【短編】魔界侵蝕 |
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<世界樹大聖祭> 俺はケイン、職業は剣士だ。まだ十五歳になったばかりだ。辺境警備の戦士団に所属して、たいくつな毎日を過ごしている。 戦士団は、弓兵、槍兵、魔法使い、歩兵で構成されている。 俺は歩兵、ときどき槍兵だ。午前中に戦闘の手ほどきを一通り受けたあとは、周辺の開拓農家の手伝いをしている。農民として、自立できるくらいには、なったと思う。 そんな平凡な日常は、老魔法使いの一言で終わりを告げた。 「世界樹大聖祭に招待された。道中の警護をたのむ」 「俺みたいな若造でいいのですか?」 「形だけの役目だ。気楽に祭りを見物していればいい」 近頃は国同士の争いもない。世の中は豊かで平和になった。盗賊はめったにおらず、魔物がでるという話も聞かなくなった。 俺は戦士団の中では一番若い。見習い扱いだ。いなくても戦士団の仕事に差支えないから選ばれたのだろう。 道中は何事も無く、二十日ほどで聖都についた。聖都は世界樹の中にあった。 世界樹は天空をすべて覆うほど大きかった。巨大な幹が、前方をふさいでいる。 世界樹へとつづく道の途中に関所があった。槍を構えた衛兵たちが、俺たちを止める。 「通行証を見せてもらおう」 老魔法使いは巻物を広げた。上質な紙には複雑な文様が描かれている。 一人の衛兵が、巻物をながめながら尋ねた。 「名前と職業は?」 老魔法使いは、杖にすがりながら答えた。 「ワシの名はサイモン、魔法使いだ。連れの者はケイン。ワシを護衛する剣士だ」 俺は、『同じ身分の相手に対する礼』を取りながら答えた。 「剣士のケイン、十七歳になる。魔法使い殿を護衛している」 二歳サバを読んだ。なめられるといやだからね。 自分の年齢を知らないヤツは少なくないから構うものか。 衛兵は、巻物を片づけながら、抑揚のない声で尋ねた。 「旅の目的をうけたまわろう」 分かっていて質問した。そんな気がした。 老魔法使いは顔をあげて胸をはった。杖をもったまま両手を大きく広げると、はっきりとした声で答えた。 「光の女王に招かれ、大聖祭に参列するためにここに来た!」 芝居じみていた。祭りの予行演習かな。 衛兵たちは槍を引いた。老魔法使いに巻物を返して丁寧な礼をする。 「長旅ご苦労様でした。宮殿内に宿を取ってあります。ごゆるりとお過ごしください」 こうして、俺たちは聖都へ、世界樹の幹の中へと入って行った。 幹の中は巨大な洞窟になっている。都が築かれており、二千人ほどが世界樹の中に住んでいるそうだ。 老魔法使いが言った。 「八千七百年前には、宮殿だけが世界樹の中にあった。あれからずいぶんと大きく育ったものだな」 幹の中に宮殿が収まっていたなら、充分に大きいと思うけどなあ……、って、魔法使い様は当時の事を実際に見てたのか? いくらなんでも、そんなはずは無いよな。 今から八千七百年前に、世界は魔界からの侵蝕をうけた。この時には、世界樹の加護をうけた英雄たちの活躍によって、魔界侵蝕を退けることに成功した。 それ以来、撃退の成功を祝い、魔界侵蝕が二度とおこらない事を祈って、夏の満月の夜に大聖祭がおこなわれるようになった。 俺たちは、その大聖祭に招かれたわけだ。 当時の英雄は、剣士、魔法使い、神官、賢者であった。そう語り継がれている。 俺は祭りで剣士の役を割り振られていた。 「聞いてませんよ!」 「知らせていたつもりじゃったがなあ」 二十日かけて旅をしてたのだから、教えておいてくれよ。老魔法使い様は、すこし物忘れが始まっているようだ。しかたないな。 老魔法使い様の脇に立っているだけでよく、そのあと美味い飯が食えるそうだ。まあ、いいか。 その日は、宮殿の客間に案内された。とてつもなく豪華な部屋だった。光の女王の侍女たちが付っきりで俺たちの世話をしてくれた。 宮殿や都の中を案内してもらった。 祭りの当日は、午後から支度をした。 俺は剣士なので、魔法の鎧と魔法剣を身につけた。祭り用だから、軽くて美しく、キラキラと輝いている。 夕方になると、俺たちは都の中心にある広場に案内された。 広場には人があふれていた。宮殿を背にして舞台が作られていた。舞台の真ん中に光の女王の玉座が用意されている。 角笛が高らかに鳴り響いた。喧噪がゆっくりと治まってゆく。 舞台の脇から兵士が大声で叫んだ。 「聖都に集いしすべての民よ、謹んで拝聴せよ。ここに世界樹大聖祭の開催を宣言する。これより魔界からの侵蝕を撃退する儀式をとりおこなう!」 俺たちは、玉座の脇へと案内された。 立ってるだけでいいと言われても緊張するなあ。 魔法使いは御高齢だが、神官もかなりのお年だった。まあ、名誉職みたいなものだからな。巫女の乙女が付き添っている。十四歳くらいかな。結構かわいい。 とおりすぎるときに声をかけてみた。 「君の名は?」 巫女の乙女は、驚いたような表情で俺を見た。 名前を尋ねてはいけなかったのか? 一瞬のためらいの後に、短い返事があった。 「フレイア。神官様はシルフィード」 特別な意味のある名前だ。俺のような辺境の兵士でも知ってるぜ。 炎の加護をうけた巫女が風の加護をうけた神官様に付き添っているのか。 老魔法使いがつぶやくように言った。 「賢者はゲオルグだ」 大地の加護をうけた者の名だった。 賢者は壮年で、がっしりしている。大地のようにゆるぎなく、頼りになりそうだ。 舞台の脇でふたたび兵士が大声をあげた。 「かくして、英雄たちはこの地に集まった!」 人々は俺たちの方を向いて大歓声をあげた。 照れるな。 人混みが割れて道ができる。 光の女王を取り巻くようにして神聖家臣団が入場してきた。 魔法使いがつぶやいた。 「女王の名はルナ・ブライト」 月光の加護をうけた名だ。だから光の女王なのか。 広場の中央にお立ち台が運ばれてきた。 女王がその上に立ち、家臣団が女王を護るように取り巻いた。 大聖祭はクライマックスを迎えた。 <怪奇月蝕> 世界樹の幹に開いた巨大な裂け目から、皓々と輝く満月が見えている。 女王は月に向かって両手を大きく広げ、よくとおる声で語り始めた。 「かつて、この世界は魔界からの侵蝕をうけた。魔界からの侵蝕は、世界樹の加護をうけた英雄たちの活躍によって退けられた。それから八千七百年の月日が流れた」 女王の声は、広々とした世界樹の空洞内に反響して朗々と響いた。 「伝承によれば、魔界侵蝕は次のように起きたと語られている」 広場には多くの人々が集まっていた。しかし、話声ひとつ、物音ひとつ聞えない。静寂だけが広場に満ちていた。 