彼女の世界征服 学園編

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「彼女の世界征服 学園編」



    00.



「ビジネスの世界において、WIN-WINという言葉がある」

 放課後の科学部部室で、彼女はそう語り始めた。

「つまり、互いに良い取引が出来て互いに儲けた。要はそう言うことなのだが――例えば、中世の、自動車も無い時代、砂漠をラクダを引き連れて旅をする者にとって、水一滴は金貨の価値がある。そんな旅人に水筒一本分の水は、一体いくらで売れるかな?」

 俺は尋ねる。

「現代なら蛇口捻ればいくらでも出てくる水が……まさか金貨に化けるとか?」

「化けるとも。なぜなら砂漠の旅人の手元には水がいくらでも出てくる蛇口など無いからだ。水が無いと人は生きていけない。だからこそ金貨で取引もする」

 それがビジネスというものだ、と彼女は続けた。

「ある品物を対価と交換する。その価値が互いに釣り合ってこそ正しい商取引というものだ。ただし、状況によって、品物の価値は変化する」

「そりゃ……さっきの飲み水の話なら、オアシスに辿り着いた旅人は金貨で水を買わないだろうな。そして現代だったら、命からがら砂漠を徒歩で旅する必要もない」

 にまり、と笑って彼女は、その通り、と続ける。

「状況、相手、あるいは時代によって、物事の価値は変わるんだよ。正しくそのことを理解していなけば、WIN-WINの関係は築けない。どちらかが損をするか、取引そのものが成立しないか、だ」

 窓から差し込む逆光で、彼女の顔はよく見えない。
 だがその口元が釣り上がっているというのは、わかった。

「さらに留意しなければならないのは、この場合のWINという単語は、必ずしも『勝利』を意味しない、と言うことかな」

「WINの訳語は勝利……でいいだろ?」

「少し違うんだよ。確かに、単に単語を訳せばそれで良い。だが、この場合は『目的の達成』と捉えるべきだ」

 彼女の笑みが深くなる。

「目的の……達成」

「その通り。例えば競技に於いて、その目的とは相手に勝つことだ。サッカーや野球なら相手よりもより多く得点することがこちらの勝利であり、あちらの敗北だ。テニスやバレーなら規定点数を敵より先に得ること。チェスや将棋ならば相手の王を詰ますこと。陸上競技なら誰よりも速くゴールしたり、高く遠く跳び、あるいは投げること」

「…………」

「いいかい、競技であれば、こちらの勝利条件と相手の敗北条件はイコールで結ばれる。ただし、状況が変わればこちらの勝利条件が変化する場合がある。わかるかい?」

「――あー、予選リーグで、得失点差が絡む……とかか?」

「そうだ。サッカーなんかでよくあるだろう。『予選リーグ突破条件はこの試合で勝つか引き分け、負けの場合でも二点差以内ならば得失点差でリーグ勝ち抜け』って状況が。この場合、直接の試合で一点差で負けても勝ちってことになる。何故か?」

「勝利条件――目的が、その試合の勝利ではなくて予選の突破だから」

「そう。大事なのは、目的の達成なんだよ。それこそが真の勝利だ。目の前の試合に勝つというのは目的であり、時にもっと大きな目的の一部であるわけだ。であれば、『勝って勝ち、負けても勝ち』という状況が発生することがある。そのことに些かの矛盾も存在しない」

 俺はかつて見た、サッカーの、ある国際大会の予選リーグの試合中継を思い出していた。
  
 対戦している両チームにとってそれは、予選リーグ勝ち抜けを賭けた戦いだった。
 互いに悲願の勝利へと向かって激闘を繰り広げ、後半残り二分で、一対一の同点という状況になった。

 しかし同日別会場で行われた他の試合の結果、同点引き分けの場合にのみ、勝ち点の関係で両チームとも勝ち抜けるという状況に変化してしまった。
 
 両チームはそれまで死力を尽くして戦っていたが、同点弾が決まったところで状況が選手にも伝わったのだろう。
 それまでの死闘が嘘のように、守備陣だけでパスを回すばかり、相手チームもボールを奪おうとせず、無為なだけの時間が過ぎて試合は終了した。

 試合後、片方のチームの監督はインタビューにこう答えた。

「はっきり言って、最後の二分はスポーツとして全く魅力のない時間だったことをファンに詫びたい。だが同時に理解して欲しい。私たちの目的はこの試合に勝つことではなく、この予選を勝ち抜くことなのだ。万が一ボールを奪いに行って逆に得点されて負ければ、今までの準備の全てが無駄になる。危険を冒すことなく目的が達成できるのであれば、そちらを選ぶ」

 直接勝負するスポーツに於いてすらそんな状況が存在するのだ。
 より複雑なビジネスにおいて、単純な勝敗だけで状況を把握することはできない。

「だからこそ、WIN-WINなんて言葉が成立する。『こちらは儲けたがあちらは儲けた』そんな状況は成立する。こちらの勝利が、相手の敗北ではなく勝利とイコールであるような状況が」

 大事なのは、彼我の勝利条件を正しく把握することだ。

 彼女は続ける。

「自身の勝利条件とは何なのか。相手の勝利条件とは何か。繰り返すが競技ではないんだ。だから自身の勝利条件が相手の敗北条件であるとは限らない。時には負けた方がより良い結果に繋がることもある。その意味で相手の勝利条件とこちらの勝利条件がイコールになることもある」

「相手の勝利が、こちらの勝利……」

「そうだ。だから、相手や周囲の勝利条件についても正しく把握しなければならない。直接的に互いの条件が対立することもあるだろうし、逆に両立することもある。そうやって短期的・中期的な目標を設定し達成することで、最終的な目的に到達する。それが、真の勝利というものだよ」

 その言葉に、俺はつい、問い掛けてしまった。
 何度も聞いて、知っているはずなのに。

「……お前の、真の勝利っていうのは、何だ?」

 彼女は無言で、手元の書類を引き寄せ何かを書き込んだ。
 そしてそれを俺に見せつけた。

「決まっている。世界征服さ」

 その書類は、『南石学園高等部生徒会長選挙 立候補申込用紙』と題されていた。

 立候補者名 『元葉 真緒』


 それが彼女の名前。
 【南石学園の魔王】と恐れられる女子学生である。

「その一歩として、先ずはこの学園を征服するとしよう」

 そう言って彼女は夕日を背に、不敵な笑みを浮かべて見せた。




 申し遅れたが、俺の名前は元葉 勇士と言う。
 真緒の双子の弟で、【元葉姉弟のまともな方】と言われる、まごうこと無き凡人だ。





    01.



 じーわじーわとまだ蝉の鳴く残暑厳しい九月某日。
 ついに終わってしまった夏休み。その翌日は二学期の始まりだ。

 その始業式が終わり、ホームルームも終わり、俺は同級の女子と共に生徒の行きかう廊下を歩いていた。

 話題に上がっているのは、先ほどの始業式のことである。
 私立南石学園高等部の二学期の始業式は、現生徒会による次期生徒会長選挙の告知がなされて締められるのが伝統なのだそうだ。

 情報をくれたのは、隣を歩く眼鏡女子。新聞部所属の木下景である。
 彼女は俺と同じく一年生のくせに、やたら情報通だ。
 さすが新聞部と言うべきか。

「つまり、九月の末に次期生徒会長を決定。十一月の大学園祭は新旧生徒会が合同で準備を担当することで実地で引継ぎを行い、大学園祭の終わりと共に旧生徒会を見送る……とまぁ、毎年こういう流れだそうで」

「ああ、大学園祭ね。相当ハデにやるんだろ? 初日と二日目に体育祭、三日目と最終四日目が文化祭って聞いたぜ」

 俺とアイツは高等部からの外部生なので、大学園祭は今年が初体験だ。
 だから俺は密かに楽しみにしているわけだが。

「学生による出店とか百数十店舗よ。中等部と合同だしね。下手な町内会のお祭りよりも規模が大きいから生徒会役員が四、五人しかいないと手が回らないのよ」

「新生徒会は実地で仕事を叩き込まれるわけか。ご苦労様だ」

「他人事のように言ってるけど、あなた達科学部は、何かなさるご予定で?」

 すぃっと自然に突き出されたボイスレコーダーを押し返す。

「さぁな? 俺は受動担当だ。そういうのはウチの能動担当に聞いてくれ」

 そう返すと、木下は凄く嫌そうな顔をして見せた。

「……なんだ、その顔」

「だって能動担当って、【魔王様】のことでしょ。ぅぇえ」

「うええてお前。それこそアイツの周りにはスクープ転がってんじゃないのか? 相当やらかしてるだろ」

「そうなんだけど」

 どうにも木下の歯切れが悪い。

「美味しいネタは沢山あるけど、どうもこう……誘導されてる気がするのよね。全部お膳立てされてるというか、利用されてるというか」

「…………」

「一学期のことだけどね。突然、見知らぬ相手からスマホにメールが届いて。時間と場所を指定されて行ってみたら」

「行ってみたら、屈強な褌一丁の男たちに囲まれて二十四時間耐久ジャズアレンジソーランダンスを強制されたとか? 大変だったな」

「違うわよ。なによそのトチ狂ったイベント。ちょっと取材したいじゃない……じゃなくて。指定の場所には誰もいなかったのよ」

「ほう。誰もいなかったとな」

「雑居ビルの二階の部屋だったんだけど、明らかにもう何年も誰も住んでないって感じで。でも鍵が開いてたから勝手に入ったのよ」

 あらヤダこの子こわい。
 住居不法侵入って言葉をご存知無いみたい。

 もし知っているならもっとヤバいな。

「なにもないじゃない、って思ってふと窓から外を覗いたら、コレが撮れたの」

 そう言ってスマホの画面を見せてくる。
 バーコード頭の男が、他所の学校の制服着た女子高生と腕を組んで、ある建物に入る瞬間の場面だった。その建物とは休憩も可能なネオン輝く宿泊施設である。

