四年間(延長可)の夏休み

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「おはよー!!!カンカンカン!!!起きて!!!朝だよ!!!!すごい朝!!!!」
 鶏ではない。朝十時半。聞く者の鼓膜を破らんばかりのけたたましい声とフライパンを叩く音が寮内に響き渡った。
 佳乃椰(よしの・やし)。
寮生の安眠を妨害するクソ迷惑な声は、彼女の部屋が発生源だった。
 しかし、その騒音の主は、椰ではない。
「外が明るいよ!!カンカンカンカンカン!!!!!おはよ!!カンカンカン!!!」
 フライパンとお玉を両手に掲げ、彼女の上に跨る女子大生。間豊色(はざま・からー)が、テンションマックスで叫んでいる。
「見て見て!!!!外明るいの!!!やっちゃん!!!!!!外!!!!見て!!カンカンカンカンカン!!」
 オスプレイも真っ青な騒音にも、窓から差し込む太陽光にも、カラーの体重にもくじけず、椰は未だ目を覚まさない。安眠を死守せんと布団の中、顔をしかめている。きっと夢でうなされているのだろう。
「起きて!!!!!!やっちゃん!!!!!!!!早く起きて!!!!!!!カンカ「うるせー!!!!!!!!!!!!」ごふぅっ!!」
 ついにキレた。キレて身体を起こした速度そのままに、カラーに頭突きをかます。
 骨と骨がぶつかる鈍い音。
 勢いで、カラーの手からフライパンとお玉が解き放たれる。
 が、彼女自身は岩山のごとくどっしりと椰のおでこを受け止めた。
「やっちゃんおはよ!!」
 両手を挙げて椰の起床を喜ぶ。
 当の椰はというと、おでこの痛みに悶絶しつつ、なんでお前は平気なんだと恨めし気な目を向ける。
「おはよじゃねーよ! 朝っぱらからうるせーんだよ! 鼓膜が変なってるわ!」
「でもおかげで起きれたでしょ!」
「たしかにな! 起こしてくれって言ったの私だしな! ありがとな! でも起こし方ってもんを考えろ!! ってこれ昨日も言っただろ!!!」
「そーだっけ?」
 カラーはとぼけた顔で首を傾げる。椰は、それが演技でないことを経験上知っている。
 ため息をついて、「まぁいいか。それで今何時……」と枕元のスマホを確認し、飛び跳ねた。
「二限間に合わねえじゃねえか!!」
「え、二限って十時四十分でしょ?」
「ご名答! んで今十時三十五分だよ! 全力で自転車漕いでも片道十分はかかるわ!」
「じゃあ二倍全力で漕げば間に合うんじゃない?」
「全力に二倍もクソもあるか! あー、だから十時に起こしてって言ったのに……」
「そーだっけ」
 椰はもう一度ため息をついて、諦めたように言った。
「……明日は九時半で頼むわ」


