最終兵器☆巫女様 |
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※ 注 若干グロ描写あります。 あと、ネタ小説です。 温室効果ガスの排出といった環境汚染、そして数度の核戦争により、世界は荒廃した。 しかし人類は生き残っていた。 そして、放射能に汚染され、砂漠に覆われた大地でヒャッハーしたりしていた。 これは、そんな世界で生きる、タフでスケベな男の物語である。 砂漠を貫くように伸びる道を、一台のバイクが進んでいた。 砂塵にまみれたバイクは不機嫌そうなエンジン音を響かせており、振動は容赦なく体を苛む。またがる男は、おそらく顔に巻き付けた麻布の下で不機嫌そうに顔をしかめていることだろう。 旅人が身に付けた旅装……顔に巻き付けた麻布や、全身を包む外套は、どれも使い込まれており、長年にわたって旅から旅への生活を送っていることを物語っていた。 アンディ・マクタビッシュ。 というのが彼の名前だ。 イギリスという、紅茶と変な兵器を作ることをこよなく愛する国の出身の彼は、飲むと楽しくなれる薬とか、疲労がポンと取れる注射を商う商人として生計を立てていた。 絶え間ない振動にさらされた尻が痛みはじめ、彼がみじろぎしたところで、その街が見えてきた。 砂と僅かな樹木以外、何もない荒野に、石や土で作られた無数の建物を、五メートルほどの石壁で囲った街の姿が現れる。 その姿は他の都市国家……荒野に乱立する、大体は軍閥が支配する街とさほど変わらないように見えるが、商人仲間によれば、あの街は一風変わった宗教が支配しているらしい。 街によっては門をくぐった途端に身ぐるみ剥がされたり、カルト教団の生け贄にされたりすることもあるので、ちょっと身構えつつ、アンディはバイクを走らせた。 そんな彼の心配とは裏腹に、街の様子はごく普通のものだった。 街に入る前の審査を待つ間、アンディは街の様子をそれとなく見る。 入る者を審査する係官や、その護衛の民兵はそれぞれ武装しているものの、横柄な感じや、乱暴な様子は見られない。 門の向こう側に見える街は清潔で、歩く人々の身なりも整っているように見える。また、アンディと同じように審査を待つ連中も、まあ粗野ではあったけど、すねに傷を持っている様子はない。 アンディの応対をした係官も、他の街ではまずお目にかかれないくらい、丁寧な口調と物腰だった。 少しばかり拍子抜けしつつ、アンディは街の中に入るが、そこで初めて街の妙な様子に気付いた。 やたらとパソコンを持ってる奴が目につくのだ。 核戦争の荒廃のあと、パソコンは貴重品だ。にも関わらず、この街では最低一人一台はパソコンを持っているように見える。 果物や野菜の並んだ店ではひさしの下で肥えたオヤジがキーボードをカタカタやっているし、とあるショットバーの中ではナイスミドルが片手でシェーカー振りつつ、片手でキーボードを打っている。道端では二十歳くらいの青年が地面に直接あぐらをかいて足にパソコンを乗せ、道に面した民家を覗けば、嫌に真っ直ぐな姿勢でデスクトップに向かう婦人がいる。パソコンを持っていない奴も、紙に鉛筆で何事かをがりがりと書いている。 パソコンだったり、紙だったりで、連中はどうやらひたすらに文章を作っているらしかった。 噂に聞く、妙な宗教と関係があるんだろうか。 にしても文書作る宗教って何だ、と思いつつ、アンディは大通りに面した宿に世話になることにした。 宿の主をしているのは、感じの良い女性だった。 ニコニコと笑いながら受付をしてくれる彼女の脇には、やはりノートパソコンがあった。 この街では文章を書く人が多いんですね、とアンディが言うと、宿の主は笑みをさらに深めた。 「これが我々の、戒律ですから」 「戒律?」 「ええ。我らミッチェル教の戒律……もっとも、嗜好とも言えますが」 眉をひそめるアンディに、女性は丁寧に説明をしてくれる。 この都市国家に住む人々は、ミッチェル教という宗教を信奉している。 