俺とアイドル路鍾馗水仙 |
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「大体なんで俺が紗耶香ちゃんの出待ちをしないといけないのだ」 とある路地。俺は夏の蒸し暑い夜に突っ立っていた。 「でゅふでゅふ、それは拙者とオタケン殿との付き合いであるからして」 眼鏡をくいっと上げて、俺のドル仲間である縦横院史郎(じゅおういん・しろう)が答える。俺たちの周りには『お仲間』が多数。現在午後9時半、そろそろである。 「車が来たでござる」 路地に大きなミニバンが入ってくる。最近芸能人や政治家がよく使っている、七人乗りの車をわざわざ四人乗りにして乗り心地を上げた奴だ。こいつがとあるビルの前に横付けした。そろそろだ。 「せぇの」 史郎が音頭を取り。 「さぁや、ちゃぁぁぁぁん! おつかれさまぁぁぁぁぁぁぁ!」 ビルから男に囲まれて女の子が出てきた。アイドル『16マーブル』のセンター、荻野目紗耶香であった。彼女は俺たちに手を振った……。 ぱぁん。破裂音。 「誰だ、爆竹なんか鳴らしたのは!」 誰かが叫ぶ。違う、これは爆竹なんかじゃない! 「史郎、俺を呼んだ理由はこれか!!」 「すまないでござる!」 ビルの陰で史郎が両手で拝んで謝る。 「じ、実は噂があったでござる」 「紗耶香ちゃんに鉛玉が送り付けられたって噂だろ?」 さすがに16マーブルでも古参ヲタと言っていい俺はその噂は聞いていた。数日前、16マーブルの事務所に拳銃弾を郵送で送り付けた奴がいるという。 「普通鉛玉送り付けるような奴は本当に銃撃しないもんだがな」 鉛玉を送り付けるってやり方は、ヤクザの恐喝手段でもかなり強硬手段、いや、非常手段に近い。こんなことをしたら警察が動くからだ。 「銃撃とは……、うん?」 そんなことを言っていると、車が近づいてきた。黒塗りのゴツいセダン。まさか! 「史郎、隠れてろ! これはやばいぞ!」 俺はそう言ってミニバンの方に飛び出した。 「畜生、兄弟子ども、何やってんだ!」 俺の記憶に間違いなければ、俺が通っている道場、破茶滅茶塾の兄弟子たちが紗耶香ちゃんのボデーガードでついているはずだ。兄弟子たちに会いたくなかったから俺は出待ち……、そもそもマナー違反だしな、なんかしたくなかったのだが。 「何、拳太! 拳太か!」 「兄弟子、何やってんだ!」 俺はふがいない兄弟子の一人を叱る。 「お前こそ! 大体お前、出待ちなんかする奴じゃなかっただろうが!」 「ツレに付き合ったら巻き込まれた!」 「運のない奴、付き合え!」 「あいさ!」 俺は兄弟子二人と紗耶香ちゃんとマネージャーを囲む。 「多分マカロフです」 俺は兄弟子に伝える。 「拳銃頼りの馬鹿ならいいな」 「全く」 「おい、兄ちゃんがた」 俺たちをさらに包囲する、ヤクザっぽい皆様……、五人か。 「蜂の巣になりたくなければ、後ろの女渡しな」 「くっちゃべる前に引き金引くべきだな」 「へ?」 俺たちはこの馬鹿を懲らしめるべく動き出した。俺はまず正面の男。五メートル、近づきすぎだ馬鹿。 早足で三歩、四歩目で大きく踏み出し、正拳。 「げ、げほぉ……」 人中(※みぞおち)着。銃を取り落とし、男は前のめりに倒れた。 「ホ・弐拾、襟魂……」 俺はそう言い捨てて次の得物を探す。 「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!」 俺の左にいた男が銃を構える。 「ふん」 俺は銃の射線から体を外し、男に迫る。 ぱぁん! 銃を撃ってくるが、当たらない。大体トカレフは軍用拳銃、破壊力は高いが手に来る衝撃が強くて相当練習しないと使いこなせないポンコツだ。その分安いからやばい自由業ご用達なんだけどね。 「はっ!」 俺は飛び上がり、男の頭に蹴りを入れる。瞬時に三発。男は無言で倒れた。ここまで10秒もたってない。 「ひ、ひけぇ!」 気が付いたらほかの兄弟子も一人ずつ倒していた。残った男はセダンに逃げ込むと、猛スピードでバックして去っていった。 「……去ったか」 「ああ」 俺は一息つく。俺が周りを見ると、紗耶香ちゃんの出待ちをしていた連中はクモの子を散らしたようにいなくなっていた、史郎も含む! 「あの野郎、見捨てやがった!」 「「「あはははははは!」」」 兄弟子、笑うな! 「あ、ありがとうございました」 紗耶香ちゃんのマネージャーさんが俺たちに近づき、頭を下げる。 「あ、あんた、いつも劇場いるよね」 「げ、認知されてた」 マネージャーについてきた紗耶香ちゃんも俺に声をかけてくれる。というか、なんで俺知ってるの? 俺はあなたを推してないよ? 「いつも大声出してる眼鏡の奴の隣でやる気なさそうに声出してるから、逆に目立ってるよ、あんた」 ……しまった、史郎の隣にいるから悪目立ちしてた! 俺は恥ずかしくなって二人から目線をそらした。 「しかし、あんた。すごくかっこよかったよ?」 せっかく目線反らしたのに、わざわざ目線を追尾してきますよこの子はぁぁぁぁぁぁ! お、俺には生涯忠誠(センパーファイ)を誓った……。 「お、俺、凛久ちゃん推しですんで!」 「推し増ししよう、決定♪」 紗耶香ちゃんがそんなことを言って誘惑してくる。 「だって、すごかったよ。頭に空中で三回? も蹴りを入れるの」 「あ~、あれね……」 俺はとっさに打った技が恥ずかしくなりまた目線をそらす。 「お前、飛燕打ったのかよ! かっこつけすぎ~」 兄弟子に茶化された、やっぱり。 「俺たち破茶滅茶塾の技は、手わざをホ、蹴り技をキと言って、そのあと数字が入るんですよ。こいつが放ったのは、キ-61・『飛燕』って技です。うちの技でも派手で人気あるんですが、よっぽど隙のある相手でないと打てないんですよ」 兄弟子はそう言って笑う。 「言わないでくださいよ~」 確かに狙ったのは事実。打てそうだったから。 「かっこいい、自信もってよし!」 紗耶香ちゃんはそう言って……また俺の視線を追尾するぅぅぅぅ! あう、ついに顔をまじまじと見てしまったじゃないか。すごい美形なのはもちろん、すごかったのは大きな瞳だった。その瞳は野望を秘めた、恐れを知らない英雄の相を持っている……、そう感じた。だって、銃持った男に襲われたのにケロッとしてるんだぜ? そんなことを言ってるうちにおっとり刀でミニバンが二台現れ、中からいかにもスジもののおっさんたちが現れる。 「紗耶香! 紗耶香は無事か!」 叫んでるのは『16マーブル』のプロデューサー兼事務所の社長さん。 「パパぁ!」 紗耶香はマネージャーさんと社長に近寄っていった。 「無事か!」 「うん!」 がしっと二人で抱き合う。あれ、あの二人親子だっけ? それともパパ的な意味で……、あ、絶対後者のあれだ。 「おまえら無事か!」 ミニバンから見知った顔のおっさんが現れる。うちの塾長だ。 「押忍!」 兄弟子が拳を平手に押し付け塾長に挨拶している。 「二人で守ってて、五人に襲われました! かなり危ないところでしたが、重拳師凡(じゅうけんのそち・おおよそ)と偶然居合わせまして、三人で四人蹴散らしました」 「よし! で、拳太、お前なんでここに?」 塾長がめっちゃ睨んでくる。あ、これは怒られるパティーンだ……、けど正直に話す。 「押忍! 重拳師凡。16マーブルの公演を見に来てました! ツレに荻野目紗耶香の出待ちを誘われたところ巻き込まれたであります!」 「……何やってんだお前」 塾長はそう言って笑う。よし、説教はないようだ。 「お前ら!」 塾長は兄弟子二人を呼ぶ。 「よく守った、これでうまいもの食って帰れ!」 「「押忍!!」」 そう言って塾長は二人に諭吉さん一枚を渡した。兄弟子二人は喜んで帰っていく。あれ? 「……じ、自分は?」 「貴様は俺と豪ちゃんと飯に付き合え」 「お、押忍!!」 塾長と社長は幼馴染と聞いている。金持ちの社長との飯だ、絶対いいものに違いない。兄弟子、すんません。うまいもの食ってきます。 「一人は背後を聞くんで体(がら)もってこい! 三人は警察に引き渡す! 四人残れ!」 「オス!」 がら悪いおっさんたちが社長の指示に従う。このおっさんたちが俺たちの代わりに警察の事情徴収を受けてくれるようだ。 「……社長、まずいっす。全員銀ダラ持ってます」 (やっぱり銀ダラかよ) 銀ダラっていうのは中国製軍用拳銃、五四式手槍の粗悪なコピー品で、粗悪品であることを隠すため全体をクロムメッキでギンギラギンにしたので銀ダラと呼ばれている。ちなみに先ほどのトカレフとは、五四式手槍というやつがそもそも旧ソ連の軍用拳銃、トカレフのコピーなのだ。 「おかしいですね、うちのケツ持ちと今争っている組織ないっすよね?」 「ヤクザだ、金積めばなんだってやるだろうよ」 銀ダラに気付いたおっさんに社長が吐き捨てるように言う。やがてサイレンが聞こえてきた。 「よし、三人銃撃戦をした、それを素手の男が倒して風のように去っていった、それで行く!」 「出待ちしてた連中は?」 マネージャーさんが社長に尋ねる。 「どうせ、おまいつ(※劇場にいつもいる熱心なファンの事。『お前いつもいるな』の略)の連中だ。そこの拳太のツレからたどれる。かん口令を敷け。百中券使って構わん」 「はい」 マネージャーさんは社長の指示を受け電話を始めた。 「では、拳太とやら。ついてこい」 「はい!!」 飯だ飯だ。俺は社長さんの後について行った。 ……こんな店があるんだ。俺は素直に驚いた。狭いビルの地下、たった6つのカウンター席しかない、狭い狭い店。そこでシェフが目の前でステーキを焼いてくれている。シェフは長い包丁でサクサクとステーキ肉をサイコロ状に切り落とし、皿に盛っていく。綺麗に盛るなー。そうして五人―俺、社長、塾長、紗耶香ちゃん、マネージャーさんに皿を配っていく。 「味わって食えよ」 「お、押忍!」 塾長に茶化されながら、俺は一口大に切られたステーキを箸で摘まみ、口に入れる。アツアツの脂が、肉のうま味と一緒に口の中にぶわぁッと広がり、一瞬で溶ける。 「な、なんすか! こ、この肉? 肉なんですか?!」 「うまいだろう」 そう言ってにやりとする社長。 「佐賀牛、最高ランクのサーロイン(※背中の肉)、おそらく日本で最もうまい肉の一つです」 シェフが説明してくれる。 「ここのシェフの腕がいいからな。筋をきちんと切ってるからフィレ並みの食感をサーロインで味わえる。よっぽどの食通でもないと、もうフィレとサーロインの差はわからないさ」 社長が自信ありげに言って、シェフさん照れてる。 「さてと。改めて、紗耶香を救ってくれてありがとう。ワシは16マーブル所属事務所、『大理石』社長の文身豪(いれずみ・ごう)という。お前さんのことは大河からよく聞いている。強いんだってな」 座ったままで社長が自己紹介して頭を下げた。塾長、俺の事社長に話してたのか……、あ、大河っていうのはうちの塾長の名前だ。 