蒼穹の彼方 ~奇跡を起こし虹をかけるよ~

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 虹ヶ崎女子学院のアニメを見て、学園アイドルにあこがれた。アニメ内のセリフにあったけど、なりたいと思った時にはもう学園アイドルなのだ。ということで私は早速、学園アイドル部設立申請の書類を書いて生徒会室へ持って行った。
「却下です。軽音楽部と活動内容が類似するので、認めることはできません」
「全然違いますって。軽音部は生バンドで演奏するけど、学園アイドルはDTM部に作ってもらった録音音源でいいんです。その代わり、ステージで歌と一緒にダンスもします。軽音部は演奏はしても踊らないでしょう」
「いずれにせよ、部の設立申請には部員として五名が必要です。外岡さん以外の四名のメンバーは誰ですか」
 生徒会長は瓶底のような分厚いメガネをかけていて、お下げ髪で、おっぱいがぺったんこで、スカートが膝下までの長さで、意地悪だというところまでアニメと同じ展開にならなくてもいいのに。悔しさを噛み締めながら私は一人で撤退した。結局人数が物を言うのだ。数の暴力こそが正義とされる社会が間違っているのではないか。
 四月になって、新一年生が入学してきた。私は学園アイドル部部員勧誘ポスターを自作して掲示板に貼った。無許可であることがあっさりバレたらしく、すぐに剥がされてしまった。生徒会、こんな時だけは妙に有能である。
 女の子が楽器を弾いてバンドを組むアニメが放送された影響か、軽音部は多くの新入部員を獲得できたらしい。そっちだけアニメの恩恵を受けていてズルい。アニメとは全然無関係のはずのDTM部にも男女数名の新入部員が加わったという。DTM部には音源制作を有料で依頼していた。古くなった機材の更新の費用にすると言っていたので、Win-Winだったはずなのに、どうして学園アイドル部だけ少子化社会の影響を受けてしまうのか。納得がいかない。
 それでも私は諦めなかった。いつか舞台に立って、アニメのニジガクのメンバーたちのようにキラキラ輝くことを夢見て、練習に励んだ。ランニングをして基礎体力をつけて、柔軟体操をし、歌やダンスも自宅で幾度も反復練習した。衣装のデザインは自分で考えて、それを裁縫部に有料で依頼して作ってもらう。その手の必要経費はアルバイトで稼ぐ。

♪♪♪

 文化祭のシーズンがやって来た。軽音部やDTM部はここぞとばかりに張り切っている。
 我が学園アイドル部は正式な部ではないため、出番が無い。なので、最初は文化祭に興味が無かったのだが、そこで私は発想を転換して賢いことを考えた。いや、厳密に言えばズルいことだ。
 文化祭実行委員に立候補して、その権限を行使して、どこかの部に私の出番をねじ込むのだ。声に出して読みたい美しい日本語でいうところの職権濫用だ。
 例えば、軽音部のライブの最後に、私のステージを入れるとか。あるいは演劇部の公演の中の歌のパートを私のステージにするとか。
 そう考えて文化祭実行委員になって、一生懸命頑張ったのだけど、甘かった。
 軽音部のライブはステージが狭いというのは本当で、踊る場所が無かった。
 演劇部の演目に至っては古典的なシェイクスピアで、歌うパートが無かった。今更シェイクスピアもないでしょう。
 これじゃあ立候補して一生懸命働き損である。
 と思っていたが、もう一つ、権力行使できる場所があった。
 ミスコンだ。
 事前に応募した参加者にはそれぞれ三分間のアピールタイムがある。そこに私が実行委員権限で飛び入り参加することになった。ただし飛び入り参加のため、アピールタイムは一分間しか認められなかった。
 いや、それでも充分である。ショートバージョンで行けば一分で歌える。この際ぜいたくは言えないだろう。
 参加者たちは、けん玉をしたり、ピアノを弾いたり、アニメで放送されていた「服だけ溶かす薬をぶっかけられたエルフ」をやったり、サッカー部員はリフティングをしたり、アピールタイムでそれぞれ持ち味を発揮していた。
  正規の参加者が一通り舞台に立ってアピールタイムを終えて、ついに最後に私の飛び入り参加タイムがやって来た。
 名前を呼ばれ、裁縫部に作ってもらった衣装を纏った私はステージの真ん中に立った。軽音部のライブ会場とは違って、左右が広いので、これならバッチリ踊れる。
 私が学園アイドルになりたいと思ったのは、どんなことも自分は中途半端にしかできないからだった。見た目もそれなりにかわいいはずと思っているが、ミスコンで優勝できる程ではない。勉強やスポーツも程々にはできるけど、トップクラスではなかった。そんな私が一番星になって輝ける場所があるとしたら、学園アイドルだと思ったのだ。
 そんな雑念が思い浮かぶほどに、いつまで待ってもBGMが始まらない。どうしたのだろう。
「申し訳ございません。機材トラブルのようで、音が出ません。外岡ちゃん、ごめんね。もうちょっと待っていて」
 その声は、DTM部の部長だ。機材の更新が間に合っていなかったのか。待てと言われても私に与えられた時間は一分間のみ。文化祭実行委員だから分かる。次のイベントのためにステージを明け渡さなければならない。これはマージン無しの一分間なのだ。
 もうこうなったらアカペラで歌おうか、と思い始めた頃には終了がコールされてしまった。
 私は単に出オチ要員になってしまっただけだった。
 落胆した私は、ミスコンの優勝者の名前を確認することもなく、制服に着替えてとぼとぼと立ち去った。気持ちを切り替えて文化祭実行委員の仕事を全うしなければ。

