ウンコ叫びの黄金比率 |
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【注意】下品です。 ウンコーーーーーーーーー!!! ウンコ1つ、任意の数の伸ばし棒、ビックリマークをこの順番で配置できる時、最も優れた配置の仕方は、伸ばし棒9つ、ビックリマーク3つのもので、これが最も美しいという法則である。ウンコのことを大好きな人物が発見した。 〇 俺は自分の部屋で、ウンコ叫びの黄金比率についての説明を受けた。 「私はこの法則を夢の中である人物に教わったが、エピソードの詳細を語るのは差し控えたい」 「そうなんだ……」 説明を終えた二宮美々子(にのみやびびこ)は得意げだ。俺は完全に呆れて、すごくどうでもいいなと考えている。 美々子が俺の住む賃貸の部屋へ遊びに来るのは普通のことだ。 「ウンコーーーーーーーーー!!!」 美々子がまたも叫んだ。 今のも多分、伸ばし棒9つ、ビックリマーク3つなのだろう。 知らないけど。 どうでもいいので。 「なあ、もうやめないか、こういうの」 「え?」 付き合いの長い友達として、俺には、美々子に言ってあげるべきことがあるような気がした。俺は自分の考えを美々子に伝える。 「そういうのを言っててもさ、もう誰も面白いと感じていないんじゃないかな? 今後、ウンコ叫びの黄金比率みたいなことを考えついても、いちいち口から出すのはやめるようにしないか? 俺たち、もういい大人なんだからさ」 俺と美々子は学生だ。でも、このぐらいでかくなった人間には、相応の振る舞い方が求められると俺は思う。だから今の説教は100善意だ。 だが。 「お前にウンコ叫びの黄金比率の何を理解できんだよ、くそ素人が」 どうやら俺が優しく伝えたつもりのことでも、美々子は耐え難くキレたようだ。やれやれ。 美々子は俺の大切な友人だ。 美々子にはきっと俺以外の友達がいないし、恋人ができたというのも聞いたことがない。性格の面では、美々子は拘りが強いし譲れないポイントが多いから、人と付き合うのに比較的ハードルがある奴だと俺は思っている。容姿の面では、俺は女の容姿に関心がないからよくわからないけど、俺は可愛いと思うけど、一般的に美人とは言われない顔だと思う。 「ニセポくんさぁ、長い付き合いの友達としてまじで言うけど、今みたいのは本当にゆっくりできない」 「俺がゆっくりできない?」 俺は意表を突かれた。美々子は、俺のどこを見てゆっくりできないって思ったんだ? 「見ててね。いい? いくよ?」 と、美々子が今から何かをいくようなことを言うから、俺は思わず身構えた。何だ、一体何が、今から来るというんだ? 「はい! 東の空に、何が見える?」 と、美々子は彼女の後ろにあったカーテンを引いた。夏場は昼間でも閉めておいている。日が差し込むのと同時に、俺の視界に、窓の外の景色が映った。 その光景は衝撃的なものだった。 空に、どう見ても、超巨大なウンコが浮かんでいるのだ。 超巨大なウンコは落下せずにいて、どうやらちょっとだけ回転している。 俺は驚いて叫んだ。 「ウンコーーーーーーー!!」 ……あ。 「気づいたようだね」 美々子がどや顔をしている。 おやおや。 俺としては、美々子の言い分を認めるのは癪だ。だけど自分が感じたことを隠して、嘘をつくのはもっと違うから、俺は正直に言うことにした。 「今の、気持ち悪かったな!?」 「そうでしょ!?」 そう、俺は、今自分がしたウンコ叫びに対して『どこか変』だと感じたのだった。 ウンコ叫びの黄金比率。 だからこれはもしかすると、まじのやつだ。 俺の今のウンコ叫びは、伸ばし棒6つ、ビックリマーク2つだった。 ……うわ! うわうわ。 ちょっとなんか、わかっちゃったかもよ、俺。 「さっきの黄金比率のやつ、美々子、もう一回やってもらってもいいか?」 「しょうがないですなあ、いきますぞ」 美々子が息を吸い込む。 「ウンコーーーーーーーーー!!!」 「気ぃぃ持ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!!!!」 俺は気持ちよすぎて叫んだ。 初見の時は、彼女の主張する美に気づかなかった。 自分の不細工なウンコ叫びの後だから、比べることができてわかった。これが、完璧な比率なのだ。伸ばし棒9、ビックリマーク3。 「もっと、もっとくれないか!?」 「ウンコーーーーーーーーー!!!」 「美しいぃぃぃぃぃぃぃぃいいい!!!!!!」 すごいねこれ。確かに、こんな凄いことを頭ごなしに否定した過去の俺はゆっくりできない。でもその俺はもう死んだ。 「さっきまでの俺、間違ったことを言っててごめんだったな、美々子」 「わかりゃあいいぜ」 気持ちよさそうに美々子。