 夜にスマホでの撮影だが、結構鮮明な画像だ。
 ミスター・バーコードの顔がばっちり写ってる。

「これ、うちの教頭……だよな。ついさっき講堂で見たぜ」

「そうね。ついでに言えば、教頭先生の家族構成にこの年頃の娘はいないわ」

「…………」

「…………」

 沈黙。

「でね。直後にまたメールが届いて。『写真どうもありがとう。だが大騒ぎになるのは不本意なので公表はしないでいてくれると有り難い。報酬についてはまた後日』って匿名で。私その写メ、撮ったあとどこにも送信してないんだけどね。ん?」

 ん? と言われてもね。

「で、極めつけはね。その数日後、バーコードが薄くなった教頭先生が、『親戚の大手家電量販店がなんたらかんたらどーたらこーたらで、安くなっていたから』とかいうよくわからない理由をつけて新聞部にデジタル一眼レフを何台も寄付してくれたのね。すっごい青い顔してたよ。きっと『報酬』兼口止め料ってことだろうけど」

「そりゃきっと、給料の何か月分が飛んで行ったんだろうな」

 俺は苦笑する。
 懲戒免職の可能性を考えれば安いものかもしれないが。

「でも問題は、その一連の件でどこにも【魔王様】の痕跡が残っていないってことなのよ」

「差出人不明のメールは?」

「あー、全然ダメだった。唯一の手掛かりだっていうのにね。私程度の知識じゃそんな深くまで追跡なんてできないわよ」

 逆に、デジタル関係でアイツの痕跡を追跡できるヤツなんてこの世の中に何人いるのかねって話なんだが。もしいたら、冗談抜きでアルファベット三文字系の組織にスカウトされると思うんだ。もしくはペンタでゴンな国防省とか。

 そんな雑談を交わしていると、階段のところまでやって来た。
 木下とはここで別れることになる。

「じゃあ、カメラどうもありがとうって魔王様に伝えといて」

「自分で言えよ」

 そもそもカメラはあくまで、教頭からだろう。

「嫌よ。どんな弱み握られるか分かったもんじゃないもの」

 そう笑って、彼女は手をヒラヒラさせて階段を下って行った。

「弱み、ねぇ」

 まだ、木下も俺やアイツとの付き合いが長いって訳じゃない。
 そりゃ他の生徒よりかは知っている方だと思うけど。

「まだ握られてない、と思っている辺り、認識が甘いと言わざるを得ないな」

 そんなことを考えながら、俺は第二理科実験室――科学部部室として占領している――の扉を開けた。




    02.



 部室の中は、大きな実験用のテーブルが幾つもならんでいる。ガス栓と流し台が併設してあるアレだ。
 その一番奥のテーブルには所狭しとパソコンのディスプレイが設置され、幾つもの書類が周辺に散乱している。

 そして彼女は安っぽいパイプ椅子に腰を下ろして、パソコンのキーボードをダカダカと凄い勢いで叩いていた。同時にヘッドセットマイクを使って誰かと会話しているのが聞こえる。

 俺は気にせず、別のテーブルの上にカバンを放り投げて座った。
 スマホを弄って暇を潰す。 

「……ということなら、交渉は順調とみて良いだろう。――ああ、そうだ。値段は二割増しまでなら貴方の判断で構わない。足元を見るのも良いが、今回は恩を売る方が却っていい結果になるだろう。うむ、それでいい。では買収交渉を進めてくれたまえ」

 それで会話が済んだのだろう。
 ヘッドセットを外した彼女――俺の双子の姉、元葉真緒は、長い黒髪を掻き上げながらこちらを見た。

「いや、済まないな勇士。ちょっと仕事の指示を出さなきゃならなかったんだ」

「相手は瀬場さんか? あんまり無茶言うなよ。お前が雇ってるってのはわかるが、いつも振り回されてて大変そうだ」

 瀬場さん、というのは、真緒の部下だ。確か今年で六十五歳になる、総白髪のオジサンである。

 ……繰り返すが真緒は、俺の双子の姉だ。だから今年で十六歳。ピチピチのJKである。それが並べば父親どころか祖父に見える程年上の人物が部下であるとはおかしな話だが、事実なのだから仕方ない。

 それもこれも、真緒は超のつく天才だったことに端を発する。
 小学生の時には既に自然科学を究めた真緒は、株と為替取引で数千万の金を儲け、それを元手に自身の発明品を販売する企業を設立した。 
 特にバイオナノテクノロジーを用いた新しいバイオ燃料は画期的で、従来のガソリンと混ぜることでその燃焼効率を格段に引き上げ、かつ温暖化ガスの排出量が抑えられるとかなんとか……俺もその辺よくわかっていないのだが、まぁとにかくその特許と販売権で企業は雨後の筍の如く成長した。
 
 その結果、僅か三年で一部上場企業である。
 現在では製造業や不動産にも手を伸ばし、MMOグループは目下国内で急成長をしつつある経済界を席巻する台風の目である。

 瀬場さんとはそのMMOグループのCEO代理を務める人物だ。
 見た目小娘な真緒が表にでると色々と面倒くせぇことになるので、傀儡政権であることを承知で表に立ってくれる、出来た人物だ。
 本人はそれはソレで楽しんでる節があるのだが。

 お陰でMMOグループのトップが女子高生であることも、真緒が会社を所有していることも、驚くほど世間に知られていなかった。校内で知っているのは、果たして五指に満たないのではないだろうか。
 もちろん木下も知らないハズだ。
 もし自力で調査し、そうと辿り着くことが出来るならば木下の取材能力は本職顔負けってことになる。

 ……因みに会社設立時、真緒が「いるかい?」と訊いたので、小学生のなけなしの貯金で買ったMMO本社の株、今や飛んでもない額になってます。株主配当金、ヤバいよマジで。

 さておき、真緒である。

「で、何を買うんだって? 買収とかなんとか言っていたが、いくらしたんだよ」

「まぁちょっと大きな買い物だったね。1の後に0が九個続くくらいかな」

 俺は指折り数えて、目頭を押さえた。
 ちょっと大きい、どころの価格ではない。
 
「馬鹿じゃねえのお前。どこの世界に、億の買い物する女子高生がいるってんだ」

「ここにいるじゃないか」

 むふん、と鼻息荒く胸を張りやがる。
 胸のサイズと言い、自己主張の激しいヤツだ。

「別に私だって、遊びでそんな買い物はしないよ。必要なモノだから買収しようとしてるんだよ」

「ほほう。と、いうと?」

「勇士もご存知の通り、我がMMOグループは些か急成長し過ぎた。それで現在困っている部分があってだな、あらゆる場面で人手が足りないんだよ」

「なるほど」

「急場を凌ぐだけなら大金積んでヘッドハンティングすればいい。雑用ならアルバイトで済む。だけど今後のことを考えれば人材の育成は絶対必要だというのが、私と瀬場さんの共通見解。十年後を見据えて今から手を打つことにしたんだよ」

「経緯は分かったが……それでポンと億を出せるってすごいなお前」

 俺にゃとても決断できねぇよ。

「なに。世界の支配者たる私だからな、それ位の器量が無くてはどうする」

 真緒は、事も無げにそう言った。
 言い切った。

 ――もし、真緒が一番、他のヤツと違うところがあるとすれば、それはオツムの出来ではないと俺は思う。そこも大概規格外なのだが、真緒の本質はそこじゃない。

 自分が世界の支配者である、そうなれると確信しているところだと俺は、思うのだ。

 物理学や化学が得意なことなど、その為の手段の一つでしかない。
 
 真緒の、最も真緒らしいエピソードを一つ挙げるとなれば、俺は真っ先に思い浮かぶことがある。
 
 幼稚園の時、将来の夢は? と訊かれて、俺や他のヤツがスポーツ選手だ宇宙飛行士だ、或いは何とかライダーだったりお嫁さんだったりと答える中、真緒はハッキリと、「世界の支配者になります」と言い切りやがった。

 恐ろしいのは、それが四歳児の、ちょっと盛っちゃった夢ではないということだ。なにせ、「なりたい」ではなく、「なります」なのだ。
 そして真緒は、その二つの間にある、大きな違いについて理解していた。

 そう。真緒は世界の支配者になることを、夢だなんて思っていない。
 もっと現実的な目標として、当時から設定していたのだ。

 真緒に言わせれば夢とは酷く曖昧な、ゆったりとした憧れだ。
 対して目標とはどこまでも現実的なトライアル・アンド・エラーの果てに届き得る実現すべきモノである。

 『甲子園に行きたい』ではなく、『甲子園に行く、そのためにはこんな練習をして、チームの弱点である守備を強化する』。
 これくらい根底から意識が違うのだ。
 もちろん『前世がー』『邪気眼がー』ほざいてる中二病とも全く違う。

