知覧に散らん |
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※当小説において、思いっきり差別単語が出てきますが、物語の舞台当時の事項を懸案し、あえて使っております。 殴った。 草萌える大地をカーキ色のズボンを履いた若者が飛んでいく。若者は一メートルは吹っ飛ばされ、大地に寝転んだ。 「バカ野郎!」 殴ったのは男は四十手前ぐらいの髭もじゃであった。 「チョンコロ(※朝鮮人の蔑称)! 貴様、もう一度言ってみろ!」 髭もじゃは今さっき鉄拳制裁を加えた若者をどやしつける。 「コンナノデ、コンナノデ俺タチニ死ネトイウンデスカ!」 若者は大地にたたずむ銀色の鋼の鳥を指さして言う。 二式高等練習機。 日本帝国陸軍航空隊のパイロットたちは三年に及ぶ訓練の中で、最初の一年を座学に費やし、一年を赤とんぼの愛称で呼ばれた九五式練習機を乗りこなした後で高等練習機に移る。最初は九九式高等練習機を使っていたが翼端失速という悪癖があり、新たな練習機を開発した。それが二式高等練習機。しかしその実態は、用廃になった旧式の戦闘機である九七式戦闘機のエンジンを訓練用に低出力化したものに載せ替えちょこちょこといじっただけのものであった。 「コンナジャ、敵ニ、タドリ着ク前ニ死ンジマウ!」 「つべこべ言うな! 俺たちは帝国軍人だ! お国が死ねと言ったら、死ぬのが俺らの仕事だ! わかっとんのか!」 髭もじゃは怒鳴る。 「ワカッテルノデスカ! 九七シキデスラ、爆弾一〇〇キロ、限界。ソレニエンジンヨワイノヲツケタヤツデ、二五〇キロ積ム。犬死以外、ナント言エト!」 二式のもとになった九七式戦闘機は二五キロ爆弾を四つ積めた。八〇〇馬力の九七式ではそれが限界だった。だというのに、五一〇馬力までエンジン出力を落とした二式で二五〇キロ爆弾を積めば、離陸がやっとであろうことは想像に難くなかった。そして、もう、この飛行場には、護衛をしてくれる戦闘機すらいない。 「それでも、それでも俺らはやらねばならんのだ!」 髭もじゃが一喝する。 「貴様は飯抜きだ! 懲罰房に、入っておれ!」 若者はやってきたカーキ色の軍服姿の憲兵に連れられ、基地のいずこかに去っていった。 「出ろ」 土饅頭のような倉庫の中、若者は閉じ込められていた。そこで、先ほどの憲兵が現れた。 「銃殺、デスカ?」 若者は憲兵に尋ねる。 「……貴様がもうすぐ死ぬのは、間違いない……」 憲兵の言葉は、どことなく含みがあった。どちらかというと、哀れとか、そんな感情。一瞬の沈黙。若者は口を開く。 「トイウコトハ、出撃、明日カラニキマッタンデスネ」 若者の言葉に、憲兵は力なく頷く。 「三角兵舎で、今は宴会だ」 辛そうに、憲兵は答えた。 三角兵舎とはパイロットたちの宿舎である。松林の中に半地下式に作られており、中には七人ほどの男たちが酒盛りをしていた。 「おお、来たかチョンコロ!」 三角兵舎に来た若者を、髭もじゃは酒を注いだ湯呑みを掲げて迎えた。 「ちょんころデハアリマセン。自分ハ――――トイウ名前ガアリマス!」 「俺は人の名前を覚えるのが苦手だぁ。だからチョンコロ、な」 がははと笑いながら髭もじゃは言う。ひどい話である。若者は眉をしかめた。 「まぁ座れぇ。俺たちゃみんなぁ、明日から死ぬことになったぁ」 同僚たちに髭もじゃが説明する。 「沖縄の同胞たちはもうだめらしい」 きりりとした目の若者がため息交じりに言う。ここにいる八人のリーダーである少尉である。 