「魔界侵蝕は、満月の蝕から始まった。月が闇に呑まれて光を失うにつれ、地上に魔界が出現した。魔界はこの世界と重なりあって世界と同化し、全てを喰らおうとした」 月が陰り始めた。満月が欠けてゆく。広場に集まった人々からざわめきが起きた。 女王は、かまうことなく言葉を続ける。 「蝕とは、虫が皮膚を食い破って侵入してくることを言う。魔界は、さまざまな場所から、この世界の境界を食い破って侵入してきた」 広場には、多くの松明が灯されている。炎は、変わることなく燃え上がっている。それなのに、闇が広場に満ちてゆく。 「魔界に侵蝕された森では、木々が黒く染まり、幹は節くれだって歪み、枝は人を捕えて喰らうように変化した」 人々が騒ぎだした。広場が喧噪につつまれてゆく。女王は言葉を続ける。 「魔界に魅入られた者は魔物へと変身した。人を襲い喰らうようになった。魔物に同化しきれなかった者は、異形の姿のまま命を落とした。さらに、おおくの異変が人々におきた」 俺のとなりで神官様が胸を押さえてうずくまった。身体に異変がおきている。 神官様の耳が大きくひろがり、紺色になった。背中が膨らみ、服を引きちぎって革の翼があらわれた。コウモリに翼にそっくりだ。 手が濃い青色にそまり、節くれだった指の先に、鋭い爪が生えてきた。 神官様は、こちらを向いた。顔も青色になり、骸骨のように痩せこけている。大きく裂けた口の中に、牙のように鋭い歯が無数にみえる。 神官様は咳きこむと、そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。 えっ? これは、世界樹大聖祭の出し物だよな。 でも、まるで本物の魔界侵蝕みたいに見える。 まさか…… まさか、本当に魔界の侵蝕を受けているのか? 女王が声をはりあげる。 「賢王ダリウスを依代として、魔界との回廊が開いた。ダリウスをつうじて魔界はこの世界へとなだれこんできた。そして、賢王ダリウスは魔王となった」 女王の白い衣服が、裾の方から、灰色へ、さらには黒へと変わってゆく。女王の頭の横に、うずまくような形の太い角が生えてくる。 悲鳴と怒号が広場にあふれた。 老魔法使いが叫んだ。 「あれは魔王だ。力を蓄える前に討伐せねば世界が滅ぶぞ!」 俺は、あわてて広場の中央をめざして走った。 老魔法使いの言葉が続く。 「すぐにヤツの口をふさげ。魔王は禍々しい言葉を発する。強い言霊によって、この地に魔界が出現するぞ!」 魔王となった光の女王を中心にして、取りまくように神聖家臣団が立ちふさがっている。その外側には多数の人々が広場を埋めつくしている。 俺は人々をかき分けて、魔王の元へと急いだ。 魔王は両腕を広げた。それから、なにかを抱くように胸の前に腕をくむと、こぶしを握って右腕を突きあげた。 家臣団を取りまいていた人々が一斉に膝をついた。そのまま前のめりに倒れてゆく。 人々の身体から真紅の霧が立ちのぼる。霧は、緩やかに渦をまいて魔王と家臣団を取りまき、赤黒く変色していった。 霧によって空中に複雑な文様が描かれる。赤黒い紋様が、ゆっくりと床に降りてくる。 老魔法使いの叫び声が聞こえた。 「あれは魔法陣じゃ!」 広場の中央に巨大な魔方陣が描かれた。不吉に赤黒く輝く魔方陣は、魔王となった光の女王と神聖家臣団を呑みこんだ。 魔方陣が周りに倒れた人々を、渦を巻くように吸いこんでゆく。魔方陣は渦巻きながら縮んでゆき、俺の眼の前で消えてしまった。 床が大きくゆれた。世界樹がゆれている。何度も揺れがくりかえされる。そのたびに無数の悲鳴があがった。 「阿鼻叫喚の地獄が出現したか」 後ろから高笑いが聞こえた。賢者があざけるように笑っている。その顔は染料で染めたように青かった。 老魔法使いがつぶやいた。 「魔界の者となりおったか、賢者よ」 魔界の賢者は、背中に生えた巨大なコウモリの翼をはためかせて飛びあがった。そして、世界樹の裂け目をとおり、いずことも知れぬ彼方へと飛び去っていった。 老魔法使いがガックリと膝をついた。 俺は、思った。 しゃべってる暇があるなら、逃がす前に攻撃魔法の一発でも打ちこんでおけよ。 世界樹の外に白いものが舞いはじめた。その数が増えてゆく。裂け目から舞い込んでくる。 巫女の乙女がその一つを手にしてつぶやいた。 「世界樹の葉だわ。枯れてる。世界樹の加護が失なわれた……」 それって、すごくまずいのでは。 <魔界侵蝕> 魔王が消えた。どこかに転移したようだ。どうしたらいいのか? 俺は、老魔法使いのところに戻った。 老魔法使いがつぶやいた。 「魔力を、すべて、奪われた……」 それって、ひどくまずいのでは。 青黒く変身した神官は、倒れたままぴくりとも動かない。 巫女の乙女が言った。 「神官様は退魔の呪文を唱えていました。魔物と合体したから、自分の命を犠牲にして、魔物を退治なさったのです」 巫女の乙女の外見が変わっていた。耳がピンと立っている。密な毛におおわれている。ケモノの耳になっていた。 思わず尋ねた。 「その姿は?」 巫女はうつむいて、耳をなでながら答えた。 「私も魔物と同化したみたいです。神官様のおかげで心は奪われなかった。でも忌み子になってしまった」 「忌み子?」 「詳しいことは聞いてません。けれど、たぶん周囲に呪いを放ち、災いを引き寄せると思います」 巫女の乙女が呪いと災いの元になってしまった? そりゃあ、ショックだろうな。 でも、そんなにガッカリするなよ。 「その獣耳は可愛くてよく似合ってるよ、フレイア」 巫女の乙女は、俺の方を向いた。泣き笑いの表情だった。 「ありがとうございます。ええと、お名前をうかがっても?」 そういえば、自己紹介もまだだったな。 「ケイン。剣士のケインだ」 「ケイン様とお呼びしてもよろしいですか?」 「ただのケインでいいぜ」 「では、そう呼ばせていただきます、ケインさん」 笑顔が可愛いなあ。やっぱり女の子は笑っている方がいいよな。 そういえば、老魔法使いが、「魔力をすべて奪われた」とか言ってたな。 俺は老魔法使いの前に進み出て膝をついた。 「魔法使い様、ご指示を!」 どうせ俺にはどうしたらよいか分からない。分かるはずがない。だから下っぱとして働くことにした。 責任は丸投げだ。 よし、方針を決めたぞ。 我ながら完璧な対応だ! 老魔法使いは、しばらく考えて言った。 「今はまだ、魔界の先兵が進攻してきただけじゃろう」 この惨状がただの前哨戦だって……? 「時がたつほど魔界の侵蝕がすすみ、魔王は力を増してゆく。一刻も早く魔王を討伐して、魔界との回廊を閉じる必要がある」 前回は、英雄たちが魔王を倒して魔界の侵蝕を食い止めたのだったよな。 