 真緒には、ビジョンがある。
 幻覚とか空想とか前世の設定ではない。
 実現すると見定めた、達成すると決めた目標だ。
 
 四歳児の真緒は当時から夢ではなく目標を設定し、それに向かって今現在も進行している。企業を立ち上げたのも、今回の人材育成云々もその一環なのだろう。

 凡人である俺は、それを横で指を咥えて見ているしかないのだ。
 まぁとっくに諦めるのにも慣れたがな。

 俺のことはさて置き、真緒である。

「支配者って言ったら、お前生徒会長選挙どうするんだよ?」

「出るさ、勿論」

 当然の如く、真緒は言った。まぁそうだろうな。
 真緒は手元にあったコピー用紙を見せた。
 生徒会長選挙立候補申請書、と題された書類だ。

「ホームルーム終わって廊下を全力疾走して手に入れた。私が申請用紙ゲット第一位だな」

「なにやってんだ、お前」

 黒髪の美少女が廊下を爆走する場面を想像して、俺は呆れた。そんなに急がなくても用紙は無くならないだろうに。

「とはいうがな、こういうのは思い立ったが吉日、残り物には福があるというし、一番最初に貰っておくことに越したことはないだろう」

「お前それ、ことわざの使い方間違ってるぞ」

 残り物に福があるならなんで真っ先に貰いに行ったよ。

「そうかい? まぁ大したことじゃないさ」

 恬としていやがる。

「それで、お前、生徒会長になりたいのか?」

「……ふふ」

 俺がそう問うと、真緒はその口元を申請書で隠しながら意味深な笑みを見せた。

 ――私立南石学園高等部。
 高等部生徒数は二千二百人ほど。
 他に小等部と中等部があり、総生徒数で八千人を超えるとかなんとか。

 明治維新と文明開化で価値観が一変した当時、日本という、余りにも小さい島国がこの先西洋列強と戦って生き抜くために必要なのは人材であると考えた当時の豪商が同志を募り、いち早く西洋の学問を普及するために設立した私学校が前身である。

 このような歴史のため、開校から百三十年経った今でもその校訓に、『行動』と『責任』を掲げるわが南石学園では、非常に学生の自主独立性が高く、その権限が強いことで有名だ。
 
 その最たるものと言えば、高等部生徒会の持つ権限が他校と比較にもならないくらい強く、そして広い範囲に及ぶことが挙げられるだろう。

 具体的に言えば、代々の生徒会長はその在任期間中、全生徒の代表としてだが、学園運営に決定権を持つ理事の一席を占めることが許されている。
 これは学園の予算審議や、各教職員の人事についても口を挟むことができるという意味であり、ある部分では生徒会は、教員の長である校長に並ぶかそれ以上の権力を有しているということになる。

 勿論、権力には責任が伴う。
 その重要な責務を帯びる立場であるがゆえに、迂闊な事はできない。
 他の高校ではまず考えられないことだが、この南石学園高等部では、生徒会長の素行の悪さ――権力を握って増長したらしい――を理由に、実際にリコールが行われたこともあるくらいだ(木下調べ)。生徒会長の横領って、ちょっと他の高校では起こらないと思う。

 とにかく、他の高校であれば比べるべくもない権力を持つことになる我が校の生徒会長である。
 真緒が、その座を狙わないはずが無い。

 いや、むしろその座を狙ってわざわざこの高等部に入学したと言ってもいいくらいだ。
 だから勿論、先ほどの俺の問いかけに、

「勇士も知っての通り、私は生まれついての支配者なのだよ。であればこの学園において、支配者たる私に相応しい地位があると思わないかい?」

 そう、答えた。
 そして俺は直感する。

 今回の生徒会長選、どうも真緒は余計なことを考えているらしい。
 となればきっと、どうせろくでもないことになるのだろうな、と。













 そして実際、その通りになった。





    03.
 


 南国学園高等部生徒会長選挙の日程は、大体以下の通り。

 夏休み後の始業式九月三日(月)に告知。
 九月十日(月)放課後まで自薦・他薦問わず受付期間。
 翌十一日からが選挙運動が許可される期間。
 そして九月二十七日(木)が選挙投票日である。

 投票権を持つのは、南石学園高等部に在籍する全生徒、及び事務や食堂のおばちゃんまで含む全教職員である。この中に運営側である学園理事長及び五名の理事の計六名は含まれない。理事会に参加する現職生徒会長も投票権は無し。

 そのため、選挙における総有権者数は最大で二千六百人に届くかどうか、ということになる。

 選挙全体は生徒会外部委員会である選挙管理委員会に全ての権限が委ねられる。その選管によって開票が行われ、九月最終日に結果が発表されることになる。なお、土日祝日が重なる場合は日程が前倒しになるので、今年は九月二十八日(金)が結果発表だ。

 そしてその後は木下と話をした通り、新生徒会長は実務を通して一か月かけて引継ぎを行い、旧生徒会役員が引退するのは十一月の大学園祭最終日となる。
 ちなみに生徒会長となったら、一番最初の公務は十月頭にある理事会出席なんだと。

「で、真緒。この選挙期間は一体どういう活動を行うんだ?」

「その前に、どうしてわたしまで呼び出されているのか教えてくれないかしら、魔王様? 私だって部活があるんですけど」

 科学部部室でそんな疑問の声を上げたのは、木下である。
 今は九月の七日、放課後。土日を挟んで立候補の締め切りまであと三日だ。

「なに、新聞部は例年立候補者にインタビューをするんだろう? 色々と面白い話も聞かせてあげることができると思うし、木下さんが私の担当になってくれると非常に都合が良いんだよ」

 っていうかそもそも、現時点で立候補の表明を身内以外にするって選挙規則に違反しないのかね?

「……まぁ、いいけど……。これから打ち合わせもあるんだから、手短にお願い。あと、新聞部としては中立を保つつもりですからそのつもりでお願いね」

「勿論さ」

 木下の言葉に、真緒が微笑んだ。
 あかん。今の笑顔は、獲物を捕らえた時の笑みだ。
 木下はもう手遅れかもしれん。

「さて。我々元葉陣営としてこれから選挙活動に身を投じる訳だが――これを見てくれ」

 そう言って、真緒が茶封筒から何枚かの書類を取り出してテーブルに広げた。
 履歴書みたいな感じの、顔写真が付いたモノだ。
 その中には真緒の顔写真もある。

「これは……」

「私を含めた立候補者の学生名簿原本の写しだよ。カラーで印刷してきた」

「はあ!?」

 木下が椅子を蹴倒して立ち上がって叫んだ。

「ど、どうしてこんなものを!? まだ立候補者の公表はされていないハズ! それにこの書類、学園の非公開資料よ? 学生の個人情報そのものだわ。それを一体どうやって……!?」

 俺はその一枚を手に取ってざっと目を通してみた。
 生年月日や住所、出身中学のみならず、両親の職業とか本人の賞罰とか成績評価なんかまで載っている。

 いきり立つ木下に、真緒は答えた。 

「一体どうやっても何も、ハッキングしてだが?」

 ド直球ゥ!
 しかも200km/hの危険球だよ。
 一発退場モンじゃねぇか何考えてんだコイツ。

 もっとも、学園のサーバーにはとっくの昔にバックドアが仕掛けられているなんてこと想像に難くない。真緒にかかれば学園の電子セキュリティなんて折り紙より防御力低いだろうな。

「ぇ、え……!?」

 余りにも当たり前のように言われて木下は、一瞬理解出来なかったようだ。

「あなた、これ、犯罪……」

「外にバレれば、そうなるな」

「新聞部の私を前にして、それを言うの?」

「言うともさ」

「私は学生だけど、ジャーナリストの端くれよ。その正義に従って……」

「正義? セイギ、ねぇ……」

 最後まで言わせずに、笑みを浮かべたまま、真緒は木下に近づいて何かを耳元で囁いた。
 はっとして、木下が真緒の方を見る。
 
 更に真緒が何かを呟く。木下の反応を見ながら、少しずつ。

 それはまるで、科学者がフラスコの中の変化を確認しながら薬品を注いでいくかのような姿だった。

 真緒が何か囁くその度、木下は左右に目を泳がせた。
 胸元の制服を握り締め、何か助けを求める様に俺を見て、否定するように首を振る。下唇を噛み締め、天上を仰ぎ、荒い息で何かを言おうとして思いとどまり、少し考えた末に、

「さあ、どうする? 私はキミの考えを尊重『は』するとも。ジャーナリズムの正義もね」

 それが止めだった。
 木下は絞り出すように、

「……わかった。今回の選挙に限って貴女に協力する。だから弟には手を出さないで……」

 陥落した。

 ほらな、やっぱり弱みを握られてた。
 しかも本人じゃなくて弟って、マジでえげつねぇな我が双子の姉は。

「そんなに悲観しなくてもいいとも。大丈夫、キミにはそんな重たい仕事を任せようとは思っていないから。仮に私とキミの繋がりが公になったとしても問題は無いようにするから」

 満足げな笑みを浮かべて悪魔が囁く。

 今のが『キミとキミの弟の今後の進退は私に掛かっているということをお忘れなく』って聞こえたのは俺だけか?
 あと、きっと木下を脅すネタは他にも幾つかあるとボクは思います。

 ほんッッとタチ悪いな!!

「……で、それで? 木下こっちに引き込むのは分かったけど、肝心な選挙戦の戦い方については? まさか何も考えてないなんてことは無いよな真緒」

「それこそまさかさ。ちゃんと考えてあるとも」

 椅子に座りなおした真緒が、腕を組んで自信たっぷりに言い放つ。
 ……組んだ腕で押し上げられた胸を、木下が暗い目で見ている。自分の胸を押えて――脅されてまだ動悸が残っているのだろうか?

