ラスト・クリスマス・コンサート

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 ガマンならなかった。
 ピアノの伴奏が止まると、一息置いて指揮を振っていた先生が腕を下ろす。観衆に向かって一礼するのに合わせて私達も頭を下げると、大きな拍手が市民ホールを包み込んだ。
 先生の合図で舞台袖へと移動する間も、私は頭の血管が切れるんじゃないかと思うほど怒りがグルグルしていた。力を入れ過ぎた右手がぶるぶると震える。
 完全に舞台袖まで来ると、途端に張りつめた緊張の糸が切れた。上手く歌えず泣き出した二年生の先輩を、豪快に笑いながら慰める三年生の先輩。そんな先輩たちを見て、より強く思う。
 ガマンならなかった。
 先輩たちの間をすり抜けて、どこかやりきった顔で先輩と話す『彼女』まで大股に近づいて行く。
 手が届く距離まで来たとき、彼女――青空ウタは私に気が付いた。
「あ、ヒビキ、おつか――」
 最後まで言わせなかった。
 反射的に動いた右手が彼女の頬を打ち、パンと甲高い音が響く。周りの先輩やコンクールの進行に努めるスタッフさんの視線を感じたが、それで沸騰した頭が冷静になることはなかった。

「ふざけないでよ!」
 
 ありったけの罵詈雑言を浴びせて、手が上がらなくなるまで打ちのめしたい感情があふれ出る前に、先生や先輩たちが私達を引き離す。
「ちょ、ヒビキ! なにやってんの!?」
「叶井! 落ち着け!」
「ウタちゃん大丈夫!? 怪我は!?」
 何人もの人が間に入ってそれ以上何もできなくなった。かろうじて残っていた理性が、次の学校の演奏を邪魔してはいけないと警鐘を鳴らし、どうにか怒鳴り散らすことだけは避けることができたが、一度溢れた感情の渦は収まる気配がない。
 歯の隙間から漏れ出る荒い声に、敵意が滲む。
 私を見つめ返すウタの目は呆然としていて、この状況をまるで理解できていないようだった。
 それがいっそう、私の怒りを増長させる。
 彼女の傍に居たら、これ以上自分を抑えきれなくなる。私は私を抑える手を振り払い、その場から離れる。後ろから呼びとめる声が聞こえてはいたけど、頭には入っていなかった。
 私はガマンならなかった。



 高校入学後、初めての合唱コンクール地区大会。
 私とウタが声を重ねた最初のコンクールは、控えめに言って最悪なものだった。





                    * * *



「明るく・楽しく・元気よく! 今日も一日、ハッピーに歌いましょう!」
 青空ウタがそう言うと、合唱部の後輩たちに笑みが浮かぶ。中には苦笑いじみたものもあったが、空気が明るくなったのは確かだった。
「歌うことは楽しいこと。音を楽しむと書いて音楽と読み、唱を合わせると書いて合唱と読む!」
 えへん、と胸を張るウタに、後輩が茶々を入れる。
「ウタ先輩、それ先週も言ってましたよー」
「え、そだっけ?」
 思わずと目を丸くしたウタは、しかしすぐに開き直り、
「いーの! 良いことと大事なことは何度だって繰り返す! 一人で歌うより、みんなで歌う方が色んな歌が歌えるし、何より楽しい! 上手くいかないときも、間違えてしまったときも、楽しいと思えるように歌っていきましょう!」
「はい!」
 後輩たちが声を重ねる。そんな先輩後輩のやりとりを傍から眺め、小さくため息を吐く。
 楽しく、か。
 声にならない声は、音響を意識した作りになっている音楽室をもってしても反響させることはできず、すぐに始まった音合わせの音にかき消された。

