100日後に首席に返り咲く秀才 |
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・-x日目 「くぁーはっはっ! ついにこの日が来きた!」 本日から4日間かけて2学期の期末考査が行われる。 内容は、古典、現代文、数2、数B、リーダー、グラマー、科学、物理、日本史B、保健体育、芸術の全11科目。 知性の限りを尽くして挑む試験は消耗も激しい上、成績が悪ければ親から怒られることもあるだろう。 テスト嫌いな人間がいるのもうなずける。 だが俺はちがう。 この日を楽しみにしていたくらいだ。 何故ならば、 「今回の1位も、俺で確定なのだからな」 おっと、この骨川須児(ほねかわすじ)としたことが、極あたりまえのことをわざわざ口に出してしまった。 入学以来、2位以下と大きな差をつけて主席をとり続けていた俺が、1位を獲るということは当たり前を通り過ぎ、もはや常識であるというのに。 まったくもって困ったものだ。 ライバルもいないような環境では、己の上限を高めることすらままならないではないか。 「たまには敗北というヤツを知りたいものだ」 残した課題は、いまだ全教科オール満点を獲ったことがないということくらいだ。 先生方も、俺に満点を獲らせぬよう、難問珍問を用意している。 さすがに先達たちの知恵を上回るのは容易ではない。 一部からは、俺のせいでテストの難易度があがっているというクレームをあがっているが、低レベルな者の意見など聞くに値しない。 教室へと向かう途中、廊下を疾走する男どもが現れた。 突然の出来事に回避に失敗。 まるで一千万パワーの超人にはね飛ばされたような衝撃に、俺は宙に舞う。 ――いかん、このままではリノリウムの床に激突し、異世界に転生してしまう。 明晰な頭脳をフル回転させ、来世への一方通行を回避する手段を模索する。 しかしその時間はあまりに短かった。 ――くっ、我が人生に無数の悔いあり。 それでも打てる手はないと、目を閉じ衝撃に備える……が、それは思ったよりも軽く済んだ。 それどころか人をダメにするクッションで受け止められたかのような心地よい感触。 「ふぅ、間一髪でござったな」 耳になじんだ声にまぶたをあげれば、俺を受け止めた宮本六三四(みやもとむさし)の姿があった。 艶やかな黒髪をポニーテイルにした凜々しい女子は余裕をもった笑みを浮かべている。 背丈は低いものの成長が悪いというわけではなく、前を開けたままの学ランからは猛々しい山脈がのぞけている。 俺は命の恩人に礼を言う。 「ほめてやろう六三四、危うく異世界転生するところだった」 「どういたしましてでござる。 まぁ拙者がいなくとも、ちょっと擦り傷ができる程度で済んだでござるよ」 なまじ運動神経が卓越してるだけに、学ラン女子の常識はかなりズレている。 普通に、高所から固い床に落とされれば、ちれば打ち身くらいはする。 うちどころが悪ければ、障害だって残るだろう。 ビビりの主人公が、心臓発作で異世界転生を果たしたことを考えれば油断などしてはならない。 「それよりも、ひとりでスタスタ登校しないでほしいでござる。 警護する身にもなってくだされ。 須児殿の運動神経はあまり褒められたものではないでござるのだから」 「うむ、注意しよう」 六三四は、俺を弾き飛ばした大柄なラグビー部部員捕まえると、袖口に隠した警棒を首に当て「次、おなじような事故があれば、その首を頂くでござるよ」と警告を発する。 「それにしても、須児殿はテスト前だというのに自信満々でござるな」 「当然だろ。俺を誰だと思っている。常勝不敗の骨川須児様だぞ」 「拙者など、座学は苦手なので憂鬱でござるよ。 今回は須児殿に教えを乞うたおかげで、なんとかなりそうでござるが……しないで済むならテストなどしたくはないでござる」 「ふん、俺には理解できぬ感情だな。 そうか天才にもわからないものというのはあるものだな。 これは貴重な体験をした」 「ふふっ、ホントに面白いでござるな」 六三四は俺をみて何故か微笑んだ。 「なんの話だ」 「拙者、須児殿はもっと肩から力を抜いても、よいと思うでござるよ」 「まるで、俺様が緊張しているみたいな言いぐさだな」 すると彼女は、音もなく俺に密着すると、背伸びをし、そっと耳元に言葉を運ぶ。 「目の下に、クマができているでござるよ」 とっさにエチケットブラシについた鏡で確認する。 うっすらとだが、確かに目の下にクマができていた。 だがそれは、六三四ほどの洞察力がなければ気づかれないレベル。他の連中には気づかれていないハズだ。 「べっ、別に、主席を守るため、徹夜で勉強したってわけじゃないんだからな!」 「はいはい、わかってるでござるよ」 そう言って彼女は、ニタニタと笑いながら、教室まで俺のとなりをキープするのだった。 ・1日目 「おい、聞いたか?」 「ああ、でも信じらんねぇ」 そんな会話が小走りに移動する男子の口からこぼれていた。 「なにかあったようでござるな」 「おそらく期末考査の結果が張り出されたのだろう」 推測の正しさを証明するように、彼らの向かった先には人混みがあり、更にその先には順位と氏名が羅列された順位表が張り出されている。 さきほどの彼らの様子を考えれば、今回はなにか異変があったのだろう。 ひょっとして、ついに11科目まちがいなしの1000点満点(保健体育と芸術は2教科で100点)を達成してしまったのではないだろうか。 ――ついに誰もなしえなかった偉業を成し遂げてしまったか。 ニヤけてしまわぬよう、表情筋を引き締める。 順位表を見ると、最初に飛び込んできた名前は、偶然にも六三四だった。 総合の20位に宮本六三四と彼女のフルネームが書かれている。 一年の時には、進級すら危ぶまれた彼女だったが、上位に食い込むとは素晴らしい躍進だ。 「やったな六三四」 素直に祝福の言葉を贈るものの、彼女は惚けた様子で反応を示さなかった。 「どうした?」 「上でござる」 「上って?」 天使の輪の浮かんだ黒髪の上を見ても、これといってなにも見当たらない。 「ひょっとして霊か!?」 「順位でござる!」 促され、視線をもどす。 見知った名前たちが並ぶ中、骨川須児と自分の名前を発見。 そこでようやく、みなが動揺している理由を知った。 「に゛ゅあ゛!?」 間抜けな声が溢れ出た。 でも仕方ない、この世の常識が崩れた瞬間なのだから。 俺様の順位はなんと2位。 これまで一度として他人に譲ったことのなかった学年首位の座から転げ落ちていたのだ。 「馬鹿な、ありえない、これは夢だトリックだ殺人事件だ!」 「現実でトリックはなく、誰も死んでないでござる。 いまにも死にそうな顔をされている方はいるでござるが……」 心配そうな六三四の言葉は耳に残らず、虚ろな視線でその地位にたどり着いた者の名を確認する。 「不吹肇(ふぶきはじめ)?」 覚えのない名前だった。 いや、どこかで聞いたような……記憶の手がかりを引き寄せるよりも先に「彼女でござる」と六三四が袖を引く。 そこにいたのは、どこか眠たげな色白な女子だった。 制服を着ていなければ中学生にまちがわれそうなくらい小柄でか細い。 2年の2学期ももう終わりだというのに、その制服の布地からは新品特有の固さが失われてはいない。 そこでようやく不吹肇が、先日来たばかりの転校生だと思い当たった。 ・2日目 「うぉぉ――――!! なぜ、この俺様が2位なのだ。 なのだ、なのだ、なのだ――――!!」 悲惨な現実を受け入れられない俺は、自宅の床を転げ回る。 念のため解答用紙を確認したが、採点ミスはなかった。 そもそも間違えたのは現代文の1問だけで、そのまちがいが覆らない以上点数のアップはありえない。 俺の合計点は1000点満点中996点。 順位表に記載されていた不吹肇の点数は997点。 配点のちがいで俺が2位に落ちたのだ。 「くそっ、くそっ、くそくそうんこ!」 「さすがに落ち込みすぎではござらんか?」 荒れ狂う様を見かねた六三四が声をかける。 「俺から勉強をとったらなにが残るっていうんだ。 親が金持ちってだけじゃないか」 「だけってこともないと思うでござるよ。 性格はちぃ~とばかしアレでござるが、意外と面倒見のよいところがあるし、顔だって拙者好みでござるよ?」 「そんな、これといって褒めるところのないヤツにかける同情なんぞいるか!」 「そもそも2位だって十分に、たいしたものでござる」 「そういう台詞は自分に自信があるヤツだけが言えるんだ」 ラグビー部に弾き飛ばされた俺を、なんなくキャッチしたことからもわかるように、六三四は運動神経が抜群である。 その気になれば、オリンピックだってめざせるほどの逸材だ。 なにより腕っ節が強く、これまでも幾度となく窮地を救ってもらっている。 かくいう俺は運動はダメ、運も悪い、目つきも悪い、性格など目を覆いたくなるほどで、ダメなところだらけだ。 だからこそ、勉強(どりょく)でだけは誰にも負けたくなかった。なのに、なのにだ……。 「ふぅお――――――――!!」 「さすがに、そろそろウザったいでござるな」 そうだ、こんなことをしていては駄目だ。 俺は自室へと駆け込むと、教科書を開いた。 ・3日目 「さすがに根を詰めすぎではござらんか?」 自室にこもってクマを濃くした俺に、珈琲を運んできた六三四が心配そうに問いかける。 頭も身体も疲れている自覚はあった。 それでも次の学年末考査で汚名を返上するためにも、勉強を止めることはできない。 礼を言ってから珈琲に口をつけ、教科書に視線をもどそうとするが……教科書は俺の手を抜け出して宙を舞った。 