南雲青子は屋上にいる |
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「――――私ってさ、結局なんだったんだろうね?」 高いところが好きなのは、馬鹿となんだったかな。 そんなことを、学校の屋上に上がってすぐに思った。フェンスの上側に腰掛け外を眺める豪胆な少女の背中を見つけ、「よお」と声をかける。 少女はこちらを振り返ると、ぱあっと笑顔を浮かべて大きく手を振ってきた。 「芽吹くーん! 今日は遅かったね」 「日直だ。相棒が忘れてったせいで二人分働いてきた」 眉をひそめて言い返す。「別に私が悪いわけじゃないでしょ、睨まないでよ」と反論されればその通りなのだが、そうですねと素直に受け入れきれない事情があった。 この南雲青子は、幽霊である。 風に揺れる彼女のスカートからは、本来あるべきすらりと伸びた足がない。引き締まっていて細すぎず、健康的でいながら色気さえ感じさせる、思い出すだけでご飯二杯は固い最高の美脚がそこにあるはずなのだが、残念ながら見当たらなかった。国宝級の損失だ。家で何度泣いたことか。 まあ俺のフェチズムは置いといて、足がないから幽霊だ、というのも暴論かもしれないが。 「なんか私ここから動けないっぽいし、幽霊ってことでいいんじゃない?」 本人が認めているので、とりあえずそういうことになっていた。 「まっそりゃね? 私だって本当は成仏したほうがいーのかなって思うことはありますよ? でもさ、実際じゃあどうしろって話でさ。誰かに迷惑かけたわけでもないし」 そう言って、上から俺を覗き込む。彼女が見えるのは俺一人だから、迷惑を被ることがあるとすれば俺だけだ。 そして俺は、彼女といることを嫌だと思ったことは一度もない。 「そうだな。俺も青子といると楽しいよ」 「え? えへへ。そう?」 でれでれと頬が緩んだ。少しからかって拗ねたり怒ったりするのも見てみたかったが、これはこれで可愛いので良しとしよう。 感情を抑えきれないのか、フェンスから両手を離して身もだえしていた。フェンス上でやるには危険な動作に見えたが、幽霊に言ってもシャレにしかならない。 話がひと段落する。さて今日はどんな話題を振ろうかなと考えたとき。 「――――あっ、やっぱりここにいた! ごめーん伊藤くん! 日直のことすっっっかり忘れてた!」 パーンと空気を弾くような快活な声が響く。次いで目に入ったのは、膝上のスカートからすらりと伸びた足。思わず奪われた目を慌てて引き起こすと、彼女――南雲青子は息を切らせながら、本当に申し訳なさそうに再び頭を下げた。 「いやー、先輩から呼び出し入っちゃってさ、したらもう急ぐしかないじゃん? で、そういえば日直だったーって気づいて慌てて教室戻ったら伊藤くんもういなくて、全部やってくれたって聞いたからさ。謝らなきゃーっとお礼言わなきゃーって思って探してさ、多分屋上かなって」 わざわざ礼と詫びのために走ってきてくれたのか。 嬉しい気持ちはあったが、そこまでされるようなことはしていない。むしろ申し訳なさの方が先に立つ。 「いやいいよ、俺が南雲さんに声をかけとけばこうはならなかったんだし」 「おっ優しいコメント、感謝感謝。でも本当にごめんね、あとありがと。じゃ、まだ先輩の用が済んでないんだ。あ、埋め合わせはいずれ必ず。じゃね!」 そう言って慌ただしく去っていく南雲青子を見送った後、フェンスの上で神妙な顔をしている南雲青子を振り返る。 「足がある私は、よく走るわね」 「そういう問題か」 彼女のつぶやきにツッコミを入れつつ、やれやれとフェンスに寄り掛かる。 南雲青子が幽霊であることに、現状大きな問題はない。 ただ唯一憂慮すべき点があるとすれば、それは南雲青子が生きているということだ。 「私ってさ、結局何なんだろうね?」 眼下のグラウンドでは、ある者はダルそうに、ある者は真剣にボールを追いかけている。なんとなく気が乗らなくてエスケープした授業を屋上から眺めながら、「さあね」とこともなげに応じた。 