「それで今日は何してあそぼっか!」
 洗面所。鏡の前。パンを咀嚼しながら寝癖を整える椰の後ろから抱き着いて、カラーが尋ねる。
「……や、講義あるから」
 鏡越しに冷たい目を送る。
 椰はカラーと違って、一回生の前期から講義をサボるほど落ちぶれてはいない。
 遅刻するのは誠に遺憾だし、出席確認には間に合わないが、教授からの印象を考えると、きちんと出席しておいた方が良いに決まっている。そうしたコツコツとした積み重ねが成績、ひいては就活に繋がってくるのだ。
「ええ~~~~冷たい~~~~~~。せっかく頑張って起こしてあげたのに~~~~~~~~~~」
 がっくんがっくんと椰の肩がゆすられる。寝起きのろくに働かない脳みそがシャッフルされる。朝にこんなに弱くなければこんなアホに頼らなくて済むのにと、己の低血圧を恨む。
「講義行くために起こしてもらったんだよ。つかお前も三限あるしそんな悠長にしてらんねえだろ」
「やっちゃん。大学生は、人生の夏休みなんだよ?」
「おう?」
「夏休みの子供は遊ぶのが仕事なんだよ?」
「お前昔から夏休みの宿題手ぇ付けなかったもんな」
「とゆー事で海行こ!」
「夏休みは比喩表現だ! 六月に海行って何すんだよ!」
「ほら、人生ではじめての夏なんだよ? 海も行きたいし山も行きたいし花火もしたいし肝試ししたいし流しそうめんしたいしお祭り行きたいしかき氷食べたいし扇風機にあああ~ってやりたいし甲子園見たいしひまわり畑を白いワンピースで駆け抜けたいしアレがデネブアルタイルベガって指さしたいしキャンプでバーベキューしたいしカブトムシ捕まえたいしスイカ割りしたいし18きっぷで北海道まで行きたいじゃん?」
「だから全部八月入ってからやれ」
「という事で運転手を用意したよ!」
 カラーはバッと左手を広げ、椰の視線を誘導。
 その手の先には、Tシャツとパンツだけという超絶ラフな格好であくびをしながら横切る先輩寮生――数寄屋(すきや)がいた。
 腹をボリボリと掻きながら横切って去って行った。
 ……いや全く用意できてねーじゃねえか。
 そんなツッコミを入れようとした瞬間。
「……んあ? なに、もしかして今のわたし?」
 数寄屋が眠そうな顔を振り向かせた。
「あ、いえ違「そーです! 運転手お願いします!」
 椰の上からガバっと声を被せるカラーに、数寄屋は小さく笑い声をあげた。
「君らほんと仲いいね」
「心外っす」
「暇だしいいよ。車出すよ。どこ行くの?」
「海です!」
「おっけ。四十秒で支度してくるよ」
 まさかの二つ返事だった。いやここ長野県なんだけど海まで片道何時間かかると思ってるんだろうこの人は、と思っているうちに、数寄屋はジーパンと財布を持ってきた。目の前で穿いて、「よし、準備完了」と満足げにうなずいた。髪もボサボサだしシャツにコーヒーの染みがついてるし多分ノーブラだ。あと十分くらいかけて良いからちゃんと準備してくれ。そんなだから近所の小学生からホームレスだと噂されるんだ。
「よーしじゃあ行こうか。日本海行く? 太平洋行く?」
「キレーな方!」
「じゃあ富山あたりでいいか」
「とやまー! やっちゃん富山って日本海? 太平洋?」
「日本海だよ……っつーか私講義あるし行かねーからな?」
 カラーの相手をしていたらかなり時間が経ってしまったが、おかげでなんとか寝癖も、外に出られる程度には治まった。剛毛はこれだから困る。
「え、佳乃、二限あるの? 今から行っても気まずくない?」
 数寄屋が時計をちらっと見やって、尋ねてくる。
「いやまぁたしかに気まずいっすけど。割と狭い教室だし。でも行かないわけにもいかないでしょう」
「今期まだ一回も休んでないでしょ? 平気平気。五回までは許される」
「何一つ平気ではない大学生活を送っている数寄屋さんに言われると説得力あるっすね」
「うむ。そうであろうそうであろう。という事で早速行こうか。今日の晩飯はサザエだ」
 皮肉を完全にスルーして、玄関へ向けて歩きだす。
「…………………………どうぞ、行ってらっしゃい。私は後で追いかけるんで」
 控えめに手を振って、見送りの態勢を取る。
「よし、カラー! 奴を捕らえろ!」
「ガッテンしょーち!」
「ああクソやっぱそう来るか!」
 全力で部屋に立てこもろうとしたが、カラーの俊足には勝てず、無理やり数寄屋カーに連行されてしまった。冤罪で警察に取り押さえられた人のような気分だった。


 目的地。車から降り立ったカラーは大きく息を吸い込むと、一瞬の溜めを挟んで、思い切り叫んだ。
「ヤッホーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「って山に来てんじゃねーか!」
 やまびこに対抗するようにツッコむ椰の声も帰ってきた。
 おかしい。たしかに海に来るという話だったはず。どうせこんなクソ田舎高速も下道も変わらんと言って下道をすっ飛ばして来ていたはず。次第に山道に入り、「この山を越えれば海だよー」「わーい」という親子みたいなやり取りを聞いた覚えがある。
 で、気づいたら方向転換して、なぜか山の頂上を目指そうみたいな流れになっていた。
「いやぁ、山はいいねぇ。心が洗われて、何か大切なものを取り戻せそうな気がするよ」
 数寄屋は両手を挙げてぐぐぐっと伸びをし、体内の悪いものを排出するように深く息を吐いた。
「単位は取り戻せそうっすか?」
「佳乃。わたしはね。わたしが単位を落とすことによって、他の人が単位を得る。そういう事に、幸せを感じる人間なんだよ」
「そういうシステムじゃねーから!」
 やはり数寄屋はやべー人だ近寄らんとこという認識を改めて強める。
「まぁまぁ。せっかくこんな山にまで来たんだし、単位の話はやめよう。過去のことばかり見ていても未来は良くならないよ」
「……そっすね」
 未来のことを考えてないから今日も講義サボって山に来てんだろという言葉を喉奥に押し込む。
「そんで、山に来たのはいいとして、どうすんすか。もう四限すら間に合わないっすよ」
「んー、せっかく山に来たしソフトクリームとか食べたいね。もしくはコロッケとか。山っぽいよね」
「自販機すら置いてないっすけどね」
「はいはいはーい! あたしクレープ食べたい!」
「だからねーっつってんだろ!」
 周りを見回すも、何一つ設置されていない。展望台でも何でもない、ただの山の上だから仕方ない。
「ふぅむ。よし、じゃあクレープ食べに松本戻るか」
「はーい!」
「え、」
 意気揚々と車に乗り込む二人から置いてかれる。
「おーい佳乃。乗らんのか? 置いてくぞ」
「やっちゃーん、早く早く。クレープ食べに行こ」
「え、ちょ、ま………………片道二時間かけて来た山の滞在時間が五分ってマジ?」
 戸惑いつつ、置いてかれるわけにもいかないので大人しく乗り込む。
で、本当に二時間かけて松本まで戻り、駅前でクレープを購入して寮に帰った。

