殺人サンタクロース

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 ※グロ注意


「やあ、君たち」
 保育園の園児たちは、みな行儀よく床へ座り、並んだ状態でワクワクしながら、前に立つサンタさんへたくさんの輝く視線を送った。
 サンタさんは人々へ与える存在だ。だがきっと、まったくの無報酬というわけでもなく。
 彼らは多分、受け取っている。そう、子どもたちからの笑顔、そして感謝といった精神的あれこれを。
 しかしそれは、良いサンタさんの場合に限ってのことかもしれない。そうでない場合は、どうかな。

 ○

(ねえ、どっちだと思う?)
 正面に座っていた健太くんが振り向いて小声でそう話しかけてきた時、藍子ちゃんは一瞬、無視しようかと思った。
 サンタさんが前にいるので、良い子として振舞いたいのだ。
 というか、こういう時にひそひそ話をしたがる健太くんの思考は、理解し難かった。
 しかしそれでも、無視をされれば健太くんは、嫌な思いをするだろう。
 ああ、サンタさん、ごめんなさいね。でも悪い子なのはあたしじゃなく、話しかけてきた健太くんなので、そこんとこ、よろしく。
 藍子ちゃんは短く応じた。
(良い方に決まってる)
(なんで、そうわかるの?)
(確率の問題。良い方じゃないサンタさんが、今日偶々、世界中のほかのどこでもない、このあたしたちの目の前に現れる確率って、どのくらいだと思う?)
(ごめんかくりつって何?)
(ふん、馬鹿めが)
(えー)
 藍子ちゃんは女の子なのに、健太くんに対して平気で『馬鹿』という言葉を用いた。一方で健太くんは健太くんで、藍子ちゃんにそんな風に言われて、いつも腹を立てなかった。
 ちなみに二人は今周りにいるほかの園児たちと比べて図抜けて賢い。生まれつき知能の高い個体だった。
「はい、みんな静かにね。サンタさんが、お話するからね」
 せんせいがパンパンと手を叩いて鳴らす。藍子ちゃんはその行為に対してムッとするが、すぐに怒りを収めた。サンタさんがいるので。
「皆さんが静かになるまで、三十秒ぐらいかかりました」
 白い髭に赤い衣装。祖国ではフォーマルに位置するに違いないユニフォームに身を包んだサンタさんは柔和にそう微笑んだ後、白い大きな袋からおもむろに取り出してみせた拳銃によってせんせいのことを撃ち殺した。いのちではなくなるせんせい。
「彼女は二十一年かかりました。短いようで長い。それが二十一年という年月なんですね」
「まさかおまえ!」
 同じ組の拓也くんが立ち上がって、サンタさんのことを指差した。サンタさんは、あくまで微笑む。
「はい?」
 その体の線は最初モゴモゴと蠢いたかに見えた。しかしやがて明確に巨大化し始め、衣服を破り捨てる。最終的には、体長五メートル、筋肉だらけで凶暴な体つき、自在に動くらしい蛸の脚じみた器官が肩部から八本(以下、触腕)。音をたてながら忙しく呼吸を繰り返す口が、体中に数えきれないほど。それが、このサンタさんのスペックだった。
「殺人サンタクロースですが、なにか?」
「おれたちをっ」
 拓也くんが宙に浮いた。藍子ちゃんが気付いた時には、触腕の先端が鋭く尖った一本が、拓也くんの急所を刺し抜いていた。
 感知することのできない速度だった。避けるのは無理だろう。
 拓也くんのことをたぐり寄せたサンタさんは、その胸部とみられる箇所にあるひと際大きな口でボリボリ音をたてて食べた。血を床へこぼしまくる音。
「ひとを指差してはいけません。たとえ相手が、殺人サンタであってもね」
 正論だと藍子ちゃんは感じた。礼儀は礼儀であり、相手を選ぶものではない。
「さて、それじゃあ始めるよ」
 殺人サンタさんは、並んでいる園児たちの一番前の子に、紙の束を渡していった。
「一枚取って、後ろの子へ回してね」
 藍子ちゃんはすぐにピンと来た。
 全ての園児がその作業を行えば、サンタさんが一枚ずつ全員に紙を配るよりも、かかる時間を短縮することができるのだ。
 サンタさんの賢さに感心する。
 ふと藍子ちゃんに紙を差し出した健太くんの手が、震えているのを感じ取った。
 こいつ、ビビりだもんなあ。

