俺は召喚剣士、魔王相手にどう戦うの?

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 退屈な西洋史の授業中だった。エアコンの単調な送風音に眠気を誘われ、ほとんどの生徒が午睡を楽しんでいた。
 窓の外では、紺碧の大空を巨大な入道雲が悠然と遮り始めている。放課後にはゲリラ豪雨があるかもしれない。校庭の木々は風に揺らぎ、強烈な陽光をうけて緑が鮮やかにきらめいている。
 遠くで桜島の噴火する音が聞こえた。あと十五分か二十分したら火山砂が降ってくるだろう。
 俺の名は、薩摩隼人(さつま はやと)。鹿児島県の高校に通っている。二年生だ。剣道部で副将を務めている。来年の主将候補、ということになるらしい。
 授業中は暇で暇でしょうがない。先輩から聞いた話が取りとめもなく思い出されてくる。
 剣道はルールにのっとって行うスポーツだが、剣術はルール無用の殺人技、なのだそうだ。ルーツは戦国時代に遡るらしい。
 むかしむかし関ヶ原の決戦のときに、西軍の薩摩藩士千六百人が東軍十万人が陣を張ったその奥に閉じ込められたそうだ。
 退却しようにも敵に道を塞がれている。
 戦いの趨勢が読めていなかったためだ。間抜けな話だよな。
 普通なら降参し、捕虜として過ごしながら、藩が開放するように交渉してくれるのを待つ。それが常識的な対応だった。
 関ヶ原の戦いはすでに決着していた。東軍としては、十万人に封じられた薩摩はいずれ降参するだろう、と皆が思っていた。
 ところが薩摩藩士たちの考えは違っていた。
 薩摩藩は西軍だ。ここで降参したら、東軍に参加した藩に与える恩賞にするために薩摩藩そのものが取り潰されるだろう。さりとて後ろの山に逃げ込んでも、かえってバラバラに殺されるだけだ。こうなれば故郷の薩摩へ退却するためには、正面の敵を突破する以外にない!
 戦場という特殊な状況で、極限まで追い込まれたから、異常心理が働いたのだろうなあ。
 こうして千六百人で十万人の敵中を正面突破する退却戦が敢行された。
 狂気の決断だ。ムチャクチャだよ。
 すでに関ヶ原の戦いの決着はついていた。だから、東軍の武将は薩摩と戦うことにメリットを感じていなかった。
 そこに、薩摩藩士の猛進撃が開始されたのだ。薩摩藩士たちは、たいした反撃を受けずに、たちまち家康の陣地に到達して、その前を通り過ぎようとした。
 それを見て、家康は激怒した。
「なんとしても、やつらを皆殺しにしろ!」
 そこから、東軍十万人による必死の殲滅戦が開始された。
 どんな戦いが繰り広げられたか詳細は不明だ。状況を知る者のほとんどが戦死したからな。
 その後に藩の士気を保つため、本当の事を語ることができない事情も多々あっただろう。
 激しい追撃をうけて、薩摩藩士のうち、馬に乗った武将は全員が、「我こそは島津義弘!」と叫びながら疾走しただろう。
 本人だけ黙っていたのだろう。
 鉄砲隊の活躍が語り継がれている。
 鉄砲隊は、一人づつ順番に置き去りになりながら、追撃してくる敵の中から、大将を選んで狙撃した。
 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、という。
 この時代の鉄砲はすでに、空を飛ぶ鳥や山中の鹿などの獣の急所を適確に撃ち抜くことができていた。戦国時代にすでに精密射撃は可能になっていた。
 一撃必殺の銃弾で大将を狙撃する。そのために鉄砲隊は地面に座り込んで姿勢を安定させた。
 指揮者を倒し敵を混乱させて追撃を少しでも遅らせるための捨て身の行動だ。
 当時の鉄砲は連射できなかった。弾を込めて発射するまでに十秒以上かかった。実用的な射程は三十メートルほどだった。一発撃ってしまえば、敵はオリンピック選手でなくとも、つぎの弾が装填される前に射程のはるか外から駆け寄ることが可能だった。
 射手は、その場で確実に敵に切り殺される。それを承知して覚悟の上で、敵軍に致命的な一撃を加えようとこの行動を選択したそうだ。
 大将を狙撃して倒せば、配下の者たちは仇をとりにくる。同時に襲い掛かられて殺されれば、敵は誰が仇をとったか、誰が手柄を上げたのかが分からなくなり争いとなる。そうなれば、さらに追っ手を遅らせることができる。だから、わざと抵抗せずに何人もの敵に同時に槍で貫かせ、いくつもの太刀を体に受けただろう。
 自分が死ぬことすらも仲間が逃げ延びて生き残るための手段にしようとする。そうした決死の行動がいたるところで繰り広げられたにちがいない。
 薩摩藩士たちは藩主島津義弘を守りきり、十万人の敵中を突破した。千六百人のうち生き残ったのは六十人に満たなかったと伝えられている。そのあと生存者たちは全速力で薩摩まで逃げ延びたそうだ。
 千五百四十名以上が壮烈な討ち死したのだった。
 その後、薩摩藩は徳川ひきいる全国の武将たちと全面対決せざるを得なくなった。
 徳川にたいしてド派手に逆らったからな。
 こうした中で薩摩藩の剣術に大きな変化があった。
 千六百人で十万人の敵を全て斬り殺して全員が生還する。そのための剣術が考案されたのだ。
 千六百人で十万人を斬るためには、一人で六十人以上の敵を斬らなくてはならない。
 武装した手練れの武士たちを一人で六十人以上切り殺す剣術だよ?
 常識的には不可能だろう?
 ところが薩摩藩では、そのための剣術が生み出され、なんと実用化されたのでありました。
 あはは、笑うしかないよな。
 この剣術は、薩摩藩が江戸幕府に屈しないための支えの一つとなり、江戸時代を通じて洗練されていったそうなのだ。
 その名を薩摩示現流という。ルパン三世で五右衛門が振るう剣術だから、名前だけはご存知の方も多いだろう……zzz
 それにしても、今日の授業はやけに眠いな。
 先生の言葉がまるで呪文のようで、何を言っているのか、意味がまったく分からない。
 あたりがグニャリ、グニャリと歪んでいるように見える。
 頭の中で何かがグワラン、グワランと鳴っていて……
 一瞬寝落ちし、あわてて目を開けると、あたりの景色が一変していた。

 周囲から悲痛な叫び声が聞える。
「左翼を突破された!」
「右翼も支えきれないぞ」
「だめだ。本隊も壊滅する」
「後退して態勢を立て直せ!」
「いやまて、倒された味方が次々に立ち上がっているぞ。まだ望みはある。まだ戦える」
 そして絶望の悲鳴があがった。
「あいつら、死者の軍団に加わってゆくぞ。敵になりやがった……」
 空は暗く、空気が冷たい。周囲に巨大な岩の柱がいくつも立っている。柱の上には、さらに岩が乗っているものもある。
 暗闇に目が慣れてくると、ここは丘の上のようだった。周囲には草原が果てしなく広がっている。
 俺の足元には蒼白く光るサークルがあった。見慣れない記号がびっしりと描かれている。ルーン文字、なのかな? 光はゆっくりと消えていった。
 召喚の魔方陣、という言葉が思い浮かぶ。
 どうやら俺は異世界に召喚されたらしい。
 これが夢だとすると、ずいぶんと鮮明な夢だな。
 夢なら夢でいいさ。涼しくて気持ち良い。
 巨大な岩の柱の向こうからゆらめく明かりが近づいてくる。筒の中で小さな炎が燃えている。灯りをささえる華奢な手が見えてくる。
 周囲にたゆたう影の中から、さらに二人の人影が現れた。
 灯りを持った少女は純白のドレスを着ていた。賢そうな美少女で気が強そうだ。放たれる気品の高さが尋常ではない。そして、頭にある大きな三日月型の美しい角は、少女が人間ではない事を示していた。
 魔神か……、女神様かな?
 女神様の右側には白を基調としたローブをまとった美少女が立っていた。装飾過剰ぎみの十字架(?)を胸の前に捧げている。クールな印象だった。油断なく俺を観察しているようだ。神官職だろうな。
 美少女神官ということにしておこう。
 濃い灰色のローブをまとった小柄な人物が左側から歩み寄ってきた。先端が丸まった杖を持っている。いかにも魔法使いのような格好だ。たぶん女の子だろう。
 フードの奥から、かすかなつぶやきが聞えた。
「なんとか召喚は成功したようですね……」
 女の子の声だった。
 俺を召喚したのは、この魔法使いらしい。
 女神様が俺の正面に立った。身長は俺に近い。女性としては大柄だ。真剣な表情で俺に告げる。鮮明な発音でとても聞き取りやすかった。
「敵が迫っています」
 おい、おい、いきなり戦闘か?
 まだ自己紹介もしてないぜ。
 まあ、いいけどな。
「敵は、どちらに?」
 女神様は、灯りをあげて俺の後ろを示した。
 その方向からは、金属が激しくぶつかり合う音が絶え間なく聞え、怒号と悲鳴があがっていた。
 音がしだいに収まってゆく。
 ふり向いてみると、巨大な石柱のすぐ外に真紅のジャケットを着た十数人の兵士が剣を構えて守備についていた。近衛兵かな。
 その前方には、金属鎧を纏った数十人の兵士が隊列を組んでいる。それぞれ、盾、槍、剣を装備している。騎士団なのかな。遠目にも分かるほど激しく息をしている。
 なだらかな起伏のある草原を埋めつくして、武装した兵士からなる軍団が隊列を組んでこちらに迫っていた。百人以上いるのは間違いないだろう。数百人かもしれない。
 明け始めた空の光で、その姿が見えてきた。敵は人間ではなかった。武装した骸骨の軍団だ。
「両手剣はあるか?」
 俺の問いに美少女神官は驚いたようだった。
 クールな美少女でも驚くことがあるのだな。
 珍しいものが見れた。
「ここに!」
 美少女神官は大ぶりの剣を手渡してくれた。立派な鞘に入っている。
 俺は、まだ半分くらい夢の中にいるように感じていた。
 だが、しだいに気分が高揚してくる。自然に笑みが浮かんでくる。
 俺は剣を抜き、骸骨の軍団に向かって歩き始めた。
「戦われるのですか?」
 俺は鞘を美少女神官に手渡した。
「ああ、そのために召喚されたのだろう?」
「ええ、そのとおりですが……」
 剣は手になじんだ。重さもちょうど良い。なにより頑丈そうなのが良かった。
 石柱のあいだを抜けて草原へと歩みだす。
 わざわざ俺を選んで召喚したのだ。たぶん何とかなる状況なのだろう。
 近衛兵士たちの脇を抜けて騎士団の中央をとおり前線にでる。
 大部分の騎士たちの鎧や兜には酷い損傷が刻まれていた。ボロボロだった。
 さて、薩摩示現流が本当に実戦で役に立つか、確かめさせてもらうとするか。
 頭が冴えわたる。身体が軽い。授業中に熟睡していたおかげで、体調は万全だった。
 一人で六十人以上の敵を倒すためには奇襲攻撃を仕掛ける必要がある。
 戦場がなだらかな起伏のある草原だから身を隠して近づくことは難しい。
 だから俺は敵と認識されないように抜身の剣を後ろに回して身体で隠し、スリ足で素早く草原を進んだ。
 兜も籠手も鎧も盾も身に着けていない。
 弓でも槍でも刀でも、一撃で倒すことが出来ると敵に思わせる。実際にそうなのだけれどな。そして戦おうとする意志を一切見せずにひたすら進む。
 敵の配置は、前衛として中央と左右に軍団が展開している。その後ろに本隊がいる。後詰めに軍団がひとつ割り当てられている。集団戦や殲滅戦を想定した陣容だ。ひたひたと前進してくる。
 ありがちな陣容だった。
 たしか今川義元が桶狭間に陣を張ったときにも、この陣容で信長を迎え撃ったはずだ。
 桶狭間での布陣は、前に五千人、左右に五千人づつ、本隊に五千人、後方に五千人だった……と思う。
 それに対する信長軍は合計で二千人だったそうだ。そりゃあ、今川方が油断するわけだよな。
 今川軍に比べれば、目の前の軍勢はかなり少ない。やはり合計でも千人はいないだろう。
 敵に近づくにつれて、俺は徐々に前傾姿勢をとっていった。近づくにつれて体を小さく見せることで敵に距離と接近速度を誤認させるためだ。
 敵の軍団は、前列がタワーシールドをかまえ、その後ろに盾を装備した三列の短槍隊、その後ろに丸盾と剣で武装した骸骨兵士が五列、その後ろに弓隊が三列という構成だった。
 この構成の軍団が中央と左右に展開して前衛を形成している。
 俺は早足で敵陣に踏み込んだ。一気に前衛を走り抜ける。目指すは本陣だ。
 敵は軍団同士の戦いを想定しているのだろう。だから戦う意志のなさそうなたった一人が走り抜けるのをあっけにとられて見守るだけになっている。
 周り中を敵に囲まれて一斉にかかってこられたら当然ながら俺に勝ち目はない。
 だが、『命令さえあれば簡単に倒せる敵意を持たない相手』、という認識が敵の油断につながっている。
 そして、軍団が俺を囲み、一斉に攻め立てるためには、じつは複雑な手続きが必要なのだ。
 まず指揮官が命令をくだすためには俺が陣地内に侵入していることを知る必要がある。
 それから指揮官は軍団に俺を囲むように命じる。軍団を構成する小隊の各小隊長に指令が伝わる。さらに各小隊長の指示のもとに各小隊が俺を囲むように移動する。それから攻撃命令によって俺を攻撃し始める。
 軍団はこまわりが利かない。
 統制のとれた行動をとるためには、かなりの手間が必要なのだ。
 だから単騎の高速移動が奇襲攻撃になる。
 俺は、右手と右足、左手と左足を同時に出す走り方で敵陣を走り抜けた。同じ側の手足を同時に出すとバランスが崩れやすくなる。
 言い換えると、身体の位置や姿勢を素早く変えることが可能になる。速度は西洋式の走り方にやや劣るが、密集した敵陣をすり抜けるには、この走り方の方がはるかに適している。
 バスケットボールやサッカーでこの動きをすると、簡単に相手を抜くことができるぜ。会得するには、少し練習が必要だがな。
 一気に前衛を抜けて本陣に迫る。
 前衛の後ろに、立派な兜をかぶり派手なマントをなびかせたひときわ大柄の骸骨がいた。こいつが全体を指揮する大将だろう。その左右には、剣を構えた大柄の骸骨が二体いる。こいつらが副将だろう。
 その後方にはボロボロのフードをまとった骸骨が五体つづく。後ろにいる五体はいかにも魔術を使いそうだ。さらに、その後方にもローブをまとった二十体ほどの骸骨が控えている。
 これが本陣だな。
 さあ、いよいよ戦闘開始だ。
 俺は、速度をあげて大将格の骸骨に真っ向から切りかかった。相手は剣を構えて防ごうとする。
 もらったァァァ!
「チェーストォォォォ!」
 俺の剣は、大将の剣をへし折って、兜ごと頭蓋を砕き、背骨を断ち割り、骨盤を砕いた。
 防御ごと敵を縦に真っ二つにする。これが薩摩示現流の初太刀だ。

