【掌編】気まぐれ冒険隊始末記 |
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気まぐれ冒険隊に何がおきたのか。その手がかりは、滅びた王国の外れにある町に残されていた。 俺がようやく町にたどり着いたときには、荒野に夕日が沈みかけていた。 町は、さびれていた。めざす酒場は、すぐに見つかった。 「一晩の宿と、パンにスープを一人前」 それから俺は、店主に用件を告げた。 「気まぐれ冒険隊の話を聞きたい」 年老いた店主は無言のまま、木をくりぬいたジョッキに酒を注ぎ、干し肉と乾燥した果物を皿にのせた。それから奥のテーブルを指さした。 奥のテーブルには、店の中央にあるランプの光が届いていなかった。語り手が、なかば闇に沈んだテーブルにいた。 俺は、語り手の前に酒とつまみを運んだ。 「ありがてえ。酒なんて本当にひさしぶりだ。 それで、オレは何をすればいい?」 「気まぐれ冒険隊の話を聞かせてくれ」 「ちっとも面白い話じゃないぜ」 そう前置きして、語り手はしゃべり始めた。 冒険者組合は、閑散としていた。珍しいことだった。 俺は受付嬢にたずねた。 「どうした。皆はどこにいった?」 「依頼を受けたの」 そろいもそろって、依頼を受けただと? 「どんな依頼だ?」 「国王陛下からの依頼よ。冒険者一人あたり前金で金貨一枚、成功すれば一人金貨百枚。依頼内容は直接に会ってから知らせるそうよ」 ひどく危険な依頼だろう。間違いない。 オレは、帰ろうとして後ろを振り向いた。 身のほど知らずの大馬鹿野郎たちが後ろをふさいでいた。 戦士サイモン、レベル4。 魔法使いマーリン、レベル3。 僧侶クレイ、レベル2。 そして、オレが盗賊でレベル4だった。 「オレの名か? 許してくれよ。今では、飛び切り不名誉な名前になってしまったからな。これからは、できることなら吟遊詩人のバートンとでも名乗らせて欲しいものだよ」 とにかく、駆け出しの初心者パーティがその場で出来上がってしまったのさ。 パーティの名前は、『気まぐれ冒険隊』になった。 すぐ決まったよ。 依頼があったのは、四、五日前だった。 オレたちは、もう締切を過ぎてるだろうなと思いながら王宮にいった。ところが、なんと王様がじきじきに会ってくださったのさ。 「依頼を引き受けるなら、依頼内容を伝えよう。受けると誓わなければ、内容は教えられぬ」 オレたちは、目の前に置かれた金貨の輝きに目がくらんで、依頼をうけた。 受けてしまった。 「王女が、森の奥に住む魔術師にさらわれた。無事に助けたら、一人金貨百枚を与えよう。城の宝物庫にある宝でもかまわぬぞ。ただし、依頼内容は他言無用じゃ」 王様がそう言うと、まわりを囲む近衛兵たちが一斉に完全鎧をガチャリと鳴らした。 他人にしゃべれば、命が無いだろうということが良くわかった。 森への道をたどりながら、俺はたずねた。 「悪の魔術師は、どんなヤツだ?」 魔法使いのマーリンが答えた。 「偏屈で、思い込みが激しく、人の話を聞かないそうだ。魔法を深くきわめていると聞いている。でも、王国にたてつくようなヤツという話は聞いたことがないな」 厳重に守られた王宮から王女様をさらったなら、とてつもない実力者に違いないだろう。 僧侶のクレイがつづけて言った。 「事情があるなら、話し合いで王女様を解放してもらえるかも知れないな」 おい、おい。相手は人の話を聞かないのだろう。話し合いは無理じゃないか? でも、とりあえず会ってみる。 どうするかは、それから決める。 それが気まぐれ冒険隊の行動方針になった。 なってしまった。 いいかげんなものだったよ。 森は、迷いの森と呼ばれていた。 魔物が多くでるから、近所の住民は近づかない。 一応、皆で相談した。 とりあえず森に入ってみる。 魔物と戦って、ダメそうなら引き返す。 その方針で森に入った。 魔物とは、ほとんど出くわさなかった。 先に入った冒険者たちがやっつけてくれていたようだ。 簡単に森の中ほどまで進んだ。 俺たちは、気まぐれな運命の女神に祝福されているらしかった。 そこで、道に迷った。 今どこにいるか、分からない。 「あっちじゃないか」 「こっちだと思うぞ」 闇雲に進んだ。 前方に生えている木の幹に、穴があいていた。近くに寄ってみると、木は大木で、穴の奥に階段があった。 隠し通路だった。 いつのまにか結界を通り抜けていたようだ。 魔法の灯りをつけて、地下道を進んだ。 「これだけ歩いたら、魔術師の棲家に着くのじゃないか?」 「まさかなあ」 そのまさかだった。 長い階段を登って建物の中にでた。 目の前で魔術師が大きな水晶の甕に入った王女様に話しかけていた。 魔術師は俺たちに気がついた。 「ばかな。森には強力な魔物がたくさんおる。地下の迷宮は、よほどの勇者でなければ突破できぬはずじゃ」 俺が代表して答えた。 「裏口があいてました。不用心ですよ」 魔術師は魔力を使い切っていた。 