| 雨宮先輩は定着しない。 |
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| 本作は生成AIを使用して制作しています。 AI生成作品であることをご了承いただける方のみ、お読みください。 ----- 放課後の校舎は、西日で全部オレンジ色になる。 廊下の窓も、掲示板も、誰もいない教室の机も。 写真にすると、少し綺麗すぎるくらいだった。 光画部の部室にも、その色は入り込んでいる。 机の上にはデジカメとSDカードと、文化祭用に撮った写真のチェック表。 壁には去年の体育祭の写真。 部室の奥では、古いフィルム現像機が今日も低い音を鳴らしていた。 がこん、がこん、と鈍い駆動音。 薬品の匂いが、かすかに部室まで流れている。 かすか、なのに強い。 鼻の奥に酸っぱいような、金属っぽいような、古い理科室を濃縮したような匂いが残る。 令和の高校の部活とは思えない光景だった。 普段はデジカメを使う。 文化祭の記録も、学校サイト用の写真も、全部PCで編集する。 なのに顧問だけが、妙にフィルムにこだわっていた。 『写真には“待つ時間”が必要なんだ』 が口癖の、自称ロマンチスト教師である。 そのせいで部室の奥には、暗室と年代物の現像機がいまだに残っていた。 暗室を使うのは、フィルムを機械へセットするときだけだ。 現像自体は半自動。 ただし水道と排水は必要だし、薬液の管理も面倒だし、何より臭いが強い。 部員の大半は、文化祭の写真係以上のことをしない。 だから、この機械の扱い方を知っている生徒は、今は一人しかいない。 「終わった……」 その唯一の使い手が、机に突っ伏していた。 雨宮先輩。 三年生。 小柄で童顔。 その印象だけなら、部室の隅で丸くなっている小動物みたいに見える。 ただ、そのまま視線を下ろすと、制服のサイズ感がどこかおかしい。 机に伏せるたび、シャツの前だけ布地が引っ張られている。 「何がですか」 「女子としての人生……」 「規模大きいですね」 「だってもう無理だもん……」 ついさっきまで猫動画を見て笑っていた人とは思えない声だった。 先輩は感情の振れ幅が大きい。 三分前まで機嫌が良かったのに、急に世界の終わりみたいな顔になる。 原因はだいたい些細だ。 「何かあったんですか」 「クラスの男子にね……」 「はい」 「“雨宮のシルエットって独特だよな”って言われた」 「そうですね」 言ってから、視線が少しだけ下がった。 原因は、たぶんそこだ。 背が低いせいで制服全体は余って見えるのに、胸元だけは明らかに窮屈そうだった。 シルエット、という言葉を選ばれた時点で、先輩が落ち込む理由は分かる。 「その反応やめて!」 ばん、と机を叩く。 小柄な体のわりにリアクションだけは大きい。 「絶対あれ変な意味じゃん……!」 「変ではないと思いますけど」 「君ほんと無自覚に刺してくるよね!?」 先輩が顔を上げる。 頬を膨らませた拍子に、胸元がまた窮屈そうに引っ張られた。 本人も気づいたらしい。 すぐ腕を寄せる。 「どうせさぁ……」 先輩はぼそぼそ言う。 「バランス悪いって思われてるんだよ……」 「まあ、目立つとは思います」 「ほらぁ!」 「悪いとは言ってません」 「そこが問題じゃないの!」 先輩は騒ぎながら座り直した。 その拍子にまたシャツが張る。 ぴたり、と先輩が止まった。 「……うぅ」 「先輩」 「なに……」 「腕組まないほうがいいと思います」 「なんで!?」 「余計目立つので」 「────っ!」 耳まで真っ赤になる。 数秒後、先輩は机に突っ伏した。 「無理ぃ……」 「何がですか」 「君、真顔でそういうこと言うじゃん……」 「事実なので」 「事実が一番ダメなの!」 机をばたばた叩く。 忙しい人だ。 しかも本人は、褒められているのかいじられているのか分からなくなると、すぐ処理落ちする。 「もうちょっとこう……気を遣うとか……!」 「遣ってます」 「それで!?」 「かなり」 「うそだぁ……」 涙目で睨まれた。 でも少し嬉しそうなのが分かる。 「ねえ」 「はい」 「君ってさ、なんで光画部入ったの」 「先輩が勧誘したからです」 「……あ」 「覚えてないんですか」 「いや、覚えてるけど」 先輩は気まずそうに視線を逸らした。 「一年の教室で、ずっと窓の外見てた子だ」 「考え事してました」 「周りから見たら寝てるのと大差ないよ」 違うと思う。 「“写真って残るからいいよー”とか言って、何も知らない俺を引き込んだんですよ」 「なんか言い方が詐欺みたいなんだけど……」 実際かなり強引だった。 入学直後の部活勧誘で、先輩だけ妙に距離が近かったのを覚えている。 『ねえ君、写真撮られる側っぽい顔してる』 意味不明だった。 断ろうとしたら、 『じゃあ撮る側やればいいじゃん』 もっと意味不明だった。 気づいたら入部届を書いていた。 「でも」 先輩は少し笑う。 「入ってくれてよかった」 「そうですか」 「うん。なんだかんだ付き合ってくれるし」 「先輩が勝手に絡んでくるので」 「否定できない……」 先輩は頬杖をついた。 