マドハンドの行く手には… |
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第1話:マドハンドの日常 魔王バラモスが世界征服を企む世界。 マドハンドAとマドハンドBは、そんな世界の片隅で暮らしていました。 時々仲間に呼ばれ、勇者たちと戦います。 そして二本は他のマドハンドと混ざって勇者に挑み……返り討ちに遭う日々を繰り返していました。 ある日、マドハンドAがため息とともに愚痴をこぼします。 『こんなことを続けてなんになるんだ』 Aの意見にマドハンドBも『まったくだ』と同意し、続けます。 『勝てもしない戦いに駆り出され、踏んだり蹴ったり。 しかも勇者ども、俺たちを経験値としかみちゃいねぇ。 1時間も戦って、相手を強くするだけなんて無意味どころか利敵行為だろ』 AはBが自分とおなじ考えであることを知ると、深刻な手相で相談をもちかけます。 『俺に考えがあるんだが……少し聞いてはくれないか?』 『やめろ、それはモンスターとして、言ってはいけないことだ』 深刻な様子から、考えを察したBは慌ててAをとめます。 しかしマドハンドAには効きませんでした。 制止を無視したAは己の考えを伝えてしまいます。 『魔王軍を抜け、勇者の仲間にならないか?』と。 第2話:禁忌のマドハンド マドハンドBはマドハンドAの提案に指先を痛めました。 モンスターである彼らが魔王軍を抜けること、ましてや勇者一行の仲間になりたいなどと、考えてはいけないことです。 しかしAが提案したことを、Bも考えたことがありました。 『本気、なんだな?』 『ああ』 確認するBにAは迷いを見せません。 『だが、どうやって勇者一向に加わるつもりなんだ? 精神感応(テレパシー)でやりとりするモンスター(俺たち)と、音声なんてアナログ方法で情報交換をしている人間たちとでは、意思疎通が難しいぞ』 Bが問題を指摘すると、Aは自分の考えを伝えます。 『彼らが襲われているところを助けに入るのはどうだろう? 窮地のところを助けに入れば、こちらに敵対の意志がないことを察してもらえるはずだ』 Aはそう提案しますが、Bは手首を振り否定します。 『勇者一行(あいつら)の窮地って、どんなんだ?』 Bの指摘にAの精神は乱れました。 無理もないでしょう、彼らを窮地に追い込む方法があるなら、それを利用し一行を全滅させてしまえばよいのですから。 それができないからこそ、彼らは勇者の仲間になろうと考えたのです。 マドハンドでは、仲間を255体集めても勇者に敵いません。 より多くの仲間を集め、持久戦に持ち込んだところで、彼らは面倒そうに処理をするだけにちがいないのです。 いまとて、勇者一行が一時間で狩りを切り上げるのは疲労が理由ではありません。経験値上限というモンスターには理解できない謎の法則があるからに過ぎないのです。 それに勇者一行には、魔王どころか大魔王すら余裕で討伐できる実力があります。 それでも経験値稼ぎを続けているのは、裏ボスを短時間討伐するための準備をしているにすぎません。 世界平和にまったく影響のない裏ボスに挑むため、膨大な経験値をかき集めているのですからサイヤ人のごとき戦闘狂と言えるでしょう。 『……あいつらとて生物。なにかしら弱点はあるはず』 Aの発した思考は、事実というよりも願望に近いものでした。 それを感じ取ったBは慰めるように同意します。 『そうだな、根気よく観察を続ければなにかわかるかもしれん。 もし観察中に窮地に陥るようなことがあれば、それを利用しても良いだろう』 そんな都合の良いことが起きるとは到底思えません。 それでもAを慰めたのは、Bも勇者に討伐され続ける日常から抜け出したいと願っていたからでした。 第3話:マドハンドの観察 マドハンドAとマドハンドBは、勇者一行の仲間に加わるため、その観察を開始します。 それにより色々なことがわかりだしました。 勇者一行は四人でパーティーと呼ばれる編成を組んでいます。 