ミッチェル教とは、この都市だけに息づく宗教で、その本質は、小説作品を作ることで心の健康と世界平和を実現することにある。 物語を書き続けよ。 それを唯一の戒律とするミッチェル教の街ならば、今までの光景も(奇妙な印象は拭えないものの)納得できた。 「一年中小説を書くのも、大変そうですね」 「楽しみでもありますから、それほどでもありませんよ? それに、いつも集中している訳じゃないんです。大体、年に三回くらいですよ」 「三回?」 「ええ。年に三回、ミッチェル様からお告げがあるのです」 宿の主によれば、年に三回、これこれこういうお題で小説を書け、というお告げが主神ミッチェルから下り、それに従って小説を書く、キーカク、という儀式がある。年中小説を書き続ける者もいるが、キーカクの時期にだけ書くような信徒も多いらしい。 私もその手合いなんです、と、宿の主は言った。 「ちょうど、今年に入って二回目のキーカクが近付いていて、もう少しでお題のお告げがあるんです。それで、慣らしを兼ねてちょっと文章を書こうと思いまいて。上手くいけば、そのままキーカクに使えるかもしれませんしね」 「お題が告げられる前に書いても使えるんですか?」 「ミッチェル神は寛大なのです」 にっこりと笑った宿の主によれば、キーカクで出されるお題は定められているものの、その縛りはさほどキツくなく、お告げの前に書いていた小説でも、ちょっとした改変でお題を満たすことが結構あるんだそうだ。 ふーん、とか適当な相づちを打ちつつ、アンディが宿の主が出してくれた桶に入った水で足を拭っていると、重厚な鐘の音が辺りに響いた。 「お告げが発表されます……!」 抑えきれない興奮が滲んだ口調で、宿の主はそう言うと、着ていたエプロンを脱ぎ、外へ向かって歩き出す。 「よろしければ、一緒に聞きにいきませんか?」 「良いんですか? 信徒じゃない私が行っても?」 「ミッチェル様は、寛容なのです」 そうにっこり笑った彼女に釣られるまま、アンディは脱いだブーツを再び履いた。 街の中央の広場には、何十人もの人間が集まっていた。 宿の主の隣で、みんな物書きなせいか、一様に色白な群衆をアンディが眺めていると、どこからともなく、鐘の音が再び響いてきた。 広場の中央には、白い石を組み上げられた建物……ミッチェル教の神殿があり、そこから一人の女性がしずしずと歩いてきた。 その女性……というか女の子は、核戦争を終えたこの世界ではまず見ない、フリフリの服を身に付けていた。 腰まで伸びる髪はド派手なピンクで、大きな瞳が印象的な整った顔立ちにも薄いがばっちり化粧がされている。 「あの人は?」 「ミッチェル教の巫女様です」 そう言いつつ、宿の主は期待のこもった瞳で、巫女様を見つめる。 周りを見れば、他の信徒も同じような感じだ。 これまでの旅で、色々な街に息づく宗教を見てきたアンディだったが、こうも派手なロリータファッションの巫女を見るのは初めてだった。 世界広いわー、と呟いていると、広場全体に響き渡る声で、巫女が今回のキーカクのお題を告げた。 「今回のお題は炎と癒やしと挑戦者ロボ! 全部使わなきゃ作品とは認めないロボ! さあ者共、必死こいて書くロボ!」 宗教的な一大行事、ということだったので、てっきり、宣言があれば、うおお、とか興奮が巻き起こるんじゃないかとアンディは考えてた。 ただ、群衆の反応は思ったようなものじゃない。 水を打ったような静けさが広がる中、一仕事終えた巫女はさっさと神殿に戻っていった。 妙なものを感じるアンディの視線の端で、 ぽん という、軽い音と共に、赤いものが爆ぜた。 彼の頬にも、何かなまぬるいものがかかる。 見ると、一人の男の首から上が喪失していた。 どうやら、頭が爆ぜたらしい。 狙撃か、とか思ったが、それならあるはずの銃声は聞こえてこず、アンディはぼんやりと、血を中天に向かって吹き上げる男の体を見ていることしか出来なかった。 