「しかし、魔王の転移した先がつかめておらぬ。まずは手分けして転移先をさがすべきじゃろう」 鎧を着た偉そうな人が老魔法使いに告げた。 「捜索隊を編成いたします」 宮殿を案内してもらったときに紹介されたな。たしか騎士団長、だったか。 「魔界の侵蝕によって、魔物が跳梁跋扈するようになるであろう。魔物と戦える者たちで編成すべきじゃろうな」 「残りの者たちは、いかがいたしましょう?」 「力無き者たちは、一カ所に集めて身を守らせるようにするほかあるまい。ただ、襲ってくる魔物たちは、時がたつほど強くなってくるはずじゃ。いつまでも持ちこたえることはできまい」 「了解しました。一刻も早く魔王の居城をつきとめ、討伐に向かいます!」 騎士団長は、付き従う騎士たちに指示をだしながら宮殿へと向かった。 魔法使いは、うめくように言った。 「この先も人間の中から、魔物に憑依される者たちが次々と現われるであろう。いつまで持ちこたえられるか……」 中天にかかる満月は、黒く染まったままだった。 広場でかがり火が焚かれた。騎士団や戦士隊の指示によって、祭りに集まった人々には、食事がふるまわれた。 祭りのために用意されていた食事だ。 兵士たちが、「食料と薪は十分にある」と告げて回った。祭りのために蓄えたそうだ。 希望者には毛布がわりのマントが配られた。 戦える者には宮殿に蓄えられた武器が貸し出された。 人々は聖都にとどまった。籠城の準備が整えられてゆく。 深夜に先遣隊から次々と知らせが届いた。 「道が険しい山で遮られている。夜間の登頂が困難なため、ふもとで野営する」 騎士団長が老魔法使いに報告する。 「平野だった南側だけでなく、川の流れていた東側、なだらかな丘だった西側も、険しい山が立ちふさがっているとのことです」 老魔法使いは、腕組みをしてつぶやいた。 「魔界侵蝕で大きく地形が変わっているのか」 宮殿の中に、重苦しい空気がただよった。 老魔法使いがつぶやく。 「新たにできた険しい山を越えるとなれば、道を作ることが必要となろう。かなり時間を要するじゃろうな」 魔法使い様、考えが口から漏れ出てますよ。 大丈夫かなあ。 騎士団長が告げる。 「祭りの参加者で工兵隊を編成します。幸い人手は十分にある」 そうか、農民なら土を掘るのは得意だよな。 柵を作ったり、家を修理したり、簡単な大工仕事にも慣れてる。 道路を作るならぴったりだ。 老魔法使いが方針を告げた。 「北の山脈にはすでに道がある。我々は飛翔族の里をたずね、援助を願いでてみるとしよう」 <忌み子> えらく寒いと思ったら、朝から雪が降っていた。 冗談じゃないぜ。今は夏の盛りじゃないか。 俺は寒さが苦手だ、ブルブル。 金属鎧では凍てついてしまう寒さだった。 俺は宮殿から毛皮のチョッキ、革の鎧と革の籠手、革の長靴を支給してもらった。 老魔法使いと巫女の乙女が魔方陣を刻んでくれた。物理防御、魔法防御、素早さが上昇するそうだ。 まるで山賊みたいな姿になった。 さらに自前のマントを羽織った。 老魔法使いは、俺や巫女の乙女と握手した。 手が冷たいから、他人の手のぬくもりが欲しかったのだろうな。 「むむ、ケインは強い魔力を持っているようじゃな」 俺は魔界侵蝕で魔力を得たらしい。 「姿は変わっておらぬが、体内に魔を宿しているのじゃろう。時がたてば魔が目覚めるかもしれぬな」 そうなっては困る。 早く魔王を倒して魔界の侵蝕を止めなければ…… 老魔法使いは、少しもあせっていなかった。 「うまくいくか、試してみよう」 老魔法使いは、俺に杖を構えさせて、呪文を唱えた。 「我かかげるは光輝の盾」 俺の前に大皿ほどの輝く魔方陣が現れた。 「我が敵を滅ぼせ劫火」 杖の先から拳ほどの大きさの火焔が飛びだした。 火焔はフラフラと飛び、積もった雪にあたると、シュボッと音をたてて消えた。 「何とか使えそうじゃな」 こんなしょぼい魔法では、敵を倒せそうにないのですけど…… 老魔法使いは、一人で満足そうに大きくうなずいている。 兵士が三人やってきた。 「護衛するよう、命令をうけました」 北への偵察隊に、三人の兵士が加わった。 兵士三人が前衛になり、老魔法使いと巫女の乙女が真ん中、俺が後衛という編成で北に向かって出発した。 目指すは飛翔族の里だ。 聖都から離れてみると、世界樹はすっかり葉を落としていた。幹が真っ白になっている。 本当に枯れてしまったようだ。 険しい山が世界樹を封じ込めるように囲んでいる。山は降る雪のために霞んで見えた。 老魔法使いがつぶやいた。 「世界樹を封じるために山を造ったのか。転移魔法を使ったことといい、簡単には魔王を倒させぬつもりのようじゃな」 前回よりも魔界の侵蝕が手ごわくなっているらしい。 しばらくは平らな道だった。少しづつ上り坂になってゆく。 雪が降り続いている。 まだ、歩みを妨げるほどではない。 俺たちは降り積もった雪を蹴散らしながら進んだ。 前をゆく巫女の乙女の獣耳がぴくりと動いた。 「ケモノの臭いがするわ。十頭以上で待ちかまえてるようね」 「ケイン、杖を構えて前にでろ」 俺は老魔法使いに言われるままに兵士たちの前にでた。 雪の中から真っ白な狼が湧いてでた。 「雪狼じゃな」 十数頭はいるようだ。 フレイアちゃん、大当たり! でも、これって、大ピンチじゃないか? 「我が敵を滅ぼせ劫火!」 老魔法使いの呪文とともに、杖の先から炎が噴きだした。 周囲にひろがり、すべてを覆いつくす。 炎はすぐにおさまった。あとには、黒こげになった雪狼の群れが倒れていた。 体から煙が立ちのぼっている。 でも、まわりの雪はほとんど融けていない。 まばらに生えた木々も、燃えていない。 凄いな。 老魔法使いが俺の手をギュッとにぎった。 ここは、ハイタッチするところでは? 「魔力はまだ残っておるな。魔力切れの心配はなさそうじゃ」 魔力残量を確認したらしい。 「すさまじい威力でしたね」 俺の言葉に、老魔法使いは事もなげに答えた。 「劫火とは、世界を焼きつくす炎のことじゃ。名前ほどの威力ではないわい」 恐いな。 魔法って恐ろしい。 半日ほど山道を登り、そのあとは沢にそって進んだ。それ以上の襲撃はなかった。 谷間のすこし開けた場所で夜を過ごすことになった。巨岩の陰に隠れるように小屋が作られている。利用させてもらった。 このあたりは地面が暖かかった。 河原に温泉が湧いていた。 天然の岩風呂だ。 それとも、誰かが岩を組んだのかな。 さっそく入った。 思ったより深かった。 「う~ん、気持ちいい」 山道を歩き続けたから筋肉が張っている。 湯につかっていると、ゆっくりと強張りがほぐれてゆく。 