Zhong Kui

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 目の前の傾いた、黒鉄の鯨を前にして、儂は歓喜した。
「こいつは……、アメさんの言うところの『さぷらいず』ってやつかい」

******

 黒鉄の鯨―米国籍貨物船『ジェフ・トレーシー』号の船橋。幽鬼のような儂の部下たちが、縛り上げたメリケンどもに日本刀(ヤッパ)を突きつけている。
「Please……,don’t kill me!」
「貴様、それでも軍人か!」
 米海軍の帽子にしては変な帽子をかぶった船長らしき男が情けない声を上げるので儂は一喝する。
「I’m not a soldier, I’m a civilian!」
「しびりあん?」
「民間人という意味ですぜ、大尉」
 隣にいた、副官で英語ができる仲本がそう教えてくれた。
「奴らは民間人で軍需物資を輸送させてるのか?」
「わが国もですぜ」
「……たまったものじゃないな」
 儂は国のためという理由で民間人を徴発している現状に呆れ、天を仰ぐ。
「積み荷は?」
「大尉殿!」
 船内の探査隊を率いていた高木が船橋に来る。
「こいつはとんでもないお宝の山ですぜ。ぜひ徴発しましょう」
「お宝の山?」
「食料でさ! この船、どうも『りばていしっぷ』の冷凍船型でさ!」
 よだれを流しながら高木は言う。帝国軍人が、だらしないぞ! ……しかし、背に腹は代えられない。わが部隊は何もかも不足、いやからっけつだ。食うものも無く幽鬼のようになった兵たち。壊血病にマラリア。取り残された時と比べて半数以上が島の土に還った。母国の土になりたかったろうに……。
「食料以外は?」
「とんでもないものが見つかってます。そちらは後程」
 高木と一緒に来たのは加藤であった。本業は飛行機の整備。
「船そのものはどうだ? 直せるか?」
「無理であります」
 加藤は即答する。
「岩礁に乗り上げた際、底をつけぬけているであります! 今は岩礁が船を塞いでいるので油漏れは少量ですが、次の大潮までに油を抜かないと海が油まみれになります!」
「……だ、そうだ」
 わしはメリケンどもの方を向き、宣言する。
「中本、訳してやれ、『貴様らの船は修理不可能だそうだ。荷物その他は大日本帝国が徴収する』」
「……Fuckin’ Thieves!」
「なんとでも言え」
 儂は船長の悪態を無視することにした。儂は船橋から外を見る。三日月上の環礁がよく見えた。