「幽霊でしょ」 「でも生きてるじゃん、オリジナル」 「じゃあ生霊」 「動いてるじゃん、オリジナル」 「じゃああれだ、ドッペルゲンガー」 「自分と同じ姿をしていて、見ると死んじゃうってやつ? でも私、オリジナルには映らないみたいだよ?」 「なら、生き別れの双子」 「……そんなの聞いたことないけど」 呆れたように俺を見下してから、「ワンチャンさ」と声のトーンを上げた。 「宇宙人説ないかな? 本物の私を殺して、私の振りして世界を滅ぼそうとしてる」 「ないない。だったら総理大臣にでも化けてる。だいたい、あっちの南雲青子もこっちの青子も本物だよ、両方をいつも見てた俺が言うんだから間違いない」 「……ふーん」 意味ありげな声に、ふと墓穴を掘ったかと思い至る。 「よく見てる、ねえ……どっちを?」 「どっちをって……どっちもだよ」 「どちらかといえば」 ぬっと顔を近づけてきた。意外と綺麗な唇してるなあ、と場違いな感想を咄嗟に飲み込み、「さあ、わかんね」と明後日の方を向いて誤魔化す。 「だめ、こっち向いて」 ぐいと首を掴まれ、無理やり正面を向かされた。 触れるんだ、と。ここで幽霊の南雲青子と一緒に居るようになってから一か月以上経って初めて気づいた。 まじまじと青子が俺を見つめる。少し浮いているからか、俺が見上げる形になっていた。 明るくてよく笑う彼女の瞳が、不意に不安げに揺れる。 それを見たとき、俺は無意識に口を開いていた。 「……デートしようか」 驚き、困惑、疑念、ころころと変わる青子の表情を眺めながら、ああこれは俺の本音なんだなと理解した。 「どうやって? 私、ここから動けないんだよ? ディズニーランドも行けないし、『鬼滅の刃』も観に行けない」 「どこかに行くだけがデートじゃない。いつもと違うところで、違うことを二人で楽しむからデートなんだ」 「どこにも行けないのに?」 「どこにも行けないなら」 今思いついたばかりの思いつきを口にすると、青子はぽかんと口を開けた。 やがて、口元を抑えてひくひくと震え、ついには大声で笑いだす。 つられて俺も、笑った。 傍から見る人がいれば、一人で大笑いする俺がさぞ滑稽に映ったことだろう。 どうしてこう、夜の学校というのはいちいち怖いのだろう。 いつもは誰かしらの気配がするはずの廊下は妙に静かで、でも何かの気配を感じるような気がする。侵入する前に、外のコンビニでトイレを済ませておいて本当に良かった。 どうにか屋上に到達し、両の足で床を踏みしめほっと息をついてから、「おーい」と控えめに声をかけた。 暗いせいか、周囲に人の姿は見えない。いつもなら屋上のドアから真っすぐのところで、フェンスに上ってぼーっと外を見ているはずなのに。 いない? 幽霊のくせに夜になるといなくなるのか? ひょっとして無駄足? そんな不安を振り払うように、もう一度、少し声を大きくして声をかける。 「おーい、青子ー? 来たぞー」 瞬間、目の前の空間がぐにゃりと曲がった。「うおっ!?」と飛び上がると、ひしゃげた空間は徐々に人の形をとり、すぐに見慣れた足のない南雲青子が現れる。 「本当に来たんだ」 「来るって言ったろ……ああビックリした」 ほんと、トイレ先に行っといて良かったわ。 ぎこちない会話の後、いつものフェンス際に場所を移して外を見る。 やはり夜の景色は、昼とは大きく違った。そもそも、下の方は暗くてよく見えない。季節の花を咲かせる花壇も、暗闇に埋もれたままだ。 その代わり、町々の明かりが遠くまで広がりいつもと異なる印象を与える。暗くなってから下校することはあるが、真夜中に高い屋上から見下ろすと美しい風景として映るようだった。 そして、見上げれば。 「今日は良い天気だったからな。星も見える」 「うん、本当だ」 星々が、かすかな光を放っていた。嘆息が白くなって夜空に溶ける。冷たくなった手をジャンパーに突っ込み、聞いてみる。 「星座、わかる?」 