そこでふと、現像機の横の棚へ目を向ける。 少しだけ表情が変わった。 「あー……」 「どうしました」 「いや、そろそろ注文しなきゃと思って」 「何をですか」 「現像液」 先輩は立ち上がって棚を開けた。 中には薬液のボトルが並んでいる。 現像液。 定着液。 俺は名前しか知らない。 「定着液はまだあるんだけど、現像液があと少ししかなくて」 先輩は一本持ち上げた。 振ると、ちゃぷ、と軽い音がした。 「この匂いの元ですか」 「まあ、だいたいそう。現像液と定着液。慣れると平気だけど、最初はかなりくるよね」 「死ぬかと思いました」 「死にはしないよ! たぶん!」 「たぶんなんですか」 「換気はしてるから大丈夫!」 先輩は少しだけ胸を張った。 そのせいでまた制服が限界を主張したので、すぐに自分で縮こまる。 「……と、とにかく注文する」 「顧問が買うんじゃないんですか」 「あの人、通販サイトのログインで毎回詰まるから」 「弱いですね」 「この前、付箋に書いたパスワードをなくして、“記憶とは最も儚いフィルムだな”って言ってた」 「ただの紛失です」 「自称ロマンチストだから、トラブルを全部それっぽく言うんだよね」 先輩がスマホを操作する。 数秒。 表情が止まった。 「……あれ」 「どうしました」 「サイトがない」 「電波ですか」 「違う。いつも買ってた販売店のサイトが消えてる」 先輩は眉を寄せて、検索し直す。 指が少し速くなる。 「え、閉店? うそ」 声が一段低くなった。 俺は椅子の背にもたれたまま、画面を見るでもなく先輩を見る。 さっきまで体型の話で沈没していた人が、今度は別の穴に落ちていく。 情緒が乱高下している。 「顧問が言ってた“最後の在庫かも”って、この店がもう危ないって意味だったのかも」 「ほかの店は」 「探してる」 先輩は検索を続ける。 その横顔から、ふざけた感じが消えていた。 「……フィルム関係ってさ、ほんとに店が減ってるんだよね」 「そうなんですか」 「うん。フィルムカメラ自体、昔よりずっと使う人少ないし。学校もデジカメで済むし。現像してくれる店も減ったし。薬品もフィルムも、昔みたいに近所で買えるものじゃなくなった」 先輩の指が止まる。 「カメラは残ってても、フィルムがなかったら撮れないし。フィルムがあっても、現像できなきゃ見られない」 部室の奥で、現像機が低く鳴った。 古い機械の音が、急に少し遠く聞こえた。 「私が卒業するまでは、多分もつんだけど」 「じゃあ留年すればいいのでは」 「留年しても現像液は増えないからね!?」 即座にツッコまれた。 でも、先輩はそのまま笑い切れなかった。 スマホの画面を見つめたまま、肩を落とす。 「……私がいなくなったら、誰も使わなくなると思うんだよね」 「俺は分かってませんしね」 「そう。君、まだ薬品名聞いただけで死にそうな顔するし」 「死ぬかと思ったので」 「そこ引きずるじゃん」 先輩は少しだけ笑った。 それから、棚の中にあるボトルを見た。 「写真出てくる瞬間、好きなんだよね」 「画面に表示されるのと違いますか」 「違う」 先輩は首を振る。 「ちゃんと“そこにあった”感じがするの」 西日が棚のボトルを赤く染めていた。 現像機の音だけが、部室に低く響いている。 「失敗もそのまま残るし。変な光とか、ピンぼけとか」 「先輩、失敗多いですよね」 「うるさいな!」 いつもの反射で怒ってから、先輩は少しだけ声を落とした。 「でも、そういうの込みで好きなの」 部室が静かになる。 窓の外では運動部の声が遠かった。 「なくなっちゃうの、嫌だな」 それは現像液の話で、店の話で、部活の話だった。 たぶん、卒業の話でもあった。 「俺が覚えればいいんですか」 「……え」 「先輩がいなくなったあと」 先輩が止まる。 スマホの画面が、彼女の指先で暗くなった。 「……君さぁ」 「はい」 「たまに急にそういうこと言うよね」 「そうですか」 「心臓に悪い……」 先輩は誤魔化すみたいに顔を逸らした。 部室の西日が、耳の赤さまで照らしている。 「でも、教えるには薬品を確保しないとですね」 「そうだった」 先輩は我に返り、スマホをもう一度操作した。 「別の店……別の店……」 「ありますか」 「あ、ある。割高だけど」 「なら解決では」 「学校の部費には優しくないかなぁ。あとフィルムも値上がりしてる。昔の値段知ってる人が見たら泣くやつ」 「顧問が泣きますね」 「自称ロマンチストだから、泣きながら一句詠むかも」 「写真部なのに」 「光画部です」 「そこは厳しいんですね」 先輩はさらにスクロールする。 「あ、海外品だと安いのもある」 「海外品でいいのでは」 「品質とか処理時間とか違うかも。あと説明書が英語」 「先輩、英語は」 「現像液より苦手」 「致命的ですね」 「うるさいな!」 先輩が勢いよく立ち上がった。 「いいもん! とりあえず現像終わったフィルム回収するから!」 「逃げました?」 「逃げてない!」 現像機のカバーを開ける。 先輩は胸元を片手で少し押さえながら、慣れた手つきでフィルムケースを取り出そうとして―― 「わっ」 片手が塞がっているぶん、いつもより体勢が変だった。 