******

 儂らは見捨てられた。
 生きては帰れぬニューギニア、その北にあるアドミラリティ諸島、トリフ環礁。たまたま、まっすぐな飛行場が取れる平地があるという理由で我が国はここに飛行場を作り戦闘機を配備した。しかし、ニューギニアにはいつの間にか司令部が台湾に逃げ出してしまい、俺たち実戦部隊は島に取り残された。適当に特攻で死ね、飛行機がないなら歩兵に交じって玉砕しろといういい加減な命令が下ったが、儂は無視してやった。そのうち無線機も壊れ、友軍がどうなったかも知らぬ。そして、飛行機は……。
「Don’t cry over Japan’s lack of industrial strength」
「二流国で悪かったな」
 連れてきているメリケンの男が悪口を言ったことは理解できたので、儂も悪態をついてやる。
 天幕で覆われた、仮説の格納庫。ここにずらりと並ぶのは『首のない燕』達であった。発動機(エンジン)を降ろした、帝国陸軍の誇る、三式単座戦闘機。空を飛ぶ燕、『飛燕』の愛称が与えられたこいつは、はメリケンどものムスタングやスピットファイア……、はジョンブルどもか、にも負けない自信がある。発動機さえあれば!
「But it’s beautiful, even without the nose.」
「ありがとうよ」
 褒めてくれたようなので礼は言っておく。
 首のない燕たちは、載せる発動機がないためにこんなことになっている。飛燕の発動機、ハ四〇は製造も整備も難しく、取り換え用の部品もネジが合わなかったりするものもあった。悔しいが、日本はメリケンやドイツのような精密なものを作る能力を持っていない。それを背伸びして戦争なんかしかけるからこうなったんだ。
「Um、What is that machine?」
 メリケンは片隅にある、明らかに飛燕と違う機体を指さす。
「あれか。あれは儂の相棒で……、儂の棺桶さ」
「Kann-oke? Coffin?」
「Yes」
「……Oh. It’s too beautiful to be a coffin(訳:棺桶というには美しすぎるな)」
「美しいと言ってくれるのか。ありがとうよ」
 メリケンは俺の棺桶(きたい)を美しいと言ってくれた。これほどうれしいことはなかった。願いが叶うなら、どうせ戦死するなら餓死や銃に撃たれるより、こいつに乗って、大空で散りたい。
「I Know. Code-name”To-Jo”,IJA Type mk2,”Zhong-Kui”.As time goes by, even if there are many state-of-the-art aircraft, I am convinced that this aircraft is the most beautiful and strong(訳:知ってるよ。コードネーム『トージョー』、大日本帝国二式戦闘機『鍾馗』。たとえ時代が過ぎようとも、この飛行機がお前の国で一番美しい飛行機だと俺は思ってるよ)」
「?! Thank-You!」
 俺は思わず大声で叫び、メリケンを抱きしめてしまった。
 大日本帝国陸軍、二式単座戦闘機。愛称は鍾馗。整備兵どもは試作名称のキ44からヨンヨンと呼んでいる。大戦初期からの機体で、舞台が三式戦に更新した後も、俺はこれを使い続けている。三式戦のひらひらと舞う戦い方が俺は気に食わなかったこと。当時部品が余ってて補給は困らなかったこと。部下には最新の機体をやりたかったこと。そんな理由で俺は使い続けた。いつしか部品も尽き、首のない燕どもと一緒に首のない姿をさらしている。
「ところで貴様、プラットアンドホイットニーの技術者と言ってたな」
 俺はメリケンの男に尋ねる。プラットアンドホイットニー、通称P&W。メリケンの発動機製造会社で、我が国の飛行機用空冷発動機は、元を質せばP&W製発動機のコピーから始まっている。
「It’s strange. The fact that I am with other companies’ engines」
 そう。不思議だったのだ。
「おーい、加藤!」
「へい!」
 貨物船の荷物を確認した加藤に、儂は声をかけた。
「できそうか?」
「ばっちし、おさまりまさぁ!」
 加藤は親指と人差し指で丸を作った。
 あの船は、この男の会社が傭船した冷凍貨物船(リーファー)だった。機密である、とある荷物の実験のためにフィリピンのマッカーサーのところに向かうはずが低気圧にやられて舵が故障、トリフに流れ着いたらしい。運がないことだ。
「The military shoved it. If there’s space in the hold, take this too」
「船に空きがあるならこれも持って行け、って軍に押し付けられたと言ってますぜ」
「メリケンどもには感謝だな」
 あまりに都合がいい偶然に、儂は苦笑いするしかなかった。
 船に積まれていたのはこいつのライバル会社のはずの、アリソン製アリソンエンジンとその部品だった。エンジン本体が六十基、パーツが百基分。こいつはメリケンどもの戦闘機、P-51用のエンジンでロクイチ(※作者注:飛燕の別名。試作番号キ61から)と同じ水冷エンジン。もしかしてこれをロクイチに取り付けられないか整備兵に確かめさせていたのである。
「もう一つのあれは?」
「奥にあります。行ってやって下せぇ」
 儂達はさらに奥に進む。そこには。
「畜生! 何なんだこのわがまま発動機は!」
「メリケン女だって、もっと股が緩いと聞いたぜ!」
 整備兵どもが下品な冗談を言っていた。中央には台座に据えられた、異形の機械。
 メリケンどもの開発した、新型エンジンとのことだった。空冷星型、四重七発、二十八気筒。馬力は余裕で三千馬力越え。我が国の『誉』が二千馬力で四苦八苦しているというのに、メリケンどもの科学力、技術力には頭を下げるしかない。歯車でできた怪物というより鋼のドレスを着たグラマラスな美女といった趣がある。しかしここに運ばれてから、このメリケン美女は目覚めることが一度もなかった。
「Hey, hey, even with this, you’ve come to listen to what I say, right?」
「……何と言ってる?」
「これでも言うこと聞くようになった方だ、と」
 英語がある程度読めるという志村二飛曹が答える。実家が自動車屋でエンジンがわかるので、この『XR』と呼ばれているエンジンの操作マニュアルはこいつと仲本が翻訳して整備兵を指揮している。せっかくの宝物も、うちの基地の小所帯では宝物の持ち腐れ……、本国に帰っても、特攻機に使われるだけか。
「Let me see」
 メリケンが志村をどかせ、ドライバー片手にエンジンをいじる。
「Your translation is wrong here.This is where cylinder 1 comes in」
「ここかぁ!」
「どうした?」
 志村が声を上げるので俺は尋ねる。
「マニュアルには一番シリンダーから始動しろ、そうでないとプラグがオイル被りを起こすってあるんですけど、一番がわからなかったんですわ。そりゃ、こんな変なところが一番ならわからねぇ!」
「動かせるか?」
「I’ll help you too」
「作業員ども、集合! この『わがままぼでー』のプラグ全部外して磨くぞ!」
 そして数時間後。

 バオオオオオオオオオオオ!!

「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
 メリケン美女は目覚めの讃美歌(ゴスペル)を歌いあげる。公称三千馬力は伊達ではない、そう思わせるものがあった。
「……志村、訳してくれ」
「You don’t have to say」
 メリケンは儂の前に立ち、人差し指を振る。
「言わなくてもわかる、って言ってますぜ」
「You want to put this selfish beauty in your coffin, don’t you?(訳:お前、このわがまま美女をあの棺桶に乗せたいんだろう?)」
「Yes!」
 儂は即答した。俺の棺桶にこいつがつく。ワクワクするってもんだ。が。
「……You’re complicit in killing your brethren, but is that okay?」
 志村が何か言っている。大体想像つくが、儂は口をつぐむ。
「You can kill as many fuck’in Dutch as you like!」
「おいおい!」
 こいつ、オランダ人ならいくら殺してもいいって言いやがった。
「It’s not like that anymore. but they still think of the East India as their own golden egg-laying hen」
「ゴールデンエッグ……、植民地は金の卵を産む鶏か。確かに、そんな時代じゃあねぇなぁ」
 今村閣下は世界すべての民族が独立してやっていくべきだ。その中で日本はリーダーとなってアジア全体で仲良くやっていくべきだ、そんな考え方を持たれてた。……そんなんだからあの方、本土と喧嘩してラバウルに飛ばされるんだけどな!