視線を少し見回せば、同じように頭がパーンしたのは一人ではなく、何人かいるらしい。 かと思えば、一部の信徒は既に広場にあぐらをかき、ノートパソコンをかたかたとやり始めている。 その光景の異様さに薄ら寒いものを感じていたアンディは、は、と気付いて、自分の脇を見る。 宿の主(そういえば名前なんだっけ)は、幸い、頭が爆ぜることなく、そこにいた。 ただその顔は青ざめ、体はわななわと震えている。 「どうしました」 放っておけば地面に倒れかねない様子の彼女の体を支えたアンディの腕の中で、宿の主ははわわ、と言い、そして気絶した。 寛大なミッチェル神のおかげで、普段のキーカクは発想力の乏しい書き手にも優しいものだった。 複数のお題の中から一つ選んでね、とか、そんな感じだったのだが、今回は違った。 炎と癒やしと挑戦者、その三つのフレーズを全て小説に入れ込むのだ。 門外漢のアンディは、まあそれくらい普通じゃん、と思ったもんだが、今までの寛大なお題に慣れていた一部の信徒は違った。 その過酷さに脳みそが耐えきれなくなり、頭がぱーんしてしまったそうだ。 ただ、そんなものばかりではない。 見るからに古参、という感じの信徒は早速PCやポメラのキーボードを叩いていた。要は日頃からキーカクのお題や、小説というものにどう向き合ってきたかがあぶり出されてるだけなんだな、とか思いつつ、アンディは軟弱者の一人である宿の主の額にぬれタオルを乗せた。 広場からちょっと離れたところにある木陰に寝た彼女は、うんうんと唸っている。 そこでアンディはちょっと周りを見回す。 周りには炎天下の中、熱中症も関係ねえとばかりにキーボードを叩く連中か、何事か相談している奴しかいない。 それを見て取ってから、アンディは宿の主を見る。 なかなかの器量である。歳はまあ三十六のアンディから多分十歳以上離れているが、スタイルも良い。 むふ。 とか呟いて彼女の体を抱き上げたアンディだったが、 「たのもーん!!」 とかいう叫び声が聞こえてきたので、動きを思わず止める。 振り向くと、広場の中央の神殿に、一人の信徒が固く閉められたそのドアをどんどん叩いていた。 どうやら自分の行為を見咎められた訳じゃないらしい、とアンディがほっと息をついていると、神殿の扉がゆっくりと開けられた。 中から出てきたのは先ほどの巫女。 服装はそのまんまだが、雰囲気は天と地ほど離れてる。 口には葉巻をくわえ、片手には度数が高そうな蒸留酒の瓶が握られている。顔には赤みがさし、足取りもふらふらな感じだ。 「何だロボ-? 巫女様は聖なる煙を吸い込んだり聖水を飲んだりするので忙しいロボよ-?」 「巫女様、今回のお題の変更をお願いしたく参上いたしました!」 「変更-?」 「そうです、今回のお題は過酷すぎます!」 そう両手を合わせる信徒に、巫女はうるさそうに頭をかく。 「ちょっと前のキーカクだったらこれくらいの縛り珍しくもなかっただろうロボ?」 「ですが! それでも! 私のような力なき作者には過酷すぎるのです!」 「良い成長の機会だと思って頑張りゃいいじゃねーかロボ」 「私はのびのびと書きたいのです」 そこまで聞いた巫女は、葉巻を口から取り、大量の紫煙を吐き出した。 で、火の点いた葉巻をその信徒の額に付ける。 じゅ。 という音と共に信徒の額に火傷が刻まれる。 ぎゃーとか叫んだ信徒の横っ面に今度は中身がたっぷり残った酒瓶をぶちかまし、さらには割れた瓶を信徒の心臓に容赦なく突き立てる。 「ぎゃーぎゃー騒ぐなロボ。自分の力量不足を嘆いたり、自分の思い通りにいかないことに文句言ったりする前に黙って、書けば良いんだロボ、このごじゃっぺ(※ イバーラキの方言でバカ者の意)」 絶命した信徒にぺ、と唾を吐き、その様を見てがくがく震える他の信徒を捨て置いて、巫女は神殿の中へ引っ込んでいった。 「巫女様の、言うとおりです」 そんなバカ騒ぎを見ていたアンディの脇で、宿の主が覚醒する。 