転生したけど装備がない! |
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最初に目に入ったのは、大きな水たまりだった。 ゴツゴツした岩場のまん中に、泉っていうのかな、広い水たまりがあって、奥のほうには小さな滝もある。周辺は樹々に囲まれてて、まさに大自然って感じ。水面は太陽光を反射してキラキラと光り、梢の葉は柔らかな風にそよいでいる。 美しい光景に心が洗われるようだけど、わたしは緊張していた。 なにせここは異世界で、これから厳しい戦いが始まるのだから。 そう、わたしこと須来ぷに実(すらい ぷにみ)は、異世界に転生したのだ。 これから、この世界にいる魔王を倒すための、ドキドキワクワクの大冒険が始まるのだ。そのスタート地点がここってわけ。 よし、やるぞ! わたしは両手をぐっと握り、気合を入れた。泉の前の地面に片ひざをついていたので、立ち上がる。 と、そこで違和感を覚えた。 全身が妙に軽い。それに、生ぬるい風が体中をなぜて、こそばゆい。 わたしは自分の身体を確認する。目に入ったのは、毎日お風呂に入るときに見る姿だった。 「えええっ! なにこれっ? どうしてええええええっ?」 わたしは衣類の類をまったく身に着けていなかった。 つまり、一糸まとわぬ姿、すっぽんぽんだったのだ! ☆ 話は少し前にさかのぼる。 1月6日。新学期を明日に控えた、冬休み最後の日。わたしは地元で一番大きな駅まで来ていた。電車に乗るわけじゃなくて、お目当ては駅ビルの中にある色んなお店。 ここで今日は、めいっぱいショッピングを楽しむつもりだった。本当は友達と一緒に来たかったんだけど、あいにくと、どの友達も用事があるんだってさ。結果、ひとりで来ることになったけど、たまにはそういうのもいいよね。 時刻は午前11時45分。ちょうどお昼時だ。まずはカフェでお昼ごはんを食べてから、洋服やら雑貨やらを買おうと思ってた。 駐輪場に自転車を停めて、その脇にある階段へ。昇った先は広場になっていて、多くの人で賑わっているのが見えた。 広場を渡り、駅ビルの透明な扉に手をかける。その時、扉の向こうから見知った人がやって来るのに気がついた。思わず、近くの柱に隠れる。 その人は、扉を開けてビルの中から出てきた。 柱の陰から横顔を確認する。間違いない、門星磨央(かどほし まお)先輩だ! 門星先輩は、わたしが通う高校の生徒会長だ。サラサラのヘアーと優しげな目元が特徴のイケメン。成績も優秀、性格も真面目で人望も厚いという完璧超人。校内一の人気者であり、私が想いを寄せる憧れの人でもある。 うわぁ、学校の外で門星先輩に会えるなんて、超ラッキー! 彼はおしゃれなコートを身にまとっていた。さすが門星先輩、私服のセンスも抜群! 先輩は、友人と思しき人と二人並んで歩いていた。爽やかな笑顔で雑談している。はぁ、やっぱり格好いい、と思わずうっとりしてしまう。 先輩の背中が遠ざかっていく。駅ビルでの用事を終えて帰宅するところなんだろうか。わたしはふらふらと、彼の背中を追いかけていた。せっかく会えたんだもの、このまますれ違うだけなんて、もったいない。 かといって、声をかける勇気はないけど。だって先輩にとって、わたしなんてただのモブキャラにすぎないだろうから。でもせめて、会話のおこぼれをいただけないかな、なんて思って、彼との距離を詰めた。 門星先輩の背中まで数メートルのところまで来ると、雑談の内容が聞こえてきた。 「やっぱ巨乳っしょ、巨乳! デカパイ女がジャンプしてバインバイン揺れるのは、男のロマンだよ!」 わたしは足を止めた。 さっきのセリフを言ったのは、門星先輩の隣にいた友人、ではない。門星先輩自身だったのだ。 巨乳? バインバイン? あ、あの真面目な先輩がそんなセリフを! 硬直して立ち尽くすわたしをよそに、先輩とその友人は笑い声を上げながら遠ざかっていく。二人の背中は、下り階段の向こう側に消えた。 わたしはショックで、しばらく動けずにいた。門星先輩のエッチな一面を目の当たりにしたから、じゃないの。先輩だって男の子、そういうことに興味があるのは当然だもの。 それよりも、先輩が巨乳好きだって事実が、痛恨の一撃だった。 なぜなら、わたしは貧乳も貧乳のド貧乳。とても高校生とは思えないような幼児体形のちんちくりん。 わたしは大器晩成、これから大人の女性に変貌するのだ、と自分に言い聞かせていたものの、どんどん大人っぽい体つきになっていく同級生たちと違って一向に成長しないことに、あせりの気持ちも生まれてた。 もう一生幼児体形のままかも、と思い始めていたのだ。そこに、さっきの先輩の巨乳発言である。 先輩にとってわたしは、恋愛対象になんてなりえない、歯牙にもかけないザコ。それが確定してしまったのだ。 そりゃあ、学校一の人気者である門星先輩とわたしじゃ、釣り合わないとは思ってたよ。 でもそれを現実として突きつけられると、強烈な精神ダメージがあった。 なんだか、魂が抜けたような気分。今日はもう、なにもやる気なくなった。家に帰ろう。 わたしはとぼとぼと歩き、下り階段に差しかかる。 その時、急に重力がなくなったような感覚に陥った。 気がつくと、見知らぬ場所にいた。 見知らぬっていうか、なにもない所だった。 ただ白い空間が広がっているだけで、建物も自然も人の姿も見当たらない。 なにこれ? と思っていると、目の間にもやもやした煙みたいなものが現れた。それはだんだん形を作っていき、やがて人の姿になる。 「ようこそ、須来ぷに実よ!」 わたしの目の前に現れた人は言った。若い男の人だ。キネネみたいな切れ長の目と、とんがった鼻。真ん中で分けた、男にしては長い髪の毛は真っ白だった。服装は白いバスローブみたいな感じ。 「あ、あなたは誰?」 「吾輩は神である」 「か、神さま?」 そう言われると、雰囲気や服装が神さまっぽい感じがしないでもなくはない。 「うむ。名はコリロンという。コリロンさまと呼ぶがよいぞ」 なんだか嫌な感じがする名前だった。 「ほ、本当に神さまなの? わたしの名前を知ってるのも、神さまだから?」 「さよう。この場所は吾輩が住むところだ。神の世界とでもいおうか」 「な、なんでわたしが神さまの世界に?」 「おぬし、先ほどまでどこにいたか覚えておるかね?」 「えっと、駅ビルの前にいて、階段を降りようとしたところだったような」 「うむ。その際におぬし、バナナの皮を踏んづけて足を滑らせ、階段から転落したのだ」 「えええええっ!」 バナナの皮を踏んで転ぶなんて、現実にあるの? 「そのままおぬしは頭を強打した。その影響で肉体から魂が抜け出し、この世界にやって来たというわけだな」 「し、死んだってこと?」 「いいや、仮死状態で幽体離脱をしているだけだ。肉体的には命に別状はないようであるし、しばらくすれば蘇生するであろう」 「そ、そうなんだ。よかったぁ」 ほっと胸をなでおろした。まだ彼氏もできたことないのに、16歳で死んじゃったら悲しすぎるからね。 「そこでぷに実よ。吾輩は、おぬしに選択肢を与えよう」 「選択肢?」 