コナンくんは食べられない |
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小学校の教室に、春の陽が優しく差し込まれていた。 給食のトレイには様々な料理が並べられている中、コナンくんの前には生のキャベツが手つかずで残っています。 コナンくんはその山をつつくものの、それを口に運ぼうとはしません。 そんな様子に担任のカネキ先生が声をかけます。 「コナンくん、またキャベツを残してるの?」 先生は理由をたずねるけれど、コナンくんは「好きじゃなくて…」と顔をしかめるばかり。 ――このままでは、コナンくんは一生キャベツを食べられないかもしれない。 そんな懸念を抱いたカネキ先生は、小さなの手を取り、「キミに見せたいものがある」とまだ授業中にもかかわらずコナンくんを校外へと連れ出すのでした。 ◆ ◆ ◆ そこは緑の絨毯が広げられたようなキャベツ畑でした。 その前には畑の持ち主であるリョウさんが立っています。 「ワシがキャベツ王のリョウ様だ!」 そう事項紹介すると、コナンくんとカネキ先生に握手を交わします。 「このすばらしい畑を見てくれ。美しいだろう?」 リョウさんの説明にふたりはうなずきます。 これまでスーパーでしか見たことがなかったキャベツが、こんな風に育てられているのを知り驚いています。 「キャベツ栽培は、ただ種を蒔いて水をやるだけの単純労働ではない。 まず土壌をしっかりと準備する。キャベツは弱酸性の土を好む。だからpHを定期的にチェックして、必要に応じて石灰や硫安を加えてやるんだ」 コナンくんは畑の土を指でつまんでみた。 「これが……特別な土?」 リョウさんは頷き「それだけじゃないぞ」と続けます。 「キャベツは害虫に狙われやすい。特にアブラムシやヨトウムシは手強い。農薬を適切に使って害虫を駆除しているんだ」 「農薬は使うんですね」 意外と言いたげにカネキ先生が確認する。 「そりゃそうだ。生産効率が圧倒的だ。そうでなけりゃ、たくさんの客にキャベツを届けられん。 まさか先生、農薬を使ったキャベツは食うに値しないとか言いだすわけじゃないだろうな?」 「そんなことは……」 「別にワシ以外の連中が自分の考えで新しい方法を生み出すのはかまわん。信念を持っての行動ならワシも応援してやらんこともない。 だがな、実際のところ農薬を使わない生産方法は大量生産に向かない。大量生産できなければ価格があがる。安く野菜が食えなくなるってことだ。それは本当に良いことか先生?」 その言葉にカネキ先生は首を振った。 「農薬を使わない野菜が良いものだというのは一部の連中の思い込みであり、科学的に立証されていないオカルト話だ。実際スーパーにならんだキャベツに、虫がついてて文句を言わない都会人なんていないだろ」 確かにその通りである。 リョウさんは農薬なしで虫のつかない野菜を作ることは不可能であるという。少なくとも商業ベースの生産量は作れないだろうと。 「いいか先生、世の中には耳障りの良い言葉で騙そうとする連中が大勢いる。あるいは騙す気すらなく、妄想と現実の区別がつかないような輩もだ」 ものを教える立場の者が、そんな連中の妄言に踊らされてはならないと釘を刺す。 「おじさん、キャベツの話は?」 「おおっと、そうだったな」 コナンくんのフォローにカネキ先生はホッと胸を撫でおろし、リョウさんは説明にもどる。 「他にも重要なのは収穫のタイミングだな。早すぎれば十分な大きさに成長していないし、遅すぎると葉が固くなっちまう。水をやりすぎると割れたりもするな」 キャベツが割れるという状況はなじみのない二人には上手く想像できない。 「だからキャベツ一つを育て上げるのには、知識と経験、そして何より愛情が必要なんだ」 そう自慢げに胸を張るのだった。 「わかったね、コナンくん。これからは生のキャベツも残さず食べようね」 カネキ先生の言葉に、空気を読んだコナンくんは『うん』と返事をしようとする。 しかしそれを遮ったのはリョウさんだった。 「なんだ坊主、おまえ、生のキャベツが嫌いなのか?」 「煮たのとか焼いたのとかは平気なんだけど……」 不意の質問に正直に答えてしまったコナンくん。キャベツ王の前でそんなことを言えばお説教を聞かされるにちがいないと身構えます。ですがそんなことにはなりませんでした。 「がははははっ、ワシと一緒だな」 その言葉に聞いていたふたりはビックリします。 「実はワシも生のキャベツは嫌いなんだ。ぶっちゃけアレ、不味いよな」 カネキ先生は驚きながらも怒りだします。 先生はコナンくんに苦手を克服してもらうためにキャベツ畑を訪れたのです。それを否定されては、学校を抜け出してきた意味がありません。 