「こうなった以上は仕方ないからちゃんと協力するけど……何からするの? ビラ配り? 街頭演説? 選挙活動費はちゃんと選管に申告しないと――あ、そうそう。例年だったら放送部が政見放送の動画を撮ってくれるはずだけど。そもそもあなた、ちゃんと選挙公約とか考えてるんでしょうね」

 木下の言葉に、真緒は力強く頷いた。

「勿論その辺りのことも考えているとも。だが二人とも、そんなことよりも、もっと基本的なところから先に殺らないといけないと思わないかい?」

「ん? 今なんて?」

「基本的なところって……他に何があるかしら」

 木下が小首を傾げた。
 そんな彼女に、真緒は改めて立候補者の書類を広げて見せた。
 立候補者は順不同で、このようなメンツだ。

 ・元葉 真緒 1年 科学部部長
 ・原口孝太郎 2年 生徒会庶務
 ・藤本 竜介 2年 無所属
 ・森若 哲雄 2年 バスケ部
 ・橋見 敏正 1年 サッカー部
 ・浮本 美香 2年 無所属
 ・百舌鳥贄山 キラメキ 2年 弁論部

「まだ立候補期間は残っているが、週明けだしな。滑り込みがあるかどうか。つまり、主だった立候補者は私を含めて七名か、八名だな」

「一人なんかすげぇ名前の奴がいるな。こいつらがどうした? 公開討論会でも行うのか」

 俺が問うと、真緒はすっごく良い笑顔を見せて言った。

「はっはっは。先ず私たちがするべきことは、彼らを失脚させる――もしくは立候補を辞退させることに決まっているじゃないか」

 木下が、ピシリと固まる。

「し、失脚って……」

「つかぬ事をお伺いいたしますが、どのような方法を用いやがるご予定で?」

「勿論、脅迫だが? なに、心配は無用だ。ネタならある。全員分」

「心配するのはそこじゃねぇよお前がいつか刺されるかどうかだよバカじゃねえの」

 ほんッッッッとうにタチが悪いな、このバカは!!
 おい、横ピース止めろ! ドヤ顔するんじゃない!





 こうして今期の南石学園高等部の生徒会長選挙は、開始直後から早速、たった一人を除いて誰も予想できない明々後日の方へと向かって大暴走を始めたのだった。
 




    04.



 九月十三日(木)、選挙管理委員会室。

「ふぃーーっ」

「先輩、ご機嫌斜めですね……お茶どうぞ」

「ああン?」

 選挙管理委員会に宛がわれた普段は使われていない教室で、選挙管理委員長である古賀美穂はイライラとした態度を隠そうともせず、パイプ椅子に座っていた。
 長机の上に出された紙コップの冷えた麦茶をひっつかむと、一気飲みする。
 冷たい液体が喉を流れて胃に入っていく感覚と共に大きく息を吐くと、少しは気分も紛れた。

「おう、テル。お替り寄こせ」

「はーい」

 テルと呼ばれた、選管メンバーの少年――久米輝久は、差し出された紙コップを受け取り、ウォーターサーバーからお茶を注ぐ。
 二杯目の麦茶も飲み干して、美穂はぷっはぁ、と豪快に口元を拭った。
 そして長机に放り出していた箱を引っ掴み、その中から煙草――ではなくシガレットチョコを一本咥えて、わざとらしいため息をついた。

「ご機嫌斜めにもなるってもんだ。何なんだ、今年の選挙はよ、あン?」

「ぼ、僕にスゴまれましても……やっぱり、今年は変なんです……よね」

「変? ったりめーだ。なんだ、ほんと。七名いた立候補者が次々に辞退していきやがる。毎年一人二人の辞退者はいるものだがな、今年はもう四人だぞ!?」

 美穂は三年生。自他ともに認める不良だ。
 授業はサボるし、成績もお世辞にも良いとは言えない。
 生徒の自主性を重んじるこの学校においても、流石に授業に出ねば単位は貰えず、単位が足りなければ進級も卒業も出来ない。

 と、いうことで足りない成績と内申点を補うため、一年生の時から生徒会外部委員である選挙管理委員会に参加している。
 他の委員会ではないのは、主な仕事がこの九月に集中して他の時期が暇であること、そして自分のような不良――学園で最底辺のレッテル貼られるようなヤツが、学園で最も権力を持つ生徒会長を選ぶ選挙を管理するという、ある種の逆転現象が気に入ったからだ。
 
 そんなこんなで三年目。ついには委員長にまでなってしまった。

 任された以上仕方ないので真面目にやったるか、と密かに決意していたところに、辞退者の連続である。募る苛立ちに半比例してやる気が削がれていく。

 輝久が尋ねた。

「辞退者自体は、毎年いるんですか」

「ああ、いる。過去の記録を調べたことがあるんだが、毎年大体五人から十人くらいで立候補者が出るンだがな。だから今年は多くも少なくも無いってところ――ンで、辞退者も一人か二人は出るんだ。ゼロって年の方が少ないな。ただなぁ……辞退者が既に四人ってのもそうだが、今年はタイミングがおかしンだよ」

「タイミング、ですか」

「そうだ。立候補者が何を考えて立候補するかは知らねぇが、とにかくそれなりの覚悟があって立候補するわけだろ。選挙期間中の活動内容や使った費用も事細かに申請しなきゃなんねぇしそもそも費用は自腹だし、とにかくメンドクセェあれこれもあって、それでも生徒会長になってでもやりたいこと、ならなきゃできない事をやるために立候補するわけだ。やる気はあるんだよ、やる気は」

「なるほど」

「ところが、選挙運動も半ばになると政見放送とか討論会とかで、対立候補のことも耳に入ってきたり直接話をしたりする。すると明らかに『あ、こいつの方が上だ』って嫌でもわかっちまうことがある。で、本番の投票を前に負けを認めてしまう訳だ。どう逆立ちしたって勝ちはねーな、と」

「それで辞退するわけですか」

「中には相手陣営に合流するヤツもいるぜ。新生徒会長は生徒会を組閣する権利があるから、その中に入ることで自分の公約を実現するって寸法だ。一昨年の生徒会会計がそれっだったはずだ」

「ははぁ、対立候補を取り込めばその支持者も取り込むことができるから、受け入れる方も利がありますね」

「互いにメリットがある話だよな。けど今年の辞退者は、違うだろ」

「……政見放送の収録が明日、でしたか。討論会は来週月曜日」

 輝久の言葉に、美穂は頷いた。

「そうだ。白旗上げるタイミングが早すぎるんだよ」

 なにせ一番最初の辞退者は九月十日――立候補締め切り当日にやってきた。選挙運動も何も、準備はともかく具体的な事は一切始まっていないタイミングだ。

「何か理由がある、と先輩はお考えで?」

「さぁーな。生徒会長になりたいヤツなんて、アタシみてぇな不良にゃ気が知れねぇとしか思わねぇよ。だがな……」

 言いながら美穂は、立候補者が残して行った用紙を手に取って眺めた。

 ・藤本 竜介 
 ・森若 哲雄 
 ・橋見 敏正
 ・浮本 美香

 以上の四名が既に立候補辞退を申し出ており、選挙管理委員会は受理している。少なくとも手続き上にも、生徒会長選規則上の問題も存在しなかった。
 表面的には。

「もしこれが誰かの思惑ってんなら、生徒会長選規則に抵触している可能性が高い。ってこたぁ、そりゃアタシらに喧嘩売ってるってことだ。売られた喧嘩は買わなきゃダメだ。不良も、管理者も、他の奴らからナメられたら終りだからな」

 存在している意味がねぇ。

 なんて面白くなさそうに呟く美穂に、輝久は引き攣った曖昧な笑みを浮かべて見せた。
 そして制服のベルトに仕込んである盗聴器の辺りを撫でる。

(うーん、どうもこれ以上は先輩がマジになるみたいですよ。アナタがバレるようなヘマする人じゃないのは分かってますが、ちょっとは自重してくださいよ、まったくもう)

 選管の長である美穂が、真実に届かないようにそれとなく誘導するのが輝久の役目である。そのために選挙管理委員会に入ったのだ。
 だが不良と侮った美穂は、不良であるが故の本能的な直感からかこの選挙の裏で暗躍する存在に気付きつつある。
 
 この仕事、輝久が思っていた以上に骨が折れそうだ。進学のための奨学金援助だけでは割に合わないかも知れない。追加報酬の交渉は可能だろうか。

 科学部部室の辺りで『彼女』が笑ったような気がして、輝久は自分の紙コップの中身をため息と共に飲み干した。





    05.



