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※この投稿は集計対象外です。
　GW企画運営です。
　激戦を終えた皆様、まずは本当にお疲れ様でした！
　GW企画を楽しんでいただけたでしょうか？
　結果が伴ったも、悔しい想いをした方も、後夜祭を楽しんでいただければ幸いです。

　運営からは、交流広場を提案させていただきます。

　改稿案がほしい、自作を用いてシェアワールドをしたい、動機は何でも構いません。
　感想という形で親スレッドを作り、ご意見があれば返信機能を用いてくださるのがスムーズかと思います。
　最低限のマナーが守られれば、何でも構いません。よければご活用ください！


以下、文字埋めです。
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GW企画運営

3018年05月19日 22時32分24秒 公開
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■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー：交流にお使いください！
◆作者コメント：運営より。

2018年06月02日 23時44分52秒
  • こんばんぬ。たぬきです。
    子犬を一匹あずかったので、とりあえず愛でておこうと思ってできたのが

    こちらの作品になります。(飼い主さんの許可はとってありますので、ぺたぺた貼り付けー)

    E-Mail pass
Re: 2018年06月02日 23時46分29秒
  • タイトル　犬が飼いたくなった男の話

    　“世界の果て”と呼ばれる世界。
    　ここに存在する時空管理局、中央ビル八階の事務課二号室で、男がおもむろに立ち上がった。
    「犬が飼いたくなった」
    「は？　いきなり何言ってんの。座んなさいよ、まだ仕事中なんだから」
    「犬が飼いたい」
    　男の名は龍牙という。勇ましい名前はガタイの良い男に相応しく、野太い声もその名に対して負けてはいない。針金のように太い髪の毛は、あちらこちらに癖っ毛が遊び散らしている。そんな男が大人しくスーツに身を納めてデスクに向かっていたのだが、昼ももうすぐという時分に変な気でも起したか、突然立ち上がり犬が飼いたいなどと言い放ったのだ。これには同僚も目を疑い、口元を押さえて失笑を隠すので手一杯だった。やれやれまたかと、上司は座れと厳しくどやしつけるが、この大男は説教など右から左へ通して、頭の中は犬っころのことで一杯である。
    「犬を飼うには、どこに行けばいい」
    「知らないけど、裏のペットショップに行けば売ってるんじゃない？」
    「ペットショップか。ありがとう」
    　男は席を立つ。
    　隣のデスクの同僚はかなり小柄な女性だが、眼光鋭く、この無愛想な男の扱いにも慣れたものである。見た目には燃えるような色の長髪を頭の高い位置で束ねている。彼女の性は寿(ことぶき)、名は千代子(ちょこ)という。はっきりと物申す態度と、その太陽のような快活さは人を惹き付けてやまない。
    　さて、男が部屋を出て十三階建てのビルの入り口についたころ。ファーーーと正午のサイレンが鳴っていた。席を立ち、エレベーターに乗って受付を通っるまでのたった数分、たったそれだけの時間を待てなかったのかと同僚達は口をそろえて言っていた。
    　八階の窓から見下ろす同僚に振り返ることなく男は道を行く。ビルの外周に生える背の低い生垣をぐるりとまわり、裏道に入るとそこは薄暗い路地になっている。野良犬猫が生ゴミを漁り、エアコンのファンがゴオゴオと風を排出する。空気も悪い、臭いも酷い、その真っ只中を男はスーツ姿に黒光りする革靴ですたすた歩く。堀の深い瞼の奥で、黒い目がペットショップの看板を射た。

    ≪ファンシーペット　ティンクル☆スター≫

    　ド派手でサイケデリックな色合いの看板は、周囲の風景に溶け込まない。男は真っ直ぐその看板を目指す。他の物は一切見えていない。握り締めた拳が放つ威圧感で周囲に潜む獰猛な野生動物達を退け、ギロッと睨むような表情を見せると、猫も犬もギャアと声を上げて一目散に逃げ出した。散らばったゴミの中を男の足は無感情に進んだ。

    E-Mail pass
Re:Re: 2018年06月02日 23時47分32秒
  • 　カランコロン――

    　ファンシーペット。その名に恥じぬメルヒェンな入り口の木戸を、男の無骨な手が押し開くと、天井からぶら下がったベルが肩に引っ掛かって小気味の良い音を奏でる。店の奥から店員の足音がした。
    「犬を飼いたいのだが」
    　龍牙はずかずかと店内へ。場違いな背広姿の出で立ちで、臆することもなくこのファンシィな店を散策する。嗅いだ事のない獣達のにおいに好奇心の一つでも湧いたのかと思えば、目ざとく犬を見つけ、そこへ直行した。この男の辞書に迷いという文字はない。
    「犬を飼いたい」
    「いらっしゃいませぇ。犬ですかぁ」
    　鈴の音のような声。身長差がまるで大人と子供みたいな女性店員の顔をジロリと見下ろし、その目がまた犬に戻る。札を見れば犬の名が書いてあるが、そのフォントは店の外観と同じくメルヒェンな虹色の太文字で書かれていた。
    　さらにいうと店員の女もメルヒェンから出てきたのではないかと思えるパステルカラーのエプロンドレスに身を包み、頭も等しくお花畑である。モノの例えではなく、実際に白薔薇のカチューシャが花を咲かせていた。
    　甘く甘く間延びした声で誘う様子もやはり花に集る妖精のよう。ごますりすり、手もみなどして男を見上げる。
    「この子が欲しいんですかぁ？」
    「ふむ」
    　ゴールデンレトリーバーと書かれた札を見て、龍牙は考えた。ゴールデンというのは高貴な響きだ。中々にそそられるものがある。しかし、その外見はいささか面白みにかけると、名札から犬に目を戻し、そう思った。
    　店内を見回す龍牙の目には、奇妙奇天烈な生物の数々が飛び込んでくる。右には巨大な水槽の中に入れられた、人魚のようでアザラシのようにも見える生物がひょっこり頭を覗かせていたし、天井の中央には鳥篭のような檻の中に龍牙程の大きさのあるグリフィンが寝息を立てていた。
    　犬らしき生物は見当たらない。
    「犬はこいつだけか？」
    「いいえ、まだまだありますよぉ。ほら、あちらのわんちゃんはコボルトって種類の犬です。先日、魔導幻界ベルセファっで大捕り物がありましてぇ。その時に友人の伝で二三匹こちらへ流して頂いたんです。他にもラミアとかオークなんかもありましたけど、そちらは人気なので即日売り切れまして……」
    「コボルトか」
    「はい♪　まだ生きが良いですよっ！」
    　頑丈な檻の中に詰め込まれた数体のコボルトは、ガジガジとその鉄格子を噛んで、つぶらな瞳は怨恨の色に染まりきっていた。店員はその様子を気にすることもなく、ふふと笑んで龍牙のご機嫌を伺う。
    　彼は目をすぼめて首を振った。
    「コボルトは懐かん。他はないのか」
    「あらご存知でしたかぁ、そうですねぇ……もしかして動物を飼うのは初めてでいらっしゃいます？」
    「そうだ。ふと犬を飼いたくなってな」
    「あらあら、ふふふ。ではこちらなんてどうでしょう？　数日前に異世界から迷い込んで来たミックス犬……いわゆる雑種(ハーフ)です。まあ響きは良くありませんけど、病気にも強いですし、初心者におすすめですよ？　それにこの子は元奴隷だったみたいですから躾けも簡単ですし、人見知りなところはありますが、素直でよく懐く性格みたいです。きっとお客様にもよろこんでいただけるかと思いますよ」
    「雑種か……」
    　見ればその雑種は、首輪に繋がった鎖をピンと引き絞り、机の下に頭を隠していた。襤褸布のような服を纏っているが、身体から薔薇の香りが漂う。体毛はまるで雪のようなふわふわの白に、先端だけ少し黒で染めてあるような色合いだ。毛づやも良い。元の世界では、飼い主から良い扱いを受けていたに違いなかった。
    　ではなぜここに？　という疑問は龍牙の頭の中にはない。早速懐から財布を抜き出し、店員にたずねた。
    「これをもらう。いくらだ」
    「お買い上げありがとうございますっ！　そうですねぇ、色艶もいいし、身体も悪いところ無いですから……七十万円くらいですかねぇ」
    　上目遣い、小さな声で大胆にふっかける店員に、龍牙は即答する。
    「現金でいいか」
    「え？　あ、はい！　では確かに頂戴いたしますぅ♪」
    　頭がお花畑のような喋りの割りにちゃっかりとした女性店員は、龍牙の手から万札を束で受け取ってレジスターに走った。うきうきなその背中から、龍牙は目を離して犬を見る。震えている。フサフサな尻尾が丸まって股の下に収まっている。弱々しい背中はローブの下に隠れて、今もブツブツと、元の飼い主の名を呼んでいた。龍牙には聞き取れないくらいの小さな声で。
    　だが彼にはそんなことは些細な問題であった。
    「犬。お前の名前はゴローだ」
    　龍牙は言った。それが今からこの犬の名前になる。そう決めた。だから今からこの犬の名前はゴローであった。
    「え？　でもぼく、名前が……」
    「ゴロー。腹は減ってないか？」
    　自分勝手に言い放ち、鎖を持ち上げる龍牙に、恐る恐るではあったが、ゴローと名付けられた雑種もテーブルから這い出て顔を見せた。やはり綺麗に手入れされている。一目その肌や表情を見ただけで龍牙にも分かった。この犬の飼い主は何かの不注意、もしくはトラブルに巻き込まれてこの犬を手放したのであろうと。
    　だがここではこの犬の飼い主は龍牙で、彼の名はゴローである。それはもはやどうにも変えようのない事実であり、龍牙の気がまた突拍子もなく変わらない限りはどうすることもできないのだ。
    「今はちょうど昼食の時間だ、ついて来い」
    「え？　ええっと……わかりました」
    「お買い上げ、ありがとうございますぅ♪　またのご来店を～♪」
    　ニコニコ笑顔で手を振る店員に、ゴローだけが頭を下げて、ジャラリジャラリと鎖を引かれて出て行った。カランコロンと後ろで鳴るベルの音にびくりと肩を竦めて、気の弱いところを見せてしまったかなとゴローは上目遣いで隣を見るが、知らぬ顔で龍牙は腕時計の文字盤に目を落としていた。
    「家に帰る時間はない。管理局の食堂で済ませることにする」
    「あ、はい」
    「ゴロー。ところで、お前は一体何を食べるんだ。人間と同じものでいいのか」
    　顔を下げ、大真面目に言ってよこす龍牙の顔を見て、ゴローはふふっと小さく笑んだ。自分を気にかけてくれている。怖そうな顔だけど良い人なのかもしれない、そう思った矢先に。
    「まあいい、食堂についてから決める」
    「え？　ぐゅぅっ！？」
    　ぐいぐいと鎖を引いて歩き出した男の歩幅は大きく、一切の躊躇も見られない。言葉に出した瞬間に既に行動は決定されていると言わんばかりの奔放さに、どこか懐かしさを覚えるゴローだった。
    　ゴローの足はトタトタと軽快に硬い地面を蹴って進んで、やがて男の手元にある鎖もジャラリと、緩く地面を撫でていった。並んで歩く二人はまるで親子のようでもあるが、その耳や尻尾は性質を異にするものである。これから上手くやっていけるだろうか、その不安を不意に打ち消したのは、頭をガシガシと乱暴に撫でる大きな手だった。
    「犬は撫でるものらしい」
    「そ、そうですか」
    　何の前触れもなく、本当に思い立ったように行動するこの男に、しばらくはついていこうと、ゴローはこの狭い異世界で自分のとりあえずの居場所を確保した。見えぬ行く先を考えるより、今を楽しんだ方が良い。ゴローのにこにこ笑顔にはそう書かれていた。

    E-Mail pass
Re:Re:Re: 2018年06月02日 23時48分26秒
  • 　一階入り口にある食堂はペット厳禁であったが、この男、龍牙のなりふり構わぬ行動と、主に女性の管理局員達の懇願により、例外的に今回のみゴローの入室が許可された。始めて入る建物内の光景に好奇心が沸くものの、人の出入りも激しく、ゴローは傍を通り過ぎる靴音にびくびくと尻尾を躍らせる。集まる視線もほどほどに彼の緊張感を高めた。
    「あ、龍牙君子犬買ったの？　かわいいぃ！　ねえねえ、この子なんていうの？」
    「ゴローだ」
    「ゴローちゃんだって。ゴローちゃーん、なでなでしていいですかー？」
    「すごく綺麗な毛並み～」
    　見慣れない制服姿の女性達が我先にと手を伸ばす。その明らかに異常なテンションに対して、どう応えれば良いのかわからず、ゴローはおどおどと龍牙の脚にしがみついていた。
    「え、えっと……」
    「飯をとりに行く。ついて来い」
    　龍牙は気にせず鎖を引いて、ゴローと一緒に人の列に並んだ。

    　それからそれから――

    　入り口傍の机の下で、まだ女性職員に囲まれたままのゴローは苦笑いを浮かべていた。ゴローの目の前の床に置かれているのは、軽くて白い頑丈そうな深皿で、その中になにやら豆のようなコロコロとした物が入っていた。傍には透明なコップの水も置かれていた。それが今日の昼食であると龍牙は言う。そんな龍牙の前に置かれているのも、やはりおなじ豆である。
    　ゴローは豆を一つまみして、鼻先ですんすん嗅いだ。匂いはない……本当に食べ物なのだろうか？　と口の中で転がすが、やはり味もない。
    　豆をころころと口の中で転がしていると、急にギュッ！　と強く尻尾を握られ、思わずゴローは背筋を伸ばしてしまう。
    「ひゃいっ！？」
    　振り返ればそこにも長蛇の列ができていた。
    「きゃー！　尻尾ふわふわしてるー！」
    「私にもさわらせてー！」
    「あ、あの……ぼく食事中なので、えっと……」
    「気にするなゴロー。早く食べろ」
    「は、はいっ。いただきますっ」
    「お前達は食事の前に手を洗え、犬にさわった手で飯を食べるな」
    「わかってるわよ龍牙君。じゃあねゴローちゃん」
    　しっしと手の甲で女性職員を散らす龍牙を、上目遣いで見ながらゴローは豆を歯に乗せ、グシャリと噛み潰してみた。硬さはそこまでなく、中からはやはり豆のような、しかし香ばしい複数の調味料が混合されたようなうまみがあふれてくる。
    「んんうっ！？　ごくごく……んはぁあ」
    　少し味が濃いのがゴローの口に合わなかったようで、すぐさま水を頬張り、ごくりと飲み下していた。飲み込んだ後も口に少しだけ残る香りは、スパイスにも似ていて、だがそれよりもはるかに複雑で、鋭敏に感じられる。もう一粒……と食が進むような刺激だった。
    　不思議な食べ物もあるものなのだなと、しげしげと観察しつつ、ゴローはまた一つ豆をつまんでいく。水の減りは早く、コップが空っぽになると彼はおかわりが欲しくなった。豆はまだ半分ほど残っているから、あと一杯は欲しい。
    「あ、あの」
    　ゴローは要求を直接口に出すのではなく、龍牙のズボンをくいくいと引っ張って、上目遣いでおねだりした。しかし龍牙には伝わらない。彼はテーブルの下を覗き込んで言う。
    「ソイレントは口に合わんか」
    「いえ。おいしいです！　でもその、ちょっと濃くって」
    　舌を出してコップをちらちら見るジェスチャーには、鈍感な龍牙もすぐ勘付いた。
    「水か、自分で汲んでこい」
    「は、はい」
    　お許しが出た、と思うが早いかコップを手にとって、きょろきょろと食堂内を見渡す。水を汲む場所はどこだろう……と、周囲を確認するも、それらしき場所は見当たらない。
    　それにしてもこのコップ、ガラスのように透き通っているのに、その重量はまるで木のような軽さであった。ゴローには馴染みのない素材でできているのか、不思議そうに持ち上げて蛍光灯の光で照らしたりなんかしていたら……次はその蛍光灯の方に興味が移る。彼の知るランプの明かりにしては煌々と輝いて、まるで魔力の光にも似た柔らかさ、だけど透き通るような白色をしている。しかもその数がまた尋常ではない。天井一面に等間隔でずらりと並ぶその数、いかに贅を尽くしているか、その辺りの事情にあまり詳しくないゴローでも察することができた。
    「ほえぇ……」
    　ひりひりする舌を空気に晒しながら、ぼーっとそのように天井を見上げていたものだから、傍を通りかかる職員にはくすくすと笑われていた。
    「ゴローちゃん。お水ならあそこのサーバーから自由に汲んで飲んでいいからね」
    「あ、はい、自由にって……お水……え？」
    　ゴローは親切な女性社員にサーバーという箱のようなものを指差され、そこにある光景に目を疑った。

    　ジョロロロロ――

    　コップを差し出すと、勝手に箱の中から水が沸き出てくるではないか。まるで当たり前の光景のように、人々は次々と水を汲み、机に運んでいく。
    　ゴローはワクワクしながら水を汲む人の列に加わった。尻尾がぶんぶんと揺れる。あと二人、一人、自分の番！　と弾ける笑顔でコップをサーバーの前に差し出した……。
    「あ、あれ？　うう、お水でてこないよぅ」
    　挙動不審になりつつ、しきりに水の出口を覗き込むゴローに、後ろから男性職員が優しく声をかける。
    「あんた異世界の子だね。ほらそこにあるボタンを押せば、自動的に一定量の水が出る仕組みなんだよ」
    「これですか？　んーっ、んんん～～っ……とどきません」
    「ほら、抱えてあげるから自分で押しな」
    「ありがとうございます！　えっと、ここを……あっ、でた！」
    　サーバーは唸り声を上げてジョロロロと澄んだ水を吐き出していた。
    　ゴローは「うわぁ……」と感激したように、目を輝かせてその光景を眺めていた。尻尾はやはりパタパタと床を掃く。そのかわいらしい、子供みたいな反応に、周囲の職員も空気を柔らかくして見守ってあげていた。

    E-Mail pass
Re:Re:Re:Re: 2018年06月02日 23時49分08秒
  • 　食事後、龍牙の仕事が終わるまでの間、ゴローはビルの入り口にお座りをしていた。まるで番犬であるが、その容姿に迫力は無い。ぽこっと張ったおなかをさする。豆をたったあれだけしか食べていないのに、水を飲んだから膨らんだのだろうか？　などと興味深げに服をめくったりしながら、やはりその緊張感のなさは番犬には向かない。愛玩動物の宿命か、通りすがりに頭をなでられつつも、笑顔で愛想を振りまいた。そうしているうちに時間は過ぎていく。
    　ジャラリ……鎖の音に目を向けると、生垣の小さな木につながれているが、外そうと思えばすぐ外せるくらいの雑さである。
    　龍牙は物欲に乏しい。その辺りがゴローには新鮮でもあった。こんなタイプの人間は今まで目にしたことがないと、過去を振り返り、そして今は傍にいないご主人様を思う。いっしょに旅をした日々を思い出す。
    　自分に厳しくしてくれて、時々優しくしてくれて、でも大切に思ってくれていた。今、離れ離れになって、もしかしたら探し回ってくれているかもしれない。泣いている……ということはないだろうけれど。
    　様々な記憶が蘇り、うるうると目尻をふやかす。
    「ごしゅじんさま……」
    　古びた首輪を指先でなぞり、尻尾がしゅんと足元に垂れる。
    　暗い気持ちでいっぱいになりそうな頭を、しかしゴローはぶんぶんと振って、このもやもやを振り払った。前向きに前向きに、そうやって楽しい事を探そうと、顔を上げてこのビルの正面を見やる。
    　雑多で統一性のない建物が乱立し、その真ん中に伸びる黒い道路の端は、天まで届く高い壁に阻まれていた。
    　人の流れも少ない。
    　魔力も、生気も希薄すぎて、肌で感じることができない。
    　ゴローにとってここは狭く、息苦しいとさえ思えた。
    　空を仰ぐ――

    　――閉じた世界の果て。街を覆う巨大な壁の向こうには、虚無と混沌が練り混ぜられ、絶えず変化を続けている。異空間の渦とでも言おうか、不用意に踏み込めばたちどころに別世界へ転送されるか、あるいは断片となってどこか複数の世界にばら撒かれてしまう。
    　それを知ってなお、この狭い世界に馴染めず、ここから脱出しようと試みる者もいる、犯罪を犯して逃亡を企てる者もいる。
    　それに待ったをかけ、しかるべき世界に送還するのが時空管理局の仕事の一つでもある。
    　この街が、いつから存在し、誰が作ったのか。そんなことは誰も知らない。ただここにある様々な装置を使いこなすためのマニュアルと、局員達の日々の事務的活動によって、この世界の生活と治安がかろうじて保たれているに過ぎないのだ。
    　この世界は、異世界からの漂流物を除き、ありとあらゆる場所、あらゆる物が人工物でできている。それは天とて例外ではない。雲より低い位置にある天蓋には、人工太陽と人工の月がきっちり二十四時間サイクルで浮き沈みを繰り返している。まるで小さな水槽の中に納められたジオラマだ。そこに後から付け足したように、継ぎ接ぎの異世界風景が混ざりこんで、この混沌とした町並みを築き上げた。

    　ゴローは空から視線を下げ、左を見る。
    「……木？　かな」
    　巨大な木をくりぬいてできた魔女の家。そう呼ぶに相応しい外観の建物には、やはり蝙蝠やハーブのような物が紐で吊るされ、乾物にされている。窓の形は円形で、中央に十字の枠がある。その奥……かすかに見える明かりに、ゴローは懐かしい感じを覚えた。お菓子を焼く窯が備え付けられている。その煙突は天井部から伸びた赤煉瓦へと繋がっているのだろう。今も濛々と煙を上げて、なにやら体に悪そうな煤を吐き出し続けている。
    　ゴローがしきりに鼻をすんすん動かしても、匂いの一つも漂ってこないのは、その煙を天蓋が吸い上げているからに他ならない。
    「あれは……なんだろう？」
    　続いて右を見ると、少し離れた場所にトタン屋根と白塗りの石壁でできたボロアパートが目に入る。見慣れぬ造詣にゴローは首をひねる。まるで城砦を囲む壁のような、シンプルにして堅牢な見た目であるが、一体全体どこを護っているのやら。道端に乱雑に生えているだけのような、まるで考えなしにそこに置き去りにされたかのようなその投げやりさに、やはりゴローは首をひねるのだった。