「……下手な空手道場崩れぐらいならば、負ける気はしません」 謙遜するのもあれ何で、とりあえず一般人に毛が生えたぐらいなら負けないとアピールして置く。 「なるほどな」 「あの」 俺はどうしても聞きたかったので聞いてみる。 「あの場、六人いたのですが、全員拳銃を持ってました。一体何があったんですか?」 「ワシが聞きたいところだ」 社長はうんざりした表情をしている。 「うちのケツ持ちがやらかしたとも聞かない、ライバルの事務所でもここまでやられる筋合いはない。わからん」 社長はそう言ってため息をついた。 「マネージャーさん、紗耶香ちゃんの周り、私生活では?」 「あたしぃ~?」 そう言って紗耶香ちゃんは口を大きくあーんとして、サイコロ肉を口の中に落とした。 「おいちいけど、肌の敵ね」 紗耶香ちゃんはそう言って俺の方を向き、にやりと笑う。確かに脂肪分は疲れると分解されずに皮膚に出ていき吹き出物やニキビの原因になる。 「まさかだとは思うけど」 「あの件ですか?」 あの件? マネージャーさんも知っているということは何かあったんだろうか? 「アンタ、知ってるでしょ? あたしのTOがBAN食らったの。まぁ、あまりに付き合えとかいうんであたしから首にしたんだけど」 「ああ、その話は聞いたことがあります」 そう言えば史郎から最近、TO……、正式にはトップヲタといいアイドルのファンでもリーダー相当の人物が紗耶香ちゃんから嫌われBAN、劇場出入り禁止を食らったという話は聞いた。相当の太オタ(※そのアイドルのために滅茶苦茶金をつぎ込んでいるファンの事)だったはずだけど、切ってよかったのか? 「だってあいつ、きしょい」 紗耶香ちゃんはいやそうな顔をする。 「ドルヲタなんてみんなきしょいだろ?」 「お前は自分を否定するのか?」 塾長に突っ込まれ、社長とマネさんがクックッと笑う。言っておくが、俺もそれぐらいの自覚はある。武術ヲタかつドルヲタ。女っけゼロ。あと俺は通信制高校だから同級生とやらと付き合うこともない。 「お金なんかいくらでもあるんだ、君を買っていいんだ! だって。そりゃアタシら商品だけど、あいつには、絶対、買われたくない!」 そう言って紗耶香ちゃんはがぶっと肉を食った。一口肉が一瞬で消える。勿体ない食い方するな。 「ところでお前に話がある。兄弟子たちとお前を放したのはこれが理由だ」 ワインをくいっとやって塾長が本題を切り出す。 「豪と話をしたんだが、おまえ、紗耶香ちゃんの護衛についてくれ」 「だろうな」 俺はそう言ってため息をついた。大体塾長とうまい飯屋に行くということはやばい案件の依頼だ。この前なんか、ヤクザの薬の取引前に制圧して証拠を押さえてくれなんて無茶言われて死にかけた。まぁ二十人ぐらい血祭りにあげたが。マトリ(※麻薬取締官。厚生労働省の所属で警察とは別組織)の方々には感謝されたがサツに睨まれた。 「何時から何時まで?」 「二十四時間。紗耶香の家に住み込みだ」 「止めてよ!」 紗耶香ちゃんが反対する。当たり前だ。唐突過ぎるし、男と女……、あ、一人暮らしと決まったわけじゃないな。 「条件の詳細を」 俺は紗耶香ちゃんを無視して話を聞く。 「貴様には紗耶香のマンションに住み込みで護衛してもらう。紗耶香の仕事中は流石にかまわないが、プライベートの時は必ず一緒にいろ」 そう答えたのは社長さんだった。 「マネさん、あなたは?」 「マネは基本送り迎えしかしない。家の中まで入らない」 社長の説明に俺は頷く。 「ちょっと、あんたら、勝手に話進めないでよ!」 紗耶香ちゃんが怒って俺たちに怒鳴る。 「死にたいのか?」 俺は殺気を込めた視線を紗耶香に送る。俺の一睨みで紗耶香がすくんだ。 「あ、い、いや、死にたくないけど……、も、もしこいつが狼になったら……」 「俺は凛久推し。あんたには興味ない」 ここで出てきた凛久っていうのは俺の推しで同じ16マーブルのメンバーだ。ただし人気は底辺。ムチムチでぷりぷりなお姉さんキャラで俺の好みなのだ。紗耶香ちゃんはすごいダンスがうまく歌もうまい、まさにザ・アイドルみたいなカリスマを持っているが、その均整の取れた体が逆に紗耶香ちゃんを人間離れしたものに見せる。近寄りがたいというか。 「あ~、あんた、あーゆーのが好みなんだ」 紗耶香ちゃんはジト目で俺を見る。 「ムチムチでぷりぷりでやーらかそうな女の子が好きなんだ。どうせあたしゃ筋肉模型よ」 ふん! と再度チェストのポーズのふりをする紗耶香ちゃん。 「だけど社長さんよ。俺もまだ未成年だし、俺が本当に狼になったらどうする気だ? それにやろうと思えばこの子が嘘つくこともできる。俺が圧倒的に不利なんだが?」 「……紗耶香がお前さんに襲われるのは報酬の範囲内とする」 「「おい!」」 俺と紗耶香ちゃんが同時に突っ込む。 「それじゃなによ、パパ、あたしにレイプされろ言うの?! 信じられない!!」 「社長さん、それはいくら何でも……」 俺もさすがに社長さんをなだめる。しかし。 「どうせお前、今まで売れるためにいろんな男と寝てるだろうが。仕事の一環だ」 社長。ファンの目の前で枕営業の話なんかしないでください。 「拳太、お前はファンとして考えてるだろうが、お前はうちの塾にいる時点で半分以上こちら側の人間だということを忘れるな」 「……押忍」 俺が何か言おうとする前に塾長から止めが入った。うちの塾生はさっきもいたが輪番で16マーブルの護衛をやっている。まぁ今回のような拳銃(チャカ)持ってるやつらは流石に初め……、あ、ヤクの手入れの時拳銃持ってた奴いたな、けどあんときは討たれる前に制圧したからなぁ。あとナイフ持ったファン相手に格闘したことはある。もっとも刃物持っただけの素人なんて、俺はおろかうちの塾生相手では話にもならない。 「とにかく」 そう言って社長さんは懐から金属質の何かを俺に放り投げた。 「明日朝から家に住み込みで護衛に入ってほしい」 「……本当にいいんですね?」 俺は信じられない顔をして社長の顔を見る。社長は笑って頷いた。これは本気だ。 「あ、あたし、反対だからね!」 「もうカギは渡した。鍵の業者にはもう言ってあるからな。お前がカギを変えろと言ってきても買えないようにな」 娘を困らせて喜ぶ父親のような社長さん。もー!! という紗耶香ちゃんが滅茶苦茶かわいい。そんなところに塾長が俺に近づいてきた。俺に耳打ちしてきたのは……。 「あの二人は実の親子だ。正確には荻野目紗耶香は愛人の子だそうだ」 「え……」 俺は絶句した。 「その愛人が早くに死んで、紗耶香の親はあのマネさんが代わりだそうだ」 「……孤独なんですね」 「学校もフリースクールからお前と同じ通信制高校、境遇は似てるだろ。お前が力になってやれ」 「……押忍」 さぁて、困ったお嬢さんの世話を押し付けられたぞ。どうする? 「……でけぇ」 朝九時。教えられた紗耶香の家は都市の中心部にデンと建てられた三十階建の高層マンションだった。プルジョワは嫌だねー。 俺は正面玄関のオートロックの扉に鍵を差し込み、自動ドアを開ける。俺の荷物なんて肩に担いだズタ袋に下着と少々の上着、そして道着だけだ。それと財布とスマホ。これが俺の全財産。普段は道場で寝泊まりしてるから、これでいい。玄関ホールはまるでホテルのロビーで、ソファーでは奥様が優雅にコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。旦那様を送って一息といったところか。 俺はそのままエレベーターに直行し、またエレベーターの鍵穴に鍵を指す。防犯のため、マンションの住人ですら自分の居住階と地上の玄関、地下の駐車場しか出入りできない。 俺が付いたのは二十七階。相当高いところだ。エレベーターを降りると左右に廊下が分かれている。俺は案内に従い、部屋に向かう。二七〇二号室。鍵はもらっているが、一応インターホンを鳴らす。 「……あんた、部屋の前まで来てからインターホン鳴らす?」 インターホンから声がした。とりあえず起きているのは間違いない。 「社長の命令通り来た。入るぞ」 「わかったわよ。鍵なんか使わないで。開けるから」 「ほんとかよ」 がちゃ。インターホンを切る音がする。それからガチャと音がして、本当に玄関が開いた。 「……すっごく汚いわよ?」 扉から顔をちょこんと出して言う紗耶香が滅茶苦茶かわいい。おお、すっぴんでも美人だなー……、って見とれるな! 俺は凛久推しだ! 「慣れてる」 「なれてる?」 不思議そうに小首をかしげる紗耶香について行く俺。玄関から左に曲がると、その廊下は見事にごみで埋まっていた。いわゆる汚部屋である。 「うーん」 「や……、やっぱさぁ……、女がこんなんだと、ひく?」 上目遣い……、と言っても紗耶香は身長は168もある。俺が178センチなので上目遣いの形にはなるが。 「言っただろ、慣れてる、と」 俺は気にすることなく、奥のリビングに行くと。 「あ、あははははは!!」 「わ、悪かったなぁ!」 事前情報では21畳あるというLDKは、見事に服やらコンビニやらの袋で埋まっていた。 ところがキッチンシンクの向こう側、4~5畳ほどのスペースだけは見事に片付けられ、その床が見えている側の壁は鏡で敷き詰められていた。 「いや、ごみを笑ったんじゃねぇ。家でもダンスのできるスペースだけは死守してるのが可笑しくて」 「ふん!」 とりあえずキッチン側にある椅子に俺は座る。 「しかし人が住む場所じゃないな。ずっと掃除してないのか?」 「い、いつも何ヶ月に一回か、ハウスキーピング依頼するのよ。ひ、一人暮らしだから、それで十分だし」 恥ずかしそうに紗耶香がいい。 「十分じゃNeeeeee!」 俺は説教する。 「アイドルである前に人間として失格だぁぁぁぁぁぁ!」 「ごめん、謝る」 紗耶香は素直に頭を下げた……、かわいい。しかし俺は落ちぬ! 「社長さん、そういや俺の仕事知ってたな。それでか」 俺に何とかしろというメッセージだな。俺はズタ袋からスマホを取り出し、メモ帳を起動する。 「とりあえずポットとスチーム、ウェス、養生のテープとブルーシート、ごみ袋たくさん……」 俺はメモ帳アプリにバシバシ文字を入力していく。 「何してるの?」 「いる物。買うものともいう」 社長に請求書送り付けてやる。金くれなかったら暴れる。 「あとは……、風呂どこよ?」 「ふ、ふろ?」 俺の言葉に挙動不審になる紗耶香。さぁてぇはぁ! 「おまえさん、ふろ、一度も掃除したことないですね」 「わ、わ、わるがっだわね~!!」 紗耶香は目の色を変えて俺につかみかかろうとして、俺に頭をがしっと掴まれて静止する。 「だから、そんな部屋を見慣れてるっつーの」 「も、もしかして、同類? ったたたたたた!」 紗耶香がしめたという表情をしたので俺は頭をつかんでる手の握力を強め、アイアンクローに移行する。 「バイトでハウスキーピングの手伝いしてるの、俺。こんな部屋まだましな方だ」 俺は手を放しながら言う。 「あたたたた……。