 その威力を体感し、その真髄を見るがいい!

 幕末の京都でも新撰組の近藤勇が「示現流の初太刀は絶対に受け止めちゃなんねえ! 必ずはずすだ!!」と厳命していた。
 『風雲児たち』みなもと太郎 リイド社にそう描かれていたぜ。
 新撰組は示現流の脅威を知っていたのだよ。
 ははは。
 昨年の国体で、俺が示現流の初太刀を相手に食らわせたら、攻撃が相手の竹刀の上からなので「浅い」と判定されてしまった。本物の刀なら、相手の刀をへし折って相手は真っ二つだったぜ。そのあと相手はひたすら逃げ回って、結局は俺の判定勝ちになった。竹刀だから大した威力ではなかったはずだったがなあ。臆病者め。
 いまのスポーツ剣道では竹刀が軽く手首に当たるだけで一本になる。だから、鹿児島県代表はいつもせいぜい準優勝どまりだ。だが真剣で戦えば鹿児島県が間違いなく全国優勝なのだよ。
 死傷者多数になるから実現できないけどな。
 感慨にふけっている場合ではない。
 示現流は速度が生命線なのだ。
「キョエェェェ~!」
 化鳥(けちょう)のごとき、あるいは猿(ましら)のごとき、といわれる気合を放ち、副将格の二体の骸骨を袈裟がけと逆袈裟に切り捨てる。
 大将の身体が真っ二つになり左右に分かれて倒れてゆく。その間を通り抜けて後ろにいる魔術師たちに切りかかる。
 魔術師たちが持つ杖の先についた宝玉に光が宿った。明るくなってゆく。
 赤は火焔、黄色は電撃、蒼は氷結、緑は毒、黒は、状態異常かな?
 魔法が発動する前に全速で全員の頭蓋を砕く。
 どうすれば一人で六十人以上の敵を倒せるのか。
 薩摩示現流では、まず一番の手練れを縦に真っ二つに切り裂くことが戦いの始まりとなる。最強の敵を真っ二つにすることで、敵の精神的な支えを砕き、視覚的に相手の度肝を抜く。
 さらに、相手があっけに取られているうちに他の手練れを最速で倒す。
 命令をくだすやつらを真っ先に葬ってしまうのだ。そうすれば、残りは烏合の衆になる。
『最強の味方たちが無残に(!)斬り倒された。敵はとてつもなく強い。自分たちには絶望しかない。どうすればいい? 逃げる? 立ち向かう? 無理だああああ!』
 そう思わせて、すべての敵の頭を真っ白にしてパニックに追い込むのだ。
 薩摩示現流の太刀筋は、真っ向唐竹割り、袈裟がけ、逆袈裟しかない。すべて上から下に切りおろす太刀筋だ。
 剣の切っ先を滑るように振り払い、真横に斬り裂いて、一撃で周囲の敵をすべて葬り去る、などといったアニメや映画にでてくるような攻撃は決してしない。
 ひたすら全速で敵に突進し、あらんかぎりの気迫をこめて愚直に剣を振りおろす。ただそれだけ。それが示現流だ。
 示現流は、まったく足を止めない。敵の間をパチンコ玉のように駆けぬけ駆けぬけ、またたくうちに倒してゆく。それが示現流だ。
 さらに、化鳥のごとき奇声……、げふん、げふん、裂帛の気合によって敵を魂消えさせる。
 気迫にたじろいで一瞬でも相手の動きが遅れればそれで充分だ。
 こうして、敵の頭の中が真っ白になり、呆然とした烏合の衆でいる間に、敵をすべて斬り伏せる。それが薩摩示現流の戦い方だ。
 まあ、理屈通りにゆけば、一人で六十人以上の敵を葬ることが可能なはずではある。
 さあ、俺の初陣はこれからが本番だ。
 骸骨どもよ、地獄への土産に本物の薩摩示現流を見せてやる。
 ますます燃えてきたぜ。
 魔術師たちの後ろにいる骸骨たちが小さな骨片のついた紐を振り回し始めた。
 ヒューン、ヒューンと乾いた音が響く。
 構うことなくすべて斬り伏せる。
 人間が相手ではないから、なんのためらいもなく全力を振るえる。
 乗ってきたぞ。
 気が付くと、前衛と後衛の骸骨たちが俺の方に向かって進んでくるではないか。
 先ほどの骨笛の音で骸骨たちを操ったようだ。
「キエエエエー! チャアアアアー!」
 俺は裂帛の気合とともに迫りくる後衛の軍団へと勢いを殺すことなく全力疾走した。
 後衛の陣容は、前列に鎧と兜をまとった兵士が七列ほど、後ろに弓隊が控え、その後ろに丸盾と剣で武装した兵士が三列、その後ろに盾を装備した三列の槍隊、最後にタワーシールドを背負った骸骨が控えるという構成だった。
 俺の裂帛の気合を受けると、前列の鎧と兜をまとった兵士たちが、糸を切られた操り人形のように、次々と倒れていった。
 そいつらは骸骨ではなかった。まだ血糊が新しい。ゾンビのようだ。
 その後ろの骸骨たちも明らかに怯んだように見えた。
 俺の気合には、動く死骸を気絶させ、骸骨頭どもに恐怖を感じさせるほどの気迫が溢れているのだよ。
 うはははは。
 いや、たぶん違うな。あいつらは骨笛で操られていた。単に俺の声という音に反応しているだけなのだろう。
 しかし動きを止めてくれるのはありがたい。
 俺は裂帛の気合を発しながら骸骨どもの頭蓋をひたすら叩き割って一気に後衛を掃討していった。
 振り返ると左右と中央に別れていた前衛が一つにまとまっていた。ごちゃごちゃに集まって統制が取れていない。命令の途中で指揮系統を破壊したから命令が不完全になったのだろう。
 一気に駆け寄って、斬りこみ、手当たり次第にぶっ叩き、素早く移動し、また斬りこむ。
 骸骨たちは、俺が近づくとゆるゆると弓を構え、槍の穂先をさげて応戦しようとし、盾をかかげて剣を振りかぶろうとする。
 だが、遅い。
 俺は、相手よりもはるかに速く走り回り、つぎつぎと頭蓋を叩き割ってゆく。
 相手は、まともに反撃できない。
 おまけに、相手は俺が離れると、構えを解いてくれる。だから、攻撃を受けそうになる前に素早く移動し、別のところを攻撃していれば、その間に無防備な状態に戻ってくれる。
 たぶん骸骨どもには脳みそがないから行動が緩慢で単調なのだろう。
 よかよか。そのまま烏合の衆でいろよ。
 全力で走りながら、あらんかぎりの気迫をこめて剣を振りおろす。すばやく走りながら、ひたすら剣を振りおろし続ける。
 囲まれたらまずい。
 相手の動きがいくら緩慢でも、まわりを何重にも囲まれて、弓と槍と剣で一斉に攻撃されたら助からない。
 いや、一射、一突き、一撃でも受ければ、俺は動けなくなる。そうなればそれで終わりだ。
 骸骨軍団の基本戦術は、圧倒的な数で敵を取り囲み、犠牲を無視してひたすら攻撃を続け、相手を消耗させて倒す、なのだろう。
 倒した敵をアンデッドとして甦らせて味方に加えるから、相手の勢力を削った分だけ味方を増やせる。普通なら圧勝するだろうな。
 出来立てのゾンビ隊は女神様の元配下だったのかも知れない。
 骨笛を持っていたやつらが死者を操っていたのかな。骸骨軍団をあやつるだけにしては人数が多すぎたように思う。
 だが、今回は相手が悪かったようだな。
 ぬふふふふ。
 ところで、六十人以上の敵を全て倒すためには、どれだけ練習しないといけないか。
 まず、百人の敵を倒すことを練習目標にしたとする。
 このとき、百人目の敵にたいしても、相手より早く斬撃をみまう必要がある。相手より素早くなければ、こちらが切り倒される。相手も武器をもっており、必死だから、当然のことだ。
 百人目の敵に後れを取らないために、俺は最低でも毎日五千回の打ちこみを行ってきた。
 百や二百の打ちこみで速度が落ちるようでは生き残れない。相手の剣が先に届けば、それまでだ。守りに入れば多勢に無勢になる。だから防御は一切考えず、とにかく先に斬り倒す。それが薩摩示現流の真髄だからだ。
 骸骨軍団は千体に満たない相手だった。しかも敵からまともな攻撃はなかった。相手が攻撃態勢をとる前にすべて倒しきることができたからな。
 とびきり相性の良い相手だった。
 全滅させるのにかかった時間は、たぶん五分くらいかな? いつもの練習よりもはるかに短い時間で敵を殲滅できていた。
 俺は軽く呼吸を整えながら巨石のゲートに向かった。
 落ち着いて見ると巨石群は巨大なサークルを形成しているようだった。ストーン・サークル、環状列石とかいうやつなのだろう。
 ゲート前には、金属鎧を纏った騎士たちが左右に分かれて整列している。兜を左手に持ち、右手に槍や剣を構えている。盾は地面に突き立ててあった。
 え?
 俺はわが目を疑った。
 騎士たちの後ろに控える兵士たちがもっているのは、どう見ても銃だった。先端に刃物が付けられている。銃剣とかいう武器だ。
 俺の世界では、世界大戦やナポレオン軍が戦いで使用した武器じゃないか。
 この世界の文明水準が一気に分からなくなってしまった。
 その後ろに、真紅のジャケットを着た近衛兵が左右に分かれて整列している。刀を抜き放って地面に向けている。
 俺が列の間にさしかかった時だった。
「構え!」
 ザッ!
 号令と共に近衛兵は一斉に腕を伸ばし刀を頭上に構えた。
 びっくりしたごち!
 いや。
 ギクリとしたぜ。
 驚かすなよ。斬られるかと思ったぜ。
 素早く統制のとれた動きだった。
 鍛えられてるなあ。
 俺は、ビクビクしながら、しかし、いかにも自信ありそうに、列の間を進んだ。
 近衛兵はいつでも俺を攻撃できる態勢を取ってるのだからな。
 
