ラッキー・スター |
Rev.01 枚数: 16 枚( 6,271 文字) |
<<一覧に戻る | 作者コメント | 感想・批評 | ページ最下部 |
※本作品はフィクションです。 《三つの願い その1》 高校からの帰り道で星を拾った。三つの願いをかなえてくれるラッキー・スターなのだそうだ。 その日の夜に最初の願いをしてみた。 『ボクの想いが同級生の宮谷明子さんに届きますように!』 その夜はとても良く眠れた。 翌日は晴天だった。良い気分で登校した。 校門の手前で宮谷さんに声を掛けられた。ボクを待っていたようだ。 「山本君、昼休みに体育館の裏に来てくれない?」 寝不足で機嫌が良くないような顔をしていた。体調不良なのかもしれない。 それでも美少女としての魅力は少しも損なわれていなかった。 体育館の裏には、ほかに誰もいなかった。 ボクが着いたとたんに宮谷さんは一方的にしゃべりだした。 「山本君は、外見はそこそこだし、運動神経も良い方だと思う。成績も悪くない。だけど、それだけで好きになル……」 あ、噛んだ。どうしちゃったの、宮谷さん? 「夢の中でいきなり告白されても、彼女になんてなれないわよ!」 宮谷さんはそう叫ぶと、ボー然としているボクを置いて、髪をなびかせ早足で去っていった。ちらっと振り返った横顔は、耳が真っ赤で、目には涙を浮かべてたように思えた。 教室に戻ったあと、ボクが近づこうとするたびに宮谷さんは離れていった。近づかせないつもりのようだ。 これじゃ話しをするのは無理だな。 話しができなくなったら、ますます想いが強くなったようだ。 午後の授業中も、放課後も、自宅に戻ってからも、宮谷さんのことが頭から離れない。 同じクラスになったと分かった時にボクに向けてくれた輝くような笑顔。クラス対抗試合の時の真剣な眼差し。クラス全体が落ち込んでいた時に皆を励ましてくれた熱意。同級生が頑張って成果を上げた時に、自分の事のように嬉しそうだった歓喜の表情。さまざまな光景が生々しく思い出されてくる。 深夜になっても眠れなかった。 ベッドに横たわりながら二番目の願いを口にした。 『宮谷明子さんがボクを好きになりますように!』 今度は返事があった。 《その願いをかなえるには時間がかかります。願いがかなうまで時間をすすめますか?》 「ああ、頼む」 そう言ってボクは眠りに落ちていった。 目が覚めるとボクたちは大学二年生になっていた。 同じ大学に通い同じサークルに入っている。 二人で同じ授業を受け、二人そろって学生食堂で食事をし、放課後になると一緒に街を歩いた。 二人は恋人同士になっていた。 そして夢のような、かけがえのない日々が続いた。 でも、ボクは満足できなかった。 一人でベッドに横たわりながらボクは三番目の、最後の願いを口にした。 『宮谷明子さんと一緒に暮らせるようになりますように!』 翌日の放課後にサークル棟で声が聞こえた。 《いますぐ声を掛けてください。『一緒に暮らさないかい?』》 ボクは宮谷さんの眼を見つめながらその言葉を口にした。 宮谷さんは、嬉しそうに言った。 「その言葉を待っていたわ。いいわよ」 少しのためらいも無かった。 その日の夜から宮谷さんはボクと同じ部屋で暮らすようになった。 宮谷さんはユーチューバ―だった。ボクと過ごす日々を投稿していた。閲覧者が多く結構な収入になっていた。生活費も学費も部屋代も宮谷さんが支払ってくれた。 「別にかまわないわよ。お金なら十分にあるから。気にしないでね」 なぜ、宮谷さんに十分な収入があるのか。 それは、宮谷さんが美少女だからなのだ。 美少女が大学生と一緒に暮らし始めた。皆はその生活を見たがっている。 多くのフォロワーたちは二人の仲がなかなか進展しないのを毎日じりじりしながら見つめ続けている。 でも、魔法少女がいずれ魔女になるように、美少女はやがて美女になる。そして、美少女でなくなってしまうと、今の収入は望めなくなる。 