リーダーである勇者は、まだ幼さの残る少年です。 しかし奇跡の力を宿した神聖な武具と、都市を蒸発させたことで禁忌指定された凶悪魔法を駆使する壊れキャラです。 前も後も使える万能キャラ(オールラウンダー)で、単機(タイマン)で大魔王を討てるほどの実力者です。 しかしそれ以外のところでは上着の前後をまちがえたり、ピーマンの入った料理が苦手だったりと、子どもっぽい面もあります。 防御の要となるのは戦士です。 赤い重厚な鎧と堅く大きな盾を装備した戦士は、神獣系の超大型モンスターの攻撃すらものともしません。 彼が先頭に立ち攻撃を引き受けることで、後衛は安心して詠唱の長い魔法に集中できます。 また、派手さこそないものの攻撃力も侮れません。幸運にも魔法の効果範囲から外れたモンスターを両手斧で打ち倒す、締めの役目も担っているのです。 職人気質なのかいささか無口で、パーティーの中ではやや孤立しているようにも見えますが、それが問題につながることもなさそうでした。 前衛に立つ勇者と戦士をサポートするのは、美麗な女僧侶の役目です。 僧侶というと回復魔法により、怪我の治療を行うことが役割のように思われますが、彼女はちがいます。 死霊系モンスターや、力量(レベル)の低いモンスターを退散魔法(ニフラム)で瞬く間に消滅させる積極性に富んでいます。 それでいて防御をおろそかにしているわけではなく、高度な防御魔法をあらかじめ仲間にかけておくことで、回復の手間を省いているのです。 彼女の防御魔法を貫く攻撃を繰り出すのは、マドハンドの手では困難を極めます。 それならばと、からめ手の得意なモンスターが、毒や麻痺攻撃を仕掛けても、抵抗魔法ではじき返し隙がありません。 人間界で疫病が流行したときも、彼らだけはマスクもなしに平然と人混みを歩いていととのウワサです。 また女僧侶は働き者で、戦闘以外でも幼い勇者の着替えや入浴の世話も甲斐甲斐しく行っています。 ある意味、勇者にとって一番重要な人物と呼べるでしょう。 そして誰よりも手に負えないのが、白いヒゲを蓄えた魔法使いです。 人間は年を経ると弱体化すると言いますが、この老魔法使いは例外のようです。 勇者にひけをとらないほど強力な攻撃魔法で、地形もろともモンスターを吹き飛ばします。 魔法のバリエーションが多いため、勇者よりも質が悪いかもしれません。モンスターたちが入念な防御を準備してもめざとく欠点を暴き出し、適した魔法であっさりと攻略されてしまいます。 魔法使いの弱点といえば肉弾ですが、この老魔法使いには当てはまりません。 モンスターの攻撃をひらりとかわして、ものともしないのです。 時折、女僧侶から拳で叱られていますが、笑顔でやりとりしている様子からして、仲間割れを願っても無駄でしょう。 『あんな連中に狙われる魔王様たちが哀れに思えてきたな』 『それを言ったら、毎日ボコボコにされている下っぱ(俺たち)の方が辛いだろ』 嘆息するマドハンドAの思考に、マドハンドBはしみじみと返しました。 第4話:誤解するマドハンド 『ついに見つけたかもしれん』 マドハンドAは、己の手記を見返すつつ、マドハンドBに伝えます。 『なにをだ?』 『もちろん、勇者一行の仲間になる方法をだ』 その返答にBは驚き、混乱しかけました。 しかしそれ以上に興味が勝り、食い入るようにたずねます。 あまりに勢いがつきすぎて泥(マド)が混じり合うほどです。 あまりの勢いに気圧され、Aは先ほどの意見を撤回します。 『いや、いまのは言い過ぎたかもしれん』 『それでもなにか気づいたんだろう? 教えてくれ!』 Bは興味を隠せません。 Aはそれに自信なさげに答えます。 『見たんだ。老魔法使いが女僧侶の尻をもんでいるところを』 『……それがなんだというんだ?』 発言の意図がわからず、Bは戸惑っています。 