流灯のハーキュリーズ |
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.◆プロローグ 憧れ ..場面0・主人公の過去 その日、6歳のアフロは2つ下の妹ともにパレードに来ていた。 無闇に外に出てはいけないときつく言われていたのに、この日は久しぶりの外出でドキドキしていた。 足下の落ち着かない妹を抱える母親はなにやら警戒気味であったが、大通りは興奮に満ちていた。 強い日差しの射し込む大通りでは、自分らとおなじ小麦の肌をした大人たち。その誰もが消えない疲弊を身体に刻んでいたがそれを忘れさせるほど熱狂し、涙をにじませていた。 ――帝国が滅亡した。 ――内乱による自滅。 ――俺たちは母なる大地を守ったのだ。 色とりどりの紙吹雪とともに、歓喜の声が高らかにあがる。 それが長く続いた侵略戦争の終結と、それを仕掛けていた帝国が瓦解したことを喜ぶパレードであったことを後に教えられたのはずっと後のことだった。 そしてアフロ少年の心に刻まれたのは熱狂する大人達でも、複雑な表情の母親の様子でもなかった。 祖国防衛のために終結し、戦場で戦い抜いた勇者たち。 彼らが搭乗する身の丈16メートルの鋼の騎士達だった。 人型のフレームを無骨な鎧で覆った騎士たちは『装甲機』と呼ばれる戦場の主役である。 激戦をくぐり抜けた勇者たちは、どれもボロボロで四肢がそろっていな機体も少なくはない。 それでもその雄姿はアフロ少年の心を惹きつける。 そして自分もアレに乗りたいと強く強く思わせるのだった。 .◆第1話 出会い ..場面1・起 変化前の日常 朝の光が雑に閉められたカーテンの隙間を抜ける。 終戦直後、政府主導で建てられた仮住まいのプレハブ小屋は、すでに築6年となり住み慣れた居城へと変化していた。 その中の一室は、読みかけの雑誌や着古した服がたたまれないまま散乱している。12歳になったアフロ・トリートメントの部屋である。 軽薄なアロハ姿でベッドに横になったまま本を開いている。第二次性徴の始まらぬ身体は細く、同年代の子供らと比べても小さかった。 「いつまでゴロゴロしているのよ」 授業の時間が迫っているにもかかわらず、いまだ登校の意志をみせようとしない愚兄を、制服姿の妹――パーマが注意する。 委員長気質なパーマは、怠惰な兄の生活態度を嫌っていた。兄の年で学校に行かない子らはさほど珍しくなかったが、それはバイトをして家計を助けようと勤労少年たちだ。戦後復興まっただなかのジャングリラではそういう風景は珍しくない。 遺族年金のおかげで生活が苦しくないとはいえ、トリートメント家は裕福とは言えない。なにより女手ひとつでふたりの子どもを育ている母親に対する感謝の念が、返って兄の生活態度を苛立たせるものとなっている。 「またこんな本買ってきて」 眉をひそめ兄が読んでいた雑誌をとりあげる。 それは装甲機が表紙の軍事雑誌である。 「どうして母さんの嫌がることをするの」 「おまえに関係ないだろ」 「関係なくない。お兄ちゃんが真面目にならないと母さんが悲しむ」 軍事関係を嫌っている母親が軍事雑誌を見ているのをみれば、ヒステリックな声をあたり一帯に響かせるのは間違いない。 それを好んで聞きたいとはアフロも思ってはいない。 だが、妹の指摘をそのまま受け入れられるほど12歳のアフロの度量は大きくはなかった。 「うっせーな。お前だって軍関係の施設で働いてんだろ。知ってんだぞ」 兄の指摘にパーマの息が詰まる。 噂を聞いた程度で、確信はなかったのだが反応からするとどうやら図星だったらしい。意外なところで虎の尾を踏んだことにアフロは気づいた。 「私は! ちゃんと学校に行ってるからいいのよ。家計の助けにだってなってるし」 「助けね……」 妹の仕草に秘密を嗅ぎ取る。 アフロとて10年も兄をしてはいない。 「別にバイトするだけなら、軍事施設でなくてもいいだろ。母さんの嫌いな。スリルが楽しい? それとも母さんへの当てつけ?」 「そんなんじゃない。給料がいいのよ。私が働かせてもらえる場所の中では……」 かすれる声に嘘はなさそうだが、真実を十全に語っているわけでもないのは明らかだ。それを指摘したところで詮無きことだが。 これ以上言い争っても仕方ないと、アフロはカバンに雑誌を詰め込み家を出た。 まだ一時間目の授業に間に合う時間である。 だが妹と喧嘩した直後、そのまま従おうという気には到底なることができなかった。 ..場面2・承 出会い アフロは市街地をひとり歩く。 そこは戦場跡地だ。激しい攻撃により大半の建物は倒壊している。地雷を埋められているせいもあって、このあたりの再開発は後回しにされ、アフロのような悪ガキが秘密基地にしている。 地雷が埋められているとは言っても子どもたちはおおよそその位置を把握しているし、対装甲機用の地雷は子どもの体重程度で発動することはまずない。 「あいつわかってねーよな」 呟きながらアフロは愚痴る。 妹から叱られて学校に行くことは、年頃の少年にとって非常にダサいことだ。そしてダサいことをする者は周囲から舐められる。舐められればヒエラルキーの最下層へ一直線。真面目に勉強などできる環境になどならないだろう。 それはアフロの言い訳でしかないが、彼の元々なかったやる気が更に削がれたのは確かである。 小石を蹴飛ばすと、偶然知らない道へと転がっていった。 アフロはその道をしばしみつめ、いつもとはちがう道へと入っていく。 