平安京珍宝伝 |
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「そなたとの婚約を破棄する。そして追放だ」 お内裏様がお雛様に向かって指を突きつけて高らかに宣言した。 狼狽した五人囃子は演奏を止め、逆に三人官女は顔を寄せ合ってこそこそ話し合いを始めた。 お雛様はそれでも顔色を変えなかった。いや、おしろいを塗っているので顔色の変化は余人には分からない。 「理由も無しに、あまりにも理不尽な処遇。せめて理由をお聞かせください」 「ならば言ってやろう。かつてこの国には、かぐや姫なる月から来たという美女がいたのだ。彼女は求婚してきた五人の貴公子に対して、龍の珠であるとか燕の子安貝であるとかの珍宝を持ってこいと理不尽な要求をした。そなたは我に対して同じような理不尽な無理難題を課したではないか」 「妾が、かぐや姫と同じである、とおっしゃるのですか」 「その通りだ」 お雛様は俯いて、しばし黙した。 「畏まりました。そういうふうにおっしゃるのなら、妾は退出いたしましょう。元々妾のお付きである三人官女は連れて行きますので」 お雛様と三人官女は雛壇を降りて立ち去った。その様子を、お内裏様は勝ち誇った表情で眺めていたが「京の街を無駄に歩き回ったので足が痛い」と言いながら足をさすり始めた。 ◇◇◇ お雛様の後ろに、三人官女が付き随う。 お内裏様との結婚は直前で破局したので、今となっては元カレということになる。 「はぁ。あのお内裏様、そんなに賢いようには見えなかったけど、妾がかぐや姫と同じで異星から侵略に来た地球外生命体だと、どうして気づいたのかしら?」 「お言葉ですがお雛様、お内裏様は恐らくこちらの正体には気づいておられませんでした。本当に言葉通り、無理難題が我慢ならなかったのだと思います」 「こちらが安い女であると見られないために贈り物を要求するのは当然のこと。妾が要求したのは【祇園精舎の鐘】。京の街で容易に入手できる物ではありませんか」 三人官女はお互いに顔を見合わせた。 「もしかしてお雛様もご存じなかったのでしょうか。祇園精舎は京の街にはありません。遥か遠い天竺の地にあるのです。しかもその天竺の祇園精舎には、鐘が無いそうです」 「なんと……」 どこかの寺の鐘が鳴った。諸行無常の響きがあった。 |
競作企画 2025年04月05日 06時17分20秒 公開 ■この作品の著作権は 競作企画 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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