『考えるに、尻を触るという行為は、人間たちにとって親密な者同士がおこなうスキンシップなんだ』 『そうなのか? たしかに尻を触る場面なら頻繁にみかけるが、女僧侶から叱られ、鉄拳制裁を受けていたぞ』 Aの推論にBは疑問を投げる。 『そこだ。そこが重要なんだ』 首狩り族の斧すら容易に回避する老魔法使いが、肉体的にはそう協力ではない女僧侶の攻撃を回避できないわけがない。 にもかかわらず、攻撃を受けるのには理由があるにちがいないとAは主張しました。 『故にスキンシップか』 その推論にBも納得します。 考えてみれば、肉体的耐久力に乏しい老魔法使いが、回避できないほどの攻撃を受けても、瀕死になるようなことはありません。攻撃する側も手加減をしていると考えるのが打倒でしょう。 ならば尻を触るという行為が、スキンシップであるという考えに説得力が生まれてきます。 『しかし他の仲間とはやっていないぞ? スキンシップであるなら、勇者や戦士の尻も狙うべきだろう』 その推論には穴があると、Bが指摘する。 『戦士についてはそういう性格なのではないか? マドハンド(俺たち)にだって、呼ばれても集まらないやつはいる』 『では勇者は?』 『彼は幼体ゆえに未熟なのだろう。 戦闘においては鬼神をも凌駕しうるが、普段は周囲を頼りっぱなしだ。 それに水浴びの時、ふたりきりになると女僧侶は勇者の手をとり、自分の胸を揉ませている。おそらくは練習させているのだろう』 Aの回答にBも『そうだったのか』と納得する。 『ということは、女僧侶の身体を揉めば俺たちも、彼らの仲間になれる……のか?』 『少なくとも、敵意がないことは伝わるはずだ』 『……………………』 希望の星が見えたはずなのに、ふたりのやりとりはそこで止まってしまいます。 彼らマドハンドは、勇者一行に見つかれば、即座に討伐されてしまうのです。 さらに前衛のふたりは強固な鎧で身を覆い、しんがりを務めるのは回避の鬼である老魔法使い。 回避と防御力で劣る女僧侶を狙うのが常道でしょうが、中衛という安全なポジションに位置した彼女を狙うのは困難を極めます。 それに気づいた彼らは、逃げるオアシスの正体が蜃気楼であると思い至った旅人の心境でした。 第5話:マドハンド集う マドハンドAとBは、勇者一行を観察し続け、人間のスキンシップを模倣する計画を立案しました。 それは女僧侶の柔らかな尻を揉むことです。 しかしモンスターであるマドハンドは見つかるだけで警戒され、女僧侶に近づくことすら許されません。 『あるいは、俺達が人間の仲間になろうと言うのが、そもそもの間違いなのかもな』 計画の頓挫にAは嘆息します。 そんな彼にBは平手打ちをしました。 『バカヤロウ! 簡単に手のひら返しやがって。 諦めたらそこで終わりだ。ここまでやってきたことを、全部なかったことにしちまうつもりかよ』 Bの情熱(パッション)にAは手のひら(人間の胸に相当)を打たれた思いです。 ですが、勇者パーティーの隙をつき、女僧侶の尻を揉むための作戦はいつまでも出てきません。 そんな彼らの前にマドハンドCが現れました。 『おまえら、こんなところでなにやってんだ?』 そうたずねられた瞬間、AとBに緊張が走ります。 魔王軍のモンスターでありながら裏切り、勇者の仲間になろうとしているなど、指と指の間を裂かれようとも教えるわけにはいきません。 必死に言いつくろおうとするAとBですが、その場しのぎの言い訳は、爪に泥が挟まったものになり、単純なマドハンドCすらだますことができません。 『おまえら最近付き合い悪いじゃん。 仲間から呼ばれても全然出てこねーし』 Aは『そんなことはない』と弁明しますが、『いや、そんな事ある』と、いつの間にか増えたマドハンドDが否定しました。 C1本でも言いくるめられないのに、Dと2本になられたら難易度が倍増します。 しかもマドハンドの数はまだまだ増えていきました。 仲間の仲間も集まり、あたりがマドハンドでいっぱいになるほどです。 しかしAとBにとって、それは好機でした。 マドハンドの本数が増えたことで、場の統制が効かなくなります。 