全裸人狼 |
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プロローグ 担任の教師(国語担当 50代男性 小太り)は大股に教室に入ってくるなり、拡大コピーされた一枚の写真を黒板に貼り付けた。 どこかの山の中の泉のそばで、立ち上がろうとしている全裸の少女の後ろ姿が写っている。温泉ではないようだ。 「いいかお前たち! これは先生が秘湯に浸かる女子高生を覗きに行こうとしていたときに、山中の泉で露出行為にふける痴女を見つけたときにとった一枚だ! 二回抜いた! だが先生は貧乳には興味がないので、脅迫材料にはせず問題行動として学校に報告し、今この場でこの痴女を見つけ出すことにした! 先生は貧乳にこそ興味がないが全女子生徒の尻の見分けには自信がある! 間違いなくこのクラスの女子だ! もし自ら名乗り出るのであれば、先生が学校に情状酌量を求めてやる! さらけ出したい気持ちはよくわかる、先生も昔はそうだった! 実際にやったこともある! だから安心して名乗り出なさい!」 直後。教室の戸が開き、校長先生が制服警官二人を連れて入ってくる。 「校長先生! ご助力には感謝しますが、ここは私に任せてください! 大事なのは信頼関係なのです! 例え何をしていたとしても、生徒の心を守るのが先生の使命ですので!」 だが校長先生は担任の声には耳を貸さず、「お巡りさんこの人です」と担任を指さすと、頷いた制服警官が担任に手錠をかける。 もはや理解したくない言葉を並べる担任を力づくで連れ出したお巡りさんの背中を眺めながら、私はこっそりと頭を抱えた。 ――――あんなん、絶対私やんけ! 今更回収できない写真を黒板に貼り付けたまま、私は途方に暮れていた。 一章 < 霊能者と市民 > 私、真名板詠歌(まないた えいか)は普通の貧乳女子高生である。 ただパソコンの検索履歴に『露出 穴場』『露出 経験談』『露出 スポット』『露出 同人』といったワードが多いだけの普通の露出好きの女子高生だ。 あんなのがバレては非常にまずい、というか社会的に死ぬ。 興奮する。 あ、間違えたヤバすぎる。 どうにか誤魔化さなければ、などと考えていた時だった。 「詠歌殿、どうしたでござる?」 声をかけてきたのは、クラスメイトの鶴辺炭(つる ぺたん)だ。私と同じAカップの貧乳で、武士に憧れて口調を矯正した変わり者。なぜか剣道でも柔道でもなく水泳部を選び、小柄ながら水泳で全国大会に出場するほどのスポーツエリートで、『胸の抵抗が薄いから速いのよ(笑)』とバカにした先輩を体に跡が残らないように『しつけ』したファイターでもある。 「あ、ううん、何でもない」 「ならば学食へ急ぐで候。拙者が好きな『ろおすかれいらいす』がなくなってしまうでござる」 「だね、行こっか」 慌てて席を立ち、ペタンと並んで教室を出る。 幾分声を落としながら、やはり出るのはあの話題だった。 「しかし、驚いたでござる。まさか拙者たちのクラスにあのような痴女がいるとは」 「う、うん、そうだね」 上手くごまかせているかわからないまま、顔に無理やり笑顔を貼りつけた。 「で、でもさ、あれ本当にうちのクラスかなんてわかんなくない? 先生の勘違いなんじゃないかな」 「否、それはないでござる」 「え?」 彼女は顎に指をあてると、思案しながらゆっくりと話し続ける。 「確信はござらんが、あの男の様子を見るに、相当な自信を持っているでござる。もし確信がなくば、ああも聴衆がいる中で、堂々とあのような戯言を口にできるとは思えぬで候。つまり、あの男が言っていることには、おそらくなにがしかの根拠があるのでござろう」 ペタンは意味深に一度言葉を切ると、私の方を見て言った。 「故に、あの痴女は間違いなく拙者たちのクラスにいるでござる」 ぞくりと、背筋が震える。 まさか、見抜かれている? 「そ、そうかもね」と答えた声が上ずらなかったのが奇跡だった。鼓動が早まり、足が重くなった私に気づかずペタンが先に行ってしまう。 ペタンとは体育の授業などで一緒に着替えたりすることもある。私はうっかりを装って下着まで脱ぐこともあるから、ひょっとしたらあの痴女が私であることに勘付いているのかもしれない。 