「うむ。おぬしにはあるチャレンジをしてもらいたい。異世界に転生して、平和を脅かす魔王を倒すのだ」 神さまは、わたしをビシッと指さした。 「つまり、おぬしは選ばれし勇者なのだ!」 「え? は?」 なんか展開が急すぎて、頭が追いつかない。 「わ、わたしが勇者?」 「さようだ」 「ちょっと待って。そもそも、異世界ってなんなの?」 「ロールプレイングゲーム、RPGをプレイしたことはあるかね? 典型的なRPGの世界観である、モンスターや魔法のある世界を、吾輩は作ったのだ。おぬしには、その世界に転生し、冒険の旅に出てもらいたい」 「作ったって、RPGツクールみたいに?」 「まあ、そう思ってよかろう。もっとも、ゲームではなく現実だがな。もしも異世界で命を落とせば、現実世界のおぬしも死ぬことになる」 「えええ。だったら転生なんてしたくないよ。転生しなくても、しばらくしたら生き返れるんでしょ?」 「もちろん、転生することにメリットはあるぞ? 見事魔王を討ち破った暁には」 「あかつきには?」 「吾輩がおぬしを成長させてしんぜようぞ!」 「えっ? そ、それってつまり、ナイスバディーな大人の女性になれるってこと?」 「うむ」 それは非常に魅力的だ! やるっきゃないっしょ! と簡単には言えないものがあった。 「でも、転生したら戦わなくちゃいけないんだよね? わたし、戦い方なんてわからないしなぁ」 「案ずるな。初期に遭遇するモンスターは弱いザコばかりだ。それらを倒しているうちに強くなり、魔王に出会うころには立派な勇者になっていよう」 「それこそ、RPGみたいな感じ?」 「さよう」 それなら、なんとかなるのかな? RPGはいくつかプレイしたことがある。レベルを上げたり、お金を貯めて強い武器を買ったりすれば、だんだん強くなれるのだ。 「さて、魔王討伐のチャレンジをするか否か決めるのだ。チャレンジをしなければ、おぬしはそのまま蘇生するであろう。チャレンジをし、成功すればイケイケな大人の女に、失敗すれば死。さあ、どうする?」 「う、うーん」 わたしは悩んだ。腕を組んで目をつぶり、首をひねって考えた。 成長してセクシーな女性になりたいのはやまやまだけど、死ぬ可能性があるのはリスクが高い。魔王っていうのは強いんだろうし。 考えて考えて、やがてわたしの頭に浮かんだのは門星先輩の顔だった。わたしが大好きな生徒会長。でも、今のままじゃ巨乳好きの門星先輩の彼女になんか、なれっこないんだ! わたしは目を開き、神さまのほうを見た。 「えっと、コロリンさまだっけ?」 「おむすびみたいに言うでない。コリロンだ」 「コリロンさま、わたし、やるよ! 魔王を倒して大人の女性になる!」 「おお、そうか!」 キツネみたいに細い目をさらに細めて、ニカッと笑うコリロンさま。 「それではさっそく異世界に転生し、冒険の旅に出るがよい。はぁー、イセンテ・テレカヒ・ニクッラト!」 コリロンさまが奇妙な呪文を唱えると、わたしは身体が宙に浮いたような感覚に陥った。なんだかグルグルと回ってるような感じになって、気持ちいいような悪いような変な気分。 それが収まったかと思うと、いつの間にか周辺の景色が変わってた。大自然の中にある大きな泉の前に、私はいたのだった。 全裸で。 ☆ で、今に至る。 「ええっ? ちょっと待ってよ! なんでわたし裸なのっ?」 これから魔王を倒さなくちゃいけないんでしょ? なのに武器を持ってないばかりか、服さえないってどういうこと? とりあえず、胸を隠して身をかがめた。周辺を見ると、人の姿はおろか生物の気配もないのでほっとする。 一体全体、どうすればいいのよ? 冒険っていっても、 裸じゃなにもできないじゃん! と思ってたら、私の目の前に煙のようなものが出現した。それはだんだん形を作っていき、やがて人の姿になる。 コリロンさまだった。 「はっはっは。無事に転生できたようだな、須来ぷに実よ」 わたしは、より身を縮こまらせた。神さまにだって、裸なんて見られなくない。両腕で胸を、脚で股間を隠してるから大事なところは見えてないと思うけど。 「コリロンさま、一体どういうことなのっ?」 「ここが、吾輩が創造した世界だ。よくできているであろう? ここでおぬしは、魔王を倒すために旅に出るのだ」 「そうじゃなくて、なんでわたはしは服を着てないのっ?」 「異世界に転生できるのは肉体のみなのだ。ゆえに、武器や装備はすべて現地調達となっておる」 「なにその某潜入ゲームみたいなシステム!」 「はっはっは、そのとおり。あのゲームの主人公である伝説の英雄をリスペクトした設定なのだ」 「あの人も服はちゃんと着てたはずですけどっ?」 「まあ落ち着け。まずは吾輩の説明を聞くがよい」 コリロンさまが空中に視線を向ける。すると、そこになにやら文字が浮かび上がった。 ふ゜にみ ゆうしゃ H 11 M 0 L 1 「これが現在のおぬしのステータスである」 うわー、なんかすごく古臭い感じ。『゜』も一文字扱いなんだ。 「見方はわかるな? HはHPの略で体力、MはMPで魔法を使うための魔力、Lはレベル、つまり強さだ。当然ながら最初は1だな」 「MPは0なんだけど?」 「レベル1では魔法は使えんのだ。レベルが上がれば魔法を習得し、それに応じてMPも上がる」 「そうなんだ」 どんな魔法を覚えるのか、それはちょっと楽しみだった。 「あらためて説明しよう。おぬしの目的は、この世界を支配する魔王を倒して平和な世を取り戻すことだ。ザコモンスターを倒して経験値を獲得することで、レベルが上がる。そうすればステータスが上がったり、新たな魔法を覚えたりして、戦いを有利に進めることができよう」 「それより服は? どうすれば手に入るのよ!」 「服を着ることはおすすめしないぞ?」 「はあ?」 「これを見るがよい」 空中に別の文字が表示される。 こうげき力 5 ぼうぎょ力 3 おいろけ 25 「この『おいろけ』はおぬしの固有ステータスなのだ。この数値が高いと、一定確率で敵を『みとれる』の状態にさせ、足止めすることができる。服を装備すると、防御力が上がる半面おいろけが大幅に下がってしまうぞ」 「いらないよそんなの! おいろけなんて0でいいから服を着させてよ!」 「ほう、防御力を重視するのかね。さてはおぬし、慎重派だな?」 「じゃなくて、服を着るのは人間として当たり前のことでしょ!」 ああもう、イライラしてきた。なんなの、この神さまは。 「そこうまで言うなら仕方ないのう。これをやろう」 よかった、服をくれるんだ! そう思った私の前に出現したのは、たった一枚のコインだった。それが地面にポトリと落ちる。 「なにこれ?」 「それは10ゴールドコインだ」 コインを手に取ると、そのコインはシュッと姿を消した。代わりに、〈G 10〉という文字が空中のステータス欄に表示される。 「ゴールドは取得すると消え、ステータスの残高に加算される。町にある店では電子マネーのように使えるぞ。10ゴールドあれば、『ぬののふく』くらいは買えよう」 「なんでわざわざ店で買わなくちゃいけないのよ! 直接服をちょうだいよ!」 