夏の祭り

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 幼馴染みに連れられて夏の祭りにやってきた。
 深い青の大空に入道雲が湧き上がる。まぶしい光の弾けるなかで鮮やかな緑の枝が微風にゆれる。
 神社に集まる人々はやたらと活気にあふれてる。
 夏の祭りの始まりだ。
「かしこみ、かしこみ、申すぅ~」
 神主さんが御幣を振る。金色、銀色、五色の光が流れるたび、人々の誤りが、悪い行いが、邪悪な思いが、清められて消えてゆく。
 CDプレイヤーのスイッチがポチッと入ると優雅に雅楽が始まった。
 巫女姿の幼馴染みは、ゆるやかに舞を奉納する。
「雅(みやび)って名前が似合うときもあるんだなァ~」
 ボクは思わずつぶやいた。すっとこちらに顔をむけ、幼馴染みがジロリとにらむ。

 男衆が神輿(みこし)を担ぐ。現場で鍛えた肉体が神輿を荒々しく運ぶ。
「やったれ、やったれ、こましたれ!」
 掛け声は威勢がいいが品がない。
 CDプレイヤーがサンバ・デ・ジャネイロを大音量で流し始めた。観客が歓声をあげる。
 神輿の後には踊り子たちがリオのカーニバルの衣装で続く。心浮きたつリズムにのせて、激しく腰を振って踊る。
「あれは雅じゃないか! いつ着替えたんだよ」
 セクシーな踊り子たちにまじって幼馴染みがビキニの水着にクジャクの羽をつけて踊ってる。
「幼稚園の学芸会みたいだな」
 声が聞こえたはずはない。なのにジロリとにらまれた。ボクの心が分かるのかい?
「今日は大活躍だなあ」
 幼馴染みに聞こえるようにボクは大きな声をだす。
 ブラジルや中国、ベトナムから働きに来ている人たちも今日は祭りに参加している。このごろは祭りも国際色が豊かになった。
「こましたれ鼻血ブーじゃ!」
 おっさんがフランス語もどきの掛け声をかける。

 急に陽光がかげり、あたりに涼しい風が吹きぬける。まるで冷房みたいだな。
「一雨くるぞォ~、神輿を祭り小屋に入れろ!」
 その声が終わらないうちにポツリ、ポツリと大粒の雨が降り始めた。たちまち豪雨になる。見物人はあわてて雨宿りの場所をさがす。
「道をあけろ! 神輿になぶられたいかァ!」
 神輿をかついだ男衆の野蛮な叫びがあたりに響く。

 昔、先輩が言ってたなあ。
「なぶると言うとなぐるよりも軽そうにきこえるだろう。でも、殴って殴って殴り続けるのが嬲るなんだぜ」
 先輩は目を血走らせ息をはずませて続けたっけ。
「男と男の間に女を挟んで、さんざん好き勝手にする。それが本当の嬲る、なんだぞ」
 なんだか、とってもイケナイことのような気が……

「何を考えてるのよ、畑中!」
 突然に幼馴染みの声が響いた。
 すぐそばに居るのに気づかなかった。
「なにを、そんなに、ビックリしてるの。そんなに大声で驚かれたら私の方がビックリするわよ!」

 バックン、バックン。
 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ。

「ビックリしたのは……」
 いったんツバをのみこむ。
「こっちだよ!」
 幼馴染みは浴衣に着替えてた。

 雨はますます激しくふってる。
 身を寄せ合わないと飛沫がかかる。
 でも、なんとなく幼馴染みに近づくのがためらわれる。

「いけない、まだ脱いでなかったわ」
 幼馴染みはそう言って浴衣の胸元に手を入れる。なにやらモゾモゾ手を動かした。それからスッと後ろを向いて浴衣を少しだけ脱ぐ。意外と華奢な白い肩がボクの目の前にあらわれた。
「まだ衣装を脱いでなかった。背中の結び目を解いてくれない?」
 依頼のようだが、絶対の命令。ボクの身体に幼稚園のころから文字のとおりに叩き込まれてる。

 サンバ衣装の結び目は、固く、固く、締まってた。解こうと紐をひっぱるたびに幼馴染みの体がゆれる。

 果てしなく悪戦苦闘を続けたすえにサンバ衣装は幼馴染みの体からゆっくりと離れていった。

 幼馴染みが冷酷な目つきでボクをにらみつける。
「わざと時間かけて楽しんでなかったァ?」
「そんなこと、ないよ。ありません!」
 幼馴染みはゆっくりとボクの方にふり返る。幼馴染みの胸元は浴衣が大きく開いたままだ。気づいてあわててエリを合わせる。
 幼馴染みはホホを赤らめ、怒りを発してボクに詰め寄る。
「ちょっとォ、なに見てたのよ!」
 持ち主の性格とは大違い。ふたつの可愛いおっぱいは、つつましく胸で寄り添ってました。
 ボクはろくに考えもせずに心に浮かんだ言葉をつむいだ。
「見せたのはそっちだろ」
 思わず口からこぼれた言葉が、怒りの炎に油をそそいだ。

 幼馴染みの目に雷光が宿る。あたりに暗雲が垂れ込める。ゴロゴロと遠雷のような音がする。重低音で体に響く。ピリピリと神経が警告を発する。体中の毛が逆立った。
 凄まじい殺気が放たれる。

 グワラン、ゴロゴロ、ピシャーン!

