ヒント探偵 |
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俺は探偵の光永珀太。 殺人事件で推理を披露するといった創作の中の探偵では勿論無く、依頼を受けて様々なことを調査する事を生業としている。 と言っても、それだけでは食っていけないから、どんな内容でも依頼されたらなんでもする、何でも屋のようなしがない私立探偵だ。 だがそんな俺でも、小さな推理をすることとがあり、それがヒントと成り大事件を解決に導くことになる。 そのことを指して、ヒント探偵なんて茶化して呼ばれるたりする始末さ。 これは俺の小さな推理で解決した事件の、その一つだ。 「こっんにちはー!」 椅子に座って眠っていると明るい少女の声が事務所内に響いた。 「はぁ……」 古いビルの貸し部屋だから他の部屋に音が響くと何度も言っているのに、改めない少女に対して溜息が出る。 「相変わらず、テンション低いですねー」 「普通の音量の声で入ってくれたら、テンション下がらないんだけど。 まあ、こんにちは、春美ちゃん」 視線だけ扉の前に向けると、女子高生ぐらいの少女が立っていた。 「学校は? まだ昼ぐらいじゃないか。 サボり?」 「珀太さん、今日からゴールデンウィークだよ?」 「そういやそうだったなぁ. って、いや今日は祝日でゴールデンウィークではないだろ」 カレンダーを見て否定する。 「いやいや、明日明後日を自主的に休みにして八連休だってする人だっているんだから今日からゴールデンウィークなんです。 そんなところで昼まで眠ってるから、ボケるんですよ」 「あー、はいはい。 それと今日は朝はきちんと起きて、今ちょっと仮眠を取ってただけだ」 「ということは、午前は仕事してたんですか?」 「今回の依頼の調査報告書を作ってた」 「あれ、依頼は報告込みで昨日までだったんじゃ。 だから今日遊びに来たのに」 「それが、調査を終了するギリギリになって尻尾出してなぁ。 報告する日を延ばしてもらって、昨日まで調査してたんだよ。 だから、まだ仕事終わってないの」 「えーマジですか。 行ってみたいラーメン屋奢ってもらおうと思ってたのに」 やっぱり調査料が入ったのを見越してたかりに来たのか。 「残念だったな。 そういうことだから、製作途中の調査書の続きをするから、帰ってくれ」 「珀太さん酷いなー、こんな可愛い女の子より仕事を優先して追い出そうだなんて。 どうせ依頼人への報告って明後日ぐらいにするんでしょう? 午後ぐらい良いじゃないですか」 「相変わらず察しがいいね、お前。 確かに余裕はあるが、今日中に形にはしておきたい。 だから、友達と遊びにでも行ってくれ」 「今日は誰も捕まらなかったんですよ。 それに、ゴールデンウィーク中はガッツリと友達と遊びに行きますから、当分来れないので、その間寂しい思いをする珀太さんに楽しい思い出を残してあげようと遊びに来てあげたんですよ」 「そりゃどーも。 無理に来なくていいから、帰って宿題でもしていろ」 「え? 宿題って貰ったその日の内にする物ですよね?」 「あ、そう……」 くっ、なんていう優等生発言。 しょうがない。 「……どうせ、今行っても人多いだろうから、一時過ぎになったらラーメンぐらい奢りに連れて行ってやるよ。 それまで、大人しくしておくこと」 「わーい! そう言ってくれると思った、流石珀太さん。 テレビ見ていい? ゲームしてて良い?」 「ヘッドホンするならなー」 「おっけー」 リモコンを掴んでソファに座る春美ちゃんを眺める。 なんで懐かれちゃったかなー。 切っ掛けは分かっている。 数ヶ月前に逃げた飼い猫を探し出して欲しいという、実際には漫画でしかないような依頼をしてきた、あの日からだ。 