う、うん、これでましって、どんな現場見たことあるのよあんた」 「聴きたいか? ウジ湧いた死体付き、死亡後約三か月らし」 紗耶香が聞きたそうだったので、俺はいきなりハードモードを教えてやる。死体があるからデスモードか? 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 止めてよ……、やめてよ……」 紗耶香、顔が真っ青。強烈だったか。 「あと中国人が共同生活してた部屋、いわゆるタコ部屋だな、清掃したときには風呂場が血の黒がこびりついて」 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 紗耶香の顔色が本気でやばい.。そろそろいぢめるのやめるか。 「そっちは話聞いたらなぁ。飯食うのに養鶏場から廃鶏 (※卵を産めなくなった鳥)もらってきて風呂場でさばいて、本人らは職場のシャワーで風呂を済ませてたんだって」 「てっきり蛇頭(※中国版やくざ)の処刑場かと思ったじゃないのぉ!」 「日本の団地を処刑場にするなぁ!」 紗耶香の逆切れに俺も逆切れで返す。というかさや科、お前中国人を何だと思ってるんだ? とりあえず風呂場に入るために洗面所に入る。勿体ないな、推定使用回数10回未満のピカピカの洗濯機が洗濯物の中に埋もれていた。風呂は浴乾(※浴室乾燥機能)付きか? なら助かる。俺は壁のリモコンを見て確信する。風呂はすごかった。奥が三面の窓が付いた出窓に浴槽が刺さったような独特なデザインで、広さ一坪半ぐらい(三畳)か。風呂に浸かれば外の絶景を独り占めだ。しかし。 「窓は水垢か?」 「……うん、ハウスキーパーの人もきれいにならないって言うから放ってる」 「セリウムとクエン酸、ポリッシャー……」 俺はスマホに書き足す。 「よし」 俺はメモを確認する。多分これだけあればなんとかなるだろう。 「おい、紗耶香」 「あんた、あたしに何呼び捨てしてんのよ」 汚部屋の主が偉そうに。 「何度も言うが、俺はあんたの推しじゃない」 「だけど依頼人よね、一応」 「……サーセン、紗耶香様」 そう言って頭を下げる俺に対し、してやったりとニヤリとする紗耶香。畜生、そこを突くか。 「でさー、あんた、掃除してくれるの?」 「こんな人類の居住可能限界ギリギリの家で寝てたまるかぁ!」 俺は紗耶香を怒鳴る。 「ちょっと買い物行ってくる」 「待ちなさいよ」 俺は外に行こうとして、紗耶香に止められる。 「欲しいものあるの? どうせパパに請求するんでしょ? あたしが頼んだげるわよ。デパートの外商。なんでも手に入れてくれるわよ?」 「外商?!」 お金持ちめ。外商使えるのかよ。 「角栄百貨店。あそこの得意先よ、あたし」 そう言って紗耶香は自分のスマホで電話を始める。 「もしもし、時田さん?」 角栄百貨店の時田? ヤベ、知り合いだ。あの人なら話早いな。 「うん! 部屋掃除するのにパパったら男一人ボデーガード兼ねて送り込んできてるのよ。え、パパから話を聞いている? わかった」 紗耶香はスマホを切ると俺に言う。 「あんた、時田さん知ってるの? 向こうが電話知ってるって」 「ああ、知ってる。角栄百貨店のハウスキーピングサービスでバイトしてるから」 「……あたしみたいな汚部屋の主が外商に依頼するんだ……、あはは」 紗耶香は呆れたようだ。ほどなく、俺のスマホに電話が鳴る。 「あ、時田さんっすか。凡です。お世話になります」 「文身(いれずみ)様から話を聞いてるよ。君が必要とするものを何でも買ってくれってね」 「社長さん、あらかじめ話を通してくれてましたか。助かります」 塾長&社長、ナイスアシスト。 「じゃあ高い機械頼みます。ドイツブランドの黄色い奴、ポットウェットバキュームとスチームクリーナーを用意してください。ハンドポリッシャー、充電式の奴。こちらはブランドはお任せします。ポリッシャー用のパッドは不要、念のためスポンジをニケ頼みます。ウェスは1キロのを二袋。養生テープ二巻。二坪サイズのブルーシート4枚。強アルカリ洗剤は500ミリスプレーの奴と2.5キロ1本。ダイヤモンドパッド10枚入りひと箱。あとこれ手に入りますか、セリウムポリッシュクリーム」 「カー用品の業務用でいいかい?」 「OKです。あと90ℓごみ袋10枚入り二つ……、いやひと箱。防刃グローブ一双、いや三双。バスクリーナースポンジ4ケ。スクレーパを二本、幅狭いのと広いの、それとスクイジーと中性洗剤スプレー式。家庭用のもので大丈夫です。これだけで行けると思いますが、届くのにどれぐらいかかりますか?」 「外商をなめては困るよ? 30分だな」 電話口の向こうで絶対時田さんは不敵な笑みを浮かべたに違いない。 「んじゃ頼みます」 「ありがとうございました」 プチ。電話が切れた。 「……ねぇ、今の時田さんとの会話、何? 魔法の呪文?」 「業界用語ってやつは、確かに魔法の呪文だな」 俺は苦笑いする。 「しかし」 俺は風呂の窓を見る。 「角栄百貨店のハウスキーピングならこんな無様なことはしないはずだが」 窓があまりにも汚い。雑な洗い方した末路だ。 「このマンション、ハウスコンシェルジュがいてそこに依頼するのよ」 「よくこの程度でハウスキーピングでござい言えるな。角栄取引あるならコンシェルジュ契約切って乗り換えな」 俺は忠告してやる。この仕事してる俺にとって、雑な仕事は耐えられなかった。 「あんた、掃除のプロ?」 紗耶香がもっともな質問をする。 「俺は」 ちょっと身の上話をしておくか。 「小学校の時に親に捨てられた。突然、両親が姿を消して、家に残された。今も行方不明だ。本来なら施設送りになるところだったが、当時の担任の紹介で師匠の道場で住み込みで修行することになったんだ」 俺の言葉を黙って聞く紗耶香。 「道場の掃除は俺の仕事さ。朝早くに起きて、道場を掃除して、朝練。学校行って帰った後、師匠の部屋の掃除。中学卒業したときに掃除から解放された。ほかの弟子がしてくれるようになったからな。なんせそのころには俺は道場で一番の強さだった。俺は去年、師範代になった。だから俺、一応本職はスポーツインストラクター。で、推し活するために角栄百貨店のハウスキーピングのバイトしてる。今二年目」 「うふふふふふ」 俺の話を聞いていた紗耶香が笑う。いいなぁ、その顔。 「やっぱアイドルは笑顔がいいよ」 「ありがとう」 そういう紗耶香の笑みが愁いを帯びる。 「困ったな。あんた、あたしと同じだ」 「同じ?」 そう言えば紗耶香は社長の妾腹と聞いたが。 「あたしもね。小学校の時、ママ、死んじゃった」 塾長が言ってたな、そんな話。そう言えば中学校の卒業式でマネージャーが親代わりに出席したってブログにあげてたな、この子。今のマンションに移るまでは家がどこか不明だったというのは、紗耶香推しの中では有名な話だ。 「それで、パパがこのマンション買ってくれるまでは事務所で寝起きしてたの。去年ね、このマンション買ったのは」 「それが一年で大惨事かよ……」 まぁ、普通汚部屋体質(失礼だとはこういわせてもらう)の人だとひどいと一週間で元に戻るとか聞いたことあるな。 ぴんぽーん。インターホンのチャイムが鳴る。 「角栄百貨店の時田です。ご要望の品をお持ちしました」 おお、まだ30分経ってないぞ。さすが時田さん。できる男は違う。 「ちょっと待って」 紗耶香は一度インターホンを切ると、別のところにかけたようだ。 「あ、関さん? 2702、荻野目です。荷物を直接入れ込むので三番機を専用にしてください」 紗耶香はそう言うとインターホンをまた切り替える。 「藤田さん。三番機確保したわ。運び込んで」 「Yes,Her Magesty」 藤田さんも気取ってまぁ……。 「はーま、じぇすてぃって、なに?」 がくっ。俺はずっこけた。 「変なところで切るなぁ! イエス・ハー・マジェスティ。『畏まりました、女王陛下』という意味っ!」 「あんた、なに、あたしのことをかわいそうな子を見るような目で見てるのよ!」 逆切れに逆切れで返す二人。俺たち、何やってんだろうかなぁ。 そんな馬鹿なことやってるうちにもう一回インターホンが鳴る。来た来た。 「俺が開けていいな?」 「どーぞっ!」 ふてくされたような紗耶香の声を背に、俺は時田さんの相手をする。 「やぁ凡君。社長から話は聞きましたよ。アイドルのうちに住み込むんだって?」 「時田さん、言い方!」 にやにやした顔のこの男。びしっとしたスーツ姿に黒ぶちメガネの、いかにもやり手な外商員と言った姿の時田さんは俺とは角栄美装、角栄百貨店の中の掃除担当する子会社でハウスキーピングもする、で何回も顔を合わせたことがある。ちなみに毎日ハウスキーピングの仕事なんかあるわけないから、俺は普段は朝早くに起きて店内のトイレ清掃やら掃除ロボットの整備・管理をしている。 「予算度外視していいと社長より。ハウスキーピング呼びましょうか?」 「このクラスなら俺一人で行けます。六時間後ぐらいでごみ回収のトラック手配願います」 多めに見積もっては見たが、2LDKぐらいのマンションならば四~五時間で掃除はできる。機械あるしね。 「食事はどうするかい?」 「金は腐るほどありますが、あえて自分で作ります」 高級マンションで一人暮らしということは自炊なんかしたことないだろうと勝手に辺りをつけて、キッチンの惨状から俺の考えが正解だったのであらかじめ用意したレシピを渡す。 「うん。こちらは二時間後ぐらいの配達がちょうどよさそうですね」 今の時間は10時前。そんなものだろう。 「はい。それでお願いします」 そう言うと時田さんと荷物を持ってきた二人の百貨店の人が俺に頭を下げた。 さて、やりますかね。 「紗耶香ちゃん、お前さんはダンススペースで座ってな。俺がする。手伝いいるときは」 「……床のゴミぐらい拾わせてよ」 ぼそっと紗耶香が言うので俺は持ってきてもらった防刃グローブをぽいと投げる。 「何これ、軍手じゃないの?」 「軍手だよ」 灰色の手袋を不思議そうに眺める紗耶香に俺が説明する。確かに普通軍手は白だもんな。 「防刃手袋。剃刀の刃とか刃が開いたハサミやら包丁やらが落ちてたら怖いからそう言うのを使うの、ごみ拾いには」 錆びた刃なんか素手でつかんだら最悪敗血症で死んじまう。紗耶香は手袋をはめて。 「安全第一、よし!」 「現場猫のポーズするなぁ!」 ダンススペースで見事な現場猫のポーズをとる紗耶香に俺は爆笑した。 「九十リットルゴミ袋、よし!」 俺は小さい割に重い段ボール箱を開く。中に入ってるのは大きなゴミ袋、十枚入り一袋が十袋。 「でっかいねー」 「市販じゃ一番デカいゴミ袋、料理店の生ごみ処分御用達」 俺は袋を二枚取り出し、袋の口を開けてから紗耶香に渡す。それから俺は手袋をはめた。 「ここの自治体のゴミ仕分け区分じゃ、剃刀や小さい硬いプラスチックのゴミは燃えるごみで出していい」 「それぐらい知ってるわよ。捨てちゃダメなのはビンカンペットボトル、電池、電球。