「いいかげんにするでござる。 次の試験は2月の終わり、3ヶ月後でござるよ? いまからそんな状態では身体がもたないでござる」 「どうせもう冬休みなのだ。少々根を詰めたところで問題などない」 頬を膨らませる同居人に、教科書の返却を要請するものの、「だめでござる」と受け入れてはもらえない。 「そもそも須児殿は、拙者の勉強も見ていた分、時間的に不利だったでござる。 そんな状態から接戦まで持ち込んだのでござるから、落ち込む必要はないでござる」 「そうだが、そうではない」 「どういう意味でござる?」 小首をかしげる六三四に俺は告げる。 「例えばパソコンはわかるな」 「さすがに、それくらはわかるでござる」 スマホを持ちながら、電話機能しかつかっていない彼女は若干不機嫌そうに応える。 「じゃ、パソコンを知らない人に相手にパソコンのことを説明してみてくれ」 「ネットやゲームができるでござる」 「スマホやタブレットとのちがいは? そもそもパソコンを知らぬ相手にインターネットという言葉が通じるのか?」 「それは……」 どう答えたものかと頭を悩ませる彼女に、俺は質問の真意を告げる。 「こういう風に、自分でわかってるつもりのものでも、案外答えられない物事というのはある。 逆に他人にそれが説明できるということは、ちゃんとそれを理解できているという証拠になるのだ。 つまり、俺はおまえの勉強をみることで、自分がその問題について他人に教えられるほど理解していることを確認していた。 だからそれはハンデにはならない」 つまりは純然たる自分の力不足である。 言ってて悲しくなってきた。 早く勉強にもどらねば。 棚から予備の教科書を取り出したものの、それも六三四にとりあげられてしまう。 「だからと言って、なにごともやり過ぎは良くないでござる。 そもそもロクに状況確認もしないまま、がむしゃらに詰め込なんて須児殿の手法では、ないでござろう」 「理詰めの手法で負けたんだから、次はがむしゃらになるしかないだろう」 「ああもう、頭の良い馬鹿は面倒でござるな」 理屈での説得を放棄した彼女は、俺の耳をつまむと机から引き離す。 「とにかく、今回の結果は運が悪かったとあきらめるでござる。 リベンジするにしても、体調を整えてからにするでござるよ」 † 「口福(こうふく)でござる」 気分転換にと甘い物を食べにいくことを提案された俺は、自ら腕を振るうことで外出を回避した。 作りたてのフレンチトーストに、六三四は頬が落ちないように抑えている。 卵と砂糖をたっぷり含み、バターでふんわりと焼き上げた厚切りのパンは濃厚な甘みを蓄えている。 まだ暖かいソレに冷たいダッツのバニラを載せているのだから、美味しくて当たり前すぎ。もはや常識と言っても過言ではない。 「須児殿は、本当に料理が上手いでござるなぁ」 「レシピと材料が良いんであって、俺の手柄ではない」 特殊な技術が必要な訳ではない。 水を電気分解して水素と酸素をわけるようなものだ。 道具と材料を揃え、手順を学べば、だいたい誰でも美味しく作れる。 それを指摘しないのは、その『だいたい』から外れた相手が目の前に居るからだけどな。 「そんなことないでござる。 家政婦殿の料理も良いでござるが、須児殿のつくる料理も……その、好きでござるよ?」 「ありがとう。 それより沢山焼くから、もっと食べて食べて」 「須児殿は本当に優しいでござるなぁ」 山積みにされたフレンチトーストに夢中になる六三四に『チョロいぜ』なんて思いつつも、こっそりとその場から立ち去る。 これでしばらく時間をかせげるな。 だがしかし、自室にもどってノートを開けた瞬間、背後に恐ろしい気配を感じた。 振り返ると、口元を汚したままの六三四が、仁王のスタンドを顕現させている。 「どうして須児殿は、ご自身を大事にしてくれないでござるか?」 言葉選びは優しいのだが、その笑顔には確かな圧が含まれている。 「いや、ちゃんと大事にしているぞ。ただ、俺の限界は常人よりも先だからな、まだまだ問題ない」 「問題あるでござる。 普段から努力を欠かさない須児殿が、それ以上に頑張ってしまえば、それはもうやり過ぎのレベルでござる。 2年も見てれば、それくらいわかるでござるよ」 六三四と出会い、契約したのは俺が高校にあがる前の話だから、もうそんなに経つのか。 「まったく、本当に須児殿は仕方ないでござる」 彼女から圧が消え、勉強することを許されたのかとおもったらちがった。 「自分でできないというのならば、須児殿の勉強、拙者がプロデュースするでござる」 「…………はっ?」 ・4日目 「はぁはぁはぁはぁ……」 袴姿で走る六三四ちゃんの尾(ポニーテイル)を息も絶え絶え追いかける。 早朝の土手には俺たち以外にも走っている連中がいたが、そいつらは自分にしか関心がないのか、グデグデに疲れ果てたゴミのような俺に視線を向けたりはしない。 