 生徒会長選挙における不審点に気付きつつあるのは、選挙管理委員長の古賀美穂ばかりではなかった。廊下で人目を気にせず眉根を寄せて、長髪の男子生徒に詰め寄る彼女もまた、その一人だった。

「だから、どうして辞退したのかちゃんと理由を説明してよって言ったでしょう!?」

「ったく、うっせぇなあ」

 周囲の生徒たちがなんだなんだと彼女らの方を見る。

 詰め寄る小柄で釣り目少女は、真壁政子と言う。
 詰め寄られる背の高い少年は、森若哲雄と言う。

 どちらも南石学園高等部二年生であり、同じクラスの生徒だった。

 とは言え、真面目で融通の利かない優等生を絵にかいたような政子と、お調子者でその場のノリだけで生きているような哲雄の仲が良い訳が無い。実際、互いに苦手な存在であると認識していたし、だからこそ必要以上に関わろうとしてこなかった――今までは。

「だーかーら、選挙運動の費用って、結構掛かるじゃん? それが用意できなかったの。んだよ、普通に十万以上自腹とか。もっとお手軽だと思ってたんだけどなぁ」

 そんな水と油みたいな二人が、二学期に入って俄かに共通項を得た。
 
 哲雄が生徒会長選に立候補したのである。
 
 一方の政子は元々現生徒会に出入りし、その活動を支える実行部に所属していた。要するに生徒会の雑用係なのだが、生徒会庶務兼実行部部長の原口孝太郎が生徒会長選に立候補するに当たり、その選挙活動に補佐として関わっているのである。

「バッカじゃないの? この学園、生徒会長が普通じゃないのは知っていたでしょう。生徒会長選挙も、他所の学校と同じ様にやって勝てるはずが無いじゃない」

「へーへー、正論でございますなぁ。けどな、ウチの常識ヨソの非常識って言葉知ってるか? 生徒個人で十万も持ち出ししなきゃなんねぇって時点でおかしいだろ」

 吐き捨てるような哲雄の言葉に、政子が詰まった。
 確かに、未就労の学生にとって十万円と言う金額は――絶対に用意できないとまでは言わないが、大金であることには違いない。例えアルバイトをしていても給料数か月分となってしまう。

 しかし一方で、最低でもそのくらいの金額がなければ選挙をまともに戦えないというのも事実である。

 生徒会長の持つ権力の大きさから毎年選挙活動の規模が大きくなりつつあるのだ。実際の選挙さながらにポスターを掲示し、冊子やビラを配る。朝には廊下の一角で演説し、放課後には校内を練り歩いて部活に勤しむ生徒や教職員たちに自分の改革ビジョンを語り、彼らの持つ一票を投じてもらうよう握手し、頭を下げる。

 冗談抜きで生徒会長の公約一つで、備品や器具が新しくなったり給料が増えたりする部活生たちや教職員たちにとっても、この選挙は今後の学園生活の質に直結する重大事だ。

 だからこそそこまでして自身が本気であることを訴えねば勝てないのが、この学園の生徒会長選なのである。
 哲雄の意見が正論である一方、政子の言葉もまたある一面での正論だ。
 その両者の正しさは、立場――いや、覚悟が違うからこそ対立し、互いに相容れることは無い。

 だが一つだけ、哲雄も認めていることがあった。

「――もし、俺にその金があったとしてもそこまで熱心にも必死にもなれなかっただろうしな。どうせ負けるんだったら、さっさと辞退しておいて正解だったってことさ」

「え、」

 不意に飛び出た敗北宣言に、政子はつい呆気に取られてしまった。
 その隙を見計らったかのように、するりと哲雄は政子の横をすり抜ける。流石はバスケ部と言うべき動きだった。

「あ、ちょっと待ちなさい!」

「やだよ。これから俺、部活なんだよ」

 あっという間に哲雄は他の生徒に紛れて、行ってしまった。
 運動が苦手と自認する政子では追いつけそうもない。バスケ部の練習に突撃すれば別だが――今日の放課後は、彼女もするべきことがあった。

「……結局、何か上手くはぐらかされてしまった気がする。本当に軽く考えて立候補したみたいだし、どうせ勝てないっていうのは嘘じゃないんでしょうけど……」

 森若哲雄の家は大きな病院を経営していて、哲雄自身も相当な小遣いを貰っているという噂だ。チャラい外見その通りの性格で、度々夜の盛り場で目撃されていると小耳に挟んだことがある。

「少なくともお金が無いってのは、嘘だと思うんだけどな。……あー、もう!」

 今が放課後でここが校内で回りに人がいなければ、地団駄を踏んで苛立ちを紛れさせたいところだった。
 
 七人の立候補者のうち、四人が辞退した。

 最初は政子も、対立候補が減ったとただ素直に喜んでいた。

 だが次々と辞退者が出て、ついには半数以上がいなくなったとなれば話は別だ。
 生徒会長選にさほど興味が無い生徒であってもどうにも胡散臭さを感じ、陰謀論好きでなくとも簡単なストーリーが頭に浮かんでくる。

 即ち、『候補者のうち誰かが四人を陥れ辞退を強要したのではないか?』

 そしてその疑いは残った三人の候補者に向けられる。例え清廉潔白の身であっても無実を証明するのは難しい。悪魔の証明という奴だ。

「実際、原口君も揶揄されたって言ってたし」

 立候補者の一人、原口孝太郎。
 同じクラスの友人からからかわれる様にして言われたという。

「全く腹立たしい! 原口君がそんな卑怯なことをするはずが無いのに!」

 孝太郎本人は、言われても困ったように否定するだけだろう。彼は優しいから。
 言った友人もただの冗談のつもりだろう。だが、仲が良いとしても言って良い冗談と悪い冗談があるはずだ。

 それを指摘できない孝太郎だからこそ、周りの人間がしっかりと孝太郎を支えなければならない。そう、政子は思っていた。

「森若くんに構ってる暇なんてないか。ああ、もう時間が無い。急がなきゃ!」

 腕時計で時刻を確認した政子は、行きかう人々の合間を縫って講堂へと急ぐ。
 今日は残った立候補者三名の公開討論会だ。孝太郎を支えるスタッフとして、他の二人の候補者を見定めてやる――特に、あの、飛んでもない噂ばかりの女子生徒――そう決意して、政子は講堂に入った。

 講堂は高等部全生徒を収容できる大ホールを備えた建物だ。映画館のようなバネで座面が開閉する椅子が並んでおり、今回のようなイベントの他、全校集会なども行われる。
 政子が席に着いたのは、丁度討論会の開始直後で、観客席の照明が落とされたところだった。逆に明るくなるステージの上には、四人の人物。
 
 司会を務めるのは放送部の生徒。
 そして、生徒会長選挙立候補者の三名。
 
 元葉真緒。
 百舌鳥贄山キラメキ。
 原口孝太郎。

 講堂の席を埋める生徒と職員の数は、凡そ三割と言ったところか。
 平日で通常の部活なども行っている時間帯のため、妥当な人数だ。
 森若哲雄の様に練習のある体育会系に所属する生徒よりも文科系、あるいは無所属の生徒、そして生活に直結する教職員の比率が高い――というのも、想定された通りだ。

「……あとは、他の人たちがどんな隠し玉を持っているか……そんなものを仕込んでいるとすれば、最も効果的に発表できるのはこの場を置いて他に無いから……」

 相手の戦略の肝をいかに挫くことができるか。
 
 例年直接対決となるこの討論会が、生徒会長選挙の行く末を占う場となる。

 なお、この討論会の様子は放送部によって撮影され、学内のサーバーにアップされ、学園関係者であれば誰でも何時でも視聴することができるようにするのだという。
 夏に撮影機材の寄付があったお陰だと放送部の友人が嬉しそうに語っていた。
 
 であれば、体育会系の生徒のこともおざなりにすることはできない。

 だからこの場にいる有権者に如何に訴えるか、同時にこの場に居ない体育系部活所属の生徒たちも取り込むことができるような二本柱の戦略を立て、孝太郎陣営はこの戦いに望んでいる。

 もちろん百舌鳥贄山陣営も、元葉陣営も同じだろう。

「それでも勝つのは原口くんだから……!」

 政子が祈るように呟き、戦いの幕が――静かに開く。





    06.



 元葉真緒に弟の弱みを握られた私、木下景が、彼女に『お願い』されたのは、結局たった二つのことだけだった。

 一つは立候補者の一人である森若哲雄に、A4書類用サイズの封筒を届けること。
 二つ目は、その際に私が新聞部所属であると明言すること。

 誓っていうが、私はその封筒の中身がなんであるかは判らない。知らされていない。
 だがその後、森若哲雄が立候補を辞退したとなれば――つまりはそういうことなのだろう。森若哲雄の弱点となる何かがその封筒に入っていて、それを新聞部が握っていると思わせることができる。

 あの元葉真緒は、私という存在の持つ属性を最大限に利用したわけだ。
 さすが【南石学園の魔王】と呼ばれるだけのことはある。

 だが解せないのは、その後彼女は、特に私になにも言ってこないことだ。用事があったらまた呼ぶよ、と言われただけ。もちろん私の方も、例の弱みに対する『お願い』がこの程度で終わるわけないと思っているのだけど――なんとも拍子抜けだ。

 そして今日、私は新聞部として立候補者たちの討論会を公聴している。

「……という現状を踏まえますと、文化部全体に対する評価が不当に低いと言うことが言える訳です。もちろん吹奏楽部や、私の所属する弁論部のように何らかの大会に参加することでその活動の成果を可視化できる部もあります。ですがそうではない歴史研究部みたいな文献を研究するタイプの部活、もっと言えば鉄道歴史研究会のような同好会に至ってはその『活動の成果』が、大会成績のように対外的な比較が可能なタイプではないというネックが存在し――」

 百舌鳥贄山キラメキは、講堂の壇上で自分の政策について語った。

 今回の……というか辞退しなかった生徒会長選立候補者たちの、共通的な公約というのが、生徒たちに対する利益の再分配だった。
 運動部のような、大会成績が良い場合には新しい備品やトレーニング用具の導入という形で報いることができるが、文系の、特に研究系の部活では中々そういうことが出来ない。
 
