| スキル『種付けおじさん』 |
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| ■Aパート 目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。 床も壁も天井も白く、そして果てがない。 あまりの白さに遠近感がおかしくなる。 ただ、目の前にはなぜかテーブルがあり、俺は座り心地の悪いソファに腰を下ろしていた。 「どこだろ、ここ?」 声はどこにも反射せずに消えていく。 「死後世界? それとも夢? 夢ならソファが硬いのは不自然かな?」 不意に空間の奥から、ため息が聞こえた。 『……来たんですね』 綺麗な声だった。 透き通っていて、耳の奥まで染み込んでくる。 なのに、そこに込められている感情は完全に「面倒くさい」だった。 空間の上の方からゴージャスなソファーに腰かけた女の人がゆっくりと降りてくる。 銀色の長い髪。 雪のように白い肌。 宝石みたいな光を宿した不思議な青の瞳。 ゆるく羽織った白いドレス。 見た瞬間、言葉を失った。 女神。 そう呼ぶしかないほどキレイだった。 ただし、 『しごく面倒ですが、仕事をしないわけにはいきませんね。はぁ……』 ものすごく疲れていた。 ソファは床に着地する。 小柄な女の子は、俺よりも視線が低いのが不満だったのか、コンコンとソファーを叩く。 するとソファーが上昇し、俺を見下ろす高さに調整された。 「あのぉ~、あなたが誰なのかうかがってもよろしいでしょうか?」 思いつく限り、最大級の敬語で話しかけてみる。 『女神、ということにしておいて』 「しておく?」 『書類上の細かい分類がいろいろあるのですが、面倒だから私は女神ということにします』 「雑~」 『なにかご不満でも?』 「滅相もありません」 『それでは説明に入りましょうか』 女神が手を掲げると、そこにグラスが現れる。中に注がれた赤い液体を軽く揺すると唇を寄せ、ゆっくり水を飲む。 けだるそうなのに、とても絵になる。 『あなたは死にました』 「やっぱり。トラックに跳ねられたり、病院で余命一か月って言われたり、ゾンビに噛まれたりと、いろいろあったもんなぁ」 『書類上の死因は交通事故ですね。お気の毒様』 「定番すぎて、逆に恥ずかしい!」 『死因に流行り廃りを求めないでください』 淡々と叱られてしまう。 『本来なら、死んだらそこまでなのですが、少々面倒ごとが起きています』 「天国に空きがないとか?」 『自分で天国行きとかいいますか』 「だったら地獄ですか?」 『どちらでもありません。 あなたの行先の問題というわけでもありません』 「ということは?」 『ある世界で魔王が復活しました』 「おお、ファンタジー! ひょっとして勇者になって、魔王を倒せという使命を帯びるってやつでしょうか!?」 『はい、その通りです。あなたは異世界へと転生し、勇者として魔王を倒さねばなりません』 「おお、燃える!」 『乗り気ですね』 「はい、それでどんなチートアイテムをもらえるんですか?」 『……勇気です。非力な人間でありながら、魔王に挑もうという心は何よりも尊いものです』 「それ本気で言ってます?」 『他にも特典として現地で努力すれば、言葉を話せるようになります』 「普通に勉強するだけじゃないですか!」 『私からの祝福で、少しだけ運に恵まれます。あと病気にかかり難い』 「いやいや、それだけで魔王討伐できるなら、別に勇者なんて派遣しなくてもいいじゃないですか」 『勇者としての使命を忘れないため、前世の記憶を持ち越せます』 「むしろ忘れた方が幸せに生きられるのでは?」 『前世の知識を活かして、俺ツエーとか流行ってるじゃないですか』 「フリーターの知識でもできますか?」 『私にはフリーターの知識も現地の常識もわかりかねますので……』 「無理! 無理無理無理無理、もひとつおまけに無理!」 『困りましたね。残念な魂とは思いましたが、ここまで使えないとは……』 「俺のせいなの?」 『そうですね。