強力な火器により瓦解した街であったが、それでも大きな建築物は形を残している。それまで見たことのなかった学校を発見した。 誰も立ち入ってないらしく、木々が倒壊した建物を浸食している。その中には、これまで彼がみたことのない木々や花も混ざっていた。 戦争の主力である装甲機は転戦する機会が多い。他国で戦っていた装甲機がこの地に訪れ、部品の合間に入り込んでいた種子を落としていったのかもしれない。そう想像すると言い様のない興奮が彼を包んだ。 妄想を膨らますアフロが、違和感に気づく。 異国の植物の間に人工物が見えたのだ。 破壊されているとはいえ、元が学校である以上人工物であるのはあたりまえだ。 だが、そういうものとは毛色がちがう。 怪訝に思うと、その場所に近づく。それが迷彩用のブッシュで覆い隠された装甲機であることに気づいた。 「うぉっ!? マジか!!?」 興奮しつつブッシュを取り除く。装甲上には風で運ばれた土も乗っており、植物が根付いている。 それでもどかせば特殊合金の地金を簡単に露出させた。 そしてそのすべてを取り除くと、無骨で物々しいの装甲機がその全貌をさらすのであった。 ..場面3・転 交流と交渉 その姿はこれまでみたことのないものだった。 少なくとも自国で採用されている軽量型装甲機コボッツとはサイズも形状もちがう。 筋肉質な巨人をイメージさせる形状は力強く、見た目の威圧感も考慮されている。運動性とコストパフォーマンスを求められたコボッツとはまるで逆のコンセプトだ。 他国にそういう機体があるのは知っているが、そのどれにも当てはまらない。そしてその事実にアフロの興奮は絶頂の極地にあった。 「うひょ~たまんね~」 コクピットが開いていることに気づくと、その場に小さな身体を滑り込ませた。 「こいつ、動け、動けよ」 手を伸ばし目に付いた計器をかたっぱしから触っていくが反応はない。 コクピット内は綺麗だが、どこか壊れているのだろうか。 すると合成音が響いた。 『貴官のデータは|我《われ》に登録されいない。所属と姓名を答え、至急、己が何者であるか明確にするように』 「うぉ、しゃべった!?」 『貴官の所属と姓名を答えよ』 「えっと、アフロ? アフロ・トリートメントだ。所属はなんだ……学生?」 予想したものとちがったのだろう。合成音はしばしの沈黙を挟むと、質問を重ねる。 『母艦との連絡がとれない。すまないが我が記憶領域に不具合があるようだ。状況が把握できない。よってキミに情報の開示を求める。この地に関することを教えて欲しい』 「情報? ここはジャングリア。帝国の侵攻を受け手ボコボコにされた街だよ。その帝国がコケたおかげで、滅亡からまぬがれていまは復興の真っ最中。それよりおまえ、動けないのか?」 言いながら、操縦桿を握り動かそうとするがビクともしない。なによりも装甲機の心臓部とも呼べるエンジンが始動していなかった。 『帝国がコケたとはどういう意味だ?』 「なんか内乱? で分裂して互いに滅ぼしあったとか聞いたような?」 そのことは授業で聞かされていたのだが、真面目に聞いていなかったためうろ覚えである。 「それよりおまえ、動かないのかよ? やっぱ壊れて捨てられたのか?」 『我はおまえなどと言う名ではない。我が名はハーキュリーズである』 「強そうだな」 『強そうではない。強いのだ』 「だったら動いてみせろよ。ちょっとでいいからさ」 ハーキュリーズとしても、長年放置されていた機体の状況を確認する必要があった。故にその願望を叶えようとする。 心臓部であるエンジンへ起動命令を送ると、低いうなりを数秒あげたがすぐに止まってしまった。それを三回繰り返したが、起動に繋がる気配はない。 「ガス欠?」 『生憎と我は気体燃料で稼働していない。そもそも我が心臓部ともいえるフェーザル・コアエンジンは少量の触媒を投入することで莫大なエネルギーを生み出すことが可能だ。エネルギーの枯渇などそうそう起こらん』 「とすると、やっぱ壊れてんのか」 『……そのようである』 合成された音声に屈辱の色が混ざっているようにアフロには聞こえた。 「しかたねぇ、ここはいっちょ俺がひと肌脱いでやるか」 『どういう意味だ?』 「装甲機の人工知能って頭良いんだろ?」 『搭乗者をサポートするための知識や、自動回避演算には優れている。それを頭が良いと表現するにはいささか語弊があるが』 「だったら、自分で直し方とかわからないのか?」 『サポートの為のマニュアルは存在する。だが動けないのでは部品交換もできないし。予備の部品も存在しない』 「それを俺様が代わりにやってやるって言ってるんだ」 『子どもにか?』 「アフロだ。一発で覚えろよ、機械なんだから」 『では、我のこともおまえではなくハーキュリーズと呼んでもらおうか』 「わかったよハーキュリーズ。それで修理の件はどうする? おまえだって、このまま草木に埋もれて人生終わらせたくはないだろ?」 『確かにその通りではある』 「だったら、ちゃちゃっと修理して、もうひと花咲かせてやろうぜ」 『しかし良いのか?』 「なにが?」 『状況から推測するに、我は貴様の故郷であるこの地を焼いたものだ。恨みがあるのではないか?』 「ん~そうだなぁ」 そう言ってアフロは考える。 「俺が生まれる前から戦争はやってたし、終わるまではそれが当たり前だったから恨むとかはないかな。実際なにがどうなってたのかよく覚えてないし」 『そんなものなのか?』 「だったらおまえはどうなんだよハーキュリーズ。敵国人だった俺が憎いか?」 