 〇

「知らない人とプリ撮ってみたくない?」
 寮の共有部屋にて。
 めざましテレビを虚無顔で眺めながらパンをかじっていると、ひょっこり出現したカラーが開口一番そんなことを言いだした。
「……………………」
 数秒間、無言で咀嚼。嚥下し、もう一口ほおばり、もぐもぐごくんして、椰はようやく彼女の言いたいことを理解した。
「……みたくねぇなぁ」
「ということでやっちゃん、今からプリ撮りに行こ!」
「私は知らない人枠かよ」
 別にショックではないが、相変わらずふざけているなぁと思った。
「そうじゃないよ~、違くって、今から駅前行って、知らない人と一緒にプリ撮るんだよ。あたしと、やっちゃんと、知らない人で」
「……それ、私いらんだろ。どう考えても」
「そんな事ないよ! あたしがやっちゃんと撮りたいんだよ!」
「……じゃあ知らない人いらんだろ」
 至極真っ当な反応だと思ったが、カラーは「その知らない人と撮ってみたいんだよ~」と駄々をこねる。
 早朝の働いていない頭では、彼女の言いたいことが全く意味が分からない。いや平時からカラーの言動は謎すぎるのだけれど。
「私パス。今日はこのあと三限あるし。つかお前も同じ講義取ってただろ」
「やっちゃん。大学生は人生の夏休「それ昨日も聞いたわ」
 今日こそは海に行きたいとでも言われたら勘弁ならないから、無理やり彼女のセリフをシャットアウトする。
「お前も少しは真面目に勉強しないと、就活どころか卒業単位が取れねえぞ?」
 めざましテレビは占いのコーナーに入った。うお座はまだこない。下の方でいいから、早く出てきて欲しい。最下位になると、なんとなく、損をしたような気分になる。
「でもやっちゃんが代返してくれるじゃん」
「誠に不本意ながらな」
 朝に超絶弱い椰は、カラーに起こしてもらう代わりにカラーの代返をする契約を結んでいる。
 まぁ、こうしてなんとか起きれても、ちょいちょいカラーのわけわからん思い付きに振り回されて出席できなくなるわけだけど。それでも自力で起きるより勝率が高いからムカツク。
「おっ、やった、みずがめ座一位だって! なんか朝起きた時にそんな感じあったんだよー」
 占いごときで、無邪気に喜ぶカラー。
 ……正直。
 カラーみたいな生き方は楽しいだろうと理解しているし、そんな彼女を羨ましいとすら思う。
 だが。
 それは、現時点での話だ。
 人生は、繰り返さない四季のようなもの。
 秋までを好き放題過ごしたキリギリスは、人生の大半を占める冬の間、死にかけながら生きる羽目になる。
 そんなのは、まっぴらごめんだ。ネットカフェに帰宅したり、駅前でカビだらけのせんべい布団にくるまって寝るような人生を送る気はさらさらない。
 私はアリになる。椰はそう心に決めている。
 勤勉に。生真面目に。
 つまらない人生だ。誰も口にはしないが、きっと心の内で言っている。自分でもクソみたいな生き方だと思う。
 でも、朝の星座占いでアドバイスを与えられるのは、12番目だけだ。
 それはつまり、最下位と下から二番目の間には、大きな大きな隔たりがあるという事だ。
 椰は、最悪を避ける生き方を選ぶ。
「クソ、うお座最下位かよ」
「うお座のあなたは普段はしないことをすると良いでしょうだって。ほら、講義行ってる場合じゃないよ。プリクラ撮らなきゃ」
「どこの世界線に行ったら成績よりプリクラの価値が高くなるんだよ」
「成績を取るか人生の幸せを取るかだよ?」
「なんで今日一日に人生の幸せが懸かってんだ」
「え、日々の幸せの積み重ねが人生の幸せでしょ?」
「……お前、それどこで聞いた?」
「おかーさん」
 カラーがこんな、微妙に良いことを考えるわけがないと思ったら、ビンゴだった。一周回って、ちょっと安心した。
「やっちゃん毎日勉強ばっかりで人生楽しくなさそうだし、このままじゃ幸せになれないよ? 将来子どもができた時、ちゃんと一緒に遊んであげれる?」
「なんで私は今ケンカ売られてんだろうなぁ」
 朝は怒る気力すらない。フライパンでたたき起こされでもしない限り。
「とゆーわけで駅前行こ! ヘイタクシー!」
 開け放した扉の向こう、廊下へ手を挙げるが、誰もいない。寮生は基本的に皆昼夜逆転しているので、午前四時くらいまで騒がしくて、今の時間帯はちょうど眠りに落ちているころだ。めざましテレビの音だけがむなしく響く。
「タクシーいねえなら大学行くわ」
「やっちゃん待ってよ~」
 抱き着いて引き留めようとするカラーを引きずりながら、椰は部屋へと戻った。