アッサリしなれても、次を用意しなければならないので、なにか探してみますか』 女神様は虚空に指を這わすと、面倒そうにそこに並ぶ文字を吟味し始めた。 「なるべく強いスキルが良いです。レア系の」 『贅沢ですね』 眉間にシワを寄せながらもリストを探してくれる。 『最後にスキルの補充をしたのはずいぶん前のことなので、レア系のチートスキルは……あっ』 言いかけた女神様の指がとまった。 「あったんですね! 良い感じのすごいスキルが!」 『はいありました。スキル『種付けおじさん』です。効用はちょっとよくわかりませんけど、レアなのは間違いないでしょ』 「いやいや、ちょっとまって、それで魔王討伐とか無理が過ぎるでしょ」 『スキルの効果はわかっているようですね。だったら適任です』 「そんなこと言って、単に面倒になっただけでは? もっと戦闘用のスキルとか探さないと、使命を果たせませんよ!」 『残念ながら戦闘用スキルは残っていません。にもかかわらず、魔王はいまだ討伐されていない。 これがどういうことかわかりませんか?』 「力押しで魔王に挑んだ勇者は全滅している?」 『その通りです』 「だからって、『種付けおじさん』はないとおもうんですけど?」 『とってもレアなSSSランクのスキルです。付随効果も多くて、お得と言っても過言ではないでしょう』 「どのへんがお得なんです?」 『それは使ってからのお楽しみです。 それでは締め切りが迫って来たので、いい加減転生を始めてください』 「絶対面倒なだけだ!」 『時間がないのは事実です。 さっさと魔王を倒してきてください。 失敗しても、時間稼ぎくらいにはなりますから』 そう言うと、俺の身体がだんだんと白い光に包まれていく。 それに伴い激痛が発生した。 「いだだだだっ、女神様痛いです!!」 『やっぱり、勇者適性がないと転生もひと苦労ですね』 激痛の中、意識が遠のいていく。 そして俺は、新しい世界へ転生した。 ■Bパート 目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。 床も壁も天井も白く、そして果てがない。 あまりの白さに遠近感がおかしくなる。 そしてまたも、座り心地の悪いソファに腰を下ろしていた。 「いや~、この感触もなんだか懐かしいな」 そして向かいには、麗しの女神様が転生の時と変わらぬ姿でくつろいでいる。 銀色の長い髪。 雪のように白い肌。 宝石みたいな光を宿した不思議な青の瞳。 ゆるく羽織った白いドレス。 相変わらず、神話級にキレイだ。 ただし表情は『面倒な案件が返ってきた』だ。 『早かったですね』 「いやいや、40年くらい勇者やってましたよ」 『私の体感からすれば、瞬き程度の時間です』 「エルフの比じゃないっすね」 『それよりも、魔王討伐は失敗に終わったようですね』 「残念ながら、道の途中で力尽きてしまいました」 『意外にも本気で残念そうですね』 「実は魔王は女というウワサだったんです。しかも絶世の美女。だったら俺のスキルと相性がいいなって」 『『種付けおじさん』ですか』 「はい、チートスキルのおかげで、楽しい人生が送れました」 『目的を達成できていませんけどね。そもそもどんなスキルだったんです?』 「ホントにわかってなかったんですね」 『私がわからなくても、使用者が理解していれば問題ないのです。それが管理者のあり方というものです』 「セックスした相手を100%妊娠させるスキルです」 『そんなスキルでよく、魔王討伐にいきましたね』 「女神様が無理やり送り込んだんじゃないですか」 『望んだとおり、レアスキルですよ』 「そう、レアですっごいチートスキルだったんですよ」 『どんな?』 「ただ、セックスをした相手を妊娠させるだけじゃなくて、セックスに至る過程にも補正が付くんです」 『つまり、女性にもてるようになる?』 「いや、もてるわけじゃないんですけど、なんやかんやあって、最終的にセックスに至れるかんじです」 『はぁ』 女神様には『なんやかんか』の部分がわからないみたいだ。それはそれで構わないけど。 