だから、あっさりと俺たちに倒された。 信じられないくらい簡単だった。 まだ、だれも魔術師のところまでたどりついていない。途中で苦戦してるのだろうな。 俺たちは、王女様をつれて裏口から地下通路をとおって森の中ほどまで戻った。 一休みした。 王女様は不平をいわずに俺たちに付いてきた。案外と体力があるな。 「王女様のことをどう思う?」 戦士サイモンが答えた。 「戦士レベル0だな。すこし鍛えるだけで速度重視の優秀な軽戦士になるだろうよ」 魔法使いマーリンが答えた。 「魔法使いレベル0じゃ。優れた魔法使いの才能を秘めておるじゃろう」 僧侶クレイが答えた。 「僧侶レベル0ですね。すぐに賢者になれそうです。教皇になる可能性があるかも知れませんよ」 そして、盗賊として生計をたてることが出来るほどの才能も持っている。 才能はあるが、どの技術もまったく磨かれていない。 だれも口にはださないが、もっと大事なことに皆が気づいていた。 王女様は究極の箱入り娘だった。出会った男なら、だれとでも恋に落ちることができるように育てられていた。 相手が、脂ぎった中年の貴族でも、年下の頭の弱い男の子でも、暴力を振るうナルシストが相手でも。 結婚した相手を心から愛することができるように育てられていた。 そして、相手のどのような望みにも応じることができるような素質に恵まれている。 相手が望むまで、その素質は開花しないように、注意深く育てられてきた。 魔法使いが要約した。 「大国に嫁げば、その国の王がかならず気に入る花嫁になる。この姫様は、この国を救うために育成された生体兵器というわけじゃな」 「……だとすると、まずいな」 口にしたのは、オレだった。 でも、誰もが気づいていた。 王女様は、箱入り娘だから価値がある。 だから、悪の魔術師にさらわれたり、俺たちのような下賤な冒険者と一緒にいるだけで、大きく価値が損なわれてしまう。 このまま王女様を城に連れ帰れば、俺たちは口封じのために殺されるだろう。 間違いない。 かならず城に連れ帰らせる。 そのための金貨百枚の報酬なのだろう。 たぶん、俺たちをそそのかしていたのは、実は悪魔だったのだろうな。 王女様は、とてつもなく魅力的だった。 だから、魔がさした。 そうとしか言いようがない。 「報酬がもらえないなら身体で払ってもらおうか」 戦士サイモンの言葉がきっかけになった。 俺たちは、王女様に襲い掛かった。 魔法使いマーリンと僧侶クレイが王女様の腕を押さえつけた。 戦士のサイモンが王女の両脚を開こうとする。 王女様は、あきらめたように言った。 「しょうのない方たちですわね」 そして、短く呪文を唱えた。 王女様の髪を飾る黄金のティアラがシャランと音をたてて崩れた。 王女様の肌が一瞬で透明になった。 水色の触手となってマーリンとクレイに絡みつく。下半身が丸出しのサイモンは、どっぷりとはまりこんでいた。 スライムだ! 気がついた瞬間に、長く伸ばされた触手がオレの左手を捕えていた。 オレは、腰の刀を抜いて、即座に左腕を切り離した。 かろうじて間に合った。 触手は、俺の腕を引きずって本体に戻っていった。 スライムの体が泡立って、銀色の玉が現われた。魔術師の姿が空中に浮かび上がる。 声が聞こえた。 「どうじゃな、王よ。愛する者に絡め取られて死ぬ感想は。これは、すぐれた宮廷魔術師のワシに充分な報酬を払わなかったむくいじゃよ」 薄給だから八つ当たりしたのか! 魔術師の復讐は、これで終わりではなかった。 迷いの森に新たなモンスターが徘徊するようになった。 サイモンゾンビ、クレイゾンビ、マーリンゾンビだった。 モンスターが討伐されたあとも、復讐は続いた。 迷いの森に、別のモンスターが徘徊するようになった。 サイモン・スケルトン、クレイ・スケルトン、メイジスケルトン・マーリン。 宮廷魔術師は、本当にしつこいヤツだった。 高位の僧侶によって、サイモン・ワイト、クレイ・ワイト、マーリン・ワイトが浄化されるまで、気まぐれ冒険隊の悪名が消えることはなかった。 あんたが訪ねてきたのだから、まだ悪名は消えていないということなのだな? なになに、王女様はどうなったか、だって? 宮廷魔術師の手引きで、近衛兵の誰かと駆け落ちしたらしい。それとも、騎士だったかな? 名前を隠して冒険者になり、大活躍したそうだ。美少女の凄腕冒険者だぜ。パーティを組もうというやつらが殺到したそうだ。 だが、それはまた別の話しだな。 そう語り終えると、テーブルの上に置かれた頭蓋骨は、しゃべるのを止めた。 |
朱鷺(とき) 2023年12月31日 18時08分57秒 公開 ■この作品の著作権は 朱鷺(とき) さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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