「自らの前に立ちはだかった壁を嘆くよりも、それをどう乗り越えるか、考える方が先です」 たかが小説のお題で大げさな、とか、畜生せっかくのアタックチャンスが、とか考えるアンディの前で、宿の主は手を握りしめた。 「私はこの苦難を、なんとか乗り越えてみせる……!」 「……頑張れー」 こうして、宿の主は客のアンディそっちのけで執筆活動に取り組むことになった。 提示されたお題に関する書籍を読み、読んだ上でノートにアイディアを練るためのメモを書き連ねる。書く題材が決まったらキャラクターを考えたり、プロットを作ったりするそうだが、最初の構想の段階で宿の主は詰まったらしい。 宿の主……ユリア・マクミラン、と名乗った彼女は、日ごとにやつれていくようだった。 そんな彼女の脇でアンディはかいがいしく働いた。 彼女のためにコーヒーを淹れ、バランスの取れた食事を作り、洗濯や風呂洗いとかもやった。 そうしてくれれば宿代はタダにします、というユリアの言葉に釣られた、ということもあったが、彼女の年齢も、アンディらしからぬかいがいしさに繋がっていた。 ユリアは十八歳。アンディの娘が仮に生きていれば、ちょうど彼女と同い年だった。 あの核戦争のあと、離ればなれになった娘の面影を彼女に重ねてしまったこともあり、彼はこの風変わりな少女に妙な協力をする気になったのだった。 同時に、自分の娘と同じ年頃の女の子に手を出そうとした自分の性根におののきもした。 あぶねーあぶねーと、衣類を洗濯板で洗いながら考えていたアンディだったが、タオルとかをごしごしやってる内に、ふと、こんなことを考える。 いや、やっぱりアリじゃないか、と。 ……こんなことを考えるアンディは間違いなく外道だが、だがこの世の中にはこういうゲスは結構たくさん、当たり前にいるので、世のお嬢さん方は注意しよう。マジで。冗談抜きで。本当に。 そんな感じに、ユリアの執筆が遅々と進む中、それに対する妨害の魔の手が迫っていた。 彼女一人に向けられたものではない。 ミッチェル教の都市国家そのものに向けられた、侵略の魔の手である。 ミッチェル教の信徒は強い結束力を持っていた。 平和主義者の揃った彼らは他の都市国家に侵略することはないものの、飲料水の水源や、石油資源といったものの保護のために、他国と抗争が起きることもままあった。 そのため、他の都市国家の中には彼らを疎ましく思う輩もおり、執筆に信徒が集中するこのキーカクの時期を狙って、奴らはミッチェルの民を鏖殺せんと企んだ。 固く閉ざされたミッチェル教の都市の扉。 それが一台の戦車の砲撃で無残にも吹き飛ばされる。 粘着榴弾を放った120ミリ砲から硝煙をたなびかせ、一台の戦車が都市へ侵入する。 チャレンジャー。 アンディのかつての故郷、英国で作られた、主力戦車である。 強力無比な120ミリライフル砲、堅固なチョバムアーマーを備えた戦車に率いられ、自動小銃を携えた無数の兵士達が続く。 それに対して、ミッチェルの民も必死の応戦をするが、周到な準備を重ねたらしい敵は、ミッチェルの民を次々と屠っていった。 「アンディさん、無茶です!」 宿の中で、街の自警団から借りたAKの調子を見ていたアンディに、ユリアがそう叫ぶ。 「戦車ですよ、かないっこありません!」 「戦車も人の手で作ったもの」 AK……正確には中国製のコピーに初弾を装填したアンディは、ユリアにこともなげに答えた。 「人の手で作ったものが、人に壊せないはずはない」 「何カッコいいこと言ってるんですか……死んじゃいますよ!」 「俺は死なない」 そして、アンディは大きなカバンを肩に下げる。 中には、無数の酒瓶が詰められている。本来ならコルクが収まる部分には、代わりにねじった布が詰められていた。 「なぜならこれはネタ小説だからだ」 「何訳わからないことを……」 これ以上ぎゃんぎゃんやるのが面倒くさくなったので、アンディはユリアの腹に一発パンツ、じゃねえパンチを食らわす。 