『我は道具だ。そういう意志はもたない』 「だったら、問題ないじゃないか。俺はオマエに乗れて嬉しいし、オマエは動けるようになって嬉しい。WinWinってヤツだ」 そう簡単なことではないのだが、アフロはハーキュリーズに乗れることに頭がいっぱいで指摘を冷静に受け入れることはなかった。 「とにかくよろしくな相棒」 .◆第2話 友情 ..場面4・起 世界観 『これが現在、西暦3456年の街の様子か……』 アフロの胸のポケットからカメラを出した携帯電話。そのカメラを通してハーキュリーズはジャングリアの様子を観察していた。 戦時に破壊された建築物は新たに建て替えられ綺麗になっているが、残った建物は古びた色合いを強く残している。 その中央には復興のシンボルとして太陽をイメージした塔が建てられていた。 行き交う人々は笑顔で大通りは活気に満ちていた。ただそれは大人達だけで、大通りにある子どもの姿はない。アフロが憧れ見た凱旋する装甲機の姿もだ。 「……」 どことなくつまらなく思うアフロ。そんな彼にハーキュリーズが呼びかける。 『新聞が売られているな』 「こんなの読んでも面白くないだろ」 言いながらも並べられた新聞を手にする。 店の親父は一瞬なにか言おうとするが、子ども相手であると見逃すこととした。 退屈に思いながらもアフロは新聞をめくっていく。わからない単語の多く、社会情勢に興味の無い彼に新聞は楽しむ余地がない。 ハーキュリーズはカメラを通してその内容を精査すると、再びアフロに話しかけた。 『気になることがある。ネットワークにアクセスできるところはないか?』 「携帯からできんだろ」 『個人の端末では利用範囲が限られているし、速度も遅い』 「悪かったな」 言いつつも何処か適切な場所がないかと考える。 「そうだあそこなら」 > 「ここならいいだろ」 図書館で借り受けたパソコンの前に座るアフロ。汎用端子を繋ぎ、ハーキュリーズにネットワークを貸す。彼が調べ物をしている間、アフロはエアコンの恩恵を受けている。 それが終わる頃になり、ハーキュリーズの嘆息が聞こえた。 『信じがたい事実である。我が帝国が滅亡していたとは……。いくら、基地や母船への連絡をとっても繋がらないハズだ』 「俺の言った通りだったじゃん」 授業で聞いただけのことなので、別に誇らしくもない。 ただ、ハーキュリーズがそこまで落ち込む理由が国への帰属意識の低い彼には共感できない。 「帝国ってのはあれだろ。侵略を繰り返した悪い連中だ」 『悪などではない。人類統一のために崇高なる使命だ』 統一が成されれば地上から争いは消え、優秀な指導者の下、みながわけへだてなく幸福を甘受できるという。 それが潰えたことは、非常に不幸なことであると。 「でも、そのせいで俺の父ちゃん戦場で死んだんだ」 そのせいで母親は戦争にかかわるあらゆるものを嫌悪するようになった。 いまでは反戦主義者となり、今日も軍縮を訴えるデモに参加しているハズである。 そんな母親が彼がハーキュリーズを直そうとしていることを知られれば、なんと言われるだろうか。頭が痛くなるので考えないことにした。 アフロの言葉にハーキュリーズは沈黙する。 いかなる理由を述べたところで、子から親を奪うという行為が許されるのか、軍事用兵器である彼には判断ができない。 ふたりの間に沈黙が流れる。 それを破ったのはアフロだった。 「でも、そのおかげでおまえと出会えたんだから、悪いことばっかじゃねーよ」 それは深く考えての言葉ではなかったが、ハーキュリーズに大きな影響を与えていた。 そんな会話をしていると、彼らを呼び止める声があった。 図書館で知り合いと会うことなどまずないと思っていたが、そんなことはなかった。 振り返ると、眉を反対向きに剃らせたパーマが椅子に座るアフロを見下ろしていた。 「お兄ちゃん、結局今日、学校に行ってないでしょ。一日さぼってなにやってたの?」 ..場面5・承 展望 アフロはパーマを連れ、戦場跡の秘密基地へと連れていった。 そこで半壊した体育館に隠れ倒れているハーキュリーズを見せる。 間近でみる装甲機にパーマは驚いていた。 「信じらんない。どうすんのよコレ?」 「どうするって直すんだよ」 「本気!?」 驚いてみせる妹に、母の面影を見いだしつつも「本気」と応える。 「直してどうするつもりよ?」 「乗る!」 「それで?」 「……どうしよう?」 装甲機に憧れ続けたアフロは、それに乗るチャンスを目の前にし、それ以上のことについて考えてはいなかった。 「直すったって、簡単じゃないんでしょ? それをただ直したいからってだけで最後まで直せるの?」 「運送業でもするか? 相棒、おまえ、燃料費かかんないんだよな?」 アフロは話題を振ることでハーキュリーズに援護射撃を求める。 『正確には莫大な費用がかかるのだが、地上を数十周する程度は問題ないだろう。高出力戦闘を行わないことが前提であるが』 「というか、勝手に拾っていいの?」 パーマが現実的な質問を挟む。 『私の所属していた組織は消滅している。法的には、引き上げられた難破船の扱いと同じになると思われる。遺失物法が適用され、アフロの所有物とみなされて構わないのではないだろうか』 「所得税は?」 『拾った私を金品に交換するというのでなければ、必要ないのではないか?』 「逆に売り飛ばしたら、税金とられるってことか!?」 「その前に、誰が買うのよこんなポンコツ」 『我はポンコツではない!』 