    　そのように周囲に目を凝らし、時折ビルの中をうかがうように振り返り、窓の外から中を覗いては、人々の笑顔を受け取って、ゴローの退屈な時間は過ぎていった。

    　ファーーーーーと、本日二度目のサイレンは、午後六時を示すものである。つまり時空管理局員の帰宅時間であり、人々の流れが忙しくなるのもしかたのないこと。次々と入り口から現れ、街の雑多へ消えていく。大小さまざまで、色とりどりの髪の色や、中には背中に羽根を生やす者もいた。人獣入り混じる奇妙な光景をしげしげと見つめ、見送り、挨拶代わりに頭を何度もなでられながら、ゴローは龍牙の帰りを待った。
    　しばらくして、ようやく彼は姿を見せた。
    「待たせたな、家に帰るぞ」
    「あ、おかえりなさいませ」
    　龍牙が通勤用鞄を手にぶら下げ、生垣に巻きつけてあった鎖を乱暴に取り外すと、ゴローは尻尾を振ってぺこりと頭を下げて、そしてすぐさま顔をあげる。
    　つぶらな瞳はじいーっと龍牙を見ていた。
    　彼は大きな腕をまくり、腕時計の文字盤で時間を確認した後、ゴローのことなど気にかけず鎖を引いて歩き出した。ジャラリ、地面に這う銀色の帯を眺めながら、ゴローは、やはりそうくるか、と内心してやったりで、龍牙のすぐ隣を歩き始める。
    　ゴローは午前の出来事を思い出し、キュッと首が絞まるような気がして、もう一歩だけ龍牙の近くに足を運んだ。
    　物事の先を読む、というほど賢いわけではないものの、学習したことをすぐに実践するくらいの機転は利く。つまり龍牙の手に鎖が握られている時は、彼から目を離してはならない、ということだ。

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Re:Re:Re:Re:Re: 2018年06月02日 23時50分01秒
  • 　しばらくスタスタと歩き……突然足を止めた龍牙に習い、ゴローもぴたりと止まる。
    　そこは白塗りの、先程ゴローが不思議そうに眺めていた城壁らしき建物の前であった。近くで見るとかなりの大きさの壁に、いくつもの鉄の扉と、その傍になにやら文字盤のような物がついていた。
    　龍牙はピピピピと文字盤を指差し、胸元から取り出したカードをシャッと通す。
    『ピピー！　ロック解除シマス！』
    「わあっ！　と、とびらがしゃべった！？」
    　ゴローの驚きを無視したまま、重い扉はガコンと音を立てて錠を外した。
    　取っ手を握り、龍牙は隣を見下ろす。まだ驚きに戸惑っている犬の頭をガシガシと撫で、安心させながら扉を開いた。
    「ここが俺の部屋だ。入れ」
    「あ、はい……お、おじゃまします……」
    　重い扉の向こうには闇が広がっていた。

    　コオォォォォ……

    　静かに唸る風の音と、冷たく硬い床の質感にゴローは身震いした。まるで牢屋かと。自分が奴隷であったことを再認識させられる気分で、恐る恐る一歩を踏み出した……その瞬間である。

    　バタンッ！

    「ひいっ」
    　すぐ後ろで扉が閉まり、完全な闇に放り込まれてしまった。隣に居るはずの龍牙の姿すら見えず、ただひたすらに腕にしがみついて震える。そんな弱気なゴローに一言、龍牙は「電気をつけてくる」と言い、すがる腕を振り払った。
    「あっ、ひ、ひとりにしないでくださいぃ！」
    　悲痛な叫びは、龍牙の耳には届かない。大きな背中は闇の中でかすかに動いて、さらに深い闇に吸い込まれようとしていた。それを必死に手繰り寄せようと、ゴローは涙目で手を伸ばす、が、迷い無き龍牙の歩みに後れを取ってしまい、置いてけぼりを食らってしまった。
    「まってください、み、見えないのに……ううぅ」
    　怯えてたって事態は良くならない、そう思って、ゴローは歩き出す。その柔らかな毛筆の尻尾を股の間に挟み、ズリズリとすり足で、へっぴり腰で前に進もうというのだ、当然……足元にある段差には気付かない。
    「ま、まっ――ひひゃう！？」
    　ビッターン！　と大げさに倒れて鼻のあたまを盛大に床にぶつけたところで。ようやくこの闇を打ち消す光が天井から降り注いだ。
    「……伏せか」
    「あ。りゅ、リューガさぁん……ぐすっ」
    　廊下の突き当たり、リビングの壁に手をかけた龍牙の姿を見つけて、ゴローは安心した。先程引っかかった部分は、入り口の石床と木製の床との境目であった。足元には龍牙の物と思しき黒光りの革靴がそろえてある。右には白い塗料で塗られた大きな木棚があって、観音開きの扉は閉まっている。
    　反対側には大きな鏡があり、そこに映る自分の姿を見て、くしゃくしゃに跳ねた髪の毛を正すと、ゴローは廊下の先を進んだ。
    　入り口から少し先、廊下には左右に扉があった。それぞれ「トイレ」「バスルーム・洗面所」と書かれた札がかけられている。それらを興味深そうに眺めつつ進むと、今度は開けた場所に出る。
    「ここがリビングだ」
    「りびんぐ？」
    　部屋の一番奥にある広い空間には、頑強そうな木製の棚付きベッドと、コードの繋がっていない液晶テレビと、備え付けのクローゼット、そして中央には古びたちゃぶ台が置いてあり、なぜかその上に空気清浄機が鎮座し、コオォォォォと唸り声を上げていた。
    「広いお部屋ですね。でもちょっと暗い、かも……」
    　廊下から見て正面には分厚い暗幕が窓を覆っていた。締め切った室内が真っ暗なのはそのせいである。しかし龍牙は窓を開くこともなく、カーテンレールからハンガーを二つ取ってベッドの上に投げた。上着を脱ぎ、ネクタイを解きながら言う。
    「そこに座っていろ」
    「は、はい」
    　ゴローは言いつけどおり、しゅたっと正座して、首から伸びる鎖を手元に寄せる。そして正面の……ちゃぶ台で今も動き続けている空気清浄機の吸気口を覗いた。これは一体何の目的で存在しているものなのだろう？　それに、見たこともない紋章と文字が書かれている。そんなことを適当に考えつつ、龍牙の着替えが済むのを待った。
    　龍牙はハンガーにかけたスーツを持って、ベッドの傍からクローゼットに移動する。中には同じようなスーツが三、四着しまわれていて、その一番端に、今日着ていたものをかけて、再びベッドへ戻って行った。スーツ以外の衣服はこの部屋には存在していない。つまり、トランクスパンツにティーシャツというラフな格好が、龍牙の普段の部屋着ということである。
    　すね毛、うで毛も男らしく濃い。さらに木の幹とでも言うべきか、太く隆起した筋肉が、この男の物理的な強靭さを物語っていて、下着だけの姿でもだらしないということはない。室温も一定に保たれており、風邪をひくこともなさそうだ。
    　ベッドの端に腰かけたまま、龍牙は言う。
    「明日は留守番を頼む。俺は仕事だ」
    「は、はい」
    　唐突な言葉にもすかさずゴローは反応し、こくこくと頷いて返した。

    　……
    　…………
    　コオォォォォー。

    　静かだった……。
    　静か過ぎる室内に、空気清浄機の音だけがあった。
    　会話が途絶えて数分。これは、何か、ある種の拷問なのだろうか？　などと失礼な感想を思い描きつつ、ゴローは気を紛らわすために床に触れる。硬く冷たい……まるで金属のような質感なのに、そのつややかな床材は木目を有している。どのようにしてこれが生み出され、そして加工されているのか……。
    　見れば他にも部屋中の至るところに異質な素材が用いられていた。
    　目の前のこの奇妙な機械もそうだが、凹凸の目立つ壁や天井、窓を覆う暗幕の上部にある金属でできた棒のような物、それから部屋の隅にある黒い板のような物体。
    　頭上にも、天使の輪のような白い光を投射する円盤が配置されている。
    　ゴローにはまるで謎の技術だった。異世界というものは、ここまで自分の住んでいた場所と違うものなのかと、深く感銘を抱き、同時に静かな恐怖を覚えた。

    　……
    　…………

    「あ、あの……」
    「どうした？」
    「いえ」
    　じっとゴローを見つめたまま動かない龍牙が、そこに備え付けられた石像のように思えてしまう。しかし声をかければきちんと返事が返ってくるのだから、どうにも落ち着くことができない。
    　もじもじして、自分の尻尾の毛を手でもてあそび始めた頃合、ようやく龍牙が口を開いた。ゴローはぴしゃっと背筋を伸ばす。
    「犬は、テレビを見るのだろうか」
    「てれび？」
    「まあいい、退屈そうにしているから、つけてやろう」
    「あ、ありがとうございます……てれびって？」
    　首を何度もかしげるゴローを放ったまま、龍牙は部屋の隅に置かれた黒い板に近づく。その下にある台の中からリモコンを取り出し、ゴローに手渡した。
    　ゴローは頭にクエスチョンマークを浮かべて、龍牙の顔を仰いだ。
    「これが、てれびですか？」
    「それはリモコンだ」
    「りもこん？」
    「電源ボタンを押せ。あとは好きなチャンネルを選べば映る」
    「うん？」
    　明らかに説明不足な龍牙の手前で、ゴローはなんとか言葉の意味を考えつつ、リモコンの裏表をしきりにひっくり返したりなんかして、そこに書かれている謎の文字と数字を読み解こうとした。
    　しかしすぐに頭が痛くなり、耳をだらりと垂らして龍牙にリモコンを差し上げる。
    　顔色をうかがうように、恐る恐るたずねる。
    「わかりません……これ、どうやって使うんですか？」
    「そうか。そうだったな」
    　龍牙は何か納得したように頷き、大きな手でゴローの手からリモコンをつまみあげると、その一番端の赤いボタンを押した。
    　どうやらそれが“電源ボタン”というものらしいと、ゴローはまた一つこの世界の言葉を覚え、賢くなった気がした。
    　さて、それでは、テレビとやらは一体どのような挙動を示して見せてくれるのか。電源ボタンを押したことで、そこにどんな変化がもたらされるのか。龍牙の傍について、ゴローの視線の向かう先、黒い板のようなものをじっと眺める。
    　かつてのご主人様の実験に付き合わされたときも、このように不思議な体験をしたことはあった。複数の薬品が混合され、好き勝手に色を変えたり、光を放ったり、ガラスの筒に納められた粉末が突然はじけたりすることもあった。そのような変化を期待していると――やはり、テレビという物も同じように、黒から青、そして白黒の花崗岩めいた模様を、ゴローの目の前でギザギザと変化させ始めたではないか。
    　さらにはザザザと音まで出だして、ゴローは耳をぴんとたてて唾を飲んだ。
    　つぶらな瞳に、画面の四角い光が映りこむ。

    『ザ……ざザ……――お、おまえ……ここは……出せ、ここから出』

    　まるで何者かがこの黒い板に囚われ、嘆いているかのような。
    　そんな悲痛な声を、テレビは吐き出した。

    「ひいっ！　な、な、なんですかあれ！」
    「テレビだ」
    「て、てれび……いや、そうじゃなくて、何か閉じ込められてるんですよね？」
    「わからん、電源を入れるといつもこれが映る。他のチャンネルも見るか？　別のものが出てくるはずだが」
    　そう言ってリモコンをテレビにかざす龍牙の腕に飛びついて、ゴローは首をぶんぶんと振った。涙目になりつつ、テレビからの怨念は気にしないように、龍牙にお願いする。
    「い、いえ、もういいです……その、てれびは、もういいですから」
    「そうか。犬はテレビを見ないのだな」
    「はい……」
    　迂闊だった。何かの呪具だったのだと、見たことを後悔しつつ、ゴローは頭にこびりついた声にしばらく悩まされていた。そしてこの部屋にあるものを勝手に触らないでおこうと肝に銘じた。

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Re:Re:Re:Re:Re:
Re:		 2018年06月02日 23時53分02秒
  • 　静かな部屋の中で、ゴローは足を組みなおしたり、毛繕いをしながら、横目で龍牙の顔色をうかがっていた。彼は微動だにせず、ベッドの縁に腰掛けて、大股開いてじっとゴローを観察している。何が面白いのだろう？　そんな感想を頭に浮かべつつも、威圧感のある彼の視線に真っ向から意見を申し出ることはできなかった。
    　それでも……時間が経つにつれて、ゴローはやはり思い切って言葉を口にする。これから一緒に住むことになるのだからと、ゴローは龍牙のことを知りたかった。
    「あの、リューガさん……」
    「なんだ」
    　やはり彼はすぐに応えてくれる。
    　それが少しだけ嬉しくて、ゴローの顔にも喜びが表れる。
    「すわっているだけではたいくつじゃありませんか？　よければその……お話、でもしないかなって。ぼくリューガさんのことまだぜんぜんしりませんし……」
    「そうだな。話か……退屈な話でよければしてやろう」
    「あ、ありがとうございます」
    　龍牙は顎をさすり、目を閉じて過去を思い出しているようだった。
    　表情も変えず、しかし時々笑みを滲ませ、口をへの字に曲げ、色んなことを頭に浮かべている。その真剣な顔に、ゴローはゴクリと唾を飲んで、そろえた膝のうえに手を添えて待った。
    「何が知りたい」
    「そ、そうですね、じゃあ好きなたべものとか」
    「基本的には局から支給されるソイレントを食しているが、好みはない。外来の食物は地下デパートで売っているが俺には不要だ」
    「そ、そうですか」
    　総合栄養食のソイレントは、この街で唯一つだけ存在する食品製造プラントで作られているという。中央ビルの裏にある建物の一つがそれだと、龍牙は言った。ゴローにはちょっとよくわからなかったので、別の質問に移る。
    「趣味は、あるんですか？」
    「犬を飼うことだ」
    「そ、そうなんですか。じゃあぼくが飼われる前にも、やっぱり犬を飼ってたんですね」
    「いや、飼うのは初めてだ」
    「……そ、そうですか」
    　掴みどころのない龍牙との会話は弾まない。それでもゴローはなんとか彼のことを知ろうと、いろいろ質問を投げてみたのだが、それに対する返答は非常にシンプルかつ説明を省いた物で、ゴローにはいまいち分かりかねた。
    　この街のことについても同様に、細部の説明は一切なく「いつか見て回るか」というありがたい言葉をいただきつつ、トホホと肩を落とした。

    　話を整理すると、彼はあの大きな建物の中で働き、ここで寝泊りしている。それから自分と同じような境遇の人達が、自分以外にも大勢居るということ。ただそれだけのことしかゴローにはわからなかった。
    　帰る手がかりも、わかりそうにない。
    「どうした？　疲れているのなら早めに夕食を食べるか」
    「そう、ですね。はい」
    　龍牙がベッドの下にある棚から紙袋を引っ張り出す。その後姿を見つめながら、ゴローは首輪をキュッと握る。つながれたままの鎖が重い音を立てた。
    「あの、お食事の前に……」
    　そう言って足をもじもじさせるゴローを見て、龍牙は察した。
    「小便か」
    「あ、はい……えっと……はい」
    　大きい方も、とは食事前に口に出すべきではないなと、ゴローは言葉を飲み込んで、つま先をもじもじさせ続ける。便意は限界に達しつつあるようで、ボロボロの服を手前に引き込んできゅっと太ももを閉じていた。
    「トイレならば、入り口の右だ。鎖を外してやろう」
    「ありがとうございます。といれ……えっと……」
    　それがこの世界での用を足す場所のことなのだろうと、切羽詰ったゴローの脳はすかさず言葉の意味を汲み取った。鎖から解き放たれて、少し軽くなった体を持ち上げると、ぽっこりとしたおなかがゴロゴロ鳴って、ゴローは恥ずかしげに廊下へ向かった。小走りで。
    「わかるか？」
    「はい！」
    　扉の前にある札は「トイレ」と書かれているが、ゴローには馴染みのない文字である。ハンドルのような取っ手を握り、前後に押し引きしてみるが、微動だにしない。その間にも便意の限界はすぐそこまで迫っていた。
    「んっ……あ、これ下に押すのかな」
    　もどかしく思いながらも、この難解な仕組みを素早く理解する。危機的状況に追い詰められた者の思考回路はかくも勇ましいものである。
    　レバーを押し下げ、扉を開いた。だが中に入ってすぐ、その思考回路も停止してしまう。
    「りゅ……リューガさーん！」
    「ふむ。トイレの躾けはまだできていないのだな」
    　龍牙はベッドから重い腰を持ち上げて、ヘルプを求めるペットの元へ。その堂々とした態度とは裏腹に、格好は風呂前のおっさんとも言うべき肌着のみである。開いた扉に手をかけ、目の前の愛玩動物の、まるで生まれたての小鹿を思わせる様相に感心を寄せる。
    　しかしゴローにしてみれば悠長に観察などしている場合かといった様子で、少し強めに質問する。
    「これ……ど、ど、どうやって使うんですか？」
    「便器の蓋を開いて、便座に腰掛けて使うんだ」
    「べ、便器って……？」
    「手本を見せてやろう」
    　龍牙はゴローの前に出て、便器の蓋に手をかける。
    　白いセラミック製の本体と、プラスチックでできた便座、そしていくつもの管が側面に伸びて、まるで実験器具のような見た目でゴローに不思議を突きつけていた。
    　この物体が龍牙の手で開かれ、内部を露にする。澄んだ水が奇妙な器のへこんだ部分にたまっているのを、ゴローはしげしげと眺めた。前屈みで内股なのは、もう彼の我慢が限界が近いからだが、龍牙は気にせず悠長に説明を続ける。
    「下着を下ろし、ここへ座る。お前は下を履いていないようだから、上が汚れぬように掴んで引き上げていればいい」
    「は、はい(もじもじ……)」
    　龍牙は実際にパンツをひき下ろして便器に腰掛ける。
    　ゴローの目は上下を行き来しながら、早く早くと彼を急かした。
    「ところでお前は雄か？」
    「は、はい。お、おとこです(うわぁ、おっきい……)」
    「雄ならば、立って用を足すこともできる。こうして、便座を上げ――」
    　立ち上がり、龍牙は先程座っていた便座を手で押し上げ、背を向けて何かしらのモノを握った。しかしその大きな身体が邪魔をして、ゴローには龍牙の尻しか見えていなかった。そもそも、それどころではなく、じたばたと足をマットの上で躍らせている。下唇を引き上げ、限界はとうに過ぎているといわんばかりの顔つきである。
    「わかったか？」
    「わかりましたっ！」
    　ぶんぶんと頭を振り、元気に龍牙に言って聞かせる。はやく、そこを代わってくれと。切羽詰ったゴローの前で、やはり龍牙は落ち着き払った態度でパンツを引き上げた。
    「済ませたら水を流せ。できなければ俺を呼べ」
    「わ、わかり、ましたっ！　ありがとうございま、あっ……ました」
    　ゴローはちょっとだけ先走ってしまったのをすかさず手でキュッと防ぎとめて、よちよちと前に出て便座に腰掛けた。上から覗く龍牙の顔を一度うかがって、恥ずかしげに服をめくり上げ、尻尾を立てる。お尻に当たる部分はなぜか暖かかった。
    　龍牙はゴローが座るのを見届け、トイレを出て扉を閉めた。
    　洗面所で手を洗い、彼はそのままリビングへ戻った。

    「はあぁあああ～……」

    　待ちに待った瞬間が訪れる。
    　完全な密室でのプライベートな時間を満喫するゴロー。それは我慢した分だけ、大きな開放感となって脳髄を駆け抜けていく。ぬるま湯の中で丁寧に洗ってもらっているときみたいに、蕩けそうな表情で、天井の電球の小さな明かりを眺めて放心した。

    　しばらくして、十分にたまっていたものを排出しおえたゴローは、尻を拭くための道具を探した。しかし、この狭い個室には、砂の入った器やヘラなどの洗浄具らしきものは見当たらず、あるとしても足元でふかふかしているマットと、手元にある謎の文字盤、それから縁が三角に折られた紙のようなものくらいしか目に付かない。
    　すっきりしたあとでこうも頭を悩まされるとは思わず、しかしすぐに龍牙を呼ぶのも悪い気がして、またしばらくうーんうーんと悩んでいた。


