キャッチコピー集

Rev.01 枚数: 24 枚( 9,345 文字)

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※この投稿は集計対象外です。
 ミチル企画初の掌編企画に挑戦してくださった皆様、お疲れ様です!
 作品を投稿できた方も、惜しくも間に合わなかった方も、まずはご自身の労力を称えてください。

 いよいよ感想投稿期間となりました。
 感想投稿期間は5/2~5/14です。
 今回も力作ぞろいです!
 作品を投稿した方はもちろん、感想のみの参加も歓迎いたします。

 どの作品を読むのかヒントにしていただきたく、キャッチコピー集を投稿いたします。
 作者様たちが考え抜いたキャッチコピーの数々をお楽しみください。

--以下キャッチコピー集です--

◇タイトル:茜の中のアオの少女
◆キャッチコピー:幼馴染に誘われた高校の裏山で、僕は予想外の景色に心を奪われた

~書き出し~
 僕は知らなかった。
 登校中、毎日のように眺めていた裏山に。
 何もないと初めから諦めていた高校の裏山に。
 こんなにも美しい場所があったなんて。
「ほら、私の言った通りでしょ?」
 放課後、この場所を案内してくれた幼馴染の夕陽崎茜(ゆうひざき あかね)はそっと僕の手を握る。そんな彼女の勇気に鈍感になってしまうほど、僕は目の前の景色に心を奪われていた。
 林の中にひっそりとたたずむ溜池。
 土手によって溜められた二十五メートルプールくらいの水面が、キラキラと光る木漏れ日を浴びて見事な青色に輝いているのだ。


◇タイトル:蒼界のドラ
◆キャッチコピー:血まみれ(やばん)な世界を清浄に

~書き出し~
※過激

 乃火(のび)ノンは男子中学生である。
 小柄で色白、肉付きも悪く、声に男っぽさもない。
 そのせいで「まるで女みたいだ」とからかわれることもあった。
 それが止まったのは皮肉にも嶽石(たけいし)ゴウに目を付けられたせいだ。
 嶽石はガキ大将を卒業できないまま歳を重ねた不良学生である。座学の成績は悪いが身体が大きく、中学二年にして180cmを超えている。身体能力が抜群に高いがスポーツに興じる性格ではなく、その能力は粗暴な行為にばかり発揮されていた。
 悪ふざけの延長だったふたり乃火と嶽石の交流は徐々に悪質さが増し、やがて周囲が距離を置くほどのイジメへと発展した。


◇タイトル:完全なる密室殺人
◆キャッチコピー:ラスト数行でひっくり返るどんでん返し。

~書き出し~
「この部屋には、『何か』がありますね」
 そう口にしたのは、スキンヘッドの青二才だ。俺より十歳は若いだろうに、人生の何もかもを知り尽くしたような涼しい顔をしている。ミステリー小説の私立探偵みたいに、酷く気障りな野郎だった。
「『何か』って。この部屋はみんなで散々調べたんですよ? 警察も『部屋には何の仕掛けもない』と言ってました」
 反論したのは宮永という男だ。こいつは被害者の担当編集者。被害者である浦波航太の執筆に必要な資料を、午後一番でこのマンションまで届けに来たのだという。浦波が住む1LDKの玄関ドアを合鍵で開け、中に入ると、パソコンデスクの前で事切れた売れっ子作家様を発見したというわけだ。
「一体、誰がこんなことを……」
 宮永は途方に暮れた顔で呟く。犯人に心当たりは無いようだが、俺は誰が浦波を殺したのか知っている。


◇タイトル:暗闇よりも暗い青
◆キャッチコピー:変わってしまう。終わってしまう。

~書き出し~
 砂埃を被った細い道路の両脇で、黄金色の田畑が土のにおいを漂わせている。張り巡らされた水路は太陽の光を跳ね返し眩しく輝いていて、流れと共に涼し気な音を立て続けていた。四方八方を深緑の山々が取り囲む景色は、道路をどこまで歩こうと何の変化もない。
 ウチは山奥の田舎に住んどった。
 学校は村に一個、小中一貫のがあるだけで、生徒は全部で五十人もおらん。一学年に付き、人数は四人とか、五人とか。三学年くらいが一つの教室に纏まって、主に自習形式で勉強をしとる。
 ウチは中学一年生なんやけど、同学年に他に一人も女子がおらんのが不満やった。
 そりゃ、他学年に女子の友達も何人かおる。男子と混ざって遊ぶんも、それなりには楽しい。
 でも、ウチの村は長幼の序には特に厳しくて、歳が違うとお互いに気を遣う場面は多い。男尊女卑の考え方も、都会と比べると少しだけ残っていたから、男子との間にも壁があった。
 やからウチには、完璧に対等な親友みたいな存在が一人もおらんくて、そのことをとても寂しく感じていた。