どうする? ポケットの中でスマートフォンを強く握る。 殺られる前に、殺れ。 先んじて密告することで疑いを差し向けてしまえば。 私の中の悪魔がそう囁いたときだった。 ペタンとの思い出がよみがえり、私の心に語り掛ける。 『真名板殿、最近拙者の胸が大きくなってきた気がするのでござる。だから一緒に新しい『ぶらじゃあ』を買いに行ってはくれぬか? え? 真名板殿の『さいず』は変わっておらぬ? 確かにそのようであるが、拙者一人ではどう探してよいかわからぬのだ。頼む、いつか万に一つの確率で真名板殿の乳房が大きくなる日が来たら、必ず拙者もお祝いする故、どうかこの通りである。そうでなくば、あの殿方との『でえと』に着ていく……ああ、いや、今のは失言でござった』 私は真顔でスマートフォンを取り出し、非通知設定にしてから担任の教師(国語担当 50代男性 小太り)に電話した。 「もしもし。あの痴女かもしれない人を見つけました。はい、今日の夜先生の自宅に誘導しますので、思う存分お調べください」 そう告げて電話を切り、ついで通話履歴も削除する。 「真名板殿? どうしたでござるか?」 「いーえ? ごめんごめん、すぐ行く」 今日が今生の別れよ、ペタン。そう心の中でつぶやき、私はペタンを追いかけた。 二章 < 占い師と騎士 > 殺し合い。そう、これは人狼ゲームと同じなのだ。 何者かの密告によって売られた鶴辺炭は、担任の教師(以下略)に尻を確認されるという屈辱的な制裁を受け精神的に死んだ。取り返しのつかない事態にはならないギリギリのタイミングで警察が踏み込んだはずだが、ペタンの心の傷はしばらく回復しないに違いない。 ついでに、現行犯逮捕された担任の教師(以下略)は、もう二度と学校に来ることはないだろう これで、全てが終わった。そもそも、痴女騒動などそんなに興味を引くような話題でもない。数日もすればみんな忘れるだろう。 そんなことを思っていた時、不意に委員長が前の方で声を張り上げた。 「みなさん、ご注目願います!」 だが誰も彼女の方を見なかった。 私もシカトした。 「え、ちょ、わたし今喋ってるんだけど……」 徐々にトーンダウンしていく。まあ彼女がまた何か面倒くさいことを提案しているのだということをクラス全体が察しているのだ。 クラス替え直後に彼女は個々の用事や事情を鑑みずクラス交流会を企画したり、体育祭前には全体練習をしようなどと言ったりしたので、普通に面倒くさい女なのだ。 「……う、うう、誰でもいいから、話だけでも、聞いてよ……ぐすん」 あー泣いちゃったよ。ほら面倒くさい。 さすがに居たたまれなくなったのか、何人かが優しく委員長の背を叩き、「わかったよ、聞くから。なあに?」と優しく声をかけた。私は誰にも聞こえないように舌打ちした。 「ぐすん。うん、ありがとう。もう大丈夫。わたしから提案したいのは、昨日先生が言っていた痴女の件です。先生方でも動いているそうですが、このクラスの恥はクラスの中でどうにかしたいと思います。そこで」 委員長はでっかい模造紙を黒板に貼り付けた。 説明は無駄に長かったので省略するが、つまりは『わたしが痴女候補の人を観察して、写真の痴女かどうかを判断する、ただし昼休みだけしか時間がないので、一日に一人しかできない』ということらしかった。 この提案に男子たちは、別にどうでもいいよ、という淡泊な反応を装いつつも一部が期待のまなざしを向けていることに私は気づいていた。クズどもめ。 だが、私はこの提案を前にテスト中もかくやという集中力を発揮し始めていた。 クラス内の貧乳の数は限られている。 早期に私だとバレる可能性は高い。 だが、迂闊にやめようとは言えない。女子の雰囲気としては、主にバカな巨乳と普乳の地味女子どもを中心に「勝手にやれば?」という空気を作り出している。この空気の中で「だめだよ! 人権侵害だよ! やめよう!」などと常識を声高に叫べば、空気の読めない女子として仲間外れにされるだけでなく、あいつが痴女なんじゃね? などと疑いの目を向けられかねない。 くそう、こんなことならペタンを昨日差し出すんじゃなかった。 身動きが取れない中で、話は勝手に進んでいた。「じゃあ、今日から早速始めましょう。