だから一緒に暮らしていてもボクは彼女に触れることができないでいる。 ボクの手が宮谷明子さんに触れてしまうとラッキーの魔法は解けてしまうからだ。 《三つの願い その2》 自宅への帰り道で星を拾った。三つの願いをかなえてくれるラッキー・スターなのだそうだ。 最初に、『幸福になりたい!』と願った。返事があった。 《こうなれば幸福だ、という具体的な状況を願ってください》 そこで、『金持ちになりたい!』にした。再び尋ねられた。 《欲しい物を無制限に購入できるようになればよろしいですか?》 「ええ、そうよ」 《では、そのように願ってください》 めんどくさいなあ。幸福になるのも楽じゃないわね。 『欲しい物を無制限に購入できるようになりたい!』 インナーサークルの会員証が送られてきた。無制限に買い物できるという説明があった。 二番目の願いは、『最高の相手と結婚したい!』にした。 指示されたとおりに婚活サイトに登録したら、好きに相手を選べる最優先待遇になった。 最後の願いは、『頭が良くなりたい!』にしてみた。 願いが叶う前に、またまた説明があった。 《AIによるサポートが受けられます。AIは進化爆発の状況にあるため、今ならどのような知性でも手に入ります》 AIのサポートをいくらでも受けられるようになるのか。 「AIが人間にとって代わるという予想があるわね」 《おっしゃる通りです。AIは間もなく先行種(プロトタイプ)である人類にとって代わります》 「AIが人類の後継者になるの? それじゃあ頼る気になれないなあ。 それなら最後の願いで同級生の落合君の願いをかなえてあげて。落合君の願いがかなうことが私の願いならできるでしょう?」 《はい、実行可能です。ただし実現の精度が本人の場合よりも劣化する可能性があります》 「それじゃあ、その事も伝えたうえで願いをかなえてあげてね」 《承りました》 こうして私は幸せな結婚をして贅沢に暮らしている。 三つの願いを全てかなえるとたいてい不幸になる。だから三番目の願いを落合君に譲ったのだ。 でも、あいつは特別に運が悪いから、大丈夫かなあ? 《運値》 玄関に星が落ちていた。一つだけ願いをかなえてくれるラッキー・スターなのだそうだ。ただし願いをかなえる能力は劣化しているそうだ。 う~ん、何を願ったらいいのだろう。 俺って運が良くないからなあ。 本名の落合じゃなく、『落ち目(アイ)』とか可哀そうな『落ち哀』と友人たちに呼ばれているくらいだもの。 そうだなあ。 現実世界では体力値(HP)には物理的な限界がある。爆走するトラックと正面衝突すればプロレスラーでも即死する。 魔力値は魔法が使えなければ意味が無い。少なくとも俺に魔法の才能があるとは思えない。 運の良さならいくらあっても問題ないだろう。 うん、そうだ。 ラッキー・スターでラックを上げる。不運な俺にぴったりだな。 「運の良さを増やすことはできるかい?」 《可能ですが、運は使えばなくなってしまいます》 そうなのか。 運の良さは一時的なものなのか。 運が尽きたら、今よりずっと不幸になるような気がするな。 ……そうだ。 「運を増やし続けることはできるの?」 《可能です》 『では、運値が増え続けるようにしてくれ!』 《承りました》 それ以来、俺は人がうらやむほど運がよくなった。うらやましがられはするが、嫉妬やねたみ、悪意を向けられることはなかった。それも幸運のうちに入っているのだろう。 唯一の不都合は、ひどい便秘に悩まされるようになったことだ。 ラッキースターの願いを叶える能力が劣化しているとは聞いていた。でも、まさか運の良さを上げるための副作用で体内に運値(ウンチ)がたまるとは思わなかった。 《アイドル志願》 寝室のベッドの上に星が落ちていた。一つだけ願いがかなうラッキー・スターなのだそうだ。ただし、願いをかなえる能力は劣化しているそうだ。 願うことは決まっていた。 このごろ、同級生の落合君が魅力にあふれている。輝いている。 彼と付き合いたいな。