 ゲートの前で三人の美少女が俺を出迎えてくれた。魔法使いはフードを脱いでいた。
 だが、なんだか雰囲気が冷たい。
 みな俺から距離をとっている感じだ。
 特に女神様の表情が硬い。
 露骨に、『あんたは他人だ。近寄るな』オーラを放っている。
 あれだけ敵を倒したのに喜んでくれないのか?
 何なんだよ。すねてしまうぞ。
 俺は立ち止まり、剣の先を少し横にあげて、クールな美少女神官に視線をむけた。
 神官は、ハッとしたような表情になり、すぐに駆け寄り、あずけた鞘を手渡してくれた。
 剣を鞘に納めて女神様の前に立つ。
 距離は十分にあけておいた。
 相変わらず女神様のご尊顔からは表情が抜け落ちていらっしゃる。そのままニコリともせずにおっしゃられた。
「……見事でした」
 まあ、武装した千人近い敵を一人で倒せば誉めてもらえるのは当然だよな。
 俺のことが心の底から気にくわないのだとしても、神様には礼儀をわきまえておくほうがいいのだろうな。
 ここは少し恰好をつけておこう。
 俺は剣を地面に横たえると片膝をついて頭をさげた。
「召喚された剣士として当然の働きをしたまでです」
 噛まずに言えたぞ!
 それから、コミックで格好良いなと思ったセリフを参考にしながら、顔をあげて名乗りをあげる。
「我が名は薩摩隼人、戦場(いくさば)ゆえ礼を欠いたことはお許しください」
 『いくさば』、などと言う言葉を使うと、俺までかっこよくなったような気になるじゃないか。
 美少女たちは表情を変えなかった。
 はい、はい、似合わない言葉を使いましたよ。
 美少女神官は、もともとクールで近づきがたい印象だったが、いまやすっかり冷え切っていた。
 鞘を持ってくるように呼びつけたのがまずかったのかな。
 その表情から、すべての人間をこばむ凍てついた真冬の岩山を、なぜか連想してしまった。
「紹介いたします」
 美少女神官は女神様を示して言った。
「こちらにおわすお方は、恐れ多くも王女ビクトリア様にあらせられます。今その身を依代として女神様がご降臨なさっていらっしゃいます」
 王女様を依代にしたのか。ずいぶんと豪勢だな。
 うん?
 王女ビクトリア様?
 なんだか聞いたような覚えがあるな。
 とくに今日の西洋史の授業で。
 偶然の一致かな?
 王女様はニコリともせずに、ドレスの端をつまんで優雅に挨拶をした。さすがは王女様だった。挨拶でも俺に頭をさげたりはなさらない。
「私は神官職を務めるエスメラルダです」
 美少女神官はクールに言って会釈をすると、魔法使いの方を向いた。
 魔法使いは、小さな声で言った。
「サフィーナと申します。王宮に仕える魔法使いを拝命しています。このたびは勇者様を召喚させていただきました……」
 名前と身分がかろうじて聞き取れた。
 明らかにビクビクしている。
 なぜだ?
 とはいえ、……
 今回のような戦闘を毎回できると期待されるとまずいな。俺は一撃でも受けたら倒されてしまうから。訂正しておこう。
「いつもこのような戦いができるとは思わないでいただきたい。今回は敵が弱かっただけです」
 周囲からどよめきがおきた。
「「「スケルトン軍団が弱かった……ですって?」」」
 なんだか、あきれられたようだった。
 王女様は、気を取り直しておっしゃられた。
「ひとまず、敵に勝利したことを祝って!」
 近衛兵の中で一番偉そうな人が音頭をとり、全員で歓声をあげた。
 近衛師団長だそうだったが、名前はすぐに忘れた。
 勝ったのだな。
 ようやく実感できた。
 たぶん、俺は本当に異世界に召喚されたのだ。
 これは夢なんかじゃないんだ。
 兵士たちは、戦場に散って行った。
 戦友の埋葬など、やるべきことは多いのだろう。
 俺たちと、数人の近衛兵、それに騎士団長らしい人がゲートの前に残った。
 相変わらず肌にピリピリした感じがする。周囲から物凄く警戒されてるようだ。
 相手が美少女たちだけに、へこむなあ。
 何を警戒されてるのだろう?
 どうすれば仲良くなれるのかな。
 とりあえず、俺は当然の質問をした。
「ところで、召喚された理由と、今の状況を伺ってもよろしいでございましょうか」
 う~ん、我ながら弱気になってるな。
 美少女神官が涼やかな声で応えた。
「この地に魔王が降臨しました。魔王は魔族をひきいて支配地域を急速に拡大しています。わが軍は敗北がつづいて劣勢となったため、王女様を依代として女神様にご降臨を賜りました。さらに女神様の御業で魔王に対抗できるとされる勇者を召喚いたしました」
 それが俺というわけか。
 美少女神官が冷たい声で続ける。
「召喚された勇者の戦闘力がこれほどまでに圧倒的とは予想していませんでした。強敵を一掃していただき、心から感謝します」
 感謝を口にされても、そんなに冷たい態度で離れた所から言われたのでは喜べないなあ。
 魔法使いが口をはさんだ。
「でも、召喚した勇者様とはいろいろな契約を結ばないといけないはずです。どうすればよろしいのですか?」
 いや、俺に聞かれても困るよ。
 召喚されたばかりで何も分からないから。
 そうだなあ。
「何を契約することになっていますか?」
 魔法使いは、困り切った表情になった。
「女神の書にはいろいろ書いてありました。でも使ったら、読む前にボロボロに崩れてしまったのですぅ」
 あ、泣きそうだ。まずいな。
 もっと詳しく聞きたいけれど、今は別の話しをしよう。
 どうせ元の世界に簡単には帰れないだろう。
 ならば、この世界で俺の居場所をとりあえず確保しないといけないな。
「とりあえず俺のことは王女様の剣、人の形をとった剣という扱いにしていただけませんか?」
 この世界の身分制度はどうなってるか分からないし、礼儀作法や駆け引きはややこしくて面倒だろう。そもそもどんな言い回しで挨拶をし、どんな作法で接したらいいか見当も付かないからな。
 女神様の持ち物だと神器になってしまう。さすがに身分として不相応だよな。
 王族の持ち物あつかいなら礼儀作法はそこそこですむだろうし、粗略に扱われることもないだろう。
 うん、我ながら良い考えだ。
 いきなり荒野に追い出されては困るからな。少しは大切にしてもらいたいものだよ。
 三人の美少女の顔に心の底から驚いたような表情が浮かんだ。
 何かまずい事を言ってしまったのか?
 なにせ、こちらの世界の常識が分からない。
 自分は何をしでかしてしまったのだろう。
 どんな風に質問したら差しさわりなく答えを得ることができるのだろうか。などと無い知恵を絞っていると、美少女神官が俺に話しかけてきた。
 えらく真剣な顔をしている。
 気を引き締めて拝聴しよう。
「王女様の剣となる。そう宣言なさいましたね」
 おっ、いきなり本題に入ってきたぞ。
 有難い。
 もう口にしてしまったのだ。
 俺にどんな不都合があろうと逃げずに受け止めよう。
「そうだ。二言は無い」
 俺は素直にうなづいた。
「それは、最高の忠誠を意味します。その忠誠を得るためには膨大な対価が必要だとされています」
 へえ、そうなのか。
 とりあえず、了解したしるしにうなずいておこう。
 王女様がおっしゃられた。
「その忠誠にたいして、私は王女として約束しましょう。貴公の要望にたいして、私は自分にできる限りのすべてをもって応じます」
 恐ろしく真剣な表情だった。
 本気なのだろう。
 王女様の加護を受けられるのか。
 それは、ありがたいな。
 女神様の加護も受けられるのかな?
「死んでも生き返らせていただけますか?」
「無理です!」
 即答だった。
 そりゃそうだろうな。生き返らせることができるなら、味方の兵士がゾンビになることは無かっただろうからな。
 ゲームのようにはいかないか。
 美少女神官が声をかけてきた。
「隼人様は、どのような女性と結婚なさるおつもりですか?」
 いきなりなので、不意をつかれた。
 ゲームならともかく、この状況でする話なのかなあ。
「まだ未成年なので結婚は考えてません」
 思わず本音がでた。
 魔法使いが悲鳴のような声をあげた。
「未成年? まだ子供だというのですか? あれほどの腕前なのに?」
 失礼な。
「俺は子供じゃないぞ。まだ大人になっていないだけだ!」
 思わず語気が荒くなった。
 美少女神官がつぶやいた。
「子供じゃないと言い張るなんて。本当に子供なんだ」
 聞こえているぞ。失礼だな。
 王女様がおっしゃられた。
「王家に迎えることも考えておりましたが、気の回しすぎでしたか」
 ほっとした様子を隠そうともしない。
 王家に迎える?
 ……俺との結婚を考えていたのか?
 美少女神官が解説してくれた。
「薩摩隼人様は、単身で敵の軍団を撃破なさいました。勇猛で、とてつもなく力が強いとお見受けします」
 俺はそれほど力が強いわけじゃないぜ。剣の腕前には技術の要素が大きい。そして、今回の成果は、練習でつちかわれた速度が大きくものをいっている。
 しかし、褒められるとうれしいな。
「我が国で勇猛と称えられる騎士は大部分が田舎者です」
 誉めておいて、今度はディスるのかよ。
 たしかに俺(おい)は薩摩の田舎侍の子孫たい。
「騎士が褒美として貴族の令嬢を娶ると、妻の態度が生意気だと腹をたてて激しく暴力を振るうことが日常的に行われます。このため中年になった騎士の妻のほとんどは、殴られ続けて鼻が魔女の鷲鼻の形に変わってしまいます」
 なるほど。上流階級の御嬢様と成り上がりの田舎侍では円満な夫婦生活が送れないのか。
 田舎侍の粗野な振る舞いに、「こんな作法すらもご存知ないのですか」、などとお嬢様が思わず言うと、ぶちきれて暴力を振るうのだな。
 しかし、鼻の形が変わってしまうほど殴り続けるとはひどい話だ。
 まてよ。
 いま王女様は女神様の依代になっている。
 もともと国を救うために人身御供になる覚悟がおありだったのだ。
 ひょっとして王女様は、俺が敵を撃破した功績として強引に結婚を迫ると考えていたのかな。俺が体を要求して力任せに欲望を満たそうとすれば、非力な王女様では抗うことができない。
 どれほどの代償を要求されるか分からない。
 これからは俺の暴力にさらされ続ける日常が待っている。
 しかし、祖国存亡の危機を救った英雄に対しては、どれほど理不尽な扱いを受けても耐えるほか無い。
 それを危惧してたのか。
 そんな風に考えていたのなら、そりゃ笑顔を浮かべないわけだ。
「俺の事を、女性に優しくすることなどできない、とんでもない乱暴者だ、と考えていらしたのですね」
 ヒドイなあ。
「俺は紳士、ジェントルマンです。女性には優しい男ですよ」
 ジェントルには、礼儀正しい、だけでなく、温和で優しく物静かという意味もあるのだ。
 今日の午前中に習った事ならちゃんと覚えているぞ。我ながら大したものだな。
「申し訳ありません……」
 美少女神官も魔法使いも、王女様と一緒に頭をさげた。
 俺に冷たい態度をとる理由が、ようやく納得できた。
 神官も魔法使いも、俺から王女様を護るために自分を犠牲にする覚悟だったようだ。
 ようやく王女様の笑顔が見れた。
 うん、気品にあふれてるけど可愛い。
 報酬として充分すぎるな。
 ひとまず親密になれたので、俺はかねてからの疑問を口にした。
「女神様がいらっしゃるのに、なぜ女神の書が崩れてしまったのですか?」
 三人は、互いを見つめ合った。
 美少女神官のエスメラルダが説明をしはじめた。
「魔王に対抗するため、王女様を依代として古き女神様にご降臨を願ったのですが、儀式が不完全だったのです」
 王女ビクトリア様が補足なされた。
「神格は人間の想いによって形造られます。最終的に神の形を定めるのは『名』です。私に降臨された古き女神様は、まだ名を持たないため、存在自体が不確かで本来の力を振るえないのです」
 神官のエスメラルダが話を引きとった。
「申し訳ございません。すべては私の不手際のせいでございます。
 ご降臨を願うのはカンムリガラスのお姿をした戦いの女神モリガン様のつもりでございました。
 しかし、ご降臨なさったのは別の女神様だったのでございます」
 美少女神官のエスメラルダは深々と頭を下げた。
 俺は疑問を口にした。
「名を持つことができれば、魔王よりも強くなれるのですか?」
「ええ。今は不完全だから魔王に劣る力を、ときどきしか振るえません。しかし名を得れば本来の力を振るえるようになるでしょう。魔王など取るに足らなくなります。同格の相手は魔神以上になると思います」
 エスメラルダはさらに補足する。
「女神様は、いまはまだかすかな影のような存在で、この世に本格的には顕現していらっしゃいません」
 なるほどなあ。
 とりあえず状況が分かった。