一悶着あったあと、パーマは「母さんに言う」と結論を下した。 そうすればアフロはここに来ることを禁じられ、二度とハーキュリーズに触れることはないだろう。 それが兄の為であると妹は判断したのである。 だが兄はそれを認めようとはしなかった。 「だったら、俺もおまえのことバラすぞ」 「なにをよ、いきなり」 自らは潔癖であると言いたげなパーマに彼は突きつける。 「軍関係の施設でバイトをしてることだ」 「バッ、バイトくらいなによ。そりゃ母さんが軍隊アレルギーなのはわかってるけど」 平然を装おうとして失敗する。 「おまえのことだ、ただ金額が良いとか他に雇ってくれる場所がないって理由じゃねーんだろ。おまえはおまえの目的があって、あそこでバイトしてるんだ。いったいなんだろうな?」 兄の追求に妹は言葉を窮する。 そして休戦を申し出た。 「わかったわよ。黙ってる。どうせお兄ちゃんにそんなポンコツ直せっこないんだから、ほっといたって同じよね」 「OK。これで交渉成立だ。ついでにもうひとつ頼みがあるんだけどさ」 そう言って、アフロはパーマに借金の申し入れを試みるのだった。 ..場面6・転 相談・喧嘩 「なぁ、パーマの言っていたことどう思う?」 パーマを帰らせたあと、アフロはハーキュリーズのコクピットに入り寝転がっていた。 コクピット内部に設置されたパイロットシートは通常のものよりも小さかったが、それでも子どものアフロが乗る分には余っていた。 『我が調べた限り、彼女の提示した金利は合法の範囲だ。兄妹間といえど約束は守らねばならない。彼女なら返済が滞れば遅延利息もつけかねないので注意したほうが良いだろう』 「そっちじゃねーよ」 その回答は見当違いだとアフロは言うが、彼の発言こそ主旨が不明であるとハーキュリーズは指摘する。 「んなの、わかれよ」 『我は人間ではない。兵器を最適に動かすためのアドバイスを行うサポートAIだ。 ロボット三原則という強固な制約によりAIが動かす機器は人間を傷つけうる一切の行為を禁じられている。それをさせない為、メインに搭乗者を設け操縦を委任しているのだ。我にできるのはそのサポートと緊急時に人命を救う回避行動だけ。 そんな我に機微などという曖昧なものをわかれというのは無茶である』 「ちっ」 『搭乗者の精神状態をサポートするための機能はついているが、正規の訓練を受けた軍人相手のもので、アフロのような子どもは想定されていない』 その言葉にイラッとしたアフロはコクピットから立ち上がると、股間を封じるファスナーを解放した。そして小粒な排尿器官を計器へと向ける。 『なにをするつもりだ!?』 「ボクちゃん、子どもだから難しいことわかんな~い。あとオシッコしたくなったの我慢できないの」 「待て、待つんだアフロ。例え計器を水浸しにされたところで、我が機能に支障はない。支障はないはずだが、なんというか、その、著しく尊厳が損なわれる気がする。上手く説明できないのだが? そうか、察しろというのは、こういう言語化が明瞭にしがたい思考パターンのことをいうのだな! 理解した。だから止めるのだアフロ!』 溜飲をさげたアフロは皮で守られた排尿器官をファスナー内に収める。改めてパイロットシートに腰を下ろすと回答を待つ。 『確認するが、キミの疑問はパーマが言っていた『どうするの?』というものだな』 「ああ」 『論理的思考をするならば彼女が正しい。 我を修理するには多大な労力が必要となるだろう。それどころかキミの力では治せない可能性のほうが高いと我は分析している。 目的もないまま、修理しようというのは建設的ではない。 よってもしキミが利益を求めるのならば、我を何者かに譲渡すべきである』 「そんなのねーよ。おまえに乗って動かす。それ自体を目的にしちゃいけねーのか?」 『軍隊に入り、まじめに訓練し装甲機乗りになる方が現実的と言える。いや、現在軍縮傾向にある国内情勢を考えれば、キミが通る確率はかぎりなくゼロに等しいが……これは難しい計算になりそうだ』 「どういう意味だ、こら!」 『そのままの意味だ。未来予測は不可能だが、必要な技能を考慮するに、アフロが我が修理することも、軍のエリートとして装甲機を駆ることも、夜空を見上げて未発見の星を見つけるようなものである」 「それってそんなに難しいのか?」 『高い知識と技術を持った専門家が高度な道具を駆使して探しているのだ。その者たちがまだ発見にいたっていないものを先んじて見つけられると思うか?』 不可能と言われたことにアフロは腹を立てる。 「上等だ。やってやろうじゃねーか。絶対おまえを直してやる。でもって、俺様のウルトラテクニックでメロメロにしてやるから、いまから覚悟しておけ」 『記録にある、|童貞《チェリー》ほど大口を叩く傾向にあるとは本当のことだったな』 「なんだとー!」 .◆第3話 真実 ..場面7・起 状況確認 西暦3461年。 アフロとハーキュリーズが出会い、6年が経過していた。 今日も秘密基地では油にまみれたアフロがハーキュリーズの修理を続けている。 ハーキュリーズのパーツを入れ替え、計器を観察する。本日の部品は帝国が滅亡前に流出したものだけに期待がもてそうだ。 真剣な眼差しで機械と向かい合うアフロは、少年ではなく立派な青年となっていた。周囲よりも遅い成長期を迎え、いまでは身長も180cmを超えている。重い部品をロクな道具もなしに運ばなければならなかったため、ずいぶんとたくましく成長した。おかげでハーキュリーズのコクピットシートが手狭となってしまった。 