【掌編】創絆のサハスラーラ |
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シーン1:ムーラ、襲来 『ムーラ、出ました!』 偵察機からの報告通り、黒い泥の塊がもぞりと動きはじめる。 初めはただ塊のまま。だがすぐに2本の足が生えて歩き始め、次の一歩で腕が生えた。頭が膨らみ、腕の先に刃物ができる。 これが、ムーラ。黒い泥で出来ていて、全長5mな事を除けば、ナタで武装した人間のように見えなくもない。 もっと大きな違いは、海にひたった足元から、黒煙が上がっていること。 ムーラがこの星そのものを侵食している、のだそうだ。海でも地面でも建物でも、触れているものはゆっくり侵食され、黒い泥に変わってムーラに取り込まれていく。 『人型3体、やや小型、武装あり!』 『2号機、3号機前進! 白兵戦で人型ムーラを撃破せよ』 司令部からの指示でボクの視界も揺れる。 外から見れば、白い巨人が2体、しぶきを立てながら黒いムーラたちに駆け寄るのが見えたはずだ。 白い巨人はこの星を守る人類の刃、サハスラーラ。ボクらが乗って戦う、いわゆる巨大人型ロボットだ。 少し先行する2号機は、ムーラたちとほぼ同じサイズ。のっぺらぼうなムーラとは違い、こちらは大理石の彫像ぐらいには細部が作り込まれている。 パイロット曰く、セーラー服の女子中学生をイメージした作りとのこと。頭のツインテールとプリーツスカートをたなびかせ、身の丈よりも長い巨大な大剣を構えて走る。 ボクら3号機も後を追う。こちらは2号機よりも少し背が高い。長い髪をポニーテールにし、剣道着風の外観。腰に日本刀を差している。 ムーラの方も黙って見ているわけではない。数の利を活かそうと、囲むように動きだす。 『1号機は適宜援護を。囲まれないよう気をつけてあげて』 『はぁい。じゃあ、軽くにしときますねぇ』 後ろに控えた1号機が、銃を撃つ。 左右に広がろうとしていたムーラたちだが、銃弾を警戒して動きが止まる。 「いくよ、コウ」 「う、うん」 バディのリンちゃんがボクの名を呼ぶ。でも、いくよ、と言われても、正直困るのだ。 彼女が乗ってるのが対ムーラ用人型兵器ラーラの3号機。いわゆる、巨大人型ロボットだ。 一方、ボク、幸助《こうすけ》が乗ってるのは、そのラーラ3号機が今まさに抜き放とうとする巨大な日本刀の方だ。正式名称は対ムーラ用武装兵器サハス3号機。巨大ロボットではあるんだけど、日本刀型だから自分で動かせるような手足は無い。 「秘伝、一の太刀!」 「はぁぁぁぁ!」 一応、彼女が技を繰り出すのに合わせて叫んでおく。 ボクが乗る日本刀の刀身はムーラの腰から左肩へと駆け上がるように振り切られた。返り血の代わりに黒い泥が飛び散る。 「胸には無いか!」 悔しそうに言うリンちゃん。 ムーラはそのほとんどが黒い泥のようなものでできている。身体のどこかにあるムーラコアを壊さない限り、ほぼノーダメージ。むしろ、飛び散った黒い泥を浴びて侵食されてしまう。 横を見ると、2号機の方も空振りだったらしい。頭から真っ二つにされたムーラだったが、大剣が通り過ぎたところから泥が溶けてつながっていく。 大剣を構えなおすまでの隙をつき、ムーラの一体が切りかかる。2号機は身をよじってかわすが、ツインテールの片方が切られてしまった。 『いったーい!』 『髪の毛切られただけやろ!』 『今回から、セバスの木を通してたの!』 『なんでやねん! アホやろ、お前!』 2号機パイロットの豆次《まめつぐ》さんと友樹《ともき》が言い合いを始める。ラーラもサハスも、骨組みとしてセバスの木という植物が使われている。端の方とはいえ、切られれば感覚がパイロットにも伝わるのだ。 ……なんで、ツインテールにセバスの木を通そうと思ったのかは分からないけど。 『数が多いのは、良くないんとちゃいます?』 1号機の丸木《まるき》さんからの提案に司令がのっかる。 『そうね。1号機、1体潰して。2号機と3号機はマンツーマンで』 1号機から放たれた弾丸は、ムーラの頭、胸、腹を同時に貫く。