天国だった。 気持ちよすぎて眠りかけた。 ぽちゃりと音がした。 誰かが温泉に入ったようだ。 片目をあけたら、目の前にフレイアがいた。 生まれたままの姿だった。 フレイアは後ろをむくと、俺の肩に頭をのせた。 「深すぎて足が届かないの」 そ、そりゃ仕方ないな。 胸に手をまわして支えるのは…… まずいだろうな。 胸に触れたとたんに悲鳴をあげられても困るし。 腰に手をまわすのも…… いけない所に手が触れそうだ。 もっとまずいだろう。 結局、腹に腕をまわしてフレイアの体を支えることにした。 体が密着する。 フレイアの体はひどく強張っていた。 疲れているだけ、ではなさそうだった。 俺の腕の中で、フレイアは体をぐるりと回した。首に抱きついてくる。 真剣な顔で、上目づかいに俺を見つめる。 目がうるんでいた。頬も耳も赤い。 「ありがとう。嫌がらずに忌み子の私に触れてくれて」 フレイアはうつむいた。 俺の胸に顔をうずめる。 体をこまかく震わせながら、フレイアは嗚咽の声をもらし始めた。 忌み子は、周囲に呪いを放ち、災いを引き寄せる存在だと言ってたな。 そんなに気にしていたのか。可哀そうに。 穢れのない神殿の巫女だったのに、呪われてしまったのだ。衝撃だっただろう。 俺は、毎日食い物をめぐって醜く争って生きてきた。思いかえせば、穢れと汚れと欲望まみれの生活を送っていた。 生きるためには、きれいごとを言っていられない。 それが当たり前だった。 体内に魔を宿したと言われても、体を乗っ取られていないから、気にもしなかった。 そんな俺とは違うのだろう。 俺は、獣耳をなでながら、言ってやった。 「その耳は、すごく可愛いと思うぜ」 フレイアは、ギュッと俺に抱きついた。 「それに、俺が魔力を持つようになったのは、体内に魔を宿しているからだそうだ。ほかの皆も魔界からの侵蝕を受けてる。見えるか、見えないかの違いがあるだけだ」 俺の体内の魔力が、はっきりと感じとれる。 ま、まずい。 俺の中で魔力が暴走しかけている。 俺の言葉に魔が応じたのか? ならば、…… 「鎮まれ俺の左腕!」 辺境警備の戦士団で教えてもらった呪文を唱えてみた。 なんと! 効果があった。 俺の体内の魔力が落ち着いてきた。 ダメ元と思っていたのに、でたらめの呪文じゃなかったのか。 辺境の警備に戻ったら、お礼を言っておこう。 「ありがとう……」 フレイアは俺を見つめて言った。 まだ何か言いたそうだった。 「出るのか?」 フレイアは小さくうなずいた。 温泉から出るために、手を組んで足場にしてやった。 俺は、フレイアが小屋に戻るまで待って、温泉からでた。 岩はすべりやすく、手がかりがないので、出るのはとても大変だった。 カエルのように這いつくばって、ようやくのことで外にでた。 フレイアに見られなくてよかったよ。 <飛翔族の里> その後は、何事も無く飛翔族の里についた。 二、三回、飛翔族が上空を飛んでいた。 先回りして魔物を退治してくれていたのかもしれない。 飛翔族は、八千七百年前の魔界侵蝕のときに生まれた。新しい種族だ。鳥型の魔族が人間と合体し、種族として定着したそうだ。めったにない事だった。 人とはあまり交流せず、山を根城にしている。ただし、人と敵対しているわけではない。 空を飛べるので、切り立った崖に洞窟を掘って棲家としている。 誇り高い種族で、住居を巣と呼ぶと激怒するそうだ。 「自分たちは人間だ。鳥ではない」、と思っている。 気をつけよう。 崖の下の方に階段のついた洞窟があった。 客間、なのかな? 俺たちは、飛翔族の長老や戦士たちとその洞窟で対面した。 飛翔族の戦士たちは、かなり大柄な体格をしていた。身長は二メートル以上ありそうだ。たくましい腕と、鳥のような足を持ち、背中に大きな羽根が生えている。みな、短い槍を装備していた。 槍を持つのが正装なのかな? 老魔法使いが長々と挨拶をし、飛翔族の長老が長々と歓迎の言葉を返してから、ようやく話し合いが始まった。 こりゃ、時間がかかりそうだ。 居眠りしないようにしよう。 魔法使いが語った。 「満月の夜に魔界侵蝕が始まった。八千七百年ぶりのことじゃ。世界樹は枯れ、世界樹の加護が失われた。地形が大きく変わり、聖都は険しい山に囲まれて、外部へ出ることが難しくなった。さらに聖都を支配する光の女王が魔王となった」 「時がたつほど魔界の侵蝕がすすみ、魔王は力を増してゆく。一刻も早く魔王を討伐して、魔界との回廊を閉じる必要がある」 「しかし、魔王は魔方陣で転移して、どこにいったか分からぬ。転移先をさがす必要がある」 飛翔族の長老が応じた。 「夏の雪は魔界侵蝕のためか。危惧したとおりだったな」 「魔界侵蝕であるなら異存はない。共に立ち向かおう」 「魔王の居城をさがす役目はまかせてもらおう。魔王討伐にも加わらせてもらうぞ」 「ひとまず、このまま飛翔族の里で待っていてくれ」 飛翔族は、異変が『魔界侵蝕』と分かったとたんに全面的に協力してくれることになった。 近くを探索する者たちは、すぐに出発した。 遠方まで飛ぶ者たちは、荷物を用意してから出発した。途中で知らせを受ける手筈も、探索する者たちの間で整えられた。 手際が良すぎて、俺たちにはすることがなかった。 異変に気が付いたから、相談して準備はできてたのだろう。 俺たちは洞窟から出て飛翔族の出発を見送った。 <忌み子と卵> 洞窟に戻ると、飛翔族の女の子がいた。 奥の巣に座ってたから気が付かなかった。 おっと、巣と言ってはいけなかったな。 大きな黒い瞳で、じっと俺を見てる。不安そうだ。 おもわず守ってあげたくなるな。 ほかの飛翔族と姿が違っている。 腕がない。 肩から羽根が生えており、その先端に手がある。腕が羽根になってるのか。 背中全体が羽毛でおおわれてるようだ。 ほかの飛翔族よりも、鳥に近い姿をしている。 胸にすこし小ぶりな乳房がふたつあった。 飛翔族は卵を産む。メス……、じゃなくて女でも乳房はなかったはずだ。 じっと見てたら、羽根で胸を隠された。 ごめん、ごめん。 「その娘は忌み子だ」 俺のうしろから長老が声をかけた。 「忌み子……、ですか」 鳥に近い姿をしているから? ひどいな。気の毒に。 「ああ。誰とも交わることなく卵を産んだ」 無精卵か。ニワトリなら、ほとんどが無精卵だよな。 「孵ることのない卵ですね」 「そのはずだった。しかし、卵の中で仔が育っている」 「えっ、……」 「我らのいずれでもない。本人も否定している。ならば、それと知らずに魔と交わったのであろう」 「……」 「魔界侵蝕で生じた卵なら、ひとたび孵ればかならずこの世に大いなる災いをもたらすだろう。