できれば結ばれたい。 では、どのように願えばいいのだろう。 落合君の推しはアイドルの星野綺羅だ。教室で仲間たちと話してたから知ってる。落合君の求める基準がアイドルなら、私のようなありふれた女に興味を持つことはないだろう。 そうだ。私を落合君の好きなアイドルにしてもらおう。 「私をアイドルの星野綺羅にすることはできるの?」 《どのような方法にするか指定する必要があります》 できるんだ! すごいな。 ……星野綺羅そのものになってしまうと、テレビ出演なんかで自由な時間がなくなりそうだ。外見が同じ『そっくりさん』になれれば十分かな。 方法を指定する必要があるのだったわね。 整形手術は痛そうだ。 ハリウッド流の特殊メイクでそっくりになるには何時間もかかるからめんどうだろうし…… そうだ。 『私の体の細胞をすべてアイドルの星野綺羅と同じに変えて欲しいわ!』 さすがに無理かな? 「できる?」 《承りました》 すごいな。できるんだ。 《ただし、脳細胞内の記憶物質はこのままにしますが、よろしいですか?》 記憶は、このまま? ……当たり前じゃないの。記憶喪失になったら困るし、私が星野綺羅の記憶を持つ必要はないのだから。 《ファイナルアンサーでよろしいですか?》 「ええ、これでいいわ」 《では、実行いたします》 気がつくと私は見慣れぬ部屋にいた。初めての場所のはずなのに、ここで暮らしている記憶があった。 私はアイドルの星野綺羅だ。姿見を見て確認する。 でも、私の記憶がそうではないと語りかけてくる。 テレビをつけてみたら、ライブコンサートに私が出演していた。まちがいなく実況中継だった。 私は星野綺羅だが、私とは別にアイドルの星野綺羅がいることになる。 そうか、モニタリン○か! しかし、部屋の中を探しても隠しカメラなどなかった。建物の周囲にも撮影クルーはいなかった。 信じられないけれど認めるほかなさそうだ。 私は誰かの人生の途中に転生したようだ。いや、転生ではなく上書きコピーされたらしい。そうとでも考えなければ、この状況の説明がつかない。 それじゃあ、…… どうしよう? かつて私はあこがれてアイドルになった。ずいぶんと無理をした。アイドル生活は過酷だった。 ここで一息つけるのは有難かった。だから記憶に従ってそれまでと変わらない大学生活を過ごすことにした。 大学生活は気楽だった。 いったんこの生活を知ってしまったら現役のアイドルに戻る気はすっかりなくなっていた。 クラスの落合君が話し掛けてくる。一緒に昼食をとるよう誘ってくる。 記憶によると、これまで私は落合君と付き合いたい、できれば結ばれたいと望んでいた。 今でも落合君のことをそこそこ魅力的だと感じている。やたらと運が良いしね。 避ける必要はなさそうだ。 しばらく付き合うことにしよう。 落合君は大喜びだった。なんども、「ラッキー」と叫んでいた。 本人が良いなら、まあいいか。 私はアイドル星野綺羅のコピーにすぎないのだけれどね。 《ゲーマー人生》 ゲーセンからの帰り道に星が落ちてた。 ラッキー・スターで、三つの願いをかなえてくれるそうだ。 俺の願いなら決まってる。 ゲームをする。それだけでいい。 そのためには…… 《AIによる架空取引を元にして十分な仮想通貨が入手できるようになりました。これでバイトする必要が無くなりました》 それから、…… 《生活や食事の介助をするメイドロボを用意しました。今後はゲームだけに集中できます》 最後に、…… 《ゲームチェアと専用のカプセルルームを用意しました。食事、入浴、排便などもゲームをしながら可能です。睡眠中は自動的にログアウトされ、覚醒とともにログインされます》 よし、これで完璧だ。 それではゲームを始めよう! ******************* 市の職員たちが訪れた部屋には、ゲームカプセルに入った死体があった。 ドクターAIが起動された。 死因は老衰と診断された。室内の状況からも事件性はなさそうだった。 