どれかがコアを壊したらしく、そのムーラはぐずぐずに潰れて動かなくなった。 「今度こそ!」 リンちゃんがボクを使ってまだ動くムーラに突きかかる。切先は呆気なくムーラの頭を貫くが動きは止まらない。 でも、刀身が少し硬いものを擦った感触があった。コアだ! 「カスった!」 「よし、もう一回」 「待って、切られる!」 コアの位置がバレたからか、ムーラは激しくナタを振り回す。 それでも無理矢理攻めようとするリンちゃん。 「相打ちででも!」 「ダメだよ!」 『落ち着きなさい、河合《かわい》。無駄な損耗は避けて』 司令からの指示で、ようやく少し退くリンちゃん。 セバスの木が切られたら痛い目にあうのはリンちゃんなのに、とボクはコクピットの中で身を震わせる。 『まず、サハスであのナタを壊しなさい。再生する隙に、頭のコアを破壊。いいわね?』 「「了解!」」 シーン2:合わない、特訓 12月の朝は寒い。 でも、リンちゃんに言わせれば「気が引き締まってちょうどいい」だそうで。 まぁ、確かに竹刀で面打ちの練習をずっとしていると身体もそれなりに暖まるのだけど……。 不満が無いわけではないけど、横でリンちゃんがボクより速いペースで同じことをしているのを見ると、文句も言いにくい。 竹刀を振りつつ、横目でリンちゃんを見上げる。同い年だけど、ボクより頭半分背が高い。スラリとした、良く鍛えた身体。長い黒髪をアップでくくっているあたり、彼女の乗るラーラ3号機にもよく似ている。 「コウ、振りが遅い」 「ごめん」 きびしいご指摘。ボクは目線を戻して竹刀を振る。手がもうかなり痛い。 これがあるから、美人なのにモテないんだよね、リンちゃん。ボクとしてはそれでいいけど。 「ずいぶん頑張ってるが、大丈夫か?」 「玲央《れお》さん」 声をかけてくれたのは、サハス1号機のパイロット、玲央さんだ。 こちらもジャージで、浅黒い肌に汗が浮いている。ひとっ走りしてきたところだろうか。 リンちゃんは竹刀振りをやめてビシッとかかとをそろえる。ボクも便乗して竹刀振りはストップ。 「昨日は良い戦いぶりではなかったので、特訓です!」 「ちゃんと1体倒してたじゃないか」 「司令の指示に従ってやっと、ですから」 リンちゃんの言うとおり。 司令に言われてナタ破壊からコア狙いをしたのだけど、コアを中々壊せなかったのだ。モタモタしたせいで壊したナタは一度再生。斬りかかられて結構危なかった。 最終的にはもう一回ナタを壊してからコアを叩いて勝てたけど、スマートじゃない。 「コウにも、玲央さんみたいに強くたくましくなってもらわないと」 リンちゃんの比較に、ボクは半分ムッとして、半分納得する。 玲央さんはボクらと2才しか変わらないけど、身体つきは完全にアスリートだ。お父さんの関係でムエタイをやっていて、かなり強いんだとか。 でも、言われた玲央さんの方はちょっと顔を曇らせる。 「……俺は、俺のようになることが良いとは限らない、と思う」 「でも、一番戦果を挙げてるのは玲央さんと丸木さんの1号機ですよね」 昨日も、1号機はあっさりムーラを撃ち抜いていた。 この基地でのムーラの撃破数は圧倒的に1号機が多い。でも、1号機に頼りっぱなしではダメだということでなるべく2号機、3号機を鍛えようとしている。 昨日の戦いは、ある種ボクらのための実戦訓練だったのだけど……あのざまだ。 「そうだな。でも、だからこそだ。井藤《いとう》はまだ、自分に合うサハスの形を見つけていない」 サハスもラーラも、パイロットに合わせた形でないと性能が十分に発揮されない。 ボクが乗るサハス3号機は、特にパイロットと機体の相性が悪い。剣とか槍とか色々試しても大差なかったので、リンちゃんのラーラが使いやすい日本刀型に落ち着いているけど。 「井藤には、井藤としての強くなる道があると思う」 玲央さんの目がボクをまっすぐに見すえる。ボクはその圧に耐えかね、視線をリンちゃんにやった。 「……でも、身体は鍛えておくべきです」 あまり納得していない様子のリンちゃん。 まあそうだな、とうなずきつつ、玲央さんは指を一本立てる。 「身体を鍛える目的でも、無茶のしすぎは良くない。