それゆえ、その前に滅さなければならない」 「お待ちください!」 フレイアだった。 「わたくしは巫女の乙女をつとめる者です。ここには邪悪な気配がなく、災いをもたらす者はおりません」 「この娘もそう申しておったが……」 「わたくしがこの里にあるあいだは、この卵と共にあり、邪悪な気配あれば、それを祓いましょう」 長老は、しばらく思案してから言った。 「巫女の乙女が祓うと言うなら、お任せしよう。よろしく頼む」 飛翔族は、魔族と人間が合体して生まれた。 でも、邪悪ではない。 だから、この卵だって邪悪とは限らない。 女の子は、卵を守ろうとしてる。 そして俺に頼ろうとした。 けれど、俺は役にたたなかった。 ごめんなさい。 本当に、ごめんなさい。 フレイアちゃん、ありがとう! <氷龍襲来> 世界が魔界からの侵蝕を受けたのだから、この世に無事な場所などあるはずがなかった。 飛翔族の里に到着して三日目の夜のことだった。里は氷龍の襲撃をうけた。 龍という生き物はとんでもなく強い。ふつうは群れをつくらない。だが、飛翔族の里を襲ったのは三頭の氷龍だった。 最初の見張りは、襲撃を里に伝える暇もなく氷龍に喰われた。一頭が見張りたちを追い回すあいだに、ほかの二頭が村を襲った。 里は突然の襲撃をうけた。 二頭の氷龍は、切り立った崖にもたれかかり、飛翔族が棲家にしている洞窟へと頭を突き入れて、次々と住民を喰らった。 飛翔族は、槍と投石を武器にして、すぐさま反撃した。 高空から急降下しての投石は、通常なら一撃必殺の威力を誇る。 しかし、巨大な氷龍の厚い鱗には、槍による攻撃も急降下による投石も、効果が無かった。 ほどなくして三頭目の氷龍が攻撃に加わった。飛翔族の里は抵抗むなしく氷龍によって蹂躙された。 俺は、凄まじい地響きで目をさました。 洞窟の入り口で外の様子を見ていた老魔法使いが俺の方をふりむいた。 「ようやく起きたか。この騒ぎのなかで、よく熟睡できるものじゃな」 六人の飛翔族が洞窟にやってくる。網を持っている。 「里が氷龍に襲われています。この網に乗ってください。我々が里の外へ逃がします」 老魔法使いは首をふった。 「ワシらも戦わせてくれ。ワシと剣士を一度に運べるかな? 氷龍の背中側に運んでくれれば打つ手はある」 飛翔族たちは、たがいを見つめ、うなずいた。 俺と老魔法使いは、網に乗った。 六人の飛翔族が網のはじを持って空中へと飛びあがる。すぐさま、目の前に巨大な氷龍の背中がせまってきた。 「我が敵を切り裂け風刃!」 魔法使いの詠唱とともに、俺の体から魔力が吸い上げられる。大気を巻き込み、鋭い刃となったことが、はっきりと感じとれた。 風刃は、加速しながら氷龍に襲いかかった。 魔術による烈風をうけて、氷龍の鱗が逆立った。何枚かの鱗が剥げ落ちる。 網が二人の体重でたるんだ。俺と老魔法使いは体が密着してしまった。なんとも動きにくい。 なんとか杖を鱗の剥げ落ちたところに向ける。 「我が敵を滅ぼせ業火!」 魔力が渦を巻いて収束し、高熱を発する。 杖から放たれた一条の黒い炎が、氷龍の身体に食い込む。鱗の下を広がってゆく。 「業火とは消えることのない地獄の炎じゃ」 魔法使いの言葉のとおりだった。 黒い炎は、氷龍の魔力を喰らいながら、急激に威力を増してゆく。氷龍の体内で黒い炎が荒れ狂う。 氷龍は断末魔の咆哮をあげてのたうちまわった。 魔法って、本当に怖いな。 いつのまにか高度がかなり下がっている。二人の体重を支えきれなくなったようだ。 もう一頭の氷龍がこちらを向いた。大きく伸びあがる。ブレスを吐く前兆だ。 まずい! 「我かかげるは灼熱の盾!」 俺の体から放出された魔力が、空中に複雑な模様を描いてゆく。さらに、収斂した魔力が注ぎ込まれて瞬時にゆきわたる。 魔力が融合する。 俺たちの前にまばゆく輝く魔方陣が展開された。 氷龍は、真っ白なブレスを放った。大量のダイヤモンドダストがきらめきながら押し寄せてくる。 ブレスは魔方陣と衝突して食い止められた。 ブレスを構成する魔力が魔方陣によって解きほぐされ、周囲に散ってゆくのが感じとれた。 「我が敵を滅ぼせ劫火!」 杖から放たれた炎は一直線に飛び、大きく開いた氷龍の口の中に吸いこまれていった。魔力が爆発的に膨れあがり、灼熱の炎が氷龍の体内を貫いた。 氷龍の巨大な体から、何条もの光の束が突きだした。光の束は増えてゆき、氷龍の体は膨れあがって爆散した。 周囲に大量の魔力が渦巻いた。 もう一頭の氷龍がこちらを向いた。すぐさま襲い掛かってくる。その巨体からは想像もできないような速さだった。 氷龍は大きな口を開けた。俺たちを噛み潰すつもりらしい。洞窟のように巨大な口が急速に迫ってくる。無数の牙が水晶のように輝いている。 「我が呼び声に応えよ僕(しもべ)!」 周囲に渦巻く魔力が一気に集まって人に似た形となった。 巨大な岩の人形が氷龍の前に立ちふさがっていた。氷龍の突進が食い止められている。 すごいな…… 「大地の僕よ、岩のこぶしにて氷龍をたおせ!」 岩の巨人は、氷龍の上顎と下顎をつかむと、一気に引き裂いた。氷龍は咆哮をあげてのたうった。 巨大な岩のこぶしを振り上げて、氷龍の頭を殴りつける。 二、三回と殴りつけたら、氷龍は動かなくなった。 凄まじい攻撃力だった。 俺と老魔法使いは、地上に降りたった。網から抜け出して立ち上がったら、飛翔族に取り囲まれた。 みな、興奮している。 一斉にしゃべりたてている。 老魔法使いが語りかけてきた。 「よく魔力がもったな……」 疲れ切った声だった。 老魔法使いは、俺に抱きついた。そのまま崩れ落ちる。俺は、あわてて老魔法使いを支えた。 皆が歓声をあげる中を、俺は老魔法使いをかかえて洞窟に戻った。 長老が洞窟に入ってきた。 よかった。長老も無事だったのか。 「どうなさった?」 「魔法使い様は、ひどくお疲れのご様子です」 横たわる魔法使いは、目を閉じている。冷や汗をかいている。 ひどく辛そうだった。 大活躍だったものな。 ご老体には無茶だったか。 長老はうなずいた。洞窟の入り口に立ちふさがり、外に集まっている皆をねぎらった。 大歓声があがった。 それから、魔法使いが疲労困憊していることを皆に伝え、洞窟への出入りを禁止してくれた。 しばらくすると、氷龍の特大ステーキ山菜添えと、氷龍の肉のスープが運ばれてきた。 老魔法使いは体を起こして、スープを少しだけ口にした。 横になって少し楽になったようだった。 俺も食事をした。 暖かいスープで体が温まった。ステーキを食べると、力がみなぎる感じがした。 氷龍の肉は、意外と美味かった。 <託された卵> 雪が降り続いている。 降り積もって、かなりの深さになっている。 降りしきる雪の向こうに、黒い満月が天空にそのまま留まっているのが見える。 魔界の侵蝕は続いている。 フレイアにシッポが生えてきた。 「これは山猫の尾じゃな」 と、老魔法使いが言った。 フレイアは短いズボンを穿くようになった。 付き添ってきた兵士のうち、二人の背中に羽根が生えてきた。二人は、あらたな飛翔族の仲間として歓迎された。 羽根は、まだ短いので飛翔できなかった。二人は里に留まり、羽根がもっと伸びるのを待つことになった。 一人が、魔族に体を乗っ取られた。 フレイアが気づいて祓おうとしたが、うまく行かなかった。 凶暴化したため、やむなく討伐された。 五日目に、魔王の居城を見つけたという知らせが届いた。 黒い満月の方向に二日ほど飛翔すれば到達するとのことだった。 偵察隊によると、地上を進む人族は積雪と地形の変化に苦戦していた。魔王城に到着するには十日以上かかると予想された。 「時がたつほど魔王は力を増してゆく。一刻も早く魔王を討つことが肝要じゃ」 老魔法使いの提言に従って、俺たちと飛翔族で魔王討伐隊が編成された。 「飛翔族は魔界侵蝕の影響を受けにくいようじゃ。確かな味方は頼りにできる」 人間は、魔物に乗っ取られる可能性がある。戦いの最中に裏切られたら大惨事だ。 少数精鋭で戦うのか。 納得だ。 中継地点に野営地を造るために、すぐに先遣隊が補給物資をもって出発した。 俺たちは、翌朝に出発することになった。 洞窟で休んでいると、飛翔族の忌み子がフレイアに話しかけてきた。 「ありがとうございました。飛翔族の里にいるあいだ、この卵と共にいてくださって」 フレイアは、複雑な笑みをうかべた。 あっ、照れてるな。 「いえ、結局なにもしませんでしたよ」 「あなたがいなければ、この卵は失われていました」 「そ、そうですか?」 飛翔族の忌み子は、しばらく黙っていた。 それから覚悟を決めた表情になった。 「ご迷惑なのは分かっています。でも、ぜひこの卵を連れて行ってください」 フレイアは驚いた。 「私たちは魔王城にゆくのよ。激しい戦闘になるわ。ここの方が安全よ」 「そうだよ。生きて帰れるか分からないのだぜ」 俺も思わず口をはさんだ。 「ここにいて、龍に襲われたら助かりません。それに、長老が考えを変えるかも知れない」 飛翔族の忌み子の決心は固かった。 「この世界に安全な場所などありません。だから、勇者様に連れて行っていただくのが一番です」 俺たちは、いつのまに勇者になったのだ? ああ、そうか。龍を倒せば勇者だったな。 フレイアは申し出を断った。 「戦いの最中には守れないわよ?」 「承知しております。それで命を落とすなら、それがこの仔の天命です」 フレイアはしばらく考えていた。 それから、深くうなずいて言った。 「分かったわ。卵を運ぶ支度をしてちょうだい」 卵は薄い布にくるまれていた。肩にかけて運べるようになっている。 あらかじめ用意しておいたようだった。 その夜、フレイアは卵を自分の腹の上にのせて温めながら眠った。 <霜の巨人> 出撃の朝が来た。 ひさしぶりに雪がやんでる。 まぶしい朝日を浴びながら、討伐隊は出発した。 俺、フレイア、老魔法使いは、網にくるまれて運ばれた。六人の飛翔族にそれぞれ運んでもらった。 昼になる前に聖都に到着した。 聖都は、雪狼や雪熊に何度も襲われていた。 防備を固めていたので被害は多くなかった。 聖都で食事をし、装備を整えて出発した。 食料や重い武器は、先遣隊が運んでいる。 聖都のまわりは高い山で囲まれていた。 しかし、飛翔族は空を自在に飛ぶことができた。山が険しくとも飛び越えられる。雪が深くても障害にならない。 飛翔族は、昼間ならはるか遠くをはっきりと見ることができた。 地上には、いろいろな魔物の群れが徘徊していた。 あちこちで集落が襲われていた。 「魔王を倒せば、魔物たちは力を失う」 魔法使いの言葉に従って、俺たちは先を急いだ。 俺は、網にくるまれて運ばれるだけで、何もしてなかった。運ばれやすいように、できるだけじっとしていた。 ぐう、ぐう、ぐう。 昼が長い。雪が降っても、季節は夏なのだと実感できた。 飛翔族は偵察が得意だった。 「見えた。中継地点だ」 俺たちには何も見えないうちに目標を見つけた。 中継地点についたのは日が陰り始めるまえだった。 中継地点は丘の上にあった。集落の広場に野営地が作られている。 先遣隊が集落を襲う魔物たちを倒していたので、集落の人々は俺たちにとても感謝してくれた。 俺は倒してないけどな。 飛翔族は、戦士としてもきわめて有能だ。 夕食は豪華だった。 明日に備えてたっぷりと食べた。 偵察隊が不穏な知らせをもたらした。 「凄まじい嵐がくる。吹雪がふき荒れる中に山のように大きな人の影が見えた。嵐の到着は夜半になる見込みだ」 老魔法使いが腕を組んでつぶやいた。 「吹雪とともに現れる巨人か。この段階で霜の巨人が召喚されているとは……」 一応、聞いてみた。 「大地の僕(しもべ)、でしたっけ。あの岩の巨人で対抗できませんか?」 「大きさも力もまるで違う。霜の巨人は自然神じゃよ。真冬の暴風雪が形を得たもの。気候だけでなく地形すらも変える力をもつ。ヒトの身で立ち向かうことなど思いもよらぬ」 「では、逃げるほかに手段が無いのですね」 老魔法使いは腕を組んで黙りこんだ。 目を閉じている。 ……。 眠ってるのじゃないだろうな。 老魔法使いは、ぼそぼそとつぶやいた。 「地形を変え、気候を変え、転移の魔法を使い、霜の巨人まで召喚し……」 老魔法使いは、カッと目を見開いた。 「全員を集めてくれ!」 全員、野営地に集まってますけど…… 老魔法使いは、全員を集めて今後の方針を示した。 「今回の魔王は、討伐隊の足止めに多大な魔力を使っている。いまが魔王城に攻め込む絶好の機会じゃ」 全員を見わたして力強く宣言する。 「魔王が力を蓄えぬうちに奇襲をかける。途中で出会う霜の巨人とは決して戦うな。倒すべきは魔王じゃ。まっすぐに魔王城の玉座の間をめざせ!」 夜を徹して空を飛び、そのまま魔王城を襲撃する。奇襲作戦が実行にうつされた。 休まずに出撃するのは無茶じゃないのか? 俺はずっと休んでたからいいけど。 網の中でずっと同じ姿勢でいたせいか節々が痛い。 俺も年かな。 <魔王城> 俺たちは、老魔法使いが召喚した光の精霊を目印にして、一晩中とびつづけた。 すぐ下で凄まじい雪嵐が吹き荒れている。霜の巨人は、まさに冬の暴風雪の化身だった。 雪嵐は一晩中荒れ狂った。 空が白み始めるころになって、ようやく雪嵐がおさまってきた。 