 高校最初のコンクールから二年半が過ぎ、先輩たちは卒業。私、叶井ヒビキと青空ウタの二人しかいなかった私達の代も引退し、音楽の専門ではない顧問に代わってたまに後輩の指導をしにくるくらいの関係になった。今日はウタがメインだが、次に来た日は私が主に指導することになる。
 あまりにしつこく頼まれたので文化祭までは付き合ったが、私は私の受験があり、後輩にばかり構っているわけにはいかないのだ。
 が。
「……クリスマスコンサート~?」
 あからさまに嫌そうな声で繰り返す。そんな私の胸中に気づいているのかいないのか、ウタはいつもと変わらぬあっけらかんとした表情で肯定した。
「そう! 近くにある市民病院でね、普段娯楽らしい娯楽になかなか触れることができない入院患者さんに、クリスマスくらいは楽しい思いをしてもらおうってことで、院長先生から是非にって。ね? クリスマスソングとか元気になる歌を歌ったり、手拍子とかもらったり、クリスマスっぽいコスプレしたり踊ったりしたら、楽しいと思うんだよね」
「イヤよ」
 キッパリと断った。
「え~、なんで~?」
「そもそも私はもう合唱部を引退している身。あなたが参加するのはあなたの勝手だけど、私はもう関係ない。合唱部の活動なら、私が参加しなければならない義務はないわ」
「でもでも、ヒビキがいればもっと良い歌が歌えるし、何よりその方が楽しいし」
「楽しいかどうかで全部決められるわけじゃないでしょう」
「え?」
 まさかそこで不思議そうな顔をされるとは思わなかった。
「とにかく」と手を叩き、堂々巡りになりそうな議論を打ち切る。
「私は参加しない。やるなら希望者だけでどうぞ」
 ハッキリ言い切って音楽室を出た。
 閉めた戸の向こうから、かすかに声が聞こえる。
(うう~、どうしてヒビキちゃん出てくれないんだろう~)
(ウタ先輩が余計なこと言うからですよ)
(余計なことって?)
(ほら、ヒビキ先輩は歌はプロ並みに上手いですけど、元々コスプレとかするタイプじゃないし、なによりダンスは……)
(あー! そうだヒビキちゃん運動ド下手だったんだ! 体育のダンスとか一人だけドジョウすくいみたいになってたし! 笑い堪えるの大変だったよー!)
(だ、ダメですってそういうこと言ったら! そういうとこですよウタ先輩!)
 ぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっったいに参加しないと心に誓った。





               * * * 



 肌を刺すような冬の寒さも、日差しがあると随分と和らぐものだと、河川敷に降りてから気づいた。
 外にはいろんな音が溢れている。鳥の声、自転車のベルの音。川の流れは小さく、冬の木々を揺らす風は少し冷たくて、どこか尖っているように聞こえた。川の向こうからは、少年野球の元気なかけ声がここまで届いてくる。
 一度両手に息を当てて、手袋をつけ直す。
 両耳に手を当てて、音を遮断。
 目を閉じてしまうと、世界は私一人になる。
 それでいい。
 大きく息を吸い、歌う。
 小学校の頃に習った合唱曲で、一番お気に入りの曲でもある。自分の中にある理想の声と歌を脳裏にイメージし、全身を使って声にする。
 他人を気にせず、自分だけの世界で歌う。人の目すら、気にしない。
 合唱には合唱の良さがあるのは認めるが、やはり私は自分の思うままに歌う方が好きだなと、歌いながら思った。
 一番を歌い終えると、耳に当てていた手を外す。
 自分の中に描いた理想の歌に、自分の歌がどの程度近づけたかを聞きながら修正する。音が反響しない野外は雑音も多く、集中を欠けば途端に乱れていく。
 集中、と自分に言い聞かせて歌い出した、そのとき。
 同じ曲が、全く同じタイミングで、頭の上から聞こえてきた。
 ただ同じなだけではない。私が歌っていた主旋律に合わせて、完璧なハーモニーを作り上げる。
 屋外で雑音も多く、距離もある中で完璧に合わせられる歌い手を、私は一人だけ知っている。一瞬でも気を抜けば、たちまち主旋律を奪われてしまいそうなほどに存在感を放つその声の主に負けないよう、私はより集中力を高めた。
 歌い終わりに練習以上の疲労を感じながら、私は河川敷の上に立っているであろう彼女を振り返る。
 青空ウタは、いつも通りニコニコしながら私を見下ろし、「やっほー」と手を振った。