特訓はこれぐらいにしておけ」 「……わかりました」 リンちゃんはボクの手から竹刀を取って、宿舎の方に戻っていく。 それを見送るボクの肩に玲央さんの大きな手が置かれる。 「午後は、自分の好きなことを思い切りやるといい」 好きなこと、か。 玲央さんは知ってるんだろうか、ボクの好きなことを。 シーン3:ボクの好きなこと 鏡の中の子は、髪飾りをさして位置を整える。 「ちょっとズレてる?」 ボクはそう呟きながら、ウィッグを少し回す。うん、よくなった。 鏡の中の子も笑う。なにせ、ボク自身だから。 ピンクのロングスカートに白いセーター。ダークブラウンのウィッグにさした白い百合の花の髪飾りは一番のお気に入り。 どう見ても可愛い女の子、だけど中身はこのボク、井藤幸助だ。 今日はひときわ可愛くできた、と自己満足していると、スマホが震える。 『すまん、豆次に捕まった』 友樹からのラインだ。 『いいよ。そっちこそ頑張ってね』 そう返してから、どうしようかと少し迷う。この格好の時はいつも友樹と一緒に出掛けるの事にしている。幼なじみで事情を知ってくれてるし、とっさの言い訳も上手いから。 (でもまぁ、大丈夫だよね) せっかく可愛い格好をしたのだ。自分の部屋だけじゃ満足できない。街には出かけて、いつもの喫茶店ラギーに行こう。何かスイーツを食べれば、もっと元気になれる気がするし。 コートを羽織り、自室から出る。なるべく人目につかないように注意しつつ宿舎の自動ゲートを抜け、バスに乗り込む。10分ほど走れば、もう街中だ。そんなに大きな街ではないけど、高校生が休日に遊べるぐらいの施設はある。 パフェにしようか、パンケーキにしようか。たしか、季節限定メニューをやってるはず。 そんなことを考えながら歩いていると、2人組の男に行く手をさえぎられた。 「かわいいね、キミ。ちょっと俺らとお茶しない?」 かわいいと言ってくれるのはいいけど、別に男と付き合いたくはない。 かわいい格好はしてるけど、ボクはあくまで男の子。女の子と見られたい訳でもないので、正直に言う。 「ボク、男なんですけど」 ちょっと低めに作ったボクの声を聞いて、2人組は顔を見合わせ……吹き出した。 「男の声作れてないよ〜」 「こんなかわいい男の子がいるわけないじゃ〜ん」 高い地声が憎い。普段はむしろ好きなんだけど、こういう時は困る。 男の片方がボクの手を掴んだところで、割って入った人がいた。 「やめないか! 嫌がってるだろ!」 リンちゃんだった。 ついてない。 リンちゃんには、ボクの女装趣味はずっと秘密にしてきた。男らしい男が好きなリンちゃんに嫌われたくはなかったし。 「ありがとう……」 ああ、終わった。完全にバレた。 そう思いながらも、お礼は言う。 しかし、リンちゃんは王子様みたいな爽やかな笑顔。 「いやいや、可愛い女の子を助けないわけにはいかないからね」 (え、もしかしてリンちゃん、ボクだって分かってない?) まさか、幼なじみかつバディの相手にすら気づかれないとは! 自分の女装の腕前にちょっと驚き。 「じゃあ、わたしはこれで」 「あ、ちょっと待って」 バレてないのをいいことに逃げようとしたボクを、リンちゃんが呼び止める。 「ラギーってカフェを知ってる? 友達が、そこのパンケーキがすごく美味しいって言ってて、食べに行きたいんだけど」 どうしよう……。 知らないと言って逃げてもいいけど、あそこはちょっと入り口がわかりにくいから、方向オンチなリンちゃんだと迷っちゃうかも。 それに、ラギーのことをしゃべったのは間違いなくボクだ。リンちゃんに、前の休みはどこに行ってたのかと聞かれて普通に答えちゃったのだ。 「わたしも、ちょうどラギーに行くところだったんです。一緒に行きましょう。すぐそこですよ」 ボクは覚悟を決める。一緒にお茶だけして、すぐにさよならするぐらいなら大丈夫だよね、きっと。 シーン4:不運と暴露 ラギーの店内は半分ぐらいの客入り。 ボクとリンちゃんはたまたま空いた窓際のいい席に通してもらえた。 サラリとボクのために椅子を引き、メニューを渡してくれるリンちゃん。こういう時は本当に王子様系女子だなぁ。 