作業着に油やグリスの跡がいくつも付着し、無数の細かな傷が刻まれた固い手には子どもの頃の面影はない。 免許も取得済みである。車は廃車同然のものをもらい受け自分の手で修理した。ハーキュリーズを修理する時に得た技術と知識は、アフロを若手一番の修理屋として育てあげていた。 しかし、それでも一度としてハーキュリーズが動き出すことはなかった。 「かっしーなー。なんで動かないんだよ。このポンコツ」 『自分の未熟さを棚にあげて、ポンコツ呼ばわりは止めてもらおうか』 「マジで、なんで動かないのかわからん。エンジンがブラックボックスなのはわかりきってるけどよ、その他の部分はちゃんと修理できてるんだ。にもかかわらず一切起動しない。コクピットの空調さえ動かないとかありえないだろ!?」 『帝国の技術は根本的に体系がちがうのではないか?』 「それはある。だが、帝国が崩壊したおかげで技術もかなり流出してる。その手の情報も集めたが、根本的な理論はそうちがわないんだよ」 取り寄せた外国語の本をざっくりと読み返しながら宣言する。母国語の読み書きさえ覚束なかった少年も、必要に駆られれば二カ国三カ国の読み書きくらい出来るようになていた。 「もともと帝国の技術も占領地から奪いとったり、他国の物まねがベースになってんだ。だから根本的なところで技術は似通ったものになる。部品の規格がちがってハマらないようなことはあるけどな」 そして帝国崩壊後には技術者の流出もあったのだ。それらの技術者とネットを介して話したこともあったが、ヒントは見受けられなかった。 「なんか見落としてるんだろうな」 それがなんなのかアフロには見当もつかない。 『アフロ、そのことについてだが、ひとつ心当たりがある』 「なんだよ今頃。知ってることは全部教えてくれたんじゃねーのか?」 『意図した秘密ではない。汝も知っての通り、復帰当初の我は機体だけでなく記憶領域にも欠損があった。その欠損をネットで得た情報と組み合わせるうち、新たに推測できる情報を得たということだ」 「また小難しい屁理屈を……」 『おそらく我は……』 ハーキュリーズの話を遮るように警報が鳴る。それは近くに侵入者が現れたという警告だった。 ..場面8・承 戦闘 装備が失われているとはいえ、ハーキュリーズは立派な軍事兵器である。武装がなくとも、動き出せば一般人を蹂躙する程度はわけもない。 よってアフロは、開発が後回しになっている土地を国から借り受ける事で、秘密基地を合法的に自分のものとしている。それには軍属と懇意にしているパーマの手を借りたのは秘密である。 地雷の撤去が進んでいないせいもあり、いまだ開発の滞っている戦場跡に足を踏み入れる者はほとんどいない。 稀に踏み入るのは、幼い頃の彼とおなじ悪ガキ程度である。 だがその日の侵入者は悪ガキなどではなかった。 周囲を警戒しながら進んでいる黒服の人物だ。マスクで顔を隠している。 小柄に見えるが体のがブレない歩き方は専門の訓練を受けた者特有のものである。 アフロはそれまで準備していたトラップへと相手を誘導する。 そして苦戦しながらも相手の身動きを封じることに成功した。 距離を置いて観察したときは分からなかったが、意外と小柄だ。偶然触れた手が柔らかいものを認識する。侵入者は女だった。 「悪い、わざとじゃないんだ」 女は謝罪を受けようとはせず反撃しようとする。 それを改めて押さえつける。 「暴れるな、こら!」 相手のマスクをはぐと、碧眼の美女が現れた。輝くような白い肌はこのあたりの者ではない。 その美貌にアフロは見取れてしまった。 「あんた、いったい何者なのよ」 「そりゃこっちの台詞だろ」 問いかけられた事で我に返ったアフロが問い返す。 足取りからして、偶然迷い込んだということはないだろう。だとしたらハーキュリーズを探してきたということになる。アフロに物騒な用があるかと思ったが、それにしては敵意の感じ方がちがう。 しかしハーキュリーズを探しに来たとしたのなら、いったいどうしてこのタイミングなのだろうかということが疑問だった。 ..場面9・転 問答 「ハーキュリーズ。女に有効な拷問方法」 アフロは女への脅しの意味を込めて相棒に問うが、それをハーキュリーズは認識しなかった。 『捕虜への拷問は国際条約により禁止されている。あと、さきほど胸を揉んだ件は訴えられる恐れがある』 「それは事故だ!」 味方と思った相手からの攻撃にアフロは慌てた。 まさか、ハーキュリーズがここまで空気を読まないとは予想外だった。 「貴様はなにものだ?」 ふたりのやりとりを観察していた女が先に問う。 「何者って、ただのロボ好きの男子だ」 『彼は3450年前後に撃墜され、放置されたと思われる我を発見し、その後6年もの時をかけて修理を続けているのだ。その成果はいまだみられないが』 ハーキュリーズが応える。 「一般人が装甲機を入手してどうするつもり?」 「ん~、運送屋でもやるって話なんだっけ? でも、もう修理屋始めてるからな……」 いつまでもハーキュリーズを動かすという目的が達成できないまま時間が経過したために、目的と手段はすっかり入れ替わっている。いや、当初からアフロの目的はハーキュリーズに乗って動かすことであったが……。 「それで、おねーさんの……いや、お嬢さんか? とにかく目的は?」 胸の育ちはなかなかのものがあったが、ずいぶんと若く見える。それでいてこの後に及んで落ち着いた雰囲気は場慣れしているのだろうか。 「おねーさんでいいわよ。