「我々振武隊は、敵、米国の今攻撃を仕掛けてくる艦隊、それの後詰でやってくる補給船団を叩くこととした」 少尉は淡々と説明する。 「沖縄……、落ちたらいよいよ本土か」 「一億総玉砕……」 パイロットたちは不安そうに言葉を漏らす。 八人は髭もじゃの軍曹以外はすべて一八から一九歳の若者である。彼ら振武隊は飛行機に爆弾を積んで、体当たりで敵船を沈めるのが任務――いわゆる、特別攻撃隊である。 「がっはっは!」 そんな中、一人陽気だったのが髭もじゃだった。 「俺たちゃ作戦とか、そんなもん気にするこたぁねぇ! お国のために死ねと言われて、爆弾抱えて吹っ飛ぶのが仕事だぁ!」 そう言うと湯呑みの酒を一気飲みした。手酌で湯呑みに酒を注ぐ。 「いやー末期の清酒はうまい! どぶろくとは比べ物にならん!」 この時代、軍人といえども酒は配給制で、どぶろくとかの低級な酒しか支給されなかった。しかし特攻出撃前に支給される酒はさすがに清酒であった言う。 「飲み過ぎて明日出撃できないとか、ナシですよ軍曹」 「うぃー」 少尉のたしなめにも軍曹は聞いてない風であった。 「……どうした、チョンコロ」 同僚の勧めで自分のベッドに座り、湯呑みに酒を注いでもらった若者だったがずっと俯いたままだった。 「オモニ、ノコト、考エテル……」 「おもに……、ああ、母ちゃんかぁ」 ぼそっと言う若者に陽気な声を向ける髭もじゃ。 「オモニ、ビョウキ、ナガイ……」 その言葉に同僚の一人が不審げに首を傾げ、おもむろに尋ねる。 「おまえ、まさか兄弟いないのか?」 その問いに若者は頷く。 「冗談だろ?!」 「家継ぐ奴が特攻だぁ?!」 同僚たちがにわかに騒ぎ出す。 特別攻撃隊のパイロットは基本的に家を継がない次男三男が選ばれる建前になっていた。しかし終戦間際、そんなことも言ってられなくなり長男の出撃多かったと記録に残っている。 「黙れ!」 少尉が一喝し、場は鎮まる。 「ひでぇ話だなぁ……」 さすがに軍曹も気の毒そうに若者を見た。 「俺ノ国、海ノ向コウ……。ナノニ、ナンデ、俺、ココヲ、日本ヲ、守ル……」 「貴様、それでも軍人か、いや日本帝国の臣民か!」 少尉はやおら立ち上がると若者を怒鳴りつける。 「少尉殿!」 それを制止したのは髭もじゃだった。 「チョンコロ。お前から見れば、俺たちは泥棒だろうなぁ」 その言葉に少尉はおろか、同僚たちも、若者すらもあっけにとられた。 「やれ帝国臣民だぁ、やれ五族共和だぁ、と唱えたところで日本人は満州で、南洋で、朝鮮で、資源を奪い、人を働かせてらぁな。たとえばな、隣の家に住んでいる金持ちの家の親父が突然ぼろ屋に現れて、今日からお前ら俺の子だ。逆らったら殺すからな! なんて言われてみろぉ。そのあとどんなに大切に扱われたって恨みしか残らねぇ」 少尉は絶句した。自ら信じていた帝国の正義を理路整然と否定されたのだから。それもいくら人生経験が長いとはいえ飛行兵学校出身のはずの軍曹に。 「だけどな。今の世界大戦だっけ……、いわばガキの喧嘩だぁ。しかしそこには親も教師も警察すらいねぇ。この世は力が正義の世界さぁ」 普段は一日一回だれか殴らないと気が済まないと言われている髭もじゃの知的な発言に、若者も同僚も黙って聞いている。 「御一新(※明治維新のこと)から七〇年。帝国列強はひたすら海外に自分の領土を増やしてきたぁ」 口を湿らすために、髭もじゃはグイ、と酒を一飲みする。 「お前の国、朝鮮も、日本に飲まれたぁ」 髭もじゃは視線を若者に向ける。 「だがなぁ。今の世界、弱い奴が悪く、強い奴が正しい。