『今朝方に死体が発見されました――』 春美ちゃんがワイヤレスヘッドホンのスイッチを入れる僅かな間にそんなニュース情報が聴こえた。 「だあー……、やっと終わったー」 今回の浮気調査も内容自体は普通だったが、やっぱり依頼人の感情がありありと感じられるので、精神的に疲れる。 「俺もゴールデンウィーク、どっかに遊びに行こうかなぁ」 ぼー、としていると事務所のドアが開いた。 「こんにちはー、珀太さーん」 春美ちゃんが入って来た。 「あれ? ゴールデンウィーク中は来れないんじゃなかった?」 「ちょいようでねー」 ちょっとした用事、嫌な予感しかしない。 「叔父さんが、今日ゲームしようかって」 「があーっ、やっぱりか!」 「ってことだから、頑張ってねー」 春美ちゃんは言うだけ言って出て行こうとする。 「ゴールデンウィークは休もうかなって」 「はっはっはっはっ、私が許さないぞっ」 「春美ちゃんに許されなきゃいけない理由は……」 「それに今日はまだ平日だからね」 「あーソウデスネ」 「楽しみにしてるねー。 じゃねー」 風のように去って行った。 「はあ……」 毎度の事ながら、春美ちゃんの叔父さんとゲームをすることになる日には、初めて会った時のことを思い出してしまう。 猫捜索の依頼をされたあの時は暇で、次の依頼が入るまでと格安で引き受けた。 多少苦労したが、数日で猫は問題なく見つけることが出来た。 そして、猫を事務所に引き取りに来た時に、普段は依頼人と会う時にはテレビをつけないが、猫を渡すだけだしいいかと、そのままにしていたのだが、ある事件のニュースが流れた。 それを見た春美ちゃんが、冗談めいてこういう事件を推理して犯人探しとかしないんですかとか言ってきた。 つい俺はその言葉に乗って面白半分冗談半分で幾つかの媒体で見た事件の情報を元に、推理とは言えないような事を語ってみせた。 それを春美ちゃんは、警察官の叔父さんに言ったそうだ。 そうしたら、まさにその事件を担当していた彼女の叔父さんに大いに役に立ったらしい。 その時の叔父さんは、ちょっと行き詰っていたらしく、大分感謝されて美味い物を食べに連れて行ってもらったそうだ。 それからも、ちょいちょい似たようなことがあり、叔父さんが俺に興味を持ち始める。 ちょっとした交流の末、現状春美ちゃんは叔父さんと俺のパイプラインとしての役割を担うことになった。 叔父さんが俺に用がある時は春美ちゃん経由で連絡してくる。 その用事というのが現在自身が受け持っている事件の相談なので、明るみに出ると不味いことになる。 だから二人の共通の知人となる春美ちゃんが受け持つことになった。 そして、協力関係を結ぶ時に、俺は手伝った際の助言に責任を持たなくていいことを条件にして、その代わり、報酬を受け取らないとした。 ただ叔父さんは協力してもらって何も報酬を渡せないのは悪いと言って、俺の稼ぎでは手に届かないような食事を奢ってくれることとなった。 その際に、連絡役の春美ちゃんも同行するという感じに話がまとまる。 まあ、ようは美味しいものを食べるための手段として利用されている。 利用されてはいるが、俺も創作の探偵みたいなことが出来るので悪い気はしなく、ちょっとした相互利益関係を築いている。 『いやー、久しぶりにお前とゲームをするとなると、腕が落ちてないか気になるよな、お前の腕が落ちてないか』 そうネット通話で春美ちゃんの叔父さん―― 三良さんが言ってくる。 「いやー貧乏暇無しで」 はっはっはっ、と愛想笑いを返す。 「それで今日はどうしたんですか?」 『本当なら手を貸してもらわなくてもいい案件だったんが、上司の無茶振りで、な』 画面の向こうで三良さんが溜息をついた。 「大変っすねー」 『この前の祝日に見つかった死体のことは知っているだろ』 「あーそういえばそんな事件ありましたね」 『まあ、ぶっちゃけると殺人事件なんだが、被害者がちょっとした有力者でな。 