誰から……」と委員長の目がクラス全体に注がれ、貧乳女子たちが一斉に下を向く。 ごくりと唾を飲み込む。 握った手の中に汗が溜まっていた。 チラリと上目遣いで委員長の動きを追うと、ちょうど目が合ってしまった。 まずい! 「じゃあ、今日はまな――――」 「――――あ、ならウチでええよ?」 天の助けは、私の後ろから聞こえた。 ほんわかエセ関西弁女子、臼井宗子(うすい むねこ)。八重歯が印象的な、関西弁にあこがれるだけの関東人女子だ。 「みんなも嫌やろし、ウチあんまりいいんちょと話したことないしなあ、これを機に仲良うなれるかもしれへんし」 「臼井さん……!」 委員長が感涙している。まあ普段から不遇な扱いを受けているからなあ。いじめられているわけじゃないんだけど。多分提案受けてくれたことより、仲良くなりたい発言の方に感動しているねあれは。 そんなこんなで、ひとまず窮地は脱した。手にかいた汗をハンカチで拭い、だがまだ安心できないぞと自分に言い聞かせる。 これが続けば、いずれ必ず自分まで回ってくる。 殺られる前に、殺れ。 だが、担任の教師(以下略)はもう死んだ。同じ手は使えん。 だとすれば……。 良い子のチャイムが鳴り、だいぶ日が傾いたころ。 私は黒色のジャージに着替え、公園の茂みでじっと息を潜めている。顔を見られないようフルフェイスのヘルメットを被っていて、正直暑苦しい。 委員長の痴女検査をすり抜けるのは不可能、いずれ必ず、早ければ明日にも彼女の魔の手が私に襲い掛かる。そうなる前に、彼女の痴女検査を止めなければならない。 委員長は塾帰りに必ずこの公園を突っ切る。そしてこの公園には街灯が少なく、死角になる場所が多い、まさに痴女痴漢にとっての絶好スポットなのだ。私もよく利用している。 作戦はこうだ。 夕暮れの公園をふらふらと歩いてくる委員長に後ろから襲い掛かり、彼女の体操服を奪取。体育用のハーフパンツと下ジャージをブルマと入れ替え、痴女検査を中止しなければ明日からずっとブルマで体育に参加することになると脅迫する。 これは常人女子には耐えがたい恥辱だろう。かつて全女子学生がそうしていた時代があったというが、まさしくどうかしているとしか言いようがない。その時代に生まれたかった。 いや、一人だけブルマだからこその羞恥があるのか? 露出道に本気で迷い始めたとき、足音が近づきつつあることに気づいて身を屈める。 痴漢か? 違う、委員長だ! うつ向きがちな委員長が間合いに入ってきたとみて、私は茂みから飛び出す。 「トリックオアトリック(とにかくいたずらさせろ)!」 そう叫びながら飛び出し、襲い掛かる。 「え!? きゃあ!」 悲鳴だけ上げて逃げようともしない彼女につかみかかり、怪我しない程度に押し倒すところまではできた。よし、このまま彼女の鞄からハーフパンツと下ジャージを取り上げてブルマを入れれば―――― 瞬間、背後に殺意を感じた。 咄嗟に前方に飛びのいた直後、さっきまで私がいた場所に何かが一閃する。 前方に前回り受け身してすぐさま体制を立て直すと。そこには同年代らしい少女が一人。 顔を確かめたいが、暗くてよく見えない。だが立ち姿は威勢よく、一切の隙を感じさせない。 委員長が乱入者の背後に隠れる。委員長を庇うように立つ乱入者が何者かわからない以上、これ以上の深追いは危険だ。 「……撤退!」 言うが早いか、くるりと身を翻して公園から脱出。委員長を一人にしないためか、乱入者が私を追いかけてくることはなかった。 ひとまず危機は脱したが、何の成果も得られませんでしたなことは事実。 公園からずっと離れた駅のそばで、背後に追いかけてくる人がいないことを確認してからようやく足を止め、歩きながら息を整える。さすがに目立つので、ヘルメットは途中で脱いだ。 もう真っ暗になった空を眺めながら、大きくため息をつく。 明日、どうしよう……。 社会的死を間近に感じ、少し濡れた。 三章 < 狂人 > 四時間目の授業が終わり、三々五々集まって昼食の時間になった。 さっさと学食に移動して痴女検査から回避してしまえばいいと考えた私は、誰よりも早く席を立ち教室を飛び出そうとしたが。 「ちゅーもっく! してください!」 それよりも早く委員長が動き出し、クラスに問いかける。 