男の子としてちょっと敗北感はあるけど、今は女の子のフリを続けないと。 季節限定パフェとカフェオレを頼むことにして、メニューをリンちゃんにわたす。そして、視線をチラリと店の奥の一角に走らせた。トイレである。 男として、女装していても女子トイレに入るのは犯罪だ。でもこの格好で男子トイレに入るのは、それはそれで問題になることがある。 でも、このラギーなら大丈夫。男女共用の個室が1つだけだから、誤解もないし誰かが不快になることもない。 そう油断したのが悪かった。 テーブルの脚に足を引っかけてすっ転ぶ。 なんとかテーブルの端に手をかけて倒れるのは防ぐことができた。 でも……頭が寒い。 「だいじょ……」 メニューを見ていたリンちゃんの声が、途中で止まる。 こけかけた勢いでウィッグが無くなり、元々の短髪のままでリンちゃんと目があう。 「コウ……幸助だよね?」 いくらなんでもごまかしようがない。 ウィッグを拾ってくれた店員さんも、空気を読んで止まっている。 「……うん」 「そういう、趣味だったの?」 「えっと、その……」 どう答えたら、1番リンちゃんのショックが少ないだろうか。 そう考えて言いよどむボク。 しかし、リンちゃんからとんでもない爆弾発言が転がり出た。 「私より、友樹の方が好きなのか!?」 「え、それは」 「豆次さんが、コウと友樹はそういう関係に違いないって」 ちょっ! 豆次さんー!! 泣きかけているリンちゃんに、ボクは慌てて手を振って否定。 「違う違う違う! ボクはかわいい恰好をしたいだけで、好きなのはリンちゃんだから!」 女性になりたいわけでもないし、男性が好きなわけでもない。単に自分が着たいと思う服を選んだら、女の子向けだったってだけなのだ。そこのところはハッキリさせておかないと。 「……あれ?」 なんか、余分なことを言った気がする。 なぜか店員さんは拍手をし、リンちゃんの顔が急に明るくなる。 「あ、いや、これはもののはずみというか」 「嘘なのか」 「嘘じゃないけど」 ここで話すつもりは無かっただけで、嘘ではない。 「友樹は?」 「ただの友達。てか、ボクら3人幼なじみでしょ」 幼稚園の頃から一緒に育った仲なんだから、そこで疑われるのは心外だ。 「そうだけど、最近はコウと友樹だけで出かけることも多かったし」 うぐ。これはボクが悪いのか。 リンちゃんに女装を隠す関係上、友樹と2人だけで出かけるのが多かったのは事実。恋愛感情は全く無いけど、誤解のタネにはなるだろう。 「よかった」 リンちゃんの目からぽろぽろと涙がこぼれ始める。こんなに泣くリンちゃんを見るのは、幼稚園以来かも。 「リンちゃんは、ボクのこと嫌いだと思ってた。だって、いつも男らしい人が好きって言ってたでしょ」 「男らしいのがいいのは、そう。でも、コウじゃないのはやだ」 難しい要求だ。 そもそも背も低いし顔も童顔、声も高いのがボクだ。女装趣味をあきらめたって、男らしいにはほど遠い。あきらめる気もないし。 どうすれば良いんだろう。 結局、どっちかが我慢するしかないんじゃないか。 そんな風に考えるボクに、リンちゃんがまだ泣きながらあやまる。 「無理に特訓させて、ごめんね」 「いいよ。気持ちはわかるし、別に体を動かすのは嫌じゃないから大丈夫」 ボクそのままだと完全インドア派。でも、ちょっと筋肉をつけた方が体がきれいに見えていい。そういう意味で、特訓につれ出されるのはそんなに嫌ではなかった。まあ、今朝みたいにきつ過ぎるのはちょっと困るけど。 「……そうだ。行こう!」 「え?」 どこに、と聞く前にリンちゃんは立ち上がり、ボクの手を引っぱった。 シーン5:対話、そして前進 結局何も頼まないままラギーから出て、連れてこられたのはサハスラーラの研究室。 なんと、基地じゃなくて街中にあるのだ。この研究室。しかも接収前は喫茶店で、今も内装はほとんどそのまま。全てはこの研究室の主のわがままが通った結果だという噂だけど。 そんなわけで、リンちゃんが「非営業中」の札がかかったガラス戸を押し開けると、その研究室の主から声がかかる。 