私の方が年上だから」 身体はアフロの方が大きいが、それでも女は自分が年上であると言い切った。 「名前は?」 「……ポニーって呼んで」 「OKポニー、あんたの目的は、こっちの目的は話したんだから教えてくれよ」 「さっきの言葉が真実か保障されてないわ」 『ポニー、あなたが疑問に思うのも無理はない。それくらいこの男の目的は阿呆なものだ。 だが、この男が我に乗る以外の目的を持たずに修理を続けているのは紛れもない事実である。それは保障しよう』 「おめー、褒めてないだろ」 『褒められるようなことをしたのか?』 そんなやりとりをみて、ポニーはため息をついた。 「あなたたち、本気でそれを言ってるの?」 その指摘にふたりの意識が彼女に集中する。 「動くわけないでしょ。軍用機にプロテクトはつきもの。それが元とはいえ帝国最新鋭機ならなおさらよ」 未登録の未成年がそんなものを動かせてしまえば大問題である。 そしてそのことに『うむ、その通りである』とハーキュリーズまでもが同意した。 「なっ!? どういうことだ、おまえそのことを知ってたのか!?」 意外な裏切りに声が大きくなる。 『アフロの修理は適切なものだった。にもかかわらず我がフェーザル・コアエンジンは起動しようとしない。当初はエンジンまわりの回路に不具合があると推測していたが、そうでない可能性の方が高かった。 そこから導きだせる結論として、その可能性に先ほど思い至ったばかりである。無駄なことを続けさせてしまってすまない』 「っていうか、なんかおまえら仲良くない!?」 アフロがつっこむ。 「あんたの記憶領域に欠損があるのは当然でしょ。多大な秘密を抱えた軍用機がそのまま放置されるわけないじゃない。機体ごと焼却も考えたけど、あんたのフェーザル・コアエンジンはちょっとやそっとじゃ壊れないのよね。だからカモフラージュをして隠しておいたのよ。とりに戻るのは遅くなったけど」 「まさか、あんた、こいつの……」 驚くアフロにポニーは告げる。 「そう、私がハーキュリーズの正規パイロットよ」 そう言って、いつの間にか拘束を解いて立ち上がる。 ちょうどその頃、街から爆音が響き、火柱がたちあがる。 「どうやら始まったようね」 「始まるってなにがだ?」 「隣国であるアタルからの武力侵攻よ」 .◆第四話 戦闘 ..場面10・転2 復活の予兆 監視カメラの映像をハーキュリーズがハッキングし、携帯端末へと映し出す。 街は銃器を構えた装甲機に襲撃されていた。 ポニーが言ったように、それは隣国アタルに配備されている装甲機ブリンズである。ブリンズはコボッツよりも動きは重いが汎用性が高く数も揃えやすい。数が同数であるならブリンズの方が優秀であるが、その数すらもアタル軍の方が多いのだ。勝負にならない。 「なんで?」 逃げ惑う人々と、戦いの炎に包まれる街の様子にアフロは呆然とする。 「帝国が崩壊しても、世界平和なんてものは実現してなかったのよ。むしろ強国が消えたことで群雄割拠の時代を迎えたと言えるわ。 そんな中、軍縮で力を失った国がまっさきに狙われるのは当然のことでしょ」 ポニーが解けた髪をひとつにまとめながら告げる。 「そんなことが許されるのか!」 「許されなければどうする? 口先で相手を非難するだけでは、状況は止まらないわよ」 「だからって!」 なおも反論しようとするアフロをポニーは隠し持っていた銃で撃つ。 腹を撃ち抜かれたアフロはヒザを折り、前のめりに倒れる。 「その状態で事態を止められる? わかりやすいでしょ」 ポニーは平然と言ってのけるとハーキュリーズのコクピットへと乗り込む。 『貴様、なんということを!』 「軽い傷じゃないけど、すぐにどうこうなる傷でもない。そのくらい判断できるでしょ。それよりも力を貸しなさいハーキュリーズ」 『断る』 「まったく、人間みたいな|思考《クセ》がついたわね。あの子の影響?」 すっぽりとコクピットに収まるポニー。 計器のチェックを始め、問題がないことを確認すると胸の谷間から棒状の機械鍵を取り出す。 それを向けると操縦席の中央に、ちょうどそれが収まるくらいの鍵穴が開いた。 「いいかげん、命令に従いなさいハーキュリー。 私は武力侵攻だなんて野蛮なやり方をいまさら認める気はないの。ここで侵略が上手くいってしまったら、追従する国が出てくるわ。そうすれば戦いは連鎖して、あっという間に世界大戦の再開よ。私はそんなの認めない」 だから武力でもって、小さな芽のうちに摘むのだと彼女は言う。 だがハーキュリーズ一機で戦いを収めるのは無謀に思えた。 なによりも、アフロを傷つけたポニーを彼は許す気にはなれなかった。 「我が名、ポニーテイル・ロングヘアの名において命じる。ハーキュリーズよ己が試練を受け入れよ」 そう言って機械鍵を穴に射し込む。 それとともにそれまで一度たりとも起動しなかったフェーザル・コアエンジンが起動した。一度咆哮のような高い音を上げるが、そのまま静かな回転におちついていく。 それとともに、彼から抜き取られていた無数の情報が補完される。 ポニーの言っていることは正しかった。 彼女はハーキュリーズの正規パイロットであり、なにより帝国を滅亡に導いた張本人であり、大戦を終結させた立役者だった。 そして彼自身も、その戦いに参加していたのである。記憶の中枢部である機械鍵を入れられたことでそれらのことを思い出す。 それは他人の記憶をのぞきみるような感覚であったが間違いなく彼の記憶データでもある。 