 またこいつか、という顔を隠さず、私はウタに声をかける。
「なにか用? ウタ」
「いっひひ、さすがヒビキ。相変わらず上手いね」
 何が楽しいのかわからないのか、後ろ手に私を覗き込むと、「やっ」と声をかけてきた。一人の時間を邪魔されるのは愉快ではないが、ウタの場合は珍しいことでもない。
「なに? なんか用?」
「うーん? あー、コンサートのお誘い、というか、お願い?」
「またその話……」
「まま、そう言わないで。ダンスはヒビキには頼まないからさ」
「ぜっっっっったいに出ないからね」
 はっきり釘を刺すと、ウタが慌てて両手を振る。
「だ、だからダンスは頼まないって。ちゃんとみんなもヒビキも心から楽しめる、最高のクリスマスコンサートにしてみせる。約束する」
「……ふん」
 胡乱気にのぞき込み、十一月下旬の寒さでかじかんだ手に息を当てる。寒いから早く帰れと言うアピールも、「はい」と手渡されたものを見て通用しないことを悟った。
 ペットボトルの温かいお茶を受け取ると、冷えた手に優しい熱が伝わる。
 ウタはホットレモンジュースを両手に挟み、一口飲んだ。
「……ありがと」
「どういたしまして。あ、ベンチ行こ。立ち話は疲れるしさ」
 何となく断れない雰囲気になってしまい、不承不承ウタについていく。
 風よけの壁もないが、簡素な屋根とベンチは置いてある小さな休憩小屋のようなところだった。ふうと一息つくと鳥の声が聞こえ、思わず落ち着いてしまった自分を自覚する。
「でもさ、なんでそんなに頑なに断るの?」
 ちょっとした雑談、という雰囲気でウタが聞いてきた。
「確かにヒビキは受験勉強もあるし、クリスマスコンサートはわたしの提案だからヒビキにとっては寝耳に水の話だったかもしれないけど、そう言いながら文化祭だって出てくれたし、人前に立って歌うのが嫌なわけではないんでしょ? ヒビキってムッツリ目立ちたがりだし」
「ムッツリって言うな。あと別に目立ちたがりじゃない」
 眉をひそめて訂正し、コキコキと首を鳴らす。
「ボランティアって好きじゃないのよ」
 少し驚いたような顔をしたウタに構わず、続ける。
「今回のことだって、なんで病院? 私達が本気で歌うのを聞いて喜んでくれる人なんていくらでもいる。その中でどうしてその病院だけを選んだの? それとも依頼があれば他の病院からも受けるの? 来年はどうするの? 私達は卒業して、来年新入生がいるかもわからない。私達の歌を聞いて、来年も聞きに来ようと思った人がいたのにもしやらなかったら、私達はその人の期待を裏切ることになってしまう。それとも一回限りって宣言する? したらなんで今回だけってなるけど」
 つまりさ、とつい感情が入って長くなってしまった言葉をまとめる。
「やるからには、きちんとやりたいの。たった一回、困っている人たちのために良いことをして良い気分になって、後のことは後の人任せ。そういうのは好きじゃない。偽善っぽくってさ」
「偽善……」
 しまった、口の中で思わず漏れた。
 そこまで言うつもりはなかった。おそらくウタは純粋な善意で受けたのだろう。私と考えが合わないというだけで、ボランティア活動やクリスマスコンサートそのものを否定するつもりはない。
「ごめん、言い過ぎた」
 あわてて謝罪の言葉を口にする。
「ん? ああ、いいよいいよ、ヒビキの言っていることもわかるし」
 意外なことに、彼女は怒ったり傷ついたりはしていないようだった。
「そっか……偽善かあ」
「い、いや、そこまでは」
「ヒビキはさ、音大に行くんだよね」
「そ、そうよ」
 急に自分の進路の話になって驚いたが、隠す気もないので肯定した。話の転換が急すぎてついていくのが精いっぱいだが。
「歌の勉強をするため?」