「営業はしてないよ」 窓際でサボテンの小鉢を愛でていた研究室の主、ハカセさんはこちらを見ると目を丸くして立ち上がる。 ハカセはあだ名。本名は誰も知らないし、本人がハカセと呼ばれて返事をするからそれで通っている。実際、セバスの木やサハスとラーラのことに関してなら知らないことが無いぐらい詳しい。 「なんだ、身内か……って事件性はある? 通報なら、すぐやるけど」 鉢を置き、心配そうにこちらに歩いてくる。 「なんで事件にしたいんですか、ハカセさん」 「いや、河合くんが泣くってのは割と違和感があって。あるとしたら、犯罪に巻き込まれたとかかなぁと」 あぁ、そういう……まあ、ちょっとわかる。 納得するボクに、ハカセさんは黒く長い髪をかきあげて続ける。 「井藤くんのかわいい恰好は全く違和感がないけど」 「あ、えっと、これは」 当然だが、女装のまま着替えてはいない。ウィッグも、ラギーを出るときに店員さんに渡されたけどかぶりなおす暇がなかった。 あわてて頭にのせるけど、今更だ。 「いいと思うよ。実際かわいいのだから。で、事件に追われて逃げ込んだのでなければ、何をしに来たんだい?」 「カスタマイズの相談です」 リンちゃんの答えに、ハカセさんはへぇ、と髪をかき上げる。 そのおかげで、とがった耳の先が見えた。 森の精(エルフ)の血を引いている証だそうだ。その血のおかげで、彼女はセバスの木を思った形に成形できる。セバスの木で作った骨格に、黒い泥を儀式で反転させた白い泥をまとわせることでサハスとラーラが作られる。セバスの木を成形できる森の精の末裔は、今のところ世界で5人だけ。機械ばかりの基地にすむのはやだ、とか喫茶店を一つ丸ごと買い上げろ、とかのわがままが通るのはこのせいだ。 だから、ボクらがサハスとラーラのカスタマイズをするときは、必ずハカセさんに相談することになる。 リンちゃんは一体どんなカスタムをする気なんだろう。 そう思っていたら、リンちゃんはテーブルの上に置きっぱなしになっていた紙とペンをボクに押し付けた。 「コウ、描いて」 「描いてって、何を?」 「コウが好きな武器の形。新しいサハスの形」 ボクは戸惑ったけど、リンちゃんの目は真剣だ。 「まずは、コウの『好き』を知りたい。これまでずっと、私に合わせてきてくれたんでしょ?」 「でも……」 ボクの『好き』とリンちゃんの『好き』はかみ合わない。 そもそも、ボクは武器自体があんまり好きではない。剣も、槍も、日本刀も、あんまりワクワクしなかったけど、リンちゃんと戦うためにやってきたのだ。ボクがどれも『好き』じゃないなら、リンちゃんの『好き』に合わせた方がマシ。そう自分に言い聞かせてきた。 リンちゃんは、それを逆転させたいらしい。でも、ボクの『好き』を押し付けたら、今度はリンちゃんがワクワクしないだろう。 「あんまり形を変えると、河合くんの機体の方と相性がズレるよ。そのへん考えて」 「それは、今言わないでください」 ハカセさんの忠告をリンちゃんが止める。 「まずは、コウの『好き』を知りたい。それを知った後、どう合わせるかを一緒に考えよう。全部は受け入れられないと思うけど」 「わかった」 そういうことなら、と紙とペンを受け取る。 ボクは武器自体、あんまり好きじゃない。でも、サハスラーラというロボットを知った時に、こういう形だったらと思ったものはある。リンちゃんと一緒に戦う中で、もっとこうしたいと思ったこともある。 ウィッグからとった花の髪飾りを見ながら、紙に思ったままを描いていく。本当にできるのかとか、リンちゃんと合わせられるかとかは脇に置いて、自分の好きを描きたくる。 ハカセさんは横から覗き込みつつ、難しい顔。 「……なるほど、コンセプトは分かる。でも、こういう形はやったことが無いなぁ」 「できないですか?」 「そのまんまってのはちょっと難しい」 自分でも無茶を描いたとは思っている。ダメならダメで仕方ない。そう思ってあきらめかけたその時、ハカセさんはボクの紙を取り上げてニヤリと笑う。 「でも、似たようなのはできる。後は何戦かやる間にアジャストする形でなら」 ボクとリンちゃんの声がそろう。 「「お願いします!」」 