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Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:		 2018年06月02日 23時55分34秒
  • 「すみませーん、リューガさーん！」
    　ゴローが声を上げたのは一分ほど後のこと、龍牙の足音はすぐに彼のところへ向かい、躊躇なくトイレの扉を開いた。そして目の前まで踏み出して愛犬の恥ずかしそうな顔を見下ろした。
    「どうした？」
    「あ、あの……おしりをふく道具が見あたらなくて……それと、あの……ここに出したあと、どうすればいいんですか」
    　服の前を太ももの辺りまで押し伸ばしながら、ゴローは恥ずかしげに頬を染める。
    　龍牙は相変わらず無表情なまま、臭いも気にせず、ふむ、と納得して壁に備え付けてあるトイレットペーパーを指し示した。
    「そこにあるトイレットペーパーを使え」
    「え？　え？　この紙をつかうんですか？」
    「手で拭くつもりだったのか」
    「い、いえ、そんなことはしませんけど……紙、ですよね？」
    　ゴローには、龍牙の言うことが信じられなかった。
    　たとえ薄く伸ばしてあったとしても、紙で尻を拭くなど……ましてや奴隷の身だ、貴族や王族ではあるまいし、そんな贅沢があってなるものかと、ゴローは何度も首を横に振って龍牙の顔を見上げていた。しかし彼は嘘や冗談を言っているようには見えない。
    　ではこれで尻を拭くか……いや、そんなもったいないことを……。
    　などといつまで経っても動こうとしなかった。
    　そんな踏ん切りのつかないゴローに、龍牙はまた一つ納得したような顔をする。
    「ふむ」
    　と小さく言ったのを聞いて、ゴローの耳がぴくぴくと動いた。
    　また何かするつもりなんだな、となんとなく察していた。
    　今まで、龍牙がそのようにふむと言って、勝手気ままに行動しているのを傍で見ていたから……まだ一日も経っていない間柄ではあるが、何かしてくれるんだろうと、半分くらいの期待を込めて、肩に入った力を抜いた。
    「犬とはいえ、不潔なまま外へ出すわけにもいかんからな。ウォシュレットを使うと良い」
    　ウォシュレットといわれても全く耳にしたことのない単語なので、ゴローは首をかしげて、ただ黙って龍牙がやることを見守っていた。
    「ここにあるボタンを押せば、自動的に水が出る仕組みになっている」
    「なるほど。水でながすんですね」
    「そうだ。では実際に押してみろ。そこの“おしり”と書かれたボタンだ」
    「はいっ……えっと、これを……」
    　ゴローは龍牙の説明を聞き、どこをどうすればいいのかちゃんとわかっていた。今度は便意にも悩まされずに、しっかりと見ていたからすぐに理解できた。
    　なので、おもむろに指を伸ばし、ウォシュレットのおしりボタンを疑うことなく押した。ピッと、一つ電子音が鳴り、続いて尻の下からウィーーンと聞きなれない音がした。これと水で流すことと、一体どのような関係があるのだろうか。ゴローはわからず龍牙の顔を見上げてたずねようとする。
    　しかし。
    「あれっ？　水、でないです――ひゃああ！？」
    　プシューッと不意打ちを真下から浴びせられ、尻尾がびくりと天井を指した。咄嗟に立ちあがろうとするゴローだったが、龍牙の大きな手が左肩を押さえつけ、グッと便器に押し戻された。
    「立ち上がるな。床が濡れる」
    「ひ、ひえっ、これっ、とまっ」
    「洗い流せたか？　十分でなければもう一度ボタンを押せ。ムーブがかかる」
    「む、むぅぶ……ひやっ」
    　細い棒で小突かれているような、むずかゆい感覚に耐える。水の刺激は強いものの、ゴローは徐々に平常時の態度を取り戻していった。
    　この便器には、水を放つ魔法かなにかが仕込まれているのだろう。と、その仕組みを想像しつつ、龍牙がボタンに手を伸ばすのを見る。
    　さて、ムーブとは一体どのようなものなのか。好奇心がふさふさの尻尾を動かして、服を引き伸ばす手にちょっとだけ力が入った。
    　しかし龍牙は途中で手を止め、またもやふむとうなずいて、ゴローの正面に戻る。
    「自分で押した方が覚えが早いか……押してみろゴロー」
    「あ、はいっ！　ぼくが押していいんですね」
    「そうだ。一度押せば水が出る。二度目でムーブだ」
    「は、はい！　えっと……これだったよね。えいっ」
    　ポチッとな。
    　小さくて白い指先が、元気よくウォシュレットの“おしり”ボタンを押した。
    　ウィンウィンウィン――。
    「ひゃああああ！」
    　ムーブが起動して刺激が変わる、ノズルが前後し始めると、それに合わせてゴローの尻尾がのたくった。すかさず龍牙の手が彼を拘束する。
    「ゴロー。尻を浮かすなと言っただろう」
    「ひゃ、ひゃめぇ！」
    　既に綺麗になってしまった尻を、それでも執拗に洗浄し続けるウォシュレットという拷問器械に、ゴローは音をあげた。ノズルは無慈悲に前後運動をくりかえしていた。どうにか腰をずらして逃げ出そうとするゴローだったが、龍牙の手は微動だにせず、尻尾だけがびくびくと暴れまわっていた。
    「止める時はそこの“停止”というボタンを押せば止まる。押してみろ」
    「は、はひ……」
    　ぽちっ。ウィィィン。
    　最初に出てきたときと同じ音を出して、ウォシュレットというこの悪夢の装置は動きを止めた。ポチャポチャと垂れる滴の音と、ゴローの荒い吐息だけがトイレの中にあった。
    「終わったら尻を拭け」
    「あ、はい……でも、ふくもの、ないですよ？」
    「そこのトイレットペーパーを……仕方ない、今日は俺が拭いてやる。次からは自分するんだ」
    「い、いや、え？　ちょっとまってください！　自分で、自分でふけますから！」
    　龍牙はペーパーを引いて手の中で綺麗に折り畳む。
    　あわてて制止するゴローをよそに、その背中をグッと押し下げ、尻尾の付け根を握り締めて尻を上げさせた。
    「あうぅぅ……はずかしいです……」
    　なんの躊躇もない。しかしその手つきは相手を慮ったように丁寧で優しく拭き上げる。
    　紙がもったいないと思いつつも、ゴローは一つ勉強になった。この世界では元の世界の常識は通用しないということ。これが当たり前のことなんだと、頭で理解しようとしていた。
    　なすがまま、されるがままに、尻の後ろで紙が水に沈む音を聞いた。

    　龍牙の手から逃れ、ゴローはホッと一息ついた。
    「全て終わったら、あとはこのレバーを引くんだ。そうすれば汚物は下水道に流れていく」
    「はい。わかりました」
    　銀色の小さな取っ手をつまみ。あらためて自分の出したものを見つめると、恥ずかしさが戻ってきた。早くこれを隠してしまいたいという思いで、ゴローは取っ手をぐいと引いて、流れて渦巻く水に一安心する。こんなことでいちいち驚いては身が持たないなあと、決意を新たにして、トイレの躾はとりあえず完了したのだった。

    　数分後――。
    「す、すごいですね。手をかざしただけで水がでてくるなんて！　そ、それに石鹸もあわあわでした！」
    「俺もここへ来たすぐは戸惑ったが、どうやらセンサーという物が関係しているらしい」
    「せんさー！　なんでしょうね？」
    「わからん」
    　トイレから出た後、向かいにある洗面所で手を洗ったゴローは、その文明の利器に大変感動していた。やや興奮気味に尻尾を振る犬に対して、龍牙も心なしか気を良くしている。らしい。
    　表情を変えずソイレントという豆をつまみながら、彼は古びたちゃぶ台の前に正座していた。その正面にゴローも正座して、同じように豆を口へ運んでいた。
    　空気清浄機はテレビの隣に鎮座して、コーコーと空気を混ぜていた。
    「こちらの味の方がお前は好きか？」
    「んむぐ……はい、おいしいです……でもお昼に食べたものもおいしかったです！」
    　豆の味は、昼に食べた物とは違い、自然な甘味と旨みが広がる、かぼちゃのような、蒸した芋のような味であった。
    　もぐもぐ。ぽりぽり。皿の中の豆は徐々にその数を減らしていく。
    　簡素な部屋で、質素な食卓を囲む二人だが、それはそれで様になっていた。

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Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:		 2018年06月02日 23時56分50秒
  • 　さて食事も終わり、水で口の中をさっぱりさせたゴローは、龍牙の背中が洗面所へ消えていくのを黙ってみていた。食器の片付けは自分が……と名乗りを上げたものの、彼は「犬は食器を洗うものではない」と言って聞かなかった。
    　水の流れる音がすると、またあの不思議な蛇口を思い出して、ゴローはわくわくしてしまう。
    　知らないものばかりのこの世界で、不安が消えればあとに残るのは好奇心だった。
    　天井の明かりも“蛍光灯”という物だと教えてもらった。テレビは……ちょっとよくわからない。でもきっとわかる日が来るだろう。
    　このことを、元の世界に戻ったらどんな風に話そう……。
    　ご主人さま、どうしてるかな……。
    　不意に訪れる胸の痛みを、ゴローはぎゅっと小さな手で握りこむ。
    「ご主人さま……」
    　できるだけ考えないようにしていたが、やはり一人になると思い出して切なくなる。
    　寂しい、首輪に触れて、ゴローは耳をしょんぼりと垂らした。
    「どうしたゴロー」
    「あっ、リューガさん……」
    　見上げた新しいご主人様は、濡れた皿をタオルで拭きながらベッドの方へ歩いていく。
    　申し訳なくて顔を下げたままのゴローを、気にしたりはしない。すれ違いざまに頭を撫でてくれることもない。それでまたゴローは心細くなった。　
    　背中で棚を引き出す音が聞こえた。食器のカチャカチャという音に混じり、豆のジャラジャラと鳴る音も聞こえた。
    　でもゴローの名を呼ぶ声は聞こえてこなかった。
    　ゴローは思う。新たなご主人さまはいい人だ……すこし変わっているけど、大事にしてもらっているのはわかる。だけど、なぜだろうか、隔たりがあった。それも大きな隔たりが……。
    　ゴローは龍牙との関係をそのように捉えてしまう。そしてまた以前のご主人様と比較してしまう。
    「ゴロー」
    「あ、はい……」
    　振り向くと大きな体が蛍光灯の光を背に受けて、影のかかった無表情な顔は、ゴローに恐怖を与えた。尻尾がしゅんと縮こまって、床に目を落とした。
    　その頭を、無骨な掌がガシガシと撫で回した。
    「風呂だ」
    「あ、いえ……ぼくは、今日はいいです」
    「そうか、犬は毎日風呂に入れる必要はないか」
    　頭から離れる手を感じて、ゴローは小さく「あっ」と言葉を漏らした。
    　そして遠ざかっていく背中を見つめたまま、首輪を握りしめた。

    ☆

    　翌日の朝。つけた覚えのないテレビからチュンチュンと小鳥の声が聞こえて、ゴローは顔を上げた。正面にはノリのきいたスーツをぴしっと着こなし、ネクタイを引き上げる龍牙の姿があった。手には頑丈そうな通勤用鞄が握られている。
    「俺は仕事に出かける。留守番は任せたぞ」
    「ふわぁい？　いってらっしゃぁい……」
    　寝ぼけたまなこをぐしぐしと手の甲で拭うゴローに、龍牙は一声かけて玄関を出る。
    　バタン――重い扉が閉まる音を背に受けて、アスファルトを革靴が鳴らす。人工太陽の光が街の朝を照らし、龍牙と同じ格好の人々を歓迎する。空気は澄んでいる。飛んでくるおはようの声に、龍牙もおはようと言って返した。

    　時空管理局、中央ビル八階の事務課二号室は、本日もカタカタと軽快な音を立てて事務職員の指先を忙しく躍らせていた。書類の山が積み上げられた机は、隣の顔をうかがうのも一苦労だ。
    「あっははは。本当に買っちゃったんだ。あの違法店で」
    　寿千代子のはっきりと耳に通る甲高い声は、書類越しに龍牙を笑った。
    「違法だったのか……」
    「違法っていうか、グレーゾーンっていうか……こっちの取り漏らしも悪いんだけどね……それで、いくら出したの？」
    「七十万だ」
    「へぇー、またずいぶんぼったくられたわね」
    「定価ではないのか？」
    「まあ妥当な値段よ。ほらこれ、その子犬の詳細」
    　寿はカタカタと器用に片手でキーボードを打ち続けながら、赤いネイルの先で書類の山から一枚の資料を抜き出し、隣に放り込んだ。
    　ひらり、空中を舞う紙切れを、龍牙もキーボード片手打ちしながらパシッと掴み、顔の前に持っていく。
    　すかさず声が飛んできた。
    「高かったのは中の神狼も含んでの値段だったからよ。いわゆる珍品ってやつね。で、彼にそれ封印したのが子犬のご主人様ってわけ。これがまた一癖も二癖もある女でね……」
    「お前みたいにか？」
    「殴るわよ」
    　ぴたり、と一瞬だけ室内のキーボードの音が消えて、またカタカタと鳴り出した。
    「まあその神狼はこの世界じゃ発現しないんでしょうけど、小さな体にバケモノなんか入れられてちゃ安定もしないでしょうね。寿命も短いんじゃない？」
    「ふむ」
    「異常はなかった？　咳してるとか、体になんか変な模様が浮かび上がってるとか」
    「特にはないな……体は見ていないが」
    「風呂でもなんでもいいからちゃんと見て、なんかあったら報告ちょうだい」
    「寿、お前にしてはやけに気にするな」
    「仕事だからね」
    「ふむ」
    　龍牙は紙に書かれた情報を目で追いつつ、部屋に残してきたゴローの事を考える。
    「手が止まってるわよ」
    「……まあいい、ゴローの中にその何某かが存在していたところで、犬は犬だ」
    「ははは、そりゃ言えてる。てかあんたゴローって名前つけたの？　あいっかわらずセンス無いわねぇ」
    「ではなんと名付ければよかったのだ」
    　龍牙が紙を乱雑に放り返すと、寿は長い後ろ髪を鞭のようにしならせてパシッと自分の机の上に叩き落した。
    「私なら、白き獣のヴェアヴォルフとか……かな？」
    「言い難いな」
    「適当でいいのよ適当で」
    　若干の不満が含まれた返答に、龍牙もふむと返して、また事務仕事に注力した。

    　ファーーー。午後十八時のサイレンはこのビルの屋上から鳴り響いていた。
    　龍牙は既に仕事を終え、鞄を握って椅子を下げた。
    　隣のデスクに置かれていた紙の山も、およそ二割ほどの高さになっていて、小さな顔が龍牙を横目で見ていた。
    「先に失礼する」
    「おつかれさーん。あ、そうだ龍牙。あんた明日休みでしょ、ゴローくん散歩にでも連れてったら？」
    　カタカタと打ちつつ、寿の長い髪が意思を持って机の上から一冊の本を取り上げ、それを龍牙の前に運んだ。『犬畜生の躾け方１００選』という挑発めいたタイトルだが、これには犬の飼い方が詳しく書かれているのだと寿は言う。そして龍牙もふむふむと受け取りながら、懐に手を差し入れた。
    「いくらだ？」
    「察しがいいわね。五万でどう？」
    　無言で財布を開く龍牙の手を、寿の髪がぐるりと巻いて止めた。
    「馬鹿正直に言われたとおりの値段で買わないの」
    「そういうものなのか？」
    「いや私はありがたいんだけど、あんたはもっと物の価値を覚えた方がいいと思うわよ。後々後悔するんだから」
    「価値か……わからんな」
    　そう言って髪の毛をほどき、抜き出した五万円を髪の毛に乗せて返すと、寿も今度は文句をいわず、ため息だけ吐いてお金をデスクにしまった。
    「まいどあり」
    「では失礼する」
    　龍牙は今度こそ部屋を出て行った。

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Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:Re:		 2018年06月02日 23時58分18秒
  • 　その日の夜。食事を終えて静かになったリビングで、龍牙は本を開き、ベッドの端に腰掛けていた。正面にはお座りをするゴローの姿もある。嬉しそうに尻尾を振り、龍牙を見つめたまま何かを待っていた。
    　おもむろに龍牙は手を差し出し、言った。
    「お手」
    「はいっ」
    「おかわり」
    「はいっ」
    　たしっ、たしっ、と丸めた小さな手を、龍牙の大きな掌に乗せて、ゴローは頭を差し出した。
    　そのままわっしわっしと頭をなでてもらうと、またすぐにもとの姿勢に戻る。
    　本に書いてある、犬のしつけを実践中のようだ。
    　ふむふむとうなずく龍牙を見て、彼は躾が上手くいっていることに対して気を良くしているらしいのだな、とゴローは思う……のだが、龍牙の感情はいまひとつ伝わってこない。
    　淡々と躾は続く。
    「ちんちん」
    「はいっ」
    「伏せ」
    「はいっ」
    　ぺたんと床に伏せるゴローの首元で、ジャラリと鎖が鳴る。そのまま「待て」を続けているゴローの頭に近づいて、龍牙は膝立ちになった。
    「ゴロー、この本にある体勢で“待て”だ」
    　両手を床につき、膝を曲げて、四つん這いになる。まるで本物の犬のような格好のまま、ゴローの尻尾はぴんと後ろにのびていた。
    「ふむ、ブラシが無いな……明日買いに行くか。手でもいいのか？」
    　龍牙はぶつぶつと呟きながらゴローの背中の方へ回る。
    　そして勢いよく服を捲り上げた。
    「ひゃっ！？　りゅ、リューガさん？」
    　あらわになる背中は痩せているが、骨ばっているというほどではなく、奴隷として暮らしていたにもかかわらず傷も無い。大変綺麗な肌ではあるが……しかし、その背中一面に、おびただしいほどの魔術的な刻印がなされていた。ちょっとやそっとでは消えないように、深く掘り込まれている。龍牙の手がゴローの背中の皮を伸ばしても、軽くつまみ上げても、決して色落ちることはない。
    　まじまじと見つめ、そして龍牙は難しい顔をした。
    「ふむ……毛がないタイプの犬か。ブラッシングはできんな」
    「う、うぅぅ」
    　ゴローは一瞬だけホッとした顔を見せたものの……やはり裸体を人前に晒すのは恥ずかしい。赤面した顔を押さえる為の手も、今は床についたままであるから、ゴローは下を向いたまま龍牙の視線を浴びる。肌を撫でる感触もむずかゆい。時々びくんと尻や尻尾を持ち上げながら、この行為に耐えて……体を精査する龍牙の手が離れたのはそれから少ししてのこと。
    「風呂に入るぞ」
    「は、はいぃ」
    　ようやく立ち上がれると思った矢先に、ジャラリと鎖が持ち上げられた。
    　ゴローの前に立つ龍牙は、見下ろしながら、その小さな頭に話しかける。
    「そのままついて来い」
    「あ、はい」
    　よちよちと這うように廊下を進んでいく。ちょっとだけ懐かしい感じがするゴローだったが、洗面所で脱衣してバスルームに入ると、その懐かしさも吹き飛んだ。
    　思わず立ち上がる。
    「うわぁ！　なんですかここ！？　これがお風呂なんですか！？」
    　首輪だけつけたまますっぽんぽんのゴローは、前を押さえて驚嘆した。
    　個人用のバスタブなど目にしたことがないゴローには、それが中に入る物だとは理解できていない。そればかりか、目の前にある手桶も、排水溝も、シャワーや蛇口すら目にしたことがなく、しかもところどころにつやつやの金属光沢があり、目に痛いくらいだった。まるで王族のペットになったみたいな気分で、足元のタイルに触れる。つるつるしてる。滑りそう。
    　などと落ち着きのないゴローの後ろから、龍牙も脱衣を終えて入ってきた。
    「そこに座れ」
    　鍛え上げられた肉体はクマのように大きく、雄々しく、そして健康的な色合いで、ゴローの小さな白い肌とはまるで別物だった。
    　龍牙は堂々と、前を隠さずに腰を下ろす。ゴローはいわれたとおり彼の目の前にすわる。両手で前を隠しながら、犬のように。そしてちらりちらりと、龍牙から目を離してバスタブを見る。たっぷりのお湯が溜められいた。こんな贅沢なことはない。
    　やや興奮気味のゴローを前に、しかし龍牙は少し怪訝な顔をしていた。
    「……その刻印は、神狼を封じるためのものか」
    「え？　あ、えっと」
    「気にするな。事情は知っている」
    「そうなんですか……」
    「気にするなと言ったのが聞こえなかったのか」
    「い、いえ！」
    　ぶんぶんと首を振るゴローの頭を、硬い手がガシガシとなでる。気持ちを落ち着かせてやろうと、きっと気を使ってくれているのだなとゴローは思った。そして僅かに目頭が熱くなった。
    　頭から離れた手は、龍牙のあごに添えられた。
    「なるほど、一つ一つは粗雑だが、力を相互干渉させて増幅しているのか」
    「わかるんですか？」
    「詳しくはない。だがこの手の魔法にしては随分と手がかかっているように見える。それに不安定だな。これを維持するのは大変だろう」
    「そう、みたいです……」
    「ふむ、お前のご主人様とやらは、どうやらお前を大事にしていたようだな」
    「……はい」
    　ズキンと胸に響く痛みを堪え、隠そうとしていた涙が一粒だけ目尻に現れた。ゴローはあわてて目をこする。
    「帰りたいか？」
    　唐突にかけられたその問いに、ゴローは答えることができなかった。
    　帰りたい……そう思う気持ちは強い。でも、その方法も何もわからず、ただ問いかけられた言葉に、返答はできなかった。目の前に居る新しいご主人は、自分のことを大切に扱ってくれる。従っていれば生活に困ることもない。
    　だけど……。
    「リューガさんは……ぼくに帰ってほしくないんですよね？」
    「そうかもしれん」
    　真意がわからなかった。龍牙の感情が、ゴローには一切伝わらなかった。
    　彼はなぜ自分を飼ったのか。なぜ飼いたいと思ったのか。それを知れば、自分の葛藤にもすぐにけりがつけられるはずだ。だから、教えて欲しい、とゴローは彼に問う。
    「どうしてぼくを飼ったんですか？」
    　切実な思いを胸に、勇気を出して彼に質問を叩きつけた。
    　だが、龍牙にはやはり伝わらなかった。
    「わからん」
    「……わ、わからんって……そ、そうですか……」
    「だがお前を飼いたいと思ったのは事実だ」
    「そうです、よね」
    　また一つ不安が心に広がっていく気がして、できるだけ悪いことを考えないようにと、ゴローは目をつむった。
    　その頭に、不意に温かい水が落ちてきた。
    「わ、わわっ」
    「動かずそのままじっとしていろ。頭を洗ってやる」
    「そ、そんな……でもぼく奴隷なのに……」
    「お前は犬だ。犬を洗うのは主人の役目だ」
    　全く一切の迷いもない言葉。本当にこの人の心は金属や石でできてるんじゃないか、などと失礼な考えも浮かぶくらいに、やはりゴローには彼の本心がわからなかった。
    　ジャバジャバとかけられるお湯の温かさのせいで、頭はぼーっとして、冷静に物事を考えることもできない。先程の質問も、このまま流されてしまうのか。それでもいいかと、投げやりになると、ゴローはまた一杯の湯を頭からかぶった。
    「も、もう綺麗になりましたから……」
    「そうか。では体を洗ってやろう」
    　桶を置いた龍牙は、ゴローに手を伸ばした。
    　しかしゴローは両手を前に出してそれを遮った。
    「いいい、いえ！　ぼくが先にリューガさんのおせなかをお流しします！」
    　流石に失礼だろうと、ゴローは首を勢いよく振る。
    　ピチャピチャと周囲に水飛沫をまき散らすゴローの姿を見て、龍牙はまた一つ納得のいった顔をした。
    「ふむ。ではお願いしよう」
    「まかせてください。こういうの、なれてますから」
    「タオルはこれを使え」
    　龍牙は壁にかかっていたちいさなタオルを一枚取り、それをゴローに渡して、ゆっくりと背を向けた。
    　ゴローはすぐにバスタブから湯をくみ上げる。これほどたっぷりのお湯を好きに使っていいなんて、贅沢だなぁ。と、先程の暗い気持ちもちょっとだけ紛らわせたところで、顔を上げて龍牙の背中を視界に入れた。
    　そして言葉を失った……。