ごべ、とか言いながら綺麗に卒倒したユリアを地面に寝かせ、アンディは宿を出ようとした直前、やっぱりいたずらしてから行こうかとか考えたけど、テンポが悪くなるからやめとくかと思い直して渋々チャレンジャーに向かって出撃した。 戦車というのは、案外脆いものである。 強固な装甲、長大な主砲……そんな外見からは想像もつかないかもしれないかもしれないが、古今東西、あっさりぶっ壊されたり行動不能になる事例に事欠かない。 正面装甲に比べて側面や上面、底面の装甲が薄くて地雷や空からの攻撃に弱かったり、そもそも大重量を支える履帯が意外とデリケートな代物だったりと、ウィークポイントは色々あるが、その一つに、視界の悪さというものが上げられる。 敵弾に耐えるためには、被弾に弱い部分は極力少なくしなければならず、車内から車外を覗くための箇所は酷く少ない。 そのため、乗員は歩兵の接近に気付きづらく、勇敢な歩兵の肉薄攻撃であっさり撃破されちゃう、なんてことは第一次世界大戦から今までよくあることだ。事実、第二次世界大戦末期のベルリン戦では、撃破されたロシア戦車の内の二割が、歩兵の対戦車ロケット弾によるものだったという(もっとも、ドイツ側の戦車や火砲が枯渇していたという事情も当然影響しているが)。 そんな歩兵による被害を防ぐために、戦車は歩兵と一緒に運用することが基本となっている。 歩兵を戦車が支援し、戦車が歩兵を支援する。 その戦場の光景は、核戦争後の今でも変わらない。 今回、街に侵入してきたチャレンジャーも、多くの歩兵に支援されていた。 そんな歩兵に向かって、機関銃の銃弾が容赦なく叩き込まれる。 「フゥハハハーハアーロボー!」 ピンク色の髪をなびかせ、巫女がFNMAGをぶっ放すと、敵兵がばたばたと倒れる。 もちろん、チャレンジャーも黙っておらず、120ミリ砲を巫女に向かってぶっ放すが、巫女は脚からスラスターを吹き出し(ロボだから)、容易に回避する。 蝶のように舞い、蜂のように刺す巫女により、チャレンジャー(※注 実はチャレンジャーには1とその改良型の2が存在し、こいつは2である。その英国面に満ちた素敵な外見を描写する力は作者にないので、興味を持たれた方はググることをオススメする)はいつの間にか、がれきのただ中に誘い込まれた。 前方にはがれき、後ろには傷にうめく仲間の兵士。その中で身動きが取れなくなったチャレンジャーに、アンディは突撃した。 「強行します!」 「待て、アンディ!」 巫女の制止を振り切り、アンディは戦車に向かう。 その手には、火炎瓶が握られている。 「アンディー!」 暴動で使われるイメージの強い火炎瓶だが、れっきとした対戦車兵器でもある。 古くは1936年に勃発したスペイン内戦で使われ、ノモンハン紛争では日本軍があり合わせの資材でこしらえたこともある、由緒あるものだ。 ソ連とフィンランド間で勃発した冬戦争の古事より、モロトフカクテルの別名でも呼ばれる火炎瓶を手に、アンディは戦車の後ろから接近し、そのエンジングリルに火炎瓶をぶち込んだ。 チャレンジャーは燃え上がり、民兵から歓声が上がる。 燃えさかるチャレンジャーを背景に、腕を突き上げて歓声に応えるアンディだったが、歓声が不意にぴたりと止む。 思わず頭に?を生やしたアンディの後ろで、チャレンジャーの砲塔がゆっくりと回った。 チャレンジャーはとにかく堅牢な戦車である。 チャレンジャーの生い立ちは、チーフテンという主力戦車にさかのぼる(さらに言えば、その前に開発された重戦車コンカラーにまでさかのぼれる)。同時期の西側主力戦車の多くが機動性を重視した中、チーフテンは英国面を発揮し、重防御を誇った。そのチーフテンを改良し(以下略)。 そんな訳でとにかく固いチャレンジャーは、十数発のRPGやミサイルを食らっても乗員を守り切った、なんていう逸話があるくらいで、モロトフカクテル一発でどうにか出来る相手じゃないのだ。 エンジンに達しようとした火災を自動消火装置でさっさと鎮火したチャレンジャーは、アンディをぶっ殺そうとした。 