もちろん今日も誰一人聞いてなかった。 私も無視して出ていけばよかったのに、つい足を止めてしまった。 幾分涙目になりながらも、委員長が続ける。クラスも諦めたように少しだけ耳を傾けた。 「あの、ですね、今日も、昨日の続きをしたいと思います」 く、まずい。 こっそりクラス一番の太っちょの後ろに隠れたとはいえ、誰よりも早く動いていたため、かえって目立つことになってしまった。ただでさえ貧乳しか選ばれないというのに。 私の焦燥に気づく素振りもなく、委員長は太っちょの影に隠れた私へと視線を向ける。 彼女が口を開きかけた、その時だった。 「あ、いいんちょ、ウチも手伝うで!」 関西弁少女が手を挙げる。昨日痴女検査を受けた臼井宗子だ。 「いいんちょ一人でやるより、二人で手分けしたほうが早いやろ! な!?」 思わぬ提案に委員長がたじろぎつつも、「う、うん、じゃあ、お願いします」と認めてしまう。馬鹿な、二人同時だと!? 驚愕する間もなく、臼井宗子が私の背後に回っていた。 「ほな、ウチは真名板ちゃんを調べるわ。ええやろ? 女の子同士やし」 パチリとウインクしてみせる臼井宗子に、「そ、そうね、お願いしようかな」と答えるのが精いっぱいだった。 臼井宗子と一緒に空き教室に移動した私は、もはや覚悟を決めるほかなかった。 「ま、先にご飯でも食べとこか。真名板ちゃん弁当もってきとる?」 臼井宗子に聞かれ、「今日は学食の予定だったから」とだけ答える。 「あちゃー、せやったか、ほなウチのごはん少し分けたげるよ。そんで足りんかったら購買いかへん?」 く、なぶり殺しか。やるならいっそ一思いにやってほしいのに。興奮するじゃないの。 もはや覚悟は決めている。ふんと息を一つ吐き、私はスカートを脱いだ。 「――――ああ、別に脱がへんでええよ。というか、調べる気もあらへんし」 思わぬ言葉が、頭上から降り注いだ。 「どういう意味? だって調べるためにって」 「あの写真の痴女、真名板ちゃんやろ?」 ドクン、と心臓が跳ね上がった。 「ウチは真名板ちゃんの間後ろの席やからなー。昨日いいんちょが検査するって言った時も、一昨日の写真が張り出されたときも、動揺してんのバレバレやったよー」 「……何が目的? 体? それとも体?」 「そこお金ちゃうん? いや体でもないけど」 臼井宗子は弁当箱からおにぎりを取り出すと、手を消毒してから頬張った。 よく噛んで飲み込んでから喋る。 「ウチはね、真名板ちゃんが羨ましゅうなったんよ」 「羨ましい?」 「誰がいるかもわからん山ん中で、裸になって走り回る。ウチにはそんなことできひんし、考えたこともあらへん。多分一生できひんやろしな。する勇気ないもん、ウチには」 もしゃもしゃとおにぎりを食べながら、彼女は続けた。 「だから、あの写真出て真名板ちゃんなのかなって思った時、助けてやらなって思ったんよ。ウチにできんことができる真名板ちゃんが、望まない形で辛い思いをすることになったら、ウチは見過ごせんと思った」 だから、庇ってくれたのか。 同じ貧乳同士で、シンパシー的なものもあるのか。それはわからない。 だが、初めて味方を得たことに強く感動していた。 「ところで、一つ聞いてええ?」 「ええ、なに?」 「……なんで今脱いでるん?」 「え?」 「え?」 脱がなくていいってことは脱いでも良いってことじゃないの? よくわからないが、とりあえず足首に絡んでいたパンツを引き戻す。 「うん、まあ、何でもええけど。要するに、ウチは真名板ちゃんをどうこうするつもりはないいうことやから」 小さくなったおにぎりを飲み込んで、ぺろりと舌を出す。 「ま、後はウチが真名板ちゃん全然ちゃうかったよー、て言えば、それで終いやろ」 確かに、臼井宗子の言っていることは間違いではない。 手分けして探したほうが早い、そして彼女が嘘をつく理由もない。なんの疑問も持たれることなく終わるだろう。 ……なのに、なんだろう、この胸の違和感。 何か、何か見過ごしているような気がする。何か忘れているような。 それに、委員長を守ったあの騎士のような女子の存在も気になる。 もう大丈夫になるはずなのに、私の胸の中のモヤモヤはなかなか晴れなかった。 