◇タイトル:蒼天の十字架
◆キャッチコピー:何もかもが絶望的な空を、私は今日も飛ぶ

~書き出し~
 高度一万mの世界は限りなく蒼く、澄み切っていた。
 外気温はマイナス四十度。強い偏西風が容赦無く機体を叩き、少しでも油断するとたちまち下界に追い返される。
 まるで、ここはお前などが居て良い場所では無いのだと言わんばかりに。
 それはどこまでも荘厳で、どこまでも澄明で、そしてどこまでも苛烈。とても人知の及ばない、神の領域に思えた。
 しかし、現実はそんな所まで我々人間は戦いの場としている。

 もしも欧米人達が云う様に「天に召します我らが神」というものが存在するのならば、彼は遥かな天空の高みから、我々人間の愚行をどのような想いで見ているのだろう?

 何度見ても決して見飽きる事の無い蒼空を眺めながら、つい柄にも無い事を考えてしまった。
 雑念を追い払う為に今一度、計器を確認する。大丈夫。どこにも異常は見当たらない。私は本来の職務を思い出し、機体を入念に確認した。


◇タイトル:青空病
◆キャッチコピー:何が狂っているのかなんて、本当は誰にも分からない。

~書き出し~
 十九世紀の哲学者ジョン・カービー曰く、空は鮮やかな透き通るような青色で、そこには白い綿のような物体が常に漂っているのだという。
 信じられない話だ。
 我々一般人には濁った乳白色にしか見えていない『空』が、カービーにはそんな風に見えているらしかった。そしてカービーはそれこそが本当の空の姿であり、そうは見えない者の方が間違っていると、そう主張した。
 何が正しいのか、何が狂っているのかなんて、誰にも分からない。
 自分には空は青色にしか見えないのだから、自分にとっておかしいのはそう見えない他者の方で、自分ではない。カービーはそう考えたのだ。
 カービーは本心から空が青色に見えているようだった。どうしてそう見えてしまうのか。目がおかしいのか頭がおかしいのか。当時の心理学者達はカービーの症例を、『青空病』と呼んでいたそうだ。


◇タイトル:理論上、ミチル企画で高得点を取る方法
◆キャッチコピー:ミチル企画で学ぶマーケティング基礎

~書き出し~
 俺の名前は佐々木春樹(ささきはるき)。高校二年生。
 趣味は読書とソシャゲ、そして執筆活動。
 そんなどこにでもいそうな男子高校生である俺には悩みがある。それは――おもしろい小説を書けないことである!



「またダメだったか……」
 俺はスマホの画面を見ながら一人つぶやく。
 合計70点。平均点10点。感想人数7人。順位――23人中21位。小説競作企画『ミチル企画』での結果だ。
 執筆のおもしろさに目覚めて1年。今回投稿した作品は今までで一番の傑作だったと思う。それなのにこの体たらく……。
 正直に言うと、ここまで結果が出ないと、小説を書くのが怖くなってくる。自分は小説を書いても意味がないのではないかと思い始めるほどに。


◇タイトル:告白くらいさせてくれ
◆キャッチコピー:生きている者同士で、好きになれるのなら。

~書き出し~
 虚ろな目をした女の子が、膝を抱えてうずくまっている。
 女の子といってももう大学生だ。大学二年生、あと数ヶ月でお酒が飲めるようになる。

 彼女の名前は鳴海みなも。大学入学と同時に実家を出て一人暮らしをしている。ゆえに、こうして落ち込んでいても慰めてくれる同居人はいない。

 ぴこん、と床に投げ出したスマートフォンが通知音を発した。
 メッセージ受信の合図だ。相手が誰かは大体見当がつく。みなもは無視することにした。電気を消してカーテンも閉め切った部屋は、まだ昼下がりだというのに薄暗い。一人孤独に落ち込むのにはぴったりだ。