******

 メリケンの船、ジェフ・トレーシー号がトリフ環礁に座礁して二週間ほどたった。船に積まれていた物資は膨大だった。小麦千トン。冷凍牛肉千トン。缶詰の野菜五百トン。ここにいる部下に捕虜になったメリケン人含めても二百人もいないこの島では三年は優に過ごせるだけの食料だ。また千人分にも及ぶマラリアの特効薬、ストリキーネとビタミン剤。野菜とビタミン剤は壊血病で動けない兵たちによく効いた。大豆がなぜか千トン。メリケンの基地で飼われている、豚や鶏の家畜飼料として送られたものらしい。贅沢な、わが部隊の豆腐とみその原料として使わせていただく。
 そして飛行関係。修理用らしいジュラルミン板に最新の旋盤にボール盤、それらに取り付けるドリル刃。我が国にも、これぐらいのものが作れればと志村の奴が嘆いていた。十万本、二千キロリットルにも及ぶガソリン満載のドラム缶。そして止めがアリソンエンジンに『わがままれでぃ』ことXRの完成品。おまけが謎のプロペラだった。なんと二重反転といって二機の四枚プロペラが左右に逆回転するもので、志村の話では海軍さんが偵察機に採用しただけというキテレツな代物らしい。話を戻すと、奴らの話ではこのプロペラはエンジンともども現在XTDと呼ばれる新型機用とのことだった。魚雷四発か一トン爆弾四発積載可能。十二.七ミリ機銃七門搭載。……奴らは駆逐艦でも空に浮かべるなのつもりだろうか。今更、メリケンの科学力のすごさを思い知らされる。
 わしはクーラーの効いた隊長室でこれらの資料を眺めていた。メリケンの船から引っぺがした冷凍機を使ったクーラーはよく冷える。クーラーはメリケン船の燃料だった石炭で動いていた。石炭はひと夏分……、次の乾季までしかないが、恐らくはひと夏分で十分だろう……、そんな時、儂の部屋の扉にノックの音が響く
「失礼します、志村であります! 隊長、準備できました!」
「おーっす」
 俺は志村に呼ばれ、格納庫に向かう。偽装された天幕の下、六機の戦闘機が勢ぞろいした。首が座った鉄の猛禽たち。わしのヨンヨン、そして五機のロクイチ。どうせパイロットは六人しかいないからこれで充分であった。
「パイロット、全員揃いました!」
 副官の仲本が報告する。仲本、高木、加藤、荒井、そして志村。儂を含め、たった六人しか生き残ってない。他の部下たちは空ではなく、飢えとマラリアの前に散っていった。今の食糧事情を知ったら、化けて出るだろうな。
「U’m? Are you so understaffed that mechanics and cooks fly in the sky(訳:お前のところは整備士やコックが空を飛ぶほど人材不足なのか)?」
「No,On the contrary.Since everyone is dead, the pilots are the mechanics and cooks.(違う、逆だ。コックも整備士も死んじまったからパイロットがやってたんだ)」
「Oh……」
 仲本の説明にメリケン技術者が呆れていた。
「貴様ら」
 儂はパイロットたちに告げる。
「多くは言わん。今回の目的は久しぶりの飛行でなまった体を叩きなおすことだ。ただひたすら」
 儂はここで言葉を区切る。
「儂についてこい!」
「はっ!」
 部下たちは敬礼で返してくれた。
「搭乗!」
 儂達は飛行機に乗り込み、エンジンを始動させる。ばぁおおおおおおおお! とメリケン美女が目を覚まし、讃美歌を歌い上げる。今日の美女はご機嫌であった。儂は手を外に出し、指図する。我へ続け。
 天幕から出た一機のヨンヨンと五機のロクイチが、久しぶりに滑走路に出る。最近はボロボロだった滑走路に見切りをつけたのか、敵機も来なくなった。滑走路には整備兵や一応捕虜のはずのメリケンどもまで帽子を振ってくれる。儂はスロットルを全開にし、大空に飛び上がった。続いて部下たちも飛び上がった。
「総員に告ぐ。高度六千まで上がるぞ!」
「「「「「おお!」」」」」
 威勢のいい声がする。儂は酸素マスクをつけ、機体を上昇させる。メリケンの発動機は高度一万でも動くという。『はいきたーびん』というものの力で、我が皇国では作れないと志村は嘆いていた。
 雲を突き抜け、抜けるような青空の元儂らは宙を飛ぶ。鳥すら飛ばぬ、そろそろ成層圏かという世界。そんなとき。
「隊長! 右下、光るものあり!」
「ん?」
 儂はなにごとかと少し機体を傾け、下を見る。果たして、ニ十機ほどの機影が見えた。友軍はもういない、ならば。
「確認するぞ。我に続け!」
 儂らは機体を降下させ、敵機? を確認する。
「隊長。確認しましたぜ。丸に赤・青・白。蘭軍だ!」
 超高速のすれ違い。その一瞬を一番目のいい志村は見逃さなかった!
「敵数二十、すべてバッファローと見ゆ!」
「メリケンさんのおさがりか。準備運動にはちょうどいいな! かかれぇ!」
 儂らは機体を上昇させ、敵に正対する。向こうは散開を始めた。しかし。
「遅いわぁ!」
 バババ! ヨンヨンの十二.七ミリ機銃が火を噴く。バッファローごときにヨンヨンの切り札、ホ三〇一など勿体ない。バッファローは開戦時のメリケンの戦闘機で、頑丈以外にとりえのない鈍牛である。今ロクイチについているアリソンエンジンの本来の嫁ぎ先、P-51にとってかわられたと聞いたが、蘭軍どもに回されていたわけか。
 哀れな一頭の牛が機銃に穴だらけにされ、火を噴き落ちていく。南無。
「オラ、メリケン製! しっかりついてこい!」
 儂は一気に上昇させる。ヨンヨンは基本、巴戦ではなく一撃離脱戦法を得意とする。海軍さんの巴戦とどっちが強いか。多分一撃離脱の方が強い……、ただし、強力な発動機があればの話だ。ヨンヨンは一撃離脱型の飛行機だというのに、発動機に恵まれなかった。仕方ないからでっかい爆撃機用エンジンを無理やり積んだ。我が国がそんな苦労をしてるというのに、今の儂のヨンヨンに積まれた『わがままれでぃ』は、昔積んでいたハ109発動機の、文字通り二倍もの出力を持つ。メリケンどもの話では離床出力三千馬力、高度四千メートルでも二千四百馬力という。ちなみにあの鈍牛どもの発動機は九五〇馬力だそうだ。蘭軍に支給された機体はメリケン本国のものより性能が低いらしいが……。
「隊長! こいつら楽勝だぜ!」
 うちの隊では志村の次に腕がいい加藤が叫ぶ。
「全滅させていいぞ!」
「了解!」
 儂は十分な高度、位置エネルギーを持って再び鈍牛どもに襲い掛かる。時速800キロ。プロペラ機では本来出てはならない速度だが、儂と儂のヨンヨンは耐え抜く。
「貴様らには勿体ないがぁ! 試験のためだ、くれてやらぁ!」
 引き金を引く。ヨンヨンがヨンヨンである証、ホ三〇一噴進砲。一撃必殺、この世に破壊できぬ機体無し。
 爆発。眼前が朱に染まる。儂はその爆炎を通り抜けた。
「たーまやー!」
「かーぎやー!」
 見ていたらしい仲本と荒井が叫ぶ。
「貴様ら! 一機ぐらい食っただろうな!」
「仲本、三機!」
「荒井、二機!」
「志村、一機です、すみません!」
 一番若い志村か。これは責められない。
「加藤、二機!」
「高木、志村と同じ一機です!」
「仲本、貴様には秘蔵のどぶろくをやろう!」
「自分は、一杯でもいいのでメリケン船長秘蔵のブランデーがいいであります!」
「それは船長に頼め!!」
 仲本のわがままに、儂は笑いながら答えておいた。撃墜機数は間違いないようであった。九機にまで減った敵は必死になって逃げていく。
「ようし、凱旋だ!」
「「「「「おう!」」」」」
 こうして、新生トリフ環礁駐屯部隊は初陣を飾った。