あとはでかい硬いゴミ!」 「はじめろ!」 かくして俺たちは床のゴミを拾い始めた。弁当ごみ、お菓子の袋、包装紙といったものをバンバン入れていく……、おや? 紗耶香の動きが止まった。 「紗耶香、どうした?」 「……服ね」 紗耶香は手に持ったTシャツを持ち上げて眺めている。ぱっと見普通のTシャツだが、高いんだろうな。 「悪いんだけど、後輩にあげたいの。袋もう一つちょうだい。これは分別する」 「うん、そうだな」 アイドルグループでは金を稼いでいる先輩が後輩にお古の服を譲る文化がある。後輩はなかなか仕事が回ってこないので、握手会やイベントできる服、基本的に自前なのだ、が無くなるっていう問題があるので後輩の尊敬を集めるという意味でも重要だ。そういや紗耶香は自分のブログで後輩に服譲ってるのをアップしてることあるな。 「わかった。こんなごみの海に沈んでるので捨てようかと思ったけど、分別するわ」 「洗濯よろしく」 「ちっ」 紗耶香がニヤリとした顔でこっちを向いた。俺は紗耶香をひと睨みしてから床のゴミ拾いを続けた。 ……なぁ、九十リットルゴミ袋三袋分も家にためるなや!とりあえず個室二つを除くLDKと洗面所、トイレ、ふろの床のゴミは排除に成功した。 「ついついウェットバキューム買っちまったが、普通のバキュームで良かったな」 俺は清掃業者御用達の黄色い掃除機を箱から取り出し、床掃除を始める。 「すごいすごいー! 床が見える―!!」 紗耶香はどこにいるかというと、食事用カウンターテーブルに腰かけ、俺の掃除機の邪魔にならないようにしてくれている。床を掃除したら、次はウエス―ボロ布の入った袋の封を開け、東・南・西の三面の隅にブルーシートを敷く。そして壁と床の境目に。 「紗耶香、持ってて」 「呼び捨てするな―!」 ブルーシートと床を養生テープで止める。それから。 「必殺! スチームモップ!!」 黄色い掃除機と同じメーカー製の蒸気で床や壁を拭くモップを取り出し、コンセントを刺して水を入れる。一分ほどで準備完了になるので俺はそれで壁を拭き始めた。ドロドロと落ちていくホコリ交じりの黒い水。途中、壁に写真が乱暴に貼られていたのでそれは回収しておく。 「おえ~」 カウンターに再び座りなおした紗耶香が吐く真似するので。 「あなたの出した汚れです」 「反省」 紗耶香はそう言うと片手をテーブルについて俯いた。ずいぶん古いギャグだな。 つーても壁は東側の一面しかない、このLDKの構造では。南側は一面ガラスだし、西面は紗耶香がダンスの練習するため一面鏡張りだ。北面はカウンター式のキッチンだ。 とりあえずスチームモップはあとは床拭き上げで使うのでおいといて、次は。 「おお~、そうやってると本当に掃除屋さんみたい」 南のでっかいガラス、そして西の鏡を中性洗剤とスクイジー、手で持つ車のワイパーのようなもの、できれいにする。 「質問。そのワイパーでガラスの水とった後、布で拭かないの?」 「それをすると拭いた後がきれいにあとになって残る。少々の水滴ならそのまま乾かした方が後に残らない」 「へー!!」 紗耶香は今度は片手でバンバンとボタンを押すしぐさをした。そのギャグも古いな。かくしてLDKのうちLとDは綺麗になった。さぁて。 「ここまでハウスキーピング初級編。ここから中級編になります」 俺はそう言ってキッチンを睨む。腐海とかしたシンク。腕が鳴るぜ! 「……反省」 紗耶香はカウンターから降りてダンススペースに胡坐をかきどっかと座る。なお紗耶香の今の格好は丈の長いTシャツ一枚。すなわち胡坐をかくと。 「……紗耶香」 「呼び捨てするな」 「黒いのが見えている」 そう、股間丸見え。ばっと恥ずかしそうにTシャツの股間の部分を押さえつける紗耶香。 「ばかぁ!」 俺はさっき回収した服の入ったごみ袋の中からペチコート(※ここではアイドルがミニスカートの下に着けているフリルがいっぱいついた短パンのようなもの)を取り出しポイと投げてやる。 「せめてそれを穿いててくれ」 「……わかったわよ」 紗耶香がペチコートを穿き始めたのをよそに、俺はキッチンに戦いを挑んだ。カウンターキッチンの反対側は食器棚になっているが、中の食器は使われた様子はない。これなら軽く洗うだけで使える。問題は。 「てめぇ、マイセンを汚れたままにするなぁ!」 深紅の中に雑に突っ込まれてるものを見て俺は驚いた。 「えびせんがどうしたの?」 「誰が菓子の話をしたぁ! ドイツ製の皿で一枚が諭吉さん一枚で買えないもんばかりだぁ!」 「もらいもんだったけど、そんなに高価なの?!」 価値を知らないって恐ろしいなぁ。 「お前は推しに刺されろ」 ヒビ一つついたら価値がガンと減る代物だ。おそらく最近製造の奴だから諭吉さん一枚で買えるレベルだろうが、それでも高価だぞ。俺はガンガン洗っては食器棚(中身何もないでやんの)に仕舞っていき、シンクの中を空けていく。そして底が見えた。 「うわ、汚ったね……」 見事な白い水垢ともらい赤さびの浮いたシンク。しかしこれならいける。 「誰の仕業だ」 他人事のように言う紗耶香に俺は毒づく。しかし。 「これならダイヤモンドパッドだな」 俺は秘密兵器、ダイヤモンドパッドの封を開ける。小さな段ボール箱の中に入っていたのはB6サイズの茶色いスポンジ板。 「なにそれ?」 「ダイヤモンドパッド。冗談抜きで細かいダイヤの粉がまぶしてあるやすりの一種」 「あれだね、冷たい泉に素足を浸して摩天楼見上げるやつだね」 「歌うなよ」 あっという間にシンクはピカピカになって新品の輝きを取り戻した。ついでにカウンターの金属部分もダイヤモンドパッドで磨く。 「あのさー」 「なんだ」 「そんなもんで磨いたら鉄が傷ついてまた赤サビがでない?」 「このキッチンはいいキッチンだからこのパッドぐらいでは出ないよ」 「ふーん」 紗耶香は納得いかないようであった。しかしヤバそうだったはずのキッチンはあっという間に終わってしまった。よかった。ということでいよいよ。 「上級編、風呂行くか―」 俺はのっしのっしと洗面所に向かう。 「よーし、洗濯機回しながら掃除するぞー」 「ちょっと、やめてよ」 俺が宣言して、紗耶香が止める。 「邪魔するな!」 「するわよ……、はずかしい」 そういう紗耶香の顔は赤かった。 「ああ、下着か。気にしない気にしない。穴あきパンティーあってもフーンですま」 「ちがうわぁ! とにかく洗濯はやめて!!」 えらい剣幕だが俺は無視して床に落ちてたゴワゴワのフレアーパンティーを摘まみ上げる。 「いいもん持ってるなぁ、シルクかぁ、ん?」 しるく? 「お前、さては洗濯機にぶち込んで毛玉だらけにしたなぁ?」 俺は紗耶香をかわいそうな子を見る目で見てやった。 「悪かったわね!!」 吠える紗耶香。そう。絹製品は洗濯機厳禁なのだ。 「ということはぁー。ちょーめんどくせー」 俺はギャル語をしゃべりながら目的のものを探す。こいつは女だから持ってるはずだ……、ないぃぃぃぃぃぃ!! 「こら紗耶香ぁ! 女のくせに洗濯ネットが家にないとか何事だぁ!」 普通女性はブラジャー洗濯するため洗濯ネットを持ってるはずなのに、おまいはスポブラしか持ってないんか! 「は、ハウスキーピングに頼んでたから……」 このプルジョアめ! 俺は急いで時田さんに電話……。 ぴんぽーん。インターホンが鳴る。紗耶香がとると、相手はなんと時田さんだった。 「時田でございます。凡君の注文リストに不備があったのでお持ちしました」 あれ? 俺のリストに不備あったっけ? とりあえず時田さんを部屋に通すと。 「凡君。多分そろそろ入り用と思って持ってきましたよ」 「出来る男は違います!」 時田さん、持ってきた大きい袋から何と俺が欲しかった洗濯ネットとシリコン柔軟剤、そしてドライクリーニング用洗剤を取り出して渡してくれた。そして。 「洗濯ロープは要りますか?」 「浴室にランドリーパイプがありましたのでロープよりピンチハンガーが欲しいです」 俺がそう言うと時田さんはすぐにいっぱいピンチが付いたハンガーを渡してくれた。 「浴室にランドリーパイプだあったか不安だったんですよ」 「それだったら最初からツッパリ棒を」 「もちろんお持ちしています」 時田さんはそう言って持っていた大きいカバンから一メートル以上ある棒をおれにくれる。 「出来る男は違いますね。あと昼食のケータを」 「社長からピザの差し入れ依頼を承っております。別のものですが、あと1時間ぐらいでお届けに伺います」 「ありがとうございます」 社長もあざーす。 「あとすいません。実はごにょごにょ」 「……承りました」 時田さんは再び去り、こうして俺は紗耶香の下着を洗濯する武器を手に入れた。とりあえずはゴミ袋のうち紗耶香自身がこれから着るものをドラム式洗濯機に放り込みジェル型洗剤(これは家にあった)をポイと放り込んで動かす。そして俺は本番の。 「見てろ、絹はこうやって洗う」 俺はまず例のごわごわになったフレアーパンティーを洗濯ネットに入れ、洗面所にぬるま湯をためて揉み洗いする。 「絶対に絹同士をこすっちゃダメ。毛玉ができる。あとごわごわになったこれだが」 俺はフレアーパンティーを取り出す。 「これは洗った後バケツに入れて髪用コンディショナーにつける。そうしたらさらさら復活だ」 「へー!!」 俺の豆知識に素直に感心する紗耶香。うんうん。 「ということで男に下着を洗わせるという屈辱プレイを味わいたくなければ」 「やらせていただきます」 俺に一礼して洗面台に向かう紗耶香。それはほっといて俺はハウスキーピング上級編、風呂に向かう! 「おえ」 「悪かったわね!」 バケツに先ほど洗った絹のストッキングを放り込みながら紗耶香がなじる。 風呂場は見事な汚れ具合。多分ここに来て一度も洗ってないと見……、まてや。 「紗耶香、ハウスキーピングに風呂洗ってもらわなかったのか?」 「洗ってこれよ。けーねんれっかぁ、って言ってたけど?」 「築二年でこれか! んなわけあるかぁ!」 よくわかった。ここの管理会社無能だ。俺はゴム手袋をはめ、掃除を始める。 「必殺、クエン酸スプレー!!」 クエン酸は普通に飲み物とかに入っているあれだが、酸性なので水垢に大変効く。実際、俺がスプレーを吹きかけると、赤い水垢がどろどろと落ち始めた。 「落ちるんだ……」 「水垢ってのはアルカリと脂の化合物だ。アルカリである以上酸には勝てない」 「へー!!」 紗耶香はもみ洗いする手を止めて感心していた。 「スチームモップ~」 俺は先ほど壁を拭いたスチームモップで浴室の壁も拭く。 「のかないじゃない」 「当たり前だ。目的は油を溶かすために温めることだ」 そのあとでクエン酸をかけるとやっぱりどろどろと溶けた。 「天井の黒いのは……、やっぱりカビ?」 「カビですけどー!」 そう、このカビには『但し』がつく。 「普通ユニットバスのぉ、天井はぁ、抗菌加工されてますのでぇ」 俺は踏み台に上ってウエスで天井を拭くとあっという間に取れた。 