 ○

「天に星、地に花、人に愛」
 サンタさんはそれぞれ異なる声色である体中の口を活用し、リレーするように言葉を発した。精神が著しく不安定にさせられ、発狂しそうになった。
「どれか一つを選んで、真心のこもった作文を書いてください。いいですね?」
 真心を込める、とは、一体どういうことを指すのか?
 藍子ちゃんはその曖昧な言葉に対し不満を覚えたが、あくまで心の中で非難するに留めた。
 あのサンタさんが、何に対してどのように反応するのかは、まったくの未知数なのだから。
 大丈夫。きっと指示に従っていれば問題ない。……はず。
「健太くん」
 藍子ちゃんはこっそり話しかけた。周りの園児たちの緊張が高まるのを感じた。
「あたしは『人に愛』が書きやすそうだなって思ったんだけど、どうかな? てか、ほか意味がわからんし」
「え、あ」
 発声につまづく健太くん。
 ビビっている彼へ、あくまで気を利かせて話しかけてやったつもりの藍子ちゃんは、いくらかイラついた。はっきり喋って、こっちあんま耳良くないから。
「ぼく、も……それが良いと思う」
「そう? じゃあとりあえず、テーマとしての『人に愛』についてディベートしよう。いい?」
「う、うん」
 健太くんと向かい合って話をし始めようと思ったのと、三人の園児が示し合わせたように前へ出て、サンタさんに向けて声を揃えたのは同時だった。
 彼らは唱和した。
「ぼくたちは、わるい子でした!」
「わるい子でした!」
「はんせいしています!」
「はんせいしています!」
「ぼくたちがしぬと、かなしむひとがいます!」
「います!」
「サンタさん、どうかやめてください! おねがいします!」
「おねがいします!」
 紙を見ながらそう読み上げた後、三人は地面へ蹲るような姿勢をとる。
 直後、サンタさんの触腕が三人のからだをお団子状に繋げた。
 触腕は三人を軽々と持ち上げた。そうして続けざまに咀嚼する。
「俺はここへ仕事で来たんであって、遊びで来たんじゃないんだ。そういうことはスキモノのガキ相手にでもやってもらおうか」
 言ったことの意味はよくわからないが、どうやらサンタさんは怒ったらしかった。
 サンタさんが何に対して怒るのかというのは、重要な情報だろう。三人が与えてくれたもの、きっと無駄にはしない。

 ○

「藍子ちゃんの言うこと、納得できないよ」
 健太くんが異議を述べたので、藍子ちゃんは舌打ちした。
「なんでだよ、ふざけんな」
 紙が配られた時から、二時間が経過しようとしていた。
 この場所にいる園児たちの人数は、半数以下に減っていた。
 死体の主だった部分はサンタさんが食べたものの、彼の舌に合わないらしい部位が、いくつも室内で散乱する有様となっている。さらにサンタさんは、最初に殺したせんせいの死体は食わずに放置していた。その所為でそこからかなり気持ちが悪くなる臭いが生じている。
「納得できないのは、健太くんが馬鹿だからでしょう? このことについてはあたしが正しいとした上で、次の議論へ進むのが、建設的なやり方だと思うけど」
「僕はそれを正しいことだと思えない。譲っても良いとも感じないな」
 藍子ちゃんはイライラするあまり、飛び跳ねて床をドンと鳴らした。
 感じるとか、感じないとか。うざい。りろんてきに話してよ。
 ……はあ。深呼吸。
 感情の向こうには、相手の主張があるはず。それを言語化できない未熟な相手からも、きちんと意見を拾えるように努めるのが、淑女というものだ。
「じゃあこの点も、ちゃんと話し合いましょう。あたしたち一人一人だけが作文を書いても、大したものはできないから。二人で納得いくように、一緒に前へ進んで、完全なる作文を書き上げないと、ダメだと思うから」
「それが基本方針で良いと僕も思う」
「じゃあもう一度言うよ。『人に愛』は『愛に人』と同じに扱える。置き換えてもいい」
「それは違うと僕は思う」
 二人の話し合いが続く中、サンタさんはただただ待った。
 作文を提出してきた園児のことを、彼は尽く、殺して食べた。
 また、発狂しておしっこやうんちをまき散らすしか出来なくなった園児に対しても、そうした。
 見る限りサンタさんの行動方針は、つくづく、殺人に傾いているとしか言いようがない。傾き過ぎて垂直にすら見える。
 だが、どんな可能性だってある。
 藍子ちゃんは、あくまで作文にすべてを賭けるつもりでいた。サンタさんの言う通りにすることこそが、間違いなく、一番いいはずなのだから。