気持ちいいならよかったわ。 美々子が喜ぶなら反省してよかった。 ここはワンルーム賃貸の部屋。 壁は薄い。今みたいに大声で叫ぶと、隣から壁ドンをされることもある。俺は壁ドンは気にしないが、多分隣人は今留守のようだ。経験上、今ぐらい叫んだ時、在室の隣人から壁ドンをされる率は80%を上回る。 俺の頭に教授のことが浮かんだのは、隣人について考えたからだった。 「これ、本当にすごいな。教授に教えに行かないか? あの人でも、これは知らない気がする。ことによれば、歴史が動くかも」 「それって超ナイスなアイデアなのでは? 賢いニセポくん。一緒に大学行こうぞ」 俺たちは自転車を二人乗りして15分ぐらい走って大学に行き、研究棟の中にある曽我教授の研究室の扉をノックして入室し、今、ウンコ叫びの黄金比率を発表した美々子の顔に曽我教授の履いている下駄がめり込んだ。 「私の美しい顔面があああああ!!!!」 「帰れ」 曽我教授は五十歳なので、ぶっきらぼうにそう一言告げることで、馬鹿の学生を追い払うことができる。痛そうに絶叫する美々子。 叫び終わってなお顔を抑えてうずくまる美々子の肩を俺は叩いた。 「帰ろう、美々子」 どうやらウンコ叫びの黄金比率は、教授のお気に召さなかったようだ。また新しい法則を見つければいいじゃないか。 「そうはいくか!」 美々子は勢いよく顔を上げた。 今蹴られたばかりでこんなに元気なのはすごいと俺は思った。 美々子はどうするつもりなのか? 俺は自分では表面上スカした態度をとっているつもりだが、内面では完全にワクワクしている。 「教授、あなたに一分間、学生を蹴ることを禁じます! もしこれを破ったら、私は警察に駆け込みます! 訴訟も!」 「まさか法律を持ち出してくるとはな。俺の人生で唯一の失敗はお前のような人間をゼミに入れてしまったことだ」 なるほど、そう来るか。美々子は賢いかもしれない。法律なら曽我教授も手が出せないのかもしれない。 美々子はきっと法律を持ち出すことで教授からの物理的攻撃を封じたから、勢いづいた。 「教授教授教授、すげえことが起きてますよ、目ヤニは取れてますか? いいですか? 見てくださいね。せーのっ」 来る。俺は期待した。 美々子は曽我教授のために大学が割り当てた部屋に、法律が働く一分間の魔法の時間を利用して踏み入り、そして、窓にかかったカーテンを開けた。 空には超巨大なウンコが浮かんでいる。 「なっ……!」 曽我教授はそう漏らすと、一瞬、固まった。教授の顔は窓のほうを向いている。こんなのを見たら、次の言葉は決まっているはずだ。いくら五十歳の教授でも、驚きには抗えない。 教授は叫んだ。 「ウンコーーーーーー!!!!」 「はっはははwwwwwwwwwよりにもよって6:4かよwwwwwwwださいすねwwwwwwww」 美々子は床を転げて腹を抱えて笑い始めた。 俺も同じことをしている。 あの曽我教授がこれだけ満を持しておいて、よりにもよって6:4では、もう五十歳の威厳はない。 「教授~」 美々子は立ち上がると、ニヤニヤしだした。教授もきっと自分が今しでかしたことの恥ずかしさを自覚しているから、顔を赤くして美々子と目を合わせようとしない。 この勝負は美々子の、いや、俺たちの勝ちだ。ウンコ叫びの黄金比率は俺と美々子二人のものだから。 「知ってます? ウンコ叫びにおいて伸ばし棒が短く、ビックリマークが多い人間は、早漏かつ出す精子の量が多い傾向にありますwよくわからないけどあなたはカスなのでしょうねw」 「ぐぬぬ」 こうなっては五十歳でも形無しだ。美々子に言い返すこともできない。 どんなに頭がよかろうと、社会的に権威があろうと。 警察の前では法律を犯せないように。 一度したチンケなウンコ叫びは、もう、なくせない。 一生それをした人間として地球に記憶される。 今更だが、6:4というのは伸ばし棒6にビックリマーク4という意味だ。 〇 「やったね、曽我教授の弱み握ったわ。これで彼の講義からは単位が約束されたも同然ですぞ」 美々子は嬉しそうにアイスをかじっている。そんなに嬉しいならよかったわ。 美々子が単位とか言うのは珍しい。フル単が当たり前の、優秀な人間だ。 「美々子、単位には困ってないだろ。それよりは来年からの就活の心配したら? 美々子みたいな人間を欲しがる企業なんて多分この世にないよ」 「心配無用! 心を込めてここで働きたいですって伝えれば、きっと誠意は伝わるはずよ!」 「なんて真っすぐ正攻法な人間なんだ」 俺たちは美々子が食べたいと言ったガリガリくんをコンビニで買って、食べながら自転車は押して帰路についた。夏だから夕方になっても暑いけど、いい時間だ。何かに勝利したあと余韻に浸る時間は、多分、全部いい時間なのだろう。