「町で買い物をするのは、RPGの醍醐味であろうが!」 「全裸で町に入ったら、捕まって即ゲームオーバーだよ!」 「ごたごたうるさいのう。吾輩に言えるのはここまでだ。おぬしの冒険はすでに始まっておるのだぞ。背後にある森を抜ければ町があるので、まずはそこに行くがよい!」 「やだよぉ。もう帰りたいよぉ~」 「もう遅い! 異世界に転生したら、元の世界に帰る方法は魔王を倒すことだけだ!」 コリロンさまは、煙のようになって消えた。 泉の前にポツンと取り残されるわたし。風がヒュ~、と空しく吹く。 なんかもうやる気なくなったけど、いつまでもぼーっとしてるわけにもいかなかった。とにかく魔王を倒さなくちゃセクシーな女性にはなれない。それどころか、元の世界に帰ることさえできないんだから。 仕方なく、わたしは立ち上がった。 こうしてわたしの冒険は始まった。 始まってしまったのだった。 ☆ とにかく、まずは町に行って服を買わなくちゃ。でも、さすがに裸で町に入りたくはない。 たとえば葉っぱやツタを使って、即席の服を作るしかないよね。 振り向くと、30メートルくらい平地がつづいていて、その先は確かに森になっていた。 まずは、あの森の中で葉っぱを調達して、服を作ろう。 相変わらず人の気配はなかったけど、一応胸と股間を隠しながら森に向かって進んだ。 空中にはステータスが表示されたままで、わたしの動きと共に移動している。なんだか不思議な感じ。 森の中に入ると、身体を隠せそうな葉っぱはないかと周囲を見回してみた。多種多様な植物が生い茂っていて、大きな葉っぱもたくさん見られる。探すのに苦労はしなさそうだ。 長さ50センチくらいの葉っぱを垂らした木があったので、わたしは木に近づき、葉っぱを両手でつかんでみた。大きさはいい感じだけど、茎が太くて切り離すのが難しそうだ。どうしようかな。 その時、ふしゅーっ、ふしゅーっ、と背後から妙な音がした。 振り向くと、コリロンさまがいた。しかも、その姿は頭だけで首から下がなく、生首だけが空中に浮いている。 「うわーっ! コリロンさまっ? 消えたんじゃなかったのっ?」 わたしは急いで胸と股間を隠した。 「消えたのではない。見守りモードに移行しただけだ。吾輩には、おぬしの旅を見届ける義務があるからな。こうして背後からずっと見守るぞ」 「えええっ、なにそれ! 嫌なんですけど! ていうか、なんで生首っ? キモい!」 「見守りモードになるとこの姿になるのだ。キモいとかいうな!」 どうやら空中を自由に動けるらしく、それをアピールするようにクルクル旋回する生首。本当にキモい。 「それにしても、ぷに実よ」 コリロンさまは、ニヤケ面を浮かべてわたしに接近している。鼻息がめちゃくちゃ荒い。さっきの音の正体はこれか! 「ハァーッ、ハァーッ。申し訳程度にふくらんだちっぱい、くびれのない腰、小ぶりだけどプリッとしたお尻。先ほどは身をかがめていたせいで拝めなかったが、本当にたまらん体つきしとるのう、おぬし。ハァーッ、ハァーッ」 コリロンさまの顔がぐいぐい迫ってくる。 「近い近い! ていうか興奮するなするなああああっ! あんたロリコンか! やっぱりロリコンなのかああああっ!」 悲しいから言いたくないけど、わたしの体つきに興奮するこいつはロリコンに違いない。名前からも想像ついてたけど。 「いかにも、吾輩はロリコンだ!」 うわぁ、開き直りやがったよ。 「だが勘違いするな。吾輩は幼女が好きなのではない。高校生以上なのにロリ体形をキープしている娘が好きなのだ!」 「なにそれ! よりマニアックじゃん!」 それじゃあ、なに? こいつにとって、わたしはドストライクってこと? 「てことは、わたしの服がないのも、あんたが裸を見るためなんでしょ! この変態! スケベ! エッチマン!」 「バ、バカを言うな! おぬしのおいろけスキルを最大限に生かすためだ! それ以外に理由はない!」 「おいろけスキルがあること自体がおかしいでしょ!」 「なにを言うか! ヒロインにおいろけ要素は必須! 女勇者がおいろけを武器にするのは自明の理であろうが!」 「そう思うのはあんただけだよ!」 などと言い争ってたら、草むらのほうからガサガサと音がする。目を向けると、何者かがわたしの前に現れた。 「んん~? 妙に騒がしいと思ったら、人間がいるウサねぇ~」 それは大きなウサギだった。背の高さが1メートルくらいあって、二足歩行をしている。 〈モンスターがあらわれた! ウサキチ 1ひき〉 空中にそんな文字が浮かんだ。このウサギ、モンスターなんだ! 「おぉ、若い女の人間ウサねぇ。今日はひさしぶりに、楽しめそうウサなぁ~」 邪悪に笑うウサキチ。うわ、なんかインチキくさい顔で、あんまりかわいくない。 「ほれ、ぷに実。敵が現れたぞ。やつは一番ザコのモンスターだ。問題なく勝てよう。さあ、戦うのだ!」 「たたた、戦うっていっても、武器もないのに、どすればぁ~」 〈ウサキチのこうげき!〉 そんな文字が空中に現れたかと思うと、ウサキチがこっちに突進して来る! 「どりゃあ! 食らえウサーッ!」 ウサキチの頭が、わたしのおなかにヒットした! 「ほぎゃああああっ!」 そのまま吹っ飛ばされて、ごろんごろんと何回転もしてから地面に倒れた。 「あいたたたた」 上半身を起こすと、森の外まで吹っ飛ばされたのがわかる。地面を転がったのは痛かったけど、攻撃を受けたおなかは意外と痛くない。 〈ふ゜にみは2のダメージをうけた! のこりHP9〉 空中にそう表示されている。あんまり痛くないけど、HPが0になったら死んじゃうってことだよね? このままじゃやばい。 こっちからも攻撃しなくちゃ。でも、どうすればいいの? わたし、ケンカなんて一度もしたことがないのに。 「ウサウサウサ~。これは楽勝ウサねぇ~」 森から出てきたウサキチが、笑いながらこちらに近づいてくる。 と、その邪悪な笑みが、突然驚愕の表情に変わった。なぜか、ガタガタと身体を震わせるウサキチ。 「お、お、おまえ、その身体」 「え?」 わたしは自分の身体を見た。両手は身体を起こすために地面についていたので、当然胸元はフリーだ。それに加え、股をおっぴろげて御開帳のポーズになっていた。 わたしはフリーズした。体温が急上昇する。 モンスターとはいえ、胸も股間も完全に見られてしまったのだ。恥ずかしいを通り越して、どうしていいのかわからず、動けない。 「おおおぉぉぉ」 ウサキチは相変わらず震えている。 「ぷに実、来たであるぞ! これがおいろけスキルの効果だ!」 コリロンさまの声。そういえば、おいろけスキルで、モンスターを見とれさせることができると言ってた。その効果が発動したんだ! これでウサキチが無防備になって、こちらにチャンスが生まれるんだ。恥ずかしい思いをした価値があったかも? と思ってたら、なんだかウサキチの様子がおかしいことに気づく。なぜか、肩をがっくりと落としてうつむいていた。『みとれる』って感じじゃない。 「な、なんて貧相な身体なんだウサァ」 心底残念そうな、弱々しい声だった。 「断崖絶壁の胸、まったくくびれのない腰。