たまには警察の良い所を見せたいとか上司がのたまわってな。 早期に解決しろってお達しが来たんだよ』 三良さんは頭を抱える。 「あー……まぁ、サラリーマン公務員頑張ってください」 『お、まっ……! ……ふう、本題の前にストレス解消に付き合え』 「ヤー」 一時間ほど三良さんは、流石警官と思うほどにキル数を叩き出していった。 『お前、腕は落ちてないけど上がってもないなぁ』 「いやどっちかっていうとオフラインのロープレ専門ですもん」 『だとしても、キル数をデス数より多くなるようにはなって欲しいけどな。 まあいいとりあえず本題に入るか。 いつも通りに俺が考えた創作だからな?』 やっと本題に移れた。 本題、それは三良さんが現在受け持っている事件の相談だ。 部外者の俺に相談するなんて完全にアウトなので、三良さんが趣味で考えた小説の相談という体で誤魔化している。 その上で出来るだけ記録が残らないように、ゲーム上での書き込みやビデオチャットなどで情報を共有するようにしている。 『被害者は二十八日の十九時半から二十時の間に殺されている。 ただ死亡時刻は夜の未明だな。 発見は次の朝方だ。 殺害・発見された場所は同じ所で被害者の事務所だ。 死因は争った形跡と凶器と思われる血のついた家具から、もみ合いになって何かの拍子に倒してしまい頭を強くぶつけてしまった為と考えられる』 「即死ではなかったってことですか?」 『僅かな間だが意識が有ったみたいだ。 死体は頭をぶつけた所から離れた場所で見つかっている』 「ということは、もし救急車を呼んでいればあるいは?」 『救える可能性が多少ある程度だが、まあそういうことだな。 おそらくは、頭を打って気絶した姿を見て、犯人は殺してしまったと思ったんだろう。 実際はまだ死んでいなくて、被害者自身が固定電話で警察もしくは救急車を呼ぼうとしたが、また気を失いそのまま亡くなったって所だな』 「はぁ」 多少だが犯人に同情してしまう。 「殺害時刻がその時間帯っていう根拠は?」 『出入り口に監視カメラが設置してあって、その時間帯以外に出入りした者がいないからだ』 「それなら、それほど時間が掛からずに見付けられるんじゃ」 『それが赤外線カットフィルターが壊れていてな、人が来たしか分からなかったんだよ』 「ああ、なるほど。 他には?」 『盗られた物は無いので、強盗という線は今のところ薄い。 それと手にメモが握り締められていたんで、身近な者の犯行が濃厚だ』 「ダイイングメッセージですか」 『恐らくな。 メモには№2と書いてあった』 「ナンバーツー……。 何か関連できそうな物ありました?」 『今のところ全く無いな。 なんで、とりあえずこれのことは除外して、動機がありそうな人間を調べて三人が浮かんできた』 「犯人分かるのも時間の問題じゃないですか、俺必要ですか?」 『それが三人ともアリバイがあってな』 「なら違うのでは?」 『とりあえず、今の段階ではだからな。 時間をかければどこかでボロが出ると思うんだが、困ったことに今回はあまり時間をかけることが出来ない。 最終的には開き直って時間をかけて捜査するつもりだが、まだ三日しか経ってないからな、出来るだけ上の指示に従うつもりで動いている。 だから、この三人とは他に新しい容疑者がいないかで四つの班に分けて調べている最中だ』 「じゃあ、とりあえずその三人について考えたらいいんですね」 『ああ。 それで三人の情報だが名前は――』 「ちょっと! 名前ですか? イニシャルとかじゃなくて?」 『ダイイングメッセージのことを考えると、一応教えておいた方がいい気がしてな。 まあ、お前なら記録を残すことは無いよな?』 