 これに対する不公平の是正が求められている、というのが百舌鳥贄山の主張である。

 それ自体は三者同様の見解を示しているが、原口孝太郎はまた違った切り口での主張と公約を展開していた。

「僕が全生徒に求めるのは、この学園の校訓である『行動』と『責任』ということです。つまり、学生の本分である学業成績を基準に、運動部の成績を変数にして公式化し――」

 学業成績を基準に、部活の成績やボランティア活動を変数とした公式を設定。複数用意された、いわば『成績公式』によって導かれる得点を元に利益の分配率を決めるという。

「複数の『成績公式』によって導かれる得点に差異がある場合、最も高い点数となるものを採用すれば不公平さが無くなると。いわば内申点の可視化とも言うべき――」

 そんな二人に対して、台風の目となったのはやはりというかこの人物――元葉真緒である。

 彼女は二人の意見を肯定しつつ、それだけでは足りないと主張し、より過激な方策を提案した。

 学生に対しデジタル認証式のカードを配布し、校内各地にセンサーを設置。
 監視カメラと共に、その周辺で何を行っているのかについて記録するという。

「公的な成績、活動内容に対する自己評価及び、他者の評価を加味する。またこれに対し表立っていない、反社会的行為に対する――まぁ、そこまで強い言葉で言い表すようなことでじゃない。例えば宿題を忘れた、とか。授業サボったとか。そういった、自身では申告されないだろうマイナス要因を孕む行動に対する他者申告についての推進を採用するつもりでいる。勿論、不当な虚偽の申告の対策は必要だが……つまり端的に言えば、『密告奨励』と……おお」
 
 三割しか埋まっていない講堂で、怒号とブーイングが爆発し、壇上の椅子に座っていた元葉真緒がのけ反り、舞台袖で双子の弟が目頭を押さえてため息をついていた。

「アイツ……マジで最悪過ぎるだろ……」

 そんな彼の呟きは騒音にかき消されて、私以外には聞こえなかった。

 結局討論会は、元葉真緒の公約を疑問視する原口・百舌鳥贄山両名という形で進行する。

 最終的に百舌鳥贄山は原口陣営に対し、「絶対に元葉さんにだけは政権を渡すわけに行かない。不当な監視社会と独裁政治が始まってしまう」ということで連立――というか実質的な陣営参加を表明し、壇上に於いて原口孝太郎もこれを了承。

 このような経緯で、今期の生徒会長選挙は、原口孝太郎と元葉真緒の一騎打ちという最終形へともつれ込んだ。
 
 ――これは現時点での私の所感だが、大勢の支持は原口に(七か、八割くらい?)集まっているように思える。

 ……対立候補を簡単に辞退に追い込むことのできる女が、このままでいるとは思えない。
 何らかの逆転の策があるのではないか、と私は見ている。





    07.



「あの人とんでもないね、原口君」

 真壁さんに呼ばれて、僕は頷いた。
 討論会の後、選挙活動をサポートしてくれる真壁さんと一緒に帰路についていた。

「だけどさ、あの人凄い頭いいらしいね」

「それは……学年どころか全国でもトップらしいけど」

 真壁さんは、元葉さんのことが嫌いらしい。
 というか、元から良い感情を持っていなかったけど、それが今日の討論会の件で本格的に嫌いになった様だった。
 真壁さんは祖父が弁護士をやっていて、すごく尊敬しているという。その正義感の強さも納得だし、そんな彼女が元葉さんを嫌うというのもよくわかる。

 そして、元葉さんは元々黒い噂の絶えない人物だ。
 曰く教師を脅して良い様にこき使っている。
 曰く校内に部下を配置して様々な情報を集め、誰かを脅す材料にしている。
 曰く格闘系の部にトレーニングマシンを贈り、見返りとしてボディーガードにしている。

 僕が耳にしただけでこれだけあるのだ。
 だからきっと、他にもあるのだろう。

 そんな真壁さんだ。
 だから僕が元葉さんを褒めるようなことを言うと、彼女はむっとしたようだった。

「でも! あの人、きっと裏でなんかやってる気がする。でなきゃ立候補者があんな次々に辞退なんてしないと思うの。もちろん私たちじゃない。百舌鳥贄山さんでもなさそう。だったら元葉――」

「待った」

 勢い込んでその言葉を言おうとした真壁さんを、僕は押しとどめた。

「確かに――僕も、その可能性を考えなかった訳じゃない。けど、証拠のある話じゃないよ。憶測で誰かを貶めるようなことを、大声で話すのは良くない」

 それとも確固とした証拠を掴んだとか?
 そう問うと、真壁さんは横に首を振った。そして深呼吸――

「ううん。そうだね、原口くんの言う通りだわ。もし、元葉さんに聞かれでもしたら……」

 まさか盗聴されてないわよね、なんておどけるように辺りを見回す。

「流石にそんなことはないと思うよ。けど、全国模試一位取れるくらい頭のいい元葉さんが、あんなことを言ったのはなんか……あるんだと思うよ」

 今日の討論会のことだ。
 彼女くらい頭が良ければ、あの過激な発言で多くの有権者を敵に回すのはちゃんと理解しているはずだ。
 真壁さんも僕が言いたいことが伝わったらしい。

「あるって……逆転の策が、ってとこと?」

「そう。それがなんなのかわからないけど」

「今回の討論会で、私たちが一番有利になったと思ったけど油断はできないわね」

 僕が頷くと、いつもの分かれ道に差し掛かった。

「それじゃあ、また明日ね。……こ、孝太郎くんッ」

 夕日のせいか、真壁さんの顔は真っ赤だった。

「じゃあ、また明日――」

 一瞬考えて、

「真壁さん」

 下の名前で呼ぼうか、と思ったけど。
 真壁さんは少し落胆したようだったが、そのまま手を振って行ってしまった。

 ――正直、彼女の好意についてもっと前から気が付いていた。
 最初は自惚れかと思ったけど、客観的な事実のようだ。

 でも僕は、それにどう応えていいか決めかねている。
 好意それ自体は嬉しいのだけど、彼女は僕なんかには勿体なさすぎる、と思うのだ。

 もしそれを言えば、真壁さんからはきっと、自己評価が低いって怒られるかも知れないけど。それ自体は、僕の僕に対する評価ゆえなのだから、仕方ない。

 そんなことを考えながら、僕は帰宅した。
 夕方というのに、家には灯りが付いていない。

 台所には夕食の準備がしてあった。いつもの通り、母さんのメモ。
 
 ……僕の家は、近所で小さな鉄工所を経営している。工員が十人くらいの、小さな工場だ。元々は終戦後、祖父が始めたのだという。当時は戦後の復興と、朝鮮戦争とでネジや釘が飛ぶように売れていたらしい。だけど高度経済成長期も終わってバブルも弾け、海外輸入製品も大量に入って来て、うちの経営はかなりの苦境に追いやられた。

 それでも抜群の精度を誇るうちの製品は売れていたらしいけど、それも近年雲行きが怪しくなってきた。
 コンピューター制御の工作機械が普及して、精度でも並ばれつつある。

 コンマ何ミリの精度でモノ作りをする職工も凄いけど、どうしても時間がかかるし数を揃えることが出来ない。そこに、機械操作さえできれば同じものを延々と作ることが出来るコンピューター制御の機械を導入した同業他社――決して大規模工場じゃなく、うちと同規模――が参入してきたのだ。

 また人件費が安い海外の工業製品も、最近ではイメージ程低品質ってこともないらしい。
 二重三重にライバルが登場して、我が社の経営は苦境に陥っている。両親は僕にそんな顔を見せないけど、少なくとも夕食を一緒にできない日が続くくらいに、両親は働きづめだった。

 父さんは、僕に会社を継げとは言わない。
 自分の代で畳むつもりだ。

 もし僕が会社に入ったとしても、ベテランさんと同じことが出来るようになるには何年、下手したら二十年も修行する必要がある。

 それじゃ、間に合わない。

 だから、僕は大学に行って経営の勉強をしたいと思っている。
 元葉さんほどじゃないけど、幸い僕も勉強はできるほうだ。全国模試でもそれなりに上位に食い込むくらいには。
 だがこんな状況じゃ大学に行きたいなんて言うこともできない。

 そんな僕が、大学に行くためにはどうしても生徒会長になる必要がある。
 無返済の奨学金をもらうための審査をクリアするのに、それくらいのことが必要なのだ。

 僕は、ラップに包まれた料理の皿をレンジに入れた。
 ぶぅぅん、という機械の作動音を聞きながら、元葉さんや、協力を申し出た百舌鳥贄山さんを踏み台にすることになってでも、生徒会長を目指すんだ、と自分に言い聞かせていた。

 何を、誰を、踏み台にしてでも。
 絶対に。





    08.

 

 討論会からはあっという間に、日は過ぎて――

「おい、真緒。本当にあれで良かったのか」

「何がだい、勇士」

 問い掛ける俺に恬として真緒が応える。

「何が、じゃねぇよ。お前、あれからまともに活動しなかったじゃないか」

 ふふ、と意味深な笑みを浮かべる真緒である。
 
 そう――俺が今口にした通り、真緒は殆どまともに、選挙運動をしなかった。

 いや、もちろん通り一辺倒のことはやった。
 ビラを配り、校内で選挙演説をやった。

 だが、正直芳しい結果であるとは言えないだろう。
 ビラを渡そうにも受け取り拒否は当たり前。掲示されたポスターの、目と鼻の穴に画鋲が刺してあるのはまだかわいい方で、ビリビリに破られてさえいるものもあった。実際の選挙であれば、ポスターに悪戯した奴は公職選挙法違反と器物損壊で逮捕されることもありえるんだがな。

 そして真緒が活動すればするほど、相対的に原口先輩の株が上がる。
 今や悪の真緒対、正義の原口陣営みたいな空気すらある。
 しかもそれ、面と向かって否定できないんだよな。

 だってあの手この手で立候補者を四名、過半数を辞退させてるもんな。
 よくもまぁここまで人の弱みを握ったものだと感心すらするレベルである。

 ポスターだって、真緒はちゃんと校内に設置してある盗撮用カメラで破いた奴のことを特定していて、黙って欲しければうんぬんで『お願い』をしてやがった。本当にタチが悪いなコイツは。