♪♪♪

 文化祭は、大きなトラブルも無く、予定通りに進捗して、後は閉会式を残すだけとなった。私も含めて文化祭実行委員が頑張った成果だ。トラブルらしいトラブルといえば私の時の音の出なかった機材くらいだ。
 全校生徒が集まった体育館で、生徒会長が舞台に上がり閉会の挨拶をする。会長の挨拶は概ね型どおりのものだった。文化祭実行委員たちへの感謝の言葉もあったら、別にそれはどうでも良かった。清く正しく職権濫用をするために実行委員になったのに、アテが外れてしまった。
「ミスコンの時に一部機材トラブルが発生したのが残念でした。というわけで、ここで大トリの降臨です。外岡さん、ステージに上がって歌ってください」
 全校生徒から大きな歓声と拍手が沸き起こる。
 突然名前を呼ばれて戸惑いながらも、私はステージの上に駆け上がった。生徒会長からヘッドセットマイクを付けられている時に曲のイントロが流れ始めた。これ、一分間の短縮バージョンではなく、約五分弱のフルコーラス版だ。
 ミスコンを見に来た観客だけではなく、全校生徒の前で、短縮バージョンではなくフルコーラスで歌えるとは。
 この瞬間、スイッチが入った。私は学園アイドル部は作れなかったけど、学園アイドルになることができた。
 事前に心の準備ができていなかったけど、日頃の練習の成果を発揮した。
 
  さあ行こう
  あの蒼穹の
  彼方まで
  奇跡を起こし
  虹をかけるよ

 声の限りに歌い、ステージ狭しと踊る。観客である全校生徒が文化祭最後の盛り上がりで熱狂してくれる。
 歌い終わって最後のポーズを決めると、万感の思いがこみ上げた。学園アイドルは夢を叶える存在だ。観客の歓呼の声に応えながら、生徒会長にヘッドセットマイクを返してステージを降りる。今まで何者にもなれずにいた私が、この文化祭で一番活躍して満喫できた人になれた気がする。
 衣装ではなく制服のまま踊っていたので、スカートが翻ってパンツが丸見えだったんじゃないかと、ステージを降りてから思い至り、今更ながら頬が焼けそうなほどに恥ずかしくなってきてしまった。
 それにしてもあの生徒会長、ただの意地悪な人だと思っていたけど、私にリベンジの機会をくれるなんて、想定外だった。意地悪な人、という評価はちょっと改めるべきだと思った。

♪♪♪

 文化祭が終わると、実行委員の役割も終わりだ。そうなると私は、学園アイドル部員でも何でもない、ただの一般生徒に戻る。私の活躍を見て入部希望者が殺到、なんていうアニメみたいなご都合主義展開は無かった。仮に希望者が四人集まったとしても、あの意地悪生徒会長が君臨している限り、軽音部との類似を理由に創部はどうせ却下されるだろう。
 今更ながらだが、文化祭の時のミスコンの優勝者の名前を知った。
 西山二郎。男子の名前だった。
 昨今はカルト的なヘンな思想の人々がワクチン未接種の野良犬のように噛みついてくるので、ミスコンは実施するのが困難になってきた。なので我が校のミスコンの参加資格は男女不問、プロアマ不問、学歴不問である。だからたぶん、他校の生徒でも、幼稚園児でも申し込みすれば参加できるはずだ。リフティングをしていたサッカー部員も、西山二郎ではないけど女装した男子だった。
 優勝者の西山二郎って、生徒会長なのだという。
 えっ。ってことは、会長はミスコンの時だけではなく、常日頃から女装をしているってことだ。気がつかなかった。貧乳じゃなくて普通に平原だったのか。
 生徒会長、男なのにミスコンで優勝して、今回の文化祭で一番活躍して満喫していた人物ってことになるんじゃないだろうか。
 なんかちょっとムカつくので、やっぱり生徒会長は意地悪な人だ、という評価に戻しておこう。
競作企画

2025年04月05日 06時22分31秒 公開
■この作品の著作権は 競作企画 さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:なりたいと思った時にはもう学園アイドル
◆作者コメント:カクヨム9周年記念「わたしのアイドル」コンテストとKAC20252あこがれお題同時参加作品です。どこかに「トリの降臨」というワードを含めるミッションも達成しました。
一番星、でお題『星』を消化しました。

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