せっかく若い女を見つけたと思ったのに、あまりに残念すぎるスタイルだウサ。もう、やる気なくなったウサ」 〈ウサキチはがっかりした!〉 え? なにこれ? 「やったぞぷに実! 『がっかり』もおいろけスキルによる足止め効果のひとつなのだ! さあ、今のうちに攻撃だ!」 がっかり? こいつ、わたしの身体を見て落胆したの? なにかが、わたしの中で弾けた。 両手の拳を握りしめ、静かに立ち上がった。深く息を吸う。 「ふっざけんなあああああああああっ!」 大声を吐き出すと、ウサキチに向かって驀進! うつむいたままのモンスターに向かって、渾身のパンチを繰り出した! 「なにが『がっかり』だよぉ! わたしの身体にはそんなに魅力がないってのかよっ? なめんな! 見とれろよぉ! わたしのこの身体にいいいいいいいいいっ!」 この時のことは、あんまり覚えてない。気がつくと、白目をむいて倒れているウサキチの姿があった。顔がボコボコになってる。 え? なにこれ、わたしが殴ったの? 自分でドン引きなんですけど。 「お、おぬし、キレると狂暴になるタイプだな」 背後から、怯えを含んだようなコロリンさまの声。 「あ、あらぁ。嫌だわ、わたくしったら。つい取り乱してしまいましたわね。おほほほほ」 などと取り繕ってみたものの、コロリンさまの視線が痛い。そうだよね、こんなのわたしのキャラじゃないし。 「だが吾輩としても、非常にいいものを見せてもらったぞ。ナイスである! ハァハァ」 わたしの正面に回り込んできたコリロンさまは、キツネ顔をくしゃくしゃにして笑っていた。顔面の中心部から、赤い液体がポタポタと垂れている。 「鼻血出してんじゃねーよ! この変態野郎! あっち行け!」 わたしは急いで胸と股間を隠した。そうだ、こいつにも御開帳を見られちゃったんだ。最悪。がっかりするウサキチもムカつくけど、興奮するこいつも、それはそれでムカつくのだった。 「はっはっは。あっちになんか行かないもんねー。吾輩にはおぬしの旅を見届ける義務があるのだから」 「うぐぐ」 目に涙がにじんできた。もうやだ、こんな冒険。 そのとき、ティロリーン、という電子的な音が聞こえた。 〈モンスターをたおした!〉 「なんにせよ、モンスターは倒せたようだな。これで経験値を得られるぞ」 「でも、一番ザコのモンスターなんでしょ? 経験値もちょっとだけでしょ」 まだ何回も戦わなくちゃいけないんだ、嫌だなぁ。そう思っていたら、衝撃的な数字が空中に浮かんだ。 〈9999のけいけんちをかくとく! ふ゜にみはレベルが10になった! あたらしいまほうをおぼえた!〉 「経験値多っ! さっきの戦いにそれほどの経験があったっていうのっ?」 「あー、経験値は適当に設定しておるからな」 「適当すぎるだろ! 面倒くさがり屋か!」 とはいえ、こちらにとっては都合がいい。これで一気に強くなれた。ステータスも大幅に上昇して、HP110、MP30になっていた。魔王を倒す時も、意外と近かったりして? と、空中につづけて文字が表示される。 〈モンスターはたからばこをおとした!〉 ん? 宝箱? いつのまにかウサキチが姿が消えていて、代わりに箱が地面に置かれていた。衣装ケースくらいの大きさで、上部にかまぼこ型の蓋がついている。色はきれいな赤で、全体的に金色の装飾がほどこされていた。いかにも宝箱っぽい。 「ふむ。ドロップアイテムだな。さあぷに実よ。その宝箱をあけてアイテムを入手するがよい」 「アイテムって、なんか変なもんが入ってるじゃないでしょうね?」 「安心するがよい。モンスターがドロップするアイテムはすべて防具、つまり服の類だ」 え? だったらやっと、全裸を卒業することができるんだ! やったぁ! わたしは嬉々として宝箱を開いた。 中に入っていたのは、赤い布だった。手に取って広げてみると、薄っぺらくて細長い。 〈エッチなみずぎをてにいれた!〉 「ふざけてんのっ?」 胸と股間をV字型に覆う、いわゆるスリングショットっていう水着だ。しかも布面積が極端にせまくて、局部をギリギリ隠せるくらいしかない。 「ほほう、おぬし運がいいのう。それは2048分の1の確率でしか出ない、超レアアイテムであるぞ」 「そんな強運を使って得たものが、よりによってこれかよ!」 「なにを嫌がることがある? さっそく装備するのだ!」 「やだよ! いらないよ、こんな変態的な装備!」 「もったいないことを言うな。エッチなみずぎは、おいろけをプラス100する上に、防御力もプラス40になるという最高級の装備なのだぞ」 「この狭い布面積のどこに、それほどの防御力がっ?」 「細かいことは気にするな。それより、一時的にでも装備してみてはどうだ。それを着れば町に入れるであろう。町で別の防具を購入すればよいではないか」 「こんな格好で町に入ったら全員から奇異の目で見られるわ! 全裸のほうがまだマシまであるよ!」 「わかっておるではないか。そう、その水着は全裸よりもよっぽどエロい。さぁ早く装備しておくれ。ハァハァハァ」 「あんたが見たいだけでしょうが! このマニアック変態スケベ神!」 わたしはコリロンの野郎をぶん殴ろうかと思ったが、それを察してか、奴は私の手が届かない高さに移動したのだった。くそ。 とはいえ、確かにこれを装備するのも悪くないかと思い始めた。全裸のほうがマシとは言ったものの、実際問題としては大事なところを隠せるだけでもありがたい。 町で新しい装備を購入すまでのつなぎとして、わたしはエッチなみずぎを着てみることにした。 「うっ、これは」 予想どおり、胸と股間の大事な部分がギリギリ隠れるくらいだった。それに、お尻のほうは細い部分が割れ目に食い込んで、なんか気持ち悪い。 とりあえず裸ではなくなったけど、これも相当いやらしい格好なのは間違いない。色が鮮やかな赤なのも相まって、相当目立ちそうだ。もし人に会ったら、ジロジロ見られちゃいそう。それを想像すると顔が熱を帯びて、思わずもじもじしてしまう。 「ぐはぁっ! ロリ体形のJKが、こんなにエッチな格好をして、恥ずかしがってるうううううっ! たまらんっ、たまらんぞおおおおおおっ!」 いやらしい顔をして、長い白髪を振り回しながら狂喜乱舞するコリロン。 「お前もう黙れよマジで!」 変態神に罵声をぶつけると、わたしは足早に森に向かった。早く森を抜けて町に行こう。それで服を買うんだ。町に入った時は恥ずかしいだろうけど、一時の辛抱だ。 森の中をグングンと突き進むわたし。背後からついてきているであろうコリロンが、「待っておくれー」とか「ハァハァ、やっぱりエッチなみずぎはいいのう」とか言ってるけど、すべて無視した。 やがて森を抜ける。さいわいにも、モンスターに出会うことはなかった。 森の先は草原になっていた。100メートルくらい向こうに、建物がいくつもあるのが見える。やった、あれが町だ! 町に向かって一歩を踏み出そうとした、そのとき。 上空から、なにか巨大なものが下りてきて、わたしの前にズシンと降り立った。 明らかにモンスターだった。二足歩行で人に近い体形だけど、身長はは3メートル近くもある。