「ええ、まぁ……」 難 波 ・ 都 ワールドログに漢字一文字づつ名字と名前の間に点を挟んで書かれる。 『いなしお みやこ。 三十八歳、女性だ』 なるほど、他のログが間に挟まるから、これなら多少は名前には見えない。 井 谷 ・ 周 雄 『いげた ちかお。 三十歳、男性』 番 ・ 光 次 『つがい こうじ。 四十九歳、男性だ』 とりあえず、携帯でメモをとる。 「えーと、なんば、いたに、ばん、と……」 『おい……』 「特殊読み過ぎて……。 ちなみにどっちが本当なんです」 てっきりわざと珍しい読み方で情報を誤魔化したと思ったのだが。 『俺の方だ』 「マジ大丈夫ですか?」 『だから、気を付けてくれ』 三良さんは念押しする。 「わかってます、それで各アリバイは?」 『まず難波だが』 自信が経営しているお店の事務仕事と翌日の準備で一人で残って働いていということだ。 店の監視カメラを見る限りは、殺害時間近くまで仕事をしている姿が映っていた。 オートロックの履歴も仕事を終えて店から出た時以外の出入りした情報はなかった。 お店から現場までは足で行ける距離ではあるが、彼女が店から出た最後の記録の時間から殺害時間に間に合うほど近くでは無かった。 そして、彼女が帰宅した時間のマンションの監視カメラに映った時刻に帰ってくるのも難しかった。 車を所持しているが、暮らしているマンションから歩いてこれる距離なので徒歩で通勤していて、その日にマンション駐車場に設置されているカメラには車を出庫している映像は無かった。 『次に井谷になるが』 説明によると、井谷さんはその日は旅行に行っていたそうだ。 本格的にゴールデンウィークが始まる前に楽しんでおこうと、祝日前日の夕方に出発して、宿で飲み明かして次の日は観光をしたそうだ。 アリバイとしては高速道路のETC情報が残っており、もし高速に再びのって折り返したとしても、犯行時間とされる時間までに現場には辿り着けないらしい。 『最後に番だ』 番さんはその日は日頃の不満を発散すかのように、酒を飲みまくってたらしい。 目撃によると被害者への恨み言も言っていたそうだ。 飲み歩きをしていて、かなりの泥酔していたらしく、手の付けられなくなった感じで、方角的に殺害現場に向かってふらつきながら歩いて行ったそうだ。 町中に設置されている監視カメラにもその様子が映っている。 最終的に朝方公園のベンチで寝ている所を発見されたが、最後に寄った店から出た以降の記憶は無いそうだ。 アリバイとしては監視カメラに最後に映っている場所から殺害現場まで、殺害時間に走ってギリ間に合うか間に合わないかの場所だそうだ。 泥酔具合から、無理だろうという見方だ 「アリバイを聞いた限り、変な所は無さそうですけど」 『現状だとそうだよな。 流石にお前に手伝ってもらうにも、まだ情報が少なすぎたか』 「そういえば、発見された時の詳細な様子を教えてもらってないですね」 「ん? そうだったか。 とはいえ、さっき簡単に説明した以上のものは無いがな」 被害者は椅子に座って机にうつぶせで倒れていた。 右手には№2と書かれてメモを見つからないように握り締めていて、左手は固定電話の受話器を取ろうとしている途中で気を失ったのか左下部分に添えるように手が置かれていそうだ。 「ただ気のせいかもしれないが、スクエアのボタンを押そうとしてるかのような人差し指がちょっと気になったかな」 説明された様子を、脳内で作ってみる。 「スクエア?」 一瞬疑問に思ったが、すぐに何のことか思い出す。 「三良さん、あれのことそう呼ぶんですね」 『そうか? 元々そう呼ぶもんだろ』 「まあ、そうですね。 今どき日本語読みする方が珍し……い」 『どうした、何か気が付いたのか?』 三良さんの問いに答えずに、閃いたことを頭の中で整理する。 