「カビ●ラーなんかいらないんだ……」 「最近のユニットバスは、こまめに掃除してりゃあんまりいらないなぁ」 強アルカリのカビ取り洗剤は最近はあまり使うことはないなとは思う。 さて、洗い場の床スチームモップとクエン酸できれいになった。次、浴槽! がこん、ぴーぴーぴー。 「洗濯機止まった」 「洗濯かご、ゴミの山から発掘したから入れとけ。次の洗濯もの、どんどん放り込め」 「発掘言うなぁ!」 洗濯は半泣きの紗耶香に任せて俺は浴槽に挑む。と言ってもクエン酸パワーでガンガン行こうぜに……、なぬ。 「白い輪っか……、カルキ分か」 白い輪っかがせっかくのホーローの薄ピンクの浴槽に目立つようについていた。カルキ分。水道のカルシウム分が弱アルカリのボデーソープと反応してできる厄介な物質だ。 「それねー、とれないって言ってた」 紗耶香が洗濯ものを洗濯機から出しながら言う。 「うん? こんなもん楽勝だ」 俺は先ほどキッチンを掃除したダイヤモンドパッドを用意する。 「うりゃぁぁぁぁぁ!!」 ごしごしごしごし! うん。敵は一瞬で消えた。 「あんたぁ!」 紗耶香が怒鳴りながら浴室にやってきた。 「浴槽傷つけた……、な……」 俺がこすった場所を紗耶香がジーッと見るが、傷なんかついてるはずもない。 「アイエエエエエエ! ナ、ナンデ?」 NRSにかかった紗耶香がきょとんとして俺をじっと見る。 「この浴槽は琺瑯(ほうろう)製だ」 ごいんごいん。俺は浴槽を叩く。ごつい鉄特有の音が鳴る。 「鉄にガラス質のコーティングを施してるからクソ硬い。ヤスリをかけても大丈夫。もちろんポリバスやステンレスバス、人工大理石では禁じ手だがな」 ホーローバスは使う洗剤を選ばない、清掃のしやすさがトップだからホテルでの採用例が多い。かくして浴槽もきれいになった。そして最後。 「これをきれいにできないとか、ハウスキーパー失格だなおい」 せっかくの展望窓が水垢と白い鱗で汚れていた。 「それ、本当に取れるの?」 「取れるさ」 俺は短く言う。そして俺は電動ポリッシャーを取り出し、回転するスポンジに。 「必殺、セリウムポリッシュ~」 と言いながら指で小瓶に入ったクリーム状のものを掬い出しスポンジに塗り付けた。そしてポリッシャーを回転させ、ガラスに押し付ける! 「……それ、なに?」 「セリウム研磨剤。フロントガラスに鱗みたいなのがついてる汚い車あるだろ? ああいうのを磨くのに使うクリームだ」 大体ジャムの瓶ぐらいの大きさの瓶に入ったやつで五千円ぐらいする高価なものだが、金に糸目をつけないと言われている以上は使わせてもらう。 つける。回す。つける。回す。繰り返すことでガラスの鱗はその姿を消している。残念ながら浴槽の水垢やシンクの錆みたいに一瞬というわけにはいかない。 「うわー、すげー」 紗耶香が感心してくれる。 「今やってる方法は研磨法と言ってな。風呂のガラス、鏡とかな、を磨くにはあと有機酸、ぶっちゃけるとギ酸を採用した洗剤がある。ガラスごとうろこを溶かす」 「そっちの方が楽じゃない?」 紗耶香がもっともなことを言う。世の中それほど甘くない。 「これぐらいひどい鱗のガラスで使うと、ガラスの表面が波うつ。仕上がりが汚い。主に観光バスのフロントガラスを、鱗がひどくなってないうちに磨くのに使う方法だ」 「世の中うまくいかないかー」 そう言って紗耶香がむーと膨れる。よしよし、絹のストッキングを洗う手は止まってない。 「もっとひどいと最終兵器フッ化水素を使うことになるけど、俺は嫌。できないと言って逃げる」 「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ……」 「汎用ヒト型決戦兵器にも乗りたくありません」 新作のほう、シンジ君言ってたっけ? 「マジな話、このフッ化水素、手につくと皮膚貫通して骨を溶かし、最後は骨から血管伝って心臓に到達、心臓を止める。歯医者さんで義歯溶かして削るのに使うんだけど、歯に塗る方のフッ素と間違えて患者に塗っちまって死亡というケースが数年に一回」 「い゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁ!」 紗耶香絶叫。俺も使いたくないわ。 「ということで一番お金かかる方法ですがこれでこらえてください」 「命には代えられません。どぞ」 依頼主の了解を得たところで俺はポリッシャーを再び回し始める。死闘30分。どうにか昔の輝きを取り戻した。 「とりあえず終了だな」 「お疲れさまー」 紗耶香が俺にぽいと冷蔵庫から取り出したスポーツドリンクを俺に投げてくる。 「賞味期限切れてないだろうな?」 見たところ、三ドアの普通な冷蔵庫。そういや冷蔵庫の中を掃除してなかったなと俺は舌打ちする。 「賞味期限切れてる缶ジュースって何年前よ」 「缶ジュースの賞味期限は半年から一年な」 「まじ?」 そう言って紗耶香は再び冷蔵庫を覗く。 「どけい。ごみ捨てるついでだ。その中のスプラッターを駆逐してやる」 「スプラッター言うなぁ!」 俺が冷蔵庫の扉を開けようとして、紗耶香が俺の腕に抱き着いてまで阻止しようとするが俺はぽいっと紗耶香を投げ、中を確認する。 「おえ」 冷蔵室。賞味期限が去年とかいう食品ばっかりある。 「駆逐してやる! 駆逐してやる! 駆逐してやる!」 俺は九十リットルゴミ袋の封を開け、冷蔵庫の中身をガンガン捨てていく。 「そんな袋で大げさな~」 「袋がこれしかありません」 しくしくしく……女の子座りして悲しむ紗耶香。 「ほほう。牛乳、賞味期限一年前。未開封」 「やめてぇ~」 紗耶香が俺が取り出した牛乳パックに手を出すが、俺はその手を払う。 「貴様! 食えないチーズになるまでほおっておくとかそれでも人間かぁ!」 「そ゛こ゛ま゛て゛い゛う゛?」 「言うわぁ! 捨てろぉ!!」 かくして冷蔵室の中は賞味期限が来ていない缶ジュースとペットボトル以外は駆逐された。中身入り牛乳パックについては本当はルール違反だが燃えるごみで引き取ってもらおう。 「次、野菜室」 「わざわざ顔をタオルで覆って顰め面するなぁ!」 ……ハウスキーピング市場ランクイン級の腐海を俺は始末した。部屋や風呂よりこっちの方が効いたわ。 「一応冷凍室……」 俺は冷蔵庫の一番上の扉を開ける。 「貴様、このアイスキャンデーとアイスクリームの在庫はなんだぁ! アイドルだろ、自制しろぉ!」 「うるさい! 食べた分だけ動いてるわよ!!」 この中は賞味期限が切れてるものはなかった。 「つまり常に食事は外食かコンビニで済ませ、休日はアイス食いながら家でゴロゴロというダメな金だけはあるおひとり様生活スタイルなわけだな。ファンが泣くわぁ!」 史郎がこんなの見たら泣くだろうなぁ。俺は紗耶香推しのみんなを思い浮かべながらそう思った。 「わ、わ、悪かったわね!」 紗耶香、すねた。ぴんぽーん。ちょうどよくインターホンが鳴る。 「角栄百貨店です。ピザとご依頼のものをお持ちしました。それと」 「角栄美装です。ごみの引き取りに参りました」 「お願いします」 俺はえっほえっほと具入りゴミ袋三個を玄関の外に出す。そのあとをついてくる紗耶香。 「全部乗せピザLサイズ二枚とサラダをお持ちしました」 「紗耶香、これ」 「はーい」 紗耶香はピザの平たい箱を引き取る。 「ごみは外にある分で全部ですか?」 角栄美装のつなぎを着た人が俺に尋ねる。知らない顔だった。 「……お目にかかったことがないですね」 「ボクは凡君の名前は聞いてるよ。いつもごみ回収で働いてるから君とは行き違いになるだけさ」 「お疲れ様です」 俺たちの仕事のケツ拭きをしてくれている人だった。俺は頭を下げる。 「一緒に仕事したいね」 「機会があれば!」 俺たちは固く握手した。 「あと、時田さんに頼まれたこれ」 俺は角栄百貨店の紙袋を受け取る。中身は例のあれであった。 「あざーす」 「時田さんからの伝言です。デジタルフレームではなくこれで良かったのですか?」 「多分アナログの方が良い、とお伝えください」 「畏まりました」 そう言ってピザを運んでくれた人は去っていった。俺は先ほど壁を掃除したときに外した写真たちを頼んだもの―フォトスタンドに入れて壁に貼り付けていった。 「あ、写真……、残してくれてたんだ」 「額ぐらい入れてやれよ」 俺たちはキッチンのカウンターテーブルに並び、ピザの箱を開け食べ始めた。 「写真は花か……、ヒガンバナ?」 額の中の五枚の写真は、すべてヒガンバナだった。チューリップではないが、赤・白・黄色。特に黄色は大きく写っていた。 「あたしね、ヒガンバナが好きなの」 そういう紗耶香の顔は愁いを帯びていた。なんかいい感じだな。 「知ってる? ヒガンバナってね、花を咲かせるために葉をすべて落とすの」 「言われてみればヒガンバナはタンポポみたいに根っこの方に葉っぱがないな」 写真のヒガンバナも、葉はなく地面からくきだけがにゅって出てきて花をつけている。 「葉を付けず、花だけで勝負する。アイドルみたいじゃない?」 「それは人生をアイドルとしてささげてきた、荻野目紗耶香だけが言える言葉だと思うぞ。ほとんどが花を付けずに枯れちまう」 俺は正直に言ってやる。俺の知る限り、16マーブルのアイドルは普通芸能界に行くための腰掛ぐらいにしか思っていない。倍率数百倍のオーディションに勝ち残ってきた、いわばエリートたちだ。その頂点に立つ紗耶香はまるで獲物を見つけた野獣のようにギラギラとした目をしていた。 「一番好きなのは」 そう言って紗耶香は真ん中の写真を指さす。大きな黄色いヒガンバナだった……、うん? 「黄色いヒガンバナって、王様って感じがしていいのよ。ほかの花より大きいし」 「あーあー、紗耶香さん? それ、ヒガンバナと違う」 これ、あれだよな。絶対。 「この花の形、どー見てもヒガンバナじゃない!!」 「それ、『ショウキズイセン』というヒガンバナの親せき」 「え゛?!」 紗耶香、ピザをかみついたところでフリーズ。まぁ、そうなるよな。 「鍾馗っていう中国の神様がいるんだけど、外の花弁、花びらの先が丸まってるのが鍾馗様のお髭そっくりというんでこの名がついたんだと。ヒガンバナは水仙の仲間だしな、ということで鍾馗水仙」 「し、知らなかった……」 紗耶香は鍾馗水仙の写真をまじまじと見た後、やおらスマホをいじりだした。 「ほんとだ、ショウキズイセンってある。へー!」 スマホで検索したな。 「勉強になるわー」 そう言うと紗耶香はこっちを向くピザ齧りながらしゃべるのはやめなさい。 「ところでなんであんた知ってるの?」 「鍾馗って神様が好きだから、いろいろ調べてたら身についた知識」 「ふ~ん」 ドキドキするからマジマジ見ないで。恥ずかしい。 「ちなみに鍾馗って、何の神様?」 「疫病や戦争の被害から守ってくれる神様。前田利家が旗印にしたので有名」 「前田慶次をいじめてた人だ」 それは某漫画。