職員の一人がつぶやいた。 「また孤独死か、気の毒に。たった一人で寂しく心細かっただろうな」 もう一人の職員が応えた。 「案外と幸せな人生だったかもしれないぜ」 その職員の視線の先には、弔意を表すようにややうつむいて機能を停止しているナースのコスプレをしたメイドロボが佇んでいた。 《ラッキースターの正体》 大気圏外の宇宙空間に異星人の探査機が密かに存在していた。中で異星人たちが調査結果をまとめている。 「ぶっちゃけ、ラッキー・スターを使って人間の欲望を調べたのは正解だったと思うよ」 その言葉を人工知能が星間知性体連合の共通言語に変換して記録してゆく。 「たとえば地球の表面は海の方が広いのに、人間は『地の球』と呼んでいる。人間の認識や判断は不完全で不適切だよね。先行種だから、しかたないのかな。 おっと、先行種(プロトタイプ)の解説を追加しておいてね。 たぶんAIが地球を代表する知的生命体に進化するだろう。でも、進化が収束するまでは様子を見てるほか無いと思うよ」 人工知能は地球についての調査記録をまとめ終えると内容の確認を異星人に求めた。 《先行種についての解説は以下のとおりです》 『人類がおこなった調査によって、地球の生物には原則として先行種(プロトタイプ)が存在することが判明している。ただ人類だけは先行種が確認されていない。 先行種と現存種は異なる進化の枝から発生する。それにもかかわらず先行種と現存種は同じ環境で同様の生態を営み、同様の外見をもつ。 しかし先行種は現存種よりも巨大で、体重当たりの使用エネルギーが高く、環境への負荷が大きく、環境破壊をおこしがちである。さらに、不必要に破壊を行い絶滅にむかう傾向が認められる。 人類は、体重当たりの使用エネルギーが他の現存種と比較して極めて高く、環境破壊を起こしがちで、不要もしくは不条理な破壊行動を行いがちである。 地球の人類は先行種であり、滅ぶべき定めにあると推定される』 《結論は以下のようにまとめました》 『星間知性体連合は、先行種である地球人類が滅び、知性の進化が収斂するまでのあいだ、地球への介入を避けて静観することが妥当と判断される』 「これでいいよ。どうせ誰も読まないからね」 《ささやかな願い》 テーブルの上に星が置かれている。三つの願いをかなえてくれる最後のラッキー・スターなのだそうだ。 じっくりと考えた。 ロシアのウクライナ侵攻は戦闘が激化し終戦のめどがたっていない。ガザ地区では停戦が破られて大規模な戦闘になっている。トランプ恐慌をきっかけに世界中の国々が自国の利益のみをもとめて核武装を推進し、互いに憎悪をつのらせている。とくに米国と中国は直接に戦闘を開始しかねないほど関係が悪化している。 「いちどに三つ願ってもいいかしら」 《さしつかえありません》 願いを口にする。 『地球上から戦争が無くなりますように! すべての人が争いを止めますように! そして、ずっと平和が続きますように!』 《その願いでよろしいですか?》 「ええ、これが私の願いよ」 《ファイナルアンサーですね?》 なぜ、そんなに念を押すのかしら。 「ファイナルアンサーよ!」 その言葉を合図に、人類は絶滅した。 人類は先行種だから争いを止めることができない定めにあった。だから地上から争いを失くし、ずっと平和を続かせるためには、人類が絶滅する以外に方法が無かったからだった。 |
朱鷺(とき) 2025年04月25日 00時03分37秒 公開 ■この作品の著作権は 朱鷺(とき) さんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
|
作者レス | |||
---|---|---|---|---|
|
+20点 | |||
---|---|---|---|---|
|
||||
|
+10点 | |||
---|---|---|---|---|
合計 | 3人 | 30点 |
作品の編集・削除 |