乗り越えたようだ。 明け方に、雪原に着陸した。 老魔法使いがつぶやいた。 「このあたりは豊かな農地のはずじゃが、すっかり氷に封じられてしまったか」 飛翔族が報告した。 「すこし進めば魔王城が見えてきます」 俺たちは小休止して最後の食事をすませた。 俺は、老魔法使いにたずねた。 「いまさら、なんですけど。俺たちで魔王を倒せるのですか?」 老魔法使いは、あきれたように言った。 「まったく。いまさらじゃな」 「辺境警備隊の見習い剣士、呪われた巫女の乙女、それに……」 「それに、おいぼれ魔法使いと飛翔族たちか。じゃがな、昔からとてもできそうにない困難に立ち向かう者を、人々は勇者と呼ぶのじゃよ」 「そうなると、俺たちは、『勇者様御一行』と名乗ってもいいのですか?」 「そのとおりじゃ。自分から名乗ると、かなり恥ずかしいがな」 うん、そうだな。 名乗るのは、やめておこう。 「そして、不可能を成しとげた者を、人々は英雄と呼ぶのじゃ」 「でも、俺みたいな見習い剣士が勇者や英雄になれるはずがない、と思うのですが」 「お前には魔力が宿っておる。お前は魔法剣士なのじゃ。古来、勇者には魔法剣士が多い。お前には勇者の素質があるのじゃよ」 「その気になりますよ?」 「その気になるがよい。それに、我らのあとには聖都から派遣される騎士団や宮廷魔術師団がやってくる。各国からも討伐隊が派遣されるであろう。魔王軍の大部分はそれを食い止めるために出動しておる、……はずじゃ!」 「俺たちが失敗しても、後続部隊がいるのですね」 「ああ。次々と魔王城をめざしている。……そのはずじゃ!」 「でも、俺が失敗したら、俺の人生はそこで終わりですよね」 「じゃから、死なぬように、英雄となることをめざすがよい」 でもなあ。 「この杖にはワシの魔法が刻まれておる。それを読み解けば、お前も魔法が使えるようになるじゃろう。剣が通用しない相手には、この杖で立ち向かうがよい」 う~ん、なんとなく言いくるめられてしまったな。 いざとなったら木の棒で戦うのか。石を投げる方が効果がありそうな気がするなあ。 当たれば、だけど…… 俺たちは、奇襲攻撃の手順を確認してから、一斉に飛びあがった。 俺たちは、まぶしい陽光の降りそそぐ中を飛びつづけた。黒い満月が少しづつ真上に移動してゆく。俺たちは、高く、高く、上りつづける。 眼下に何かが見えた。 俺を運ぶ飛翔族の男が告げた。 「魔王城です」 老魔法使いの怒鳴り声が聞えた。 「屋上部分が白い。まだ完成していないようじゃ。作戦は一角獣の一を実行する!」 一斉に声があがる。 「作戦は一角獣の一、実行します!」 全員が一斉に急降下する。 俺を運んでいた飛翔族の内、四名が網から手を放して槍をかまえ、急降下してゆく。 魔王城の上空には、魔物が飛んでいた。 二、三十匹はいるようだ。 俺たちに、まだ気づいていない。 急襲部隊は一撃して反転し、降下した勢いで急上昇する。上空で槍を受け取り、第二撃にはいる。 特に大柄の飛翔族が六名、岩を抱えて急降下してゆく。最大限に加速して魔王城に岩を叩きつける。 凄まじい衝撃が、まだ上空にいる俺たちにまで届いた。 何がおきた? まるで、空間そのものが歪んだみたいだったぞ。 俺を運ぶ飛翔族が歓声をあげた。 「やった! 城の城門すらも一撃で破壊する伝説の技だ。うまくいったぞ」 やれやれ。効果が不確かな技を使ったのか。 いや、ここは前向きに考えよう。 本番でうまくできた。 いいじゃないか! 魔王城の屋上が大きく陥没していた。粉塵が大量に巻き上がっている。 飛翔族が急降下して、空を飛ぶ魔物たちを掃討してゆく。 魔物は、カエルのような顔をしており、コウモリの羽根がはえていた。 空を飛ぶ魔物は、もう残り少ない。 奇襲部隊の本隊は、天井にあいた大穴から魔王城の中に着陸した。 いまのところ、こちらに犠牲者はない。 奇襲の第一段階は成功だ。 すぐさま乱戦になった。 敵は、突然の攻撃をうけて混乱していた。 落下した天井に潰された敵がかなりいるようだ。 奥にある巨大な扉をめざした。 衛兵たちを倒し、扉を押しあける。 玉座の間の中央には、闇に堕ちた光の女王がいた。 漆黒のローブをまとって、フードを深くかぶっている。 「ここまで来たか。ならば殺す者の名前くらいは教えてやろう。我が名はルナ・ブラック」 その言葉とともに、ローブが大きくゆらめいた。床をはって広がってゆく。 ローブの端が次々と持ち上がる。 人の顔が浮かび上がった。 青く染まっているが、見覚えのある顔だった。 神聖家臣団たちだ。 広がった黒いローブで女王と繋がっている。 女王を取りまくように神聖家臣団が立ちふさがった。 女王の声が玉座の間に響いた。 「我らに従うならば、命はとらぬ」 女王から強烈な魔力が放たれ、神聖家臣団へと広がってゆくのが感じ取れる。 老魔法使いが反論した。朗々とした声が玉座の間に響いた。 「本来この世界におらぬ者に居場所などない。このまま魔界へと戻るがよい!」 外の世界から玉座の間へと暖かな力が流れこんでくる。 これが、……言霊か。 魔王は、この地に魔界を出現させるほど強い言霊を持つと言ったな。 それは邪悪な召喚呪文と言い換えてもいいだろう。この世界との境界を食い破らせて魔界を呼び寄せるのだから。 そして、この世界を魔界に蹂躙させるのだから。 <聖魔相克> 飛翔族の戦士たちが玉座の間に走りこんできた。大扉を閉めて内側から巨大な閂(かんぬき)をかける。 これなら魔族たちは、すぐには入ってこれないだろう。 飛翔族は、半数以上が残っていた。 奇襲の第二段階は成功だ。 敵は分断された。 あとは闇に堕ちた女王を倒すだけだ。 それなのに、女王は笑みを浮かべている。 なぜ、そんなに余裕があるのだ? 玉座の間に凛とした声が響いた。 「『魔界侵蝕に手を貸せ』、ですって?」 フレイアだった。 「蝕とは虫が皮膚を食い破って体内に侵入することよ。魔界侵蝕を手助けすれば、体の内側から魔に喰らいつくされる。命どころか存在そのものまで奪われるわ!」 おお、そうだったのか。 ちらっとだけど、従ったらどうかなと思ってしまっていた。 あぶない、あぶない。 「私たちは、魔王を倒して魔界侵蝕をとめるために、ここに来たのよ!」 そうだ。そのとおりだぞ! 玉座の間の外で、陽光が輝きを増してゆくのが感じ取れた。俺の体内が熱い想いで満たされてゆく。 周囲にあふれていた暗黒の魔力が押し戻されて消えてゆく。 凄いぞフレイア、さすがは巫女の乙女だ。 魔王の呪言に打ち勝つほど強い言霊をもっていたのだな。 ちょっと待て。 