「もしかしたら犯人分かったかもしれません、あくまでダイイングメッセージが示しているかもしれない犯人ですが」 『本当か!?』 三良さんに犯人の名前を告げる。 『いや、お前それって安直に……』 「いやいや、ちゃんと理由はありますよ」 結論に至った理由を説明する。 『……ふむ、なるほど。 有りか無しならアリだな』 「もし犯人が戻ってきてしまった時のことを考えた場合、年齢的に知らない可能性を考慮して、あんな風にしたんだと推測できますし」 『流石にこれで犯人と決め付けれないが、最優先で調べてもいいと思える程度には足りてるな。 よしこれをヒントとして明日から捜索してみるか』 明日からの捜査方針が決まったようだ。 「じゃあ、明日も早いでしょうから俺はこれで」 『はぁ? 今からが楽しい時間だろ。 小難しく考えてたんだ、今からまた狩りにいくぞ』 「ええ……」 それから日付が変わるぐらいまでゲームに付き合わされた。 数日後、ニュースで殺人事件の犯人は井谷 周雄と報道された。 「わーい、回らない寿司。 さすが三良叔父さん、懐が違う!」 春美ちゃんが寿司屋の前で興奮の声を上げる。 「お前なぁ」 三良さんが溜息を吐く。 俺が導き出したヒントで事件が早期解決して、今回は寿司を奢ってくれることになった。 「お前はついでなのは分かってるか? ちゃんと」 「ふっ……」 どこ吹く風だなぁ。 再び溜息をつく三良さんだ。 「それよりも早く個室いこうよ、予約してるんでしょ?」 「まぁな」 この叔父姪は、本当に仲がいいな。 「すまんな、お前の感謝の為の食事なのに」 「まあ、毎回のことですし」 先に店に入っていた春美ちゃんが顔を出す。 「ほら叔父さん早く、叔父さんがいないと案内してもらえないじゃない」 「はいはい」 個室に通された俺達は、お茶を飲んで一息つく。 「さて、お寿司が来る前に、今回叔父さんが珀太さんに助けてもらった事件のことを教えてちょうだい」 「解決した事件とはいえ、ぽんぽんと部外者に話すことじゃないんだが」 「え? そのための個室じゃないの?」 「違う」 「えー……」 「いつもは俺たちが事件に関係する会話を聞いてないふりをする程度の思慮があるだじゃなかというか、実際のところ興味ないくせに、なんで今回は聞いてくるんだ」 「いや、珍しく珀太さんが結構いいファインプレーしたんだぜって自慢してくるから、どんなのかなって」 俺に何かを促すように目を向ける。 「あー……、まあ、プライバシーに関すること以外ならいいじゃないんですか? テレビとかでもやってるし」 「お前もなぁ……」 苦言を言いたいようだったが、手伝ってもらった手前か溜息をついて逆に何かを飲み込んだ。 「……犯人周りだけだぞ」 更に溜息と共に出された言葉に春美ちゃんは、やった、と呟いた。 「早速だけど、ます概要を教えてよ珀太さん、ニュースで犯人は井谷って人だったけど、犯人を特定するヒントをどういう風に導き出したかを教えてよ」 「俺としては、アリバイをどう崩したのかそっちの方が気になるんだが」 「そっちも気になるけど、切っ掛けを作ったのは珀太さんなんだから、それを先に教えてもらわないと、私は知らないんだから」 そう言われて説明しようと口を開いたが。 「いや、ここは三良さんの話を聞いてからにしようか。 まあ、俺の話はそんなに長いわけじゃないし、どうやって俺がヒントに辿り着いたか考えてみたらいい」 「んー、まー、ただ聞くだけよりも面白いか」 「という訳で三良さんの話を聞かせてください」 「はぁ……、ああ、分かった。 流石に詳しい動機とかは話せないからな」 三良さんは二人いた容疑者に関わる情報は伏せて、それ以外に俺に話したことを春美ちゃんに教える。 