 遠くから兵士の叫び声が聞こえた。
「空から何か近づいてくる!」
 すぐに別の声が続いた。
「ドラゴンだ!」
 さすがは異世界だ。ドラゴンがいるのか。
 適度に準備運動をしたから、身体は充分に温まっている。
 うん、疲労はないし筋肉痛もない。
 近衛師団長が大声で命じた。
「王女様の元に集まれ!」
 角笛が長く吹き鳴らされた。
 角笛の音色は朝日を受けて輝き始めた丘陵を越えて広がってゆく。
 兵士たちは作業を中断し、慌てて王女様の元に集まりだした。しかし、それよりも速く、朝焼けの空を背景にして、はるかかなたに空を飛ぶドラゴンの姿が見えてきた。たちまち、その姿が大きくなってくる。
 まだずいぶんと距離がある。それなのに、ドラゴンと視線が合ったような気がした。
 なんだろう。誘われている……?
 俺は剣を手にして草原を進み、やや小高くなっている起伏を目指した。ちょっとした丘だな。王女様のいる環状列石群から少し離れている。
「周りに味方がいると戦いにくい。王女様を護っていてくれ」
 ついて来ようとする兵士たちを王女様のところに戻す。
 俺が丘を目指して進む間に、ドラゴンは急速に接近してくる。大きな漆黒の翼を広げ、空を滑るように進んでくる。
 俺を目指して飛んできている。間違いなさそうだ。
 俺が丘の頂上に着くのとほぼ同時に、ドラゴンは丘の中腹に着陸した。
 暗黒竜だ。いかにも炎のブレスを吐きそうに見える。体長は十メートル以上あるな。
 ゆっくりと巨大な翼をたたみ、金色に輝く瞳で俺をにらんでくる。全身をおおう漆黒の鱗はいかにも厚くて丈夫そうだ。剣で斬ることはもちろん、傷つけることも難しそうだ。
 ドラゴンの鱗は鋼鉄よりも固い、という設定があったのは、何というゲームだったっけ。
 薩摩示現流は、真っ先に手練れを倒し、残ったザコを全滅させる技だ。動きの遅い骸骨軍団とは最高に相性が良かった。
 だが、戦うことを想定していない対ドラゴン戦では、どこまで戦うことができるのだろうか。
 俺は、正面からドラゴンを見つめた。
 間違いなく強敵、のはずだが、どうしようもなくワクワクする。
 さて、どこに勝機を見出したらいいのだろう。

 ドラゴンの動きに違和感があった。

 なんか不自然だ。
 頭部に金色の輪がはまっており、額の部分に黒い宝玉が付いている。
 両手、いや、前足かな、にも腕輪がはまっており、紅い宝玉と黄色の宝玉が付いている。
 足首にも輪がはまっているようだ。
 自分で付けたようには見えない。
 魔王かその配下が付けたのか?
 なんのために。
 ただの飾り? 
 そんなはずは無い。
 おそらく、支配し使役するためなのだろう。
 ……ならば、魔王の支配から離脱できれば交渉する余地があるかもしれないな。
 これほどの巨竜なら、人間など一撃で粉砕できるだろう。
 宝玉を外したとたんに辺りにブレスを撒き散らして手が付けられないほど暴れ出す可能性もあるが……
 暗黒竜は右腕をふりあげ、俺をめがけて振り下ろしてきた。
 俺は、余裕をもって攻撃を避けた。暗黒竜の動きが遅い。
 俺を殺すつもりがないのでは?
 俺は薩摩示現流の斬撃を紅い宝玉に叩き込んだ。宝玉は粉々に砕け腕輪は暗黒竜の腕から弾け飛んだ。
 間をおかずに左腕が振り下ろされる。
 俺は、再び攻撃を避けて黄色い宝玉に斬撃を見舞った。左の腕輪も破壊される。
 ……やはり、殺気が感じられない。
 暗黒竜は口を開き、俺に喰いつこうと頭を下げてきた。
 俺に届く前に巨大な口が音を立てて閉じられる。
 俺に喰らいつくつもりなら、明らかに口を閉じるタイミングが早すぎる。
 俺の眼の前には、暗黒竜の顔があった。額の中央には黒い宝玉が嵌められ三本の金属の帯で固定されている。
 暗黒竜の金色の瞳がわずかに細められた。
 こいつは魔王の支配から逃れたいと思っている。そんな思いが伝わってくる。
 いや、そんな気がしただけだがな。
「チェーストォォォォ!」
 俺は全力で剣を振るった。正真正銘の薩摩示現流の初太刀が放たれる。
 黒い宝玉は真っ二つに割れて砕け散り、三本の輪が弾けとんだ。
 そのままの勢いで暗黒竜の脇を走り抜けて後ろ足の緑の宝玉を砕く。脚を足場にして背中に登る。反対側に飛び降りる。降りる勢いで駆け抜けざまに反対側の蒼い宝玉に斬りつけ破壊する。
 さらに暗黒竜の正面に向かう。
 俺は大声をあげて問いを発した。
「このまま戦いを続けるつもりか!」
 暗黒竜は低い声で応えた。
「我に言葉を掛けるか、人間よ」
「ああ、そなたは古代竜とお見受けする。古代竜は、人間よりもはるかに長い時を生きて、人間よりも深い知恵を備えていると聞き及んでいる。戦わずにすむならば、その方がよい」
「戦わずにすむならその方がよい。我も同じ考えだ」
「ただ、確かめるべきことがある。そなたは人を喰らうことを好むか?」
「魔王の命令で人に喰らいついたことはある。しかし、進んで喰らおうとは思わぬし、自らの意志で人を喰らったこともない」
「分かった。ならば戦う理由はないな」
 俺は剣を鞘へと納めた。
「我が名は薩摩隼人。お名前を承っても?」
「真の名は魔王に奪われた。声を掛ける必要があるなら、とりあえず『アンバー』とでも呼んでくれ」
「では、アンバー殿。そなたに剣を振るったことを詫びよう。ひどく傷をつけたのでなければよいが……」
「いや、大丈夫だ。わが身に毛ほどの傷もつけずに、よくぞ魔王の封印を砕いてくれた。見事な腕前だった。感服したぞ」
 いや、それは竜の鱗が丈夫だったからだ。俺の腕が良かったからではないぞ。たぶん。
 昇り始めた朝日を受けて、暗黒竜の姿がゆらめいた。つぎの瞬間に暗黒竜の姿は消え失せて漆黒の鎧をまといハルバード(鉾槍)を手にした戦士が立っていた。
 暗黒竜の声が発せられる。
「この姿の方が人に警戒されないだろう」
 今は人の姿をしており、竜に変身して戦うことができる。ならば、竜戦士ということになるのかな?
 俺は、示現流の剣士だ。
 竜戦士、しかも暗黒竜となれば、俺(おい)よりも格が上じゃなかとか?
 竜戦士はスタスタと環状列石の方に向かって歩き出した。
 おいおい、そちらには王女様がいらっしゃるぜ。……って、王女様に会いにゆくつもりなのか?
 俺はあわてて竜戦士の後を追いかけた。
 環状列石の前に皆が集まっている。
 俺たちが近づくと騎士と近衛兵が左右に分かれた。
 俺たちは、その手前で立ち止まり、名乗りをあげた。
「竜戦士アンバー殿をお連れした。我らと戦う意思は無いとのことだ!」
 竜戦士は兜を脱いだ。
 凛々しい素顔が衆目の前にさらされる。
 意外と若そうだ。俺とたいして年齢が違わないように見える。青年、と言っていいだろう。
 美形じゃないか!
「我が名はアンバー。戦う意思の無いことを示すためにここに来た」
 即座に王女様からお言葉があった。
「四百年前に、三つの王国が暗黒竜アンバーによって滅ぼされました。あなたは、そのアンバーでしょうか」
 竜戦士は少しうつむいた。一呼吸おいて顔をあげる。そして、王女様をまっすぐに見つめて答えた。
「我が成した事で間違いないだろう」
 一気に緊張が走った。
 暗黒竜は王国を滅ぼしたことがあるっとか。
 じゃっどんが……
 ここで争うてはなりもはんどっ。
「待っちくいっ」
「「「はあ~?」」」
 周り中から何を言ってるのか分からないという顔をされた。
 薩摩弁は通じないのか。
 まあ、当然だな。
 薩摩弁は幕府の隠密が薩摩藩に侵入するのを防ぐために造られた人造言語だ。
 徳川幕府の隠密は『口取りの術』を得意としていた。怪しまれずに各地に侵入するために、その地方の方言を身に付ける術だ。
 薩摩弁はそれを封じるために造られた。
 他国の者に理解できないのは当然だ。
 薩摩弁の威力は凄まじかった。江戸時代を通じて、薩摩藩に向かった隠密が江戸に戻ることは無かったという。
 なにせ薩摩藩の中でも祖父たちのしゃべる言葉を孫たちが理解できなかったのだ。
 『口取りの術』を使う余地などありはしなかった。いや、使う余地を与えなかったのだ。
 幼いころに祖父たちが話しているのをそれとなく聞いてたら、
「これ以上聞くなら、孫といえども斬らねばなぬ」
 と、真顔で言われた。江戸時代ではない、現代の話しだぜ。
「ただ、通り過ぎただけです。すぐにいなくなります」
 と、返事をしたっけなあ。
 もうよかけん。
「竜戦士のアンバー殿は、戦う意思を持っておられぬ。しかし、攻撃されれば降りかかる火の粉を払わねばならなくなるだろう」
 騎士団長は憤った。
「手を出すな。そうおっしゃられるのか!」
「そうだ。魔王軍の中で骸骨兵団以上の戦闘力をもつアンバー殿が我らと鉾を交えないとおっしゃられている」
「信じられるか!」
 竜戦士アンバーは低い声で言った。
「薩摩隼人殿は我を魔王の支配から解放してくだされた。この恩義は果たす所存だ。そなたたちに武器は向けぬ」
「むむむ……」
 騎士団長はだまりこんだ。
 そこに王女様のお言葉があった。
「私たちに味方する、とはおっしゃられないのですね」
「我の真の名は、いまだ魔王の手中にある」
 これこれ、王女様、そんなに露骨に「使えないヤツ……」という顔をしないでくださいよ。
 王女様は気を取り直しておっしゃられた。
「一段落したようですので、とりあえず休息としましょう……」
 さすがは王女様。いい判断だ。
 騎士団長が指示を叫んだ。
「兵団は休息しろ!」
 その一言で、全員が一斉に動き出した。
 王女様の元に円卓が運ばれてくる。
 椅子がいくつも用意される。
 たちまち円卓の上にパンや干し肉、チーズ、丸のままの果物、干からびた果実、金属製のコップが並べられた。素早いな。円卓の上に大きな金属製のカップが置かれ、大量のワインが樽から注がれた。
 飲み水はなさそうだった。
 環状列石を背にして、王女ビクトリア様が着席なさった。その両脇に美少女神官エスメラルダと魔法使いサフィーナが座る。さらにその隣に騎士団長と近衛兵団長が座った。
 俺と竜戦士アンバーも円卓に向かった。
 近衛兵たちは三隊に分かれ、一隊が警護を続け、残りは交代で食事と休息に入った。騎士団も数人の見張りを残して地面に座り込んで食事を始めている。
 みな素早いなあ。
 俺はひどく空腹なことに気が付いた。
 このタイミングで食事ができるとは有難い。
 しかし、王女様を前にして、どう振舞えば良いのだろう。王族相手の礼儀作法などまったく分からない。
「円卓は無礼講を意味します。好きに食べ、好きに振舞い、好きにしゃべって構いませんよ」
 王女様のお言葉があった。
 ありがたい。
「では、遠慮なく」
 俺はそう言って手近なパンを取り、二つに割って……、これは固いなあ。
 苦労しながらパンを二つに割り、間にチーズと干からびたイチジクを挟んだ。おっと、壺の中に入っているのは蜂蜜のようだ。バターもあるのか。有難くいただこう。
 パンはとてつもなく固かった。保存用の特注品のようだ。食べにくいが味はそう悪くない。
 ありゃ、みなは金属製のコップでワインをすくい取り、その中にパンを漬けて柔らかくしながら食べてるな。
 構うものか。俺はこのまま齧るぞ。
 う~む、やはり固いなあ。
 ここには飲み水がないようだ。ワインか、エールとかいうビールもどきしかないらしい。
 大きな声では言えないが、俺は芋焼酎でなれているから、ワインを水替わりに飲むことができた。
 それを誰も何とも言わない。
 この地ではワインやエールは子供が飲んでも構わないのだろう。
 そのまま食事が続いた。しばらくは誰もが無言だった。
 