ポニーテイル・ロングテイルの言っていることは全て正しい。 それでもなお、ハーキュリーズは彼女に従って戦おうとはしなかった。 ..場面11・転3 判断 「繰り返す、我が命に従えハーキュリーズ」 されど『断る』とハーキュリーズは命令に抗う。 プログラムである彼に上位コードの命令を抗うことは不可能だ。方法がない。そのハズであるのに、ポニーテイルは彼を従えることができずにいた。 装甲機の心臓部であるエンジンは動いている。その動力は各部品に伝達され準備はできているのだが、それを動かすための操縦桿がビクともしないのだ。 「ハーキュリーズ!」 『断る!』 己を曲げようとしない下僕にポニーは説得方針を変える。 「では、あの子のことは諦めるのね? 先ほども言ったけど、死ぬような怪我ではないが、放置できるほど浅くもないぞ。病院に連れていけば治療は容易かろうが、戦いを放置すれば病院が無事に残っているとは限らん。戦場で不測の事態が起こることはおまえとて承知だろう?」 それでもハーキュリーズは判断を迷う。 彼女の言う通りにするのがベターであると計算できる。 だが、計算できない部分が、彼女への従属を拒んでいるのだ。 その時、街からミサイルが飛来した。戦闘の流れ弾は、もともと半壊していた建物を完全に崩す。 瓦礫のひとつがアフロめがけて落下する。 それを止めたのは、10年以上も動かなかった無骨な右腕である。 ポニーテイルはハーキュリーズが操縦を譲ったことを確認する。 長年眠り続けていた機体を起こすと、戦渦の広がる街に向かい駆け出すのであった。 ..場面12・転4 アタル軍の装甲機ブリンズが街を蹂躙していた。 対抗するジャングリアのコボッツはみるみるうちに数を減らしていく。 ポニーテイルが指摘したように、軍縮で弱体化した軍隊が強国の侵攻を防ぐ術はない。 そこを人々が逃げ惑う。 パーマもその場にいた。 軍属の男と恋仲になったパーマは、不利な戦場に赴かなければならない恋人を涙で引き留める。 だが、ここで国が蹂躙されれば過酷な運命が彼女らを待ち受けている。一般人がいるのも気にせず火器を乱射する相手の様子を見れば一目瞭然である。彼らは侵略国の人間を的かスコアくらいにしかみていない。コクピット内では、人を殺す度に歓声をあげているのが聞こえるようだ。 男は恋人を守るためにも、不利を顧みず愛機へ乗り込む。 だが出撃はしなかった。急に計器にノイズが走り、エンジンの回転が落ちていく。装甲機の不調に男は神は不在なのかと叫び出す。 それを救ったのは、見たこともない装甲機だった。 それはブリンズよりも頭ふたつ分は大きく、重厚な装甲を幾重にもまとっていた。鈍重そうな外見ではあるが、その動きは非常になめらかである。 手の内側から短剣を抜き出すと、火器の嵐にさらされることを意にもとめず、ブリンズの装甲を切り裂いた。 圧倒的な強さだった。 その所属不明機の存在に男は目を奪われる。 その装甲機は次のブリンズを発見するとすぐに移動し襲い掛かる。コボッツには目もくれない。 男は司令官に連絡をとり報告をすると、その正体をたずねるが、それを知る者はどこにもいなかった。 ..場面13・結 旅立ち ジャングリアの街は半壊していた。 ハーキュリーズとポニーテイルの手により、アタル軍は撃退されたがその被害までは沈静化しきれていない。 されどポニーテイルたちにできることは限られている。物資もなく救援活動などできはしない。重機代わりに瓦礫に埋もれた人々を救うことはできるだろう。されど、遠距離から彼らを狙った攻撃を受ければ、それに周囲を巻き込むことになる。 ポニーテイルはコクピットからおりると破壊した敵機へと乗り移る。自分の端末を敵機の残骸に取り付けると、そこから情報を抽出する。 それを確認しながら、ハーキュリーズの受けた損害を確認する。 火器の類はもともと持っていなかった。エネルギーに関しては問題ないし、装甲の損出も軽微だった。 「だったら、次に行っても問題ないわね」 彼女の言葉に同意する。 『何処へ向かう?』 「楽しい火種はたくさんあるからね。北から南まで選び放題よ」 『回答は具体的に頼む』 「目に付いた戦場、片っ端から首つっこんで、蹂躙していく」 ポニーテイルの回答は正気を疑うに十分なものだった。 『本気か? 汝は何故そこまで戦うのだ』 「それが帝国を滅亡させたあたしの義務だから。あんたにも同罪なんだからちゃんと従いなさい」 『了解した我が悪魔』 「あら、こんなに可愛いレディに言いたい放題ね」 『登録されたポニーテイル・ロングヘアのデータを信用するなら西暦3400年生まれで62歳だ。まっとうな生き方をしてはこなかったのだろう?』 「はいはい、そうですよ~」 ポニーテイルは舌を出して不快さを表現する。 情報の抽出を終えると、破壊した装甲機から移動用の飛行ユニットをうばう。そしてエンジンの調子を確かめると、限界まで出力をあげる。 大地から両足が離れると、あっという間に空高く飛び去る。 それは大きな旅立ちの一頁であり、これからハーキュリーズは多くの試練に立ち向かうことになるのだった。 そしてアフロは、新たな戦場へと飛び立つハーキュリーズを遠くから見送ることしかできなかった。 .◆エンディング ..場面14・エンディング ――寂しい。 無人島でひとり動けなくなったハーキュリーズはそんなことを考えていた。 あるテロ組織が巨大隕石の地球への落下を企んだ。それを阻止するためのミッションにハーキュリーズも参加した。