四章 < 人狼と市民 > 「えーっと、例の少女に関してですが、一回の検査ではわからなかったので、もう一回やっていこうと思います!」 黒板の前で、委員長がキラキラした瞳でそんなことを言った。 委員長と臼井宗子の痴女検査によって、候補に挙がった貧乳はみな調べ終わり、全員違うと結論が出た後だった。私以外の女子は明らかに筋肉質だったり、蒙古斑があったり、開発済みだったりと完全に別人だと証明されたらしい。 おそらく先生の勘違いか捏造か妄想だろうということで落ち着いただけに、クラスメイトの視線は冷たい。 だが、珍しく委員長は負けずに踏ん張って言った。 「やっぱりクラスに痴女がいる、っていうのは評判悪いですし、ひょっとしたら見過ごしちゃったとか、そういうこともあると思います! だから、二重に調べたほうが正確だと思うんですよね! 申し訳ないんですがもう一回、明日からまた調べたいと思います!」 しねくそあま普乳。 聞こえないように呪詛を吐き、後ろの宗子とアイコンタクトを取る。 まずいね、とばかりに宗子も眉をひそめていた。 「みんなも大変だと思うし辛いと思うけど、こういうことはハッキリさせておいた方が良いと思うんです! だから、もう少しだけご協力、よろしくお願いします!」 そう言って90度頭を下げられると、無下にはできないのが人情なのか、クラスメイトのほとんどが「まあ、そういうことなら」と曖昧に納得した。まあ影響があるのは貧乳だけだからな。マイノリティに冷たい社会の縮図だよチクショウ。 委員長の話が終わると、三々五々席を立つ。 「ムネ、一緒に帰ろ」 言葉とは裏腹に真剣なイントネーションに、臼井宗子も「せやな」と応じて立ち上がった。 明日になったらもう間に合わない。今日やるしかない。 以前に行った公園、そこでもう一度委員長を待ち伏せる。 「いい、ムネ。作戦はこうよ」 委員長の体操着を奪い、代わりにブルマを仕込んで脅迫するという点は前回と変わらない。委員長の運動能力は並以下、問題はない。 ただし、前回と同じようにもう一人いるとまずい。 そこで、臼井宗子の出番となる。 「でもウチ、ハッキリ言って運動音痴やで? 真名板ちゃんが勝てん相手をどうこうできると思えんけど」 「それでいいのよ」 まず臼井宗子が委員長に襲い掛かる、そこへ謎の女子高生が宗子に立ちふさがるだろう。 その隙をついて私が委員長を襲い、ブルマを仕込む。 仮に臼井宗子が捕まったとしても、委員長は臼井宗子があの痴女でないことを自分で確認している。ちょっと驚かそうとしただけ、とでもしらを切れば十分言い逃れできる。 作戦を互いに確認し、茂みに隠れたところで、暗い公園に誰かが来た。 露出狂か? 違う、委員長だ! 臼井宗子と頷き合い、隠れる場所を変える。 ジジ、と街灯が点滅したとき。 宗子が動いた! 「ねーうしとらうータッチミー!」 おお、なんという美しい掛け声! 今度使おう! 宗子が委員長に襲い掛かる。一瞬ひるんだ委員長の前に、やはり何者かが立ちふさがった。 宗子にタックルしてお互いにもんどりうって倒れこむ。 このときを待っていた! 私は反対側の茂みから飛び出し、立ち尽くす委員長に後ろから襲い掛かる。宗子にタックルして倒れこんだ何者かはすぐには起き上がれない。 もらった。 ――――そう思った、そのとき。 「やはりお主か。真名板殿」 「え」 掴みかかろうとした手が宙を滑り、ふわりと体が空を舞う。 景色が一回転したと思った刹那、砂の上へと背中から叩きつけられた。 一瞬息が止まる間に、がっちりと抑え込まれてしまう。 馬鹿な、あの愚鈍な委員長にこれほどの戦闘力があるはずがない。 いや、そもそも、あの武士臭い喋り方は……。 「あ、あなたは、まさか……ペタン!?」 「その通りでござる。お主に売られ、貞操の危機をかろうじて切り抜けた鶴辺炭でござる」 「バカな、あなたは(社会的に)死んだはず」 「しかり。だが拙者は死ななかった。拙者を、親友を売ったお主に復讐するために!」 く、なんてこった。委員長を守っていたのがよりによって運動神経抜群のペタンだったとは。 しかも、宗子を囮に使う作戦も見抜かれていた。ペタンは最初から、自分が委員長であると見せかけることで、本命の私の襲撃を誘ったのだ。 「さあ観念しなさい真名板詠歌。