「もちろん。世界一の歌手になるために、より専門的に音楽を勉強できるところへ進む」
「世界一……」
 ホットレモンを持った手を止めて、ウタが私を見つめるのを感じた。
「私は歌が好き。そして、飛びぬけて歌が上手い。だからより上手くなるために音大に行きたいし、世にいる誰よりも上手くなれる自信がある。おかしい?」
「ううん。正しい」
 歌手は私の目標だ。夢と言うほど曖昧でぼやけたものではなく、今見据えている、進むべき道の途上にある通過点。
 自信過剰と笑う人もいるだろう。夢追い人と生暖かい声援を送る人もいた。
 私の選んだ道はそんなものではない。自信があるから、最短距離を選ぶ。
「わかっているなら充分でしょ。私には音大受験が控えている。だから自分の練習に集中したい。音楽室を借りたいから後輩の指導もする。クリスマスコンサートだって反対はしない。ただ私が出ないだけ。義務と義理はきちんと果たしていると思うけど?」
「そうだね、きっとヒビキは正しい」
「ならなんで」
「でも、わたしはヒビキともう一度一緒に歌いたい」
 それはあなたの希望でしょ、などと言っても無駄だとため息に変え、お茶に口をつける。
「わたしは、クリスマスコンサートが楽しいものになるって確信してる。でも成功させるためには、ヒビキが必要なんだっていうのもわかる。ヒビキのいないコンサートじゃ、わたしは楽しくない」
「だから、それはあなたの問題でしょ」
「なら、進路だってヒビキだけの問題じゃん」
 ああ言えばこう言う、というやり取りだった。私が間違っているという理屈はないはずだか、何を言っても言い返してくるだろう。揚げ足の取り合いで勝てる気がしない。
 いっそ黙ったまま帰るまで粘ってやろうかと思ったが、ふと一つあることを思いつく。
「……なら、条件付きで出てあげても良いわ」
「え!? なになに?」
「お金」
「ええ……」
「冗談よ」
 露骨に引いたウタの顔を見て口元に小さく笑みを刻みつつ、告げる。
「あなたがこれからずっと、私と一緒に歌うというなら、クリスマスコンサートに出る」
 ウタはぽかんと口を開けたままだった。意表を突かれた、あるいは度肝を抜かれたというのか、そういう表情をした彼女を見るのは面白く、飲み込んだとお茶が喉を通りぬけ、お腹から暖かくなるのを感じる。
「えと、それは、どういう?」
「私は世界一の歌手になる。でも、あなたも言っていたように一人より二人の方が歌える歌の幅は増えていく。今からあなたも音大を受験……は別にしなくてもいいわ。とにかく、将来私が歌手になるとき、あなたも私と一緒にステージに立ち、声を重ねる。あなたと歌えば私はもっと上手くなれる。もっと良い歌が歌える。私一人でも世界最高にはなれるけど、二人なら倍の速さで世界一になれる」
 言い終わってから、少し熱く語り過ぎたなと思った。だが、多少の高揚感はあっても恥ずかしさみたいなものはない。
 元々思っていたことを本人に伝えただけだ。
 青空ウタの歌声は本物だ。控えめに言って私と同等以上。
 彼女と歌えるのなら、世界一の歌手になるまで五年は短縮できる。
「……ごめん」
 たっぷり十数秒、あるいはそれ以上の沈黙の後、ウタは小さく絞り出した。
「誘ってくれるのは嬉しいし、わたしもヒビキと一緒に歌うのは楽しいと思う。でも、わたしはわたしで、夢がある」
「そう。まあ、思いつきで言っただけだから良いけど」
 口ではそう言ってみたが、思いのほか腹の底にずんと重いものが落ちた感触があった。少し冷めたお茶を啜っても、胸の内が暖かくならない。
 ふと、そういえばウタが将来について話しているのは初めて聞いたな、と思う。
「まあいいわ。交渉決裂ね。私は私の道を行く。あなたはあなたのことを考えていればいい。クリスマスコンサート、成功することを祈っているわ」