実際は利家の息子、利長と仲が悪くて家を出て行ったらしい。 「あと戦闘機の名前にもなってる」 「イーグルとかファルコンとか?」 「それはアメリカ製だ。日本が戦争していたころの戦闘機」 「へー。靖国神社でゼロ戦は見たことあるけどなぁ」 「あるんだ」 ちょっとそれは意外だった。 「鍾馗って戦闘機は現在日本、いや世界中探しても実物は存在しない。隼や飛燕、疾風どころか五式戦すら実物があるのにな」 「……ふーん」 紗耶香はそう言って俺の顔を見る。 「あんたにとって、鍾馗は、何?」 「お前にとってのヒガンバナ」 俺は即答した。 「魔を、病を払う神様。そんなのに俺はなりたいのさ」 「そしてあんたは、あたしを守りに来てくれた、白馬の騎士ならぬ鍾馗様だ」 「……そうなるな」 面と言われると恥ずかしいんですが、紗耶香さん? 「まぁ、とりあえず部屋掃除してくれたし、許してあげるわ」 何を許したのかよくわからないのであるが、とりあえず午後からは俺が寝床に使わせてもらう6畳洋室(やっぱり荷物とごみだらけ)を掃除整頓したら夜になってしまった。 結局その日は店屋物を頼んで、かわりばんこに風呂……、二人ともシャワーだったが、を浴び、寝た。なお俺の寝具は寝袋だ。 次の日、午前五時。俺が起きてジョギングしようとすると、紗耶香も起きてランニングの準備をしていた。 「おまえ、俺がいないところでジョギングなんかするな!」 「挨拶ぐらいしなさいよ!」 「……おはよう」 「おはよ」 紗耶香は昨日床のゴミの中から発掘され、洗濯後浴室乾燥機能で乾かされた、洗い立てのランニングウエア上下に身を包んでいた。昨日の話で出てきた鍾馗水仙と同じ、山吹色。 「そう言えば推しサイの色は単色なら黄色、三色だと赤・白・黄色だったな」 「そうよ。寿司なんか振ってないで劇場でちゃんと赤白黄色振りなさいよ」 「えー!」 ちなみに寿司とは俺の推し、田中凛久ちゃんの推しサイのことで、マグロの赤身の寿司を表す赤・緑・白である。 俺は白の胴着上下。これにランニングシューズを履く。紗耶香は赤のブランド物シューズだった。 「あんた、慣れてそうだけど何キロ走るの?」 「一〇キロ」 「あたしもそれぐらい。ついてこられるよね?」 「まかせろ」 そう言って俺たちはエレベーターで下に降り、紗耶香を前にして走り出した。 走る。走る。俺たち。流れる汗はさすがにそのままにしないが拭きながら走る。 「さすがは空手家ね、あたしについてこられるんだ」 そういう紗耶香の走る速度は、確かに早い。俺たちは時々自転車を抜きながら走っている。時速なら一五キロぐらいか。 「途中で二四時間営業のスーパーかコンビニはないか?」 「朝ごはん? マンションの裏に二四時間営業のスーパーあるわよ」 「わかった」 そうして五〇分ほどで俺たちはランニングを終え、先ほどのスーパーで俺たちは食材を買ってきた。 「そういやきょうのご予定は?」 「昼から撮影、夜は劇場。明日は一日テレビ局だから多分警備いらないんじゃない?」 「午前は暇か。なら最後に手付かずの……」 「寝室?! 寝室はいいから!!」 マンションの入り口まで歩きながら紗耶香が大慌てで言う。 「別に男の影があっても気にしないぞ? 外にも漏らさないし!」 「し、下着とか多……、あ゛」 「貴様まだ洗濯物隠してたかぁ!」 今日も洗濯確定。俺はため息をついた。そんなことを言い合いながら俺たちはマンションに帰ると、玄関前に男たちがいた。 「待て、お前らどうやって入った?」 ここはオートロックどころかコンシェルジュが常駐する、関係者以外は一切入れないマンションのはずだ。 「男、貴様ここの住人ではないはずだが」 ガタイのいいおっさんが俺を睨み付けて言う。 「俺はこの部屋の住人であるこの子のボデーガードだ。昨日までにコンシェルジュと管理会社にしばらく滞在することを通達している」 「報告、来ています」 神経質そうな男がガタイのいい方に耳打ちする。神経質の方、背広ってことは今日担当のコンシェルジュか? 「なるほど、お前さんが凡拳太か。失礼した。俺たちはここの管理会社のものだ。俺個人は文身社長と落地塾長にはお世話になってる身だ」 「あ、師匠と社長さんの知り合いでしたか」 向こうが握手を求めてきたので俺も答える。鍛え上げた、男の手だった。 「実はちょっとまずいことになってな。昨日角栄美創に依頼して部屋掃除しただろう? あれがまずかったんだ」 「俺が個人で掃除したんだ。それともこのマンションは個人の掃除を認めてないのか?」 「困る人が出るのさ」 男がくいっと親指で人を指す。 「管理会社はこのマンションはうちの契約会社で掃除してくれないと困る、と」 「あんな汚い掃除で?」 俺は呆れて言ってやる。 「訴えられるレベルだぞ、あれ。会社変えた方がいいぜ?」 「お客様は満足されています」 後ろにいた男が前に出てくる。 「お宅は?」 「金成ビルサービスと申します」 ……かねなり? どこかで聞いたことある名前だな。 「金成ィ~?!」 紗耶香が変な声を上げる。 「まさか、あいつの部下?」 「あ、あいつ、とは、わ、若のことですか?」 おろおろとする男。さて、若ときたか。若社長か二代目のボンボンってところ……、多分後者か。 「あいつ、あたしの情報やたら知ってると思ったら、お前らか!」 そういうと紗耶香はずい、と前に出てきた。 「だから首にしたのに」 首……、そうか、金成って元紗耶香のTOだったやつの名前だ! 「もしかして、掃除のたびに物がなくなっていたとか?」 「し、下着とか……、時々なくなってた気が……」 あの部屋の惨状じゃ、掃除の際二・三枚持ち出してもわからないだろうなぁ。 「管理会社さん、ちょっとかいつまんで説明しますと、この子の職業はお分かりですか?」 「荻野目紗耶香様ですよね。アイドルの」 「ぶっちゃけた話、おたくの契約会社がハウスキーピングの際個人情報を彼女の部屋から持ち出した疑いがあります」 「「な!!」」 コンシェルジュとガタイのいい男が一斉に金成の男を見る。 「少なくとも個人情報が抜かれた疑いは濃厚です。この会社の社長の親族が彼女のファンで、個人情報を知ってないとおかしい行動をとってると本人から告発を受けています」 そうか、社長が俺をよこしたのはこの証拠を掴みたかったからか。 「ちょっと上と相談します」 そう言ってコンシェルジュが電話をかけ始める。 「あ、俺等入っていいですか? あと、清掃会社変えるなら角栄美創をお勧めします」 「そうさせてもらうよ」 ガタイのいい男はそう言うと指をぽきぽき鳴らしながら金成の方に向かった。 「失礼します」 俺たちが入った直後、金成の男の悲鳴が聞こえた気がしたが、俺たちは無視して買ってきたサンドイッチを平らげた。少し落ち着いてから、床が見える(笑)リビングで紗耶香はダンスのレッスンを始めた。 「ウォーミングアップしないとね、昼からの仕事がやりにくいのよ」 そう言う紗耶香の今の格好はTシャツにバニエ―俺がいるからしぶしぶ穿いた、で髪はヘアゴムで縛っただけの姿だった。 「それは、バレエか?」 紗耶香は踊る。優雅に、ゆったり。気が付いたらダンスシューズをしっかり履いていた。 「うん。基本だしね」 「現在の一流っていうアイドルは一通りなんだってやるって言うからな」 「うん。エリートクラスならね」 「お前はエリートなんだろう?」 ぴた。動きが止まる。 「うん、世間から言えばそうだろうね。5歳の時からダンス教室に通っていた。10歳で特待生とか神童とか言われてた。神童って意味は当時知らなかったけど、みんな褒めてくれているぐらいはわかった」 「10歳って、確か……」 「ママが死んだ年。交通事故であっけなく」 外を見ていた紗耶香が俺の方を向く。 「あんたもそのくらいなんでしょ?」 「両親が姿を消したのはな」 「あたしは幸いパパが引き取ってくれた。だけどパパの引いた線路、アイドルになることになった。もしかしたら、最初から決まってたのかもしれない」 「可能性は……、あるな」 紗耶香、今度は空手の突きを始めた。これは空手ビクスだ。空手とエアロビクスをを組み合わせたもので、全身運動にいい。 「これの教本あるか? 一緒にやろうぜ」 「いや確かに、本職から見て空手ビクスってどうなのか聞こうと思って始めたんだけどさ。ええっと、本職の空手家でしょ、あんた?」 お前は何を言ってるんだ状態の紗耶香。 「うちの道場でもやってて、スケベ親父の塾長が主に相手してるんだけど、塾長がどうしても外せない用事の時は俺が先生してる」 紗耶香は無言で教本(これも床から発掘されたものだ)を投げて渡す。某フルコン系道場発行……って、うちで使ってるやつじゃねぇか。 「うちで使ってるのと同じだ。全部覚えてる、教本の中の好きな曲流せ」 「……その歳で師範やってるっていうの、伊達じゃないわね」 紗耶香は褒めたのか呆れたのかどっちでも取れる言い方をして、自分のスマホから曲を流し始めた。洋楽。初心者向けだが結構ハードだ。 「はじめっぞ!」 「押忍!」 紗耶香の返事を聞いて、俺は先生モードに入った。 「左右に下突き四回! 左! 右! 左! 右!」 太ももの前に打ち下ろすような突きを四回。紗耶香の方を見ると、突きが様になっている。 「左右に上突き四回! 左! 右! 左! 右!」 顎を少し上げ、その先にあるものに向かって突く。 「ラジオ体操のあれ~! 両手を上げてぇ、一、二! ゆっくり下ろす、三、四!」 深呼吸の動作で呼吸を整える。 「パンチコンビネーション! 左! 左! 左、フック、アッパー!」 ボクサーのように腕を閉じ、左ジャブを二回打った後、左ジャブ、右フック、左アッパーのコンビネーションパンチをする。これを四セット。 「左、中段!」 左足で中断蹴り、腰の高さまでの蹴りだ。四回。 「右、中段!」 右足に切り替えての蹴り、四回。 「右、左、フック、アッパー!」 左右の正拳突きからフックとアッパーのコンビネーション。 「後ろに、一歩、下がって、後ろ蹴り! 後ろ蹴り!」 コンビネーションで前に出たので後ろに下がって左後ろ蹴りを二回。 こんな感じで四分ほどの空手ビクスを終える。 「うわー! さすがは本職空手家のインストラクターだわ」 どすん。紗耶香は腰を下ろして下品に胡坐をかく。 「見てたけど、ダンス主体のあたしとは拳の切れが全然違ってた」 「空手の『型』を曲に流してるからな。やってることは寸止め派がやってる演武に近い」 「納得!」 そう言って紗耶香は冷蔵庫から持ってきてたらしいスポーツドリンクを飲む。 「個人的には空手ビクスの売りに護身術兼ねてって言ってる連中がいるけど、自分の身を守るために戦いを選ぶってのは、馬鹿者かそれしか選択肢がない時ぐらいだ」 「あんた『でも』言うんだ」 部の達人だろアンタ、と言いたげな紗耶香の視線。 「俺『だから』だ。護身の本質は争いにそもそも巻き込まれないこと。そして逃げること。力持ってるから使いたいっていうのは論外だ。