******

 昭和二十年八月。儂らは『準備』を進めていた。
 初陣の後、仲本と志村を使者としてラバウルの南方軍司令部に送り、自分たちは戦力を立て直した、反抗はできる旨を。そして逃げ去った航空第六軍に従う意思はない旨を伝えた。この儂の手紙に、ラバウルの今村閣下は苦笑いしたらしい。そして、儂らは閣下から驚愕の事実を教えてもらうことになる。
「サイパンと硫黄島は玉砕……」
「帝都は毎日のように爆弾の雨が降っていると……」
 その事実に、さすがに部下たちの顔は曇った。
「Hey,Commander.Should we ask for that information?(訳:司令官。俺たちがその話を聞いていいのかい?)
 メリケン船の船長が、おいおいという顔で俺たちの話に割り込んでくる。
「Of Cource」
 儂は言ってやる。ここから先の説明は仲本に頼む。
「Our captain knew this was going to happen.That’s why I’m going to take care of you too.(訳:俺たちの隊長はこうなることがわかっていたのさ。だからお前らも大切にしてきたつもりだ)」
「……All right.We will always testify that you did not commit war crimes.(訳:理解した。本国に帰れたら、貴様たちは戦争犯罪をしなかったことを必ず証言する)」
 船長はそう言って笑う。普通に考えても保身行為どころか利敵行為も甚だしい、軍法会議に掛けられ銃殺ものだと自分でも思う。しかしこんなくそったれな戦争で、部下をこれ以上死なすとか、そっちの方がまっぴらごめんだ。本土のえらいさんは芸者侍らして戦争をしてると聞いた。東条閣下は生真面目で優秀な方だが、部下を見る目がない。今村閣下の話では、ニューギニア本島では食うものもなく餓死者が続出しているらしい。ここトリフ環礁でも、メリケンの船が着くまではそんな状態だったからな……。
「バックレるぞ」
 仲本の報告を聞き、儂はパイロット五人とメリケン人の船長、P&W社の技術者の七人に説明する。
「残念ながら我が国は負ける。恐らく早くて八月、遅くとも来年春には降伏するだろう」
 儂は隊長室で説明する。
「ラバウルの今村閣下の話では、蘭軍に降伏するのは論外と言われた。まあ、儂らがやり過ぎたせいでもあるがな」
 わはははは。笑い声がこだまする。初陣の後、蘭軍による嫌がらせ攻撃は何回かあったが、すべて返り討ちにしてやった。
「そこでだ」
 儂は地図を広げる。
「ポンコツの九二式がある。こいつにアリソンエンジンを積めば速度は倍ぐらい出るはずだ。こいつを直す」
 九二式重爆撃機。台湾からフィリピンのコレヒドール要塞を攻撃するために開発されたのはいいが、あまりに鈍足なので没になった機体だ。トリフにあるやつは遠距離飛行テストのためにトリフに来て、エンジン不調でそのまま打ち捨てられた奴だ。最大搭載量五トン。
「乗員含めエンジンも強化されているから、百人は詰め込めるはずだ」
 儂の説明に全員が頷く。
「そして零式」
 海軍さんの零式輸送機ことC-47。アメさんの迷子になった奴を二機鹵獲していた。
「これにもアリソンエンジンを積ん五十名ずつ乗せる。これで全員ここを脱出できるはずだ。護衛は儂と志村、仲本。残り三人で輸送機を操縦してもらう。最終目標、ミンダナオ島、サンボアンガ」
 儂はつーと、トリフ環礁からフィリピンへの線を描く。
「脱出開始は、終戦を確認してから3時間後。勿体ないが、物資は全部おいて行く」
「肉、置いて行くんですかい?! もったいねぇ!!」
 コック兼任の高木が泣くように言い、場は笑いに包まれる。
「国に帰ったら、また食えるさ」
 儂は高木をなだめすかすように言う。
「あまり時間がない。あと二ヶ月で準備完了する必要がある」
 儂はそう言って、全員を見渡した。全員が真剣なまなざしを、儂に返してきた。