アンディの脳裏に、つい昨日くんかくんかしたユリアのパンツのにほいが浮かび上がるが、彼は死ぬことはなかった。 「ゲッ○ービーーーム!!!」 突然、チャレンジャーが爆発する。 見ると、巫女様がおへそからビームをぶっ放し、チャレンジャーを破壊していたのだ。 爆風によって、十メートルほど吹っ飛ばされ、がっくりと地面に倒れ伏したアンディの眼前に、くまさんぱんつが現れる。 仁王立ちになった巫女様だった。 「だから待てと言ったロボ」 周りの民兵達からひれ伏される巫女が、あきれ顔でそう言ったのを最後に、アンディは気を失った。 アンディが再び目を覚ました時、彼は病院の一室らしい部屋に寝かされていた。 白いシーツ、腕に刺された点滴、そして、ベッドの傍らに佇むユリア。 そのスカートを覗こうとしたアンディだったが、体がちっとも動かないので仕方なく諦めることにした。 つきっきりだったんだろうか。 ユリアは、パイプ椅子に腰かけたまま眠っていた。 その手には、印刷したてのA四用紙の束が握られている。 「とうとう、完成したんです」 いつの間に目を覚ましたユリアはそう、アンディに言う。 「あなたに、一番に読んで欲しかったんです」 そうはにかみながら、ユリアは言う。 普段は小説なんて読まないアンディは活字を見るだけで頭痛が痛くなってきそうだが、それでもユリアの頼みを断る訳にはいかない。 核戦争後の世界はしょうもない。水もなけりゃ飯もない。あるのは暴力に流血に巫女様の○ッタービーム。 そんな世界の中でも、いや、だからこそ、憩い、癒やしは必要なのかもしれなかった。 こんな世界でも、人に癒やしを与えたいと望む人間がいる。 それがミッチェル教の連中であり、ユリアなのだ。 アンディはその紙の束を受け取り、それをゆっくりとめくる。 そんなアンディを固唾を呑んで見守るユリア。 その様は一枚の絵画のようでもあった。 アンディはその重厚な扉を叩く。 しばらく待っていると、とろんとした目をした巫女様が現れた。格好もTシャツにホットパンツ、ついでにノーブラと結構危うい。 「何の用だロボ?」 「巫女様こそ何やってんだ」 「戦勝記念のパーリー」 「そうか」 「で?」 「これを読んで、感想を聞かせて欲しい」 松葉杖ついたアンディはそう言って紙の束を巫女様に渡す。 「一本開けた頭で読めるかな~ロボ~」 そう言いつつ、ノリノリで紙を読み始めた巫女様だが、その眉間にぐぐぐ、と皺がよる。 「つまんねーロボ」 どんなにウンコな自作にも、アニメ化間違いなしとか言ってくれるので、ただ定型文を垂れ流してるだけと分かりながら、毎回オススメページをリロードしちゃう、なんていうウンコ作者の呟きはまあ置いておき、巫女様の感想は酷く辛辣だった。 「やっぱりか」 自分が活字慣れしてないせいかもしれないと思ったので、一応確認のために巫女様に見て貰おうと思ったのだが、不安は的中した。 「誰が書いたロボ?」 「宿屋のユリア」 「あーあいつなー」 「これはこのあとどうなる?」 「キーカクの感想期間でさんざんぶっ叩かれて涙目、ってとこかロボ。まあ皆、毎回同じような感じだし気にすることはないと思うロボが」 「うーん、でも彼女の感じだと……」 と、巫女様とアンディがうんうん唸っていると。 「……つまらない、ですか」 と、か細い声が聞こえてきた。 はっとして二人が顔を向けると、そこには青白い顔をしたユリアがいた。 痛々しい笑みを浮かべて二人を見ていたユリアだったが、 げぼお と、何かを吐き、そのままぶっ倒れた。 あられもない様で地面に倒れ伏したユリアをしばらく眺めてたアンディだったが、うん、いたずらしよう、と決めて手を伸ばす。 「おい待つロボ」 さすがにそんな鬼作な所業にストップをかける巫女。 「据え膳食わぬは男の恥」 「据え膳でもなんでもねーじゃねーかロボ。神聖な神殿の前で婦女子犯そうとしてんじゃねーロボ」 「いやでも、このために協力してた側面もあるし」 「おめーは本当に最低の屑だなロボ」 神聖な神殿で酒をかっくらってた巫女に辛辣な言葉をぶつけられて、ちょっと釈然としないアンディの前で、巫女様は持ってたブランデーをラッパ飲みした。 