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Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:Re:Re:		 2018年06月02日 23時59分01秒
  • 「どうした？」
    　それはゴローの目には耐えかねるものだった。
    　一面に大小さまざまな傷があった。深い物では骨や内蔵にまで達したのではないかと、それほどまでに惨たらしい傷跡が残っていた。戦争にでも行ったのかと、ゴローは考えたが、いやそれだけではこうはならないだろうとすぐに改めた。元の世界の酒場で、荒くれ者が自慢話として語っていた背中の傷でさえ、この傷のほんの小さな物と同等か、それにすら及ばないくらい……深くて生々しい。
    「リューガさん……その傷……」
    「以前に住んでいたところでつけられた傷だ。気にするな」
    「き、気にするなっていわれても、気になりますよ」
    「……ふむ」
    　龍牙はしばらく考えた。
    　静かになったバスルームで、蒸気が天井に水滴を作り、ピチョンと湯船に落ちる。
    「背中を洗うのはもういい」
    「すみません……」
    　振り返った龍牙は、ゴローの手の中にあるタオルを受け取り、それを流して壁に掛けなおした。そして自ら湯を被り、ゴローの手を掴み上げた。
    「入るぞ」
    「え？　ええ？」
    　龍牙はバスタブに片足をつっこんで、踏ん張るゴローを引き寄せた。抵抗など無意味と、ツルツル滑る床も手助けして、あっさりとゴローも湯の中へ引きずり込まれてしまう。
    　ザバーン。
    　などと大げさな音を立てて、あふれた湯が排水溝に呑まれていくのを、ゴローは「ああぁ、もったいない」と指をくわえて見送った。
    　龍牙はその大きな体をバスタブの縁につけて、両足を伸ばした。バスタブは彼がちょうど収まる程度の広さがあるようで、その膝に乗ったゴローの身体もちょうど良い高さまで湯に沈んでいた。腹に巻き付いた豪腕は彼の力では外れそうもない。なので仕方なく龍牙の上に座っていた。尻尾は前に出して、耳は邪魔にならないように手前に折り畳んで。
    「こんなお湯のつかいかたしてたら、おこられちゃいますよ」
    「そうだな。では次はもう少し湯の量を減らしておく」
    「そ、そういうことじゃ……いえ、なんでもありません」
    　龍牙に膝の上で抱っこされたまま、ゴローはトイレでの一件を思い出していた。ここは自分が暮らしてきた世界と別の世界で、常識は通用しないんだと。この湯も、たぶん空気みたいに自由につかえるものなんだろうと。また一つここでの生活を学習して、うん、と小さなうなずきを見せた。
    「先程はどうした」
    「はい？」
    　なんの脈絡も無く話しはじめる龍牙に、ゴローは振り返りその顔を見上げた。濡れた髪が海草のように彼の顔面に張り付いていて、少しだけ怖かったのか、また正面を向いて聞き耳を立てる。
    「どうして背中を流さなかった」
    「……いたそうでしたから」
    「痛みは無い。既に硬化している」
    「はい、でも見ているだけで……その……どうしてそんな傷ができたんですか？」
    　自分からたずねておいて、ゴローは内心、また気にするなと言ってはぐらかされてしまうんだろうなと、そう思っていた。
    　目の前の湯の底で揺れる尻尾を眺めながら、しばらく龍牙の返答を待った。けれど彼は答えてはくれない。不安になって、ゴローはもう一度たずねてみた。
    　振り返り、顔を見ながら。
    「リューガさん？」
    「ああ、思い出していたところだ。傷の話だったな」
    　龍牙はあごから手を下ろす。その表情はいつにも増して硬くなっている。
    「……むりにとはいいませんけど」
    「この傷は、俺が前に住んでいたところ……ここから見て異世界ということになるか。そこでつけられたものだ」
    「異世界……それじゃ、リューガさんもここにぐうぜん迷い込んだってことですか？」
    「正確には違う、俺は前に居た世界にとって不要な存在だったから、ここへ送られてきた」
    「不要だなんて……そんなひどい……」
    「仕方ないことだ。俺はあの世界に居た者達を残らず殺そうとしたのだからな」
    「……え？」
    　嘘を言っているようには聞こえない。そして龍牙の口調に感情の色は見えない。ただ当たり前に、自分のやってきたことを語っているとしか、ゴローには思えなかった。
    「お前の世界にも、王は居たのだろう？」
    「はい。いました」
    「そいつ等は、正しかったか？」
    「……わかりません。ぼくは奴隷なので、あまりえらい人とお話したことはなくって」
    「そうか。俺の世界に居た王は、どちらも正しくはなかった。いや、正しい物など何も無かったのかもしれん」
    　――龍牙の語る世界では、人間と魔物の王は幾度と無く戦争を繰り返し、互いに手を取っても、すぐにその手を離して相手を傷つけたという。何度歴史をくりかえしても、それは変わらなかった。神はまるで混沌を楽しんでいるかのように、時折人間に力を与え、魔物に力を与えた。
    　この不毛な連鎖を止められないのかと、龍牙は人間に問うた。魔物にも問うた。しかしその返答として、彼は鋼の剣を、鋭い爪を向けられた。
    　これは天啓なのだと人は言う。これは宿命なのだと魔物は言う。人を喰らわなければ生きられない者もいる。魔物を狩らねば生きられない者もいる。それは龍牙にもわかっていた。だが、戦争はそうではない。ただ全体が流れるままに、どこかの誰かの意思に従うまま、人を、魔物を殺し、嬲り、互いを憎み合わせた。
    　その無意味さを何度伝えても、やはり返ってくるのは同じ言葉だけだった。
    　戯言を抜かすなと、話にならんな、と。
    「だから俺はどちらも殺すことにした」
    「ええっ！？」
    　――人の王と魔物の王をくびり殺し、その無様な姿を双方の群集が集う戦場の真っ只中に晒し上げた。戦争の火種となるものはそれだけではないと知っていたが、それでもきっかけくらいにはなるだろうと思った。事実として、人間と魔物の戦いは一旦終わりを迎えた。
    　そして双方は手を組み、龍牙を目の仇にした。
    　槍が降り、魔法が降り、鉄の武具が牙を剥いた。だから龍牙は向かってくる者の一切に手心を加えず迎え撃った。両の拳は頑強な鎧を貫き、肉と骨を裂いた。魔物の甲殻でさえ容易く打ち砕いてみせた。魔法も槍も通さぬ気の鎧を持って、目の前に立ちはだかる全てを粉砕しつくした。いつしか自分に立ち向かってくる者はいなくなっていた。
    　それからしばらく静かな日々を送っていたが、ある日、空から神の使いが降りてきた。それは龍の形をしていたが、龍牙に向ける瞳は人間や魔物のものと何も変わらなかった。重々しく口を開き、この世界に干渉するなと言ってきた。お前はこの世界の異物だと。
    「だからそいつも殺した」
    「う、うぅ……話はしなかったんですか」
    「話にならなかった」
    「あうぅ……」
    　――それからは地獄のような日々だった。全てが殺意を持って襲い掛かってきた。子供も大人も関係なく、そこに息づく生命全てが龍牙に牙を剥いた。戦いは永きに渡った。いつしか正面から向かってくる者は誰もいなくなり、皆が不意打ちの如く、背中から切り込み、無意味に命を散らせた。
    　龍牙が傷を負ったのはその不意打ちのせいだという。人も魔物も、そうやって背中から切り込んでくる。それがわかって、龍牙はあえて受けて見せた。痛みを分かち合い、己がつけた傷を見て、何かを学んで欲しいと思った。
    　だが……。
    「首の辺りに、一番大きな傷があっただろう？」
    「くび……ごめんなさい、あんまりみてませんでした……」
    「ふむ。まあいい。あの傷は龍に噛まれてできたものだ」
    「ドラゴンにですか！？　そ、そんな、しんじゃいますよ」
    「奴は神の化身だった。その化身が背後から俺を襲ったのだ」
    　――それは、神が龍牙を見放したということに他ならない。交渉などする気も無かったのは、最初からわかっていた。しかしそれでも不意打ちという卑怯な方法で答えを返してきたのには、龍牙も落胆せざるを得なかった。
    　さらにそれだけではなかった、人も魔物も、神の手によってただの抜け殻と化して、異物を排除する為の道具として使われていたという。龍は死に際にそう言ったのだ。
    　龍牙はそんな者達に哀れみを感じ、同時に激しい怒りを覚えた。そして目につくものを手当たり次第に殺し始めた。
    「それからのことは詳しく覚えていないが、複数の人間と魔物が神の力を借りて、俺を罠にかけどこかへ封印しようとしたそうだ。だが上手くいかず、俺はここへ飛ばされたらしい」
    「らしい？」
    「寿からそう聞かされた……同僚の女だ」
    「コトブキさん……」
    「……ふむ。昔話はこのくらいにしておいて、そろそろ上がるぞ」
    「は、はい！　ぼくもそうしたいなっておもってました！」
    　火照った顔をパタパタとあおぎながら、ゴローは龍牙の顔を見上げた。そして手を止めて見入ってしまった。彼が泣いているように見えたから。
    「どうした」
    「い、いえ……なんでもありません」
    　湯気で眉毛が濡れていたのだろう。頬についた滴も、きっと涙じゃなくて汗だったんだろう。
    　ゴローはそう思うことにした。
    　龍牙の声に感情は無く、その行動にもやはり迷いはない。ザバァと湯を持ち上げながら、ゴローと一緒に風呂から上がり、風呂の栓を抜いた。

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Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:Re:Re:
Re:		 2018年06月03日 00時00分13秒
  • 　休日に街を散策するのは、龍牙にとっても久しぶりのことで、人の流れの違いや、新しく漂流してきた建造物に一々立ち止まっては感心を寄せていた。
    　そしてゴローもまた、好奇心旺盛な年頃の少年らしく、尻尾をパタパタさせながら右へ左へと顔を向け、指を差して龍牙の袖をひっぱる。
    「リューガさんリューガさん！　あれはなんですか！？」
    「ふむ、新しい漂流物のようだな。俺も始めてみるものだ」
    「そうなんですか！」
    　アパートからほど近い場所で見つけた新しい漂流物。それは朽ちてボロボロになった列車の客室だった。外側に書かれている文字盤は削れて読めない。内部には人が生活していたような痕跡が残されているものの、今は誰も住んではいない。
    　漂流物の周囲に張り巡らされた黄色いテープには、ＫＥＥＰ ＯＵＴの文字が記されており、管理局の管轄に置かれた印だと龍牙は説明した。そのような物が日々入れ替わり、舞い込んでくるのだと、説明をしつつ、鎖を引いて街の外壁へとたどり着く。
    「うわあ……ほんとに空までとどいてるんですね」
    「ああ。この外壁が無ければこの街は存在していない」
    　ゴローは首が痛くなるくらい体を反らして空を見上げて、きらきらとしたものに目を奪われた。水色の空にまるで星のような光の粒子が流れていた。
    「行くぞ」
    「はいっ」
    　コンクリートの地面から煉瓦の地面へ、そして土へ。統一感が無いのは建物や人だけではなかった。空気も、重力も、この街ではところどころで違っていた。
    　色を変える足元の質感に戸惑いながら、ゴローは龍牙の傍を歩く。そして見つけたのは黒い色の石でできた地下への洞窟のようなものだった。覗き込めば階段が見える。中からは、なにやら美味しそうな匂いが漂ってくる。
    「ここが地下デパートへの入り口だ」
    「ちかでぱーと！」
    　なんだろう、洞窟のようなものの中に市場でもあるのだろうか。ゴローの興味は徐々に高まる。中へ入りたいという気持ちは彼の気を急かす。
    「少し待っていろ、犬を入れていいか聞いてくる」
    「は、はいっ！」
    　龍牙はゴローの頭を撫でて、地下デパートへの階段を下りていった。
    　ゴローはお行儀よくおすわりをして、ハアハアと息を荒くしていた。
    　美味しそうな匂いに鼻先をすんすんと動かし、首を伸ばして龍牙の帰りを待っていると……。
    「野良犬かしら？　でも首輪ついてるわね……ああ、そっか龍牙ね」
    「へ？」
    　不意に後ろから声がして、しかもその言葉に主人の名前が入っていたとあれば、ゴローは振り向かずにはいられなかった。
    「はじめましてゴロー君」
    　まず目に入ったのは赤を基調として橙色も僅かに混じる長い髪の毛だ。眉毛も同じ色をしている。目は燃えるような赤と白の光を湛え、人外らしき威圧感を放つ。唇にも赤。洋服も白ティーシャツの上に赤ジャケットという、なんとも目に痛い派手な色合いをしている。スキニージーンズで足を長く見せようとしているらしいが、背は低い。それでも厚底のブーツに乗っているので、ゴローは見上げなければならなかった。
    「あなた龍牙の犬でしょ？　私は寿千代子。チョコって呼んでね」
    「コトブキ……チョコさん？」
    「うん。そうそう、えらいえらい」
    　わしわしと髪をかき混ぜる感触は、赤いネイルのせいでチクチクしていた。ゴローはムズムズしながら、この女の雑な態度に懐かしさを覚える。
    「ちゃんと散歩に連れてってくれたんだ。よかったね」
    「リューガさんのお知り合いのかたでしたよね。きいたことがあります」
    「あらら？　あいつ私のこと紹介してくれたの？　めっずらしー」
    　気を良くしたのか、寿は手で口元を隠して笑っているようだった。
    　ゴローも、初めて会う相手だというのに、すっかり警戒心を無くして、にこにこと尻尾など振っていた。

    「許可が下りた。行くぞゴロー……ふむ？」
    「あ、おかえりなさいリューガさん」
    　今度は地下デパートの入り口から声が飛んで、またゴローを振り向かせた。
    　一緒に寿の顔も持ち上がる。ニヤリと笑って、同僚との対面を喜ぶ。
    「随分仲良しじゃない。リューガさんだって。ご主人様って呼ばせなくていいの？」
    「別にかまわん」
    「あら冷たい。そんなんじゃいつまで経っても本当のご主人様にはなれないわよ」
    「ふむ」
    　ずばずばと言う寿の前で、龍牙はあごに手を添えてゴローを見下ろした。
    　ゴローの表情には少し影がかかってみえた。だから龍牙はすぐに手を伸ばし、がしがしがしと頭を撫でてやる。
    「こいつは俺の犬だ」
    「リューガさん……」
    　ゴローも気を落ち着かせ、できるだけ笑顔を作ろうとした。
    　まだ二人の間にある隔たりは、完全にはなくなっていない。
    　そんなギクシャクした二人を見ながら、寿は何かを覚ったように、腰に手を当てて目を細めた。
    「ま、無理はしないことね。ゴロー君も、もしお家に帰りたかったら、管理局に頼めば戻してもらえるんだから。その時はちゃんとご主人様に相談しなさい。わかった？」
    「あ……そう、なんですか」
    「わかったかって聞いてるの」
    　赤い爪の先で耳を強く弾いて、寿は顔を下ろす。
    　そうして振り返ったゴローの鼻先を小突きながら、自分の望む返答を要求した。
    　ゴローはあわてて一歩下がる。
    「わ、わかりました！」
    「うん。いい返事よ。それじゃお先に」
    　コツコツと硬い靴底の音が階段を下りて、地下デパートへ消えていった。

    「あいつが寿だ」
    「あ、はい。チョコさん……でしたね」
    「そうだ。ガサツだがあれはあれで考えがあって行動している。気を悪くするな」
    「そ、そんなことありませんよ」
    　頭に残るちくちくを思い出しながら、ゴローは鎖を持ち上げて龍牙の手に握らせた。
    「おさんぽ、まだとちゅうでしたよね」
    「ああそうだな。では行くぞ」
    「はいっ！」
    　ゴローの笑顔を受けて、龍牙は背を向けた。
    　迷いなく歩くその手には、しっかりと鎖が握り締められている。ゴローは彼のすぐ後ろをついて歩いた。スーツの中に隠れた背中の傷を思い出しながら、寿に言われたことを頭の中で反芻する。自分の世界に帰れる……けど。もうちょっとだけ、この狭い世界を見て回ろう。龍牙さんが飽きるまで……。それとも、自分が耐えられなくなるまで……。
    　先の見えない螺旋階段に、終わりが見えた。
    　こんなふうに、いつかは光明が差し込むだろうと、ゴローも尻尾の先で陰気を振り払った。

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Re:Re:		 2018年06月03日 00時01分37秒
  • 　――巨大地下デパート。
    　この狭い街に住む人々の嗜好品を一手に引き受ける市場であり、外界からの漂流者達が生計を立てる場でもある。光を嫌い地下で暮らす者もいる。

    「ついたぞ」
    「うわあ！　すごいです……」
    　龍牙のとなりに出て、ゴローは目の前の光景に圧倒された。
    　入り口から一番遠い壁が見えないほどの広さがあり、上の街よりはるかに広い。行き交う人の装いも、どこか自分の居た世界に似ているとゴローは思った。天井は龍牙が二人縦に並んだくらいの高さしかないが、ところどころに明るい照明がぶら下がり、昼間と同じ明るさがあった。天井の色も空と同じ。そしていくつもの換気扇が取り付けられて、内部の空気を循環させていた。
    「ペット用品は２５―Ｂ区画か」
    　龍牙は入り口の案内板の文字を見てゴローの鎖を引いた。
    　正面の大通りにずらりと並ぶ商品の山を、ゴローはしげしげと眺めつつ歩いた。匂いに気を取られて立ち止まると、すかさず商人達が声をかけてくる。
    「よっ！　おにいさん方。今日は良い品揃ってるよ！」
    「わ、おいしそうな木の実ですね」
    「そうだろそうだろ、なんたって産地直送！　こいつぁこの辺じゃ滅多にお目にかかれない代物だぜ？」
    　そう言って片手で赤い洋ナシのようなものを差し出すのは、ひょろりとやせ細った猫背の男である。派手な模様の絨毯にあぐらをかいて、膝をバシッ！　と叩くと、ゴローの背筋も伸びた。
    　頭には白い布がぐるぐる巻きになっていて、異様に長いあごヒゲを、皺のある指先でピンと張る。目はそのヒゲと同じくらい細い。男の隣には、手に握られているのと同じ果実が山積みにされていた。
    「これ、なんていうんですか？」
    「オフランスってぇ、名前だったかな？　俺も忘れちまったぃ」
    「おふらんす……あまいにおいがします」
    「あまいよー。あまい！　ほっぺがトロけちまうくらいさ」
    「じゅるり……」
    　思わず唾をぬぐうゴローだったが、不意に首輪を引っ張られる感じがして振り返った。
    　鎖がピンと張っていた。龍牙の背中が人にまみれて、もう見えないところにあった。ゴローの足も当然そちらにフラフラとついていかねばならない。
    「わわっ、おじさんごめんなさーい！」
    　あわてて床を蹴る。ザラザラとしていて硬いねずみ色の床は、裸足のゴローには少しだけ辛かった。鎖をたぐり寄せるようにしながら、人を掻き分けて進むと、龍牙はもう目の前だった。
    　この場所に一人だけ目立つスーツ姿の大男。ゴローは声を出してその視線を奪う。
    「ごめんなさい。おいしそうな木の実があって、ついのぞいちゃいました」
    「ふむ。木の実が欲しかったのか」
    「欲しかったってわけじゃありませんけど」
    「そうか。何か欲しい物があれば言え。それと、不用意に離れるな。迷子になるぞ」
    「ごめんなさい……」
    「謝らなくてもいい」
    　がしがしと頭を撫でられ、今度は二人でデパートの大通りを歩いた。
    　様々な匂いが混ざり合う。ハーブや木の実を扱う店からは甘く刺激的な香りが、機械類を扱う店からは油と錆の匂いがした。ときおり刺激臭がすると思えば、化学薬品を混ぜる白衣の男が目に入り、その手元で色を変えるフラスコに、ゴローは興味を寄せる。単なる客引きにも残らず目を通して足を止めるゴローに、龍牙は歩幅を狭めて歩いた。２５－Ｂ区画まではまだ距離があるらしく、龍牙の目は遠くを見ていた。
    「すごいところですね」
    「ああ。活気がある。お前はこういうところが好きか？」
    「はい！」
    　尻尾を振るゴローの頭に手を乗せ、軽く撫でながら、龍牙は「ふむ」とまた納得するように呟いた。

    　しばらく道なりに人にもまれ、目的のペット用品売り場についた二人は、店主らしき小さな少女の前で立ち止まった。装いは正しく魔女といった具合である。
    「いらっしゃ～いませぇ♪」
    　ヤドリギをくくりつけた濃い紫色のつば広帽子を、木の杖でくいっと持ち上げ、鈴の音の声で二人の客に媚を売る。立っているのか座っているのか、サイズの大きなローブを着ているので判断がつかない。首からは茶色の小さなポシェットをぶら下げていて、そこにお金や貴重品をしまっている。
    　少女が座る絨毯の手前には、ずらりとペット用のブラシや遊具が並んでいた。そのほか、首輪や鳥篭や散歩用のリードなど、種類は様々。さらに背中側には自作のペットフードと思われる袋が沢山並んでいた。香水や遊具のような物もある。
    「あら？　そちらの子犬ちゃんは、このあいだ拾った子によく似てますねぇ……」
    「あ、はい、たぶんそうだと思います」
    　ゴローがそういうと、少女はぱあっと笑顔をはじけさせて手を打った。
    「やっぱり！　じゃああの夜うちの裏でぐったりしてた子犬ちゃんなのですね！」
    「は、はい……」
    「ということはこの人が……ふむふむ」
    　ゴローは少女と視線を交わして、こくりと頷いた。
    　少女はやや興奮気味にゴローと龍牙を見比べて、龍牙の方へ身を乗り出した。
    　何のことだかわからない龍牙は黙って状況を見下ろしていたが、少女はさらに前のめりになって、彼の大きな手を両手でつかんで目を輝かせる。
    「お買い上げありがとうございましたぁ♪　まさかあんなに早く売れるなんて思ってもみませんでしたよ。おかげで敷地代の返済も残り僅かになって、おねえちゃん達も喜んでましたっ♪」
    「ふむ……なるほど、ペットショップの店員の姉妹か」
    「はい、七女のチェルシーです！　以後お見知りおきを♪」
    　話によると、この元気な少女はティンクル☆スターの女店員の妹で、七人姉妹の末っ子だという。ビル前の木の家に住んでいて、そこでペット用の器具や食べ物や香水を作成し、こうやって地下デパートで売って生計をたてているそうだ。今日はチェルシーがここの店番をやっているが、姉妹全員で一日交代に店番をするのだという。
    「もしかして、今日はそちらのわんちゃんに何かプレゼントですかぁ？」
    「わんちゃんではなくゴローだ」
    「ゴローちゃん！　かわいい名前ですね！　おっとっと……さてさて、何がご所望ですか？」
    　頭の上からずり落ちそうになる帽子を器用に杖の先で戻し、チェルシーは二人にたずねた。ゴローは先程からおどおどしたままで、代わりに龍牙が腰を屈めて品物を指差した。
    「このブラシをくれ……あとは……」
    　ふむ、と品物を吟味する龍牙だったが、どれを買えばいいか決めかねていた。
    「これなんかどうです？　きっとそのわんちゃんにもお似合いですよ♪」
    「首輪か……」
    　チェルシーが取り上げたのは、ファンシィな黄緑色の首輪だった。
    　ブラシと合わせてもそう高くはない値段である。龍牙は品物を受け取り、懐から財布を出した。
    「ふむ。ではこれとドッグフード……というのは犬の餌だな？　それも一袋買いたいのだが」
    「お買い上げありがとうございますっ♪　今用意しますので、少々お待ちくださいね」
    　ささっとお金を受け取り、ポシェットの中に仕舞いこむところも、姉とよく似ている。そんな感想をうかべながら、龍牙はブラシと首輪をポケットにつっこんで、ゴローを見た。
    「ゴロー、先程からどうした？」
    「えっと、なんでもありません……」
    　ゴローの尻尾は不安そうに垂れていた。
    　片手で首輪に触れる仕草を、龍牙は黙って見ていた。ここへ来てからずっと、肌身離さず着けていた。それは奴隷の証であると龍牙も知っている。しかしゴローの表情からうかがえるのは、苦しみや憎しみではなく、安らぎや懐かしさ、そして悲しさだった。
    　以前のご主人様にもらった、大切なものなのだろう。
    　そう龍牙にも察することができた。
    「ふむ」
    　頭に手を乗せると、ゴローは首輪から手を離して、撫でられるのを待っていた。
    　不安そうだった尻尾も、徐々に元気を取り戻していく。
    「帰ったらブラッシングをして、食事にするか」
    「はい」
    　ガシガシと、硬い掌で撫でられて、ゴローの頭はふらふらしてしまう。それでも、嬉しそうに口元が緩んでいた。