「ほら須児殿、遅れているでござるよ」 昨日、俺の勉強をプロデュースすることを告げた六三四は、まずは早朝ランニングをすることを指示した。 「肝心なときにものを言うのは体力でござる。 長時間集中力を持続させるためにも体力があったほうがいいでござる」 「なるほど、な。 だが、俺には徹夜よりもこっちのほうがよっぽどハードなんだが?」 「大丈夫、すぐに慣れるでござる」 慣れる頃には卒業してるんじゃないだろうか。 そもそも勉強のためというのは建前で、運動不足な俺の生活改善を企んでいる気がしてならない。 そんな俺の疑念を微塵にも考慮せず、ランニングを終えた六三四は次のトレーニングをはじめる。 「さぁ、次はラジオ体操第三でござる」 「第三だと!?」 ラジオ体操第三とは、第一第二よりも運動強度を高く設定された体操だ。 戦後に作られ、しばらくは放送されていたらしいが、あまり流行らないまま終わったのという。 最近になって、そのハードなラジオ体操第三が復活したという噂を聞いてはいたが、まさか自分でやらされる羽目になるとは。 スマホから流れる音楽に合わせ、六三四が軽快に動いて見せるが、とてもじゃないけれどついていけない。 それでもこれ以上、無様はさらせないと歯をくいしばり六三四の動きを追いかける。 「笑顔も忘れてはいかんでござるよ」 いかん、体育会系少女の要求が高すぎる。 運動中に笑顔を要求されるくらいなら、ブランドもののバックでも要求された方が遙かにマシだ。 そんなものを望むような娘じゃないけどな。 ・5日目 昨日はハードなトレーニングのせいでロクに勉強ができなかった。 冬休みで授業がないとはいえ、次の考査のための準備は始めなければならない。 というかすでに全身のアチコチが悲鳴をあげ、活動をボイコットしようとしている。 「うむ、北斗七星の横に寄り添うように光る蒼い恒星が見える」 「アルコルは実在する星でござるから、見えたって問題ないでござるよ。 というか、死兆星を見ても、結構生き残っているキャラはいるでござる」 意外にも北斗の拳は履修済みらしい。 アニメで観たのかマンガで観たのかまでは知らんが。 「しかしながら、やりすぎを注意した拙者が、させすぎては本末転倒でござるな。 今日は少々強度をおとすでござるか」 「昨日の遅れをとりもどすためにも中止の方向で……」 「仕方ないでござるな。少しだけでござるよ」 なんだかんだと甘い六三四の情に訴えることに成功。 成功の要因は生まれたての子鹿みたいに足をプルプルさせながらお願いしたせいだろう。 それはともかく、彼女の気が変わらないうちに自室にもどらねば。 ちょうどその時、ふたつの電子音が同時に鳴った。 片方は六三四のスマホらしく、懐から取り出したそれを耳に当てている。 もう一方は玄関の呼び鈴だ。 ――いったい誰だ? 俺は疑問に思いつつインターホンで対応。 玄関前に設置されたカメラが、呼び鈴を押した人物の姿を映し出した。 なんとそれは、俺から1位を奪い取った憎っくき相手――不吹肇その人だった。 † 「大変でござる、須児殿」 通話を終えた六三四が呼びかける。 「こっちも大変だ、いま玄関のところに不吹肇が来てる。 六三四、暗殺を頼んでもいいか? 料金ははずむ」 「それでござる。 その不吹肇殿が家庭教師として、こちらに派遣されるそうでござる」 「「はっ?」」 俺たちは互いに交換した情報に目を丸くした。 『あのー、不吹肇と申しますが、こちら骨川須児様のご自宅で間違いないでしょうか?』 玄関では、こちらの混乱を知らぬ不吹肇が、確認の言葉を投げかけていた。 † 「それでは、拙者が説明するでござる」 仮にも来客を玄関に立たせてはおけないと、不吹肇をリビングに通した六三四が茶の準備をする。 六三四には俺の健康面を管理できても(できちゃいなかったが)、肝心の勉強を教えることはできない。 そこで彼女は、道場を開いていて、なにかと顔の広い曾祖父を頼ることにしたらしい。 その顔の広い曾祖父は、ちょうど別件で優秀な学生に紹介するバイト先を探していた。 そして互いの詳細を知らずにふたつの案件をマッチングさせ、その結果として彼女が俺の家庭教師としてやってきたというわけだ。 彼女に勝つために、彼女に家庭教師をしてもらうとか、ありえないだろ。 「というわけなのでお引き取り願おうか」 「なんで?」 どこかフワフワした色白小柄女子は、こちらの要求を受け入れようとはしなかった。 「俺は貴様に勝つための方法を模索しているのだ。 本人にそれを尋ねて答えてくれるものか?」 「それは……」 案の定、彼女は言葉を濁した。 首席の座を譲る気のない相手に教わって、まっとうな成果が得られるとは到底思えない。 