ぶへーと、酒臭い息を(ロボのくせに)吐いた巫女は、ちょっと待ってろロボ、と言い捨ててから神殿に戻っていった。 さほどしない内にアンディ達の前に戻ってきた彼女の手には、水の満ちたガラス瓶が握られていた。 その中身を巫女はユリアの顔に容赦なくかける。 勢い余って水は服にもかかってしまい、ブラとかが透ける。 うーんエロい。 とか思うアンディの前で、ユリアは水に咳き込みながら覚醒した。 「おう、自作がウンコだからっていちいちショック受けてんじゃねーロボ」 ユリアの眼前にウンコ座りした巫女様は、空になったガラス瓶でユリアの頭をがんがん叩く。 「結構ガチ目に痛いです巫女様」 「うるせーあたしの愛情だロボ。ていうか、作品をウンコって言ってもらえるのを喜べロボ」 「……どうしてですか」 「おめーみてーな素人の作品、そもそもウンコと呼ばれることもなかったってことロボ」 しゃっくりしつつ、巫女様は話を続けた。 「素人のクソ作品なんて、読者もなくHDDの闇の中に消えるのが普通ロボ。そんな作品や作者が集まり、楽しむのがキーカクロボ。読まれるはずのない作品を、真剣に読んでくれた人がいる。それだけでももの凄く嬉しいことなんじゃねーかロボ? それにキーカクの投稿期間に入るまでには時間がある訳だから、推敲しても良いんじゃねーかロボ」 「でも……」 「でもも、カモも、ホモもねーロボ。あたしとこのロリペドが見てやるから、いっちょ気合い入れて書き直してみたらどうロボ?」 それが、読んでくれた人への礼儀、ってもんロボ。 そう言った巫女をしばらく見つめていたユリアは、彼女に向かって小さく頷いたのだった。 小説を書くことを戒律とする、妙な宗教、ミッチェル教。 こんな感じで迫害にあったりもするが、それでもこの宗教と、キーカクという年に三回の儀式は、その後、千年以上に渡り続くこととなったのであった。 Fin |
赤城 2020年08月07日 07時19分29秒 公開 ■この作品の著作権は 赤城 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2020年08月29日 12時43分31秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時43分11秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時42分39秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時42分08秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時41分41秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時39分43秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時39分12秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時38分53秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時38分26秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時37分33秒 | |||
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Re: | 2020年08月29日 12時37分04秒 | |||
合計 | 12人 | 160点 |
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