「やっちゃん、こんな前に座ってたら先生に当てられない?」
 大教室。皆が後ろの方や端の方に固まる中、椰はどっしりと真ん中の一番前に座った。
「教授から顔覚えられるならその方が得だろ。てかお前この講義取ってねえだろ。なんでついてきてんの」
「え、授業終わったらプリクラ行くんでしょ?」
「行かねえっつってんだろ!」
「でもやっちゃん、今日は確かこのコマだけだったよね?」
「私だっていろいろ忙しいんだよ」
「友達いないのに?」
「中間テストやレポートがな! あんだよ! お前と違って!」
「だいじょーぶだって。一年の内は遊びまくってても何とかなるって数寄屋先輩が言ってたよ」
「卒業と退学の狭間にいる八回生の言葉をどうして真に受けるかな」
 頭が痛くなる思いだ。
 一回でも留年すれば我々の市場価値は大幅に下がり、就活において大きな足枷となることは明白なわけで。何故そうと分かっていながら、数寄屋やカラーがサボりまくるのかが全く理解できない。
「ほら、もう講義始まるし静かにしてろ。もしくは即刻帰れ」
「ええ~」
 教授が入室。
「しょうがないなー。じゃあここで撮ろっか」
「は?」
 スマホを取り出し、自撮りの態勢を取る。
「ほらやっちゃんも笑って笑って」
 戸惑っている椰と一緒のフレームに入って、カシャリと一枚目。
「ふふふ、最近のスマホはプリクラまで撮れちゃうのだよ」
「いやそれスノウじゃねえか」
 ウサギの鼻と耳が付いて目が大きくなって肌がきれいになっているあたり、確かにプリクラと言っても良いのかもしれないが。文字の書き込みも、それこそスマホならすぐにできるだろう。
 ツッコミを入れている間に、講義が始まった。教授がマイクを片手に、前回までのあらすじを話し始める。
 が、
「はいやっちゃん、いい笑顔! 表情筋がキレてるよ! 死んだ瞳がキラキラ輝く! 寝癖がピコンとアクセント!」
「ボディビルの掛け声かよ」
 カラーは変わらずカシャカシャと撮りまくっている。声は一応少し小さくしているけれども、最前席ど真ん中で講義が始まっても自撮りしていたら、当然、超絶目立つ。五月蠅い。
「…………君ら、邪魔。帰って」
 五分後、二人揃ってつまみ出された。