体色は全体的に黒っぽく、鋭く吊り上がった眼だけが赤く光っている。体の色んなところにトゲが生えていて、背中には大きな翼があった。悪魔っぽくて禍々しい姿だ。 げげ、なんだか強そうな感じ! そのモンスターが、ゆっくりと口を開いた。長いキバが見える。 「勇者よ、よくぞここまでたどり着いた。我が名は魔王オルエーだ!」 は? は? は? 今、魔王って言ったの? 聞き間違いかな? 「我が名は魔王オルエーだ!」 こちらの反応が薄かったからか、目の前のモンスターは念を押すように、もう一度言った。 やっぱり魔王なんだ。 「ふむ。現れよったか」 背後からコリロンの声。わたしは振り返って、空中に浮かぶ生首変態神に聞いた。 「なにこれどういうこと? なんで魔王がこんなところに現れるの?」 「実はだな、意気揚々とこの世界を作り始めたのはいいが、最初の森と町を一個作ったところで飽きてしまったのだ。仕方なく、魔王は普通にエンカウントする仕様にした」 「根気なさすぎるだろ! せめてダンジョンのひとつくらいは作れよ!」 「だってダンジョン作るの面倒くさいんだもーん」 「『だもーん』じゃねえよ! ていうか、初期に遭遇するモンスターはザコばっかりのはずでしょっ? なんで最強の魔王が出てくるのよ!」 「なにを言う。この世界にはあの森と町しかないのだぞ。町に近いこの場所は最終盤なのだ」 「世界狭いな本当に! RPGツクールに初めて触れた小学生でも、もっとマシなの作るわ!」 「まあ、よいではないか。こやつを倒せば、おぬしの旅は終わるのだぞ」 それもそうだ。この魔王を倒せば、わたしはセクシーなイケイケの女性になれるんだ! でも、倒せるかな? まだ1回しか戦ってないし。レベル10って、魔王を倒すには低いレベルなんじゃ? 「魔物の世界を作るため、人間どもは根絶やしだ! さあ勇者め、塵芥のように粉砕してくれるわ!」 魔王が叫ぶ。どっちにしても戦うしかないみたいだ。 わたしは魔王のほうに向きなおって構えた。いや、戦いの構えとか全然知らないんだけど、なんとなくそれっぽいポーズをとった。 魔王がこちらに近づき、グワッと右手を振り上げた。攻撃が来る、避けなくちゃ! と思ったら、魔王の動きがピタッと止まった。 「お、おおおぉぉぉ」 プルプルと震え、鼻の下を伸ばす魔王。 「幼さの残る半熟玉子ような肉体っ! なんという美ししさだっ! こ、これはたまらぬっ、たまらぬううううっ」 〈オルエーはふ゜にみにみとれた!〉 いや、お前は見とれるんかい! 魔王の威厳とかまったくないな! 「こ、こんなのが効くなんて、魔王しょぼすぎない?」 情けない表情で動きを止める魔王を見て、思わず呆れてしまうわたし。 「はっはっは。勇者のおいろけスキルは魔王を倒すためだったというわけだ! 素晴らしい伏線回収であろう?」 とコリロン。得意げな声がムカつく。 「威張るようなことじゃないわ!」 「とにかく、チャンスであるぞぷに実よ! 魔王に攻撃するのだ!」 それはそのとおりだ。『みとれる』の足止め効果だって永久じゃないだろうし、効いてるうちに倒さなくちゃ。 「えいっ!」 わたしは魔王にパンチを繰り出した。ゴンッ、と鈍い音が鳴ったけど、まるで手ごたえを感じない。 〈オルエーはダメージをうけていない!〉 「ええっ? ダメージなしっ?」 やっぱり、レベル10じゃ魔王を倒すには弱すぎたんだ! 「これじゃ倒せないじゃん。どうすれば?」 「うろたえるな、ぷに実! おぬしにできることは通常攻撃だけではないぞ! 先ほどのレベルアップで魔法を習得したではないか!」 そうだ、魔法があった! レベル10まで上がったんだから、色んな魔法を覚えたのかも。火の玉を放つとか、攻撃力を上げるとか。 「で、魔法を使うにはどうすればいいのよ?」 背後に浮かんでいる生首に聞いた。 「呪文を詠唱すればよい。ちなみに、現在おぬしが使える魔法はひとつ」 「たったひとつだけなのっ?」 「案ずるな。強力な魔法なので魔王にも充分に効く。さあぷに実よ、魔王に向かってパンチを放ちながらこう言うのだ。『つるぺたパンチ』!」 「ネーミングひでえなオイ! そんなこと言わなくちゃいけないのっ?」 「なにを言う。おいろけを武器とするロリ勇者にピッタリの呪文ではないか」 ああ、こいつマジでぶん殴っていいかな? 「ちなみに、つるぺたパンチの消費MPは10だ。今のぷに実には3回使えるわけだな」 「ていうか、それってただのパンチじゃないの? どこが魔法なのよ!」 「拳を魔力で包むことでパンチ力を増大させるのだ。さあ、使ってみせよ!」 いずれにしても、もうこの魔法に賭けるしかない。わたしは再びオルエーのほうに顔を向けた。ロリコンの魔王さんは、相変わらずわたしに見とれていた。思いのほか『みとれる』の効果時間長いな。 嫌々ながら、わたしは呪文を口にする。 「つ、つるぺたパァ~ンチ」 力ない声を吐きながら握った右手を突き出すと、拳に青い炎みたいなエフェクトが発生した! その拳が、魔王のおなかにヒットする。 「グハアアアアアァァァァァッ!」 魔王は苦悶の表情を浮かべて絶叫し、そのまま卒倒した。 〈オルエーに9999のダメージ!〉 強っ! つるぺたパンチ強っ! このダメージ数、また適当に設定した感あるな! 〈モンスターをたおした! 99999のけいけんちをかくとく! ふ゜にみはレベルが25になった! あたらしいまほうをおぼえた!〉 「た、倒しちゃった?」 なんか、あっけなさすぎて実感ないけど、とにかく魔王を倒したんだからクリアーってことだよね? やった! これで私はセクシーな大人の女性に成長できるんだ。 「いや、まだだ。あれを見るのである」 コリロンが言う。魔王のほうを見ると、奴はゆっくりと立ち上がった。その姿が、徐々に変化する。体色が薄くなり、トゲや翼ががなくなり、大きさも縮んでいく。だんだん、普通の人間の形に近づいていく感じ。 「やるじゃないか、勇者よ。僕をここまで追い詰めたのは、きみが初めてだ」 と魔王は言った。なぜか口調が変わっている。 「でも、魔王オルエーはあくまでも仮の姿なのさ。これから見せるのが、僕の真の姿と実力だ!」 魔王の身体の変化が止まる。その姿からはモンスターらしさが消えていて、ごく普通の人間だ。 それだけじゃない、わたしが知っている人だった! 「ははははは! これが僕の真の姿、大魔王イーボンさ!」 「か、門星先輩?」 175センチくらいの身長。サラサラのヘア。さわやかな顔。細身ながらも引き締まった身体。さらに服装は、わたしが通う高校の男子の制服。 大魔王イーボンの姿は、門星磨央先輩そのものだった! 「ははははは! 言っておくが、僕にきみのおいろけは通用しないぞ! なぜなら僕は巨乳好きだからね! きみのようなロリ体形には興味がないのさ!」 「ど、どういうことなの? なんで門星先輩が」 「ふむ。奴は巨乳好きをこじらせてモンスターと化し、ついには大魔王にまで昇りつめてしまったのだ。悲しきことよ」 しみじみと言うコリロン。 