「リョウさん、給食を残すことは食べ物への感謝の気持ちを忘れることにつながります。私たちは食べ物を大切にする教育を子供たちに施しているんです」 「食べ物への感謝? 確かに作ったものが粗雑に扱われるのは生産者としては面白くないな。 でもな、無理に食べさせるのが良いってわけでもないだろ。キャベツにゃたくさんの栄養が詰まってるし解毒作用もある。良い野菜だ。 それでもキャベツ食わなきゃ死ぬわけじゃない」 「キャベツを、食べ物を残すことはそれを作ってくれた人々への敬意を欠く行為です。キャベツ一つを育てるのにどれだけの努力が必要か、さっきあなたがその口でおっしゃったじゃありませんか」 「努力して育てていることは確かだ。作ったものを粗雑に扱われるのも面白くない。でも、売れた商品についていちいちこだわってねえよ。 給食で使われて残されようが、お偉いさん方のパーティーで使われて見向きもされなかろうが、コンビニ弁当に入れられて廃棄されようが売った額が変わるわけじゃない。誰かの腹に収まったとおなじよう、そういう風に消費されただけ。文句をつけたって煙たがられるだけで卸値があがるわけでもないからな。 そもそも規格に入らなかったキャベツはトラクターでつぶして肥やしにしちまうんだ。人の口にはいらないキャベツなんて山ほどある。誰が残そうが誤差だ誤差」 なおも反論しようとするカネキ先生を眼力で押さえつけリョウさんは語る。 「先生、ワシは言ったよな。オカルトは良くないと」 「給食を食べきることは食育であって、宗教なんかじゃない!」 「だったら給食を残すことについて、当人への影響を科学的に立証してみな。いまどき栄養バランスなんざ他のものでいくらでも補える。キャベツが食えるなら、それで健康のための楽はできるだろうが、唯一無二の方法ってわけじゃない。 先生だったら子どもを型にはめるんじゃなく、その子に合う型を選んでやんな」 ◆ ◆ ◆ その晩、帰宅したコナンくんはリョウさんの言葉を思い出していました。 「キャベツに解毒作用なんてあるんだ」 野菜は身体に良いから食べるものと、漠然と教えられてきましたが解毒作用があるとは初耳でした。 ネットを使って調べてみると、いろいろなことがわかります。解毒作用の他にも抗酸化作用があったり、食物繊維が消化のサポートをしたり。便秘の予防や改善にも役立つ。含まれているビタミンCは免疫強化やコラーゲンの生成にも役立つとのことでした。 調べていく内に、知らない単語にぶつかり、それを更に調べると、もっと多くのことが知れていきます。 コナンくんはいま、学ぶことを最大限に楽しむのでした。 ――翌日の給食の時間。 コナンくんはポケットからソレを取り出すと給食にかける。 それは生キャベツが嫌いなコナンくんでも食べられるよう、自ら調合したオリジナルドレッシングでした。 キャベツの魅力を知ったコナンくんは、自分もキャベツを食べられるようなる方法を研究し、この工夫にたどり着いたのである。 試作品のデキはまだまだだったけれど、それでも彼は生キャベツを半分も食べることができた。 そのことにカネキ先生は、なにか言いたげでしたが、リョウさんに言われたことを思い出し口を紡ぎます。 そして、苦手をひとつ克服したコナンくんを褒めるのでした。 めでたしめでたし。 |
Hiro 2023年08月12日 21時17分25秒 公開 ■この作品の著作権は Hiro さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2023年09月08日 03時28分21秒 | |||
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Re: | 2023年09月08日 03時27分48秒 | |||
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Re: | 2023年09月08日 03時27分00秒 | |||
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Re: | 2023年09月08日 03時26分06秒 | |||
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Re: | 2023年09月08日 03時25分13秒 | |||
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Re: | 2023年09月08日 03時24分14秒 | |||
合計 | 6人 | 40点 |
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