「お前マジでふざけんなよ顔覚えられちまったじゃねえか」
 食堂で無料の茶をすすり、抗議の意を示す。
「だから後ろの方にしよって言ったのに」
「席の問題じゃねえ!」
 はー、と深くため息をついて、寝癖を撫でつける。鏡がないから整ったかどうか分からない。
「よし! じゃあ駅前行こ!」
「何がお前をそこまでプリクラに駆り立てんだよ」
「嫌な事があった時は遊ぶに限るよ?」
「お前のせいで嫌な目に遭ったんだが!?」
 と、半ギレでツッコんでいると、
「君らプリクラ撮るの?」
 聞きなれた声が会話に参入してきた。
「撮りませ「撮ります!」
 椰はでじゃびゅを感じつつ、問いの主、小さく笑う数寄屋を見やる。
「……数寄屋さん、珍しいっすね。大学来るなんて。明日は槍でも降るんじゃないすか」
「お、それはいいな。槍が降ればさすがに休講になるだろ」
「どうせ自主休講するんだし変わんなくないすか」
「それで、プリクラっつーと駅のゲーセン? 送るよ?」
 椰の白い目に構わず、数寄屋は話の筋を戻した。
「やったー! 数寄屋先輩も一緒に撮りましょ!」
「プリクラはなぁ。ああいう陽キャ御用達の空間はわたしにはちょっと重いから」
「それがわかってんなら私が巻き込まれそうなの止めて欲しいんすけど」
「佳乃が可哀想な目に遭うのは楽しいからむしろどんどん巻き込まれて欲しい」
「カラー、こいつを捕らえろ。バスで行くぞ」
「アイアイサー!」
「待て待て待て話せばわかる! 車出してやるからプリクラだけは勘弁してくれ! 陽キャパワーで浄化されてしまう!」
「うるせえ浄化されろ浄化されて光の粒になって消えてしまえ!」
 全力で逃げようとする数寄屋だが、所詮は引きこもり。カラーの手にかかれば一瞬で無力化される。
 そうして無理やりバスに連行し、三人で駅前に向かうことになった。


「誰もいないじゃん!」
 駅前に降り立って開口一番、カラーが嘆いた。
 椰は周囲を一瞥し、ため息をついた。
「よく考えたら松本なんていう限界集落、駅前に来たって人がいるわけねえよなぁ」
「あ! 一人いた!」
「あれは駅員だやめろバカ!」
 走り出すカラーを全力で引き留める。
「え、プリクラ撮るんじゃなかったの?」
 バスに乗っている間に半分ほど観念した数寄屋が、不思議そうに尋ねる。
「や、なんか知らない人とプリクラ撮ってみたいらしいんすよ」
「なるほど全く分からない」
「私もわかんねえっす」
 彼女の言動の謎さについては二人とも十分に理解している事なので、もはや何も言う気にならない。
「そんで、カラー。どうすんだ。何もないなら私は帰るけど」
「じゃあわたしも」
「待って待って! 三十秒だけ待って! 用意してくる!」
 言うが早いか、椰たちの返事を待つ間もなく、一直線に走りだした。
 あいつは何を考えているのだろうと、残された二人組は顔を見合わせる。
 そうして三十秒後、
「お待たせ! 知らない人連れてきたよ!」
 満面の笑顔で戻ってきた。
 困惑しながら一生懸命作り笑いをする、マックの店員さんを引き連れて。
「スマイルテイクアウトしてんじゃねーよ!」
 店長さんに怒られて、結局プリクラは三人で撮った。数寄屋は光の粒になって死んだ。
文文

2019年08月11日 23時53分42秒 公開
■この作品の著作権は 文文 さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆テーマ:
・太陽:×
・恐怖:×
・音楽:×
・はじめての夏:○
◆キャッチコピー:人生の夏休み
◆作者コメント:夏企画、運営お疲れ様です。ありがとうございます。
 本作はずっとやりたかった、四コマ漫画のラノベ化をコンセプトにしているのですが、なんか四コマ感がない気がします。
 大体三話構成計一万字くらいの予定だったのですが、JT杯見てたら間に合わなくなったので二話でぶん投げます。許し亭許して。

2019年08月27日 22時37分09秒
作者レス
2019年08月25日 23時57分08秒
+40点
Re: 2019年09月01日 22時09分31秒
2019年08月25日 22時29分28秒
+20点
Re: 2019年09月01日 22時08分35秒
2019年08月25日 15時26分22秒
+20点
Re: 2019年09月01日 22時07分12秒
2019年08月20日 20時47分29秒
+10点
Re: 2019年09月01日 22時06分23秒
2019年08月20日 15時50分03秒
+20点
Re: 2019年09月01日 22時03分06秒
2019年08月19日 21時59分50秒
+10点
Re: 2019年09月01日 22時01分59秒
2019年08月18日 22時59分48秒
0点
Re: 2019年09月01日 22時01分17秒
2019年08月18日 14時13分52秒
+10点
Re: 2019年09月01日 21時56分45秒
2019年08月14日 21時20分42秒
+20点
Re: 2019年09月01日 21時55分35秒
2019年08月14日 17時50分47秒
+20点
Re: 2019年09月01日 21時54分10秒
合計 10人 170点

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