「白々しいわ! あれもあんたが作ったモンスターでしょうが! わたしが言ってんのは、なんで大魔王を門星先輩のデザインにしてるのかってことよ!」 「どうもこうもないわ。奴は、おぬしの好意を退け、絶望の淵に叩き落した張本人ではないか。つまり、おぬしにとっての魔王だ。違うかね?」 「はあ?」 門星先輩が、わたしを絶望の淵に叩き落した? わたしはコリロンをにらみつけた。 「なに言ってんの! 確かに、わたしは門星先輩の巨乳発言に落胆したけど、だからって魔王だなんて」 「いいや。奴のせいでおぬしは死んだ。その恨みを晴らしてこそ、おぬしの旅は終わるのだ」 「ふざけないでよ! わたしは門星先輩を恨んでなんかいないよ! 恨むとすれば、それは、それは」 わたし自身だ。 門星先輩には、なんの罪もない。自分は門星先輩の好みの女性ではない。わたしにとって、その事実がなによりも悔しく、恨めしかった。 「つべこべ言うなああああっ!」 わたしの思考を遮るように、コリロンが叫んだ。 「あいつは大魔王なのだ! 誰がなんと言おうとラスボスの大魔王なのだ! 神の吾輩が決めたから間違いないのだ! さあ大魔王を倒せぷに実よ! それこそがおぬしの目的だろうが!」 「なにめちゃくちゃなこと言ってんのよ!」 その時。 〈イーボンのこうげき!〉 前方から強烈な風が吹いてきた! 猛烈な冷たさを伴っていて、風を受けた肌がヒリヒリと痛む。 〈イーボンはこごえるいきをはいた! ふ゜にみは55のダメージをうけた! のこりHP205〉 「うわぁ、さっむううううううう」 わたしを身を縮めて両腕をさすった。さすがラスボスの攻撃、かなりの威力だった。レベルアップでHPが上がってたおかげでまだ余裕はあるものの、これをあと4回食らったら死んでしまう計算だ。 「ははははは! どうだ僕の攻撃は! 僕は心が冷たいから、吐く息も冷たいのさ!」 イーボンはどや顔だった。妙に説明的なセリフだし、門星先輩のキャラと全然違う。なんなのこれ、ひどすぎるよ。 「ほれ、先制攻撃されてしまったではないか! このままやられるつもりか?」 確かに、このままじゃまずい。こっちからも攻撃しなくちゃ。 門星先輩の姿をした奴に攻撃するのは気が引けるけど、こいつはコリロンが作ったニセモノにすぎないんだ。気にしない気にしない。そう自分に言い聞かせる。 「ぷに実、いいことを教えてやろう」 と、コリロン。 「おぬしは新たな魔法を習得したぞ。それを駆使するのだ」 「新しい魔法って、いくつ覚えたのよ?」 「ひとつだ」 「やっぱりかよ! レベル25で使える魔法がふたつだけって少なすぎでしょ!」 「心配するな。今度のやつは、最後に覚える魔法にして最強の魔法だ。すべてのMPを使用する、まさに最終奥義であるぞ」 「で、その魔法を使うための呪文は?」 嫌な予感がしつつも、聞いてみた。 「ふむ。まずは両手の親指と人差し指で輪っかを作る。その輪っかで両胸のビーチクを囲み、こう詠唱するのだ。『ロリロリちっぱいビーム』!」 「お前もう死んでくれないっ?」 わかったよ! いや、とっくに知ってたけど再確認! こいつはどうしようもないクソ野郎だ! 「やらんつもりかね? 言っておくが、『ロリロリちっぱいビーム』を使わん限り、大魔王イーボンにダメージを与えることはできぬぞ?」 勝ち誇った顔をするコリロン。ああ、マジでムカつく。 「ははははは! その通りさ! 僕は魔王オルエーとは段違いの強さだからね! 生半可な攻撃は通らないよ! さあ、待っててやるから攻撃してごらんよ!」 大魔王イーボンも、胸を張って得意げだ。 「大丈夫だ、ぷに実よ。『ロリロリちっぱいビーム』であれば、確実に奴を倒すことができる。さあ、使うのだ!」 「はぁ、まったくもう」 気は乗らないけど仕方ない。確かにラスボスを倒さない限り、この下らない旅は終わらないのだ。 わたしは両手で輪っかを作った。それで両胸の大事なところを囲う。 こんな恥ずかしい技を使うのは癪だけど、大魔王を倒す手段がこれしかないなら仕方ない。 「ろ、ロリロリちっぱいビ」 言えたのは、そこまでだった。恥ずかしいからっていうのもあるけど、それ以上に感じることがあった。 「どうしたっ? なぜ攻撃しないのだ、ぷに実よ!」 「だって、だって」 イーボンを攻撃するなんて、わたしにはどうしても、できない。 「ははははは! どうしたんだい? 貧乳の小娘くん! 僕に攻撃する度胸もないっていうのかな?」 「ぷに実、早くロリロリちっぱいビームで攻撃するのである!」 煽るイーボンと、急かすコリロン。 ふたりから言葉を浴び、わたしは瞳が潤んだ。ポロポロと、大粒の液体がまぶたからこぼれ落ちる。 「できない。できないよぉ。門星先輩を攻撃するなんて、わたしには」 「奴は大魔王だ! この世界を脅かす悪なのだ! 奴を倒すことこそが、勇者であるおぬしの使命なのだぞ!」 コリロンの言葉は、わたしの心には響かない。 「無理だよぉ。だって、わたしは」 わたしは腕を下ろした。目から流れる水は止まらない。 「門星先輩のことが好きだから! ずっとずっと、大好きだったから!」 本物の門星先輩には決して言えない言葉を、わたしは口にしていた。声に出さずにはいられなかった。 「ははははは! こいつは傑作だね!」 イーボンの反応は非情だった。頭を抱えて笑っている。 「そうか、きみはこの顔をした人間のことが好きなのか! だから攻撃できないって? なんて甘ったれなんだ! まったく、巨乳にコンプレックスがあるから、そんな甘ったれになるんだろうね、貧乳のちんちくりんは! 生きてる価値がないよね!」 爽やかな門星先輩の顔を、邪悪に歪めるイーボン。本物の彼なら決して使わない言葉を並べて、わたしを罵った。 胸の奥が冷たくなったような感覚を、わたしは覚えた。 校内で見た門星先輩のことを思い出す。彼は誰にでも優しく、いつも笑顔が絶えない好青年だ。一度、わたしが廊下ですれ違ったときにあいさつをしたら、にこやかな笑顔であいさつを返してくれた。それだけで、わたしは天に昇る気持ちになった。 それなのに、今わたしの前にいる、門星先輩の顔をしたモンスターはどう? あらん限りの罵詈雑言、人の心を持たない邪悪な存在。こんなの、門星先輩に対する侮辱だ。冒涜だ。 おかしいよ。絶対おかしいよ。 ああ、そうだ。この状況を打破するためには、やっぱり魔王を倒さなくちゃ。 わたしは意を決し、再び魔法を使うためのポーズをとる。 巨悪を滅ぼす。そのために羞恥心をかなぐり捨て、叫んだ! 「ロリロリちっぱいビーム!」 わたしの胸元が赤く光り輝く。すると周辺の空気がビリビリと震えた。とてつもないパワーを感じる。イーボンもそれに気づいたのか、たじろぐ仕草を見せる。 わたしの胸から、特大のビームが放出された! 周辺のすべてを巻き込まんばかりの勢いで放たれた魔法は、強烈なうなりを上げて敵の元へ向かう。 そして轟音を響かせ、炸裂した! 「ぎゃあああああああああ! なぜ吾輩をおおおおおおおおっ?」 ロリロリちっぱいビームを食らったコリロンの絶叫がこだました。 ☆ わたしが攻撃したのは、大魔王イーボンではなく、神のコリロンだった。 