 周囲にいた兵士たちは、早々と食事を済ませると、途中になった作業に戻って行った。
 警戒を解いていない。
 死体が丘の中腹に埋められてゆく。剣が突き立てられて墓標になる。自分たちが休むより先に死んだ仲間を休ませたいのかな?
 骸骨兵団の残した武器や防具が円卓の脇に集められてきた。
 各種の盾、短槍、弓と大量の矢、魔術師の杖、護符、呪文の刻まれた宝玉、骨の笛……
 別々にうず高く積まれてゆく。かなりの量になるな。
 俺が一人で倒したやつらの持ってた戦利品か。
 我ながら良く戦ったな。
 竜騎士が俺に尋ねてきた。
「お前は恋人を作る気はないのか?」
 このタイミングでする話かねえ?
「まだ未成年なのでね」
「ほ~っつ、まだ雛だったのか」
 お前まで俺を子ども扱いするのかよ。
「薩摩では、六歳から十三歳までを稚児、十四歳以上で二十代前半の独身者を二歳(にせ)と呼ぶ。俺は二歳だ。稚児ではないぞ」
 竜騎士が言った。
「竜族の二歳なら立派に雛だ」
 俺の顔をのぞき込みながら続ける。
「お前にその気がないなら、俺が手をだしていいか?」
 ダメにきまってるだろう。
「真の名を魔王に握られているのだろう? まだ魔王軍に半分属しているくせにずうずうしいぞ」
 俺の言葉に騎士団長や近衛兵団長までが声をあげて笑った。
 いい雰囲気になったな。
「それにしても見事な腕前でしたな。どのような技を使われたのか、差支えなければお聞かせ願えませんか」
 なるほど。剣を振るう者として示現流に興味があるか。
「俺は若輩者ですから、敬語はいりませんよ」
 年配で威厳のある人物に敬語を使われると何とも落ち着かないぜ。
「いやいや、『王女様の剣』ともなれば丁重に接するのが当然でしょう」
 そんなものかなあ。
 そんなやり取りのあとで、俺は薩摩示現流についての独演会を開催した。皆、少なくとも表面上は、真剣に聞いてくれた。
 一通り話し終えたあと、俺は何の気なしに戦利品の骨笛を手に取った。
 ああ、そうか。
 骸骨は笛が吹けない。息をしてないからな。だから骸骨の魔術師は骨笛に紐をつけ振り回して鳴らしていたのか。
 納得した。

「丘の方角に異変あり!」
 兵士の叫び声が聞こえた。
 皆が一斉に丘の方を見た。
 昇り始めた朝日を背景にして、丘の頂上で魔方陣が黒い光を放っている。かなり大きい。
 軍団が姿を現わした。魔王軍で間違いないだろう。人数は二百人ほどかな。
 角笛が吹き鳴らされ、味方の兵士たちが走り寄ってくる。すぐさま隊列が組まれる。
 魔王軍は進軍を開始した。見事に統制がとれている。精鋭部隊なのだろう。いかにも手ごわそうだ。
 うん? 魔王軍は出来たばかりの墓を避けて進軍してくるぞ。
 魔王軍は整然と俺たちの前まで進み、歩みを止めた。
 コボルドの弓隊は矢をつがえている。ゴブリンの槍隊はいつでも敵を突けるように槍を構えている。オークの兵士たちは剣を抜き放ち盾を構えている。
 完全に臨戦態勢に入っているぞ。
 まずいな。

 幕末から明治にかけて、示現流は猛威を振るった。敗れた連中は、示現流が成果をあげた理由を、自分たちの兵の訓練が不足していたせいだ。いや、農民や一般市民で軍隊を作ろうとするのがそもそも無理なのだ、などと主張した。
 それはただの負け惜しみだ。示現流は強い。強いから勝った。それだけのことだ。
 しかし、示現流が警察隊によって封じられたことがある。その警察隊は会津藩士たちによって構成されていた。
 薩摩示現流は、相手を魂消えさせて相手が実力を発揮できないうちに高速で全員を倒しきる技だ。
 だから、刺股で動きを止める。拳銃で太ももを撃ち抜く。自分が斬られているあいだに味方に攻撃させる。
 そういった周到な対策を用意し、充分な覚悟を持って対応した相手にたいして、示現流は十分な威力を発揮できなかった。
 有名になりすぎたから的確に対応され、威力を封じられてしまったのだ。
 示現流が日本で最強の剣術という自負はある。しかし、決して無敵ではない。
 的確に対応されると、一人で六十人を倒すことはできなくなる。
 当然のことだ。
 いま目の前で臨戦態勢をとっている魔王軍にたいして、示現流では成果をあげることができないだろう。
 戦えと命じられたら戦いますよ。俺は王女様の剣だから。
 でも、おそらく犬死するだろうな。
 魔王軍が二つに割れた。
 マントをひるがえして中央を進んでくるのは魔王だろう。頭にアンモナイト型の見事な角を生やしている。羊のような角とも言うかな。
 両脇に巨大な棍棒を肩に担いだ醜い巨人を従えている。トロールなのかな。後ろにローブをまとった小柄な人影が続く。こいつらは魔道師たちだろう。
 一行はそのまま進み続けた。俺たちの前まで進み、歩みを止めた。
「和平交渉でもなさろうというおつもりですか?」
 いまさら? という調子で王女様がおっしゃられた。
 深いバリトンの声が応じた。
「敵情視察だ。思わぬ反撃を受けたからな。ああ、場合によっては兵を引くかもしれぬぞ」
 魔王は悠然とまわりを眺めた。
 積み上げた戦利品に目を止める。
「敵ながら見事な戦果だと誉めざるを得ないようだ」
 一息ついて、大声で続ける。
「交渉を口にしたくせに、武器は手放さぬのだな」
 武器を捨てろ、という強い強制力を感じた。
 魔王覇気というやつか。
 魔王軍が一斉に同意の声をあげる。
 せからしか、騒ぐなっ!
「魔王は詠唱なしで極大魔法を放てると聞いている。そちらはいつでも攻撃できるのだから、それに備えるのは当然だろう。こちらは剣を鞘に収めている。即座に攻撃をしない証しと受け取っていただきたい」
 思わず発言してしまった。
 王女様や近衛師団長がいる前で、出過ぎたマネだったかな。
 魔王に従う魔法使いたちのなかで、とりわけ小柄な魔法使いのローブがずれた。
 驚いているようだ。
 子供のような体形で、……
 巨大な血走った目玉が一つ、顔の真ん中にある。
 すごく嫌な予想が浮かぶ。
 おそらく精神操作系の魔物だろう。
 俺はいま、まともに眼を合わせてしまったぞ。
 まずい。
 どぎゃんすれば良か。
 分っからん~っ!
 魔物が魔王に耳打ちをした。
 魔王がにやりと笑った。物凄く邪悪な笑みだった。
「これから正式な交渉の場を設けようと思う。どこまでなら譲れるか、あらかじめ相談しておけ」
 勝手にそう言うと魔王は側近と魔王軍を引き連れて丘の上へと戻ってゆく。
 ちくしょう、魔王だからと勝手な事ばかり言いやがって。
 俺は、腹立ちまぎれに手に持っていた骨笛を鋭く吹いた。
 ズザッ!
 埋葬されていた兵士たちが土をはねのけて一斉に立ち上がった。地面に刺された剣を引き抜いて頭上に掲げる。
 魔王軍は何事もなかったかのように、死せる兵士たちの間を抜けて丘の上へと戻って行く。
 それからしばらくして、丘の上で魔方陣が光を放った。
 美少女神官のエスメラルダがつぶやいた。
「あれは、転移の魔方陣でしょうか?」
 光が消えたとき、魔族たちは姿を消していた。
 しばらく様子を見てから、俺は長く骨笛を吹いた。
 戦士たちは剣を地面に刺し、それから自分で土の中へと戻って行った。
 振り回して風切音で操れるから、俺が吹いても効果があったようだ。
 エスメラルダが声を掛けてきた。
「彼らは王女様に仕える兵士でした。魔王に操られて戦うのは本意ではなかったのでしょう。だから魔王の命令に抵抗して動きが鈍かった。王女様のために戦えるとなれば、死したのちであろうと、喜んで戦いに臨んだと思いますよ」
 だから魔王軍と戦おうとして俺の命令に従ったのか。
 俺は思わず祈った。
 忠実な兵士たちに平穏な眠りを!
 竜戦士アンバーが言った。
「なんと真の名が戻ってきた。やつらはこの地から本格的に去ったようだぞ」
 王女様がたずねる。
「どういうことですの?」
「たぶん、こういうことだろう」
 竜戦士は愉快そうにいった。
「薩摩隼人殿は、魔法の援護なしに不死騎団をまたたくまに壊滅させた。さらに、やすやすと我の支配を解いた。また、最も強力な魔族の精神操作に抵抗した。そして、死せる戦士たちの支配をあっさりと魔王軍から奪いとった」
 王女様に笑いかける。
「我らは魔王軍に完全勝利したのだ」
 そうだったのか。それなら、魔王軍が通り抜ける時に死せる戦士たちを襲い掛からせ、混乱に乗じて魔王に示現流の初太刀をお見舞いしてやればよかったな。
 魔王を成敗できたかもしれなかったのか。
 惜しい事をした。
 これが禍根にならねばよいが。
 王女様が、お言葉を紡がれる。
 いや、ちがう。これは女神様だ。
「魔王が良からぬことを企んでいます。防ごうと思うなら転移の魔方陣に入りなさい」
 正真正銘の神託がくだった。
 俺と、神官エスメラルダ、魔法使いサフィーナ、竜騎士アーバンが転移の魔方陣に入った。
 魔方陣が光を放つ。
「王女ビクトリアには、この地で果たすべき務めがあります」
 果たすべき務めという言葉に重なって、ロイヤル・デューティーという響きが聞こえた。