 それでも。

 ぴこん、ぴこんと、メッセージ通知はその後も数回続いた。さすがにここまでくると放置するのも気分が悪い。


◇タイトル:くらいシアンとあかるいナデシコ
◆キャッチコピー:変わり者の女子高生+1の日常

~書き出し~
† 01 †

「ねぇシアン、“青春”ってどうかな?」
 コンロの前でフライパンを振る私に、そうナデシコがたずねた。
 私は「なんの話?」と振り返る。

 瑞々しさが色濃い制服のナデシコは高校生。
 和風な名前に反した淡い茶髪の女子である。名前に準じているのは頬と唇の色くらいだ。

「実はね、あたし小説を書こうかなって思ってるんよ」
 そう言って手にしたスマホを操作し、古めかしいタイプの掲示板サイトを私に見せてくれた。
 そこではアマチュア作家たちが切磋琢磨するコンテストが、定期的に開催されているという。そのお題が“青”ということらしい。

「それで“青春”に関する話を執筆しようっていうのね」


◇タイトル:【朗報】三浦大樹の死を祝う会【通り魔殺人】
◆キャッチコピー:企画史上最悪の掌編。

~書き出し~
 注意、エロ・グロ・不謹慎な描写を含みます。

「乾杯!」
 その合図とともに、三つの缶コーラが打ち合わされる。
 瑞々しい音の余韻が、散らかった六畳間に響き渡った。俺達はプルタブを引いて、買ったばかりの冷えたコーラをそれぞれに嚥下した。
「いやぁ。大嫌いな三浦が死んでくれて、ワイ、ホンマせいせいしたわ(笑)」
 黄ばんだ歯をむき出しにする大柄な男は、俺の友人である青浜達也だ。あだ名は『ワイ』だ。
「三浦の奴にはワイも難儀しとったからな。合唱コンクールの時とか、放課後の練習に参加せんと帰ろうとしただけで、膝にローキック食らって痣が出来たし」
「通り魔様々でござるな(笑) 拙者も天竺に来たような気分でござる」
 下卑た笑いを浮かべるのは、自宅の提供者でもある尾崎敦、あだ名は『拙者』だった。
「拙者も奴のことは忌々しく感じていたでござる。一度など、拙者の忍法帳(妄想ノート)が奴に盗まれて、皆の前で散々さらし者にされて苦痛な思いをしたでござったからな」


◇タイトル:鬼娘ちゃんは夜伽がしたい
◆キャッチコピー:むかし、むかし。あるところに種族を超えた純愛物語があったとさ。

~書き出し~
〔序〕

 むかし、むかし。
 ヤマトの群(くに)の、あるところにヒト衆とオニ衆が共に暮らす海近い里があった。
 ヒト衆は、身の丈・五尺(約一五〇センチ)。薄橙の肌で身体は脆弱。しかしながら優れた知恵と手先の器用さで豊かな暮らしを手に入れていた。
 オニ衆は、惨鬼(ザンキ)と獄鬼(ギョクキ)の二種族あり。
 惨鬼は身の丈・八尺(二四〇センチ)。青い肌で、屈強な肉体を持ち怪力。しかしながら愚鈍で温和な性格なため、雄体はヒト衆の下働き人足、雌体は下女や遊女をして暮らしていた。
 そして、ヒト衆と惨鬼が共に恐るるは、獄鬼。
 獄鬼は身の丈・四尺五寸(百三十五センチ)。赤銅色の肌で小柄。猿のように機敏に野山を駆け、ヒト衆には劣るものの賢く夜目が利いた。
 しかしながら、残忍で狡猾。
 ヒト衆や惨鬼を襲い、喰らった。