それでは獣にも劣る。力を持ちつつ、それでも使わない心を養う。だから空手は『道』、人生でそれを追い求める道なんだ」 「ぬぅ、『破茶滅茶塾』なんてふざけた流派の人間とは思えない、まじめな発言!」 紗耶香の顔には表情で『それはないだろう』と声にならない声で言っていた。 「昔はもっとまともな名前だったと聞く。確か五族共和流。そもそも日中戦争中にできた流派らしい。戦後、塾長が2代目を継いだ時にこの名前はまずいと看板を買えたと言ってた。ふざけた名前は空手の道を一般の人にも広めたいからだって話」 「意外にまともな話だった……」 紗耶香はそう言うと苦笑いした。 「うん、いい話聞いた」 「紗耶香はその顔が一番似合うな」 今の紗耶香の表情は何かが吹っ切れたような顔をしていた。 「お前さんの好きな、鍾馗水仙のような笑顔を見せてくれ」 「……花言葉か!」 紗耶香はちゃんと調べたようだ。ちなみに鍾馗水仙の花ことばは『陽気』。 ~♪ 16マーブルの曲が流れる。紗耶香のスマホの着信音のようであった。あれ、これは、こいつが参加してない珍しい曲だぞ? 「はい、荻野目です。マネさん? はい、着替えて降ります」 おや、もうそんな時間か。 「ということでボデーガード君、出動用意」 「はっ」 俺は軍人のように敬礼して、俺の部屋に戻って財布とスマホの入ったポーチを道着の帯に通す。俺は道着と下にTシャツ。ズボンも道着だ。これで赤ハチマキしてたらどう考えても波動拳や昇龍拳を撃てそうだ。 俺が廊下に出ると、紗耶香も帽子とグラサン、朝からきてるTシャツに綿のパンツルックという格好であった。 「いこっか」 そうして俺たちは外に出る。エレベーターで降りて、マンションの玄関を出ると……。いきなり黒背広の男五人に囲まれた。 「あんたらは?」 「助けて!」 へ? 見たら左側の男がマネージャーさんに銃を突き付けている。 「この女の命が惜しければ、その女を渡し、なぁっ?!」 その距離、三歩ほど。空手家をなめてないか? 俺は大股で一歩踏み出し、体を横にしてその距離を稼ぐ。狙いは銃を突き付けている男の右手、銃を握りしめている、その手! 「ホ・四拾、華号!」 ばきぃ!砕ける男の指の骨。当然銃を落っことす。そのまま俺は上段蹴りを男のあごに決める。一丁上がり。 「お前は拳銃が怖くないのかぁ!」 右隣の男がそう言って銃を抜くが。 「遅いって」 回し蹴り一閃。銃を飛ばされる。 「ひぃ!」 顔面に正拳一発くらわし二人目を始末する。見ると残り三人は車の方に逃げてる。はいはい、バイバ……、なぬ? 「空手家ぁ! いくら貴様でもこれには勝てまい!」 車から箱乗りみたいに体を外に出した男が、何かを担いでいる。まさか。 「ロケットランチャー、RPG?!」 RPG-7。旧ソ連が開発した対戦車兵器で、馬鹿みたいに構造が簡単で安いので世界中にコピー商品が出回っているという厄介な兵器だ。そんなもんを日本に持ち込むなぁ! 弾頭は、あの形はPG-7対戦車榴弾。なら、勝機はある! 「死ねやぁ!」 ばしゅう! 派手な爆炎をまき散らし亜音速―時速三〇〇キロほどの死神が目前に迫る。幸い榴弾は正確に俺に向かってくる。ならば。俺は立ち止まり仁王立ちになると右こぶしを腰だめにする。刹那。 「ちぇすとぉ!」 ばがぁん! 榴弾は『粉砕された』。PG-7は先端に圧電素子による信管を持ちこれが壊れると圧電素子が火薬を点火させる雷管に電気を流すのであるが、理論上は『圧電素子が発電する前に破壊してしまえば』不発になる。 「ロケット弾を砕くなぁ!!!」 撃った男は泣き顔で言い残し、車は猛スピードでバックして去っていった。 「よーし、紗耶香、行く……、ぞ……」 そう言って俺が振り向いた時、紗耶香はその場にいなかった。マネージャーの車がまだここにあるということは。 「や、やられた!」 俺は情けなくなり、ペタンと腰を落とした。何が護身だ。何がボデーガードだ。 俺はとりあえず報告をする。スマホで電話すると、すぐに社長が出てくれた。 「社長すみません! 紗耶香を攫われました!!」 「今、目の前に札束の山があるよ。紗耶香を買いたい、だとよ」 社長は自分の事務所におられるようであった。 「社長、どうされますか?」 「ふん!」 電話の向こうで派手な音がした。社長は机をひっくり返したようであった。 「ワシのオーダーは一つ。吸血鬼狩りの女隊長のように言ってやろう、見的必殺、サーチアンドデストロイだ!」 「イエス、マイロード!」 俺は電話を切る。遠くに警察のサイレンが鳴っている。さて、ここからとりあえず姿をくらますか……? そこに現れるアメリカンの大型バイク。俺はこのバイクを知っていた。 「凡氏(おおよそうじ)、無事でありますか!」 縦横院史郎の奴だった。 「乗るでござる!」 「ありがたい!!」 俺たちはバイクに乗り、急いで現場を離れた。 「よくここに俺がいるってわかったな」 「P(※プロデューサーの事)に直で頼まれたでござる。我らが荻野目紗耶香の護衛をしていたとか、水臭いでござる」 史郎は俺に何でもないと言った風に言ってくれる。 「拙者も破茶滅茶塾と文身Pの関係ぐらい存じてるでござる。ゆえ、こんな日が来ることも覚悟してたでござる」 「……ありがとう」 史郎の気持ちも複雑だろう。自分の推しが知り合いと同じマンションの部屋にいたとか。 「行くでござるよ」 「どこに?」 「既にPは場所を特定してるでござる」 「うん?」 何で知ってるんだよ。 「金成ビルメンテナンスは港に倉庫を持ってるでござる」 そういうことか。 「今16マーブル事務所に仲麻呂氏の父親がおられるでござる」 仲麻呂とは問題の『若』こと金成仲麻呂、紗耶香の元TOのことである。 「張り付いていた破茶滅茶塾の塾生から、仲麻呂氏の自宅から父上こと社長の車以外が出入りした気配はないとのことでござる」 「となると金成ビルメンテの会社か倉庫しかないってことか」 「倉庫がそのまま本社になってるでござる」 「なら行くしかないな!」 ばおぉぉぉぉぉ! 水平対向六気筒、史郎曰く世界でも唯一無二のアメリカンバイクがうなりを上げる。 「しかし凡氏。アメリカンに乗った空手家ならば!」 「覇王翔吼拳を使わざるを得ない!」 ぎゃはははは! 二人で笑いあう。 「あれはたしか妹を助けに行くでござったな!」 「紗耶香は俺より年上ですが!」 ぎゃははははは! そんな馬鹿なことを言い合っているうちに港の倉庫街地区に入った。敵の本拠地までもうすぐだ。 「あそこが金成ビルメンテの本社でござる」 「黒い車が二台、片方は見覚えがある。俺にRPGぶっ放してきた奴だ」 「あ、RPGってロケットランチャーでござるか!!」 バイクは問題の倉庫の手前で止まった。 「よ、よく無事でござったな」 「空手を信じてれば、何とかなるものさ」 俺の言葉に頷く史郎。 「破茶滅茶塾の名前通りのハチャメチャぶりでござるな」 「ありがとう。バイクはそのままで、すぐ戻る」 俺はそう言い残し、金成ビルメンテ倉庫に向かった。 ****** 「くっくっくっ……、さぁ、やか、ちゃん!」 白いスーツの上下に髪がマッシュルームのような髪型になっている男が紗耶香に話しかける。 紗耶香は粗末な椅子に腕を縛られて座らされていた。そのそばでは両手両足を縛られたマネージャーが床に転がされている。 「キモ!」 ぺっ。紗耶香は白いスーツの男―金成彦摩呂に唾を吐きかけるが。 「ふふふふふ、さぁやか、ちゃん?」 マッシュルームカットの頭を近づけ、彦摩呂がいやらしそうな笑みを浮かべ紗耶香に近づく。 「十分なお金は、Pさんに渡したさ。さすがに10億も積めば親だろうと子だろうと売るさ」 「人間関係をお金に変えるとか、最低の行為ね」 「金は最強の武器さ。何でも買える。力も、地位も、この世のあらゆるものが金で買えるのさぁ!」 彦摩呂はもろ手を挙げ、そう高らかに宣言する。 「金はあるんだ、いまは振り向いてくれなくても、いつか振り向かせてあげるよ。時間は幸い、一杯あるから」 「どういうこと?」 「パパが二人の愛の巣にと無人島を買ってくれたんだ。何不自由させない。二人で幸せに暮らすんだ」 「あんた、本気?!」 「本気だとも」 その瞳に狂気を宿らせた彦摩呂がいやらしい笑顔を浮かべる。 「あんたなんか、拳太に殴られたらいいのよ」 紗耶香は拳太のことを口にする。 いつしか、パパパパ、と破裂音が聞こえるようになった。 「破茶滅茶塾、対応が早いな。もう攻めてきたか」 「拳太よ、健太が来てくれたのよ」 「拳太? ああ、たしか凛久推しのカラテマンだったな。おまいつ仲間の縦横院君の友人」 「……さすがは狭い劇場界隈」 紗耶香は彦摩呂の言い方に苦笑いする。 「しかし彼は吹っ飛んだよ。金の力でね」 「爆弾の力じゃない。あんなのに、拳太は負けないから」 「来るわけない。人間がロケットランチャーに勝てるわけがない」 くっくっくっ。そう言って彦摩呂は笑う。 「ボクがそもそも君を助けに来た白馬の王子様なんだよぉ? 誰が救いに来るっていうんだい?」 どごぉん! そのとき、紗耶香たちの扉が吹き飛ぶ。中から現れたのは、白い道着の男。 「いるさ、ここに一人な!」 「拳太ぁ!」 ****** 俺はのっしのっしと金成ビルメンテの入り口に向かう。入り口に立っている男二人は小銃を持っている。ウソだろ、AK?! ここ本当に日本だろうな。タイの某所の悪党しかいない街じゃないよな?! 「貴様、止まれ!」 小銃を構える背広の男。しかし俺は構わず唱えだす。 「色・即・是・空。空・即・是・色。受・想・行・識。亦・復・如・是」 「なんだ、何言ってんだお前は?」 「色・即・是・空。空・即・是……」 「え?」 次の瞬間、二人の小銃を持った男はばたりと倒れた。 俺はそれをしり目に悠々と中に入った。うん、甘かった。 ばばばばばばば!! 小銃弾の洗礼。俺は素早く体を翻し、隠れる。倉庫は奥に長く天井が高い。ここから見て右奥に事務所みたいな建物があり、電気が点いている。距離、二〇メートルほど。敵は隠れて五、六人程度。 「一人ずつ行こうか」 俺は呼吸を整える。日中戦争のさなかに生まれた五族共和流、のちの破茶滅茶塾は戦争における暗殺術としての技も持つ。 「色・即・是・空。空・即・是・色。受・想・行・識。亦・復・如・是……」 俺は自己暗示をかける。色すなわち空、空すなわち色。受け取る心、発する心、行動する気持ち、感じること。すべてがあって亡きがもの……。 「き、消えた! 気配すらない!」 「帰ったのか?」 そんなわけあるか。俺は手短にいた男のそばに近寄っていき、手刀を一閃する。頸椎をたたかれ、男、声も出さずに倒れる。 「おいどうし、ぐぇ……」 近くに棒があったので俺は別の敵にそれを投げつける。のどに刺さり、男、倒れる。うっわー、死んじゃったかな? 「おい、どこにいるんだ?」 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」 ばばばばばばばば!! 