 そして八月。
「お盆か……」
 儂は部屋を出て、滑走路から天を見上げる。雨季なのに今日は青空が見える。先に逝った戦友たちは、一足先に日本に帰っているだろうか。そんなことを考えていると、一機の飛行機が着陸しようとしていた。
「うん? 海軍さんの零戦じゃないか」
 儂は顔を引き締め、零戦のところへ向かう。整備兵どもも飛び出し、梯子をもって零戦のところに向かう。
 停止した零戦に梯子が掛けられ、操縦していた男が降りてくる。
「自分は、海軍の和久少尉であります! 陸軍、今村閣下からの指令書を届けに参りました!」
「What?」
 一緒にいた船長が怪訝そうな顔をする。そりゃそうだ。海軍の飛行機が普通、犬猿の仲の陸軍の書類を運ぶなんてありえないからだ。しかし我が陸軍は既に航空機をもってなく、海軍さんに頼るを得ないのが実情だった。それにさすがに今村閣下の頼みでは聞かざるを得ないだろう。
「貴官は、この指令書の中身を知っておるか?」
「想像はついておりますが、自分はそれについて発言する資格がありません!」
「……当然だな。貴官もついてこい」
 儂は基地の自分の部屋に戻り、ペーパーナイフで封を切る。中身は、果たして。
「記。帝国は八月十四日に米英に対し降伏した。貴官らは進出してくる連合軍に対し降伏せよ。なお、蘭軍への降伏は論外なり。かねてからの計画に従い、フィリピンに脱出せよ」
「かねてからの計画、ですか?」
「メリケン人がいて、不思議だっただろう。彼らは捕虜だ。彼らを人質として、我々は安全を買う」
「なるほど」
 和久は納得してくれたようであった。
 儂は自分の机にあるマイクを手にする。
「儂だ。総員、国譲り作戦、最終段階発動。規定に従い準備を始めろ。今から約三時間後、一五〇〇時、出発!」
 ウ~!! 基地の中をサイレンが鳴る。
「三時間後に出発だ。目標はフィリピン、サンボアンガ基地。貴官もついてきたまえ」
「しかし、燃料が……」
「いろいろあってな、ガソリンなら、アメさん製のいい奴がこの基地にはある」
 儂の言葉に、和久の奴は首をひねっていた。
 三時間後。
「こ、こいつは……」
 和久は九二式を見て驚いていた。
「陸軍は、こんなデカ物を作ってたのですか?」
「あまりに鈍亀でな。没ったのさ」
 うん? こいつは本土で何回か飛んだことがあるはずだぞ?
「自分は戦前から南方が長くて、こいつを見るのは初めてであります」
「そうか」 
 儂は納得した。
「俺たちは荷物でさぁ!」
 げらげら笑いながら、重爆の窓から儂らに手を振る整備兵。狭い胴体に三段ベッドをしつらえ、人間を四十人、文字通りすし詰めにした。尾部の狭いところに小柄な奴が体育座りさせられ詰め込まれている様は、まるで尻尾迄餡子があるタイ焼きのようだ。それでも足りないので、なんと機銃座のあるところと本来爆弾を吊るす四か所の懸架部に二席五列、十席ずつの座席を吊るすということをやっている。左右の翼の上の機銃部にも十席ずつ用意し、無理やり百人乗るようにした。発動機は千三百馬力のアリソンエンジン四基。人の背丈よりでかいプロペラを音速近くまでぶん回し飛んでくれるに違いない。まぁ、夜中にこっそり百人相当、七トンもの荷物を積んで飛べることは確認してるんだけどな。
「九二式、準備完了しました!」
 操縦席から荒井が報告してくれる。その奥には二機の零式輸送機。こちらも詰め込みまくっている。
「零式、タマヤ。準備できました!」
「零式、カギヤ。準備できました」
 加藤と高木が報告してくる。あとは志村と仲本が……。
「隊長! いつでも出れます」
 もう乗ってやがった。二人のロクイチは、既にペラが回っている。
「隊長、和久少尉殿! お急ぎください!」
 最後まで残っていた整備兵が儂たちの機体にいて手招きしている。
 儂らは操縦席に体を押し込み、チョークを操作する。
「回せぇ!」
 ばおん! メリケン美女はこれが最後とばかりに張り切ってくれる。見ると、儂らのエンジンを回してくれた整備兵が、九二式の爆弾懸架部の仮設席に乗り込むところだった。
「出るぞぉ!」
 儂のヨンヨンは滑走路に出る。燃料は満タンである。それでも、サンボアンガまでは二千キロ。増槽なしに着く距離ではない。まぁ、儂のヨンヨンは増槽付でも軽々飛び上がるのだが。上から下を見ると、既に和久の零戦が宙を舞い、志村、続いて仲本のロクイチも飛び立って周囲警戒を始めた。そしてタマヤとカギヤも飛び立ち。
「問題はあれか……」
 よたよたと滑走路に出る九二式。いくらエンジンを強くしたと言っても、設計以上の荷物を運んでいるのだ。滑走路の端から端まで使って、ようやく飛び上がれる。