日本が飲まれたら、日本も、南洋の人らも、みんな奴隷になっちまわぁ。お前にしたら飼い主が変わるぐらいだろうがな」 髭もじゃは鋭い目線を向ける。 「鬼畜米英の名は伊達じゃねぇぞ。奴ら、土地を、資源を、作物を、何もかも根こそぎ持って行っちまう。日本人は甘ちゃんだからな、お前ら学校で日本語も朝鮮語も教わっただろう? だがな、奴らはそんなことはしねぇ。英語を喋れ、しゃべらない奴は容赦なく殺す。そんな奴らだぁ」 真剣な眼差しでみんなを見回す髭もじゃの言葉に、若者も同僚たちも、背筋を伸ばした。 「だからこそ、俺たちは死ぬんだぁ。奴らに、死を恐れないキチガイがいることを思い知らせぇ。たとえ負けても、舐められないために」 髭もじゃはそう言うともう一回ぐっと酒を飲み、また継ぐ。 「驚いたな、軍曹。学があるんだな」 少尉は感心したように髭もじゃに尋ねる。 「こんなんでも俺ぁ、商社で働いてぇ、世界を股にかけるのが夢でぇ。大学行く勉強してたんでさぁ」 ぽかん。全員の口が半開きになった。髭もじゃの、その風貌からは信じられないようなインテリな履歴に全員唖然となった。 「だけどよぉ、英語がからきしでぇ。眼だけはよかったんでぇ、陸軍飛行学校に飛び込んで甲種合格になったんでさぁ」 飛行学校では一年間の座学を行った後適性試験を受けパイロットになれるかふるいにかけられる。甲種合格とはすなわち操縦士としての適性があるという意味である。 「……いい話だなぁ」 若者の同僚がしみじみという。 「死ぬ前に良い話聞けた」 「ああ。軍曹殿を初めて尊敬した」 「初めてかぁ!」 畜生といった表情の髭もじゃにみんなが笑う。 「よし。景気づけだ。誰か歌え!」 髭もじゃが全員に命令する。 「オレ、ウタウ! 『アリラン』!」 若者が意を決したように手を上げ宣言した。 「朝鮮の歌か―」 韓国・北朝鮮の国民歌と言われるアリランは一九二〇年代に作られた案外新しい民謡である。 「日本語ノ歌詞デ歌イマスヨ」 若者はそういってほほ笑んだ。 アリラン アリラン アラニヨ アリラン 君は行く 我を残し 君は行く 峠を越えて 君は止まる 峠のふもと 歩みを止める 十里もいかず 女が愛する男と別れアリラン峠を目指すが、男が恋しくすぐに立ち止まり動けなくなるという意味の歌である。 「その峠を越えたら、故郷に帰れるのかな……」 「母ちゃんのオッパイが恋しくなったかぁ?」 同僚の一人がぽつりと言い、髭もじゃがちゃかす。 「俺も母ちゃんのオッパイが恋しいよ。まぁ、俺の場合はカミサンだけどなぁ!」 ゲラゲラゲラ! 髭もじゃの下品な冗談にみんなが笑い転げる。 「それでいいんだぁ! 国のためなんてばかばかしいこと考えるな。母ちゃんのため、恋人のため。そのために死ぬでいいじゃねぇかぁ!」 「応!」 髭もじゃが湯呑みを掲げて宣言し、全員がそれを追って湯呑みを掲げた。 翌日から出撃が始まった。用意された二式はわずか二機。くじ引きで当たった者が出撃していったがしかし、敵影が見えず戻るばかりであった。 「船団、ちゃんといるんですかね?」 「いるはずだと聞いている」 三角官舎。裸電球の下、パイロットたちが苦悶の表情を浮かべている。 あれから一週間、最後の宴会をしてから何回出撃しても目標となる船団はいなかった。 官舎の机には地図。鹿児島から南西の海ばかりの地図が描かれている。そこには矢印が何か所か書かれていた。米軍艦艇の進行方向だ。 「巡洋艦や駆逐艦に突入するのはまず落とされる。カッコだけでお国のためにはならない」 少尉は冷たく言い放つ。 