「俺が井谷のアリバイを崩せたのは、奴が宿泊したホテルの近くにある宿で聞き込みをして、聴取で聞いていないことが見つかったからなんだ」 井谷のアリバイは高速道路でETCを使った記録とスピード違反で高速の自動速度違反取締機に写っていたことによって成立していた。 井谷が旅行に行っていた観光地は高速を使っても犯行時刻的に現場にいることは出来ない。 だが、井谷が泊まっていたホテルとは別に、友人と泊まっていた宿が見つかった。 「なるほど、そういうことですか」 井谷の車の所在がアリバイの根拠になっていた訳だが、その車が第三者によって移動させられていたのならば、アリバイが崩せることになる。 「共犯がいたっていうこと?」 「殺人自体は突発的にしてしまったことらしいから、共犯じゃなくて利用された形だな」 三良さんが言うには、元々は井谷の運転で旅行に行く予定だったが、当日に急遽用事が入ってしまいホテルで落ち合うことに変更して、友人に行きだけ車を貸したそうだ。 「その用事が被害者と会うことだったんですね」 「正確には被害者に関連することだったそうだが。 まあ詳しいことはプライベートなことだから、話は割愛する」 「突発的な用事だったから井谷の犯行は計画的では無いという判断になったんですか?」 「本当に突発的だったのかなぁ。 それになんでその友人に車を貸したの? 現地で落ち合うにしても、普通その人には交通機関使ってもらわない? もしくは用事が終わるまで待ってもらうとか」 「急用の内容は細工などで発生するものじゃ無かったし裏取りもちゃんとした、井谷の嘘じゃない。 車の件は前々からその友人が井谷の車を運転してみたかったそうでな。 ドタキャンにならなかったが予定を狂わせてしまったことには変わりはないしホテルのチェックイン出来る時間というのもある。 友人の熱烈な頼みもあって、まあお詫びのつもりで貸したそうだ。 それに友人が共犯者なら協力理由はあるもんだが、いくら調べてみても被害者と友人の接点が全く無かったし、井谷からの脅迫もしくは報酬を受け取らないといけない様な生活はしていなかった。 だから友人は白」 「それだけじゃ計画的犯行じゃないって言い切れないと思うけど?」 「まあ、パッと見では事前に用意していた計画的な犯行に見えるのは仕方がないが、アリバイ工作の穴は結構あるからな、流石に綿密に練られた計画として見るには杜撰だ」 「そうかー。 まあアリバイの切り崩せたのは近くのホテルの証言だっけ? ちゃんと計画してそれなら間抜け過ぎるか」 あとは高速の料金所には井谷のETC情報が残り、料金所の監視カメラにはサングラスをしていたことで、別人だとはっきりと判別できなかったらしい。 井谷が殺人を犯してしまった後は、公共機関を使い全て現金を使うことで出来るだけ痕跡を残さないようにしたんだそうだ。 そして、落ち合う約束をしていたホテルに行き、友人から鍵を受け取ると、車で近くの宿に行って一人で着たように見せかけてチェックインする。 そして、車を宿に残してホテルに戻る。 「確かスピード違反でカメラに写ってたけど、それもわざと?」 「ああ。 前日のアリバイ工作で大体完了していたんだが念のため、帰りに友人に睡眠改善薬を盛って後部座席に寝かせた上で、前日の友人と同じような格好をしてETCの監視カメラに写っている人物と同一人物と思い込ませようと思ったらしい。 まあ、気休め程度のつもりだったらしいがな」 「よく人を殺した後にそこまで思いつきますよね」 「これで突発的犯行って言うんだから、もし本気で計画されてアリバイ工作されてたら、いくらお前に手伝ってもらってたとしても、早期解決どころじゃなくなっていたかもな」 そう言って三良さんはお酒を一気に呷った。 犯人もよく考えつくなと思うが、俺の導き出したヒントが実際のところ本当かどうか分からない状態にも関わらず信じはすれど思い込まず、捜査を誤らないで出来る三良さんは本当に凄いと思う。 