次の瞬間。 ぷちんっ。 乾いた音。 「…………」 「…………」 二人とも止まる。 制服の胸元。 二番目のボタンが、ころころと床を転がっていった。 先輩は数秒かけて自分の胸元を見下ろし、それからものすごい勢いで両腕を寄せた。 「────────っっっ!!?」 「先輩」 「見ないでぇぇぇ!!」 しゃがみ込む。 顔が真っ赤だった。 耳から湯気が出ているように見えた。 「ボタン拾ってくださいぃ……!」 「はい」 床を転がったボタンを拾う。 先輩はその間ずっと胸元を押さえたまま、小さくなっていた。 「……最悪……」 「大変ですね」 「他人事ぉ……」 涙目で睨まれる。 でも少し笑いそうになっている。 恥ずかしさが限界を超えると、逆に変なテンションになるタイプらしい。 また情緒が乱高下している。 「先輩」 「なに……」 「現像液、注文するなら早いほうがいいのでは」 「今その話戻る!?」 「ボタンは戻りませんけど、現像液はまだ間に合います」 「言い方ぁ!」 先輩は胸元を押さえたまま、スマホをもう一度見た。 画面の中には、割高な国内販売品と、少し安い海外品。 どちらも、まだ売っている。 少なくとも今日、終わったわけではない。 「……よかったぁ」 先輩はその場にしゃがんだまま、へにゃっと笑った。 「なくならないんですね」 「うん。すぐには」 西日が部室を橙色に染めている。 薬品の匂いは相変わらず鼻の奥に残っていた。 現像機は古い音を立てていた。 たぶん明日も。 来週も。 しばらくはこのままなんだろう。 「……ねえ」 「はい」 「君、えらい」 「急ですね」 「いやほんと。ちょっと救われた」 「大げさです」 「大げさじゃないの」 先輩は顔だけこちらへ向ける。 「私、わりと本気で、“これで終わりなんだ”って思ってたから」 「まだ終わってないです」 「……うん」 先輩は笑った。 それから少しだけ悪戯っぽい顔になる。 「じゃあさ」 「はい」 「卒業するまでに、君にも現像教えよっか」 「お願いします」 「……え」 「覚えるって言いましたし」 「あ、うん。そうだった」 先輩は一瞬だけ目を丸くしたあと、急に照れたように視線を泳がせた。 「そっか。教えるんだ、私が」 「先輩しか分からないので」 「責任重大じゃん……」 「勧誘した責任ですね」 「まだそれ言う!?」 先輩は文句を言いながらも、少し嬉しそうだった。 「でも、私、説明下手だよ?」 「知ってます」 「知ってるんだ……」 「すぐ感覚で話すので」 「やめて、全部事実だから効く……」 先輩はまた胸元を押さえてうめいた。 ボタンが一個なくなっているせいで、さっきより大変そうだった。 「でも」 先輩が小さく言う。 「君なら覚えそう」 「そうですか」 「うん」 そして少しだけ笑った。 「放課後、毎日付き合ってもらうけど」 「はい」 「ほんとに?」 「はい」 「嫌じゃない?」 聞き方がずるい。 たぶん本人は無自覚だ。 俺は少しだけ窓の外を見る。 校庭はもう夕方で、運動部の声も遠かった。 「別にいいです」 先輩が止まる。 それから。 「……そっか」 嬉しそうに笑った。 そのあと急に何か思い出した顔になる。 「あ」 「はい」 「フィルム代は後輩持ちね」 「なんでですか」 「先輩を救った税」 「理不尽すぎる」 そう言うと、先輩は胸元を片手で押さえたまま、もう片方の手でスマホの画面をこちらへ向けてきた。 割高なフィルムの値段が表示されている。 夕方の部室に、現像機の音と、遠くの運動部の声と、先輩の少し得意げな笑い声が重なった。 写真にしたら、たぶん少し失敗する。 西日が強すぎるし、薬品の匂いまでは写らない。 でも、残すならこういうのがいい。 |
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HiroSAMA HCxX8bUhHA 2026年05月02日 23時13分41秒 公開 ■この作品の著作権は HiroSAMA HCxX8bUhHA さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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| Re: | 2026年05月31日 02時37分00秒 | |||
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| Re: | 2026年05月31日 02時36分21秒 | |||
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| Re: | 2026年05月31日 02時35分54秒 | |||
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| Re: | 2026年05月31日 02時34分38秒 | |||
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