「きみたち、まだかね?」
 白い大きな袋から『山川純一作品集』を取り出してずっと読んでいたサンタさんが、全身の口であくびと見られることをおこなった後、そう尋ねた。
 誰に尋ねたかといえば、今この場所に存在するたった二人の園児をおいてほかにはあり得ないだろう。
(うぜえ)
 藍子ちゃんの小声はサンタさんにも届いた。
 愚痴だった。
 作文を進めることと同時に、ルールを逸脱する道を模索するのも、意識の二割ほどの中でおこなわないでもなかった。しかし、確実と思える方法はない。
 たとえば、もしもサンタさんに対してほかの園児がしたことを、藍子ちゃんが同じとみられるように再現したとしても、同じ結果になるとは限らないだろう。
 しかし作文についても、現在の進捗から先は適当にでっちあげて、もう提出してしまおう、という気持ちが生まれつつあった。
 本来、A4紙一枚に収まる作文如きに、昼間から日が沈み切るまでの時間をかけるような無能では、藍子ちゃんはない。
 ではなにかと言うと、健太が邪魔をしているのだ。
 彼がいちいち、なにかと突っかかってきて、時間と労力を空費させてくる。
 それも最初は、拘るポイントが異なるだけなのだと思っていた。藍子ちゃんが論破されて折れた話題も確かにある。しかし、それを差し引いてもおかしかった。
 まったく自明に思われることや、前提としなければ話が進まないことに対してまでも、健太くんは突っかかってきた。
 しかも、最初はそんなことをしていなかったように思う。
 そして、そうした一つ一つに対して、藍子ちゃんはあくまで淑女的に応対した。KDDIのコールセンターで勤務する達観した人のように。きちんとした話し合い、譲歩、合意。完全なる手続きをまるで完全なる雪原に対しておこなうかのように丁寧に踏み締め、亀よりも遅い速度でプロセスを進捗させてきた。
 だがそうした中での現実問題として、時間が経てば食べ物が欲しくなり、思考が疲れを覚え、押し殺す眠気の必要量が増え、普段ならからだを洗う時間帯にまで(ストレスを感じながら)ひとと作業をしていると、必要以上に汗ばんだからだがとにかく鬱陶しく感じ、要するに総合的にイライラさせられた。
 健太に対してブチギレたいという欲求が抗しがたいものとなってくる。
「サンタさん、帰りたいってさ」
「……知らないよ」
 そう健太くんは震え声、なおかつ半泣きで応えた。
「もうよくない?」
「なにが? よくないよ」
「おまえに付き合うの疲れた」
「いやなの?」
 健太くんの体液はいまや目元に留まっていなかった。全泣き。
 藍子ちゃんは構わなかった。最初からこいつは。
「終わりにする」
「おねがいだから」
「藍子、健太パートナーシップ協定は、これを持ちまして終結と致します。みなさま、お疲れ様でした。今後の進捗をお祈り申し上げます」
「終わりでいい。でももうちょっとだけ、お話が、したい」
「要は、死にたくないだけなんだろ、おまえ?」
「……うん」
「……ずっといい加減に、話を引き延ばしてたか」
「うん」
 そう健太くんが白状した時、藍子ちゃんはいよいよ自分がキレることに確信を持った。
 しかし実際に彼女が得たのは、一つの気付きと。
 同時にまたそのことによって得た、一つの感情だった。
 感情は、おそらく健太くんが感じているものと同じで。
 恐怖だった。
 死ぬ、ということ。
 自分は、今から死ぬ。
 死んでしまう。
 ゲームではない。
 失われたいのちは、戻らない。
 わかっている。わかっていたことだ。
 ちきしょう。最初からわかっていたことじゃないか。
「なるほど、わかった」
 藍子ちゃんは声の震えを押し殺しながら、それでもはっきりと声にした。
「でも、そんなことには、付き合えないな」
「どうして」
「これが今はあたしの仕事だから。終わらせないうちは遊べない」
「そんな」
 泣き虫野郎。
「あたしは仕事でしているんであって、遊んでいるんじゃないんだ。そういうことはスキモノのガキ相手にでも言ってもらおうか」
 そう言い捨てたきり、藍子ちゃんは健太くんと話すのをやめた。
 健太くんは絶えず、鼻をすする音や嗚咽、そして鉛筆でかろうじて紙を引っかく音などを寄越した。
 健太くんは藍子ちゃんと比べ不器用で、書く行為も苦手だった。それでもなお泣きながら書いている音は、藍子ちゃんを、つくづく揺さぶった。
 サンタさんが座って落ち着いていずに、立ってうろうろするようになった。
 退屈しているのかもしれない。
 まずい、まずい、まずい。
 時間が、迫っているのかもしれない。
「できた!」
 藍子ちゃんが叫んだ。
 嘘だった。
 叫ばずにはいられなかったのだ。
「できたのなら、見せなさい」
 サンタさんはイライラした声で言った。
「やっぱり、もう少しだけ手直しする。……五分。五分したら、終わる」
「できていないんだね。嘘つきは、悪いことだ」
 正論だ、と藍子ちゃんは感じた。
 ゴキ、ボリボリ、と、今日何度も聞き流した音がして、藍子ちゃんの心臓が揺れた。
 ゆっくりと顔をあげると、サンタさんが、せんせいの死体を食べていた。
「はやくしなさい」