「全然」 「俺も」 使えねー、と二人でくすくす笑いあう。簡単に訪れたいつもの二人の時間にほっとしながら、俺はフェンスに背中を預ける。青子はふわりと浮いてフェンスに腰掛け、いつもの配置になった。 「私さ、夜の屋上って初めて」 「そうなのか? 動けないのに?」 「うん、感覚的には、『寝てる』って感じなのかな。夜の学校に一人でいても寂しいし、居たいときに居て、暗くなったら消える感じ。だから、さっき呼び出されたときに、自分でもこういう風に出てくるんだってちょっと驚いた」 幽霊に睡眠の必要性があるのかわからないが、動けもしないのにコンビニよろしく二十四時間動いていてはさぞ退屈だろう。 「なあ青子」 「なに?」 「幽霊ってさ、飲んだり食べたりするの?」 彼女はうーん、と首を傾げ。 「わかんない。ただ、あんまり食欲とかそういうのないかな」 「寒いとか熱いとかは?」 「ないと思う。なんで?」 「いや、ちょっと気になったから」 そう言って目線を落とす。ジャンバーの両ポケットに入ったままのホットの缶コーヒーで両手を温めながら。 いつもは賑やかな学校は、文字通り眠っているようだった。学校の外の音も、今は聞こえない。聞こえてくるのは冷たい北風の音と、遠くから届くかすかな車の音くらい。 青子の息遣いが聞こえてくるくらい、いつもよりも近くにいるように感じた。 「……天に星」 小さな声で、青子がそっと呟いた。 「え、なに?」 「天に星、地に花。そして人に愛。昔、何かで見た誰かの言葉」 「何かで見た誰かって」 また曖昧な、と頬を引きつらせる。 でもまあ、どこ誰だかわからないが、良いことを言うなとは思った。 「綺麗な星空、綺麗な花壇。良い景色だよ、来てよかった」 「うん、本当に」 惜しむらくは、花壇が暗くて見えないことか。ライトの一つもあれば、贅沢を言えばイルミネーションでもあれば最高だったが、それでは星空の良さが半減するかもしれない。 「天に星、地に花。人に愛。どういう意味なんだろうね」 「さあ。よく考えれば当たり前のことを言っているだけだしな」 そりゃあ天に咲く花があれば非常識な植物だし、地に星が降れば大惨事。人に愛だって普通のことだ。 当たり前のこと。 「当たり前のことが、幸せだってことじゃないか。俺は……」 今から口にすることがどうにも小恥ずかしいことに気づいて、思わず目をそらす。 「……俺は、こうして当たり前に青子といられる屋上の時間が幸せだと思うよ」 返事は、なかった。あれ、と思って振り返ると、青子は違う方を向いている。 「青子?」 「え、あ、ごめん、考え事してて聞いてなかった。なに?」 「んが……ああ、いい、何でもない」 くそう、無駄に心臓がバクついただけだった。 恨みがましく睨みつけるが、ライトもついていない屋上では青子の姿もよく見えない。まるで夜空に溶け込んだように、黒く判然としなかった。いや、よく見えないというよりも、むしろ……。 透けている? いやいや、そんな。ぶんぶんと首を振り、変な予感を振り払う。そもそも彼女は幽霊で、少しばかり透けていたっておかしくない。 「ねえ、芽吹くん」 ふと、頭上から声が降ってくる。 「私も、幸せだよ。こうして、当たり前に君といられる、この屋上の時間」 闇夜に隠れてよく見えないが、彼女はこちらを見ながら笑っているようだった。 というか、私『も』? 聞こえてたのか、と気づいたときには怒りからか恥ずかしさからか、ボッと顔の温度が数度上がった気がして、ますます彼女を見られなくなる。 そんな俺をからかうように、彼女はふわりとフェンスから降りた。 俺のすぐそばに、彼女が立つ。足はないけれど。 いつもフェンスの上にいるから、同じ目線で見つめあうのは新鮮で、どこか違和感があった。 「私ね、わかるんだ。もうすぐ消えるの」 「え」 間近に見つめて、ようやく彼女の表情が伺えた。 楽しんでいるようにも、寂しがっているようにも。悲しんでいるようにも見えて。 ぎゅっと胸の内が締め付けられる。 