クリスマスをぶっ壊せ |
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We crush your merry Christmas. We crush your merry Christmas. We crush your merry Christmas. And fxxking new year! 伸びの良いテノールは空しく夜空にこだました。 その歌い手の整った顔立ちを眺め、ため息を一つついてからマネージャーは一言指摘する。 「三吉、お前さっきから替え歌歌ってるよな」 「あ、バレました?」 ひげ付きのマスクをもごもごさせて、三吉と呼ばれた青年が笑う。赤い服に赤い三角帽、そして白く長いひげ。誰がどう見てもサンタクロース……の仮装をしてケーキを売るバイトだ。 「いいじゃないですか。俺はイブにケーキ売る以外の予定がないクリぼっちなんですから」 「しっと団乙」 「なんすかそれ」 マネージャーより一回り年が違う三吉は、当然読んできた漫画も違う。 「昔の漫画にそういうのが居てな。クリスマスとかバレンタインとかにカップルを爆破するんだ」 「じゃあ、マネージャーは気をつけなきゃですね。この後デートでしょ?」 「先週別れたところだ。若くてかわいい子とお幸せに、とか訳の分からんことを言われてな」 「えーと、それは、その、すみません」 「いや、お前に謝ってもらっても仕方ないけどよ」 実のところ、マネージャーとしてはそれほど不機嫌ではなかった。元々、彼女との間に愛など無かったのだから。 「じゃあ、マネージャーも一緒に歌いますか? 今なら聞いてる人もいませんし」 三吉の言葉通り、駅前の大通りだというのに人通りはほとんどない。都心の方はこのコロナ禍でも結構な人出があると報道があったが、田舎のベッドタウンではこんなものだ。 わずかな通行人も、マスクで顔をしっかりガードして足早に歩き去っていくだけだ。ケーキ屋の前でサンタの仮装をした男二人になど目もくれない。 彼らのケーキは、きっとネット通販なりデリバリーなりでとっくに家に届いているのだろう。実際、このケーキ屋もほとんどをデリバリーで発送し終わっている。売り上げは例年よりいいぐらいだ。 マネージャーとして、ケーキ屋の運営だけを考えるなら、こんな寒空の下で街頭販売を続ける意味はほとんどない。店長にそれを指摘されても「例年通り」と強行したのも「さすがに女の子にさせるのはかわいそうだし」と唯一の男子バイトを手伝いに指名したのもマネージャーだ。 「すぐ次の彼女探すんですか?」 「いや、しばらく女はいいや。お前こそ、当てはないのか。さっちゃんとかさ」 「いや、ああいう遊んでそうな子は好みじゃないんで」 3mほどの距離にいる相手をバッサリ切り捨てる三吉。もっとも、店内でバイト中のさっちゃんとの間にはガラスの壁があり、この会話が聞こえる心配はない。 もし聞こえていたら、さっちゃんはこう言ったことだろう。「ちょっと、マネージャー! 三吉くんには彼女がいるって言ってたじゃないですか」と。 三吉はきっと気づいていない。さっちゃんのアタックを妨害したことも、さっきの「しばらく女はいいや」に裏の意味があることも。 「新年も一人なら、一緒に初詣に行くか」 コロナのせいで、三吉が親から帰省してくれるなと言われたことはすでに聞いていた。誘いを聞いて、三好はマスクの下で不満げに口をとがらせる。 「で、そのあと初売りのバイトに強制連行ってわけですね」 「よくわかってるじゃないか」 マネージャーなどという仕事をしていると、嘘をつくのも上手くなる。三吉は何もわかっていない。 右手でその肩を抱き寄せて、左手でマスクを引きはがして、そのとがらせた唇を唇でふさいでやったら、少しは分かってくれるだろうか。 そんな想像をして、自分のマスクを外す手が足りないことに気づき、マネージャーは想像の中ですら思い通りにやれない自分を嘲笑った。 結局、そんなことをする蛮勇は持ち合わせていない。仕事を失うのはともかく、三吉に決定的に嫌われるのには耐えられない。 やれるのはせいぜい、むしゃくしゃした気持ちを替え歌に乗せて歌うことぐらいだ。 「We crush your merry Christmas.」 三吉もマスクの下で口を開き、声を合わせる。 「「We crush your merry Christmas.」」 マネージャーは知らない。別れた彼女の言った若くてかわいい子がさっちゃんだということを。彼女が誤解した原因が、三吉が送った写真だということを。 「「We crush your merry Christmas. And fxxking new year!」」 人が愛に気づく日まで。 |
ワルプルギス JL2b9/UVEM 2020年12月25日 00時02分44秒 公開 ■この作品の著作権は ワルプルギス JL2b9/UVEM さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2021年01月11日 20時53分45秒 | |||
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Re: | 2021年01月11日 19時36分48秒 | |||
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Re: | 2021年01月11日 19時29分34秒 | |||
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Re: | 2021年01月11日 17時51分31秒 | |||
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Re: | 2021年01月11日 00時18分56秒 | |||
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Re: | 2021年01月11日 00時18分13秒 | |||
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Re: | 2021年01月11日 00時16分05秒 | |||
合計 | 12人 | 130点 |
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