「補給船団を捕まえて貨物船を沈める。そうすることで少しでも沖縄陥落を引き延ばせる」 少尉は大きい矢印―米軍機動艦隊の後ろにある小さな矢印を指差した。 「しかし、俺たち。肩身が狭いですね」 「仕方ねぇ。死ぬって言うんで清酒までキバって配給されたのに、おめおめ生きてるんだからなぁ」 パイロットの一人の愚痴に髭もじゃも愚痴で返す。 「オモニ……、アナタト僕、ドチラガ先ニチョセサン(※あの世)ニ、イマスカネ……」 若者は、天を仰ぐ。 そして、翌日。若者は飛行場に立ちすくんでいた。手には紙を握りしめ。 「どうしたぁ? 仲間が行っちまったから、見送りかぁ?」 髭もじゃが若者に語り掛ける。若者は髭もじゃに向かって振り向くと、黙って握りしめた紙を髭もじゃに渡した。紙は、電報だった。 「『ハハ、シス』……おふくろさん、逝っちまったかぁ」 どっか、と読んだ電報を持ったまま髭もじゃは飛行場の芝生に座り込む。 「モウ、コノ世ニ未練ナイデス。爆弾抱エテ、オモニニ、会イニイクコトニシマス」 「おい貴様ぁ、爆弾持ってぇおふくろさんのところに行くのかぁ?!」 ぷっ。髭もじゃの言葉に若者は噴き出した。 「ああ、それでいい。おふくろさんにはいい笑顔で会いに行ってやれ」 「軍曹ドノ。軍曹ドノハ奥様トモウイチドアイタイトオモワナカッタデスカ?」 若者はふと気になって、髭もじゃに尋ねる。髭もじゃは答えなかった。 「……女々シクテ、スミマセン」 「うちのかかあは、お前のおふくろさんのとこにもう行ってるよ」 え。やがて口を開いた髭もじゃを、若者は驚きの目で見る。 「はやり病さぁ。南洋戦線から家に帰った時にゃあ、もう、骨箱になってたぁ」 軍曹は顔を向けず語り掛ける。 「わしもなぁ。もう、かかあに、会いに、行くしか、楽しみがないんじゃあ」 座って俯いてる髭もじゃの肩が震えていた。後ろにいた若者は、空を見上げた。 この日、出撃した二機は帰ってこなかった。電信がなかったため、燃料切れによる墜落、とされた。 次の日。すぐに次の二式が送られてきた。四機。 受領もほどほどに、出撃していく二式。しかし、戦果はなかった。二機帰還、二機不明。振武隊は四人になっていた。少尉、髭もじゃ軍曹、若者とあと一人の同僚。 そしてついに、その日はきた。くじに当たったのは髭もじゃと若者であった。 「帽ふれ~!」 整備員たちが帽子を振って送る中、胴体に二五〇キロ爆弾を吊り下げ、よたよたと土煙を上げながら二式は滑走路を加速する。 「畜生、やっぱり重てぇなぁ!」 髭もじゃが愚痴りながら暴れる操縦かんを押さえつける。 「ぃよいしょぉ!」 髭もじゃは操縦かんを引く。滑走路いっぱい、エンジン出力もいっぱいにしてようやく二式は大空へ飛び立つ。 バォォォォォォ! 日立製空冷星型エンジン『ハ一三甲』が悲鳴に近い咆哮を上げる。当たり前である。九七式戦闘機の本来のエンジン、『ハ一乙』ですらエンジン全開でないと二五〇キロ爆弾を積んで飛べなかったというのだ。それより三百馬力も出力が小さい『ハ一三甲』を積む二式で二五〇キロ爆弾を積んで飛ぶなど正気の沙汰ではなかった。 「さてと、チョンコロの坊主は飛べたかね?」 髭もじゃが後ろを振り向くと、どうにか若者の二式も離陸できたようだった。よたよたと翼を震わせながらついてくる。 髭もじゃは速度を落とし、二機は隣どうしになる。ここで髭もじゃは僚機通信用ライトを点滅させた。モールス信号だ。 「-・- --- -・-・ ・--・ ・--・ ・・ -・-- (我に続け)」 若者の二式はそれに翼を振って答えた。 