龍気争奪 |
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ある日の日曜に、ボクが珍しく学校の宿題をしていると、窓から真紅のチャイナドレスを着た女の子が入ってきた。服にはキラめく刺繍で金龍の姿が描かれている。ボクがびっくりして思わず見つめていると、女の子はボクに言った。 「ここから噴き出している龍気を止めるけど、いいわね?」 (何の事?) ボクは女の子にたずねた。 「龍気って、何なの?」 女の子は、ちょっと驚いたような顔をした。 よく見たら、すごい美少女だった。 女の子は、すこし考えてから言った。 「龍気は、大地をめぐる龍脈から地上に噴き出してくる生命力の根源なの」 「それじゃあ、なぜここの龍気を止めるの?」 チャイナドレスの女の子は、困ったようにボクを見つめた。こんな超絶美少女に見つめられるとドキドキするなあ。 女の子は、真剣な顔で話し始めた。 「私の故郷の中国では、龍気が衰え始めているの。だから作物の実りは少なくなり、経済は勢いを失い始めたし、良くない病気が流行している。このままでは食べる物が足りなくなり、動乱がおこるわ。中国大乱が起これば、たくさんの人が死んでしまう」 ボクは女の子を見つめながら言った。 「なるほど、大変なんだね」 女の子はうなずいて言った。 「ここの龍気を止めれば、祖国中国の龍気をよみがえらせることができると思うのだけれど……」 女の子は、だんだんうつむいていった。声が小さくなってゆく。肩を落としてうつむく姿は、とても可愛かった。 ボクはできるだけ明るく言った。 「いいよ、構わない!」 女の子は、顔をあげた。びっくりして目を丸くしている。それから、胡蝶蘭がほころんでゆくように、艶やかな笑みを浮かべて言った。 「ほ、本当なの?」 ボクはゆっくりとうなずいた。 「謝謝!」 そう言うと、女の子は床の上に正座して、ボクに深々と頭をさげた。 「そ、そんなことをしなくてもいいよ!」 ボクも、あわてて床に座りこんだ。 「君の名前は、なんていうの?」 チャオ・リ~ン、そんなふうに聞こえた。なぜか、偽名のような気がした。きっと本名を名乗れない事情があるのだろう。そう思ったから、「そうなんだ」、とだけ返事をした。 「ボクの名前は、……」 そう言いかけた時に、乱暴にふすまが開けられて、神父姿の大柄な男が部屋に入ってきた。幅の広い帽子をかぶり、弧を描いた枝を両手で持ち、……土足のまま部屋の中に入ってきた。 神父姿の男の後から、アメリカ軍の軍服を着て機関銃を構えた男たちが巨体をゆすりながら、次々と部屋に入ってきた。全員が軍靴を履いている。 (人の家に土足で上がりこんでくるなよ!) そう思ったが、恐くて口には出せなかった。 胡散臭い神父姿の男は、度の強い眼鏡のつるに触りながら、ボクたちを見つめた。 (あれ? 首につるした十字架の中央には、イエス・キリストではなく、頭蓋骨が刻まれているぞ) 男は、ボクの独り言を無視して語り始めた。 「やれやれ、エンペラーの御所からずいぶんと離れていたから、このパワースポットを探すのにずいぶんと手間がかかってしまいましたよ」 エセ神父は、チャオ・リ~ンを見つめると、いやらしい笑みを浮かべて言った。 「共産主義の中国が、このパワースポットを閉じようとしている? また合州国を脅かそうと陰謀を企てているのですね。我々がいる限り、そんなことはさせませんよ!」 神父は幅広の帽子をぬぐと、背負っていた光り輝く巨大な十字架を両手で持った。キンキラキンと派手に輝く巨大な十字架を逆さまにかかげて言った。 「偉大なるアメリカ合州国が、ありあまる金をつぎ込んで手に入れたゴッド・アイテム、強大な霊的兵器の威力を見せてあげましょう!」 チャオ・リ~ンは、エセ神父をにらみ付けている。凄まじい殺気と爆発的な力が急激に高まってゆくのが感じ取れた。 「ダメだよ」 ボクは後ろからチャオ・リ~ンの両肩を両手で押さえて言った。 何丁もの機関銃がチャオ・リ~ンに向けられている。逆らうのは命取りだ。ボクはチャオ・リ~ンの肩をつかむ手に力をこめた。 チャオ・リ~ンの肩は鋼鉄のように固かった。それが、ゆっくりと溶けていった。それからチャオ・リ~ンは静かに言った。 「没仏子(メン・フーズ)、しかたないね。今回は」 エセ神父は下品な笑みを浮かべると、金髪リーゼントを揺らしながら、十字架を床にたたきつけた。十字架は、いったん空中に浮かび、それからゆっくりと床にめりこんでいった。 「聖別されたるイコンよ、その力をここに示せ!」 神父はやたらと白い歯をむき出して叫んだ。矯正中らしく歯にはワイヤーが巻き付いていた。 「光あれ!」 床が透明になった。光をたたえた巨大な縦穴が現れた。深い、とにかく深い。