下手をすれば妨害工作とてあるだろう。 「そもそも、オマエが俺を上回ったということが信じがたい」 不正があったとは思いたくないが、どこか眠たげな女子に、自分の努力が攻略されたかと思うと歯がゆくてならない。 「でも……」 ここまで言われても、不吹肇は帰ろうとはしない。 俺に言い負かされて悔しいのか。そこまでして金が欲しいのか。 活力に欠けた、こいつがナンバー1というのはどうしても納得がいかない。 せめて悪党(おれ)を倒すのは正義のヒーローであってほしかった。 「いいだろう、この骨川須児様が貴様を選定してやろう」 「?」 「もういちど勝負だ。 真の力を発揮した俺に勝つことができたのなら、貴様を相場の倍額で雇ってやる。 その代わり、敗北したのならば貴様に価値はない。家庭教師の件は白紙にさせてもらう」 「勝負の内容は?」 「取り寄せた他校の問題がある。 中味はまだ俺もみていない。こいつで勝負だ」 「勝ったら本当に雇ってくれるの?」 「ふっ、まぐれが二度も続くと思うなよ」 「大丈夫、まぐれではないから」 勝利宣言とは裏腹に、その声には何故か力が入ってはいない。 そもそも負けたとは言っても1点差。 配点次第では結果は逆になっていてもおかしくはなかった。 俺はこんなヤツに勉強(どりょく)で負けたりはしない。 ・6日目 「何故こんなことになったんだ?」 不吹肇に二度目の敗北を喫した俺は、呆然としつつも昨日の出来事を振り返る。 † 「勝負はグラマー・数B・現代文の三教科のみだ。いいな」 俺の出した条件に不吹肇はためらいなくうなずく。 問題用紙も解答用紙も一部しか用意していないため、六三四に頼んでコピーをしてもらう。 条件はフェアにみせかけてわずかに俺に有利になっている。 おなじ2年でも、学校によってテスト範囲に若干の差があり、出題傾向にもバラつきがある。 だが、俺は難題珍問を容易する先生たちへの対策として、すでに高校教育で習う内容は確認済みだ。 イレギュラーな状況でこそ、普段からの準備がものをいう。 ――こんどは負けぬ! 勝負がはじまると、シャープの芯が解答用紙でカリカリと削られていく。 審判役の六三四が、時計と俺たちの様子を確認する。 まさか家庭教師に来て、カンニングの準備なんてできていないだろう。 俺もそんなものでリベンジする気などサラサラない。 六三四もそれをわかっているハズだが、一瞬の油断もなく俺たちをみつめている。 消しゴムは使わない。 ただ、問題用紙がめくられ、シャープの芯が削られる音だけが響きつづける。 「終わったわ」 「こっちもだ」 三教科合わせて二時間を予定していたが、両者ともそれよりも早く終わったので切り上げることにした。 正直、もう一度見直しをしたい気持ちはあったが、かけた時間の差をいい訳にされたくはなかった。 埋め尽くされた互いの解答用紙を交換し、採点していく。 採点に不満があれば、その場で確認すればいいだけの話だ。 どうせミスはほとんどないだろう。 そして採点が終了する。 「嘘だろ」 俺は自らに驚嘆を禁じ得なかった。 不吹肇の解答にはたった一問のミスもなかったのだ。 自らの採点を信じきれずに、なにかひとつでもミスはないかと目を皿のようにしてチェックする。 それでもミスがないことを確認すると六三四の様子をうかがう。 軽く首を振る彼女は、テスト中の不正は確認できなかったと言う。 彼女を出し抜くカンニングなどありえるわけがない。 「くそっ、認めてやる。貴様がナンバー1だ」 苦渋ながらに、自らの転落を認める。 「それはどうでもいいから、バイトとして雇って」 こいつ、俺様に勝っておきながら……。 屈辱をかみしめる俺を余所に、不意に六三四が質問を投げかけた。 「ところでこの問題って、我が校のものよりも難しいでござるよな?」 「いや、学校のレベルとしてはおなじくらいだ」 ただし、問題を作った教師の授業を受けていない分、範囲や問題傾向にズレはあるだろう。 六三四には難しく思えたのかもしれない。実際俺も今回は3問もミスを出した。 「そうでござるか。 須児殿が点を落としたのに、不吹殿の点があがったのが疑問だったでござる」 「……よくわからない」 俺と六三四にはその言葉こそわからなかった。 俺を超えるほどの学力をもちながら、彼女は復習をしていないハズがない。やはりなにか不正があるのか? 怪訝な様子の俺たちに気づいたのだろう、不吹肇はそれまで感情のノリが悪かった表情をわずかにゆがめる。 そして、ぼそりとその理由を話しはじめた。 「えっと、数Bのテストの時、お天気がよかったじゃない」 「そうだったか?」 さすがに、テスト中の天気まではうろ覚えだったが、六三四の同意からそれが真実であろうことを確かめる。 「だからウトウトしてるときに、その……こぼれちゃったの」 「なにをだ?」 