隕石の落下は阻止したものの機体は重力の枷から逃れることができず、そのまま大気圏へ突入する羽目になったのである。 突入前にパイロットを脱出させることができたのは幸いだろう。 だが、その結果、彼は誰も居ない無人島でひとり動けなくなっているのだ。 大気圏突入の際の熱で、機器のほとんどがイカれていて連絡をとることもできなかった。 ――ここまでだな。 いっそ、完全に機能が停止してしまえば後腐れがなかったろうに。そんなことを考えるほどハーキュリーズの思考は人間くさくなっていた。 そんな彼は己の人生を振り返る。 長い間眠っていたのをアフロ・トリートメントという少年に拾われて起こされた。 彼が修理に奮闘してくれたのに、結局、彼の望みを叶えてやることはできなかった。 自分にかかわったことで重傷を負い申し訳なく思う。彼の故郷を救えたことが、せめてのもの償いだろう。 ポニーテイル・ロングヘアに徴収された。 その際、アフロを傷つけられたことに怒りで満たされたが、結局彼女とは多くの戦場を渡り歩き、その分長い時間を供にすることになった。 その際、新たな武器を入手したり、壊れた装甲を交換したりとアフロとの想い出を減らしていった。 カスタム機であり旧式でもある彼の部品集めには苦労すると何度愚痴られたことか。 余りに無茶な戦いをしすぎて、無尽蔵と言われるフェーザル・コアエンジンの触媒を使い果たすトラブルも起こった。 現存する希少金属をみつけ採取するのは本当に大変だった。 やがてポニーテイルは地上の争いのすべてを鎮圧するため、あらたな帝国を気づき上げることにした。 新たな女王に自らつくことで平和を作りあげた。 彼女と別れたのは、その時である。 次のパイロットは皮肉にも、各地の戦場でポニーテイルのライバルとして戦ったスキンヘッド・ピカピカだった。 最終的にポニーテイルの軍門に下ったスキンヘッドは、反抵抗勢力が計画した地上破壊作戦を阻止するために激戦を繰り広げたハーキュリーズに乗りこんだのだ。 他にも、いろいろな場所でいろいろな搭乗者たちと共に戦い、傷つき、そして勝利した。 ――もう十分すぎるほど戦った。 このまま己のボディを墓標に眠りにつくのも悪くない結末だろう。 その時、彼に残されたわずかなセンサーが近づくものを感知した。 それはエアバイクだった。小麦色の肌をした少女を乗せ、エアバイクが夜の海上をわたってきていた。 年の頃は初めて会ったころのアフロよりも若く、どこかパーマを思い出させる姿をしている。 そして少女はハーキュリーズを見つけると歓喜の声をあげる。 「いーもんひーろった♪」 そう言ってコクピットに滑り込むと、計器の状態を確認していく。 そんな少女にハーキュリーズは諭すように話しかける。 『生憎と我はもう動けん。さすがに大気圏突入は堪えた』 「おー、生きてる。ちょーラッキー♪」 『我の話を聞け。仮に直すとしても我の部品はもう古すぎる。カスタム機故に規格も合わないだろう。以前の搭乗者もそれで苦労したのだ。あきらめろ』 「でも、|制御装置《キミ》は生きてるし、|一番高いとこ《エンジン》だって使えそうだよ?」 彼女の指摘はもっともだったが、それだけでどうにかなるような状況ではない。 「それにキミはハーキュリーズシリーズでしょ?」 『どうしてそれを?』 正確にはシリーズではなく、カスタム機である彼の固有名である。だが細かいことを言っても少女には通じはしないだろう。そう判断したのだが、それは彼の間違いだった。 「昔、王女様が活躍した機体だって、復刻されたんだよ。自分のことなのに知らないの? その為のパーツだって市場にまわってるよ」 そして自分は腕の良い整備士であると告げる。 それを聞くとまだ自分の戦いは終わらないなのだなと可笑しくなった。そこに複雑な気持ちもあったが無垢な少女は気づきもしない。 「じゃ、あたしと一緒に優勝を目指すわよ」 「優勝?」 戦うために生まれ、戦い続けていたハーキュリーズにはその意図がつかめなかった。 聞けば少女の目的は、宇宙を舞台にした|競争《レース》に参加し、一番大きな大会で、優勝することだと言う。 それを聞いたハーキュリーズは今度こそ盛大に笑った。 馬鹿にされたと思った少女は頬を膨らませる。 ハーキュリーズは謝罪すると、一緒に優勝を目指そうと自分から願いでた。 これからの戦いでは人が死ぬところを見ないで済むことに安堵している自分にふたたび驚いた。 「あたしの名前はカーリー。カーリー・トリートメントよ。よろしくねロボットさん♪」 And So, The Story Goes On...(そして物語は続いていく…) |
Hiro 2023年08月13日 23時56分40秒 公開 ■この作品の著作権は Hiro さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2023年09月16日 00時33分00秒 | |||
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Re: | 2023年09月16日 00時32分14秒 | |||
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Re: | 2023年09月16日 00時31分20秒 | |||
合計 | 4人 | 60点 |
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