底が見えない。 逆さになった十字架を取り巻くように、赤黒く濁った巨大な光の球が現れた。周囲に闇がまとわりついている。赤黒い光の球は、ゆっくりと膨れ上がってゆく。透明な縦穴を押し広げる。さらに膨れ上がりながら穴の底へと降りてゆく。 神父は両手を広げて言った。 「ぐはははは! 見るがいい。この穴をガバガバにしてやるぞ!」 部屋の屋根が、周囲の壁が、少しづつ透き通ってきた。 突然に穴の中から凄まじい量の光があふれ出てきた。高く高く吹き上がり、巨大な光の柱となって、上に上にと伸びてゆく。天まで届きそうな柱は、先端から崩れて大空を覆い、周囲に広がっていった。 「龍脈に届いてしまった」 チャオ・リ~ンは柳の葉のように細い眉をしかめて、絶望したようにつぶやいた。 「でも、これほど多量の龍気を噴出させるなんて……」 ここから先のことは、皆も知っているよね。 巨大な縦穴からあふれ出た大量の龍気は、日本を覆いつくし、中国、東南アジア、インドまで広がっていった。 龍気を浴び続けたためか、ボクの偏差値は20%あがった。学年の成績もあがって、先生に褒められた。 それから、チャオ・リ~ンがボクのクラスに転校してきた。ガールフレンドとして付き合ってくれている。 え? 何なの? よく20%も偏差値が上がる余地があったアルね、だって? ほっといてくれ! お礼のつもりだとしたら、いつまで付き合ってくれるのか、少し不安を感じながらも、毎日楽しく過ごしている。 日本で採れる農産物は増産に増産を重ね、多量の龍気を含んでとてつもなく美味くなった。通常の農作物の十倍の値段で海外に輸出されている。食べれば元気になり、幸運が舞い込むそうだ。 日本の工業生産も伸び続けている。日本製の自動車に乗っていれば事故にあわない、そんな噂がささやかれている。 日本の経済発展につられるように、韓国が、中国が、ベトナムが、そしてインドが、驚異的な経済発展をとげつつある。それと、南米ではブラジルの発展が凄まじいらしい。合州国の霊的兵器の威力が強力だったために、龍穴の拡大が地球の裏側まで届いたのかもしれない。 龍脈が大きく乱れたためなのか、合州国と中東、それにヨーロッパの落ち込みが目立ってきた。 合州国は、たびたび巨大なハリケーンに襲われ、そのたびに大きな被害を受けた。農業生産の落ち込みは目を覆いたくなるほどひどく、工業生産の低下もはなはだしい。たちの悪い病気が大流行して治まる気配がみえず、株価の下落もひどかった。 日本に追いつこうと、スランプ大統領は必死に合州国の立て直しをはかっている。でも、結果は思わしくない。 「アメリカ アズ No.2」への道のりは、果てしなく遠いようだ。 |
朱鷺(とき) 2020年05月01日 00時02分06秒 公開 ■この作品の著作権は 朱鷺(とき) さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2020年05月22日 18時49分14秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時50分04秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時50分36秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時51分03秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時51分31秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時52分41秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時53分08秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時53分39秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時54分15秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時54分39秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時55分02秒 | |||
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Re: | 2020年05月22日 18時55分34秒 | |||
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