そして自分が痴女だと認め、自首して社会的に死になさい」 宗子も委員長に抑え込まれている。このマッチアップはどう考えても最悪だ。 「真名板さん、気の迷いなんて誰でもありますよ、だからもう認めて?」 終わり……なのか。宗子も俯いてしまっていた。 絶望が脳裏を過ぎていく。 ……いや、まだだ。 何かおかしい。 あの黒板に張り出された写真を見たときから感じていた、違和感。 ここに至るまでの、一連の流れ。 そして私は、秘められていた一つの『矛盾』に気が付く。 「私は……諦めない」 「お主にもう勝ち目はないで候。おとなしく投降するでござる。お主と拙者のよしみ、悪いようにはせぬ。委員長殿もそう申しておる」 私の上で、ペタンが勝ち誇る。だから私は、あえて言ってやった。 「わかってないわね、ペタン」 「何をでござる」 「露出ってのはね……、着てなきゃ脱げないのよ!」 何言ってんだこいつ? みたいな空気が広がったその一瞬。 私は脱いだ。 下着を除くすべての衣服を一瞬で脱ぎ去る、かの有名な怪盗三世が得意とした技。その勢いでペタンの拘束も抜けだすと、一目散に委員長へと襲い掛かる。 不意を突かれた委員長に襲い掛かるのは容易く、態勢を立て直したペタンが助けに入るより早く委員長を羽交い締めにして「動くな!」と牽制する。 「動かないでペタン、動けばこの場で委員長のパンツをずり下ろす!」 すでに裸足になった指がスカートの中のパンツのひもに引っかかっている。足を下ろすだけで、夜の公園にノーパンJKの誕生だ。羨ましい代わりたい。 女子としての恥辱を知っているからか、ペタンの足が止まる。 かわって、委員長が説得に動いた。 「真名板さん、落ち着いて。そんなことをしても事態は解決しないわ、むしろ悪化するだけ。おとなしく罪を認めて。わたしはあなたが憎くてこんなことをしているのではないの」 「それはそうでしょうね、委員長」 思っていた答えと違ったのか、委員長は「え?」と戸惑う。 「そもそも、私はあの写真を見たときから何かおかしいと思っていた。先入観に囚われていたのね。あんなことをするのは私だけだろうと。だから気づかなかった、あれが私ではないことに!」 「片腹痛し! あのようなはしたない所業、お主以外のいったい誰がするというのでござる!」 ペタンが口を挟むが、ひと睨みして黙らせる。 「そうね、私も最初はそう思っていた、だから勝手にそうだと思ってしまった。でもよく考えたら最近は山の方に行ってなかったし。なにより私なら、むしろ見せつける!」 「「「……は?」」」 「顔を隠して乳尻丸出し、それが真の露出道よ!」 ふんと鼻息と荒く断言する。 私の勢いに気圧されたのか、ペタンも委員長も言葉を失っていた。 「そして、じゃあ私でないならあれは誰なのか? そもそも、なぜあのようなクラスの恥部をさらけ出すような出来事を、『解決』と言い訳して引きずっていたのか?」 背中越しに委員長の顔を覗き見る。そこには、確かに脅えが見えた。 「理由は簡単よ。あの写真を、ただの誰でもない痴女のままで終わらせるわけにはいかなかったから。何故なら!」 パンツにかけていた足を外し、代わりに彼女の上着に手を突っ込む。「ちょ、やめ!」と嫌がるより早く、私は上着の内側に手を突っ込み、下着ごとまくり上げた―――― ふわりと宙に舞い、やさしく地に落ちたのは。 すっっっごい上げて寄せることで有名なブラジャーと。 三枚重ねのパッドだった。 「やっぱりね」 それらを見下ろして、私は言った。 「これこそがこの事件の真相よ。このままあの写真が残れば、いつか自分が普乳を偽っていることがばれてしまうかもしれない。だからどうしても別の痴女を仕立て上げる必要があった。そうでしょう委員長。……いえ、胸平凹美(むねたいら へこみ)!」 委員長こと、胸平凹美はがっくりと項垂れる。 誰も喋らない沈黙の数舜の後、彼女はゆっくりと着衣を直すと、「だって、仕方ないじゃない」と弱々しく語り始めた。 「一生懸命頑張っているのに、誰も聞いてくれない。少し胸と見栄を張っただけで、別に悪いことをしているわけじゃないわ。ただ、ストレスが溜まった時に、ちょっとやってみただけ。まさかあんなところに先生がいるなんて思わないじゃない」 まあ悪いのは、覗きに行って盗撮した担任の(以下略)だろうな。 