 そのころ魔王軍はあわただしく丘を駆け下りていた。
 魔王軍には、もはや転移の魔法を使うだけの魔力は残っていなかったのだ。追撃されたら全滅もあり得た。
 そこで追撃を避けるために転移の魔方陣に見せかけた幻影を作りだし、遠くに転移したと思わせて追撃を避け、いまは徒歩で必死に逃げ延びようとしているのだった。
 魔王が絶叫する。
「聞いてないぞ。なぜ人間ごときがあんなに強いのだ」
 誰も口を挟まない。
「なぜ、無敵の不死騎団が一瞬のうちに壊滅する。しかも一体も残さぬ全滅だったぞ!」
 それを聞いて、魔族の死霊術師は思った。
 環状列石の周辺には魔力がほとんど残っていなかった。おそらく敵の召喚呪文によって使い尽くされていたのだろう。
 環状列石のあたりでは魔力が尽きかけていた。だからスケルトンたちの動きが鈍くなり力も弱くなっていたのだろう。
 不死騎団の敗因は、敵が強力な召喚呪文を使ったせいだ。
 しかし、いま何か言ったら、大敗の責任のすべてを取らされる可能性が高い。そう考えて、死霊術師は沈黙を守りながら、ひたすら丘を駆けくだった。
 魔王はぼやく。
「魔法が使われた痕跡は戦場になかった。攻撃呪文はおろか、身体強化の呪文も、防御魔法すら使われてはいなかった」
 魔王の絶叫が響いた。
「いったい何が起きたのだ!」
 答える者はいなかった。
「魔法なしに不死騎団を瞬時に壊滅させ、やすやすと暗黒竜の支配を解き、最も強力な精神操作でも効果がなく、考えを読み取らせず、あっさりとゾンビどもの支配を奪いとりおった」
 隼人は薩摩弁で考える。だから魔族は考えを読み取ることができなかった。
 しかし、その真実に気が付く魔族はいなかった。
 魔王の泣き言は続く。
「これを完敗といわずして何と言う」
 魔族たちは黙々と走り続ける。
「しかも、魔王は極大呪文を詠唱なしで放つことができるだと? 知らない呪文を唱えられるはずがないだろう。そもそも極大呪文とはいったい何なのだ!」
 小柄な一つ目の魔族が答えた。
「世界を滅ぼすほどの威力を持つ魔法か思います」
「魔王ならばその魔法を無詠唱で放てるというのか。人間の魔法使いはどこまで強くなってしまったというのだ?」
 死霊術師が答えた。
「人間が強くなったというよりも魔族が弱体化したのではないかと愚考いたします」
「どういう事だ?」
「この世界から魔力が失われつつあるようです。魔力は人間の負の感情から生まれます。無知から生まれる恐怖、劣等感から生まれる憎悪、苦しみから生まれる恨みなどの妄執が呪いとなって現実に影響を与えるほどの力を得たものが魔力でございます」
「魔力の元になる呪いが失われつつある。つまり、この世界の人間どもは幸せになりつつある。そういうことか?」
「ご明察のとおりでございます。この地では蒸気機関が発明され産業革命が始まっております。このため人間たちは明日に希望を持ってしまいました。
 地の底にある這ってやっと通れるくらいの狭い坑道の中で鉱石を乗せた重いトロッコを果てしなく引き続ける子供たちですら、大人になったら稼いだ小銭を元手にしてもっと収入のある職につくのだという希望を抱きながら地底の闇の中を這い進んでいるのです」
 魔王は、しばらく沈黙した。やがて口を開く。
「どうやら魔族はどうしようもないほど時代に取り残されてしまったようだな」
「御意。たまたま不死騎団には鉄砲の効果が乏しかった。しかし、他の魔族にとって金属の弾丸には致命的な効果があるかと愚考いたします」
「では、改めて人間どもを不幸のどん底に叩き落とす方策を練らねばならぬな」
「御意」
「よし。準備が整うまで姿を隠すとしよう」
 こうして魔族は人の前から姿を消した。

 年月が流れた。魔王は、ある大陸で暗黒街のボスとして君臨していた。
 精神操作系の魔族が成果を報告する。
「白人の男どもに性的劣等感を植え付けることに成功しました。ヤツラは、白人女が黒人に抱かれたら、大きさと絶倫さで虜になり、自分たちはふり向いてもらえなくなると思い込んでいます」
「ふむ、それで?」
 魔王は先を促した。
「この幻想によって白人男性の間には、自分の恋人や娘が黒人に抱かれないように黒人を排斥しようとする強烈な差別意識や、女性の行動を制限しようとする躾や道徳や宗教の不必要な強要が蔓延し、黒人に簡単に屈服すると誤解された女性全般への蔑視が横行するようになるでしょう」
「……なるほど?」
「また、黒人に理解を示す女がそれを他者に広めないために、女性を大統領などの指導者に選ぶことがなくなると予想されます」
 魔王は豪華な椅子の上でふんぞり返りながら言った。
「なるほど、白人男性は黒人に強烈な差別意識を持つのだな。性的劣等感が動機なら解消は不可能だろう」
「そして、無知から生まれる黒人への恐怖によって、不当に黒人を私刑(リンチ)したり、些細な理由で白人警官が黒人を射殺する事件が繰り返されるようになるでしょう。差別され不当に傷つけられる本人や遺族の側からは強い恨みが生まれます。
 白人女にしてみれば、理不尽に権利や行動を男性に制限されていると感じます。
 これらの不満や妄執が積み重なり、呪いとなって我らの魔力の元になりましょうぞ」
 魔王は満足そうにうなづいた。
「でかした!」
 そして、さらなる月日が流れて魔王がこの世に顕現する時がおとずれる。


 俺が教室で目を覚ますと、すでに放課後になっていた。
 あちらの世界でまる一日を過ごしたが、こちらではほとんど時間が経っていなかったようだ。
 召喚したときと同じ時間になるように調節してくれたのかな。
 教室には、もう数人しか残っていない。
 さて、教科書をかたずけて、と……
 長身で体格の良い生徒が委員長に新聞を見せている。応援団の旗手だ。だが、こんな暑い季節に学ランを着てるのは応援団長以外にありえない。
 旗手が応援団長を引き継いだのかな。
 まあ、当然の人選だな。
 去年の夏の対抗試合でのことだった。凄まじい強風にもかかわらず、一年生だった旗手は最後まで一人で校旗を掲げ続けた。相手校は、旗が地面に倒れないように五人がかりで支えていた。
 野球部のキャプテンが、ボールが風で流されるから試合をいったん中止するように申し入れたら、こともあろうに我が校の監督が、
「一人で校旗を支えていられる程度の風だから試合を続けましょう」
 と、言ったせいで試合が続行になってしまった。あのときは応援団に文句が殺到したっけな。
 文句なら監督に言うべきだったのに。
 ほかに教室に残っているのは、保健委員と図書委員か……

 えっ?

 委員長が、女神様?
 保健委員は、美少女神官のエスメラルダ。
 図書委員は、魔法使いのサフィーナなのか?

