリではありません。”

 言いたい事は山ほどあるが、端的な主張を心がける。
 作者降臨ワロスw、必死乙、など様々な書き込みをされる。
「……デビュー作を盗作なんて言われたら必死になるに決まっている」
 洋介はぼやいて溜め息を吐いた。
 盗作騒ぎは止まないかもしれない。しかし、雷光文庫は洋介を信用している。販売取りやめにはならないだろう。
 誹謗中傷の嵐は読んでいて身にならない。
「二度と見ないようにしよう」
 呟きながらページを閉じようとする。
 その時、新たな書き込みが出現した。

 ”『恋する乙女の冒険譚』は『君の瞳にI LOVE YOU』の盗作だ。クライマックスのセリフは一言一句同じだ。著作権侵害で訴える。悪いことは言わない。編集に販売をやめるように掛け合え。”
 
 洋介は眉を潜めた。
「訴えるって……まさか『君の瞳にI LOVE YOU』の作者か?」
 『君の瞳にI LOVE YOU』はかつて雷光文庫で売られていた作品だ。作者のペンネームは異敬語三郎だ。読者の支持を集める事ができず、打ち切りとなり、作者自身は引退したと聞いていた。
「めんどくさいヤツが出てきたな……」
 しかし、先輩を相手に無視はできない。洋介はできるだけ丁寧に書き込む事にした。可能であれば穏便に済ませたい。
 
 ”『君の瞳にI LOVE YOU』は読んでおります。どのセリフが同じだったのでしょうか? 身に覚えがありません。”
 
 返事はすぐにきた。
 
 ”「愛している」「私もよ」”
 
「は?」
 洋介は両目をこすって画面を見直した。しかし、文面が変わる事はない。
 洋介の頭がフリーズしている間に、語三郎の書き込みは大量になっていた。
 
 ”私の作家人生を賭けた名セリフだった。”
 ”純愛を貫く主人公に、ヒロインが応える場面だ。感動しない人間の心は石でできている。”
 ”私のような大作家から学ぶのは結構。だが、盗作で金を取るのはダメだ。”
 
 洋介はクッキーを食べた。フリーズしていた頭がエネルギーを得る。全身が徐々に熱を帯びるのを感じる。
 語三郎の書き込みは留まる事を知らない。

 ”愚かな読者には辟易とする。見当違いの批判はただのクレームだ。”
 ”至高の作品は至高の読者にこそ理解される。”
 ”世の中には盗作や駄作が跋扈している。改めさせなければならない”

 匿名掲示板の住民も迷惑に感じたのか、やめろ、キモさぶろう、などと書いている。
 洋介も同じような心情だ。
「愛しているなんてセリフでパクリなら、世の恋愛ものの大部分が盗作だ!」
 訴えられても確実に勝てるだろう。そもそも嫌疑不十分で裁判にならないかもしれない。
「人が苦労して書いた作品を、くだらない理由で盗作扱いにした報いを思い知らせてやる」
 洋介のタイピングは神速となった。
 相手が先輩であろうと遠慮はしない。穏便に済ませるのは諦めていた。
 
 ”定番というものをご存知でしょうか? 「愛している」というセリフのない恋愛ものを挙げていただけますか? 大作家様なら簡単にできますよね。”
 
 返信も瞬速であった。
 
 ”真の大作家は駄作を知っている必要がない。”
 
「一つも挙げられないのか」
 洋介は怒りを通り越して呆れた。『恋する乙女の冒険譚』もクライマックスしか読んでいないのかもしれない。
「こんなヤツに盗作扱いされるなんて、笑いすらこみ上げる」
 くっくっくっと洋介の邪笑が響く。相手に致命傷を負わせるなら、今だ。
 
 ”わぁ! 他人の作品を知らないなんて尊敬します。さすがは大作家様ですね。デビュー後の売り上げはいかがでしたか? ちゃんと生活はできましたか?”
 
 語三郎の書き込みが止まった。
 洋介は両手を叩いて笑った。
「ざまぁみろ!」
 勝利の愉悦に酔いながらパソコンを閉じる。
 その後、語三郎が書き込んだ事を彼は知らない。
 
 ”私は君の通う高校の教諭だ。内申書は覚悟しておくように。”
ミチル

2018年02月20日 23時05分55秒 公開
■この作品の著作権は ミチル さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:盗作だと!?
◆作者コメント:夏目洋介は天才新人小説家だ。そんな彼に盗作疑惑が!?

(タイトルと内容の微修正を行いました。何度も修正してすみません。)

2018年03月17日 21時39分30秒
作者レス
2018年03月10日 23時36分05秒
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2018年03月10日 22時30分16秒
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2018年03月06日 20時52分35秒
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2018年02月28日 21時49分32秒
0点
2018年02月26日 18時56分08秒
+10点
合計 5人 50点

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