 そして、今日がついに、選挙の投票日だ。
 マイナスのイメージも悪役な雰囲気も払うことが出来ないまま、今日になってしまった。

「なんか、隠し玉とかなかったのか? 一発逆転でお前の悪いイメージを払拭できるような、そんな政策」

「ないよ、そんなもの。少年漫画じゃあるまいし、突然隠された真の力が目覚めるなんてこともない。もしそんなものがあったとして、真の力が目覚めて選挙に勝てるってこともないだろう? 現実っていうのは、ちゃんと準備していた方が順当に勝つものさ。スポーツならまだしもビギナーズラックがあるかもしれないけどね」

「そりゃそうなんだが……」

 俺と真緒は、揃って部室の窓から、外を眺めていた。
 ちょうどこの位置から、講堂の入口が見える。

 放課後ということで沢山の生徒や職員たちが集まっている。投票の会場は校内に三か所あるが講堂が一番大きいので人が集まっているのだろう。
 入口の傍では、原口先輩や真壁先輩、他彼らをサポートするスタッフが最後のお願いということで声を上げていた。

 あなたの清き一票を……とここまで聞こえてくる。
 一生懸命声を張り上げているのは真壁先輩だろうか。
 あまりの健気さに、俺でも応援したくなるくらいだ。

 俺たちもさっきまではあそこにいたのだが、生徒たちに睨まれてすごすごと部室に退散したわけだ。

「討論会であんなこと言わなきゃ、ここまで酷いことにゃならなかったんだろうけどな」

「仕方がないさ。これが私だ。偽りたいとは思わないし、偽ろうとも思わない」

 肩を竦める真緒に、俺はため息をついた。
 そこに、ポケットのスマホに着信。木下から電話だった。

「しもへいへー」

『あなたケワタガモ猟で腕を磨いたフィンランドの超級スナイパーだったの? そんなことより――今、新聞部で出口調査してたのだけど、速報出たわよ』

「ほう。それで結果は?」

『決まってるじゃない。実得票数は少し変わると思うけど』

 そして木下は、言い放った。




『九対一で、原口先輩の圧勝よ』




「マジか。へぇー」

 俺は素で驚いた。
 一割、つまり学園でざっと二百数十人も、真緒に投票するとは思わなかったからだ。
 大人気じゃねえか、魔王様。

『そのマジか、は何に対する驚きなの? ……ねぇ、真面目に答えて。元葉真緒は一体何を考えてるの? 私のことまで巻き込んで、結局負けているじゃないの。目的はなんなの?』

「それは俺の知ることじゃないな。直接聞けばいい」

『聞いても教えてくれなかったから、あなたに聞いてるの!』

「そうか。だが、本当に俺も知らんのだよ。悪いな」

『あっ、ちょ、待』

 そう言って俺は通話を切った。そのままスマホの電源をオフにする。どうせ木下がしつこく掛けてくるだろうからな。
 
 それに俺は、真緒が何を考えているのか、本当に知らないのだ。

 だけど、生まれてこの方このバカに付き合っている俺には、真緒が何を考えているのか推測することはできる。

 確信することが、一つあった。

「今のは木下さんかい? 速報が出たんだろ?」

「原口先輩の圧勝だそーだ」

「ふふ、そうか」

「驚かないんだな」

「私が驚くとおもっていたのかい?」

「いや、思わない。だって、お前――」




 最初から、原口先輩を勝たせるつもりだったろ?




 確信を込めてそう問うと、真緒は得意満面の笑みで、「その通り」と答えた。 

 そのドヤ顔を見ながら俺はため息をついて、改めて認識する。
 やっぱりこいつ、最悪だ。




 結局今期の生徒会長選挙の最終的な結果は、

 原口孝太郎  二千二百十八票
 元葉真緒   三百十一票
 無効・棄権  三十七票

 となり、原口孝太郎が生徒会長に当選した。

 新生徒会長となった彼は真壁政子を副会長に、さらに百舌鳥贄山キラメキ他数名を生徒会役員に指名し、全員がこれを了承。
 

 こうして、新生徒会が組閣され、その活動を開始する。



 結局逆転劇は起こらなかった。
 何もかも予定調和の内であり、その予定を立てたのは他ならぬ我が姉である。 
 木下は真緒が、今後なにかクーデター的なことをするんじゃないのか、と思っていたようだがそんなことも無いし、必要がない。

 そう。
 クーデターも逆転劇も、全く必要はないのだ。

 なぜならば、最初から最後まで――いや、始まる前から終わった後までずっとこの選挙戦は真緒の掌の上で転がされていて、僅かたりともその範囲を逸脱することは無かったのだから。

 そして真緒は既に、学園の全てを手に入れてしまっている。





    09.



 原口孝太郎は、前生徒会長に案内されて校内のある一室に入った。

「昨日で俺は、この部屋に入る資格を失ったからな。頑張れよ」

 バン、と孝太郎の肩を叩いて前生徒会長は去って行った。
 その部屋は、一般の生徒が立ち入りを禁止されている場所。

 理事会室である。

 高級さを漂わせる木製の調度品が並ぶ室内、その中央に置かれた円卓には、既に二人の人物が座って雑談を交わしていた。
 この学園の理事を務める人物たちだ。

 彼らと挨拶を交わし、新任理事としての激励を受けて孝太郎は席に着いた。
 やがて他の理事たちも入ってくる。

 数分後、一番最後に入って来た人物を見て、全員が立ち上がって、その人物を迎え入れた。歳は六十半ばとのことだが、孝太郎は彼をみてもっと若々しい印象を受けた。
 オールバックに撫でつけられた総白髪というのになぜだろう――と考えて、気が付いた。瞳の輝きが、まるでいたずらっ子のようだ。

 その目が孝太郎を捕らえて――頷いた。

 その場にいた全員が席に着き、最後に入って来た人物が口を開く。

「――さて、新しい生徒会長も決まり、我ら南石学園理事会のメンバーに参加することになった。お互いに既に知ってはいることだろうが、先ずは自己紹介から始めるといたしましょうか」

 促されて、孝太郎は自己紹介する。
 彼を除く他の人たちは遥かに年上で、社会で成功したと言える人物ばかり。
 そこにちょっと人気があるだけの高校生が混じるのだ。
 微笑ましく見守る目があり、値踏みするような目がある。

 そして順に自己紹介がなされ、一番最後に、総白髪の人物が口を開く。

「――わたしが、私立南国学園の理事長にして、先日から学園を運営することになったMMOグループ代表取締役代理の地位を預からせていただいている、瀬場素庵と申します。原口孝太郎くんはまだこの場の空気に慣れていないと思いますが、なに、じきに慣れることでしょう」

 微笑みを返しながら、孝太郎は考える。
 彼を含めて、この場に学園理事は六人いる。
 そして学園の運営に関する議案に対し、理事長が二、他の理事は一の投票権を持つ。
 
 つまり、この南石学園は七票の投票によってその運営が決定されるのである。

 既に元葉真緒に買収されている孝太郎と、もう一人の理事――それが誰か孝太郎は知らされていないが――、そして理事長であり、元々真緒の部下である瀬場。合計で四票、つまり過半数。
 
 これで、元葉真緒は、学園を支配下に置いたことになる。

 もっとも、もし孝太郎が生徒会長にならなくとも、既に学園はMMOグループに買収されているのだ。大勢に影響は全くなかっただろう。ただ、孝太郎がいる分スムーズに事が進むと言うだけのことだ。

 昨夜の、両親の顔を思い出す。
 それまで眉間に寄っていた皺が嘘のよう明るい表情だった。

 製造部門を拡大強化するMMOグループによって、原口工務店の買収契約が合意に取り付けられたのだ。
 今後原口工務店はその看板を、MMOインダストリアル・原口部品製作部として経営を続ける。工員は全員MMOインダストリアルに雇いあげられ、給料は増額。老朽化していた機器も新しいものに取り換えられ、作った製品は全てMMOに納品する。
 もちろん会社が抱えていた借金は全てMMOインダストリアルが返済してくれた。

 全て、真緒の約束通りだ。

 もう少しで両親が首を括っていたかもしれないことを考えれば、真緒には感謝の念すら覚える程だ。本当に足を向けて寝ることが出来ない。
 孝太郎はその見返りとして今後の人生を真緒に奉げることになる。
 と、言っても元々のビジョンと全く変わったところはない。

 生徒会長になり、真緒が新たに立ち上げる奨学金制度の利用者第一号になる。
 大学で経営を勉強し、原口部品製作部に就職し、ゆくゆくはMMOインダストリアルの社長を目指す。

 孝太郎の実家は買収とはいえ倒産を免れ、孝太郎自身は進学と就職の問題をクリアし、真緒は高精度の部品を作る会社を手に入れやがて優秀な人材を雇うことができる。

 六年後の大学卒業まで自分の有能さを示し続ける必要があるのは大変だが――今日が、その第一歩だ。

 孝太郎は、気合を入れて議案の書類に向き合った。





    10.