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Re:Re:Re:		 2018年06月03日 00時02分44秒
  • 　二人がそうやっているうちに、店番のチェルシーはドッグフードの大きな麻袋を両手に抱え、ローブのすそを引きずるようにして、ドカッと二人の前に置いた。
    　ぶかぶかの袖でひたいをぬぐう。
    「ふは～、つかれました。こちらがドッグフードです。ちょっと重いですけど、いいですか？」
    「ああ、かまわん」
    　龍牙は片手で袋の上を握り、軽々と肩にかける。
    　まるでプレゼントを担ぐサンタクロースのような格好だが、スーツに麻袋というヘンテコな組み合わせは道行く人の目を引き付けた。
    「まあすごい！　力持ちですねぇ♪」
    　商売人の鑑であるチェルシーは、ニコニコしながら手を打ってお世辞を言った。
    　龍牙の目は既に地下デパートの入り口を見ていた。世辞など気にもとめず、ゴローの鎖を引く。
    「帰るぞ」
    「あ、はいっ！」
    「またのご来店を～♪」
    　手を振るチェルシーの声に、ゴローだけが振り返って小さくお辞儀をして、人ごみの中をずんずん進んで行った。

    　やがて出口に差し掛かるところで、ゴローはハッと我に返った。目の前にある重そうな麻袋を、ぐいぐいと下から押し上げるようにして龍牙を振り向かせる。
    　顔には焦りの色も浮かんでいた。
    「ご、ごめんなさいリューガさん。お荷物もたせてしまって……ぼ、ぼくが運びますから」
    「この程度の重量なら問題ない」
    「い、いえ！　でも……ぼく……」
    「気にするな」
    　ぐいと麻袋を引くゴローの手を振り切るように、龍牙は階段をあがっていく。
    　来たときとさほど変わらぬ歩調で、疲れも感じさせないその背中に、ゴローは何度か手を伸ばしたが、ついにその荷を持つことができなかった。
    　目の前にある鎖を抱え、とぼとぼと背を落としてついて歩く。俯いていたからか、外の光に気付いて顔を上げた瞬間に、まぶしさに目をやられそうになって、ゴローは腕でひさしを作った。
    　それほど長く地下にいたわけでもないのに、朝よりも高く上った人工太陽の光が街の外観をがらりと変えていた。不揃いな町並みが、たった数分、数時間で入れ替わっているのではないか？　もしそうだとしても、自分は気付けないだろうなと、ゴローはまた首輪に触りそうになる手をぐっと握りこんで、胸に押し当てた。
    　ジャラジャラ――。
    　鎖が徐々に伸びていくのに気付き、大きなご主人様の背中を追って駆ける。
    　自分はもう奴隷ではない……この世界では、龍牙のペットなのだ。その自覚が芽生えつつあった。それが、ゴローの胸にまた一つ影を落として、尻尾は力を無くしてアスファルトの上に伸びていた。

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Re:Re:Re:Re:		 2018年06月03日 00時03分38秒
  • 　部屋に帰ると龍牙はリビングの明かりをつけて、ベッドの上にブラシと首輪を置き、麻袋をテレビの前に立てかけた。ゴローはちゃぶ台の傍に正座して、龍牙が着替えるのを待っていた。コーコーと音を立てる空気清浄機にただいまを言うのも忘れない。もうすっかりこの場所がゴローの特等席である。
    　さて、いつもの部屋着(下着)に着替え終わった龍牙は、ベッドの縁にどかっと座り込んで、いつものようにゴローと向かい合う。しかし、今日は黙りこくっているわけではなかった。口元を触りながら、ふむと一つ。
    「ドッグフードというのは、どんな味がするのだろうか」
    「えっと、ぼくもわかりません。いっしょに食べますか？」
    「そうだな」
    　龍牙は麻袋に近づき、ゴローのところへ運んだ。
    　ドサッと床に置いて袋を触ると、奇妙な触り心地である。中には小さな粒が山ほど入っているらしい。龍牙は、いつも食べているソイレントを想像しながら麻袋を縛る紐に手をかけた。
    　紐をほどいて上部を開くと、麻袋の中はビニール製の二重構造で、匂いが外に漏れないようになっていた。だから二人とも気付かなかったが……開封してすぐに、龍牙は顔をしかめる。ゴローなど鼻をつまんで変な顔をしていた。
    　肉のような、それでいて野菜のような。しかし、どちらかといえばそれらの作物を育てる為の肥料に似た強い臭気といった方が正しいか。龍牙の感想としてはそのようなところだった。
    「これは食べ物なのか……」
    「うぅぅ、すごいにおいです」
    　龍牙の指がつまみ上げたのは茶褐色の固形物だった。潰せばサクッと音を立てそうな質感である。一つ自分の口に放り込み、もう一つとってゴローに差し出すが、ゴローは両手を振ってお断りの意思を示した。
    　ガリッ、コリッ……
    　龍牙の口から聞こえてくる音をゴローの耳が拾い上げ、ぴくりぴくりと反応しながら、彼の感想を待つ。
    「ふむ。これは、どうやら食べ物ではないらしい」
    「うっ……やっぱりそうなんですか」
    「お前は食わんのか？」
    「えっと、はい……ちょっと、たべられそうにありません」
    「やはり支給された物を食べるのが一番だな」
    「はい」
    　龍牙はまだ口の中に残る匂いを気にしながら、洗面所へと去っていった。
    　開封されたままの麻袋からは強い臭気があふれ出して、ゴローは鼻をつまんでいた。心なしか空気清浄機の音が大きくなり、テレビからは「おええ」という声が聞こえたような気がした。

    　麻袋はきつく縛りなおされて、玄関の隅へと退散した――。

    　気を取り直して、龍牙はベッドの下の棚から食器とソイレントを引っ張り出す。
    　ゴローも空気清浄機を片付けて、昼食の準備を手伝った。
    　質素な食事に華をそえるべく、龍牙はテレビの電源を入れる。
    　びくり、とゴローの背筋が伸びたけれど、今日のテレビが機嫌が良い。聞こえてきたのは怨念のような声ではなく、さわやかなクラシック調の環境音楽だった。
    　～♪　～♪
    　ゴローは流れるリズムに合わせて耳と尻尾をゆらゆらさせながら、豆をつまんでくちに運ぶ。その楽しげな様子に龍牙も関心を寄せながら豆をつまむ。二人のささやかな昼食は、コツコツと皿をつつく音と共に過ぎていき、音楽が終盤に差し掛かるころには手を止めて、コップの水でごくりと喉を通した。
    「ごちそうさまでした」
    　ゴローの方が少しだけ遅れて食べ終わり、食器を片付けるのは龍牙の仕事である。早々に皿を重ねて洗面所にもって行く。その後姿から目を離して、ゴローはベッドの上にある首輪を気にしていた。
    　……元の世界に帰りたい。
    　その気持ちが大きくなるほど、胸が苦しくなっていく。帰る手段はある。そう教えてくれた寿は、嘘を言っているようにはみえなかった。龍牙に頼めば、きっと彼は自分を元の世界に戻してくれるだろう。ゴローにはなんとなくそれがわかっていた。
    　わかっていたのに……。
    「どうしたゴロー」
    「なんでもありません」
    「ふむ」
    　――結局、ゴローは言い出せなかった。
    　躾の合間にも、お風呂でも、言い出すタイミングは幾度となくあった。龍牙もそんなゴローの様子を察して「どうした」と、いつもの口調で声をかけていた。何度も顔色をうかがうように覗き込んでいた。
    　でもだめだった。
    　ここへ来たすぐ、あの七姉妹に拾われてすぐのころなら、ゴローは迷わず口にしただろうし、実際にペットショップへ連れて行かれた際には何度も叫んでいた。
    　元のところにかえして、と。
    　その一言が、今はどうしても言えなかったのだ。

    　風呂あがりに、ベッドに腰掛けた龍牙の脚の間に、ゴローもちょこんと腰掛けていた。
    　大きな手でタオルが頭にかぶせられる。濡れた髪をくしゃくしゃにされ、絡んだ髪を気にしていると、今度は柔らかなブラシがゆっくりと解いていった。白銀の毛並みは美しく天使の輪を作り、耳がぱたぱたと熱を払う。手入れをしてもらう心地よさに、頭を揺らしていたら、ゴローは気付かず龍牙の胸にとんと頭を押し付けていた。
    　安心感が胸の内に広がって、尻尾が揺れる。
    「尻尾の方もかけてやろう」
    「しっぽは、だいじょうぶです」
    「そうか」
    　龍牙はブラシを枕元に投げて、目の前の小さな頭に手を乗せた。
    　ゴローは、撫でてもらえるのかなと、わずかな期待を寄せたが、そうではなかった。
    　龍牙の手はグッとゴローの頭を前に押し下げて、首輪の結び目にもう片方の手を伸ばしていた。
    「あうぅ」
    　ゴローは龍牙が何をしようとしているのかすぐに察して、小さな声を漏らした。
    　床しか見えてないのに、龍牙の行動が手に取るようにわかった。
    　彼は首輪を新しい物に替えようとしているのだ。ゴローが自分の持ち物であると主張するために。自分がゴローの主人だと主張するために。
    　小さな首ねっこに、古い首輪の結び目に太い指が触れると、ゴローはまた小さくなった。
    　けれど、龍牙はそれ以上なにもしなかった。
    「ゴロー。今朝、寿が言っていたことをおぼえているか？」
    「……はい」
    「そうか」
    　龍牙の手が首から離れても、ゴローは俯いたままだった。
    　胸の辺りで両手をぎゅっと握って、龍牙が口を開くのを待っていた。
    　いつもみたいに迷い無く、お前は自分のものだ、と口にするだろうと、そう思っていた。
    　でも龍牙はいつまで経っても言葉を発しなかった。
    「リューガさん？」
    　無言に耐えかねて口を開いたのはゴローだった。主人の名を呼ぶが、龍牙はやはり答えずに、ゴローの肩をつかんで自分の方に引き寄せた。
    　大きな体は壁のように、ゴローの背中を受け止める。
    「明日は一緒に来い。お前を元の世界に戻す手続きをする」
    「……でも」
    「元の世界に帰りたいのだろう？　それくらいはわかる。だから気にするな」
    　上から覗き込まれて、ゴローも顔を上げた。
    　龍牙は、ほんの僅かだが、笑みを浮かべていた。ゴローにはそのように見えたのに、涙が滲んではっきりとはわからなかった。目尻にできた水滴を、大きな手が拭ってくれた。それだけでまたゴローは涙した。
    「泣くな」
    「だって……」
    　泣き虫なペットを、龍牙はしっかりと抱えて、安心させるように優しく髪を撫でてやる。いつもみたいな乱暴な撫でかたではない、躾の本に書かれていたような、優しい撫でかただった。
    　そうやって……気にするなといわれて、優しくされているのが、かえってゴローの胸を締め付けた。涙は次々とあふれて、服の裾にポタポタと染みを作っていた。
    「ひっ、ひぐっ……ぼく……リューガさんの……ひっう」
    「気にするなと言ったはずだ。鼻水が出ているぞ」
    「ごめんなさいぃ」
    　ずびびびと鼻をすすり上げ、まぶたをごしごしして、ゴローは何度も深呼吸をした。
    　そのたびに喉からあふれてくる嗚咽で咳き込んだ。
    　――前向きに、明日は明日の風が吹くと、そうやって気楽に考えて生きてきた……それは前の世界でのこと。一人迷い込んだこの狭い世界では、傍にいて支えてくれるものなんて何一つ無かった。気がつけば狭い鉄檻の中に閉じ込められ、乱暴に体中を調べ上げられていた。叫んでも助けてなんてくれなかった。まるで見世物のようにされ、売り飛ばされるとわかったとき、ゴローはあらためて自分の無力さに気がついた。
    『犬。お前の名前はゴローだ』
    　そんな不安に塗りつぶされていた自分を、この人は拾い上げてくれた。
    　名前をつけて、可愛がってくれた。一緒に居て、安心感をくれた。散歩にも連れて行ってもらった。
    　そんな人を、自分は捨てて去っていこうというのだ。
    　なんて勝手なんだろうと思う、その気持ちと、元の世界で自分を待つご主人さまを思う気持ちが、ゴローの胸の中で葛藤を続けていた。小さな体では抑えきれないほどの苦痛。幼い頭では解決できない気持ちの悪さに、眩暈すら覚える。
    　だから、泣くしかなかった。
    　ゴローは何度も龍牙に謝った。謝って許してもらおうとしていた。
    　やっぱりここは自分の居るべき場所じゃない……そう、言えず、ただ泣くことで彼に自分の気持ちを伝え続けた。

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Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:Re:Re:		 2018年06月03日 00時05分29秒
  • 　翌朝、ベッドで目覚めたゴローは、お腹にかけてあるタオルケットをはぐって頭を持ち上げた。泣き疲れて眠ってしまったのだろう、枕は涙と寝汗で濡れていた。
    「起きたか。朝食はそこに置いてある。食べたら体を洗うぞ」
    「あ……はい」
    　のそのそとベッドから這い降りて、まだおぼつかない足取りでふらふらとちゃぶ台の前に腰掛ける。この見慣れない食器と食事にも、さよならを言っておかないといけないかな。などと、寝ぼけまなこで豆をつまみながら考える。テレビからは小鳥のさえずりが聞こえていた。昨日は楽しい音楽をありがとう、そう心の中で感謝を伝えると、テレビは明るい音楽で応えてくれた。
    　龍牙は支度を済ませて窓の傍に腰を下ろしていた。硬そうな通勤用鞄に肘を乗せ、視線はゴローをじっと見ている。けれどゴローの方は龍牙を直視できずに、ぽりぽりと豆をつまみ続けていた。

    　食事を終えて、ゴローは食器を手に洗面所へ向かった。今日は龍牙が手を出すよりも早く行動して、しっかりと自分でお片付けを済ます。
    　それから風呂のシャワーで汗を落として、タオルで綺麗に乾かして。ブラッシングもしてもらった。服は、昨日汚してしまったのでクローゼットの中で乾かしている。なので今は、ぶかぶかのワイシャツを龍牙から借りていた。
    「さらさらしてますね」
    　白い布地の質感を確かめながら、筆のような尻尾が裾をパタパタとめくりあげる。余った袖も同じようにパタパタ揺らして、背中やわきの下を確認していた。
    「へんじゃないですか？」
    「問題ない」
    「えへへ、よかったです」
    　首輪に繋がる鎖を、袖にかくれた手で握り、龍牙に差し出すと、彼はしっかりとそれを受け取り、鞄を握って玄関へ向かった。足取りはやや緩やかに、ゴローの歩幅を考えて歩いている。それがわかって、ゴローも少しだけ歩幅を広げた。
    　――ギイと重い扉が開かれる。
    　外の明るさは、部屋の中とは比べ物にならない。飛んでくるおはようの声も、部屋の中に居たら全く聞こえないのに、外に一歩出れば、耳を押さえたくなるくらいに活気付いていた。まるで市場に出かけたときみたいな感覚で、ゴローは胸をキュッと握る。
    「行くぞ」
    「はいっ！」
    　元気に、ご主人様に返事をして。二人はビルを目指した。

    　道なりに数分。
    　ビルはすぐ目の前だったが……龍牙はその入口で立ち止まり、難しい顔をしていた。
    「ふむ……」
    　ペット禁止――その張り紙をあらためて確認して、龍牙はゴローを見下ろす。
    「ぼくはここで待ってますよ。リューガさん、おしごとがんばってきてください」
    「そうか、では昼休みまでここに繋いでおくとしよう。用があれば鎖を外せ。簡単に取れるようにしておく」
    「はいっ、ありがとうございます」
    　龍牙は生垣の小さな木に鎖を巻いて、ゴローの頭を軽くなでた。
    　ゴローはニコニコと彼を見送って、ビル前の石段に腰を下ろした。
    　空は明るい。通りがかる人たちの笑顔もまた明るい。
    　空気を吸って……はいて。のんびりと空を眺めていたら、時間はあっという間に過ぎていった。

    ☆

    太陽が空の頂点に達しようかという時分、ただ龍牙を待つだけの時間が終わりを迎えた。
    「あれま！　こんなところに可愛い子犬ちゃんが落ちてるネ。拾って帰ろうカシラ？　ヒヒヒヒ……」
    「ひっ！？」
    「なーんて、ほんの冗談ヨ。そんなに怯えなくってもいいじゃナイ」
    　癖のあるダミ声がゴローの前に屈みこんで観察していた。
    　背丈の低い、大きな丸眼鏡をかけたあやしい少女。裾がボロボロになった白衣には茶褐色の染みがいくつもできている。髪は短めでぼさぼさ、頬にはそばかすがあり、蒼い目の下にはクマをつくっている。不健康そうな見た目に反して顔色は良い。笑みを浮かべると出てくる前歯は、右側が一本足りてない。
    　その奇抜な見た目はともかくとして、どうしてゴローはこれほど怯えているのだろう。その答えは、少女が現れるまでの道筋をさかのぼり素性を明らかにすれば、簡単に説明することができる。
    　少女が出てきたのはビル前の巨木をくりぬいたような家だった。つまり、この少女はゴローがこの世界に来たときに、彼を攫った七姉妹の一人で、すなわち誘拐犯の一人というわけである。
    　あやしげな眼鏡の奥に潜む瞳が、今も値踏みするかのようにゴローの怯える姿を見ていた。両手をポケットにつっこんだまま、ぺろりと舌なめずりする。
    　ゴローは、また攫われるのではないかと気が気でない。
    「もったいない、もったいないネ。こんな拾い物、滅多にお目にかかれないのニ。だから私は多数決は嫌だったのヨ」
    「や、やめてください。こっちこないで……」
    　少女はてくてくと歩み寄る。背は同じくらいなのに、ゴローの縮こまった体は一回り小さく見えた。
    「大丈夫ヨ。ちょっとキミの体の中を調べるだけネ」
    　ヒヒヒと薄笑いを浮かべた顔に影が差す。
    　片手をポケットから出し、ゴローの怯える表情に向かって少女は手を伸ばした。
    　あやしげな二人のやり取りを、道行く人々は訝しげに見守っていた。助けてとゴローが目で懇願しても、直接手を出す人は現れない。せいぜい、ビルの中に駆け込んで、この状況を伝える者がいるだけであった。
    「やぁっ！！」
    「おっとっと……危ないネ……イヒ」
    　にじり寄る少女を突き放そうと、ゴローは両手を前に出す。
    　しかし両手は空振り、すぐに金属の鎖によってぐるぐる巻きにされてしまった。
    　どこから……と確認する必要も無く、首が引っ張られる感覚で、その鎖が自分の首輪に繋がっている物だと自覚する。
    「這い性の水銀（クリーピング・マーキュリー）……ヒヒ、上手くいった。ヤッパリ獣は縛り上げるのが一番イイ。似合ってるワ」
    「うそ、魔法なんて……くっ、こんなの……っ」
    　鎖は獲物を捕らえたヘビのように、じわじわと締め付ける力を強めていく。そのままの姿勢で、ゴローはビルの入口から大通りの真ん中まで引っ張られてしまった。
    　ゴローは何とかして鎖を外そうと試みる。だがその間にも少女は一歩二歩と近づいていた。そしてジトリと湿った視線で目の前の子犬をねめ上げ、指をあごに這わせた。

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Re:		 2018年06月03日 00時06分13秒
  • 「魔法。どうして使えるか不思議って顔してるネ」
    　この閉じた世界には魔力がない。ここでは魔法の類はその一切の神秘性が失われ、魔法で形作られる生物は形を保つことすらできない。ゴローもここへ来たすぐには息苦しさを感じていた。胸の中が空っぽになったような虚脱感からどうにか逃れようと、必死に空気をこいで、そしてあの家の裏に倒れてしまったのだ。
    　そこから僅かに魔力の痕跡を感じたから……。
    　魚が水を求めるように。人間が水中で空気を求めるように。ゴローの中に封印されている神狼もまた、無意識に魔力を求めていた。
    「これ……魔力の結晶。魔法の源ヨ。わかるカシラ？　これもキミの世界から一緒に流れ着いたのヨ」　
    　そう言って少女がポケットから取り出したのは、六角柱状の水晶に似た結晶体だった。内部は青白く光っている。そこにある魔力を用いて、少女は魔法を行使したのだと言った。
    「キミの中に眠る何かがこの魔力を求めてるのは、わかってる……後はそれを引っ張りだすダケ、ケケ。もっと近くで見ていいヨ……イヒヒヒヒ」
    「や……あ、ああ……」
    　光は段々と明滅を強め、ゴローの体の魔術紋と共鳴していた。
    　トクン、トクン、胸が焼けるような感覚が、ゴローの中で徐々に膨らみ。口が大きく開かれると、白い牙が太陽光にギラリと照らされた。
    　つぶらな瞳の中で、瞳孔がヘビのように細まる。
    　水晶はあふれんばかりの光を放ち、少女の手からゴローの胸元へ、吸い込まれるように移動した。そしてゴローの手を縛っていた鎖が、音を立てて弾け跳んだ。
    　カラン、カシャンと、アスファルトに銀色をぶちまけて、ゴローはうな垂れる。
    　少女は歓喜した。引き攣ったような口元をさらに歪めて、イヒイヒと奇妙な笑いを振りまいた。
    「サア！　早く出てきなさ……」
    「ぐぁあ……」
    　神狼の覚醒をまちわぶ少女の目に、望んでいたものではない、何か、言い知れない恐怖を表したような、肉と血を塗りたくったような、歪で醜悪な物体が映っていた。
    「え？　な、なにこ、この……魔術紋に干渉……いや、これ違、っう、い、イひヒ」
    「ああ゛あ゛あ゛あああ゛アア――！！」
    　白いワイシャツがビリビリと音を立てて、その内側で膨らむ肉に押し上げられていく。
    　ブチブチとボタンが弾け、胸元が開くと、そこには……形容することもできない、赤黒い肉の触手が蠢いていた。前後を挟まれるように、ゴローの白い体は肉に押しつぶされていた。
    　まるで内臓をひっくり返したような質感、腐敗臭にまみれて、その脈動するさまは無数の血管を髣髴とさせる。水晶から魔力を吸収しながら、徐々にその密度を増して、ゴローの足元にまで這い広がった。
    　少女の足も絡めとられ、奇妙なダミ声は、苦痛とも快楽とも知れない悲鳴を吐き出し始める。すでに人語ではない、ただの言葉の羅列を唾と一緒に吐き散らして、肉塊に取り込まれていった。埋もれる間際の弛緩しきった表情は、意識を手放したように白目を剥いていた。