話題は、AとBの付き合いの悪さから、勇者一行が強すぎるだの、どうすれば彼らをやり過ごせるのかというものへと移り変わっていきます。 このまま疑いをそらすことができそうだと、AとBは手のひらをなで下ろしました。 しかし、仲間が画面(視界)からはみ出すほどほど集まった頃、一本のマドハンドが『ミーの話を聞くザンス』と提案したことで、流れがさらに変わります。 その場のマドハンドたちに注目される中、インテリ自慢であるマドハンドIが自分には計画があり、それに協力して欲しいと仲間に訴え出したのです。 そして驚いたことに、Iの計画はAが計画したものとおなじ『勇者の仲間になる』というものでした。 第6話:驚愕するマドハンド 『勇者の仲間になる』 驚いたことにマドハンドIの計画は、Aとまるでおなじものでした。 『このまま勇者一行と戦っても意味がないザマス。 むしろミーたちが頑張ることで、かえって相手を強くするだけザンス。 なんとしても、この負のスパイラルから抜け出すザマスよ』 そしてそのためには、勇者の仲間になることが最善であるとIは主張していました。 自分とおなじ考えのマドハンドがいたことでAはうれしくなりました。しかしその反面で疑問も生じます。 どれだけ有効そうな計画でも、実行できなければ意味がありません。 そしてこれまでにAは、そのことを痛感していたのです。 『「勇者の仲間になる」っていったい、どうやってなるつもりだ?』 たずねるAにIは短く、きっぱりと応えます。 『ダンスザンス』と。 『不思議な踊りか?』 Iの意図がわからず、Aはたずねます。 IはAの質問に手首を振って応えると、自分の考えをその場の皆に伝えます。 マドハンドとおなじように、人間にも色々なちがいがあります。 得意なこと不得意なこと。色の濃淡。体型の凹凸やその堅さ。体毛がツルツルかそうでないか。オチンチンの有無も個体によってそれぞれです。 『そしてそれらの障害をダンスは乗り越えられるザンス』 Iはきっぱりと言い切りますが、Aは疑いを拭えませんでした。 『ただのダンスで、勇者の仲間になれると?』 Aの質疑にIは『無理ザマス』と手首を振ります。 『だったら、計画が進行しないじゃないか!』 肩透かしな主張にAは起こりますが、Iは勘違いをただします。 『ただのダンスじゃ無理ザンス』 その言い直しに、Aもピンとくるものがありました。 『相手を説得するにはインパクトが必要となるザマス。 ちょっとやそっとのインパクトでは勇者一行の魂を揺さぶるようなダンスはできないザンス。 でもミーたちならではの方法で、それは解消可能ザマス』 Iの出したヒントからAは『数か』と納得します。 すでに周囲には、数えきれないぐらいのマドハンドが集まっています。 『この本数で踊れば、さぞかし壮観なダンスとなることだろうな』 ワンテンポ遅れてIの計画を理解したBも、その計画ならば成功しそうだと納得しました。 『わかった、おまえの考えに賛同する。是非とも協力させてくれ』 そう言うとAはIと、軍隊ガニの甲羅よりもかたく握手を交わすのでした。 第7話:マドハンド イズ ダンシング 『いよいよだな』 マドハンドAは感慨深げに仲間たちを見回します。 マドハンドIの提案から、月日が経過し、よりたくさんのマドハンドが勇者の仲間となるために集まりました。 マドハンドAとマドハンドBの二本だけで始まった計画が、とてつもなく壮大なものへと変貌しています。 それだけに成功の期待も大きなものでした。 本数が増えた分、ダンスをシンクロさせることは困難となりましたが、練習を重ねることで補ます。 いまならば、どれだけ大量の仲間が集まっても、踊りに乱れが生ずることはありません。 また、その間に、世界のルール(システム)の変更も発生していました。 運営(神)に要望を送ることで、モンスターの同時出現数も1023匹まで引き上があがったのです。 