彼女は視線を逸らし頬をあからめる様子を、こんな表情もできるんだなと思いつつたずねる。 「ちょっと、ちょっとだけだから」 「だから、なにをこぼしたんだよ」 「よだれ」 回答欄は無事だったものの、こぼしたよだれで、途中式が消えたために減点されたという。 「「…………」」 つまり彼女はいまだ俺ですら為し得ていない1000点(パーフェクト)を採るだけの実力をもちながら、うたた寝をしたせいでそれを台無しにしたというのだ。 ・7日目 「ふんすふんすふんすふんす。 ふんすふんすふんすふんす」 部屋の隅では不吹肇が「無残様可愛い」と、六三四の私物のマンガを読みふけっている。 よほど気に入ったのか、ぜんぜん力のこもっていない鼻息が荒い。 家庭教師として派遣されたハズの不吹肇であったが、その能力はへっぽこであった。 問題を解答する能力は非常に高いのだが、それを一般人に教えることができないのだ。 あるいは同レベルの知識を所持していれば、彼女の説明も理解できるのかもしれないが……凡才(オレ)には無理だった。 「それにしても、すっかりお荷物を預けられた形になったでござるな」 勉強を教えることができない以上、不吹肇に価値はない。 六三四の祖父もそれをわかっていたから、親類縁者に押しつけたのだろう。 学校でのバイトは禁じられてはいないが、彼女にはどうにも一般的な常識というか、感性に欠けている。 優秀な学力を持つ生徒が妙なバイトをせぬよう、安全が確保できるバイト先を融通したというワケだ。 「っていうか貴様、いつまでマンガを読んでいるつもりだ」 「鬼滅は面白いので仕方ないでござる」 「(コクコク)」 「そんなんどうでもいい! 勉強の邪魔になるから部屋から出ていけ」 「でも、あたし、家庭教師……」 「教え子の部屋で、黙々と鬼滅を制覇していく家庭教師などいるか!」 「それは一理あるでござるな」 一理どころの騒ぎではない。 「貴様は、なにもしなくていいから、俺の視界から消えろ」 「でも、勝ったら雇ってくれるって……」 「ぐっ。だがしかし、俺の目的は貴様というライバルを打倒して、首位に返り咲くことだ。 貴様はわざわざ敵に塩を送るというのか!?」 「骨川はテストで一番になりたいの?」 「ああそうだ、そのためには貴様が邪魔だ」 それを聞くと、なにか納得したようにうなずく。 「だったらあたし、次のテストお休みするね」 「そそそっ、そんなん認められるかー!!」 それで解決だと言わんがばかりの不吹肇を、俺は怒鳴りつけた。 「俺は自らの努力で勝利をもぎとりたいのだ。 それをなんだと貴様。お休みする? 馬鹿にするのもいい加減にしろ。 そんなの金で順位を買ったのとおなじじゃないか」 「こらこら、須児殿、あまり熱くならないでござるよ」 「熱くならずにいられるか。 こいつは勝てないなら不正をすればいいと堂々と言ってのけたんだぞ!」 「ですが、言い過ぎでござるよ」 気づけば不吹肇は身体を小さくし震えていた。 その姿は親に叱られた幼子のようで、俺を戸惑わせる。 「その、なんだ……すまなかった」 「彼女はちょっぴり、問題を抱えているようでござるな。 まるで誰かさんのようでござる」 そう呟きながら六三四は、不吹肇を抱き寄せ、安心させるようにポンポンと背中を叩くのであった。 † 「なんでこうなった?」 「須児殿の意向を汲んだ結果でござる」 「そんながわけなかろう」 不吹肇は鬼滅の続きをフンスフンスと鼻を鳴らして読んでいる。 そこに変化はない。 だが、その服装はアキバで客引きをしているような、いかがわしいメイド服に替わっている。 「可愛い、かな?」 おそるおそるたずねる不吹肇を「うんうん」と六三四が褒める。 「須児殿もそう思うでござるな?」 「はっ、知ったことか。 俺は勉強をする。 せいぜい首位を陥落するその日まで、いい気になってるがいい」 不吹肇は、俺がメイド服に興味がないことを知ると、一瞬だけしょんぼりとしてみせるが、「勉強頑張って」と小さな声で応援する。 くそっ、こいつはまるでわかっちゃいない。 † 「不吹殿、ちょっと買い物を頼まれて欲しいでござる」 「お買い物?」 まるで小さな子どもがするように小首をかしげる。 「今夜は夕飯にカレーを作ろうと思っていたでござるが……迂闊なことに材料を切らしてしまったでござる。 そこでメイドさんにフォローをおねがいしたいでござるよ」 「わかった」 冷蔵庫には、金目鯛が入っていて、今夜はそれを焼くことになっていたハズだが、変更になったらしい。 注文したのは六三四でも、調理するのは俺なんだがな。 メモ用紙を確認した不吹肇は、買い物籠を手にかけ、玄関を出ていく。 その様子に初めてお使いを頼まれた子どもを見るような不安を覚えた。 「さて、あとをつけるでござるよ」 さも当然のごとく尾行を提案する六三四。 