    　やがて、うじゅる、ぐじゅるとのたくりまわる触手が、通行人を無差別に襲いはじめる。

    　悲鳴がそこかしこに広がっていく中、ゴローの頭もじわじわと肉塊に包まれようとしていた。半分閉じた視線の先、うず高いビルと、作り物の空……どこにも居ない主人を思う気持ちも、徐々に消えつつある。
    　頭を直接かき混ぜられるような眩暈と、囁きかけてくる亡者の声。ほしい、ほしい、と手を伸ばして、直接体内を探られるような感覚は、ゴローには耐え難いものだった。
    「ご主人、さまぁ……」
    　元の世界で、ゴローのご主人さまはこの異形と対峙していた。
    　強くて凛々しくて、頼りになるご主人さま。彼女は、あっさりとこの肉の塊を焼き落として見せた。迸る雷撃に目をパチパチさせた。
    　あの時――
    　ご主人さまも、こんな感覚だったのかな、と、薄れゆく意識の中でゴローは思った。
    　どうしてこれがこの場にあるのか、それはゴローにはわからなかった。
    　ただひたすらに怖かった。
    　嫌だ、痛い、助けて。と、その強い感情さえも、肉塊の供物となって消えていく。それがたまらなく恐ろしくて、ゴローは泣き叫んでいた。
    「ご主人さま、ご主人……さまぁ！　ごしゅじんさまああああああ！」
    　大声は空に反響した。
    　それもすぐに、肉塊に押し込まれて、つぶれた嗚咽と共に、静寂へと変わった。

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Re:Re:		 2018年06月03日 00時07分09秒
  • 　時空管理局、中央ビル八階の事務課二号室。並ぶデスクの一角で、男が不意に立ち上がる。
    「……ふむ」
    　視線は窓へ向かった。
    　すかさず隣のデスクから赤い髪の毛が伸びて、龍牙の腕に絡みついた。
    「龍牙君。ゴロー君との別れが寂しいのはわかるけど、もうすぐ昼休みなんだから。ちょっとくらい我慢しなさいよ」
    「いや、お前には聞こえなかったのか？」
    「悲鳴でしょ？　聞こえたけどそんなのは刑事課の仕事。私達は事務課よ。わかる？」
    　龍牙は腕をつかむ髪の毛を外して、席を立つ。
    　おもむろに窓の外を見下ろし、そしてまたふむと呟いた。
    「こらー。自由奔放なのもいいけど、あんたが仕事終わらせないとこっちに回ってくるのよ、わかってんの？」
    「すまんな」
    　追って立ち上がり、ずかずかと歩み寄る寿に、龍牙は背中で返事をした。
    　大きな手で、ガラスをグッと押さえる。

    　ピシッ――

    　ガラスにヒビが入り、すぐ傍の課長席がガタッと音を立てた。
    　寿は髪留めを解いて赤い目をギラつかせる。
    「馬鹿！　あんた何やってんの！」
    「用事ができた、すまないが、俺の分も済ませておいてくれ。埋め合わせは後日する」
    「待ちなさいって！」

    　龍牙は寿の手を振り切り、目の前のガラスを打ち砕いた。
    　ガシャーンと派手な音を社内に響かせ、大きな背は階下へと消えていった。
    　割れた破片が周囲に散らばるのを、寿の髪が残らずキャッチして足元に落とす。
    「っとにもう。エレベーターくらい使いなさいよ……埋め合わせは高くつくからね」
    　背後のデスクから拍手が鳴る中、寿は腕組みして、頬を膨らませて、落ちていく彼の背中を見下ろしていた。


    　ズダン！
    　と大きな音がアスファルトを踏み砕く。
    　龍牙の巨体は膝を曲げて、難無く衝撃を受け止めた。
    　口からフウゥと息を吐き、のっしりと体を起す。地面には靴底の跡ができている。目の前にある肉塊は、蠢き、触手と汚液を垂らしながら、まるで救いを求めるかのように四方に腕を伸ばしていた。
    「魔物の類か……いや、呪物か」
    　意思を感じないその動きを見て、龍牙はそう判断した。
    　ゴローの中に封じ込められていたのは神狼ではなかったのかと、そんな疑問など彼の頭にはなかった。ただ一つ、愛犬がこの汚らわしいものに取り込まれて、救いを求めていたという事実だけが、今の龍牙を突き動かしていた。
    「ゴロー、聞こえるか？」
    　答えは肉塊から伸びる触手の束となって返ってきた。
    　首を、両腕を、腹を脚を、乱雑に絡め取って引き込もうとする。そのなりふり構わない敵の攻撃に、龍牙は眉をひそめる。足元は既に肉のカーペットとなって、背後から龍牙を縫いとめていた。
    　幻覚のような痛みが触れた部分から直接流れ込んでくる。それだけではない、恐怖そのものを心に刷り込んでくるような不快感が、龍牙の全身を襲っていた。無数の怨嗟が波のように押し寄せては引いて、まぶたを閉じればその裏には歪んだ人々の姿が映し出された。
    「……これは」
    　懐かしいな。と、龍牙はそう思った。
    　心を無くしてより、久しく感じていなかった痛みが胸に沸き起こるのを、龍牙は感じて……そして同時に、沸々と湧き上がる怒りに乾いた笑みを浮かべた。
    　正面から、堂々とこのような感情を叩きつけられたのはいつ以来だったか……。
    　感傷に浸る間もなく、豪腕が目の前にある肉の蔦を乱雑に引きちぎり、ビルの壁面へと投げつける。ビチビチッと音を立てて、肉塊はジュースのように潰れ、飛散した。
    　足に絡む触手を踏みつぶし、背を引く触手の管をブチブチと振り切って進む。
    　――止まらない。
    　全身が汚泥に包まれた。腐臭が鼻をつき、鋭く尖った触手は彼の皮膚にぷつぷつと穴を開けていく。スーツの内に入り込んだ触手が、彼の体を齧るように侵食していく。
    　それでも龍牙は止まらなかった。
    　腕をまくり、巨大な肉塊の中心部――魔力を感じるその場所に腕を突き入れた。
    　肉を潰すと目の前の全てが悲鳴を上げる。
    　龍牙の手に当たったのは、濡れて小さくなったゴローの頭だった。耳が力なく垂れていた。優しく撫でて、龍牙の顔は笑みを浮かべた。
    「待っていろ……すぐに助けてやる」　
    　腕は強引に肉塊を縦に裂き割った。
    　ブチブチと切れた血管のような部分から、ドス黒い血が龍牙の全身を染めた。
    「これだな」
    　現れた水晶は、今も青白い光を放ちながら魔力を肉塊に供給していた。
    　龍牙はそれを強引に掴みあげる。おぞましいほどの触手の群れが龍牙の全身を食い潰そうと蠢いた。けれど、龍牙の手は無慈悲に力を増し、水晶を軽々と握り潰した。
    　カシャンと儚い音を立てて砕け散った水晶を、触手達が我先にと啄ばんで、消えゆく魔力の残滓をかき集めていた。
    　命なき物の、まるで命を求めるかのようなその光景に、龍牙は合掌する。

    　それから――数分と経たない内に肉塊は残らず汚泥に変化して、アスファルトのみならず、生垣やビル壁面を汚していた。
    　取り込まれた少女はあられもない姿で地面に転がって、今も幻覚に怯えているようだった。

    　ダダダダ。数人の足音がビルから聞こえ、龍牙は振り返らずにその音を聞いた。
    　ようやく刑事課と思われるスーツの男達が現れた。
    「あーっと、もう終わってましたか。すみません龍牙さん、手続きをしてたら遅くなってしまって」
    「かまわん。後片付けを頼む」
    「了解しました」
    　遅れてやってきた刑事課の人に後始末を任せ、龍牙はゴローの元に歩み寄った。
    「ゴロー。無事だったか」
    「あぁ……ご、主人、さま、ぁ」
    「安心しろ。俺はここだ」
    　頭に手を乗せて、優しく撫でてやると、ゴローはその腕を抱いて鼻水をなすりつけていた。何度も何度も、ご主人さまご主人さまと口にする、その様子を見て、龍牙は柔らかな笑みを作った。
    「帰るぞ。帰ってシャワーだ……そのなりでは外は出歩けんからな」
    　汚水をかぶったように、酷い臭いで全身をしっとりさせたゴロー。その体を優しく抱え上げて、龍牙はアパートへ帰っていく。彼もまた、酷い出で立ちだった。
    　ファーーと昼のサイレンが鳴り響き、彼等の背中を押した。

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Re:Re:Re:		 2018年06月03日 00時08分03秒
  • 　状況確認の為、ゴローの帰還は数日先延ばしとなった。
    　検査官の調べによると、ゴローの身体に刻まれた魔術紋に、何者かがあの触手の種を刻み付けて、魔力が高まった時にそれが発芽するように仕向けていたのだという。
    　ゴローにはその心当たりがあったらしく、素直に取調べに応じていた。
    　そして例の七人姉妹の長女、アリーという少女は精神洗浄を受けてすっかりと心を入れ替えた。あまりの変わりように姉妹から敬遠され、今はその腕を買われて時空管理局の化学課で研究補助をしているのだという。

    　そして龍牙は……。

    「おせわになりましたっ」
    「達者でな」
    　時空ゲートが開き、街の外壁に渦を巻く異様な空間が出現した。
    　傍に立つ二人の管理課がコンソールに数字を記入すると、その空間は安定し、小さな扉のような形状に変化する。
    　ここを通過すれば、ゴローは元の世界へ帰る事ができる。この世界での記憶を忘れて、時間は巻き戻り、ここへ迷い込んだという事実は綺麗さっぱり無くなってしまうのだ。
    　その説明を、龍牙はしていなかった。
    　する必要も無いと、あえてしていなかった。
    　大きな手で、最後の別れにゴローの頭をなでる。
    　ぐしぐしと、少し強めに。
    　耳がフラフラと揺れて、尻尾も揺らして。ゴローは、何も知らずに太陽のような笑みを浮かべた。
    「リューガさんも、おげんきで！」
    「ああ」
    　管理課の二人に手を引かれ、ゴローは扉の向こうに消えていった。
    　去り際、僅かに散った光の粒は、彼の目元から地面に落ちて、小さな染みを作っていた。
    　ゲートが消失するころには、その染みも無くなっていた。

    　靴音が離れていく。
    　握り締められた拳を堂々と振って、龍牙はふむ、と空を仰いだ。

    ☆

    　“世界の果て”と呼ばれる世界を管理する時空管理局。その八階の事務課二号室で、男はカタカタとキーボードを打つ。
    　デスクに積み上げられた書類の山を削りながら、ときおり、手元に置かれた黄緑色の首輪に指を這わせていた。
    「その首輪、まだ捨ててなかったんだ」
    「ああ」
    　隣のデスクに置かれた書類は龍牙の二倍はあろうかという量で、その影から飛んできた声に、龍牙は手を止めず返答をした。
    「また犬飼うの？」
    「いや、ペットはもういい」
    「へー」
    　カタカタ、カタカタ、データを打ち込みながら、龍牙はふと顔を上げて、隣を見た。
    　書類の影から顔半分出して、寿千代子はニヤニヤと笑っていた。
    「なんだ？」
    「いやあ、このあいだの埋め合わせ、まだだったなーって」
    「……そうだったな」
    　寿の手はデスクから離れて腕組しているのに、机の上ではカタカタとキーボードが音を立て続けていた。彼女の髪が器用に仕事をこなしているようだ。
    　龍牙は画面に戻り、また手を動かし始める。
    「聞いてる？」
    「ああ。何が欲しいんだ」
    「欲しいっていうか。あんたの傷心お見舞いに、仕事終わったら一緒に飲みに行かないかなって。もちろんあんたのおごりでだけど」
    「それは見舞いか？　まあかまわんが……あまり飲みすぎるな。お前を快方するのは骨が折れる」
    「ふふ。いいじゃない、あんたもうペットの扱いにも慣れてるでしょ？」
    　ピタリと龍牙の手が止まる。
    「お前はペットか」
    「まあ酔っ払ったら似たようなもんよ」
    「ふっ……それもそうだな」
    「ふふ、龍牙君が笑うなんてめずらしー。雨でも振るんじゃないかしら」
    「そうだな」
    　止めた手を再び動かして、龍牙は仕事を片付けていく。
    　首輪は今もそこに佇んで、触れて目を閉じると、龍牙のまぶたの裏にはゴローの笑顔が浮かんでくるようだった。
    　金属のように凝り固まった心を溶かしてくれた、あの小さな愛犬に感謝しながら、彼はまた笑みを浮かべていた。

    ――了

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Re:Re:Re:Re:		 2018年06月03日 12時25分21秒
  • 拝見しました。

    最初は一体何のテロが始まったのかとw
    私は猫派ですが、犬も好きですねー。
    柴犬とか良い。

    ゴロー（笑）
    あの方のあの作品のあの子ですよね。
    なんとなーく、最初の時点でもしやと思いましたが詳細が出てきて、やはりか、と。
    しかしアレですね。この組み合わせもアリですね。うん、尊い。……しかし絡みが無かったのは残＆念☆。

    さて、流れとして順当ではありましたが、私的に気になったのは文章の視線。視点ではなくて。

    好みの高密度タイプな文章でしたが、イマイチ気持ちが乗り切れませんでした。
    何故かというと、視線が忙しいというか落ち着きがなくて、サクサク進んでしまったり、風景や特徴をざっくりで並べてあったり、世界観の情報開示の配置がやや遅かったりと、ちょっと推敲が足りてないのかな？　という印象でした。
    ……まあ、衝動的に書かれたようですので、ある程度は仕方ないのかもですが、一応。

    ストーリー的には、番外編とか合作みたいな作品なのでちょっと評価が難しいですね。
    はっきり言ってしまうと、もう一つ足りないと感じたかな。点数的には10点ぐらい。
    リューガがなぜ犬を飼おうと思ったのか、その経緯がわからなかったり、彼のキャラ的に感情移入しにくかったりで気持ちがノリきらなかった感じが強いです。（ただし、キャラとしては好きな部類）
    フェ……ゴローの方も割と最初からリューガに懐いた感じもあり、あまり障害がないままトントン拍子で話が進んでしまいますしね。
    そのあたりの、若干の流れ作業感が退屈に感じられた気がします。
    （フェ……ゴローくんはまあ、確かに性格的に人懐っこいとは思いますけど）

    まあ、そんなところで。
    お疲れさまでした！

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Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:Re:Re:
Re:Re:Re:Re:Re:		 2018年06月03日 18時14分27秒
  • ＜＝・ω・＞ﾌｫﾌｫ。こんばんぬ。

    ＞拝見しました。
    ・は、はやい！

    ＞最初は一体何のテロが始まったのかとw
    ・かつてラ研投稿室では作品の押し出し事件と言うのがあったらしいですね。（でもこれはそういうのじゃないよ！　大・丈・夫！）

    ＞私は猫派ですが、犬も好きですねー。
    ＞柴犬とか良い。
    ・わたしはたぬき派です(うそです、ネコ派ですがアレルギーです)
    　ｓｉｂｅドリルとか、外国でも大人気ですよねー。さすが柴犬。だけど柴は買うのがけっこう難しいとか。

    ＞ゴロー（笑）
    ＞あの方のあの作品のあの子ですよね。
    ・そ、そうなんです。あの方にもゴローｗｗって言われました。(いやでも犬って言ったらハチポチかゴローだなーと。龍牙のキャラ的にもゴローとつけそうだったのでこれにしました。

    ＞しかしアレですね。この組み合わせもアリですね。うん、尊い。……しかし絡みが無かったのは残＆念☆。
    ・無愛想な強キャラと、なよなよしたショタの組み合わせはよいものです。
    　絡みは……ﾌｫﾌｫ。
    ＜＝ΦωΦ＞ベッドイン朝チュン、ぶかぶかワイシャツの直前にある行間を、脳内補正でスキャニングすれば、きっと見えてくるはず……冗談だぬ。


    ＞さて、流れとして順当ではありましたが、私的に気になったのは文章の視線。視点ではなくて。
    ＞好みの高密度タイプな文章でしたが、イマイチ気持ちが乗り切れませんでした。
    ＞何故かというと、視線が忙しいというか落ち着きがなくて、サクサク進んでしまったり、風景や特徴をざっくりで並べてあったり、世界観の情報開示の配置がやや遅かったりと、ちょっと推敲が足りてないのかな？　という印象でした。
    ＞……まあ、衝動的に書かれたようですので、ある程度は仕方ないのかもですが、一応。

    ・視線……う、そうですね。今回けっこうとっちらかってたとおもいます。異世界探索てきな要素を含めつつ、ダブル主人公で行こうと思っていたのと、単純に筆が遊んでしまったのですよ。まさに衝動！　いやそれじゃいかんのですがね……書きたくなったものはしょうがない！

    ＞ストーリー的には、番外編とか合作みたいな作品なのでちょっと評価が難しいですね。
    ＞はっきり言ってしまうと、もう一つ足りないと感じたかな。点数的には10点ぐらい。
    ＞リューガがなぜ犬を飼おうと思ったのか、その経緯がわからなかったり、彼のキャラ的に感情移入しにくかったりで気持ちがノリきらなかった感じが強いです。（ただし、キャラとしては好きな部類）
    ・龍牙は無感情ですからねえ、それに三人称多視点っていうのも少しあしを引っ張った要因でした。これはあの方に下見してもらっている時点で言われていたことですが、今回はちょっと欲張ってしまいました。

    ＞フェ……ゴローの方も割と最初からリューガに懐いた感じもあり、あまり障害がないままトントン拍子で話が進んでしまいますしね。
    ＞そのあたりの、若干の流れ作業感が退屈に感じられた気がします。
    ＞（フェ……ゴローくんはまあ、確かに性格的に人懐っこいとは思いますけど）

    ・フェ……ゴローの性格は、書いていて思ったのですが、シリアスには向かない部分があるのかなと。原作でのフレイとイセリアとのやり取りを見たり、市場でのいざこざやボードゲームなども参考にしようと思ったのですが、彼の性格は本当に前向きで純粋で、でも少し欠落した部分がありました。感情豊かに見えてどこか達観してるんです。先が無いのをわかっててもそんなこと気にするより今を楽しもう、っていう感じで、怖がりなのに、まあいいかと楽天的になれる性格というか。奴隷として育って、実験台に使われて、身体に神狼を憑依させられて、っていう経緯が彼をそうさせたのか、もしくは始めからそういう性格だからこそ神狼を受け入れられたのか、わからないですけどね。そんな感じに思いました。
    　他者のキャラクターを動かすためには深く読み込んでその裏まで知らないとできないなってことが、今回のスピンオフで得た教訓の一つでもあります。ただ好きだからで動かすと、誰だこれ？　ってなる。その為に色々聞いたり見たり、下調べは必要だなーと。
    　実際には異世界に漂流したせいでナーバスになってしまっているフェ……ゴローを書きましたし、説明も入れましたが、個人的には最初の食堂でウォーターサーバーに心躍らせるあの感じが、私のフェ……ゴローの印象に一番近いです。
    　シリアスを入れていくにつれて、楽天的で達観者のショタっ子が、泣き虫でホームシックなショタっ子に変わってしまい……それはそれで、好きなんですがね！

    ＞まあ、そんなところで。
    ＞お疲れさまでした！
    ・長くなりすぎたのですが、読了していただき感謝感激です。ありがとうございましたぬー。
    ＜＝・ω・＞ノシ

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2018年05月24日 22時36分21秒
  • ども『ドッペル～』の主犯者Ｈｉｒｏです。
    なむるさんが、草稿バージョンを晒していたので、便乗して私も別バージョンを晒しちゃおうかな～って思います。
    勢いはこちらの方があるのですが、時間をかけた分だけ公開バージョンの方がクオリティが良いかなということで、こちらはお蔵入りになりました。
    お時間があれば、覗いていってください♪