「私ってさ、結局なんだったんだろうね?」 ポケットの中のホットコーヒーは、もうすっかり冷たくなっていた。 気づけばずいぶん長いこと話し込んでいた。 空腹も喉も乾きも忘れて、息の合った漫才のような会話を交わし、たまに訪れる沈黙すらも愛おしく感じられる。 ほんの少しの、焦りを感じながら。 「あー……そろそろ、日の出だね」 「ああ。そうだな」 再びフェンスの上に腰掛けた青子と一緒に、明るくなりつつある地平線を眺めてみる。一日の始まりを告げる太陽が、どこか終わりを感じさせた。 「あーあ、変な感じ。私って不思議」 「ほんとだよな」 「ね、芽吹くん、絶対突き止めてよね、私の正体。こじつけでもいいからさ」 「幽霊だろ」 「そうかもしれないけど、なんかもうちょっと納得いく感じの。生きてる人の幽霊とか変じゃん」 幽霊であることは変ではないのかなと、よくわからない彼女の価値基準がおかしくて口元が緩む。 多分きっと、幽霊の南雲青子と会うのはこれが最後になるのだと、そんな予感がした。 だけどあまり悲しいと感じないのは、やはり本物の南雲青子がいるからだろうか。うまく表現できないけれど、彼女との別れは別れであって別れではない、そんな気がする。 「青子は消えるわけじゃない」 「どういうこと?」 「青子といた時間はなくならないし、これからも一緒に居られる。そんな気がする」 「……ふーん」 いささか不満げに唇を尖らせた青子だが、反論はないようだった。また外に目を向け、徐々に見えるようになってきた花壇と、薄くなった星空の名残、そして頭を出し始めた太陽を順々に見つめていく。 「天に星、地に花、人に愛。今が一番、全部ある時だね」 「ああ」 当たり前にあるもの。だけど、時に見え難くなるもの。 だからこそ、ハッキリさせておくのは良いことだ。 「好きだよ、青子」 「……私も」 俺は彼女を見上げながら。 彼女は俺を見下ろしながら。 二ヒヒ、と変な笑いを浮かべて告白しあう。 やがて彼女は陽光に溶け始めていき。 さようならではない挨拶を交わす。 「またな」 「うん、また」 最後の言葉を交わして、彼女は消えた。 学校の屋上はこんなに広くて寂しかったのかと、ふと周りを見渡して思った。 学校の屋上に、足のない南雲青子が現れることはなくなった。 そうだと確信が持てるまでに約一週間通いつめ、俺は一つ大きな決意を固めていた。 授業終わりの合図とともに席を立つ。目指すは、すでに何人かの友達に囲まれた南雲青子の席。 「青子」 彼女の背中にそう声をかけると、「はひっ!?」と弾かれたように振り返った。 「少し話したいことがあるんだけど、いいかな?」 「……う、うん、いいけど」 少し顔を赤くした青子が頷くと、友達らに断りを入れて立ち上がる。連れだって歩き出した俺と青子を見送りながら、きゃっきゃと騒ぎ出した友達らに、もう少し誘い方を考えるべきだったかなと後悔したが、もう遅い。 「屋上でいいかな」 「う、うん」 いつも朗らかな青子にしては、まるで借りてきた猫のようだった。訝しく思いつつも、屋上につくといつもの場所に陣取った。 俺はフェンスに背中を預けるように。青子は当然ながら、フェンスに上って腰掛けようとはせず、俺と向かい合うように立つ。 「……どうかした?」 もじもじしている青子がどうにも気になり、まずそっちを先に聞く。 「いや、そのう……急に下の名前で呼ばれたのでね、ちょっと。あ、いや、嫌なわけではないよ? ただちょっと、伊藤君ってば意外と大胆ね? みたいな?」 言われてから、そういえば『青子』呼びは屋上でしか使っていなかったことを思い出す。教室で、本物の青子と話すときは『南雲さん』呼びで、屋上で話すようになって使い分けていたのだった。 「ごめん。変えたほうがいいかな」 「やー、やー、い、良いんじゃないかな? あ、私も芽吹くん呼びでOKでよければ」 「そっちの方が慣れてるから、そうしてもらえると嬉しい」 「慣れてる?」 