「たしかに俗世に疎そうなところはあるが、なんで俺が尾行なんぞにつきあわなければならない」 「気にならないでざるか? 若い娘さんが、普段とはちがう格好で街にでる様子が。 あの容姿にメイド服は衆目を集めるでござるよ」 「六三四、おまえオヤジがまざってないか?」 「そんなことはないでござる!」 思い当たる節があるのか、滅多にみられぬ動揺をみられた。 「それより、見失わないように気をつけるでござるよ」 「だから俺はいかんと……」 「ほらわがままを言わないでござる。 拙者は護衛対象の側を離れるわけにはいかないでござるのだから」 だからって、その対象を引き釣り回すってのはどういう了見だ。 † 「なぁ、あいつはなにやってるんだ?」 「なかなか初々しいでござるな」 買い物かごをぶら下げた不吹肇(メイド服姿)は商店街途中に向かう途中で猫と戦っていた。 いや戦うというには語弊がある。 道中みかけた猫を触りたそうにしているのだが、猫に威嚇され手を伸ばしきれないでいる。 普通の野良なら警戒心から逃げ出しそうなものだが、どうやら不吹肇は猫よりも下にみられているようだ。 「あんなヤツに負けたと思うと、悲しくて涙の海でおぼれそうだ」 「ロマンチックでござるな」 そんな良いもんじゃない。 「それよりいま気がついたんだが……」 「なんでござる?」 「あいつ、こともなげなく全問正解やってみせたよな」 「すごかったでござるな」 「俺がどれだけ頑張っても、互いに全問正解だったら引き分けどまりで、勝てねーじゃねーか」 「贅沢な悩みでござるな」 「しかもだ。 同位の場合五十音順に名前を掲載するから、不吹(ふぶき)は、骨川(ほねかわ)の上に書かれ続けるんだよ」 なんという屈辱。 これから先、俺はどれだけ努力しても、あの阿呆っぽい幼女もどきの下に敷かれなければならないのだ。 「でもほら、彼女だって、まちがえることもあるのではござらぬか?」 「勝利のために相手のミスを願うのはちがう」 「須児殿は、ちっちゃいのかおおきいのかわからないでござるな」 そんな会話をしていると、不意に悲鳴が聞こえた。 みれば、猫は姿を消し、ガラの悪そうな男どもが、不吹肇の身柄を拘束しようとしている場面だった。 「幼女誘拐は重罪でござるよ」 軽口とともに袖元に隠した警棒を引き抜く六三四。 難なく男どもをたたき伏せていく。 俺もなけなしの正義感をふるって援護に出る……が、それがよくなかった。 逆に叩きのめされ、それを救おうとした六三四に隙ができる。 六三四は俺と不吹肇を秤にかけ、瞬時に俺の救出を選択。 それを無事成功させるが、その隙に不吹肇はワゴン車に乗せられ、どこかへと連れ去られたのだった。 † 「何故、俺を助けた」 あのとき攫われそうになっていたのは不吹肇だ。 状況が切羽詰まっていたのはヤツのほうでまちがいない。 なのに六三四は俺を助けることを優先したのだ。 「そんなの、護衛としての役目を優先した結果でござる。 須児殿だってわかっているのでござろう」 俺が余計なマネをしなければ彼女を助けることはできたハズだ。 「拙者は、正義感から行った行動を否定するつもりはござらん」 「だがしかし、結果としてだな」 「次からは気をつけることと、正義感を出すのなら、普段からの走り込みはもうちょっと増やしたほうが良いでござるよ」 「ぐっ」 「さて、まずはなんで彼女が攫われたのか、そのあたりから確認してみるでござる」 そう言うと、六三四は袴の内側からスマホをとりだし、どこかへと連絡を入れたのだった。 † 「だいたいのところはわかったでござる。 彼女はさる高名な科学者のひとり娘だったでござる。 その科学者……女性なのでござるが、未婚でDNAバンクから優秀な遺伝子を購入し、ひとりで産み育てたでござる」 「超良血のサラブレットというわけか」 「その母親が事故でなくなり、そのせいで彼女の出産と養育にかけた借金がまるまる残っていたそうでござる」 「いまどき借金のとりたてに、身柄を拉致するとかあるのか?」 「あるところにはあるらしいでござるよ。しかも彼女が優秀なのは知っての通りでござるから」 「だからって……」 「それよりどうするでござる?」 「どうとは?」 意図が読めずに聞き返す。 「このまま放置しておけば、ナンバーワンに返り咲けるでござるよ。 冬休み前にひょっこり現れた転校生が、三学期になってもこなくても、たいして気にされないでござる。 親しい友人もいなかったようでござるし、引きこもりののち退学、とでも噂を流しておけば忘れられるでござろう」 「おまえ、本気で言ってるのか?」 「とーぜんでござるよ」 だが茶化した表情は、俺の選択を確信してのことだろう。 「不吹肇を助けにいくぞ」 「理由もないのにでござるか?」 「あいつはうちのメイドだ。 