    ＞＞＞＞＞

    ■タイトル
    　ドッペルミサキのわりとありきたりな日常。
    ■キャッチコピー
    　アホ娘の性格が逆転した理由

    ■本文
    　海野ミサキ、●●中学二年十四歳。
    　知らないヤツにその画像を見せると、制服であるにも関わらずＪＫモデルと勘違いされるほど顔もスタイルも良い。それにはおしゃれにアレンジされたアシンメトリーポニーの髪が影響してるのだろう。
    　それと理由はもうひとつある。写真には見た目しか写らないからだ。
    　それが真実であることは俺こと、奥山テツヤが保証する。
    　校庭に視線を向けると豪雨に打たれミサキの姿があった。カーニバルの参加者のような羽飾りをあしらった半裸で、雨ざらしになれば初夏とはいえ風邪の心配をしなくてはならないところだ……常人ならば。だがミサキはそんなことに気を止めず、楽しげに踊り、空に向かいなにかを訴え叫んでいる。
    　こうも堂々と授業をサボっているのに教師陣が彼女を放置しているのは、うかつに注意するとより面倒かつ大事になりかねないからだ。当然そうなった際の責任は声がかけた者にかかる。幸い今は雨音が遮断して近隣住民に迷惑がかかることもない。そのあたりも影響しているのだろう。
    　今月から担任を務めている新任教師は、授業を進めるのにいっぱいいっぱいでミサキの奇行に気づいてはいない。
    　無理もないつい何ヶ月か前まで女子大生だった人が、採用早々に担任に抜擢されたのである。見る者が見れば海野ミサキというやっかい者を押しつけられただけなのだが、本人は担任を持つという夢が早くも叶ったと喜んでいる。時に無知が幸せをもたらすという好例なのかもしれない。
    　ちなみに前任者はミサキの担任を受け持ってから精神を病んで退職した。現在も病院の個室で療養中とのことだ。そこはオートロック完備な上、静かで清潔らしい。唯一欠点は内側から鍵が開けられないっことだけ。
    　あくまでも噂である。実際、前担任の見舞いを行って本人に会えたものはいないのだから……。
    「ウンペケー！」
    　雨音を上回る奇声が教室まで響くと窓際の連中が騒ぎ出した。さすがに教室内がザワつけば、テンパってる新任教師でも異常に気づくらしい。彼女は窓際へと移動すると眼鏡越しに外の様子を確認する。
    　そして上空を見上げ「あら、晴れたのね」と、のん気につぶやくと、よそ見をしていた者を注意して当たり前のように授業へと戻った。
    　どうやらあの眼鏡は度があっておらず、ミサキの奇行に気づかなかったようだ。
    ――それより『晴れた』だと？
    　俺は信じられず外を確認する。
    　今日は一日中豪雨の予報で、地域によっては避難勧告が出されていほどだ。校舎周りの配水管もあまりの雨量にあふれ出しているし、それがあっさりとやむとはにわかには信じ難い。
    　担任の言葉に嘘はなかった。
    　分厚い暗雲が裂け、初夏の強烈な日差しが校庭に刺し込んでいる。
    　しかし豪雨が完全に収まったわけではなかった。その証拠に周囲の民家はいまも強烈な雨に打ち叩かれている。まるで雨雲が我が校をおそれるように避けていた。
    「マジかよ……」
    　高校に入ってからミサキの存在を認識した同級生たちが動揺している。
    　こんな奇跡みたいな状況を間のあたりにすればその反応も無理はない。小学校からミサキの存在を認知している者たちからすれば『こういう日もある』程度の認識だ。
    　だが本日の騒ぎはこれで終わりではなかった。教室の扉が勢いよく開くと、全身ずぶ濡れのミサキが飛び込んでくる。担任が見て見ぬフリをしたのかと思ったが、すでに移動済みだったらしい。
    「テッちゃん晴れたよっ！！」
    　ミサキはまるで俺への報告が当然の義務であるかのように叫ぶ。
    　当然「海野さん授業中よ」と注意されるが、当人はまるで聞いちゃいない。
    「うへへ、これでムチョムチョのチキンちゃんが拝めるねぇ～♪」
    　濡れた身体ですり寄ってくるミサキの頭を、俺は鷲掴みで抑えて接触を拒む。
    「まさかとは思うが……おまえ、このあとの体育でプールがあると思ってるんじゃないだろうな？」
    「だって、その予定じゃん」
    　ミサキは時間割の二時限続いた体育を笑顔で指さす。
    「あんな豪雨で、水着なんかもってくるヤツなんかいねぇ！」
    「うそっ、まさか中止！？」
    「できると思う方がどうかしてる！」
    「ぐわぁ～ん、せっかく晴れたのに……」
    　諦めきれないミサキは近くの級友から順に水着の有無を確認していくが、誰も首を縦には振らない。
    　呆然とするミサキ。だが、なにかを思いついたように手を叩く。
    「ということは、プールはあたしたちで独占できるね」
    「だから、俺だってもってきてねーって！」
    「テッちゃんはフルチンでいいから♪」
    　はぁ……。
    　ため息をひとつ付くと、背後からミサキの腰に両手を回す。そして渾身の力を込めて絶叫する。
    「いいからじゃ、ねぇーっ！！」
    　容赦のないジャーマンでミサキの後頭部を教室の床に叩きつけた。
    　アホの娘の脳でも、これだけの衝撃を与えると小休止する。俺は相手の意識を刈り取ったことを確認すると、動かなくなったミサキを掃除ロッカーへと放り込む。それでようやく教室は静けさを取り戻した。
    「ふぅ」
    　額の汗を拭い、自分の席へもどる。すると目尻に涙を浮かべた担任が俺に注意した。
    「奥山くん、あのね、先生、合意の上でも乱暴なプレイはよくないと思うの……」
    　何故俺が注意されねばならん！？

    ＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄

    「むぅ、チキンちゃんのために頑張ったのに……」
    　傘をさしたミサキは下校時間になっても機嫌をなおさない。俺にジャーマンで落とされたのが不服なのではなく、プールが行われなかったことが不服なのだ。
    　ちなみにチキンちゃんとは俺の上腕二頭筋につけられたあだ名である。筋肉フェチのミサキは俺の筋肉が大好きであり、特に上腕二頭筋を好んでいる。隙を見せれば触り、なめ回してくる始末だ。
    　アホかつヘンタイであるミサキから自らの身を守るため、俺は普段から鍛錬を怠らないようにしているのだが……切磋琢磨の攻防を繰り返すうちに、ミサキの戦闘力も向上してしまった。
    　幼なじみの自衛力が高まるのは心強いが、常人では抑え切れぬ化け物への成長を促してしまったのではないかという不安もなくはない。
    　ミサキとは小学校にあがる前、同時期に売り出された建売住宅のお隣さんになってからのつき合いだ。
    　ミサキは当時からアホの娘で周囲から奇異の目で見られがちであった。真面目だった俺は彼女を更正と言わないまでも、世間様に迷惑をかけない程度のアホに改善させようと誓って努力を続けてきた。だが、八年かけても改善する様子はなく、むしろ悪化したのではないかと思われる。
    「なぁ、ミサキ……」
    「なに？」
    「おまえ、もうちょっと真面目にできないのか？」
    「真面目にって？」
    「正反対になれ」
    「にゅ～ん、テッちゃんがそれを望むのであればやぶさかではない。だがしかし、しかししかししかし、ただではできないのであるのです」
    　ビシッと俺を指さす。
    「金、じゃないよな？」
    「我、海野ミサキは、テッちゃんの肉体を一日自由にする権利を求める！」
    「はいはい、できたらな」
    　海野ミサキとは人類が想像できる領域を遙かに乗り越えた遠い場所にいるアホである。それが直るなど天地が逆さになろうともありえない。よってそれを承認しようと、俺になんら不利益は訪れない。
    　だがしかし、俺はこの約束を後悔することになる。
    　迂闊にも忘れていたのだ。
    　海野ミサキという生き物は、これまでもくだらない目的のため、非常識でアホなことをやらかしてきたということを……。

    ＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄

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Re: 2018年05月26日 11時51分46秒
  • 拝見しました。

    んー、薄まったのはコメディだけかなぁ。
    私には、投稿バージョンからコメディもストーリーも薄めたバージョンに見えました。
    まあ、要するに投稿バージョンはバランスがすごく良かったってことですな。

    ＞ダブルヒロイン

    普通に考えてダブルヒロインで成功している例と失敗している例を集めて、何が良くて悪いかを比べてデータ収集がまず一歩でしょうね。個人的には、俺修羅一巻とか好きかなー。あとは、エヴァ？　マクロスフロンティア？　まどマギ？
    私的には、両方立たせるなんて無理なんだからどっちか噛ませ（みたいなもん）でしょ、と言いたいかな。長期スパンで見るなら、どっちも噛ませでどっちも引き立て役になりますけど。
    今作の場合は、クロなんかはサポーターとして活きるキャラで、なおかつ引き立て。ドッペル噛ませで、アホがメイン？？
    でも実際問題、ドッペルは噛ませになってたけど、アホを引き立てたかと言うと……それ程でもなかったかな、と。
    このあたり感想とかでも突っ込んでますが、アホが珍獣過ぎて、読者から見て彼女の人間味や女の子であるということを感じにくくなってしまってるのが大欠点だと思うんですよね。
    であるから、アホはどこかで自身が女の子であることを主張させたほうが良かったと思うし、人間味を感じるセリフをほんの一言でも言っておけば、ギャップで読者のハートを狙い撃ち出来る確率があがって、ラストの展開が際立ってくる……と、私は思うわけで。
    そのあたりの食い違いを考えると、Hiroさん……の方かどうかわかんないけど、実は深層心理でアホが引き立て役、ドッペルがメインと考えていた可能性もあったりで。結局そのあたりの迷いが作品に出たんだろうなと考えます。

    まあ、よーするに私個人の考えをまとめると、最初からどっちを噛ませにするかきっちり決めて、そっちに「サブ」としての魅力を割り振って、メイン側にはメインとしての魅力を最大限引き出すシナリオにするのが現状では最善に近いかと。そのほうが結果的にはどっちも魅力を出せるんじゃないかなと思ってます。

    ＞意思統一

    それは、意思統一出来ないキャラにしたのが悪いw
    あと二対一が弱いものいじめに見えるなら、一対ニにすれば良いじゃないのよさ。
    （主人公対ミサキズの構図）

    追記　名前が出てこなかったんですが、ようやく見つけました。
    今回のドッペルゲンガー設定は、私的にはマクガフィン（これが出てこなかった）なんですよね。
    つまり、なんだって良い（あくまで私的には）。
    ドッペルさんはドッペルゲンガーでも良いけど、二重人格でも、イマジナリーフレンドでも、生き別れの双子でもよく似た従姉妹でも良い。
    特に、ドッペルゲンガーである以上お帰りいただくしかない、というストーリー上の制約が生まれてしまうならなおさら。私なら、より読者の度肝を抜く展開に出来るなら、ドッペルゲンガー設定は捨てるかテンプレを破りに行く。
    ……なんて手もあるんでないの？　と言うことで。

    まあ、そんなところで。
    でわー。

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Re:Re: 2018年05月27日 03時56分48秒
  • ども、毎度お世話になっております。
    コンビニ袋いっぱいに使用済みティッシュを詰め込んでいるＨｉｒｏです。
    鼻水がマジとまらないっす（涙目


    ＞薄まった
    　う～ん、お話の総量が減ってるので、そのせいかなぁ。
    　もともと投稿バージョンの方が総合力が高いと判断し、こっちをひっこめたので評判が落ちるは仕方ないかなと。推敲回数もあっちのが多いですし。
    　ただギャグの弱さを補ったつもりが、そこすら駄目というのはちょっと悔しいです（涙

    ＞ダブルヒロイン
    　よくよく考えてみると、最近は物語の筋を作れても、そこを彩るヒロインとのイチャイチャが書けていないような……ダブルだから駄目というレベルではありませんでした（血涙
    　あれです、可愛い幼馴染みがいたとしても、特になにかがしたいという欲求がないのが駄目ですね。そういう成分（？）を補充するためにも、ハイ様のツテで美少女を紹介してもらえませんか？

    　アホの子が珍獣で可愛く見せるのが困難なのは、プロット時からわかっていたのですが……なんとかなるかな～と甘い見通しで失敗したかもです。
    　というか、アホの子でできないラブラブパートをドッペルに押しつけたので、ドッペルの方がヒロイン力が高いのは執筆時から感じていました。
    　更に投稿バージョンはクロまでいたので、アホの子のメインヒロインとしての存在感がホントに残念なことに…（涙＜だがクロを排除してもミサキの好感度があがっていない（爆

    　今回はミサキとテツヤの数あるエピソードのひとつで、中学生である彼らの物語はまだまだ続いていく～みたいなのを想像して執筆しました。
    　なので、話の結末はふたりが結ばれるのではなく、互いの意識がちょっと変わる程度にとどめています。そのせいでアホの子側のラブ行動にセーフティがかかってました。

    　ラストについては、今回合作という二人三脚な参加だったので、奇をてらうよりも確実なゴールを目指しました。ご期待に応えられず申し訳ありません（汗

    　ご感想ありがとうございました♪

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Re: 2018年05月24日 22時37分15秒
  • 　翌朝――。
    「きゃっ」
    　登校前に制服に着替えていると、扉から女子の悲鳴が聞こえた。
    　誰かと思えば、それは制服姿のミサキであった。心なしいつもより、身だしなみがしっかりしている。
    　それにしても、いつもは俺が起こしにいかねば目覚めることのないヤツがどうしてこの時間に目覚めているんだ？
    「まさか、寝込みを襲いに来たのか？」
    「そんなんじゃないです！」
    　ミサキはらしくもない口調で否定した。
    「あのね、いつもは、私が起こしてもらってるから、たまには、その……私の方からって…………」
    　赤らめた顔を両手で覆いながらも、部屋に来た理由をしどろもどろに説明する。恥ずかしそうにしながらも、指の隙間からはしっかり俺の上半身を見つめている。
    「それにテツヤさんの寝顔も、見てみたいかなって……」
    　まるで普通の女の子みたいな反応だ。そう思っていると、不意に下校中に交わした賭けの内容が脳裏を横切った。
    『テッちゃんの肉体を一日自由にする権利を要求する』
    　なるほど、ミサキはそのために精一杯真面目を演じているのか。欲望が抑え切れてないあたり、所詮はミサキの浅知恵といったところだが。
    ――どうせすぐに化けの皮が剥がれるさ
    　俺はそう思いながらも、鞄の中身を確認すると、いつもより早い時間に通学した。もちろんミサキと一緒に。
    　学校についてからもミサキは真面目な仮面をかぶり続けていた。担任は真面目に授業を受け、質問までするミサキを見て、眼鏡の奥に涙をためていた。同級生たちは最初、天変地異の前触れかと恐れていたが……次第に態度を改め、瞬く間にミサキと懇意にしようと近づいていった。
    　その日、一日ミサキは全校生徒の注目の的だった。普段からそうなのだが、今日の注目のされ方はかなりちがう。いつもが『道に落ちていた犬の糞』なら、いまは『我が校のアイドル』である。
    　いつもはミサキを見かけても、すぐに目を逸らす連中が多いのに、今日だけはヤツを見つめたまま顔を赤らめている。
    ――おいおい、いくら二足歩行してるからって、こいつはミサキだぞ？　おまえら正気か？
    　だが常識的な認識を備えていたのは俺だけだったらしい。
    　ミサキは今日一日、ひっっきりなしに呼び出を受け、告白されることになった。
    　なんでも『以前から気になってはいたのだが勇気がもてなかった』とのことだ。それが本日の振る舞いをみて決心がついたとか。
    　意外ではあるが、これは好い傾向だ。告白は上級生も下級生も関係なく絶え間なくやってくる。これだけいればミサキの好みに合う男もいるだろう。実際、剣道部の先輩などは俺よりもよい筋肉をしている。これでかねてより懸念していた『ミサキの嫁ぎ先問題』を解決でき、俺は子供の頃からの苦労から解放される。なんてめでたいんだ。
    　ん？　悔しくないのか？　そんなことは全然ないさ。
    　そりゃ、ミサキは幼なじみであり見た目も良いのは認める。目に余る行動が多いが、それでも俺もヤツに対して多少の好意はある。だがそれは男女間に生じる恋愛感情とはちがう。飼っているペットにそそぐ愛情に誓い。それも躾のなされず、飼い主を振り回す駄犬だ。
    　故にミサキに恋人ができるということは俺にとっても、とてもめでたいことだった。

    ＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄

    「テツヤさん、あとで屋上に来てもらえますか？」
    　授業が終わるとミサキからそう耳打ちされた。
    　それが不意打ちだったせいで、まるで女子からされたように動揺してしまう。ミサキごときに……屈辱だ。
    　だが、このあとにもっと屈辱的なことが待っている。屋上に呼び出されたのは、例の賭けの代償である『テッちゃんの肉体を一日自由にする権利』を要求されるのだろう。
    　これほどまでにまともなミサキになられると、文句を言ったところで分が悪い。
    　それに演技とはいえ、これほどまでにまともになれることを知れたのは俺にとっても行幸である。
    　一日くらいは我慢してやろうじゃないか。
    　俺は屋上にあがると、ミサキの姿を見つけた。見た目はいつもと変わらないのに、ちょっとした仕草が違うだけで可憐な少女に変身したようだ。おかしい、俺はミサキにペット以上の感情なんて持ち合わせちゃいないはずなのに。
    「お呼び立てしてすみません、テツヤさん」
    「いや、わかってるよ。例の約束の件だろ。でもその前に聞かせてくれないか？」
    「なにをです？」
    「いまのおまえはいくらなんでも別人すぎる。かといって偽物って言うには似すぎてる。どうしてそうまで変われたんだ？　理由を教えてくれ」
    　そうすれば、今後のミサキ更生計画にも弾みがつくというもの。
    　それに対する答えは何故かミサキの足下から聞こえた。それどころか影は人型に伸び上がると、まるで普段のミサキのごとくしゃべりはじめる。
    「それはだねぇテッちゃん。彼女があたしのドペルゲンガーだからだよ！」
    「…………えっ、なんだって？」
    　驚きのあまり俺は影に聞き返してしまった。
    　ドッペルゲンガーとは、本来自分がいない場所で自分とうり二つの人物が目撃される現象。もしくは、自分で鏡を介さずに自分の姿を目撃する現象である。
    　主にホラーやＳＦ小説に出てくる不吉な訪問者であり、その性質は本来の人格と真逆な異常性を示すという。ミサキの場合、元々が異常すぎるため、逆に正常な精神を持ったドッペルゲンガーになったということだろうか。
    「その、信じられないかも知れないですけど……彼女の言うとおりなんです」
    　影の言葉にミサキが同意する。
    「つまりミサキは、俺との賭に勝つために、ドッペルゲンガーであるという君を呼び出したっていうのか？」
    「信じられないかも知れませんが……」
    「どうやって？」
    「それが、私もよくわからないんです。たぶん、彼女にもわかってないと思います」
    「そんなことよりも～、や・く・そ・く、忘れてないよねぇ～♪」
    　女子高生に迫るキモいおっさんのように舌を出した影ミサキが俺ににじりよる。
    「待ってください！」
    　俺を窮地から助けたのは、自らをドッペルゲンガーだという正常なミサキだった。
    「今日、一日普段と正反対の性格を演じたのは私です」
    「なっ、なにが言いたいんだ？」
    「テツヤさんを一日、自由にする権利は私にこそあると思います！」

    ＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄

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Re:Re: 2018年05月24日 22時38分02秒
  • 　考えてみよう。
    　おなじ顔、おなじ名前、おなじ生まれの人物がふたりいる。
    　ただし性格は真逆で、一方は非科学的現象を実現させるほどのアホ娘。もう一方はおしとやかで他の男子にも人気の美少女。顔の作りはおなじだが、表情ひとつでかなり変わって見える。
    　さらに言えば、アホのミサキは俺を別段好きでもないクセに（俺もおなじなので別段かまわないのだが）人の身体を舐めさせろとセクハラを要求してくる。
    　逆に真面目な方のミサキが要求してきたのは、単なるデートだ。
    　俺がどちらを採用するかなど、考えるまでもない。
    　そんな理由で、翌土曜日はドッペルゲンガーことミサキさんとデートをすることになった。
    　小雨降る駅前で待ち合わせると、ミサキさんは大きな荷物を手に駆け寄ってきた。
    「ごめんなさい、お待たせしちゃって」
    「いま来たところだから。それより荷物持とうか？」
    「いえ、これは私が持っていたいの」
    　そんな恋人同士のようなやりとりを挟むと、彼女は柔らかな指をからめるように俺の手をとる。
    「遅れたぶん、とりもどさないと」
    　頬を朱で染めつつ手を引く彼女は、海沿いの公園へ向かうバスへと導いた。行き先を決めたのはミサキさん。理由をたずねてみたが、深い理由がある訳ではなく、一緒に海を見に行きたかったと言っていた。
    「ところで、キミってどこまでミサキとおなじなの？」
    「肉体的にはほとんど一緒だと思いますよ。その……証明するのはちょっと恥ずかしいですけど」
    　別にセクハラ目的じゃないから、赤くならないでくれ。
    「記憶の方は？」
    「そっ、そっちはあんまり聞かないでください」
    　そう言って湯気の沸いた顔を抑えている様子は、おそらく自分の奇行を記憶しているという事だろう。
    　自分で覚えてる奇行というのは、親戚のおじさんおばさんから聞かされる幼い頃のオネショよりも恥ずかしい。
    　だがいまのやりとりで、彼女が単なるソックリさんではなく、ドッペルゲンガーであるというのは間違いがないようだ。姿が似てるだけなら、記憶は共有できないし、それを自分のことのように恥ずかしがることもないだろう。
    「それで、なんで俺なんかとデートを？　いまのキミなら選り取りみどりだろ」
    　俺とミサキは幼なじみだが、甘い記憶などありはしない。確かに楽しい記憶というのもいくらかは存在しているが、俺はミサキを躾のできていない大型犬のように扱っている。それを覚えているなら、わざわざ俺をデートの相手に選ぶ理由はない。
    「そのあたりの事情は、乙女の秘密ってヤツです」
    　そう言って、小さな舌を見せてから駆け出すと、雨の降り込まない屋根つきの休憩所へと入り込んだ。
    　ミサキさんは占拠したテーブルに持参したお弁当を広げる。
    　しかし、ミサキさんはここでドジな一面を俺に見せた。箸を一膳しか持ってこなかったという。俺は近くで割り箸が入手できないか探してこようとするが、その袖を彼女が掴む。
    「大丈夫です、一膳で」
    「いや、大丈夫って？」
    「はい、あ～ん、です」
    　ミサキさんは一膳しかない箸で自作のおかずを差し出してくる。
    「…………」
    「あ～ん！」
    　彼女はこれまで以上に強固な姿勢をつらぬいた。
    　彼女が俺の分の箸を忘れたというのは間違いなく嘘である。最初からこの場面を画策していたのだろう。性格はちがっても結局は彼女もミサキである。長年のつき合いで嘘をつかれてもなんとなく察知できる。
    　仕方なく俺が折れることになり、恥ずかしいながらも「あ～ん」と口をあける。
    　だがしかし、おかずは俺の口へと運ばれる寸前に盗人によって奪われた。
    　まっ黒な姿の盗人は、悪びれもせずムシャムシャ音を立てておかずを食らう。それは影の中にいたミサキだった。ミサキはさらに残っていた弁当を残さず平らげると「まぁまぁだね」との捨て台詞を残して影の中へと逃げていった。
    「てめー鬼か、少しはこっちの分もとっとけよな」
    　影を踏みつけるが、もちろん効果はない。
    「こっちだってお腹すいたんだから仕方ないじゃ～ん。それともコンビニかレストランでも行ってひとりで食べてきた方がよかった？」
    　ミサキのクセに痛いところをついてきやがる。影状態のミサキがそんなことをすればあきらかに騒ぎがデカくなる。
    「くそっ、ミサキのクセに知恵を回しやがって」
    「まぁまぁ、もうしばらくの辛抱ですから」
    　彼女は温厚に俺をなだめると、別の場所で食事をとることを提案した。
    　その後、俺たちは水族館なら雨も関係ないと館内のレストラン（というにはちょっとショボい）で食事をする。雨の日の公園とちがい、周囲は本物のカップルだらけだった。さすがのミサキさんもその場で『あ～ん』を強行することはできなかった。

    ＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄＄

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Re:Re:Re: 2018年05月24日 22時39分12秒
  • 　水族館から出る頃には雨もあがり、あたりは夕焼け色に染まっていた。
    　スマホでバスの時間を確認し「そろそろ時間だ」と水を向けると、ミサキさんは「もう少しだけ」とうつむき顔で延長を要求した。
    　バスは１時間後にもう一本あるからと、俺は要求をのみ彼女とふたりで湿った浜辺を歩いた。
    「実はね、今日三日目なんです……」
    　ミサキさんが一番星を見上げながらそう告白する。
    「三日目？」
    　俺は意味がわからないまま復唱する。
    「私があの子の前に現れてからもう三日目。実はテツヤさんとの約束をとりつける前に、私は彼女の前に現れて入れ替わりを提案してたんですよ」
    　なるほど、だからミサキはあんな賭をもちかけてきたのか。
    「それで三日目だとなにか問題があるの？」
    「私は対象と入れ替わって三日経つと、相手に完全に成り代わることができるんです。そうすればあなたはもうあの子に会えなくなる。このまま数時間待てば、たったそれだけのことで……」
    「それはたいへんだな」
    「全然、大変そうに聞こえない！」
    　俺の返答にミサキさんは声を荒らげる。
    「どうしてそんなにも平静でいられるの、彼女が私になっても構わないの！？　あなたとミサキはその程度の関係なの！？」
    　抑えきれない激情を俺にぶつける。
    「いや～結構ピンチだよ、俺？　幼なじみと二度と会えなくなるってことなんだろ？」
    「だったら……」
    「それは俺の台詞だよ。キミが入れ替わりを望んでいるのなら、そのことを黙っていればよかった。なのにキミはそれをせず、俺にミサキがいなくなる可能性を教えた。どうして？」
    「私は消えたくないの」
    　そりゃ、望んで消えたがるヤツなんていないだろう。
    「なのに、ミサキが消えようとしてるのを黙ってみているあなたが許せない……本当はあの子の方がいいって思ってるクセに……」
    「この場に男子が１００人いたら、９９人があんたの方が良いっていうと思うぜ。いや１００人全員かな？」
    「私はあなたの大事な人と成り代わろうとしてるドッペルゲンガーなのよ、少しは怒りなさいよ！」
    「だから、どうしてそれで俺の方が怒られなきゃいけないんだい？　むしろ妨害しないんだから、歓迎されてもいいと思うんだけど？」
    「それはあなたには自信があるからよ」
    「どんな？」
    「結局はあの子が無茶をやらかして、自分で勝手になんとかするって。昼間のお弁当みたく……」
    「それを考えてないって言ったら嘘だけどさ、でも確信してる訳じゃないぜ。むしろ確信してることは別にある」
    「それはなに？」
    「キミが本気でミサキに成り代わろうってしてないこと」
    「……どうしてそんなこと言えるのよ」
    「ん～、なんとなく、としか言いようがないな」
    　腐っても幼なじみ。例え性格が変わっても考えることはわからなくもない。ミサキがいま動かないのもひょっとしたらミサキさんがなにをしたいのかわかってるのかもしれない。
    「だって、しょうがないじゃない。あたしはドッペルゲンガー別人よ。
    　でも、相手に成り代わるために元の人物の記憶を持ってなきゃいけない。
    　この子は救いようのないバカだけど、それでも楽しそうに笑ってるのよ。いつまでも無邪気な子供みたいに！」
    「それが代われない原因？」
    「そうよ、仮に私が成り代わったところであんなバカみたいなこと絶対に真似できない。だって正反対のドッペルゲンガーですもの」
    「キミが以前のミサキになる必要はないだろ？」
    　それが残酷な言葉と知りつつも俺は投げかける。
    「それじゃあなたが微笑んでくれないわ。今日の貴方の笑顔は素敵だったけど、記憶の中のものには及ばない。なのに、私は自分では与えられない笑顔の記憶を持ったままでいるの。
    　記憶だけ引き継いでも私はあなたの心を奪えないわ！」
    「別にあいつに心を奪われた記憶はないんだが？」
    「わかってる。わかってるわ……でも、それでもあなたはあの子を選ぶのよ」
    　そう言うと、ミサキさんは俺との距離を強引に縮めると唇を重ねた。
    「これは私を苦しめた罰よ。きっとテツヤさんはいつか、私を選べなかったことを後悔する。絶対なんだから……」
    　それだけ言い残すとミサキさんは消えてしまった。
    　入れ替わりにアホミサキが現れる。
    「てへへ～、やっぱりテッちゃんはあたしを選んでくれたね」
    「別に俺が選んだ訳じゃないだろ」
    　ドッペルゲンガーが自主的に消えたのである。
    「ところでテッちゃんいくら持ってる？」
    「なんだよ突然」
    「いや～、そろそろバスの時間終わったんじゃないかなって」
    「そうか、さすがに地元までのタクシー代はないな」
    「にひひ、じゃ、お泊まりだね。明日、日曜日だから問題なーしっ」
    　楽しそうに言うミサキの言葉を当然のごとく却下する。
    「アホっ、３キロ先に駅があるからそこから地元まで乗り継ぐぞ」
    「え～、せっかくのチャンスなのに～」
    　俺達は薄い街灯に照らされた道を歩き出す。幸い、線路がすぐに見つかったので駅まで迷う心配はないだろう。

    　ドッペルゲンガー。それは『二重に歩む者』を意味するドイツ語由来の名称である。
    　ドッペルゲンガーを見たものはそこに自分の姿を目撃する。多くの場合それは幻視という名の精神疾患であり、ほとんどの目撃者はなんらかの不安を抱えていたことが確認されている。
    　ミサキさんは俺にも見えていた。単にミサキの不安に俺が同調していた可能性もある。だがそれでは俺が昼に弁当を食べ損ねた理由を証明できない。
    　真実は彼女とともに闇の中だ。
    「そだ、お弁当。こんどはあたしが作ってあげるから」
    　何かを察したようにミサキが笑うと、近くなった駅までダッシュしはじめた。
    　俺はため息をつきつつもその後をおいかけた。
    　自分の選んだ道を後悔をしないよう、しっかりと……。

    〔了〕

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Re:Re:Re:Re: 2018年05月25日 18時53分11秒
  • たぬきあらわる

    これは、投稿作からコメディ要素を薄めた改訂版っぽいぬ。
    面白かったし、ミサキのアホさ加減もなかなかでした。
    オチは、アホのミサキでなければならない理由は愛着でもあり、独占欲でもありそうですね。ドッペルみさき(プロレスラーっぽいな)が本体になると、テっちゃん以外の人にもモテモテです。しかしあほミサキならば、テっちゃんはミサキが自分だけを好いてくれるとわかっています。正確にはチキン君を。
    　とまあ本作は影の部分が少し大きくなった改稿だと思います。コメディ要素である会話やドタバタ要員がヒロインのミサキのみだったのが原因でもありますね。真面目二人の恋愛劇を書いている中で彼女は異物でしかないのですが、嫌いではない、でも生きて無かったかなーとかぼんやりおもいました。

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Re:Re:Re:Re:Re: 2018年05月25日 19時51分58秒
  • ＞たぬきあらわる

    　にゃーにゃー（挨拶の意

    　投稿バージョンが、ヒロイン３人構成にしたせいで、メインヒロインであるハズのアホのミサキがちょっと薄めだったんですよね。
    　なのでクロを排除して、改めてミサキを大胆に突っ走らせてみた結果、こんなバージョンができあがった次第であります。
    　改めて本バージョンを読み返してみると、サポーター役のキャラがいた方が物語を安定させやすいなと実感しました。（投稿バージョンより短いのは執筆時間の都合）

    　そういえば、どこぞのチャットでも投稿バージョンのテンプレを褒めてくれた方もいらっしゃいましたね。思わず構成について語りたくなっちゃいましたけれど、作者バレするといけないので懸命に口をつぐんでいました（爆

    　ミサキ＆ミサキさんについては……投稿バージョンでもなんですが、ダブルヒロイン構成が予想外に苦戦しました。
    　メインのヒロインがアホの方なんだけれど、物語の障害として排除しなければならないのはドッペルゲンガーなんですよね。
    　なので主人公の活躍で山場（ドッペルゲンガーの排除）を書こうとすると、アホの方の出番がなくなる。かといって、主人公とアホの子の二人がかりで挑もうとするには意思統一もできてないし、二対一という構図も弱い者イジメっぽい。
    　結果、いろいろ悩んだ末に、あんな形になりました。

    　むぅ、誰かダブルヒロインのコツとか教えてくれないかな？＜オイ

    　ご感想ありがとうございました♪

    E-Mail pass
2018年05月21日 22時01分27秒
  • 　もう一問

    　グループA
    　ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った？
    　電波女と青春男
    　学校を出よう！
    　這いよれ！　ニャル子さん
    　ベン・トー

    　グループB
    　ゴールデンタイム
    　イリヤの空・UFOの夏
    　撲殺天使ドクロちゃん
    　りゅうおうのおしごと！
    　アクセル・ワールド

    　『涼宮ハルヒの憂鬱』はどっち？

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Re: 2018年05月26日 17時04分22秒
  • 　回答です。
    　ネタバレ注意





    ＞　もう一問
    ＞
    ＞　グループA
    ＞　ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った？
    ＞　電波女と青春男
    ＞　学校を出よう！
    ＞　這いよれ！　ニャル子さん
    ＞　ベン・トー
    ＞
    ＞　グループB
    ＞　ゴールデンタイム
    ＞　イリヤの空・UFOの夏
    ＞　撲殺天使ドクロちゃん
    ＞　りゅうおうのおしごと！
    ＞　アクセル・ワールド
    ＞
    ＞　『涼宮ハルヒの憂鬱』はどっち？





    　グループ別けの条件は『主人公が高校生かどうか』でした。
    　高校生ならグループA、そうでなければグループB。
    　なお、『りゅうおうのおしごと！』の九頭龍八一は高校生相当の年齢ですが、中卒で棋士に専念しているので、グループBということになります。
    　『涼宮ハルヒの憂鬱』はグループA。キョンは高校生ですからね。



    　誰も解けなかったなざまぁみろ。

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Re: 2018年05月22日 18時12分02秒
  • いやこれなんなん？

    え、どういうこと。
    一瞬、
    ラブコメか、
    幽霊ＳＦか
    ってジャンルかと思ったけど、
    りゅうおうのしごとがはいってるしなあ

    僕は、涼宮ハルヒは涼宮ハルヒっていうジャンルやと思うで。

    ってか涼宮ハルヒといえば、僕が暇つぶしに練習で丸写ししたラノベ数冊を帆のパソコンに送ってやったんだよ。
    「とらどら」
    「俺がいる」
    「ＳＡＯ」
    「涼宮ハルヒ」
    ってかんじでさ。

    そしたら、冒頭だけしか読まないんだよ。冒頭だけ読んで「涼宮ﾊﾙﾋ」の文体が一番わかりやすい、とほざきやがった。送った甲斐もなにもあったもんじゃない。


    帆と僕との会話って大体こんなん。

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Re:Re: 2018年05月26日 17時09分36秒
  • ＞いやこれなんなん？
    ＞
    ＞え、どういうこと。
    ＞一瞬、
    ＞ラブコメか、
    ＞幽霊ＳＦか
    ＞ってジャンルかと思ったけど、
    ＞りゅうおうのしごとがはいってるしなあ
    ☆結局分からんのかーい。

    ＞僕は、涼宮ハルヒは涼宮ハルヒっていうジャンルやと思うで。
    ☆ジュプナイルとかライトSFとかその辺ちゃう？
    　まあジャンル分けとか無理にする必要もないとは思うけども、分けたがる人や分けると便利な状況であえて何にするかっていったらそうかなって。

    ＞ってか涼宮ハルヒといえば、僕が暇つぶしに練習で丸写ししたラノベ数冊を帆のパソコンに送ってやったんだよ。
    ☆そういう努力できる人ってすごいと思うよ。自分の信じたことをするのが一番やね。
    　ただ個人的にはそういうのって無駄やないとは思うけれども、時間ってどうしても有限な訳やし、そういうことするのが楽しい人とかでもない限りは、他人様の作品は読むかせいぜい感想文書くくらいにしておいて、自作に時間割いた方がええかなとは思うとる。

    ＞「とらどら」
    ＞「俺がいる」
    ＞「ＳＡＯ」
    ＞「涼宮ハルヒ」
    ＞ってかんじでさ。
    ＞
    ＞そしたら、冒頭だけしか読まないんだよ。冒頭だけ読んで「涼宮ﾊﾙﾋ」の文体が一番わかりやすい、とほざきやがった。送った甲斐もなにもあったもんじゃない。
    ☆法律的にどうなんやろなその行為って。
    　ハルヒの文体が好きなんは共感できるなあ。色々言われているけどやっぱりすごいと思うよ谷川節は。うん。

    ＞
    ＞帆と僕との会話って大体こんなん。
    ☆仲良しそうでええね。

    　ほなな。

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2018年05月21日 20時52分26秒
  • ✝✝✝この投稿はゾンビに喰われました✝✝✝

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Re: 2018年05月22日 06時53分25秒
  • ＜＝・ω・＞おはようたぬき。粘膜さんのクイズがさっぱり分からぬ午前６時ちょい。

    　よみましたぬー。
    　影がハートを作るところとか、一枚目のちょっと重めだけどなにやら頭良さそうな地の文とか、好きでしたぬー。ミサキのセリフがわかるひとに“だけ”すぐ分かるネタ発言だったのは、ちょっと引っかかりました。そうではないどこぞかの素材を用いないストレートなギャグというのも見てみたいなーと。（チキン君はいいですよね）
    　消えることが運命付けられたドッペルさんは切ない。そこんところが今回の肝だったのかなとは思いました。ただミサキとドッペルさんのやり取りにもう少し枚数を裂いた方が……というかミサキ本体が会話にならないキャラなので仕方ない部分も多いですね。三人一緒に行動してドッペルさんに取られそうになる、とかそういうちょっと恋愛のもじもじ感がもっと見たかったなーという感じでしたぬー。

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Re:Re: 2018年05月22日 21時11分51秒
  • こんばんはー、たぬきさん、毎度、いろいろとありがとうございます。

    ＞＜＝・ω・＞おはようたぬき。粘膜さんのクイズがさっぱり分からぬ午前６時ちょい。

    自分も、そのクイズ、まったくわかんないです汗。


    ＞　影がハートを作るところとか、一枚目のちょっと重めだけどなにやら頭良さそうな地の文とか、好きでしたぬー。ミサキのセリフがわかるひとに“だけ”すぐ分かるネタ発言だったのは、ちょっと引っかかりました。そうではないどこぞかの素材を用いないストレートなギャグというのも見てみたいなーと。（チキン君はいいですよね）
    ＞　消えることが運命付けられたドッペルさんは切ない。そこんところが今回の肝だったのかなとは思いました。ただミサキとドッペルさんのやり取りにもう少し枚数を裂いた方が……というかミサキ本体が会話にならないキャラなので仕方ない部分も多いですね。三人一緒に行動してドッペルさんに取られそうになる、とかそういうちょっと恋愛のもじもじ感がもっと見たかったなーという感じでしたぬー。

    こういう具体的な場面ストックが自分にはあまりないので、活かせるかは何ともなのですが、大変参考になります。『チキンくん』にしたのはHiroさんの仕事です汗。今後、何かしらで活かせたらと思います汗。


    ありがとうございました。

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Re: 2018年05月21日 22時10分09秒
  • こんばんは、拝見したので感想を。

    書き出しは宜しかったと思います。
    丁寧かつ、情報の配置（十分かどうかまでは確認してませんが）などがキレイで読みやすかったです。

    ただ、それ以後はガクンと丁寧さが抜け落ちたような……そんな印象を受けました。
    シーン１は情報密度が５ぐらいなのに、以後はずっと３程度になって書き流しているような感じ、でしょうか？
    ずっと５で書けたらそれだけで読み手の印象は全く違って来るので、意識して書いてみてください。

    ストーリー展開は設定上予定調和にならざる得ないわけですが、では今作の場合そこを解決する工夫があったかというとちょっと見当たりません。
    読み手を脅かす基本はテンプレの逆利用です。
    ドッペル……と見せかけてドッペルじゃない、ただの姉妹、従姉妹、整形、特殊メイクであるとかで、途中までは普通のドッペルものとして話を進めてから話そのものをひっくり返すであるとか。
    ひっくり返しを使わないパターンなら王道路線のプラスα、つまり話が真新しく見える要素を足す、とかですね。
    さうしてストーリーをいろんな角度から眺めて、どう見せれば読者にとってもっとも面白くなるか、をもっと深く考えてみると良いアイディアが出てくると思います。

    なお、文章作法が完全ではないようです。
    「」の文章は字下げが必要ありません。「」内の文末に句点は必要ありません。など。

    ではこのあたりで。
    失礼しました。

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Re:Re: 2018年05月22日 21時06分19秒
  • こんばんはー、ハイさん、企画もこちらも感想ありがとうございます。


    ＞ただ、それ以後はガクンと丁寧さが抜け落ちたような……そんな印象を受けました。
    ＞シーン１は情報密度が５ぐらいなのに、以後はずっと３程度になって書き流しているような感じ、でしょうか？
    ＞ずっと５で書けたらそれだけで読み手の印象は全く違って来るので、意識して書いてみてください。

    書いてる期間は無駄に長いのですが、まったくもって成長していないので、ものすごく参考になります。ありがとうございます。


    ＞ストーリー展開は設定上予定調和にならざる得ないわけですが、では今作の場合そこを解決する工夫があったかというとちょっと見当たりません。
    ＞読み手を脅かす基本はテンプレの逆利用です。
    ＞ドッペル……と見せかけてドッペルじゃない、ただの姉妹、従姉妹、整形、特殊メイクであるとかで、途中までは普通のドッペルものとして話を進めてから話そのものをひっくり返すであるとか。
    ＞ひっくり返しを使わないパターンなら王道路線のプラスα、つまり話が真新しく見える要素を足す、とかですね。
    ＞さうしてストーリーをいろんな角度から眺めて、どう見せれば読者にとってもっとも面白くなるか、をもっと深く考えてみると良いアイディアが出てくると思います。

    何分、頭が不自由？（笑）なので難しい話はなんともなのですが、次回の企画ではそれが活かせるように頑張ってみます。

    ＞なお、文章作法が完全ではないようです。
    ＞「」の文章は字下げが必要ありません。「」内の文末に句点は必要ありません。など。

    文章作法を最近覚えたのでなんともなのですが、しっかり復習して動きとして染み馴染むように頑張りたいと思います。


    いろいろとありがとうございました。


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2018年05月21日 20時39分21秒
  • PUBGでドン勝　獲れなくて悲しいよ

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2018年05月21日 20時27分31秒
  • 　ラノベクイズ

    　グループA
    　ゼロの使い魔
    　とある魔術の禁書目録
    　バカとテストと召喚獣
    　電波的な彼女
    　とらドラ！

    　グループB
    　戯言シリーズ
    　やはり俺の青春ラブコメは間違っている
    　ソードアート・オンライン
    　僕は友達が少ない
    　嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

    　『涼宮ハルヒの憂鬱』はどっち？

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Re: 2018年05月26日 17時02分16秒
  • 　回答です。
    　ネタバレ注意




    ＞　ラノベクイズ
    ＞
    ＞　グループA
    ＞　ゼロの使い魔
    ＞　とある魔術の禁書目録
    ＞　バカとテストと召喚獣
    ＞　電波的な彼女
    ＞　とらドラ！
    ＞
    ＞　グループB
    ＞　戯言シリーズ
    ＞　やはり俺の青春ラブコメは間違っている
    ＞　ソードアート・オンライン
    ＞　僕は友達が少ない
    ＞　嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん
    ＞
    ＞　『涼宮ハルヒの憂鬱』はどっち？






    　グループ分けの条件は『主人公に妹がいるか否か』でした。
    　いればB、いなければA。
    　キョンには妹がいるので、Bグループということになります。

    　誰も解けなかったな。ざまぁみろ。

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Re: 2018年05月25日 21時19分13秒
  • ムズぅ……。

    うーんうーん、バカテスだけが当てはまんないみたいなんですが、ハルヒはBですか？

    Aはバカテス以外は三人称。
    Bは全部基本一人称ってことで。

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Re:Re: 2018年05月26日 16時58分28秒
  • 　残念ながら不正解です。
    　考えてくださってありがとうございます。

    　そろそろ答えのっけとくので見たかったら見てください。

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2018年05月20日 01時03分03秒
  • 一番乗りじゃわ！

    　　　∧　　∧
    　　＜＝・ω・＞、だがしかし
    　　　ノ(ノ　)∋　　たぬきに　
    　　　　(　＼　　　　会話のネタはなかった

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Re: 2018年05月21日 19時31分58秒
  • 獲物が罠にかかりおった。
    みなのもの囲め！
    鍋の準備じゃ♪

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Re:Re: 2018年05月21日 20時16分41秒
  • ＞獲物が罠にかかりおった。
    ＞みなのもの囲め！
    ＞鍋の準備じゃ♪

    待て待て、これは決して鍋的なものではなくてだな。

    　（　(　(　（
    　　)Λ　）Λ）
    　＜；＝・ω・＞
    ┃～～～～～┃
    ┃＿＿＿＿＿┃
    Λ＾ΛΛ＾＾Λ

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Re:Re:Re: 2018年05月21日 20時38分15秒
  • その後、たぬきさんの姿を見た者は、誰もいなかった……。

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Re:Re:Re:Re: 2018年05月22日 07時02分29秒
  • ＞その後、たぬきさんの姿を見た者は、誰もいなかった……。


    　　　　　ｳﾗﾒｼｨ……
    　　ΛΛ　　　　　　　この身体　滅びようとも　我が魂(ﾀﾇｼｨ)
    　＜´ω`＞
    　　)/　　　　　　　　　　未だ現世に　未練たらたら

    Σ:３)っ)ニ
    ￣￣￣￣￣￣￣

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