彼女の首をかしげる仕草は、幽霊の青子とそっくりだった。 やっぱり屋上にいた青子は、目の前の南雲青子と同じなのだと思う。 だからこそ、きちんと伝えておきたかった。 「話したいことっていうのが、それでさ。この屋上にいた、君にそっくりな幽霊の話」 クエスチョンマークを頭に三つくらいつけた青子に、俺はできる限りわかりやすく説明した。例え頭のおかしい人認定されたとしても、きちんと伝えておくべきだと思ったからだ。 「あー、それは私だね」 俺の心配をよそに、青子はあっさりと屋上の青子を受け入れた。 「疑わないのか? 嘘だって」 「嘘なの?」 「嘘じゃないけど」 「じゃあそうなんでしょ。なんとなく、わかるし」 何がわかるのだろう。彼女の視線は、やっぱり外に向いていた。 「芽吹くんはさ、よく屋上に行くでしょ? お昼休みとか、放課後とか」 「ああ。よく知ってるね」 「見てたから。一人ですーっと教室出ていくのとか。なんとなく気になってついてったら、屋上で。何してるのかなーって不思議に思ってて」 見られてたのか。なんだか小恥ずかしくなり、つい目を伏せる。 「だから、私は私の中に『芽吹くんと話してみたい私』っていうのがいて、きっとそれがその幽霊の私だったんだよ」 「どういうこと?」 「私は、っていうか皆もそうだと思うけど、私は私の中にたくさんの私を持ってる。朝起きるのが辛い私、友達と楽しく話すのが好きな私、数学がわからない私、漠然とした未来に不安な私。そういういっぱいの私で私ができていて、その中の一つに芽吹くんと話をしたい私がいる」 ふわりと風が屋上を走る。軽やかに揺れるスカートから、健康的でありながら色気を感じさせる両足がすらりと伸びる。 「だから、きっとその私は、私。今も、私の中にいる」 「……そっか」 消えてしまったんじゃないかと、どこか不安に思っていた。 そんな俺を察していたかのように、彼女は俺が一番言ってほしいことを言ってくれた。 「……天に星、地に花。人に愛」 そっと呟くと、「ああ、それ知ってる」と青子が反応する。 「誰かが言ってたなんかのやつ」 「君から聞いたんだけどね」 くっくと笑ってから、俺はポケットに入れてあった缶コーヒーを取り出す。 「これ、あげる」 「どうも。うわ、ぬるい、何このコーヒー」 「一週間前に買ったやつだから」 「なんでー?」 蓋を開けて、一口すする。どちらかといえば冷たくすらある『元』ホットコーヒーを流し込み、「一緒に飲みたかったから」とだけ答えた。 「変なの……まあいいけど」 特に引きずる様子もなく、コーヒーを口に運ぶ青子を見ながら、同じ目の高さに彼女がいることにほんのわずかな違和感を抱く。 青子が上にいないなら、俺が下がればいいのでは? ちょっとした思い付きで床に腰を下ろすと、「どうしたの?」と上から問いかけられる。 「いや、屋上じゃずっと青子を見上げる形で話してたからさ。これなら違和感ないかなと思って」 少し首は疲れるが、慣れた姿勢なので苦にはならない。「変なの」と笑う彼女から徐々に視線を落とすと、ふわりと揺れるスカートからすらりと伸びた足が目に留まる。 おお。 「……エッチ」 やんわりとスカートを押さえた青子が、ジト目で見下ろしていた。 「いや、これは」 「ふーん、そうやって私の幽霊も覗いてたんだ~、ふーん」 唇を尖らせ、そっぽを向く青子に慌てて言い訳を並べるが、彼女は軽やかにステップを踏んで距離を取る。どうにか話を聞いてもらおうと追いかける俺を見ながら、彼女はとても楽しそうだった。 足のある南雲青子は、どうやら屋上の青子よりも魅力的で、より一筋縄ではいかないのかもしれない。 |
燕小太郎 2020年12月27日 20時55分38秒 公開 ■この作品の著作権は 燕小太郎 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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