ひたすら二機は南西を目指す。何もない大空を時速七〇ノット(≒一三〇キロメートル)のゆっくりとした速度で飛ぶ。なおエンジンはこれでも全開である。 「・・・- ・・ ・-・-・ ---・ ・・- ・・-・・ ・・ ・・--(軍曹殿)」 若者の機体が通信用ライトを点滅させる。 「・-・-- -・-・・ -・・・ ・- -・・- ---・- ・-・・ --・-(敵はいますかね)」 髭もじゃは返信する。 「・- ・-・ -・-・・ ・-- ・-・・ -・--- -・--・ -・ ・・ -・-- -・-・-(いなきゃ帰るだけさ)」 くすっ。もうすぐ死ぬかもしれないというのに、暢気な言い方に若者は笑顔を見せた。その次の瞬間、彼は右前方に黒いものを見た。 「・-・-- -・-・・ -・--- ・- ・・-・- -・・-- -・・ ・・- ・- ・・-・・ ・・(敵影見ゆ、方位三〇度)」 「・-・・ ・・・- -・-・ ・-・-・ --・-・ -・ -・- --- -・-・ ・--・ ・--・ ・・ -・--(確認した 我に続け)」 二機は機体をひねり、ベストポジション―太陽を背にする位置を取るべく移動する。 米軍はレーダーを装備しており対空は鉄壁の守りだった。そういう軍事マニアはいる。実際は嘘っぱちである。この時代のレーダーはまだまだ初期のもので、故障が絶えなかった。また、太陽の中に入られると電波が散乱して見えないという弱点もあった。そう、彼らの目指す場所に! 「-・-- ・・ ・- -・-- ・・ -・-・・ -・-・・ --・-- ・-・・ ・・ ・-・-- -・-・・ -・・- ・---・ ・-・-・ ---- ・・ --・-・ ・・ -・・- ・-・-・ ・・-- --- ・--・- -・ ・・ ・--・- -・・・ ・・-・・ ・・ ・・- --・-・ -・ ・・-- ・-・-- ・・ --・-・ ・・- ・-・・ (迎撃機、上がってきません。ご自慢のレーダーはどうしたのでしょうか)」 「--・-- ・-・-・ ・-・・ ・・ ・- --・-・ ・-・-・ -- ・・- ・-・-- ・・ -・-・・ ・-・ ・- ・-・-- -・・・ ・-・ --・-・ -・・・ -・-・・ ・・・- ・- ・--(案外信用ができないって話は聞く……、いや)」 多分不思議がってる若者に楽観的に答えようとして、彼らはその答えにたどり着く。 「・・・- ・・- -・・ ・・ ・・-- ・-・-- -・--・ --・・- ---- ・・- -・-・・ ・-・・・ ・-・・・ ---・- -・-・・ ・・ -・--・ --・・- ---- ・・- -・-・・ ・--- -・・・ ---- ・-・-・ ・-・-- ・・ -・--・ -・ ・・ -・-- ・-・・ -・・-・ --・-・ --- ・-・-・ ・-・・・ ・-・・・ -・・-・ ・・-- -・ ・・ (空母に乗ってる飛行機が多すぎる。飛行機を運んでるだけかもしれん。大物だ!)」 ごくり。若者が唾を飲み込む。沖縄へ飛行機を運ぶ輸送船団と遭遇。お目当ての相手、死ぬ場所にふさわしい。そしてついに二機は太陽を背にする場所を占めることができた。高度三〇〇〇。 「・・・- ・・ ・-・-・ ---・ ・・- ・・-・・ ・・ ・・-- ・--・ -・-・・ ・・ -・・-・ --・-・ ・・- -・・- --- ・-・・ -・- -・ ・・・ ・-・ -・-・ --・-・ -・・- ---・- ・-・・ 」 突入する直前、若者は髭もじゃの機体へメッセージを送る。 