「飛べよぉ……!」
 ぐぉぉぉぉ! 必死になって飛ぼうとしてるのが空からでも分かった。そして。
「「「おおお!」」」
 よたよたとしながらも、ようやく九二式は空に浮かんだ。
「よし。高度二千。進路西北西、ニューギニア島沿いに進め」
 時速は九二式に合わせる。九二式は元々最高速度がたった二百キロしか出ないので没になった機体だった。エンジンを八百馬力のユモエンジンから一三〇〇馬力のアリソンに変えたおかげで、時速は三五〇キロでるようにはなった。しかし鈍足なのは違いない。おまけに翼から吊るしたり翼の上にまで人間載せて飛んでいるのだ。変な機動したら中の人間がぐちゃぐちゃだ。
 儂らは一路北西へ向かう。大体6時間の旅だ……、何事もなければ、だ。
「隊長、ニューギニア島が左に見えます」
 仲本が報告してくる。
「海岸線沿いに進め。ニューギニア島が見えなくなったら進路北西に変更。正面に島が見えたらミンダナオ島だ」
「そういや隊長。ミンダナオ島と言えば、ダバオはだめなんですかい?」
 仲本が言われて当然のような質問を返す。ダバオとはミンダナオ島最大の都市だ。
「あそこは九二式が着陸できる飛行場がない。サンボアンガなら、メリケンの基地がある」
 さて、勝負は出てからニューギニア島を通り過ぎるまでの三時間……。
「たいちょ、お客さん来ましたぜ」
 志村が報告してくる。正面に光るものが見えた。敵? 飛行機だ。複数。
「船長、通信頼む」
 これは想定内だ。船長に英語でこちらに敵意がないことを伝えてもらう。
「We are Americans under the protection of the Japanese army. We are being taken to Mindanao.(訳:我々は日本軍に保護されたアメリカ人だ。ミンダナオ島に連れて行ってもらっている)」
 しかし回答は……。
「うわ、撃ってきやがった!」
 銃弾であった。無線が入る。
「Verdomde Japanners, jullie hebben Amerikanen vermoord!(訳:ファッキンジャップ、お前らがヤンキーどもを殺したことにするんだよ!)」
「なんかやばそうなこと言ってるな!」
 どこの言葉かわからないが、明らかに悪態をついている。
「荒井より隊長へ! まずいです、あいつら俺たち皆殺しにして罪をあんたらにおっかぶせるつもりだと、オランダ語が分かるというメリケンの一人が言ってます!」
「くそったれがぁ!」
 互いにすれ違う。敵は……。
「こ、コルセア?!」
 米軍のコルセア戦闘機だった。大出力のライト・サイクロンによる一撃離脱を得意とする機体だ。十三機、すべてがオランダ軍のマークを付けている。
「仲本! 先導しろ! 儂は残る、貴様らは先に行け!」
「隊長?!」
「生きて、帰れ。日本を、建て直せ。未来を創れ。そして儂のかかあに伝えてくれ」
 儂は覚悟を決める。
「お前の夫は、死に場所を見つけてしまったと!」
 儂は無線機をモールスに切り替え、一番打ちたくなかった言葉を送る。今村閣下や他の友軍たちに届くように。
”--・・ ・・ ・-・・ ・・-- -・ -・・・-(ブカノタメ)”
” ・-・・ ---・ ・・ ・・・- ・・-- -・ -・・・-(カゾクノタメ)”
”・・・- -・-・ ・・-- ・・-・- ・・・ ・- ・・-- -・ -・・・-(クニノミライノタメ)”
”-・- --- ・・-・・ ・--・ -・-・ ・・- ---・-(ワレトツニウス)”
 そして儂はホ三〇一の引き金を引いた。
「ひとつ!」
 爆発。最初の一機を血祭りにあげる。儂はスロットルを全開にし、上昇させる。そして反転させると敵の一番後ろにいる奴に十二.七ミリの雨を降らせる。簡単にケツを取らせ過ぎだ、バカ者!
「ふたつ!」
 儂は散開したコルセアの群れのうち、上昇した連中のケツにつく。左右に分かれた連中はもう仲本達にはついていけない。上昇した四機を先にしとめる。
「うぉぉぉぉぉ!」
 『わがままれでぃ』が鉄の讃美歌を歌い上げ、コルセアにあっという間に追いつく。
「怯えろ! すくめ! コルセアの性能を生かせず死んでいけ!!」
 ホ301が立て続けに火を噴く。四機のうち三機が火球となって爆ぜた。
「いつつ!」
 三割は仕留めた。これで奴らは帰るだろ……、なぬ?
 奴ら、左右に分かれた連中が儂のケツをとってきた。12.7ミリの鉄の豪雨が降ってくるので儂は急降下させる。
「くっ!」