 応援団長が新聞を持って俺のところにやってきた。
 こいつは、……
 暗黒竜のアンバーじゃないか!
 学ランは漆黒の鎧のかわりに着てるのかな?
「これを見ろよ」
 アンバーの声は真剣だった。
 これは、大統領選挙の写真だな。大統領候補が耳から血を流して、国旗を背景に、拳を振り上げている。
 いや、違う。
 こいつは、……
 魔王じゃないか!
 魔王が大統領選挙の候補者になっているのか?
「分かったようだな」
 学ランを着た暗黒竜は言った。
「こいつが大統領になれば、核兵器を使う権限を持つようになる。最近の核兵器は小国ならまるごとクレーターに変えるだけの威力があるぞ」
 俺は無言でうなづいた。
「広大な大地を煮えたぎるマグマに変える火焔系の極大呪文というわけだ。
 核の冬をもたらすほどの核兵器を使用する権限を持つから、地球全体を凍りつかせる凍結系の極大呪文を使えることになる」
 顔から血の気が引いてゆくのが分かった。
「インターネットなどを麻痺させることに特化した核兵器もある。極大の電撃呪文ということになるな。
 重い放射線障害を引き起こすのは状態異常をおこす強力な呪文ということになるだろう」
 最悪の予想が腹の中に重く溜まってゆく。
 俺は言葉をしぼりだした。
「魔王が凄まじい力を手に入れようとしているのか。ならば、その前に倒さねばならないのだな?」
 学ランの暗黒竜が深刻そうに言った。
「簡単にはゆかないぞ。大統領候補者になれば護衛がつく。剣を持って近づくことはできなくなる。事前に金属探知機で見つかってしまう。そうなると、木刀を杖に偽装して持ち込むほかなさそうだ」
 人間なら木刀で撲殺する自信はある。
 しかし魔王を相手に木の棒で戦えというのか?
 どんな無理ゲーだよ。
 女神様の委員長が続けた。
「大統領候補のうちなら観光ビザで渡航しても接触できると思います。しかし大統領になってしまうと接触は困難になります。最低でも留学生として彼の地で暮らす必要がでてくるでしょう。必然的にTOEFL2級以上の資格が必要になると思います」
 ちょっと待て。魔王攻略にはダンジョンを踏破すればいいのではないのか?
 攻略にはTOEFL2級以上の資格が必要だと?
 この世界の魔王は何という陰険な試練を用意しているのだ!
 そりゃ俺には無理だよ。
 それよりも全国高等学校総合体育大会の剣道の部で優勝して、親善大使として魔王に日本刀を届けに渡米するほうが、よほど実現性があると思うぞ。
 大統領を始め、あの国の政治家は、国際交流に励んでいるという実績を選挙民に示す必要がある。外国からの訪問者と直接に会って、その時の写真を新聞やインターネットなどに掲載して公表する。
 だから海外から訊ねて行くと、かなり無理をしてでも面会してくれ、握手している写真を撮ってくれるそうだ。
 高校二年で一年間留学した元先輩で、今は同級生のクラスメイトがそう言っていたから間違いないだろう。
 面会のときにプレゼントとして持参した日本刀をお見舞いすれば一石二鳥だろう?
「影武者を用意されていたら、襲撃を口実にして日本が核攻撃されますよ?」
 日本刀の切れ味を実際に体験していただきたかったから、という言い訳は通用……、しないだろうなあ。
 魔王は放置できない。
 だが、接触する手段がない。
 いっそ剣の腕前を生かして大統領の護衛になろうか。大統領が訪日すれば武器を持って近づける。大事になる前に倒せない恐れはある。けれども、今の俺なら実現性がいちばん高いだろう。
 英語の実力がどのくらいなら大統領の護衛になれるのかな?
 女神様が不思議そうにおっしゃられた。
「なぜ英語力の心配をなさるのですか? あなたは召喚されたあと、ずっと英語をしゃべっていたではありませんか」
 ええええええええ?
「それまでに学習していた英語の知識や記憶を意識の表層に引きだしておいたから、まったく不自由なしに英語をしゃべっていましたよ」
 き、気が付いていなかった……
「薩摩弁は日本語だったから、魔族にも周りの人々にも理解できませんでしたけれどね」
 そうだったのか。
「だから、少し勉強するだけで、とうふぁる二級くらい、すぐ資格がとれますよ」
 とうふぁる二級、ですか。なんだか急に説得力が無くなったように思えるのは俺だけですかね。
「間違いありません。その証拠に、あなたの弱者にたいして配慮がたりない性格が以前よりも強調されています」
 ま、ま、ま、待ってくれ!
 俺は守るべき相手にたいして配慮がたりないのか?
「はい、間違いありません。わたくしこと女神様が自信を持って保証します!」
 そんなことを保証されても、嬉しくないよ。
 とほほ。
 あっ、ひょっとして。
「勇猛な騎士は、代償として守るべき者への優しさを失うのですか?」
「女神モリガンは戦の女神ですが、人々に残虐なことをするようにとそそのかします。女神モリガンに勇猛さを願えば残虐になる可能性は高いですね」
 それで勇猛な騎士の妻は中年になると魔女の鼻へと変形するのか。
 あれ?
 まてよ。
 いくつか疑問が浮かんだ。
 なぜ、魔王はいままで大人しくしていたのだろう?
 俺以外に魔王を倒せる者はいないのか?
 サフィーナが答えた。
「魔力は人々の負の感情から生まれるわ。現実に影響するほど強烈な呪いが魔力の正体なの。
 十九世紀から二十世紀は希望の時代だった。どんなに不幸になっても、どんな困難があっても、希望に満ちた未来が待っている。人々はそう信じて明日をめざしたの。
 世界大戦や大恐慌などのいろいろな不幸は、おそらく魔族が演出したもの。しかし、人々の希望の灯りを消すことはできなかったの」
 なるほど。なんとなく納得できた。
 でも、……
「女神様の力の源は何ですか?」
 常識的には信仰心だが、いま世界で広く信仰されている神様たちがホイホイとこの世に降臨なさっているという話は聞いていない。
「人々の持つ希望です。不可能を実現させるほど強い希望が神の力の元になります」
 それが女神様の御答えだった。
 あれ? それでは、魔力も神の力も、結局は人間の強い『思い』が元になっているのではないのかな?
「その通りです。神も魔族も人間なくして力を振るえません。人が完全に絶滅してしまえば、神も魔族も消滅するでしょう」
 魔族と神様が同じ……
 どこかで聞いたことがあるなあ。
 あっ!
 確か豊穣の女神イシュタルはキリスト教の唯一神によって魔神アスタロートに認定されてしまったという設定をどこかのゲームで見たことがあるぞ。
「女神イシュタルじゃと?」
 女神様、口調がババアっぽいですよ。
 女神様の雰囲気が大きく変わった。
 思い当たることがあるのかな?
「調べてみるわね!」
 サフィーナは、そう言って教室から飛び出していった。
 女神様はなにやらブツブツつぶやいている。
 しばらくして、サフィーナが戻ってきた。
 息を切らしている。
「待たせてごめん! 『幻想世界の住人たちⅡ 新紀元社』に載っていたわ。アスタロスの項目の中にあったから、探すのに手間取ったの。でも間違いないと思うわよ。アスタロスはソロモンによって封印された七十二柱の魔神のうちの一柱。でも、その元型はメソポタミアの美の女神イシュタルで豊穣、性愛、金星、戦闘をつかさどるとされているわ。パレスチナに伝えられた姿は、頭に三日月型の角をつけた美しい女神だそうよ。これがその部分のコピーよ!」
 それで間違いない。そんな予感がひしひしとする。
「戦闘をつかさどる女神様だから、私の呼びかけに応えてご降臨くださったのですね」
 エスメラルダは冷静だった。
「完全なお姿でご降臨いただくには、神の形をかたどり、在り方をさだめ、成すべきことを望む必要がございます」
 エスメラルダはコピーを見ながら詠唱を始めた。
 無味乾燥な説明文から、ご降臨を祈る言葉が紡がれる。まるで祝詞を奏上しているようだった。
「神官エスメラルダは心より願い奉ります。この地に豊かな実りをもたらすもの。家族の繁栄によりて地を満たすもの。夜の天空にありてひときわ明るく輝くもの。その身をもって春をひさぐ乙女たちを護るもの。自ら武器を取りて戦い、敵の血を大地に吸わせるもの。
 果てしなく慈悲深く、限りなく恵み深く、三日月型の角をそなえ、言の葉にて表すこと能わざるいと美しきものよ。
 ここに集いし我らは魔王の悪行が世に蔓延することを防ごうと心より欲する者たちなり。
 我らが声をあげて呼ばわるは、古く偉大なる女神イシュタルの御名。我らが捧げるは、この地への来訪の歌。いと貴きその御名によりて我らの心からの願いを叶えたまえ!」
 委員長の雰囲気が大きく変わった。
 もともと美少女だったが、いまは神々しい美しさをまとっている。

 頭に三日月型の大きな角が生えている。どう見ても被り物ではなさそうだ。気品の高さは高貴を通り越して神聖と言っていいレベルだ。
 間違いない。
 この世に女神様が降臨なさった。

 妖艶な美しさだ。胸が大きい。
 俺が見とれているとエスメラルダが声を掛けてきた。
「神に望んではなりません。女神イシュタル様は気まぐれで、以前の恋人を不具にしたり、殺したり、動物に変えたりなさったそうです」
 暗黒竜が声をかける。
「おっそろしく俺好みの姿になったな」
 エスメラルダが止めに入った。
「女神様を相手に不敬ですわよ」
 女神イシュタル様が応える。
「いや、構わぬぞ。暗黒竜は四千年以上の時を生きておるからな。望むなら、存分に付き合ってやろう」
 たしか、……
 メソポタミア文明は紀元前三千年に栄えたはずだから、今から五千年前の文明ということになる。ならば女神様の年齢は……
「これこれ、女性の年齢を口にすることは礼儀に欠けるぞ」
 女神様でも自分の年齢を気にするのかな?
 いや、人の価値観に合わせてくださった軽口なのだろう。ずいぶんと気の良い女神様だ。
 しかし、それに甘えすぎるとキツイしっぺ返しがあるのだな。
「案外と釣合の取れたカップルだということは理解できました」
「ならば良い」
 女神様は微笑んだ。文字通り女神の微笑みだった。マジで骨までとろけそうになったぞ。
 あやうく踏みとどまる。
「今は魔王を倒す方が先です!」
「魔王を倒すと申すのか。ならば、このアイテムをさずけよう」
 女神イシュタル様が俺にくださったのは、刀の柄だった。
「気合を込めれば刀身が現れる。実体をもたぬ剣ゆえ、魔王を切り裂くことはできるが、人を切ることはできぬ。うまく使いこなすがよい」
 それって凄く便利なのでは。
「魔王はいま半島の本拠地にいる。さいわい周囲には人も魔物もいない。魔王の背後に移動させてやろう」
 べ、便利過ぎるけれど、心の準備が……
 うわ~!
 気が付くと、俺は豪華な廊下にいた。目の前に魔王の背中がある。
 刀の柄に気合を込めると、光を放つ刀身が現れた。
 女神様から賜ったのは、正真正銘の光の剣だった。
 今回は気合を掛けずに、薩摩示現流の初太刀を背後から魔王に見舞った。
 魔王の体は真っ二つになり黒い霧となって空気に溶けて消えてゆく。
 後には人間の体が残されていた。
 魔王はこの人間を依代にしていたのだな。