気がつくとわたしは、なにもない空間に立っていた。 異世界に転生する前に来た、神の世界だ。自分の身体を見るとちゃんと服を着ていた。セーターの上からベージュのコート、下はジーンズに黒いブーツ。駅ビルに出かけた時の格好だ。 わたしの前には、白目をむいたコリロンが倒れていた。生首じゃなく、全身がちゃんとある。 「な、なぜだ、ぷに実。なぜ吾輩を攻撃した」 コリロンが倒れたまま言った。意識はあるみたいだ。 「魔王を倒すことにしたの。わたしにとっての魔王を」 わたしはコリロンを指さし、力強く言ってやった。 「門星先輩はね、わたしにとって神さまなの。そんな彼を侮辱するよなモンスターを作ったあんたこそが、わたしにとっての魔王! 文句ある?」 「なるほどな。吾輩を倒すことで、魔王退治という目的を果たしたと主張するわけか」 「うん」 コリロンを倒せば、あの世界そのものがなくなる。当然、門星先輩の姿をしたイーボンを倒す必要もなくなる。賭けだったけど、その予想は見事に当たっていたみたいだ。 だけど、これでコリロンを敵に回してしまった。イケイケの女性に成長する件はおじゃんだろうなと思う。 それでも悔いはなかった。門星先輩を侮辱したコリロンのことが許せなかったし、ニセモノとはいえ門星先輩を攻撃するなんて、どうしてもできなかったんだよ。 「おぬしの心意気、とくと感じたぞ。だが誤算だったな、ぷに実よ!」 コリロンが勢いよく立ち上がった。その顔は嬉々としている。 「吾輩にとっては、ロリロリちっぱいビームはダメージにならぬ! むしろご褒美だ! 倒れたのは、あまりの気持ちよさに絶頂しただけのことよ!」 「し、しまった!」 ロリロリちっぱいビームを使わず、ただ殴ればよかったのかも! 「はっはっは。ちょっと驚いて異世界を消してしまったが、すぐにまた転生させてやるぞ! もっと強大な敵を用意してな! 覚悟するがよい!」 「くっ!」 「なーんてな、冗談だ」 コリロンは、わたしの前で片膝をついた。いつになくシリアスな表情を浮かべている。 「コングラチュレーション。おぬしは見事に魔王を打ち破った。チャレンジ成功を認めよう」 「え? い、いいの?」 「もちろんだ。どんな形であれ、魔王を倒したことに変わりはない。よく頑張ったな、ぷに実」 穏やかな笑顔で、優しく告げるコリロン。 よかった。コリロンは本当に怒ってないし、チャレンジ成功を認めてくれるみたいだ。 「じゃ、じゃあ、わたしをセクシーな大人の女性に成長させてくれるの?」 「いいや、その必要はない」 立ち上がり、ゆっくり首を振るコリロン。 「なぜなら、おぬしは既に成長しておるからだ」 「は?」 「そう! あの厳しい冒険を経たことで、おぬしは肉体的にも精神的にも、ひと周りもふた周りも大きくなったはずだ! それこそが吾輩の言った成長だったのだ! 美しいオチであろう?」 どや顔で胸を張るコリロン。 「ふっざけんなああああああああああああっ!」 上がりかけていたコリロンに対する好感度が、フリーフォールのように急降下した! 「話が違うでしょ! だいたい、大した冒険なんかしてないし! 精神的にはともかく、肉体的にはなにも変わってないじゃない! このちんちくりんの身体を、わたしはどうにかしたいのに! このバカ! 詐欺師!」 「バッカもおおおおおおん!」 コリロンは細い目をカッを見開いた。 「自分の身体を卑下するでない! おぬしの両親にも、おぬし自身にも、失礼なことであるぞ!」 「うっ」 正論のような気がして、言葉を返せなかった。 「ちんちくりん? それでもよいではないか。それはそれで需要があるのだ」 「じゅ、需要って言い方、なんか嫌なんですけど」 「とにかくだ。人は誰しも個性を持っており、オンリーワンの存在なのだ。その個性を、自分自身が尊重してやれなくてどうする?」 「で、でも、こんな体つきじゃ、やっぱりモテないし」 「そう言うでない。そんなおぬしを好いてくれる人も、必ずやいるのだぞ」 コリロンは力強く言い、ボソッとつけ加えた。 「少なくとも、吾輩はおぬしのことをずっと見ておったからな」 「え? なに?」 「なんでもないわ! いいか、『つるぺたパンチ』も『ロリロリちっぱいビーム』も、おぬしだからこそ使えた魔法なのだ! おぬしのその身体は、決して劣等なものではない! 吾輩はそれを教えるため、おぬしを勇者として選んだのだ!」 不覚にも、目の奥が熱くなったような気がして、わたしはうつむいた。ごまかすように、大きなため息をつく。 「はぁ、まったくもう。わかったよ、わたしは、自分のこの身体を尊重することにする」 顔を上げた。その頬が緩んでいるのを、自分で感じる。こんなわたしでも好いてくれる人は必ずいる。そう言ってもらえて、気が楽になったのは確かだ。 「あんたとの冒険も、なんだかんだで楽しかった気がしないでもないし、一応お礼を言っておくよ。ありがとね」 「はっはっは。そうであろう? さすが吾輩!」 「でも、これだけは言わせて」 わたしは声を鋭くした。 「別に裸である必要はなかったよね?」 露骨に動揺の色を見せるコリロン。ギクッ、という擬音が背後に見えそうだった。 「だ、だからそれは、おいろけスキルを最大限に発揮するためにだな」 「それにしても、もうちょっとやり方があったんじゃない? あんた、わたしの裸見てハァハァしてたし、結局あんたのスケベな欲望を満たすために、あんな格好させただけだよね? それに対しての謝罪はしてもらいたいかな~」 なにしろ、わたしは御開帳を見られてしまったのだ。それに対する責任は大いに取ってもらわないと困る。 「う、うるさいわ! はぁ~、ヨルドモ・ニイカセ・ノツジンゲ!」 コリロンが奇妙な呪文を唱えると、グルグルと回ってるような感じになって、気持ちいいような悪いような変な気分になった。転生した時と同じだ。 「て、転生させる気? 卑怯者!」 「安心せい、元の世界で蘇生するだけだ! それでは、さらばだぷに実よ! 実にアッパレな勇者っぷりであったぞ!」 「うわーん、コリロンのアホ! スケベ! 変態! インチキペテン師!」 その叫びも空しく、わたしの意識は薄れていった。 ☆ 暗闇だった視界に、徐々に光が満たされていく。様々な色がぼんやりと形を作って、やがてそれらは、くっきりとした輪郭になる。 閉じていたまぶたを開いたのだと、わたしは気がついた。それと共に、色々な音が耳に入ってくる。人々の足音、声、車の走行音。 現実の世界に戻ってきたんだ。 青い空が見える。外だ。そこでわたしは横たわっている。 そんなわたしを覗き込むような顔があった。サラサラのヘアーに、爽やかなイケメンマスク。 それが門星磨央先輩だということに気がつくと、わたしの意識は一気に覚醒した。 どういうこと? なんで門星先輩に顔が目の前に? 頭の下に柔らかい感触があって、どうやら門星先輩がわたしを膝枕してくてるみたい。それと認識すると、ほとんどパニック状態になった。なにを言っていいのかわからず、口をパクパクさせてしまう。 「よかった、気がついたみたいだね」 先輩が微笑んで、優しげに言ってくれた。ああ、やっぱり格好いい。 