◇タイトル:とある転生者の望み
◆キャッチコピー:私が、何よりも望んだものは。

~書き出し~
「また例の勇者様が来ているぞ」
 羊の放牧が終わり、家へ帰っている途中、そう言ってきたのは警備の兵隊だった。
 まあ、声をかけられる前にそう言われるのは察していたけど。
 道の向かい側から歩いてくる兵隊の姿を認めたときには、その顔に、にやにや笑いが貼り付いているのが見えたからだ。勇者様の訪問が始まってからこっち、この兵隊は彼が来る度にこうして私をからかってくるのだ。
 いい加減、応じるのも面倒なので顔を背けてそのまま横を通り過ぎようとしたものの、兵隊はわざわざきびすを返して私の横をついてくる。
「本当にあれが救世の勇者様なのか?」
「あたしに聞かないでよ」
「お前とあいつはいい仲なんだろ?」
「違う、向こうが勝手に通ってるだけ」
「わざわざこんな田舎に?」
「あたしにも訳が分かんないんだって」
「確かに、お前さんは美人だけどわざわざ片田舎に来て口説くほどのもんじゃないからな」


◇タイトル:えびふりゃー・ごーすと
◆キャッチコピー:哲学と幽霊とえびふりゃー

~書き出し~
1 限りなく透明に近い人

「今日は幽霊について考えたいと思うの」
 と、いつものように。
 果てなく広がる空に最も近いその場所で――要するに学校の屋上で――昼食を囲んでいたぼくたちは、鳴花の宣言に箸を止めた。
 ぼくは抗議の声を上げる。
「……昼くらいは静かに食べさせてよ」
「ほうでふよ、部長。お昼は大事でふよ」
 続いて、後輩の佐奈ちゃんがソースで汚れた口元で同意してくれる。今日のお弁当は特大のエビフライみたいだ。えびふりゃー。
 それを「ごくん」と尻尾まで飲み込んで、佐奈ちゃんは不満そうに続ける。
「幽霊なんて、そんな」
「何よ佐奈。文句でもあるの?」
「だって怖いじゃないですか。食欲なくなっちゃいます」
 そうなのだ。佐奈ちゃんは「食べる」ということに対して並々ならぬ拘りを持っているのだ。


◇タイトル:熱血中華料理人は高級ブランド野菜の夢を見るか
◆キャッチコピー:料理の楽しみは味だけじゃ無いんだぜ

~書き出し~
「旬君おねがい! 助けて!」

 閉店間際に突如現れたのは、幼馴染で常連の玲子さんだった。
「どしたの玲子さん。お酒切れたの? 震えるの? 生ビール飲む?」
「飲むけど私アル中じゃないから! ていうか聞いて!」
 何やら様子のおかしい玲子さん。普段はクールで素面の時はとっても素敵なお姉さんなのだけれど、今日はまだ酒も飲んでいないのに得体の知れない謎テンション。一体何があったのだろう。

「ぷはぁ~っ。ふう、少し落ち着いた。あ、餃子と回鍋肉お願いね」
 生中のジョッキをドンと置いて、玲子さんはようやくまともに話のできそうな状態になった。
「で? 結局なんなの? さっき『助けて』って言ってたけど」
「あ、うん。それがね……実は、うちの店で南郷菜園の野菜を取り扱うチャンスが来たんだけれど」
 二杯目の生中に手を伸ばしながら、玲子さんが言う。


◇タイトル:青い手を壊したのは誰かにゃあ
◆キャッチコピー:真実に気付くのは誰かにゃあ?

~書き出し~
※このお話は架空の高校を舞台にしたユルい感じのミステリーです。


【登場する人】
馬場幸子……美術部部長。3年生
赤鳥 恋……美術部員。2年生
青木ヶ原美兎……美術部員。2年生
犬飼 鳴……美術部員。1年生
猫村ひなた……謎解き系VTuber志望。2年生
白子魚太郎……天然。2年生

【超絶大ヒント】
犯人はこの中にいるよ。





 春は何かにつけて眠くなる。今日はぽかぽか陽気に恵まれていたから、昼休みになると無性に学校の中庭が恋しくなった。
 青々とした芝生に寝転がり、しばし目を瞑ればあら不思議。あっという間に放課後へとワープしていた。何でいつも時間を飛び越えてしまうんだろう。もしかして中庭はミステリースポットなんだろうか?