その要望は、より多くの経験値を獲得したい勇者側からのものであるとも噂されていますが、真相は定かではありません。 そもそも、どうして1023という半端な数なのか。2の十乗から1を引いた数と言われても、モンスターにはとうてい理解できないのでした。 とにかくAは、千匹を超える大量のマドハンドの高品質なダンスが、勇者たちの心を動かすだろうことに、ひと欠片の疑問も持ってはいません。 決戦の地はオリビア岬と定められました。 数の利を生かすには広い場所が必須。 また雄大な背景を利用することで、演出に磨きをかける狙いもあります。 他にもこの場所が、勇者たちがレベルアップに利用している狩り場に近く、誘導が容易いだろうということもありました。 マドハンドたちは、勇者一行が現れるのを、いまかいまかと待ちわびます。 そして待ち伏せを開始して三ヶ月目の朝、とうとう勇者一行が現れました。 『来たぞ!』 精神感応(テレパシー)で指示を飛ばすと、マドハンドたちは事前の練習(リハーサル)通り、勇者一行を囲います。 大量のモンスターからの不意打ちに、さすがの勇者一行にも戦慄が走りました。 されど相手がただのマドハンドであると確認すると、すぐに余裕を取りもどします。 彼らにとってマドハンドとは、経験値ポットにしかすぎないのだから当然です。 それでも百戦錬磨の勇者一行は、不意を打たれたことを理由に万が一に備えます。 中・後衛である女僧侶と老魔法使いが防御魔法を唱えたのです。 しかしそれは失敗でした。 守備を固めたところで、マドハンドたちに攻撃の意思はありません。 役に立たない魔法を使ったことで、彼らはマドハンドたちに先手を譲ったのです。 近隣の森に隠れている大魔神が、連絡役から知らせを受け、用意しておいた太鼓を叩き始めます。 いつもなら、直接殴りかかる大魔神でしたが、この日の彼はひと味ちがいました。 大魔神の叩く太鼓は、力強い音をあたりに響かせ、マドハンドたちに良い影響を与えました。 まるで加速魔法(ピオリム)の影響を受けたかのように、マドハンドたちの動きがキレッ、キレになります。 ――これならばいける 練習以上にたくましい支援を受けたマドハンドAは、半ば計画の成功を確信します。 そして事前に用意しておいた、光る棒(サイリウム)を握り込むと、異世界でオタ芸と呼ばれる動き(ムーブ)で勇者一行を翻弄しました。 見慣れぬ光がグルグルと渦巻き、マドハンドたちの踊りは不思議な効果を勇者たちに与えます。 『効いてるザンス。ミーたちのダンスが勇者たちに効いているザマスよ!』 計画の立案者であるマドハンドIが興奮して騒ぎ立てます。 彼の計画は信じるに値するものでしたが、その実行にIはなんだかんだと言い訳をし、ダンス練習には参加していませんでした。 この場に来ていたことにさえ、マドハンドAはいま知ったところです。 しかし問題は他のところにありました。 確かにマドハンドたちのダンスは勇者一行に予想外の効果を発揮しています。 しかしこのダンスは、彼らの仲間になるためのもの。 友好の表現で相手を苦しめて、本当に計画は順調に行っているのでしょうか。 Aの手のひら(人間の胸に相当)に不安を握りました。 しかし踊りを中断すれば、勇者一行の反撃が始まるのは明白。 そうすれば計画は崩壊し、一方的な大虐殺が始まります。 そして警戒心を強めた勇者たちは、決して彼らに心を開くことはないでしょう。 『確かに勇者たちに多大な影響を与えている。だがこれは感動とはちがうのではないか?』 となりで踊っていたBも同様の不安を握っていたようです。 自分たちの行動が、目的とちがう結果を引きだしていることにAとBは戸惑い、Iは無関係に狂喜しています。 そして勇者史に残る事件がここで発生します。 ドッカ――ン! なんとそれまで眠っていた火山の活動が、マドハンドたちの生み出す強烈な振動で再開されたのです。 山頂が吹き飛び、マグマが山肌を流れてきます。 さらにはひび割れた大地は崩落し、その破片は海に飲み込まれていきました。 