卵の殻が割れる頃

Rev.04 枚数: 17 枚( 6,415 文字)

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「なぁ、、、
俺ってずっとこのままか?」

「そんなことないよ。かっちゃんは変われる。こうやって頑張って来たじゃないか。ホントは優しいんだかっちゃんは。僕はかっちゃんを知ってるよ」


「、、、、うん、、、」


「かっちゃんの殻を割れるのはかっちゃんだけだから。僕はちょっぴり手を出すだけ。」


「、、、なぁ」

「ん?」


「お前に会えて良かったよ。ありがとな。」

「なぁに言ってんのさ。かっちゃんだから一緒に居れたんだよ。かっちゃんの頑張りは僕が1番近くで見て来た!そんな辛気臭い事言わないでよ!これからだって一緒さ♫」

「、、、ホントアキラはポジティブだよな。お前と居ると気持ちがスゥーってなんだよな」

「かっちゃんを励ますのがオレの人生っ!」

「なんだよそれ!くだらねえ人生だな〜オレって言い慣れてねえし!」

「あはははっ!良いじゃん楽しいじゃん♫」

「ははっ」

「あははっ♫」




ーーーーーーーーーーーーーーーーー


2001年春。それは突然だった。

「こっち来んなよ!感染んだろ!」
ガヤガヤワイワイしている休み時間。
5年1組の教室に降って湧いたコトバ。
いきなりの事で俺はあっけに取られ、
なんのことかさっぱり。
何のことか分からないけど
一応考える。

服は毎日変えてるし、風呂だって入ってる。、、、当たり前だけど。なんなんだ?俺なんかしたかな?でも、答えは簡単だった。ふぅ〜ん、いじめってこうやって始まるんだって。

さすが小学生。家が貧しいってだけで言う言葉もやる事も残酷極まりない。靴や勉強道具を隠されるなんてザラ。
ランドセルの中が水でビチャビチャ
の時もあったな。汚い、触るな。 触ってないのに。空気で感染るんだってさ。いったい俺がなにをした?昨日まで普通に遊んでたじゃないか、、、

そんな事されて俺が黙ってる訳なかった。片っ端からぶっ飛
ばしてやった。いじめだって認めたくなかったのかな。
これが良くなかった、、、、
今度は無視。ひたすらの無視。俺は居ないものになった。

そんな時1番許せない事があった。
俺がやり返すもんだから俺になんも出来なくなって今度は俺の弟にターゲット変えやがった。唯一の兄弟で仲良しだって。
近所から評判になるほどだった。
俺になんも出来ないからって弟に「死ね」とかいってきた。まだ3年生の弟に向かってだ。

泣きじゃくりながら帰ってきたっけ。
自分でも分からないくらい頭に血が昇ってドクドクいってるのが分かった。



朝待ち伏せしてそいつを待った。


「おいっ」

「な、なんだよ、俺お前になんもしてないだろ!こ、こっちくんなよ!うう、感染るだろ!」


「うん。俺にはなんもしてないな。でも俺の弟になにした?あ?なにしたんだって‼︎」

生活科室に連れ込んで。
どれだけやったか。
近くにあった運動会で使うなにかの木の棒で殴っちまった。

キーンコーンカーコン

4時間目の授業終了の合図だ。当然ながら大騒ぎになった今回の暴行事件。先生の数も多く、担任、学年主任はもちろんのこと教務主任、教頭までお出ましだ。
長机を2つくっつけて椅子が囲むようにぐるっと置いてあるだけの生徒指導室。


静まりかえる中、勇気を振り絞ったかのような震えた声で新米の担任が口を開いた。
「え、えー今回のこのケンカに関しまして、、「けんかですって⁈まぁうちの子がこんなに怪我して泣いてるっていうのに‼︎」
遮るようにかぶせて大声をあげた相手側の親は続けざまに言い放った。

「大体こんなに野蛮なお子さんに育ってしまうのもちゃんとした教育がなされてないのでは⁈」
俺のお母ちゃんはなにも言い返さずただただ謝った。
帰り道「、、、母ちゃんごめんなさい。」
母ちゃんが俺の事で怒られてるのを見て悲しくなった俺は謝った。
でも母ちゃんは「確かに手を出したのはあんたが悪いよ。でもね、全部あんたが悪いなんて母ちゃん思ってないよ?だって自分の為じゃない、弟を守る為にやったんだろ?その事は母ちゃん褒めてあげるよ!」
母ちゃんのこの言葉で肩の荷が降りたのか、泣きじゃくりながら何回も謝る俺の頭をポンポンと撫でてくれた感触はいくつになっても忘れないものだ。