俺ももっと大きくなったら合戦とかやりたいかもな。 〇 美々子とファミレスで2時間ぐらい駄弁ってから、近くの駅で別れた。美々子は実家暮らしの者だから、家族が用意した晩ご飯を食べる。美々子の母親は美々子を溺愛し、美々子も母親を大好きらしい。美々子の父親のことはわからない。父親のことを美々子が俺に喋ったことはないと思う。どうだっけ? 俺は美々子と大学で知り合ったから、2年程度の付き合いだけど、まじで気が合うから大好きな友達だ。 「えっ嘘、何々?」 と、帰宅しようとした時、俺の部屋のドアノブにビニール袋がかかっているのを見たから、俺のテンションはあがった。 これって、ひょっとして……? 中身は、手紙と小さいお菓子だった。こんないじらしい真似をする人間は知り合いに一人しかいないから、誰からかはわかるけど、俺はワクワクしながら手紙を開封して読んだ。 『ニセポへ。 このあいだは壁ドンしてごめんなさい。 これは仲直りしたいから、ごめんなさいのお菓子です。 またニセポのおっきな声を聞きたいです。 怒ってなかったら、また叫んでくれると嬉しいです』 やはり隣人。俺は隣のドアを見た。そっか、もう帰ってきてるのか。 くぅ~~~。 ツンデレさんだなぁ、俺の隣に住んでる人ってば。 ウンコ叫びの黄金比率を発見したりした最高の一日の最後に、こんなサプライズプレゼントが待っているだなんてね。 俺は駆け足で自分の部屋へ入っていって、部屋の真ん中で大声で叫んだ。 「怒ってないよーーーーーーーーーーーー!!!!!」 壁が小さく、トン、と音を立てた。 俺は、隣人に会いたくてたまらなくなった。 本当はこんなことはするべきではないのかもしれないけれど、俺は自分の部屋を出て、隣のインターホンを鳴らした。 扉が薄く開いて、タンクトップ姿の五十歳のハゲたデブのおっさんが覗いた。彼は俺を一瞬見ると、恥ずかしそうにした。 「や、やだぁ、もう、直接会いに来るのは反則でしょ……?」 「あ、ああ……ごめんな。その……入ってもいい……?」 「は、恥ずかしいんだからぁ……!」 俺の隣に住む男性の名前は田中秀々(たなかひでびで)。 曽我教授と同一人物だが、別人格だ。 大学にいる間は曽我教授の人格だが、家にいる間は秀々のはずだ。 俺は秀々のことを大好きだ。 「なあ、秀々! そういえば、ちょっと見てほしいものがあるんだけど、いいか?」 「えっ? 何々?」 「ちょっとびっくりするかもしれないけど、よく見ていてくれよ」 俺は秀々のことを喜ばせたくて、ウンコ叫びの黄金比率を、彼にも教えることにしたのだった。 俺は秀々の部屋の窓にかかっているカーテンに手をかけ、一気に開いた。 さあ、秀々は、どんなふうに叫ぶかな? 「えっ、なぁに? 外に、なんかあるの? それって素敵なもの?」 え……? 俺は外を見た。 空に超巨大なウンコなんか、ひとつも浮かんでいなかった。 |
点滅信号 2023年08月13日 23時56分03秒 公開 ■この作品の著作権は 点滅信号 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2023年09月05日 00時52分11秒 | |||
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Re: | 2023年09月03日 20時49分38秒 | |||
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Re: | 2023年09月02日 17時10分30秒 | |||
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Re: | 2023年09月01日 21時25分52秒 | |||
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Re: | 2023年08月31日 20時11分31秒 | |||
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Re: | 2023年08月31日 04時55分58秒 | |||
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Re: | 2023年08月30日 00時11分07秒 | |||
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Re: | 2023年08月29日 22時09分03秒 | |||
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