「・--・ -・-・・ ・・ -・-・ ・・- -・・- --- ・-・・ -・- -・--・ ・-・ ・・・ ・・-・ ・-・・ ・・・ ・-・・ ・・ ・---・ ・- -・-・・ ・・ ・-・-- ・・ ・-・ ・- ・-・・ --・-- ・・-・ ・-・-・ ・・-・・ ・-・・・ -・ ・・ ・-- ・-・・ -・-・ ---・- ---- ・・ ・---・ -・--・ ・---・ ・-・・ ・- ・-・・ ・・ ・- ・- ・-・ 」 その返信内容に若者は驚く。そして、にやりとした。 「・-・-- -・-・・ ・---・ ・-・-・ -・ ・・ ・-・-・ -・・・ -・-- ・-・-・ -・- --- ・・-・・ ・--・ -・-・ ・・- ---・-(敵船団発見、ワレ突入ス!)」 髭もじゃ機が電信で基地に送る。ワレ突入ス。この世への別れの言葉である。 「おおおおおおおおお!」 九つのハ一三甲エンジンの気筒(シリンダー)が咆哮を上げながら二式は急降下していく。いかに鈍足の二式といえ、高高度からの落下なら速度は三百ノット(≒時速五五〇キロ)を超える! ようやく気付いたトンマな米軍の護衛駆逐艦、空母の周りを取り囲んでいる、が機銃を浴びせてくるが、敵機が太陽の方角ではなかなか当たらない。 赤い炎の槍衾をかいくぐり、若者の視界にどんどん空母が近づいてくる。近くで見るとやはり飛行機を甲板いっぱいに積んだ航空機運搬艦であった。 「・-・・・ ・-・・・ -・・-・ ・・-- -・・・ -・・-・ ・・・ ・・- -・-・・ -・-・- -・・- -・・・ ・・-・・ ・-・ --・ ・--- ・・・- -・--- (大物はもらう、貴様は隣を食え)」 根性で突っ込んでいる最中、髭もじゃが何か点滅してるので見れば命令であった。確かに、空母の隣に大型の貨物船がいる。これを沈めれば沖縄攻撃もちょっとは緩むだろう。若者は突入コースを修正し、貨物船に向ける。それは二人の永遠の別れを意味した。 「--・ ・・- ・-・・ ・- --・-- ・-・ -・ ・-・・ ・・ --・-・ ・・ ・・- ・-・・ ・-・-・ ・-・-- ・・ --・-・ --・-- -・- ・---・ ・-・-- ・・ --・-・ -・」 若者はダメ元でライトを点滅させる。離れていく二式。しかし、確かに髭もじゃは翼を振った。多分バカ野郎ぐらい言ったと思うが。 そして二式の最後の瞬間が近づいてきた。眼前いっぱいに広がる貨物船。まもなく激突。そんな時、若者の視界が赤く染まった。そして視界が暗くなる。意識を失う寸前、最後に若者の目が見たのは、火を噴き動きを止めたプロペラであった。 ****** 昭和二〇年、日本帝国陸軍は振武隊と呼ばれる特別攻撃隊を編成。鹿児島県の知覧飛行場や万世飛行場から南に向け飛行機たちが飛び立ち、帰ってこなかった。その数、千人以上。パイロットたちの中には、少数であるが朝鮮半島出身者もいたことが判明している。 |
桝多部とある Tv68xys.OM 2020年08月09日 23時18分03秒 公開 ■この作品の著作権は 桝多部とある Tv68xys.OM さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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