そんな事もあり小学校を卒業したが田舎の学校というものは中学まで顔なじみ。なんなら幼稚園からずっと同じ顔が揃う。いわばエスカレーター式。

その事がより一層俺の心を蝕んで行った。
小学校の途中から無視され続け、中学でも変わらない俺への扱い。俺がグレる理由には充分だった。
荒れに荒れまくり上級生に目を付けられるも俺に勝てる奴なんて居なかった。勝てない奴は群れて俺に挑んでくる。多勢無勢ってやつ。数には勝てない俺は傷だらけの体を引きずり授業中のそいつらの教室を周り、竹ぼうきを片手に暴れた。

そんな事を繰り返してるもんだから校長からは「来たくないらもう学校に来なくても良いんだ。むしろ来ないでもらえるか?君が学校に居るとイメージが悪くなるのだよ」なんて言われた。気にくわないからまた暴れる。

ここで思ったことがひとつあった。小学校中学校でこんなつまらない学生生活なら高校も一緒のはず。だったら行く意味なんてねえ。
進路希望を出す期日が迫った頃そんな話を進路指導のおじちゃん先生に言ったらそのおじちゃん先生がこう言った。「確かに中学まではみんな一緒だな。好きな人も嫌いな人も否応無くね。だけど高校は違う。いろんな中学からいろんな人が集まる。君はヤンチャだけど君みたいな、いや、君以上にヤンチャな人だって居るんだわな。要は君に気の合う人が必ず1人は居る。それだけでも高校に行く価値はあるんじゃないか?」って。
他の先生だったら聞く耳いっさい持たないけどこのおじちゃん先生とだけは素直に話せた。
「まぁおじちゃん先生がそう言うなら行ってみようかな。でも、一期は受けないよ?俺は一発勝負で2期だけ!それで落ちたら3期は受けねえから!」

間髪入れずにおじちゃん先生が

「大丈夫。君の成績で一期は無理だから」

「、、、」

「その分2期に全力を注ぎなさい。私も協力するから」

「ありがと!」

こうして高校受験へと向かった俺は今まで眺めるだけだった教科書に食らいついた。付け焼き刃でもいい。とにかくやると決めたからにはやり遂げたい。
必死に勉強した俺は、、、合格出来た。

自分でも驚いたが俺より驚いたのがおじちゃん先生。
「いやぁ本当に合格してしまうなんてね。私の教えが良かったのかな?わはははっ」

「それは褒めてんの?なんか心から喜べないんだけど、、」

「もちろん褒めてるとも。1年も期間が無かったのによく頑張った。私はこれで心置きなく退職出来るというものだ」

おじちゃん先生は定年を迎えていた。定年間近で落ち着きたかっただろうに俺の為に個別指導だ!なんて言って放課後に勉強を教えてくれてた。授業では見せない笑った顔だったりウトウト居眠りもしてた。
俺の為に最後の1年使わせちゃってゴメンね。
こんな俺が高校で何が出来るか分かんねえけど先生の気持ちだけは無駄にしないで行くよ。

入学した高校は自分の町の隣の隣町にある農業高校。自分の入るクラスは全員男。学科自体土木関係だから自然ていえば自然。もちろん男ばかりのクラスで入学したてである事からみんな尖ってる。苗字からして後ろ側の席だった俺は周りを見渡しついつい敵を探してしまう。

だめだめ。先生に約束したんだ。何しようとしてんだかまったく。
そう自分に言い聞かせて大人しく過ごして2ヶ月が経った。

休み時間ともなるとクラスの中では中心グループなるものがガヤガヤとやっている。
群れて居る奴らを見ると小学校の時を思い出してイライラしてしまう。イライラするから教室から出る。
「ねえ〜かずやくんだっけ?」
廊下に出た俺を呼び止めたのは同じクラスの奴。教室の入り口から顔だけを廊下に覗かせ立っている。
なんだこいつ?女みてえだな。ってのが最初の印象だった。呼ばれたから無視する訳には行かずとりあえず答える。
「うん。そうだけどお前誰?知り合いだっけ?」
「やだな〜同じクラスのアキラだよ〜!」
「初めましてだよな?」
「ん?初めましてだよ?」
「、、、、」
「???ん?」
なんか調子狂う奴。おでこを中指でぽりぽりかきながら改めて聞く。
「つうか何の用?用が無いなら行くけど。」