一人パニックになった奴が銃を乱射する。あちゃ、AKの47かよ。あれ、引き金引き続ける限り永遠に弾打ち続けるんだよな。何発か『司偵』を使っているはずの俺の体をかすめ、血の筋を作っていく。しかしやがてはお約束の。 「あれ、あれ、あれ?!」 弾切れ。俺は悠々近づき手刀一閃。男を卒倒させる。俺は残った一人にのっしのっしと、特に隠れるようなことをせずにずんずん近づく。 「なんなんだお前は?! 悪魔か?! 死神か?! 漫画の救世主っていうんじゃないだろうな?!」 「魔を払い、人を守る神。鍾馗!」 俺は小銃を構える男の目前まで迫る。そして正拳一発でのしてやった。 そうして俺は事務所の前に立つ。すると小声が壁の向こうから聞こえた。この声は紗耶香と……、この声は聞いたことあるぞ。金成彦摩呂ってやつだな。 「……彼は吹っ飛んだよ。金の力でね」 「爆弾の力じゃない。あんなのに、拳太は負けないから」 「来るわけない。人間がロケットランチャーに勝てるわけがない」 くっくっくっ。そう言って彦摩呂は笑う。 「ボクがそもそも君を助けに来た白馬の王子様なんだよぉ? 誰が救いに来るっていうんだい?」 だったらここで言うセリフは一つだな。俺は扉を蹴っ飛ばした。奥に吹っ飛んでいく扉……、安普請だな! 「いるさ、ここに一人な!」 「拳太ぁ!!」 縛られて椅子に座らされた紗耶香と、乱暴に床に転がされたマネージャーさん。許さん。 「ホントに来るとは思わなかったな、カラテマン!」 彦摩呂は俺の方を向いて言う。意外にあまり焦ってないようだ。 「破茶滅茶流重拳士、師範代凡拳太。紗耶香を返してもらうぞ」 「ふん!」 マッシュルームカットの気持ち悪い男、金成彦摩呂が毒づく。 「どうだい、紗耶香ちゃんを僕に譲ってくれないか? いくらほしい? 君の境遇は知ってるよ? 両親に捨てられたんだって? 10億もあれば、家族だって買えるさ」 「……囀るな、チ●ポ頭」 「ち、チ●ポ頭ぁ?!」 俺の挑発に顔を真っ青にする彦摩呂。俺をバカにするなよ。 「俺は今の境遇に文句なないのさ。塾長に出会え、人生に空手という道があることを知った。決して平たんでも舗装されてもないが、目指す場所は見える。俺はその道に従い、俺の良心にのみ仕える。金などには屈さん!」 「カッコイイナ、ニホンノカラテマン!」 彦摩呂の後ろから、さっきまで座っていたらしい男が立ち上がりこっちに来る。でけぇ。俺も身長180はあるが、こいつは二メーター近いぞって、うわ、こいつ、テレビで見たことある。フルコン系空手の世界チャンプ、ガビ・コインブラ! 「うちがスポンサーしてるガビさんだよ~」 いやらしそうに紹介する彦摩呂。言われてみればこの前のテレビでの大会、パンツに金成ビルメンテナンスって字が書いてあったな。 「破茶滅茶塾、聞イタコトアルヨ。昔ノ、ゴゾクキョウワリュウ? ダッタナ。ウチノ流派、一度オマエノトコト負ケタト聞イタコトアルヨ。りべんじ、ダネ」 「いいだろう、受けて立ってやる」 俺は両腕を前に突き出す。 「陰陽ノ構エ。後ノ先、かうんたー狙イネ」 読まれた。さっさと片付けたくてとっさに取った構えだが、変えるか? 「シカシちゃんぷハ、引カナイネ!」 ぱぁん! 超高速の正拳突き。あの音は音速超えたか、人間かよ! 俺は必死で円を描くように腕を動かし、超高速の正拳を優しくいなす。左腕が奴の拳を受け止め、上に跳ねあがるガビの右腕。 「ウヲ?!」 「ちぇすと! ちぇすと! ちぇすと! ちぇすと!」 俺はガビの体がぐらついた隙に、飛び蹴りからの回し蹴り、四発叩き込む! ところが、 「がぁ! がぁ! がぁ! がぁ!」 何と左腕一本ですべてしのいでみせるガビ。俺は茶駆使して呼吸を整える。 「さすが世界チャンプ、化け物だな」 「キ・壱〇四『疾風』。奥義スラ使イコナスカ」 おい。四段蹴りことキ・壱〇四『疾風』はうちの秘奥義だぞ。なんで他流派が知ってるんだよ。 「ムカシムカシ、ぶらじるカラ渡ッタ我ガ流派ノ拳士ガ、ソノ技ニ敗レタ」 「納得です」 しかしこいつにダメージを与えた。左腕はボロボロ。防御不可能なはずだ。 「左腕ハ死ンダガ、蹴リハデキル!!」 「どわぁ!」 ガビから必殺の蹴りの仕返しが来る。真正面にいた俺はいなすことができず、腕を交差して防御するが、ダメージがくる。 「拳太ぁ!」 「世界チャンプに、勝てるわけありませんよぉ~?」 紗耶香が俺の方を向いて泣いている。そしていやらしい笑みを浮かべているチ●ポ頭。あいつ、絶対ぶっ飛ばす。 「カラテマン。彼女ヲ心配スルトハ余裕ダナ!」 「へっ?」 油断した。奴は右フックを俺がよそ見してるうちに放ってきた。 「ぎゃあ!」 俺はパンチを受け派手に吹っ飛ぶ。その先にはパンフレットの山があり俺は派手に突っ込んだ。派手に舞い散るパンフレット。 「拳太ぁ?!」 「勝負ありか」 いててて。俺が紗耶香の方を向くと、髪を掻き上げるチ●ポ頭こと彦摩呂の姿。かっこ悪い。先にあいつ片付けようかな……。 「ご苦労、ガビ!」 「マダ、終ワッテイマセン」 ちっ、気づきやがった。 「こめかみにクリーンヒットして、あれだけ吹っ飛んで?」 「ぼす、アレハ左ニ飛ンデ、相当破壊力殺サレマシタ。カラテマン、マダ生キテマス」 「え?」 ばささささ。パンフレットの山から俺は起きる。 「さすがだな。それでも効いたぞ」 実際、こめかみがズキズキする。もう少し休みたかったが、ばれたからには仕方ない。 「受けてみな、破茶滅茶流、いや五族共和流・奥義歩法(おうぎのほほう)『司偵』!」 「受ケテ立ツ!」 「色・即・是・空。空・即・是・色。受・想・行・識。亦・復・如・是」 「なんだ、何言ってんだお前は?」 チ●ポ頭がなんか言ってるが無視。 「色・即・是・空。空・即・是……」 そして。 「「なぁっ!」」 驚いている二人。 「え?拳太、どこ行ったの?」 紗耶香もそんなことを言い出す。実は俺、現在位置から動いていない。呼吸を整え、自分の気配を周囲に同化することで存在を消してしまっているのだ。なくしものが自分のすぐそばにあったという経験はないか? これは『そこにあるはずがない』という思いが脳からそこにあるものを検知できないようにしてしまう現象なのだが、あれと同じで『当たり前』という常識を書き換えることで気配を消したのである。これが破茶滅茶流秘奥義、歩法、司偵! 「ぐぅ!」 胴に一撃。少し苦悶の声を上げるガビ。しかし。 ばぁん! ばぁん! 何発も正拳をたたき込んでいるのであるが、それ以降はダメージを与えていないように見えた。 「がははははは! 我ガ鋼鉄ノ肉体、撃チ抜クニハ非力ダナ!!」 あ―畜生! 鍛えた体は筋肉の鎧になってあいつの攻撃を跳ね返してるのか!! (だったら、これは) 俺は一度司偵を解除する。 「ホウ、死ヌ覚悟ハデキタヨウダナ」 「おまえがな」 俺は呼吸を整え、『氣』を練る。これ、司偵より氣を練るのに時間がかかるのが難点だな。 「呼吸ヲ変エタ? イイダロウ、ウケテタツ!」 ガビは両腕を閉じ顔を隠した。ほう、胴体への一撃は耐えて見せるってことか。いいだろう。その余裕がお前の命取りだ! 「ちぇすとぉ!」 俺は腰だめから右正拳をガビのみぞおちに叩きつける。常人には急所であるが、功を積み上げた格闘家ならば、弱点ですらなくなる……、はず。もちろん、ガビにダメージを与えられてないようで、ガビは腕を外すと右人差し指でちっちっちっ、と振った。 「イイ正拳ダ。シカシ、ココマデ、ダ、ァ……、ゴバァ!!!」 次の瞬間、ガビは豪快に口から吐しゃ物、いわゆるゲロをまき散らした。 「ヨ、鎧通シ、ダトぉ……?!」 どさっ。ガビはそう言うとばったりと倒れた。 「日本の古武道に鎧武者を倒すために打撃を内部に浸透させる技がある。空手ではあまり使われることはないが、鎧を着ているも同然なお前さんには最良の技だったな」 「ミ、見事……」 そう言い残し、ガビはこと切れた。 「俺の切り札だ。破茶滅茶流秘奥義、ホ・参〇一『鍾馗』!」 そして俺は彦摩呂に近づく。 「こらチ●ポ頭、今度はお前へのお仕置き時間だ」 「ひ、ひい!!」 彦摩呂は俺に銀ダラを向ける。が俺に銃を掴まれ捻られると、 「いだだだだだ!」 すぐに手を放す。 「お前にはこれで上等だ。お前なんか殴ったら、拳が汚れる」 俺は奪った拳銃を彦摩呂に突きつけると。 「い、いい、命だけわぁ~」 土下座して命乞いをしてきた。まぁ殺す気もないし。 「おいおい、空手家が拳銃なんかに頼るなよ」 パンパン。手をたたく音がした。この声は知っている。塾長だ。 「押忍!」 俺は返事する。 「ご苦労さん。警察がもうすぐ来る。金成は終わりだ。武器準備集合罪に爆発物取締法違反、誘拐、殺人未遂。このキノコ頭は一生の半分ぐらいは刑務所暮らしだな」 そんな声がして、塾長に次いで社長さんが現れる。 「社長、すみませんでしたぁ!」 俺は紗耶香を攫われたことを改めて謝罪する。 「紗耶香、お前はどう思う?」 「ミサイル? でも無事なだけで、十分よぉ!」 警察がどやどやとやってきて、紗耶香とマネージャーさんの戒めを解いていく。 「凡拳太さんですね。一昨日の銃撃事件の件と、先程の街中でロケットランチャーぶっ放した件。事情を聞かせてもらうよ」 「へいへい」 俺は警察について行く。見ると、担架が呼ばれててガビが運ばれている。 「あ、おまわりさん」 「なんだ?」 俺は気になって自分について行く刑事さんに尋ねた。 「あのガビなんですが、何の罪で問われるんですかね?」 「決闘罪といって、怪我の度合いで暴行罪か傷害罪が適用されるが、挑んだ相手が大けがしてるから君が訴えない限り事情聴取で終わりだろうよ」 「よかったです」 「拳太ぁ!」 紗耶香が俺に向かって叫ぶ。 「絶対、帰ってきなさいよ!」 「いや、俺悪いことしてないし!」 「一応彼も暴行罪と傷害罪の容疑がかかってるけどね。多分正当防衛ということで不起訴で終わるよ」 え、俺も容疑者なの? 「手錠しないのか?」 「逃げるか?」 「逃げねぇよ」 俺は苦笑いする。 「手錠ってのは逃げる奴にかけるもんだ。お前さんは任意で事情聴取」 そうですか。 「拳太、必ず……」 泣き顔を隠しもせず、紗耶香が叫ぶ。 「次の公演、再来週! 絶対来なさいよ!!」 がく。俺はずっこけた。 「見に行くさ! 必ずな!」 俺は親指を立てて約束する。泣きながらの紗耶香の笑顔は、秋に咲く黄色いヒガンバナ、鍾馗水仙のようだった。 |
桝多部とある Tv68xys.OM 2022年08月14日 22時03分12秒 公開 ■この作品の著作権は 桝多部とある Tv68xys.OM さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2022年09月03日 12時41分24秒 | |||
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