たしかフレイアは自分の事を、「忌み子は、周囲に呪いを放ち、災いを引き寄せる存在だ」、と言ってたよな。 強い言霊が働いて、フレイアをそんな存在にしてしまっていたら、…… まずい。 すごくまずいじゃないか。 老魔法使いが俺の肩に手をふれた。 「我、付与するは、カモシカの脚、獅子の心、熊の剛腕……」 俺の身体が強化されてゆくのがわかった。 老魔法使いが叫んだ。 「我は招く、降魔の剣!」 俺の剣に凄まじい力が宿ったのが感じとれた。 「我らに従わぬならば、滅びよ……!」 女王の言葉より早く、老魔法使いが叫んだ。 「我は招く終焉の静寂(しじま)!」 周囲からすべての音が消えた。 女王は、呪文を唱えようとした。 しかし、声がでない。唱えることができない。 女王は愕然とした。 しめた。隙だらけだ。 俺は、一気に女王へと飛びかかった。 一歩の跳躍で、玉座の間の中央まで跳べた。 一撃で首を斬り飛ばす。 斬撃に耐えきれずに剣が折れていた。 魔法って凄いな。 周囲からは音が消えている。 『終焉の静寂』があたりを支配している。 飛翔族も一斉に神聖家臣団に襲い掛かっていた。まったく音をたてずに次々と敵を倒してゆく。圧倒的な強さだった。 これは、勝ったな…… そう思ったときだった。 女王の黒いローブが広間の奥に引きこまれだした。女王の体も、倒された敵も、引きずられていく。 玉座の間の奥は闇に沈んでいる。 目をこらすと、玉座が見えた。 誰かが座っている。 老魔法使いが俺の前に立っていた。 両手を広げている。 老魔法使いの体がびくりと動いた。 ゆっくりと俺の方を向く。 胸から血があふれ出ている。 老魔法使いは杖を俺に手渡した。 それから玉座の方を指さすと、崩れるように倒れこんで、動かなくなった。 俺は、あわてて老魔法使いの体を支えた。 玉座には闇に堕ちた賢者が座っていた。 頬杖をつき、ニヤニヤしながらこちらを見ている。 頭の横に、うずまくような形の太い角が生えている。 こいつが魔王だったのか。 いや。たった今、女王と家臣団を喰らって魔王になったのだな。 魔王は、片手をあげた。飛翔族の一人を指さす。その飛翔族は、胸を貫かれて倒れた。 別の飛翔族を指さす。 その飛翔族も倒れた。 魔王の強さは圧倒的だった。 俺には、魔王が何をしているのかさえも、分からなかった。 魔王はフレイアを指さした。 「嫌あぁぁぁ!」 『終焉の静寂』が支配する玉座の間に、フレイアの悲痛な声が響いた。 <終焉> フレイアは破れた布を捨て、卵を取り出した。卵は真っ二つに割れていた。 フレイアの手から殻が落ちる。 ドロリとした透明な液がフレイアの手からこぼれ落ちてゆく。 フレイアの手には、純白のはかなげなものが残されていた。 「どうして、どうして命を奪うの?」 魔王は冷笑をうかべながら、フレイアの脇にいる飛翔族を指さした。飛翔族は、まったく音をたてずに崩れ落ちた。 「……、なぜ、なぜ!」 フレイアの絶叫が玉座の間に響いた。 「魔物なんか、いなくなっちゃえェェェ!」 凄まじい熱の塊が玉座の間にあらわれた。熱にあおられて生命の炎が燃え上がる。白熱する光となって、一気に周囲へと広がってゆく。 フレイアの言霊には、『終焉の静寂』を無効にするほどの力がこもっていた。 闇の力が急速に消えてゆく。 魔王は顔をしかめて立ち上がった。 魔王の体から闇の力があふれだしてくる。 俺は、杖をかまえて一気に跳んだ。 杖に刻まれた魔法が、分厚い本をめくるように俺の前に示されてゆく。 我が敵を滅ぼせ、劫火、業火、土精、火精、水精、風精、木精…… だめだ。これでは魔王を倒せない。 魔王は俺を指さした。高密度に凝集された魔力の塊が俺に向かって撃ちだされる。 我かかげるは、白銀の盾、黒鋼の盾、黄金の盾、灼熱の盾、氷結の盾、退魔の盾、光輝の盾、神威の盾、水晶の盾、紅玉の盾、碧玉の盾、緑玉の盾、翠玉の盾、黄玉の盾、鋼玉の盾、金剛の盾…… 一瞬のうちに俺の前に多重障壁が出現した。 魔力の塊は、解きほぐされて、消滅した。 魔王は、驚愕した。 隙がうまれる。 俺は、体当たりするように跳んで、魔法の杖を魔王の胸に突き立てた。 魔法では魔王を倒せない。 だから、俺は杖に送りこむ。生きたいという願いを、俺の心に燃える熱き想いを、俺の命の輝きを、…… 魔王は、杖を胸にさされたまま、仰向けに倒れて、動かなくなった。 闇の力が去ってゆく。 優しい温もりがあたりに満ちてくる。 「負けたのか、この私が……」 魔王がつぶやく。 「いきなり天井が落ちてきて、四天王と精鋭部隊が全滅した。あげくのはてに、貴様らごとき初心者に敗れるとはな。まるで呪われ災いに巻きこまれたような心境だ……」 「あ~っ!」 そういえば、いたな。周囲に呪いを放ち、災いを引き寄せるとんでもない存在が。 いやあ、魔王様は災難でしたね。 フレイアの手のなかで、純白のはかなげな者が身じろぎした。やわらかな光を放ち始める。透明な四枚の羽根がゆっくりと広がってゆく。 「やりとげたようじゃな……」 足元から声がした。 びっくりさせるなよ! 老魔法使いだった。 「新たな光の女王は、妖精であらせられるか。いくさ場ゆえ、このような格好じゃが、お許しくだされ。女王様にご挨拶を申し上げる」 光の妖精は、老魔法使いを見てうなずいた。 老魔法使いは、俺を見て言った。 「杖は、世界樹の枝でできている。魔王の体から抜かずに、そのまま植えてくれ。ワシは、そのそばに、葬ってくれれば……」 そう言い残して、魔法使いは世を去った。 魔王城の中に、魔物は残っていなかった。中天に留まりつづけた黒い満月は消えていた。 まぶしい陽光をうけて、雪がとけだしている。 俺たちの目の前で、魔王城がゆっくりと崩れてゆく。 魔界侵蝕は終わった。 フレイアは光の妖精をかかえている。 俺は、フレイアに近づいて、背中からフレイアをだきしめた。 フレイアはふり向いて、輝くような笑みをうかべた。 本当にうれしそうな笑顔だった。 |
朱鷺(とき) 2023年12月31日 18時11分55秒 公開 ■この作品の著作権は 朱鷺(とき) さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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+10点 | |||
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合計 | 7人 | 40点 |
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