 気が付くと、俺は夕暮れの教室に戻っていた。
 保健委員のエスメラルダと図書委員のサフィーナが訊ねてきた。
「えらく早かったですね」
「どうでした?」
「こんなに簡単に魔王を倒してしまって、良かったのかなあ」
 あまりにあっけなさ過ぎた。
 魔王を倒したら、真のボスが出てくるのが定番だろう?
 まあ、世界を救えたのだから、これで良しとしていいのかな?
 だが、なにか違和感がある。
 女神イシュタル様は、皮肉めいた笑みを浮かべていらっしゃる。
「これがお前の望む未来なのか。これで良いなら現実にするが、どうじゃ」
 これから現実にする?
 あれは、まだ起きていない未来の可能性なのか。
 わざわざ、「これで良いか」と尋ねるのは、何か不都合があるからなのだろう。
「この未来を選ぶと、その後どうなるのでしょうか」
「ふふふふ、賢明な質問じゃな」
 女神様は、含み笑いをした。ひどく邪悪な表情だった。
「魔王が倒れると、魔力を使うものが大きく減る。このため、今は不足気味の魔力がいずれ世界中に大量に溢れてくる……」
 サフィーナが悲鳴のような声で言った。
「大量に溢れた魔力を取り込むと、女神様が魔神になる。そうですね!」
 女神イシュタル様は愉快そうに笑った。
「気が付いたか。その通りじゃよ」
 俺は思わず口走った。
「それでは、魔王を倒してしまってはまずいではないですか」
 女神様は、意地悪そうに微笑んだ。
「では、そなた達は魔王を倒そうとはせぬのじゃな。ならば、魔王はこれからも絶望を世界に振りまくであろうよ。
 魔力が満ちれば、この世に魔神が降臨する。それを防ぎたければ、人間どもが希望を無くすことがないように務めるのじゃな」
 暗黒竜アンバーが続きを語る。
「魔族は、偽りを人の耳に吹き込み、幻をその目に見せて、人の心を操る。
 インターネットは実体の無いフェイク画像という幻を見せて偽情報を広められる。根拠のない恐怖やお門違いの怒りをかき立てることができる。
 株価を操作して人々の欲望をあおり、一気に下落させて絶望を振りまくこともできる。
 実体の無い仮想通貨によって多数の人間を自在に踊らせることも簡単にできるぞ。
 案外、インターネットはその目的で魔族が普及させたのかも知れないな」
 暗黒竜が語り終えると、女神イシュタル様は暗黒竜に向き直った。
「ところで魔神アスタロスは右手に毒蛇を持ち地獄の竜にまたがった姿をしているという」
 そう言うと、女神イシュタル様はどぎつい色の口紅を取り出して口に塗った。まるで唇が血で濡れているように見える。
「どれ、魔神となったときのために、いまから暗黒竜にまたがる練習にでも行くとするか」
 そして、女神イシュタル様は暗黒竜を引き連れて教室から出て行かれた。
 サフィーナはこぶしを握った。
「魔王の振りまく絶望が多いか、私たちが抱かせる希望が勝るか」
 俺は思わず腕を組んだ。
「魔王が勝てば魔神が降臨する。俺たちが勝てば女神様がこの世にとどまられる。俺たちか魔王か、どちらが世界の主導権を得るかの争いをすることになるのか」
 エスメラルダは考え深かそうにつぶやいた。
「女神イシュタル様が審判となり、世界を掛けた魔王とのゲームになるわけですね」
 ゲームか……
 ならばいっそのこと、魔王とこの世界を共同統治することを提案したらどうなるだろう。
 魔王を倒さずに、世界の支配権の半分を受け取ったら、世界が闇に包まれた、というオチのゲームがあったなあ。中古だったけど。
 エスメラルダが即座に反論した。
「魔族は人間の負の感情を喰らいます。上級の魔族は、人を喰らいながら残虐な行為におよんで犠牲者を絶望させ、負の感情をさらにかき立てることを好むそうですよ」
 感情をあらわにしていた。珍しいな。
 サフィーナが口をはさんだ。
「負の感情を掻き立てる手段は幾つもあるわ。
 国際紛争を引き起こし、その解決を妨害する。貧困、飢餓、疫病を引き起こす。差別意識をかき立て不満を増強する。人々を分断して互いの憎悪をあおる。環境破壊を促進する。
 大国であれば世界中に大きな影響を与えることが可能よ」
 なるほど。
 どうやら魔王を放置する選択肢はないようだ。
 では、魔王を倒した上で、女神イシュタル様が魔神になるのを防ぐ。
 これって完全に無理ゲーじゃないか!
 まてよ、女神イシュタル様が魔神アスタロスになったあと、いったいどうなっていたのだろう。
 サフィーナがコピーを見ながら言った。
「ソロモン王によって壺に封じられたそうよ」
「魔人を壺に封印したのか。どうやったのだろう」
「神の御名によって七十二柱の魔神を壺に封じて湖に沈めた、と書いてあるわよ」
「格納容器にいれて投棄したのか。放射性廃棄物みたいな扱いだな」
 まてよ。
 もっと深く考えてみよう。
 女神様が本質的に魔王や魔神と同じ存在だとすると、人々の思い、希望を消費するはずだ。
 女神様に何かを望むと、それを叶えるために希望が大量に消費される。
 だから、女神様の御力に頼りきって安易に魔王を倒すのは止めた方が良いとおっしゃられたのだろう。
 神に何かを望めば、代償として、まわりまわって魔族が勢いを得る。
 神様を顕現させるだけで、魔族が活性化してしまう。だから力が強い神様ほどホイホイとは顕現しないのだろうな。
 『光が眩いほど影は濃くなる』、というのはこの事を言っているのか。
 そうすると最善の策は、魔王を女神様の援助なしに倒して、溢れる魔力のせいで魔神化した女神様を封印することになる、のかなあ?
 あの女神様がラスボスになるのか。
 勝てる気がまったくしないな。
 エスメラルダが励ましてくれた。
「ご自分だけで解決しようとなさらないでください。ここには光の戦士たちが集まっているのですから」
 サフィーナが指摘する。
「女神様の御神託は、『魔王が良からぬことを企んでいる。防ごうと思うなら(!)転移の魔方陣に入りなさい』、だったわ。まだ防ぐことができるのよ」
 う~ん。
「そうだ! 魔王を封印したら、どうだろう」
 エスメラルダがハッとした表情になった。
「そうですわね。魔王を封印できれば、活動は封じられて存在は続く。おそらく魔力は消費され続けるはずですわ」
 サフィーナが反論する。
「どうやって封印するのよ」
 ああ、そうだな。
 魔王を封印できる壺なんて売ってないからなあ。
 ガラリと教室の扉が開いて、女神イシュタル様がご入室なされた。手にいかにも安っぽい陶器の壺を持っていらっしゃる。
「魔王封印の壺ならここにあるぞよ」
 いかにも芝居がかっている。ひどく胡散臭い。
「本物の女神様が持ってきた壺じゃぞ。効能に間違いはない。今なら四万五千円で売ってやろう」
 ますますインチキ宗教の販売みたいになってきたぞ。
「インチキ宗教なら、五十万円とか八十万円で売るところじゃ。七百万円でもよいかな」
 め、女神様、お顔が近い。ブラウスの胸がはち切れそうじゃないですか。ちょっと、色っぽ過ぎますよ。
「失礼じゃな。美の女神が美しくない方が詐欺じゃろうが。それに、清純派の委員長に対しても失礼じゃぞ」
 女神様は微笑んだ。
 うわあ、その笑顔は未成年者には刺激が強すぎます!
「ははは、美の女神の笑顔は十八禁じゃと申すか。ではモザイクを掛けねばならぬな」
 骨抜きになる、という表現は聞いたことがあった。
 しかし、笑顔を見ただけで本当に腰が砕けて身体がとろけそうになるとは思わなかったよ。
「どうやって遠い外国にいる魔王を壺に封じたらよろしいのでしょうか?」
 エスメラルダが女神様に問うた。なんだか、俺を見る目が冷たい気がする。
 しかたないだろう。女神様の美しさは神がかっているのだから。
 女神様はエスメラルダに向き直った。
「これから魔王は世界支配に乗り出す。そのためにインターネットを利用する。だから、コンピュータ上で待ちかまえていれば良いのじゃ。魔王は向こうからやってくるぞよ」
 女神様は壺の蓋をとった。中には大容量メモリー(USB)が二つ入っていた。
「通信販売を利用すればもっと安くなったが、魔王に手をまわされると面倒だし、時間もかかるからな。示現流ではないが、今は速さが生命線になる」
 ラブホにしけこんでたのじゃなかったんだ。
「それこそ、清純派の委員長に対して失礼な考えじゃぞ」
「申し訳ありませんでしたァ!」
 俺は深々と頭をさげた。
 あれ、でも女神様は自分がしけこむ事については否定してないな。
 学ランの暗黒竜がニヤリと笑った。
 エスメラルダが冷たく言った。
「どのようにして魔王を封印するのですか?」
 女神様は、イタズラがうまくいった子供の様に無邪気な笑みを浮かべている。
「封印の呪文はメモリーに書き込んである。自動封印プログラムと言った方が分かりやすいかな? コンピュータに装着すれば、自動的に起動するぞ。封印後にメモリーを抜き取れば、魔王は体を二つに分割されるので大きく力を削がれることになる」
「分かりました。でも、俺は今あまり金を持ってないのですが……」
「神に頼り過ぎると、怒れる魔神が降臨するかもしれぬぞよ」
 それは強迫だよ。女神様がカツアゲしないで欲しいな。
 エスメラルダが二万五千円、サフィーナが一万五千円、俺が五千円を出して女神様の封印の壺(大容量メモリー付)を購入することになった。
 それにしても、皆が持っている金額で納まるとは。皆の財布の中身が分かっていたのかな。分かっていたのだろうな。
「あとでこの借りは返すからな」
「「大丈夫。期待してないわよ」」
 二人の声が綺麗にハモった。
 部活の時間も過ぎて、すでに夕闇が迫っている。
「今は速さが生命線」という女神様のお言葉に従って、俺たちはエスメラルダの御宅にお邪魔した。
 さっそく大容量メモリーをコンピュータに装着する。画面に古びた壺が表示された。いかにも高級そうに見える。オリジナルのソロモンの壺なのかな?
 ほどなくして、画面の表示が変わった。
「魔王が捕獲されました。Event Manager を起動してからUSBを抜去してください」
「こんなに簡単に魔王を封印できていいのかなあ」
 まるで、ゴ○ブリホイホイじゃないか。
 エスメラルダは無言でコンピュータを操作している。
 サフィーナが応えた。
「良いのじゃないの? 女神様から賜った神器を使ったのだから」
「てっきり電脳空間で魔王と戦うことになると思っていたぜ」
「それじゃあ、また逃げられるわよ、たぶん。そして、逃げた魔王はますます悪賢くなって、ますます退治が難しくなる。それが分かっていたから女神様は自動封印プログラムを用意なさったのよ。感謝しなさいね」
「でも、金を取られたぜ」
「メモリーは特売品だったけれど、たぶん実費よ」
 俺は感心した。
「へえ、よく値段を知ってたな。堅実なんだね」
「特売品や安売りには、いつも目を通してるからね」
 自慢そうに言ったサフィーナは、とても嬉しそうだった。
 ケチくさいと言ったように思われることを危惧したが杞憂だったようだ。
「いくらUSBが大容量でも、魔王をまるごと封印できるものなのかなあ。魔王は意外と単純な情報でできていたりするのか?」
「たぶん凍結されているのよ。女神様のプログラムだから、解凍したらものすごく大きな情報になると思うわよ」
 小さな壺を開けると、天に届くほど巨大な魔神が現れる映画の場面が思い浮かぶ。
 今はUSBの中で凍結されているけどな。
「あはは、魔王はいま凍結地獄に封印されているのか。たしかコキュートスと言ったかな」
「地獄の最下層だったわね。でも、よくダンテなんて読んでいたわね」
 エスメラルダが応えた。どうやらコンピュータの操作が終了したようだ。
「いや、バスタードの罪と罰編『奈落Ⅱ』に載ってたぜ」
「そんな昔のコミックのことを良く覚えていたわね」
 ははは、エスメラルダに誉められた。嬉しいな。
「ダンテよりもずっと新しいよ」
「さてと、無事にUSBを壺に納めたけれど、この壺はどうしたらいいのかしら?」
 そうエスメラルダが言ったとき、チャイムがなった。
「はあい、どうぞお入りください」
 エスメラルダが返事をすると、女神イシュタル様と暗黒竜が部屋に入ってきた。
「言い忘れたことがあってな。間違ってもその壺を桜島御岳の火口に投じるでないぞ。最悪、火焔魔人か溶岩魔神が出現するかもしれぬ」
 ゲゲゲッ。
 実行する前に言ってもらって助かった。
 危なかったなあ。
 そうなると、阿蘇山の火口に投げ込むのもだめか。
 では、こんど休みの時に秋吉台にある深い穴のどれかに捨てに行こう。壺はセメントで固めたらいいかな。
「わたしも付いて行きますわ!」
「私もいくわよ」
 エスメラルダとサフィーナが即座に返事をした。
 女神様がおっしゃられた。
「その方法ならばコンクリート詰めにして錦江湾に投棄するよりも長持ちするぞよ」
「ひょっとして、女神様は未来が分かるのですか?」
 女神様ではなく、サフィーナが答えた。
「ええ、女神様には過去と未来を見通す力がある、と書かれているわよ」
 いろいろな事を良く知ってるなあ。
「その通りじゃ。じゃが多くの未来は確定しておらぬ。人の努力や判断で大きく道筋が変わるのじゃよ」
 それで、人々を正しく導くために女神様はこの世にご降臨なさったのか。
 ありがたや、ありがたや。
「サフィーナとエスメラルダ、おぬしがどちらを選ぶか、見ているだけで愉快じゃからな」
 ええええええ~!
 ご冗談を。
 ふり返って見ると、二人ともうつむいて顔を紅くしている。
 ほ、本当かよ。
 まったく気が付かなかった。
 女神様がダメ押しをなさる。
「千人斬りの勇者に自分が守ってもらえる。女の子にしてみれば、白馬に乗った王子様の次くらいに嬉しいシチュエーションじゃからな」
 そう言えば、俺は守るべき相手にたいして配慮が足りないのだった。
 それがまさか、こういう事だったとは!
「ほれ、ほれ、示現流は速さが命なのじゃろう?」
 なんで女神イシュタル様はそんなに楽しそうなのだよ。
 ああ、分かった。分かりましたよ。
 純朴、いや朴念仁の俺に、まともな恋愛ができるはずがない。たくさん、たくさん、たくさんの失敗をやらかして、ようやく真正面な恋愛ができるようになるのだろう。
 これから実写版のラブコメを演じることになるのか。
 まあ、いいや。
 最後には皆が幸せになれることが保証されているからな。
 俺は、女神イシュタル様に手を合わせた。
 豊穣と愛の女神様だから、きっとご利益があるだろう。
 さらに柏手をうつ。
「どうか、たっぷりと楽しみながら、俺たちのことを見守っていてください」
 嬉しそうな笑い声を残して、女神様と暗黒竜は姿を消した。
朱鷺充ときみつる

2024年08月11日 16時18分35秒 公開
■この作品の著作権は 朱鷺充ときみつる さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆使用したお題:
    ゲーム:○
    神  :○
    ひよこ:○
◆キャッチコピー:骸骨どもよ、地獄への土産に本物の薩摩示現流を見せてやる。
◆作者コメント: 夏の企画が酷暑や災害にもかかわらず無事に開催され嬉しく思います。ご尽力くださった主催様、運営の皆様に深く感謝いたします。
 本作は、魔王と薩摩示現流の剣士の戦いを描いています。コメディー色を強めたつもりです。お楽しみいただければ幸いです。

2024年08月27日 19時27分51秒
作者レス
2024年08月22日 18時38分04秒
+20点
2024年08月21日 21時29分03秒
+10点
2024年08月16日 22時59分41秒
合計 3人 30点

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