 速度計が八百キロを超える。凄まじいGが儂の体を押しつぶそうとする。
「ぃよいしょお!」
 水面ぎりぎり、ターンする。多分水面数メートルだろう。馬鹿が、操縦かんを引くのが遅い奴が二機、海と接しやがった。
「ななつ!」
 上昇するとよたよたしているコルセアが二機。
「貴様らには三〇一など勿体ないわ!」
 十二.七ミリの雨を降らせる。コルセアは頑丈だと言われているが、それは一式、ヨンサンの7.7ミリ機銃が通用しないだけ。十二.七ミリ機銃なら何とかなる。
「ここのつ!」
 真正面。コルセアが体当たりでもせんかのごとく突っ込んでくる。
「とお!」
 必殺のホ三〇一が炸裂。火球になるコルセアを通り抜ける。がちがちがち、と破片が機体に当たる。やばいやもしれん……、殺気!
 儂は機体を左に捻る。刹那、十二.七ミリの雨。儂は機体を縦にし、スロットルを絞る。機体は重量に引かれ、すとんと落ち始める。刹那、通過する、先程鉄の雨を降らせたコルセア。
「海軍さん流、木の葉落としとくらぁ!」
 どてっぱらを見せたコルセアに12.7ミリを食らわせる。爆発。コルセアは四散した。
「じゅういち!」
 あと二機。見ると左右に分かれて逃げる……、いや、後ろをとらんとしているようであった。儂は右側のコルセアを追っかける。コルセアは頑丈だが一対一では
大回りするという悪癖を持つ。ヨンヨンも似たようなものだが、こっちの方が小回りは効く。そして。
「取ったぁ!」
 真上をとり、十二.七ミリの引き金を引く。炸裂。コックピットのあたりを赤に染め、儂は哀れなコルセアの横を通り過ぎて行った。
「Dom! Twaalf Corsairs zijn in minder dan drie minuten weggevaagd?(訳:馬鹿な! 十二機のコルセアが三分持たずに全滅だと?)」
 無線でファッキンダッチな奴がわめいている。知らんがな。
 あと一機。ホ三〇一、あと三発。十二.七ミリ、あと五〇発ほど。殺せるか? 引いてくれるならありがたいが……。
「そうだな。部下を殺されておめおめ帰れないよな」
 果敢にもダッチ野郎は儂に立ち向かってきた。しかし。
 ばぎん。
 嫌な音がしてカラカラと変な音がする。
「プロペラ! 片方逝ったか!?」
 速度が落ちる。P&Wの技術者が、BTDという機体はこの二重反転プロペラの開発が思わしくなく配備が遅れていると聞いた。そしてわしの機体も、それが来てしまった。速度が落ち、機体が右によれ始める。ということは操縦席側から見て手前のペラが逝ったようだ。
「上等だ!」
 戦争に言い訳は不要。生き残ったやつが正義になる。わしはダッチ野郎のコルセアに正対する。スロットル全開。
「おおおおおおおお!」
 操縦かんをちょこちょこと動かし、まっすぐ進ませる。ダッチ野郎の12.7ミリが火を噴く。コルセアは十二.七ミリ銃を六門も持つ。魚雷を抱えたら空飛ぶ駆逐艦だ。しかし。
「ふん!」
 機体を縦にして重力で降下する。再び木の葉落としだ。ところが。
「なぬ!」
 なんと彼奴も機体を縦にして降下して見せた。腹をみせない。奴の頭がこちらを向く。
 ぼぉぉぉぉぉ!!
 十二.七ミリが儂のヨンヨンを蜂の巣にしていく。しかし。
「儂の勝ちだ!」
 頭に破片でも食らったか。目の前が真っ赤である。しかし、腕は動く。指も動く。儂は最後のホ三〇一の弾、すべてをくれてやった。
「強かったよ、お前だけはな」
 爆発するコルセア。それを見届け、わしは姿勢を戻した。メリケン美女は沈黙していた。頑丈なメリケン製エンジンが、儂を守ってくれたようであった。燃料が漏れる。陸地は遠い。ゆっくり、ゆっくり、降下するヨンヨン。
「フカの餌か……、儂の最後にふさわしいかのう」
 そしてざぶんと、海に着水した。わしはようやく痛みが出だした体で風防を開け、翼の上にどっかと座る。ヨンヨンは穴だらけになっていた。飛行機は水面でしばらく浮いていられる設計にはなっているが、水没は時間の問題だろう。
「ヨンヨンは儂の棺桶にふさわしい……」
 海は青く、空は雲が出てきだした。もうすぐスコールだろう。母なる海に、帰る……、儂は棺桶たるヨンヨンの操縦席に戻ろうとして、異変に気が付いた。うん? 水面が盛り上がっていく。な?!
 気がついたら儂と儂のヨンヨンは潜水艦の上にいた。どういうことだ?
 潜水艦のハッチから人間が出てくる。この顔立ちは、白人……、いや、この顔はゲルマン系だ。まさかオランダ人?! 儂がとっさに拳銃を抜こうとしたら。
「ヤメロ! オレハミカタダ! ドイツジンダ!」