「もし私が痴女で、おまけに胸まで嘘ついているなんて知られたら、今度こそ本当に私のことなんて誰も見てくれなくなる。だから、どうにかしなきゃって思って、それで」 「いいのよ、もういいの」 私は胸平凹美の肩を叩き、優しく応じる。 「ただ、痴女検査をもうやめて、あれはやっぱり先生の妄想でしたって宣言してくれればいいの」 「真名板さん……ッ!」 「あと、ちょっとした罰ゲームを受けてくれればいいの」 「え?」 「ああ、これペタンも宗子も同罪よ。あぶない水着、みんなで着れば怖くないの理屈よ」 「どういう理屈やねん」 「せ、拙者は関係ないでござる! そもそも、真名板殿が痴女であることは事実で候!」 宗子とペタンが反論するが、私の耳に念仏だ。 「ば、罰ゲームって……?」 恐る恐る、胸平が聞いてくる。「決まっているわ」と、私は高らかに宣言した。 「ブルマよ」 エピローグ 「ね、ねえ、本当にするの?」 胸平が、もじもじしながら言った。 「や、やはり拙者は関係ないでござる。今からでも着替えてくるでござるっ」 「もう遅いで。さっき真名板ちゃんに言われてウチが全員分の下ジャージとハーフパンツ男子トイレに隠したさかい」 「何してくれているでござるか!?」 ペタンと宗子の会話に、「そうよそうよ」と私が割り込む。 「私なんか楽しみにし過ぎて、帰りに履くパンツ忘れてきちゃったんだから」 「ブルマはパンツの上から履くものよ!」 胸平が叫ぶが、もう後の祭りである。すでに始業のチャイムは鳴った。そろそろ体育教師がグラウンドに現れる。 せっかく偽乳のことは黙っていてあげたのだ。このくらいの罰ゲーム的ご褒美は受け入れてほしいものだが。 「はいはい、もう言い訳は十分でしょ」 ぐっと肩を押し出し、グラウンドへ促す。 「さあ行きましょう、ブルマはいつだって私たちを受け入れる」 「意味がわからぬでござる!」 「ま、まあ、ウチはまんざらでもないけどな?」 「わたしは真名板さんに強制されたからであって、べ、別に自分の意志ではないので」 「変態二人がいつの間にか乗り気になっているでござる! 拙者、完全に巻き込まれたでござるっ!」 「さあ、グラウンドに向かって走り出すのよ! みんな!」 ――――こうして、苦難を共に乗り越え、争いの末に強い絆を得た四人は、明日へと向かって走り出したのだった。 ブルマで。 |
燕小太郎 2021年12月31日 20時54分00秒 公開 ■この作品の著作権は 燕小太郎 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2022年01月26日 05時34分27秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時32分54秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時28分27秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時26分47秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時26分01秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時25分19秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時24分42秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時24分05秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時23分13秒 | |||
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Re: | 2022年01月26日 05時21分51秒 | |||
合計 | 12人 | 230点 |
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