「で、分かったかい、春美ちゃん?」 「全然」 春美ちゃんは観念したように横に首を振った。 なら解説するかと、俺はそう言ってメモ帳に#と書いた。 「これ何かわかる?」 「ハッシュタグ?」 「はい、正解。 正確にはハッシュ、またはスクエアとも言われている。 SNSで見かけるから知ってるよな」 正直シャープと間違えるかなと思ってた。 ちなみにハッシュとシャープとの見分け方としては、ハッシュマークは横線を水平縦線を右斜めに、シャープは横線を右斜め縦線を垂直に書く。 「とりあえずこれは一端置いといて」 「置くんかい。 ていうか、固定電話の井の字に似ているハッシュボタンに指がのせられていたから、井谷が犯人だとわかったってこと?」 「流石にそれに納得して、俺は井谷に狙いを絞って捜査しない」 「そう、もうちょっとマシな理由さ。 それで被害者が残していたダイイングメッセージは『№2』だったけど、何を指していると思う?」 「うーん、犯人に関する何かだと思うんだけど、全くわからない。 特徴か仕事、あだ名や地位とか?」 「まあ、そうなるよな。 実際のところ、偶々俺も最近知っただけで、それを知らなかったら俺もわからなかった」 「それがさっきのハッシュのこと?」 「そう。 ハッシュは日本ではと番号記号といわれていてね『#2』と『№2』は同じ物なんだよ」 「へぇそうなんだ」 「それから、ハッシュは井桁とも呼ばれていて」 「ん、イゲタ? まさか……」 まあ、そこで分かるよね。 「そう、もう言わなくても分かってると思うけど、『№2』=『#2』=『井桁2』 ――イゲタニ、つまり」 「井谷と」 「うん、そういうこと。 あとは年齢的に一番知らない可能性がるのが井谷だったから。 個人的には間違いないと思ったけど、流石にこれで犯人とは断定出来ないから、最重要参考人にとして、三良さんは最優先で捜査したわけ」 「そういうことかぁー」 良かったとりあえずお嬢さんは納得してくれた様だ。 「でもこれって、知ってる人がいなかったらアウトだよね」 「まあ井桁自体は知ってるいる人は普通にいるから、あとはそれに転換できる人がいるかどうかだなぁ。 賭けにはなるけど、犯人に気付かれたら意味が無いから遠まわしになるのは仕方がない」 「恥ずかしながら俺も知らなかったから、ゴールデンウィークと相まって早期解決に至れなかった。 光永が知っていて、本当に助かったよ」 三良さんに褒められて、つい照れてしまう。 「私が褒めても照れないのに……」 春美ちゃんがちょっと頬を膨らませる。 「ま、今回は本当に助かったよ。 だから、やっぱりお前の能力を探偵にしておくのは惜しいと思う。 年齢的にまだ大丈夫だし、警察になってみないか?」 三良さんは度々誘ってくれるが。 「いや、俺は組織勤めは性に合ってないんで、やめておきます」 「そうか。 ま、時間はまだあるからな、気が向いたら教えてくれ。 それまでは、また手を貸してもらうこともあるだろうから、その時はよろしく頼む」 「お役に立てるか分かりませんが、わかりました」 そう言って、三良さんとグラスを軽く打ち当てた。 「あぁっ! 私だけ乾杯にのけ者なんズルイ!」 そう言ってコップを目の前に持ち上げる春美を見て、三良さんと苦笑する。 「それじゃーせーの! ヒント探偵にかんぱーい! なんてね」 三人で打ち鳴らした。 |
トウタカ 2020年05月01日 00時07分42秒 公開 ■この作品の著作権は トウタカ さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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