******

 種を明かせば、彼らはドイツ降伏後ドイツ本国に帰還せず日本軍についたドイツ海軍のUボートであった。日本からの戦闘行動終了と帰投命令を受け、ニューギニア沖を進んでいたらわしが打った『ワレ突入ス』を受信。何事かと総出で空を捜索してたら儂のヨンヨンを見かけたという。潜行してたのはわざわざ機体ごと儂らを拾うためにしてくれたというから感謝の言葉もない。
 儂は棺桶たるヨンヨンを海に捨て、潜水艦の客となった。潜水艦はスラバヤで停戦命令を改めて受託。本国への帰還命令は呉でしか出せないということなので、そのまま儂は潜水艦の客となって呉に向かった。どうせ呉は儂の里でもあった。
 一〇月には儂は呉につき、復員省の窓口に行き除隊命令を本国で受け取った。あいつら、案の定儂が死んだと思って報告していやがった。まぁ、軍隊手帳の本物持っていたから一発だったがな。儂はすぐ実家に帰った。もちろん、かかあには泣かれたさ。
 あいつらは当然戦犯扱いされなかったが、かわいそうにサンボアンガで重宝されていたらしい。英語ができる仲本に志村。調理ができる高木。奴らはサンボアンガの捕虜収容所で戦友たちの世話をしとったという。近所の復員した奴の中に仲本や志村に世話になったやつがいて話を聞いた。奴らにとって、儂は戦友を救うために散華した軍神という扱いらしい。くくくく。
 昭和二十一年も暮れ。奴らからハガキが来た。無事復員したので、命の恩人である儂の仏壇に焼香したいと言ってきた。そう言うことなら、儂もメリケンの言うところの『さぷらいず』とまいろう。ご丁寧に昼にお伺いすると書いてたので、儂は軍の礼服を着て、正座して奴らを待った。かかあにそばに立たせて、引き戸が叩かれたらかかあに返事させてやった。やつらが引き戸を開けると、英霊、軍神とのご対面というわけだ。果たして。
 がらがらがら。
 儂は正座のまま、片手をあげて言ってやった。
「おーっす」
「「「「「ひぃぃぃぃぃぃ!!!!!」」」」」
 幽霊でも見たかのような部下たち。あ、間違いなく奴らの中では幽霊だな。
「幽霊を見たような声を上げるな、おーっす!」
「お、おーっす……」
 奴らは涙を流しながら、膝をつく。儂らの戦争は、こうして終わりを告げた。

(了)

Mr.マスター(以下略

2023年08月13日 23時38分21秒 公開
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■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:おきらくごくらく架空戦記。
◆作者コメント:太平洋戦争ものだが、人が死にません。

2023年08月29日 07時05分22秒
作者レス
2023年08月29日 07時02分06秒
作者レス
2023年08月26日 23時23分27秒
+30点
2023年08月26日 23時05分43秒
+40点
2023年08月24日 20時49分09秒
+20点
2023年08月23日 21時18分56秒
+20点
Re: 2023年09月05日 10時38分17秒
2023年08月20日 21時21分28秒
+20点
Re: 2023年08月31日 18時19分15秒
2023年08月18日 00時36分21秒
+10点
Re: 2023年08月31日 12時27分06秒
2023年08月15日 21時22分27秒
+10点
Re: 2023年08月31日 12時19分33秒
合計 7人 150点

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