 あたりは真っ白な光に満たされて、落雷の轟音が響き渡った。
 雅はボクに抱きついてた。かじりついてガタガタと震えてる。
「昔から雷は苦手だったね」
 ボクは優しく声かけた。雅はボクを涙目で見上げ、コクリと小さくうなずいた。

 雅は雨があがるまでボクにしっかりかじりついてた。
「まずいよ、抱きついたままなんて」
 よくない予感はよく当たる。
 たちの悪い先輩たちがボクらの前に立ちふさがってた。
「そこのかわいいお嬢さんを、ちょっと貸りるが、いいだろう?」
 両手をズボンのポケットにいれ、下からボクらににらみをきかす。相手は三人、こちらは一人。一対一でもかなわない。
 男二人で嬲るなら、三人だったらどうなるの?
 そんな疑問を押しやってボクは雅の前にたつ。
 今は雅を守らなきゃ。
「そうだ!」
 ボクは雅の後ろにまわり浴衣のエリを左右に引いた。浴衣はけして開かせないぞ。死んでもこの手は離さない。
「なんでえ、こいつ。女の陰に隠れやがって」
 先輩たちがあざ笑う。
「期待して損したぜ。女もまだガキじゃねえか!」

 雅のかわいい両耳がイチゴのように真っ赤に染まった。
「マズイ!」
 ボクの体が凄まじい殺意のこもる衝撃で吹き飛ぶ。
 一瞬で空と大地が入れ替わる。頭上の大地が顔面にせまる。
「危ないなあ」
 左腕を大地にあて、体をひねって「くの字」に曲げる。
「おォォ、スゲエ」
 先輩たちの賛辞をうけつつボクはすっくと大地に立つ。
「じゃましたな」
「じゃあ、またな」
「十年たったら会いにくるぜ」
 そんな言葉を後に残して先輩たちは去ってった。

 立ちつくしてるボクたちに、頭上に開いた雲間から夏のまぶしい陽光がライトみたいに降り注いだ。

「苦しいわ、いつまでも抱きついてないで放してよ」
 雅は照れたように言った。

「ベストカップル・コンテストの参加者は会場にお集まりください」
 ハンドマイクでアナウンスが流れる。
「コンテストがあるんだ」
 ボクがそうつぶやくと、雅はうなずいた。
「そうね、私も知らなかったわ」
 雅はボクの腕に抱きついたまま言う。
 もちろん汚れてない方さ。

「見に行こうか」
 どちらからともなくそう言って、ボクら二人は手をつなぎ神社の境内にむかった。
 雨に洗われ緑の枝にはまばゆい光が砕けて輝く。

 水道で汚れた左腕を洗う。
 雅は真っ白なハンカチを取り出す。
「ありがとう」
 ボクは雅にそう答え、雅の差しだすハンカチを受けとる。それから腕の水気をぬぐった。

「畑中さん、雅さん、舞台までおこしください」
 アナウンスが境内に流れる。
「なんだろう?」
 ボクら二人は舞台に向かった。

「さあ、最後の参加者の登場です。審査員の皆さん準備はお済みですね。では、畑中さん、雅さん、アピールタイムのスタートです!」
 ボクら二人は舞台の上でマイクの前に取り残された。

「き、聞いてないよ。雅が申し込んだの?」
 雅は首を左右にふった。
「私じゃないわ」
 審査員席の後ろから先輩たちが腕を振りあげ、にぎった拳から親指を突きだす。
「あいつらかァ!」
 二人の声がきれいにハモる。

 アナウンサーの声が響く。
「参加は自薦でも他薦でも結構です。問題ありません」
 舞台の上で何すりゃいいんだよ、それが大きな問題だ。

「き、キスでもしてみる?」

 スパコーン!

 ボクの体が宙を舞う。二回、三回と回転をして舞台のはじでシュタっと止まる。
「着地成功!」

「ミヤビ! ミヤビ! ミヤビ!」
 見物人がはやし立てる。
 着地をきめたのボクだけど……

 雅がマイクに語りかける。
「将来の抱負ですかァ?」
 プロレスラーか格闘家だろ。
「名前にふさわしい優雅でたおやかな女性になりたいです」
 驚天動地の爆弾発言に会場中が沸き立った。
「では畑中さん、将来の抱負を一言どうぞ!」
 ボクの番か。そうだなあ。
「雅を守れる強い男になりたいと思います」
 再度、会場中が沸き立った。
 なぜ、なんでやねん。

「それでは、審査員特別賞の発表です」
 ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド!
 CDプレイヤーからタイコの連打の音が響いた。
「審査員特別賞は」
 いったん間を置く。
「畑中、雅ペアです!」

 厚いメガネの中年オヤジが舞台にあがって賞状を授与する。
「審査員特別賞、ドツキ漫才夫婦部門は、畑中、雅ペアと決定しました!」
 あるんかい、そんな賞が。
 審査委員長が偉そうに答える。
「さっき作った。だからある」
 そんな、いいかげんな。
「雅君には、合わせてミス凶暴コンテストの優勝盾を授与しよう」
 審査委員長の体が舞台の上から吹き飛んで消えた。

 雨に洗われ鮮やかな緑は爽やかな風にゆれて輝く。
 澄み渡った午後の空に七色の虹が美しく掛かる。
 ボクらの将来を祝福するように。

 ボクらの青春は始まったばかりだ。

         (夏の祭り 後夜祭も盛り上げよう)
朱鷺ミチル

2016年06月12日 07時22分12秒 公開
■この作品の著作権は 朱鷺ミチル さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:夏だ。祭りだ。盛り上がろう。
◆作者コメント:明るく、楽しく、元気よく、創作に励みたいと思っています。良い作品を書くためのアドバイスをいただけると有難いです。

2016年07月01日 22時59分13秒
作者レス
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2016年06月19日 18時36分24秒
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2016年06月18日 00時40分43秒
0点
2016年06月17日 20時20分06秒
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2016年06月16日 23時05分27秒
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2016年06月16日 06時49分37秒
0点
2016年06月15日 00時02分38秒
+10点
2016年06月14日 23時54分39秒
+10点
合計 13人 60点

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