◇タイトル:地下帝国のブルー・フィルム
◆キャッチコピー:この日、『骸骨の地下帝国』では、真紅の衣をまとった皇帝が、映画を上映する企画の開催を宣言していた

~書き出し~
ブルー・フィルム:性行為を写した、昔のわいせつな映画。(三省堂国語辞典 第八版)

 東欧の冬は寒さが厳しい。大地は凍てついて、クワやスキはおろか、ツルハシですら穴をうがつことが困難になる。だから、冬に命を落とした者を埋葬するには春を待つ必要があった。
 冬のあいだ、死者は布で厚くくるまれて教会の礼拝所に安置される。敬虔な祈りを神にささげている姿のまま、長い冬がすぎさって春がくるまでの数カ月をすごすことになる。厳しい冬の冷気にさらされて、死者は文字どおり骨の髄まで凍りつく。遺骸の肉は、けっして腐ることなく、春をむかえる。
 春になれば、死者は無事に墓場に安置されて永遠の安らぎを得ることができる。葬ってくれる者たちが厳しい冬をのりこえて生き残っていてくれれば、ではあるが……
 滅びた村の古い教会の奥に、ひときわ立派な石棺が安置されていた。石棺の底板は外すことができた。石棺の中には岩を掘り抜いて作られた階段があり、はるか大地の底へと続いていた。


◇タイトル:青の水鹿(あおのすいろく)
◆キャッチコピー:う~、サンバ!

~書き出し~
 辰岡農協前駐車場では、走り屋たちがたむろしていた。そこに入ってくる二台の車。今日のメインイベントの主役たちであった。
 一台、後ろから入ってきたのはポルシェ・911。それの2017年に発表されたモデル、通称992であった。エンジン音からノンターボの最安価グレード『カレラS』であることがわかるが、それでも350馬力もの大出力は1.5トンもの重量の車を一気に時速300キロの世界にいざなう。
 問題は先に入ってきた車であった。スバル・サンバー。軽トラックである。ただし自動車マニアならばあまりにも有名な車である。
 2022年現在販売されているダイハツ・ハイゼットのOEM品などをマニアはサンバーと呼んだりはしない。2011年に製造終了した、スバルこと富士重工業が自ら製造していたもののみをサンバーと呼ぶ。奇しくもポルシェ911と同じくリアエンジンリアドライブ。高性能モデルはスーパーチャージャーで武装し四輪ストラット独立サスペンションというスポーツカー真っ青の足回りを備え、峠の下りならば絶対に相手にするなと言わしめた峠の暗殺者である。


◇タイトル:攻撃は最大の防御
◆キャッチコピー:結婚25年目の夫婦は、少し退屈

~書き出し~
『好きだったら探して。29371710572940303710。10時までに来なかったら離婚します。』

 朝。久しぶりの休日。目が覚めたら。妻が我が家から姿を消していた。俺のスマホのいわゆる『緑色のSNS』にメッセージを残して。

 幸い朝ごはんだけは作ってくれていた。
「いただきます」
 と両手で拝んで納豆とみそ汁、でっかい焼き鮭、小さなサラダを胃に流し込む。テレビでやってるのは『変な経営者がわが社自慢をして月曜日にそれをがっちりまねましょう』って番組。
「いつもなら、あいつと突っ込みながら笑って観てたのになぁ……」
 確かに、最近忙しかった。この番組も昼過ぎに起きてから録画したものを見ていた。あんなメッセージを残すのも無理なかった。なにせ、先月長期出張で銀婚式(※結婚25周年)をブッチしたのである。しかも俺はこの日を完全に忘れていたのである。出張先、電話口で泣いていた妻を俺は一生忘れない。だから、今日、俺はせめてあいつと仲直りしようと準備をしていたのだ。しかし、計画はもろくも崩れ去ってしまった。


◇タイトル:「海のばかやろー!」って叫ばれても西条海は怒れない
◆キャッチコピー:海のばかやろー!