「うわっやっぱりヤンキーて迫力あるね♫」

「喧嘩売ってんの?用事あったから呼び止めたんじゃねえの?」

「ゴメンゴメン!用事ある!すんごいあるの!あのねかっちゃんさスーパーでバイトしてるでしょ〜♫」

「あーしてるよ?ってか今、さら〜って言ったけどかっちゃんてなに?」

「あ、バレた?うまく言えたと思ったんだけどな〜♫ねえ、これからはかっちゃんて呼ばせて!お願い!友達になってよ!」

「まぁ、、好きにしたら?って話変わってない?」

「あーそうそう!それでね?かっちゃんがバイトしてるところ僕も一緒にやりたいな〜って思って♫ねえ僕の事紹介してよ♫」

「あのなぁ、本気でバイトしてえなら人頼んじゃねえよ。悪いけど人を紹介する程俺はお人好しじゃねえから」

「そうだよね、、、ゴメンね勝手な事言って。。よし!分かった!自分で頼みに行くよ!だからさ、僕がもしバイト受かったら一緒に行こうね〜♫」

「お、おう。まぁ頑張れよ」
こんなのがきっかけで次第に仲良くなって行った。ほとんど一緒に居た。
俺とまるで正反対の性格をしているアキラとは一緒に居ると気が楽だった。なんつうか例えるなら卵の中身が俺でアキラが中身を守る殻。
体を張って守るとかそんなじゃなくて、心を守ってくれる。明るくて前向きなアキラが殻になってくれた事で俺はおじちゃん先生にした約束を果たせそうで居た。

夏休みも終わり、ジメジメと暑い男子だらけの俺のクラスでは休み時間ともなるとトランクス姿でうちわを仰いでいる奴らがいる。アキラもそのひとり。俺もそのひとり。
「アキラ〜、、」
「なに〜?喋ると暑いから話しかけないで〜、、、」

「アイス買って来てよ。お前のおごりで」

「、、、暑いから話しかけないで〜、、」

「じゃぁ俺が出してやるから買って来てよ」

「えっ♫ホントに⁈ありがと〜かっちゃんは優しいな♫よし僕が買ってくるから早よ金出せい♫」

「調子良い野郎だな〜まったく、、ほらっ!
これで足りるだろ?」

「行ってきまぁす♫」

こんなやり取りはいつものこと。ふざけた奴だけど憎めないのがアキラの良いところでもある。
小銭を握りしめスキップしながら教室を出て行くアキラを呆れ顔で見送るとすれ違う様に入り口に見慣れない男子が現れた。確か名前はリョウジ。隣クラスの奴だ。
リョウジは教室中を見渡し、ただでさえ身長が高いのに背伸びをして誰かを探している。

探して居た相手は俺だった。たまたま目が合っただけかもしれないがリョウジはポケットに手を入れたままあごで廊下に来いと。
導かれるまま廊下に出た俺をリョウジはにやにやしながら待って居た。ここでたまたま目が合っただけじゃ無いと確信に変わる。

「何の用?」

「何の用っておまえさ、いっつもなにガン付けてんの?ムカつくんだよ」

「ガン付けてなんか居ねえよ。元からこういう目なんだよ。悪かったな気分悪くしたなら謝るよ」

「は?なんだそれ。根性無しが。気持ち悪いなおまえ」

「なんとでも言え。他に用が無えなら行くけど。」
ここで助け舟の如くアキラが登場。
「かっちゃ〜ん♫アイス買って来たよ〜♫ってあれ?お取込み中かい?」

「いや、もう終わった。アイス食べようぜ。もう暑くて堪んねえよ。」


この時を境にリョウジはすれ違う度に俺をニヤニヤ見ながら「気持ち悪い野郎だなおまえ。かかって来てみろよ〜」を繰り返す。

俺も最初は我慢して居たが元々気が長く無い。限界を超えそうな時もおじちゃん先生にした約束を思い出し思い止まった。

ある放課後。

「おっまた気持ち悪い奴が歩いてる。来てみろよ根性無しぃ!どうせ口だけの野郎なんだろ?」

「、、、、あのさぁ、良い加減にしてくれない?俺は高校で問題起こさないって決めてるから相手してやれねえ。他あたってくれる?あと、もう一回でも言ってみろ。どうなっても文句言うなよ?」

「かっこいいね〜言うことは!気持ちわりい顔してるくせによぉ!キャハハッ!」

ブチッ

そっからの記憶が全くない。思い出せるのはリョウジが倒れてる所から。前歯は折れて廊下に転がっている。俺の拳は殴った傷なのかリョウジの血なのか分からないが真っ赤になっていて俺は呆然と立っている。
他の教室にも生徒はまだ残って居て何事かと顔を覗かせ、状況を察知した2人の女子生徒が職員室に走っていった。