「きみ、階段から落ちて気を失ってたんだよ。待っててね、今救急車を呼ぶから」 「きゅきゅきゅ、救急車だなんてとんでもないですっ!」 わたしは急いで立ち上がった。 「し、心配しないでくださいっ! わたしはほらっ、全っ然元気ですから!」 両腕をぶんぶん振る謎の踊りを見せ、健全をアピールした。 「あ、あんまり動かないほうが。いや、それだけ動けるなら、大丈夫なのかな?」 「大丈夫です大丈夫です! あはははは!」 実際、身体や頭にはまったく異常がなさそうだ。それより、階段から落ちたわたしを門星先輩が介抱してくれたという事実のほうがやばかった。 ああ、なんたる幸運! 門星先輩と会話できるだけでも有頂天なのに、膝枕までしてもらえてるなんて! わたしは大きく頭を下げた。 「あ、ありがとうございました、門星先輩! あの、わたし、同じ高校に通ってる者で」 「うん。以前、僕にあいさつしてくれたよね、覚えてるよ。名前までは知らないけれど」 え? 本当に? わたしみたいなモブキャラのことまで覚えてくれてるなんて、さすが門星先輩! 「とにかく、大丈夫そうだから安心したよ。きみ、バナナの皮を踏んだみたいなんだ。これからは足元に気をつけてね」 先輩が右手を振る仕草を見せた。お別れの合図だ。 「あ」 門星先輩に介抱してもらえて、会話もできて、お近づきになれた気分になれた。でも、それはほんの一時だ。このままお別れしたら、また生徒会長とモブキャラの関係に戻っちゃう。 仕方ないよ。だって、わたしと門星先輩とじゃまるで釣り合わない。住む世界が違うんだから。 これまでのわたしなら、そう考えてあきらめたと思う。 だけど、それじゃあダメなんだ! 「あ、あのっ!」 思わず声を出していた。先輩がきょとんとした顔になる。 一瞬ためらったけど、わたしはつづきの言葉を口にすることにした。大丈夫、異世界での冒険を経験したわたしは成長したんだ。異世界でなら、先輩に好きって言えたんだから。もう、これまでのわたしとは違うんんだから! 「わ、わたし、一年三組の須来ぷに実っていいます! 生徒会長である門星先輩のこと、いつも応援していますっ! これからも、頑張ってくださいっ!」 わたしの言葉を受けた門星先輩は、やわらかい笑みを浮かべてくれた。 「うん、ありがとう。これからもよろしくね、須来さん」 「は、はいっ!」 胸が温かくなった。さすがに好きだとは言えなかったけど、自分のことをアピールして、門星先輩に存在を認識してもらえただけでも、すごい進歩だと思う。 わたしは確かにちんちくりんで、巨乳好きの門星先輩のタイプじゃないのかもしれない。だけど、何事もチャレンジしなければ可能性は生まれないじゃないか。 そう考えられるのは、あの冒険のおかげだ。とんでもない経験だったけど、コリロンに感謝しなくちゃなと思う。 いずれは、門星先輩に想いを伝えたいと思う。ぶっちゃけ、彼女にはなれないだろうけど。でも、そうした経験をすることで、人間は成長できるんじゃないかと思えるから。 そうしていつか、わたしのことを好いてくれる人に巡り合えて、その人と幸せを分かち合うことができればいいな。そう思う。 と、その時。門星先輩の隣にいた男子が、ずいっとわたしの前に出てきた。どうやら、先輩の友人みたいだ。 「やあやあ、ごめんね須来ぷに実さん。実はきみが踏んだバナナの皮は、俺が捨てたんだ」 そう言う男子の顔に、見覚えがあった。キツネみたいな切れ長の目と、とんがった鼻。男にしては長い、真ん中で分けた髪。 髪の色こそ黒いけど、さっきまで散々見ていた顔にそっくりだった。 「俺は門星の友達で、狐理論太郎(こり ろんたろう)っていうんだ。ここで会ったのもなにかの縁だ、須来さん、よかったらこれから、俺と仲よくしてくれないかな~? ハァハァ」 キツネ目を細め、ニチャァと笑う狐理論太郎。 わたしは、すべてを察した。 そう、こいつこそがコリロンなのだ。本当に神なのか、それとも超能力者かなにかなのかは知らないけど、わたしを異世界転生させた張本人なのに間違いはない。 こいつは、前々から学校で見かけるわたしのことを狙っていたのだろう。わたしの裸を見たいという欲を満たすためと、自分のことをわたしにアピールするため、異世界転生を画策した。そして今日、バナナの皮を捨ててわたしを転倒させたんだ。 そう考えると、なんだかんだ楽しかったと思っていたあの冒険も、憎悪が湧き上がる嫌な思い出に感じるのだった。コリロンに対する感謝の気持ちもすっ飛んだ。 やっぱりこの野郎、死ぬほどムカつく! 「ねえ、いいでしょ須来さぁん。俺と仲よくなってよぉ。きみのそのスタイルが、俺はたまらなく好きなんだよぉ。ハァハァハァ」 狐理論太郎が、よだれを垂らしたニヤケ面で接近してくる。 「うるさい! わたしから離れろおおおおおおおっ!」 わたしは右手の拳を突き出す。 渾身の『つるぺたパンチ』が、コリロンの顔面にめり込んだ。 |
いりえミト 2021年12月31日 23時22分33秒 公開 ■この作品の著作権は いりえミト さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2022年01月18日 13時48分35秒 | |||
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Re: | 2022年01月18日 13時46分55秒 | |||
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Re: | 2022年01月18日 13時45分46秒 | |||
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Re:Re:Re:Re: | 2022年01月19日 06時31分36秒 | |||
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Re: | 2022年01月18日 13時40分08秒 | |||
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Re: | 2022年01月18日 13時39分24秒 | |||
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Re: | 2022年01月18日 13時38分29秒 | |||
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Re: | 2022年01月18日 13時37分03秒 | |||
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Re: | 2022年01月18日 13時33分57秒 | |||
合計 | 10人 | 140点 |
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