~書き出し~
 温かな春の日を表す言葉に「うららか」ってのがあるけれど、ここ幾日かの陽気はまさに「うららか」って表現がぴったりだった。
 そんな陽気が続けば、この小さな海辺の町にも桜の便りが届くわけで、花が咲けばおとな連中は桜の木の下で飲めや歌えのどんちゃん騒ぎを真っ先に思い浮かべるのだろうけど、子どもにとってみれば騒々しい花見よりも、卒業式とか、入学式とか、そっちの方に情緒を感じるところである。もっとも、俺、西条海(さいじょう うみ)的には、湿っぽい卒業式よりも、入学式の方がスタートラインに立ったって感じがして好きなわけで、桜舞い散る中、緊張しながら入学式に臨む新入生とか、その新入生を迎えるこれまたちょっと緊張した在校生とかに、好感を持つのだった。
 折りしも今日はこの町に一校しかない中学校の入学式。
 わくどきが止まらない新入生たちが眠い目をこすりながらベッドから起き上がる頃合いのAM6時半。けたたましい勢いで、はす向かいの瀬戸内(せとうち)さんちの玄関がガラリと開いた。


◇タイトル:天翔けるカドリガの円光
◆キャッチコピー:タリバンに破壊された大仏を、玄奘三蔵法師は見ていた

~書き出し~
 玄奘三蔵法師は、仏典を求めて唐から天竺へと旅をする途中、バーミヤン国に立ち寄った。高い山脈地帯の中にある、東西に細長い盆地で、大規模な石窟寺院群があることで評判だ。

 シール・バーミヤンと名乗る王の住まう羅爛城に招待された玄奘は、通訳の摩訶僧祇部の学僧二名を交えて王と謁見した。

 広間で開催された歓待の宴で哀愁を帯びた管弦楽の旋律が流れる中、使者が駆け込んできた。

「例の画工のナルシエフが脱走しました」

 玄奘法師には、この地方の言葉は不十分にしか理解できないが、王にとって何か不測の事態が起きたことは、通訳を介さなくても推測できる。

「よりによって大事なおもてなしの最中に」

 王は不機嫌さを隠さず、右手に持った権威を象徴する槍を振り上げた。身に纏った筒袖の遊牧民風の衣装とマントが揺れる。


◇タイトル:トカゲの尻尾と蛇の抜け殻
◆キャッチコピー:ロマンティック転職

~書き出し~
 机の私物をまとめると、段ボール箱に無造作に放り込む。
 七年勤めた職場だというのに、この程度しか荷物がないのかと考えると物悲しい。
「……」
「なんてツラしてんだよ、お前。せっかく可愛いのに台無しだぞ?」
 二年間面倒を見た部下が、深い隈の出来た目でこちらをじっと見つめている。
「……セクハラですよ」
「今日で辞める人間にそんな脅しは通用しない」
 彼女は今にも泣きそうに俯く。
 俺は引継用の顧客リストを目の前にある部下の頭に軽く押しつける。
「……ほれ。めんどくさい客には注釈も付けておいたから。頑張れよ」
「ううう……!」
 俺は軽くため息をつく。
「言ったろ? もう決まったことだ。まぁ、多少不本意ではあるが」
「なら……! だって、こんなのおかしいですよ!」
「……声がでけぇよ」
「だって、こんなのまるで……!」


◇タイトル:このすっばらしい青魔法の効果の恩恵を♪
◆キャッチコピー:めちゃつよ青魔法を習得するぜ!

~書き出し~
●下品言うな!


 青魔法とは、魔物特有の技もしくは種族的能力を擬似的に再現する特殊魔法である。
 条件さえそろえば、大地を焼く長命竜の息吹すら再現可能でその攻撃力は最強。
 さらには魔物の種類だけ魔法があるとされるので、あらゆる場面に対処でき万能でもある。
 故に青魔法を習得する青魔法使いこそが究極の冒険者となりえるのだ。少なくとも俺はそう考える。
 だが問題がなくもない。
 青魔法の習得にはいくつかの条件がある。
 そのひとつにして最大の問題点が、『習得する魔法を我が身で受けなければならない』というものだ。
 つまり強い青魔法ほど習得が難しく、人間の身体で耐えられるものは一撃必殺とはなりえない。
 さらに低すぎる習得率を補うため、対象の魔物を食ったり、その生態を観察したりと面倒な準備も多い。
 そしてそれ故に、俺――アオーバは窮地に追い詰められていた……。
GW企画運営

3022年05月02日 00時05分25秒 公開
■この作品の著作権は GW企画運営 さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:キャッチコピー集です!
◆作者コメント:運営より。抜けている部分があるなど不備があれば感想をくださると幸いです。

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