シーン6:ボクらの新しい答 翌日、早速ムーラの再襲撃があった。 今度も人型。2体になった代わりとばかりに身体は二回り大きくなっている。ナタみたいだった刃物は剣のようになり、両手に1本ずつ構えている。 対応して出動したボクらの3号機は人型の形こそ変わらないが、腰に日本刀をさしていなかった。 代わりに手に持っているのは3mぐらいの棒だ。先端には、百合のつぼみのような飾りが付いており、戦闘用にはあまり見えない、と思う。 その姿に、司令もちょっと不安を覚えたようだ。 『3号機。ハカセからサハスのタイプを大幅に変えたとは聞いているが、大丈夫か?』 「はい。まずは新機能のテストをします。いいですよね、ハカセ」 『うん、実戦でうまく行くか、まずは試してもらわないとね』 ハカセも研究室からリモート参加している。 『よし、2号機は少し待機。1号機はいつでも援護できる態勢で』 2号機が言われた通りに少し下がる。 それを見て、ボクとリンちゃんは声をそろえて叫んだ。 「「衣装展開!」」 この掛け声も、本当はもっとかわいいのが良かった。いくつか候補は出してみたのだ。でも、リンちゃんが「みんなに通信で聞かれる状態で、それを言うのは無理」と顔を真っ赤にしてたので、そこは妥協。 ステッキの先端でつぼみが開き、無数の花びらが舞い広がる。 花びらはすぐに3号機の肩に、背に寄り集まり、ふわふわのケープを作り出した。同時にステッキの逆の端からケーブルが伸び、ケープにつながる。 本当は衣装と杖がつながってないほうがいいと思うんだけど、セバスの木でパイロットとつながってないと安定しないらしいから仕方ない。もっと言うと、ケープじゃなくて全身をしっかり覆って守れる形が良かった。でも今はまだ白い泥が足りないと言われてしまった。 『サハス3号機、タイプ:ブルームワンド! 変形は成功だな』 ハカセの声も弾んでいる。 『これは……!』 『相性率80%!? 前形態から1500%上昇してます!』 『魔法少女みたいやねぇ。こんなんもできるんやぁ』 他の人たちからの評判も、おおむね良好、かな? 友樹からボク宛てに秘密通信が入る。 『そんな形で大丈夫か?』 昨日の今日なので、友樹にはまだリンちゃんにボクの趣味がバレたことは話してなかった。だから、心配してくれたのだろう。 でも、大丈夫。 「うん、2人で決めたから」 『そっか、よかったな』 男同士でそんな友情あふれる会話をしているうちに、リンちゃんは3号機をムーラに向かって歩かせる。 ふわふわのケープをなびかせた白い巨大少女はブルームワンドを掲げると…… 大上段から渾身の力を込めて振り下ろす。 渾身の力を込めて振り下ろす。 『なぁ……その使われ方で、大丈夫か?』 「思ってたのとは、ちょっと違うかな~」 思いっきり振られたことでちょっとクラクラしつつ、苦笑するボク。 ボクとしては浄化系の魔法をキラキラさせるイメージだったのだけど、リンちゃんとしては白兵戦にちょうどいい長さの棒だったらしい。 想定外の使われ方だったけど、手ごたえはしっかりあった。コアを叩き潰されたムーラはぐずぐず崩れて動かなくなる。 「でもまあ、そこはお互い様だから」 リンちゃんにとっても、ボクにとっても、思った通り100%ではないけど。 それでも少しずつ合わせていこう。 どっちかの想いだけを通すよりは、きっとその方がうまく行く。 もう一体のムーラが2刀を振る。片方はブルームワンドで流し、もう片方はケープが受け止める。 思った通りに動けてる。 「残り一体。行くぞ、コウ!」 「うん!」 ボクらはブルームワンドを構え直し、ムーラに向かって地を蹴った。 終 |
ただのネコ JL2b9/UVEM 2024年12月27日 16時25分55秒 公開 ■この作品の著作権は ただのネコ JL2b9/UVEM さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2025年01月23日 07時44分02秒 | |||
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