「結局なんで、お前は自分で生徒会長をやらなかったんだ?」

 放課後、夕日に暮れる帰宅の途で俺は真緒に問いかけた。

「なろうと思えば、なれただろ。原口先輩の得票数のうち、一体何票がお前の指示だよ」

 きっと百や二百じゃない。
 もし全部を真緒自身に投票させていれば、結果がひっくり返っていたかも知れない。

 すると真緒は、にやりと笑って答える。

「だから最初に訊いたじゃないか。『この学園において、支配者たる私に相応しい地位があると思わないかい?』って」

「それで、生徒会長も学園理事長も裏から操る黒幕的な存在かよ……」

 そう――真緒の目的は、最初から生徒会長という、ただの学生たちの代表者という立場ではなかった。
 それを支配し、学園全体も支配する立場。
 それこそ、真緒が狙っていた立ち位置である。

「いつから、私の狙いに気付いていた?」

「お前が討論会で暴言吐いたところでだよ。真面目にやっていれば本当に生徒会長になれてたんだろう、お前。でもそれをしなかったってことは、何か仕込んでやがるなって気づいたんだ。それで、全貌が見えた」

 生徒会長になる気はない。
 でもきっと、その地位と権力は欲しいと思ってる。

 だったらどうするか?
 答えは傀儡政権だ。

 選挙に勝った原口先輩は、真緒とグルってことになる。

「でも判らないとことが、二つある」

「なんだい? 二つと言わず、いくらでも答えようじゃないか我が弟よ」

「ありがとうよクソ姉貴。じゃあ、一つ目。どうして自分で生徒会長なり理事長なりをやらないんだ? わざわざ人を介して支配するのなんて、面倒くさくないか?」

「ふふ。それに答える前に、二つ目の疑問を訊いておこうか」

 意味深な笑みで、真緒に促されて俺は続けた。

「二つ目。どうせ原口先輩に勝たせて自分は裏に回るつもりだったなら、どうしてわざわざ生徒会長選に出馬したんだ?」

 俺の問いかけに、真緒は「そうだねぇ」と言葉を選んでいるようだった。

「まず、二つ目から答えようか。答えは、私と対立する存在が欲しかったからだ」

 意味が分からない――という表情を見せると、真緒はさらに続けた。

「今回の生徒会長選、というか討論会での発言がきっかけで、私はこの学園における、明確な悪役となった。だが、元々悪い噂はあったからな。遅かれ早かれという奴だ。だったら、それもコントロールしようと思ったわけだ



 ――悪役には、正義のヒーローがいないとダメだろう?」 



 その言葉に、俺はなんとなくだが真緒がこの生徒会長選で目論んだことが理解できた。

「お前……自分と敵対するヤツのこと、生徒会に押し付けるつもりだな?」

「その通りだ」

 満面の笑みで答えられて、俺は目頭を押さえた。

 つまり、真緒はこう考えているのだ。

 今後自分が自分らしく行動すれば、根も葉も有る噂から自分が学園の悪役になるのは間違いないだろう。そうなれば正義感ぶって邪魔しに来る奴が出て来るかもしれない。
 そいつらを個別に相手するのは面倒くさい。

 だったら最初から、悪の自分に対する正義役を用意しておけばいいじゃないか!
 正義役と合流してくれれば一塊になって対処しやすくてイイネ!

「もっと言えば、その生徒会自体も私の支配下にあれば色々と捗るだろう?」

「お前……まさか原口先輩だけじゃないのか?」

 原口新生徒会長が、真緒と取引の結果、下についているのだと言うことはさっき聞かされた。だが、俺の知らないところで他にも弱みを握っていたり取引していたりで言うことを聞かせることのできる奴がいるらしい。

 もしかしたら、新生徒会メンバーは……?

「そうだね。原口先輩、百舌鳥贄山先輩は選挙に立候補する前から私の下だよ。っていうか、新生徒会役員は、副会長の真壁先輩以外、全員私の部下だ。そうするよう指示しておいた」

「傀儡政権もいいところだった……!!」

 立候補者の辞退が四人で、真緒と原口先輩がグル。
 ならどうして百舌鳥贄山先輩が残っているのかと思ったら不自然さをカモフラージュするんじゃなくて、原口先輩とどちらでも良かっただけかよ!

「このままやっていれば、遅かれ早かれ真壁先輩とは対立することになっていただろう。あの手の人物は絶対に買収に応じようとしないし、心を折るにも時間がかかる。だったら最初からその方向でやってやればいいと思ってな。ついでに生徒会をも支配出来て、一石何鳥も獲れた気分だ、はっはっは!」

 操り人形だらけの生徒会と、一人で懸命に踊る真壁先輩。
 真壁先輩がいくら頑張っても、それは無為だ。生徒会に、そしてこの学園に所属している限り、真緒の掌から外れることはできないのだから。

 俺はこめかみを押えて、まだ答えられていない一つ目の問いを繰り返す。

「じゃあ、どうして自分で生徒会長なり理事長なりにならないんだ? 自分でやった方が早いだろうが」

「私は支配者だが、生徒会は生徒の代表者であり、生徒たちの代弁者だからな。私がつくべき地位ではないんだよ、最初からね。それに、これは今後の私の世界征服のテストケースでもある」

「と、いうと?」

「勇士。きみは、現実的に、どうすれば世界征服が実現できると思う?」

「……?」

 言われて、俺ははたと足を止めた。
 真緒が世界征服とよく口にするし、もしかしたらこいつだったらやり遂げかねん、と思っていたが、その具体的な方策までは考えたことが無かったからだ。

「例えば大金を用意し、大量の傭兵と武器を以て武力で日本や、他の地域を侵略して支配下に置いたとしよう。その後、どうなると思う?」

「それは……もちろん、国際的な非難と、もしかしたらPKO、とか……アメリカ……」

 答えながら気が付いた。

「そう、今勇士が考えている通りだ。武力侵略なんてしてみようものなら、そこら中と安全保障条約結んでいるアメリカやロシアや、或いは国土問題色々抱えている中国なんかと戦争になる。その口実を与えることになる。チンギスハーンや、アレクサンドロス大王の時代じゃないんだ。現代地球において、武力による世界征服は現実的じゃない」

「じゃあ、お前が常々言っていた世界の支配者っていうのは……」

 夕日に紛れて、真緒が笑う。
 もしこの世に魔王という存在がいるとすれば、きっとこんな美しい笑みを浮かべるのかも知れない。

「そうさ。世界の支配者とは、支配者を支配する者のことを言うのさ」

 つい先ほどの、真緒の言葉が脳裏に過る。
 世界征服のテストケース。

「生徒会長を原口先輩に、学園の理事長を瀬場さんに任せるのはそういう理由さ。私は私でやることがある。MMOグループのアメリカ進出計画とかな。そして協力者と部下を増やして、二十年後にはアメリカとロシアの大統領を私の支配下に置く。可能であれば、イギリスとフランスとドイツにもある程度の影響力を持っておきたいな。そこまで行けば、あとは早いんだが」

 嬉々として語る真緒の横顔。
 夕日に照らされる笑顔と、本気のまなざし。

 俺は、それを――つい、美しいなんて思ってしまう。

 ああ、そうか。
 瀬場さんみたいな大人が、どうして真緒のことを評価しているのかと思ったら――瀬場さんは、俺よりも真緒の深い部分の価値に、既に気付いていたからなんだな。

「なぁ。お前の真の勝利が世界征服ってのは何度も聞いていたが……それは、いったいなんのために行うんだ?」

 そう。
 それ自体も目的だろうが、その先のことを、俺は、今まで訊ねたことがなかった。
 荒唐無稽過ぎる夢を、実現可能な現実に引きずり落し、その方策までテストし始めた真緒。

 今まで俺は、こいつならやりかねないと思いつつも、心のどこかで、どうせ道半ばで失敗するんじゃないかと思っていた。
 だが、その荒唐無稽な目標は、俺が思っていたよりももっと具体的で、現実的な手法で行うつもりの様だった。




「決まってるじゃないか。全人類が願ってやまない夢――世界平和の実現さ」




 わたしはそれを夢見てるんだよ。




 にこりと笑う、元葉真緒。

 生まれてこの方ずっと一緒にいたこの俺元葉勇士は、この時生まれて初めて、双子の姉の抱く夢を耳にしたのだった。

「勿論勇士にも色々手伝ってもらうからな?」

「……おう、上等だ。――て、どうしたそのびっくりした顔」

「いや――勇士が、私の手伝いを積極的に肯定するのって初めてだったから、つい……」

 そうだったか?
 そうかもしれない。どうでもいいか。



 夏は終わった。
 融ける夕日に染まる世界。



 こうして、我が双子の姉――元葉真緒による、南石学園の征服は秘密裏に成功した。それは続く世界征服の第一歩だったわけなのだが。



 今のところそれを知るのは、真緒と、俺の、世界に二人だけだった。




   了



入江九夜鳥 NC1AxUg.ec

2018年04月27日 00時00分12秒 公開
■この作品の著作権は 入江九夜鳥 NC1AxUg.ec さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:生徒会長選挙の正しい戦い方(支配者編)
◆作者コメント:楽しいテーマの企画で、自分も楽しく執筆できたと思います。読者の方もこの作品を楽しんで頂ければ幸い、この企画も楽しんで頂ければもっと幸いでございます。
追記:4/27 23:59 一部誤字修正

2018年05月15日 00時13分38秒
作者レス
2018年05月14日 23時51分46秒
作者レス
2018年05月14日 20時43分37秒
作者レス
2018年05月13日 02時22分46秒
作者レス
2018年05月12日 23時42分24秒
+10点
2018年05月10日 23時34分20秒
+10点
2018年05月08日 15時12分49秒
+20点
2018年05月07日 21時48分52秒
+20点
2018年05月06日 21時26分23秒
0点
2018年05月06日 04時02分12秒
+10点
2018年05月05日 23時28分21秒
+10点
2018年05月04日 10時34分17秒
+20点
2018年05月03日 19時35分08秒
+10点
2018年05月01日 15時57分04秒
2018年04月30日 19時55分45秒
+30点
2018年04月30日 14時44分48秒
+10点
合計 12人 150点

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