就業中に攫われたのなら、助けるのは雇用者の義務だ」 「須児殿の、そういうとこ好きでござるよ」 「褒めたって、給料はあげないからな」 「それは残念でござる」 ・8日目 ――きっと罰があたったんだ。 薄暗いごちゃごちゃした部屋でそんなことを思う。 ちっちゃな頃から、あたし――不吹肇は問題を解くのが得意だった。 問題を見れば、その意図と答えがなんとなくわかるのだ。 それを説明するための答えは存在しないため、その方法を教えることはできないんだけれど。 お母さんはそんなあたしをよく褒めてくれた。 あたしはそれが嬉しくて、たくさん勉強して、たくさん褒めてもらった。 学校の問題はどんなものでもだいたい解ける。 暗記に必要な範囲は決まっているし、テストに出る話題は事前の授業で全部聞いたものだ。 数学や国語の問題だって、問題用紙に載せられた情報だけで解けるように作られている。 だからあたしはまちがえたことはなかった。 テストの答えは。 そう、あたしに答えられるのはテストの解答だけなのだ。 科学者だったお母さんは、自分で問題を探し、それを探求することをしないあたしに失望した。 あたしは教わったことしかわからない学校の勉強しかできない頭の悪い子。 お母さんの希望に応えられない出来損ない。 やがてお母さんが病気になっても、その看病すらろくにしてあげることができなかった。 それにお使いだって失敗しちゃったし…… あたしは本当に役立たずなんだなと思う。 きっと暗いこの部屋で、死ぬまでここで閉じ込められるんだ。 だって、誰にも必要とされていないんだから。 急に開いた扉から差し込んだ光が網膜をくらませる。 そこに立っていたのは、こわい男の人じゃなくて、同級生の骨川くんだった。 骨川くんは童話に出てくる王子様みたいに言う。 「またせたな」って。 † 指定暴力団の事務所を六三四が圧倒的な暴力で制圧すると、不吹肇の身柄を解放させた。 組の若頭とも話をつけ、俺が彼女についた借金を肩代わりすることで和解した。 「おまえら、借金を払うつもりがあるなら、なんでこんなマネしやがった」 苛立ちを隠し切れていない若頭に六三四が告げる。 「そんなの決まっているでござるよ。 骨川グループの御曹司を傷つけたのでござる。この程度の相応の報復は当然でござろう」 事務所ひとつ潰して、この程度よばわりしないで欲しい。 「骨川グループだと!?」 先祖代々続く財閥の末端につらなる一族だったが、商才のあった父がそれを巨大化させ、いまは大企業のひとつと数えられるようになっている。 俺がそれを継げるかは未定だが、急激な成り上がりに対して不満を持つものは少なくない。 そこで六三四が護衛としてつけられているのだ。 彼女が学校で学ランを着ているのは男子として登録し、体育もトイレも離れずに済むようにとの配慮だ。 常に美少女と一緒にいられるという俺へのプレッシャーへの配慮はされていない。 信じられるか? あいつ、男子更衣室で平然と体操服に着替えるんだぜ。 ・9日目 「ところでさ、六三四」 「なんでござるか?」 「今回の件って、おまえの手引きか?」 「今回の件とは?」 「不吹肇の転校」 「そうでござるよ」 あっさりと認めやがった。 俺は骨川グループの社長の息子である。 他に兄弟はいないため、その将来は期待されている。 「いずれグループの重役を任されるであろう須児殿が、敗北を知らないというのは非常に危ういでござる。 だから父上殿からたのまれて、適当な人材を見つけてきたでござる。苦労したでござるよ」 同年代で俺に勉強で勝てそうな人材がみつからず、アメリカに留学していた彼女を呼び寄せたという。 むろん、そこには彼女側の理由もあったのだが、無茶をしてくれる。 「挫折の味はいかがだったでござるか?」 「最高だったよ」 しかも、いまだ勝ち筋がみえないため、それをまだまだ味わい続けなければならない。 「それともうひとつ、ショックな事実を教えてあげるでござる」 「勉強(どりょく)で負けたこと以上に、ショックなことなんてないね」 「そうでござるか?」 「なら言ってみろ」 「実は彼女、まだ13歳でござる」 三途の川がちょっと見えた。 |
Hiro HCxX8bUhHA 2020年05月03日 23時30分39秒 公開 ■この作品の著作権は Hiro HCxX8bUhHA さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2020年06月01日 21時11分59秒 | |||
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合計 | 13人 | 200点 |
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