おじちゃん先生。俺、約束破っちゃったよ。母ちゃんにもまた頭下げさせちゃったよ。
言い渡された処分は無期謹慎。無期謹慎っていうのは学校からもう来て良いですよって言われるまで自宅から一歩も出歩けない。退学の次に重い処分。初めての問題行動だった事もあって担任が校長先生に必死に掛け合ってくれたおかげで退学は免れた。

俺は小学校の頃からなんも変わってない。せっかく高校に行かせてもらったのに俺は、、、
これから俺どうしたら良いのか分かんねえよ。
おじちゃん先生、、、
謹慎処分期間の2週間が経ち教室へと向かう。

「かっちゃ〜ん♫ひっさしぶり!お勤めご苦労様でやんす♫」

「、、、おう。久しぶり。相変わらず元気だなぁ。お勤めってヤクザじゃ無いんだから、、、」
アキラと2人。校庭を眺めるこの土手がいつもの場所。夏のじんじんとした日差しを土手沿いに立っている木々が遮り、風が吹く度に木の葉がサササァと音を立てその隙間から木洩れ陽が差し込んでいる。

「かっちゃんの方こそ元気そうで良かったよ!先生からさ、電話もダメだって言われてて参っちゃったよ、、」

「ごめん心配かけたな、、今までも人に迷惑掛けて生きて来たからもうこれ以上こんな自分になりたく無えよ、自分のこと嫌いになりたくねえよ、、」

「大丈夫だよ!僕が付いているじゃないか。何かあったら守るよ♫」

「アキラ、、」

「だからって問題起こすなよ〜かっちゃんは短気だから心配だよまったくぅ〜」

「わかったよ。もう問題起こさねえから。今回ので退学になってたかもしれないって言われた時、どうしようって正直焦ったんだ。それにアキラとも居られなくなるのも嫌だから、、、」

「かっちゃん約束ね〜♫」
「おう!約束する」

それから2年の月日が流れて3年生となり就職か進学かは大体決まって居て受験勉強だったり会社見学だったり、それぞれの人生に向き合って歩んでいる。俺は就職希望で会社見学に行った最初の工場でトントン拍子に話が決まり内定をもらって居た。アキラは専門学校へ進学。美容師の夢を追いかけるらしい。
「かっちゃんともお別れか〜寂しいなぁ」

「ずっと会えないわけじゃ無いだろ。休日遊んだり出来るじゃん」

「まぁそうだけどぉ〜、、うん、よく考えればそうだね♫高校卒業とかさ、ドラマとかだとみんなバラバラなるじゃん?それイメージしてた♫テヘッ」



「なぁ、、、
俺ってずっとこのままか?」


「そんなことないよ。かっちゃんは変われる。こうやって頑張って来たじゃないか。ホントは優しいんだかっちゃんは。僕はかっちゃんを知ってるよ」


「、、、、うん、、、」


「かっちゃんの殻を割れるのはかっちゃんだけだから。
僕はちょっぴり手を出すだけ。」


「、、、なぁ」

「ん?」


「お前に会えて良かったよ。
ありがとな。」


「なぁに言ってんのさ。僕はかっちゃんだから一緒に居れたんだよ。かっちゃんの頑張りは僕が1番近くで見て来た!そんな辛気臭い事言わないでよ!これからだって一緒さ!」

「、、、ホントアキラはポジティブだよな。お前と居ると気持ちがスゥーってなんだよな。」

「かっちゃんを励ますのがオレの人生っ!」

「なんだよそれ!くだらねえ人生だな〜オレって言い慣れてねえし!」

「あはははっ!良いじゃん楽しいじゃん♫」

「ははっ」

「あははっ」


卵の殻の割れる頃

俺は少し大人になれたかな。
ちゅやん

2017年04月30日 13時19分00秒 公開
■この作品の著作権は ちゅやん さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:青春時代
◆作者コメント:こういった投稿は慣れて居ないのでお手柔らかにお願いします!汗
この話は、私の学生時代を基に書きました。書いてる時に嫌な事を思い出したりもしたけど読者の1人でも今の自分が居るのは周りの人に支えられてるからだと気付いて欲しいなと思って書きました。この作品を通して何か感じる事が出来れば幸いです。※このサイトを使い慣れて居なくて作品の文がおかしくなっていますがご了承ください、、、パソコン持っていなくてスマホからの投稿だからかもしれません。

2017年05月25日 23時43分25秒
+10点
2017年05月14日 11時02分28秒
2017年05月14日 10時45分58秒
+20点
2017年05月11日 00時03分31秒
2017年05月07日 18時39分51秒
+10点
2017年05月06日 11時40分56秒
+10点
2017年05月02日 21時28分19秒
-10点
2017年05月02日 00時56分31秒
-10点
合計 8人 30点

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