 ○

 藍子ちゃんの作文は、完成しなかった。
 さも賢そうに、偉ぶって振舞ってきた藍子ちゃんの作文は、完成しなかった。
 それは、自らの能力を過大評価していた所為なのか、それとも、死への恐怖を伝染させられた所為なのか。藍子ちゃんの作文は完成しなかった。
 その所為で、彼女は保育園に取り残された。
 健太くんと二人で。
「おまえの所為だぞ!」
 藍子ちゃんは食って掛かった。
 保育園を包む不規則な暗闇は、人工的な電気によって美しくまぎれている。
「せっかくサンタさんが来てくれたのに……何やってんだ」
「ごめん。藍子ちゃんが作文を完成させられなかったことについて、僕には責任がある。わざとやったことが、いくつもある。それについては謝る」
「おまえに謝られたって、あああっ!」
 現実的な恐怖が藍子ちゃんのからだを包み込んだ。
「ごめん」
 先ほどまでと打って変わって、健太くんは恐れを抱いていなかった。彼にはもう、恐れるものは何もなかった。

「判断が遅い」
 読んでいた『鬼滅の刃』を白い袋へ戻したサンタさんはそう言うや突然時速300kmになり、広い窓を突き抜けてこの場をいなくなった。
 その一瞬、藍子ちゃんの思考は停止した。
 何が起きたのかがわからなかった。
 ただ、起きるべきことだけが起きているというのに。
 この世界には、それしかないというのに。

 泡立っているかのように見え、玉虫色の不規則な輝きを地上へもたらす空のもとを、サンタさんは飛行する。
 空気が凍り付くほどまでに高い場所へ至ると、体表に肛門を形成し、そこから大量の糞便を噴出した。
 無数のサンタさんがそうした。
 世界中に、結晶化した糞便が美しく舞う。
 地上には、かつてほかの生き物がしていたように今この地球上を支配する、ある種の植物たちが蠢いている。
 それは動物に寄生する特性を持ち、宿主は肉体の自由を奪われた後、遺伝子を作り替えられ、自己再生、増殖の特性を獲得する。そうして半永久的に盤石となった土壌に根を張った植物は、供給される栄養を常に吸い上げた。
 今や地上を支配するその植物以外で、ほかに活動的といえる生命体は、例外であるサンタさんを除けば、ほとんどいなかった。
 植物は空気の動きを感じ取るほど敏感で、動くものを捕える動きは素早いので、貧弱な動物は生き残れない。また植物同士で感知し合って絶えず動き回り、共食い圏内にあるもの同士は容赦なくそうした。
 それらの自己増殖する土壌は、ある程度エラー的に毎回分離してしまう一定の部分が、時に個体としての意識を獲得することがあった。そうした中にはさらに稀に、自らの意思で体を動かすことのできるものも生じる。
 そうした個体たちは(運、特に立地条件に恵まれることを最重要として)、植物による捕食を掻い潜りつつ知恵をつけた場合、特にそれの大元が知的生命体であった場合、細々とした文化圏の参画者となり、少なくとも自由に動くことができる権利とともに、彼らなりの人生を生きた。