それにはさすがの勇者一行もあらがえません。 こうして彼らは、マドハンドもろとも海の藻屑となって消えたのでした。 第8話:そして伝説のマドハンドに…… 『此度の働き、誠に見事である』 勇者を打ち倒したことで、マドハンドAは大魔王から直々の賞賛を受けました。 マドハンドIがその場にいれば己の功績と主張したでしょう。しかし彼は勇者とともに冷たい海に沈んだまま回収されていません。 マドハンドBは自分はサポートしただけで、功績はAにこそあると辞退しました。 『深海に沈んだことで、勇者どもは当分復活ができないだろう』 大魔王はたとえ勇者といえど、死体がなければ復活は容易ではないと教えてくれます。 そしてオリビアの岬には何者も立ち入れぬよう、魔王に結界を張らせておくので、当面の安全は確保できると保証してくれました。 マドハンドの功績は単に勇者一行を討伐したことに押しとどまらず、作戦を練り条件を整えれば、非力なモンスターでも勇者を打倒しうるという希望を与えたことにもあります。 Aの武勇伝を聞いたレベル1スライムまでもが、打倒勇者を夢見て冒険をはじめたと、楽しげに教えられました。 マドハンドAとしては、当初の目的と大きく離れた結果にもかかわらず、マドハンドの本数よりも多いモンスターから褒められて困惑しています。 されど、大魔王からの褒美を断るほど無欲でもなく、ありがたくそれを頂戴することとしました。 マドハンドAが大魔王から受けた褒美。 それは人間の街でした。 そこに住む人間を痛めつけることで経験値を稼ぎ、安全にレベルアップするための施設にするよう説明を受けています。 その際、全滅させてしまうと新たにつれてくるのが面倒なので、上手く繁殖させて使うようにとアドバイスされました。 つまりは勇者たちがマドハンドを使ってやっていた経験値稼ぎ(無限増殖)を、マドハンドが人間の待ちを使ってやるということです。 大魔王から頂いた人間の街は、だいぶ痛んでいました。 オリビアの岬が近いことで、噴火の影響があったのかもしれません。 人間の数も減っているので、まずは衣食住を整えてやらないと、全滅されかねません。 街の運営にはマドハンドBにも手伝ってもらうこととしました。 『これで本当に良かったのか?』 街の運営を手伝いながら、Bがたずねます。 それにAは『いいわけがない』と答えました。 勇者一行を倒したのは偶然の産物にしかすぎません。 彼らが甦れば、モンスターは以前よりも早いペースで狩られることとなるでしょう。 恨みの中心であるマドハンドなど、絶滅させられてしまうかもしれません。 『だから今度こそ、奴らの仲間にならなければならん』 なので、それまでに有効な手を見つけておかねばならないとAは告げます。 『そしてこの街は、それに役立つと思わないか?』 Aは街の人間をながめながらBにたずねます。 『どうするつもりだ?』 『まずは街の人間と交友関係を結ぶ。 家畜としてではなく、友人として扱うんだ』 『精神感応(テレパス)も使えない相手にどうやって……まさか』 BはAの考えを察しました。 『女僧侶にできなかった、あの手を使うのか!』 その通りであるとAは手首を前に倒し、Bの考えを肯定しました。 『彼らは勇者一行のような化け物ではない。 我らでも柔らかな部分を揉むくらいのことは、十分できるだろう』 『そうやって仲良くなってから、勇者との交渉に役立ってもらうつもりなのだな?』 肯定するようにAは手相を深めてみせます。 そしてマドハンドAの見当違いの努力は、多くの性的被害者を生み出し続けるのでした。 Fin |
HiroSAMA 2024年04月26日 20時43分11秒 公開 ■この作品の著作権は HiroSAMA さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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