「初めてスキルが発動したのは、9歳の誕生日でした」 『なかなかに早熟ですね』 「ええ、しかも驚いたことに副作用が発生しました」 『スキルに副作用が?』 「あるいは、それ込みでスキルなのかもしれませんけど」 『どんな副作用なのです?』 「九歳になって、誕生日を祝ってもらっている途中で俺……おじさんになりました」 『ああ、『種付けおじさん』のおじさん部分は常時発動なのですね』 「感心しないでくださいよ。まさか齢(よわい)九歳にしておじさんになるとか思わないじゃないですか。 周りには、女神様の祝福の影響だってことにしてなんとか誤魔化しましたけど」 『よく誤魔化せましたね』 「人間、誠意をもって話せば、意外と納得してもらえるものです」 『単に考えるのが面倒になっただけでは?』 そうかもしれない。 「ちなみに、最初のスキルは隣に住んでいる幼馴染み……のお母さんに使いました。旦那さんには内緒です」 『寝取りというヤツですか?』 「初めての相手は幼馴染と思っていたんですけど、さすがに絵ずら的にアウトかなって」 『人妻に手を出すのは倫理的にアウトと思いますけど?』 「そこはお互い合意の上だったのでセーフです。肉体的にはちゃんと大人だったし。 あっ、あと幼馴染に妹が出来ました。とっても元気で腕白な子でしたよ。みんなから可愛がられていたし」 『あなたの子とは?』 「バレていません。たぶん知ってるのは俺と奥さんだけじゃないかな。旦那さん、『俺の子とは思えないほど可愛い』って猫可愛がりしてましたけど、別に俺とも似てないんですよね。不思議」 『そうですか』 「不思議といえばもうひとつあって、俺とセックスした相手は、なんか健康的になってキレイにもなるんですよね。 たぶんスキルの影響なんだろうけど、なんだったんでしょ?」 『子供を確実に産むために体調が自動的に整うようになるとか?』 「とにかく、俺は村中の女性とセックスしまくって、みんなをキレイにしてあげました。あっ、もちろん子供には手をだしてませんよ」 『配慮してるのか、してないのか……』 「で、どこからか、俺が何人かの女性と不倫をしているなんてウワサが出てきちゃって、安全のためにも村から出ることにしました」 『なんという旅立ちの動機』 「それから、いろんなところに言って、いろんな相手とセックスしました。 聖騎士に女海賊、大賢者、剣聖、聖女、桃色髪の歌姫なんてのもいましたね。エルフや獣人、ドワーフも……」 『ドワーフもですか』 「あとは……王様です」 『お姫様ではなく?』 「その予定だったんですけど、お城に忍び込んだときに手違いがあって。でも王様ともちゃんとできました」 『それは善行なので誇ってよいでしょう』 女神様は愛に寛大の様だ。 「そのせいで、王族の家系図がややこしくなったらしいって後で聞きました。テヘッ」 『尊い犠牲ですね』 「そうしている内に、魔王のウワサを聞いて天衣に行ったんですが……」 『一応、討伐には向かったんですね』 「四天王四人との乱交中に力尽きてしまいました」 『人間の体力では駄目でしたか』 「無念です」 無念をかみしめていると音がした。 『コングラチュレーション! 魔王討伐、達成されました!』 俺たちが固まる。 「えっ」 『え?』 『コングラチュレーション! 魔王討伐、達成されました!』 『二回言わなくていいです』 会話している間に時間が経過した。 異世界とここでは時間の流れが違うらしい。 女神様が調べたところ、どうや俺の子供たちが、魔王討伐を果たしたようだ。 |
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HiroSAMA HCxX8bUhHA 2026年05月03日 23時59分17秒 公開 ■この作品の著作権は HiroSAMA HCxX8bUhHA さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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