「あたしたちが、もしも死ぬことのできない個体だったらどうする? サンタさんに殺してもらう、絶好のチャンスだった。それが台無しになったっ」
「でも、僕は藍子ちゃんのことを好きだったから、死にたくなかった。二人で生きたくなった」
「あたしだってそうだ。でも、それに気づいたから、今こうなってるだろ? なんでこうしたんだよおっ」
「……わからない」
 藍子ちゃんは八つ当たりをした。ハズレ個体のサンタは時に殺人を完遂しないことがある。しかしその条件を知る方法は、観察に頼るほかはない。そんなことは百も承知だ。
 藍子ちゃんは、今こそ自分が泣き崩れたい時だ、と感じた。
 健太くんには泣くための目が一か所以上あったが、藍子ちゃんの周囲の情報を拾える全身の繊毛には、そのような機能はない。
 しかし今、なにかの感覚を健太くんと共有できているような心地もまた確かにあり、またそのことをとても美しいことのように感じる瞬間があった。
「とりあえずさ、ご飯食べようよ。みんないなくなったから、好きなもの、食べ放題だよ。藍子ちゃんの好きな●▲●、もう無理ってなるまで食べようよ」
「くそ」
 藍子ちゃんは力なく呟いたあと、健太くんとともに食事をした。
 その味は望外で、これまでの人生において味わったことのない満足感が、そこにはあった。
 食欲を満たしたあと、順番にからだを洗い、寝床へ入る。
 藍子ちゃんは、なおもグズグズ言った。
「本当なら、良い方のサンタさんが来て、有無を言わさず殺してくれた。なのに、あの欠陥品野郎……許せねえ」
「そうだよね。どうしてよりによって、世界中のほかのどこでもない僕たちのところへ、あのサンタさんが来てくれたんだろう?」
「そんなのは確率の話だ。もしくはあの空の向こうに、あたしたちへの限りない悪意をもった存在がいて、苦しむ姿を見て楽しんでいるんだ」
「それは素敵な考えだね。ただ僕は、その存在は悪意をもっているのではないと思うなぁ」
「なんでだよ、ふざけんな」
 健太くんは同族を食べるタイプの個体だったので、サンタさんが散らかした部屋は時間とともに綺麗になり、やがてピカピカとなった。
 藍子ちゃんはある日、保育園に蓄えられた食料をひとり消費しつつ、未来のことを考えた。
 健太も自分も、生まれたての頃からこの保育園に生きた個体で、外の世界を知らない。
 植物に対する忌々しい記憶や本能的であろう恐怖こそ保持するものの、しかし具体的な知識、つまり、保育園の食料が尽きた後、この世界でどうやって生きていけば良いのかが、全く分からなかった。
 その時になって、やはりあの時死んでおけば良かったと、後悔する自分や健太の姿が、ありありと思い浮かぶようだった。藍子ちゃんは一人で笑った。

 ○

 サンタさんがまき散らした糞便は地上へと至り、植物たちがその栄養を頼りにする間、宿主に与えられる絶え間ない苦痛はほんの束の間、和らぐ。
 謎の原理による飛行は、シャン、シャンとまた謎の音を伴った。
 地上には少しの間、幸福が降り注いだ。
点滅信号

2020年12月27日 23時58分08秒 公開
■この作品の著作権は 点滅信号 さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆テーマ:
 天に星【×】
 地に花【×】
 人に愛【○】
(1つ以上に【○】をつけてください)
◆キャッチコピー:殺人サンタだぞ、みんな並べ
◆作者コメント:防火カルビ丼。

2021年01月10日 23時59分44秒
+10点
Re: 2021年01月30日 23時17分08秒
2021年01月10日 23時58分25秒
+20点
Re: 2021年01月28日 22時45分51秒
2021年01月09日 20時07分24秒
+20点
Re: 2021年01月26日 23時13分55秒
2021年01月03日 17時01分08秒
0点
Re: 2021年01月23日 23時42分03秒
2021年01月03日 06時41分50秒
0点
Re: 2021年01月22日 02時49分47秒
2021年01月02日 02時33分01秒
Re: 2021年01月20日 23時23分36秒
2021年01月01日 13時21分33秒
0点
Re: 2021年01月18日 23時10分03秒
2021年01月01日 11時53分36秒
+10点
Re: 2021年01月16日 23時06分40秒
2021年01月01日 05時18分18秒
0点
Re: 2021年01月15日 22時08分58秒
2021年01月01日 01時20分21秒
+10点
Re: 2021年01月15日 00時59分15秒
2020年12月29日 17時18分50秒
0点
Re: 2021年01月13日 22時39分44秒
合計 11人 70点

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