「でも! わたしはヒビキと一緒に歌いたい!」
 立ち上がった私を追いかけるように、ウタが私の手を掴んでくる。
「きっとこれがヒビキと歌う最後の歌になる! だから、めいっぱい楽しいステージにしたいの! お願い!」
「あなたねえ……」
 自分勝手な言いようだと言い返すより、どこか呆れた声が先に漏れた。
「『ヒビキと歌う最後の歌になる』って……それ、文化祭のときにも言ってたけど?」
「え、そうだっけ?」
「あなたには最後の歌が何曲あるのかしらねえ」
 新陳代謝の良い記憶力だこと。
 彼女らしいおかしさに笑みが漏れるが、ここで流されては文化祭の二の舞。心を鬼にして、彼女から離れようとした、そのときだった。
「あれ~? ウタちゃ~ん! 久しぶり~、どしたん? こんなところで~」
 不意に声をかけてきたのは、もう六十近い年齢と思われる男性だった。無精ひげによれよれのスーツは控えめに言ってだらしなく、ウタが「あ、先生!」と笑顔で答えなければ不審者扱いしていたような人物だ。
「こんにちは、先生。今日はお休みですか?」
「まー散歩? 息抜き? みたいなね~、おじさんは連続で仕事すると疲れちゃうから~」
「ちょっと、ウタ」
 ウタの肩を引き寄せ、突如現れた相手に聞こえないよう声を潜める。
「誰よあの人。見たことないけど。他校の先生?」
「ううん、病院の院長先生」
「あ、医者か」
 道理で見覚えないわけだ。
 そして、病院という言葉がクリスマスコンサートと結びつく。ひょっとしてこの人の病院が、ウタがクリスマスコンサートをしたいという病院なのか。
 その推測が正しかったことは、すぐに彼の口から証明された。
「ウタちゃんのいる合唱部のクリスマスコンサート、楽しみにしてるよ~。僕はもちろん、チラシを見たスタッフも患者さんもみんな今からそわそわしてるよ~」
 チラシ?
「あ、あ~? ひょっとしてこの子が、ウタちゃんの言っていた超絶天才美少女の叶井ヒビキちゃんかな~?」
「はい、合唱部のエース、ヒビキでぐぇっ」
「ちょっと」
 ぐいと肩を掴み、もう一度ウタを引き寄せる。
「超絶なんたらってなによ。私そんな人知らないんだけど」
「あ、えーっとね」
「ほら、これだよ~」
 後ろから院長先生に呼ばれ、振り返ると一枚のチラシを掲げていた。
「ほら、こっちがウタちゃんで、こっちが超絶天才美少女のヒビキちゃん。いや~、すごくかわいくて歌の上手い子がいるって聞いてね~。でも、実物を見るとイラストほど……いや、イラストと同じくらい可愛いくって驚いたね~、うん」
 この人は嘘をつけないタイプなのだと直感した。重大な病気の宣告とかどうするんだろうという疑問は、全く見覚えのない私と同姓同名のイラストに吹っ飛ばされる。
 大きな目に整った鼻筋、少女マンガの主人公みたいなイラストは、どう繕っても私とは似ても似つかない。
「ウタ?」
「えー? わたしはそっくりだと思うけどなあ」
「えっ? じゃあ、ひょっとして『コレ』としてわたしにコンサートに出ろって言ってたの? これほどハードル上げて? 出てった瞬間ざわつくの目に見えてるんだけど? は? バカにしてる?」
「ヒビキちゃん、目が怖いよヒビキちゃん」
「まあ別に? 私は出ないけど? というか絶対に出てやるものかと言う決意がメラメラと湧いて来たのでむしろありがたいくらいだけど? じゃあそういうことだから帰ってもらえる? 私は自分の練習があるので」
「ヒビキちゃん出られないの? クリスマスコンサート」
 無精ひげの生えた頬が残念そうに俯く。「すみませんが……」と軽く会釈して応じると、衝撃の言葉が漏れた。
「もうこのチラシ、一千枚以上刷っちゃったんだけどなあ。患者さんだけじゃなく、そのご家族まで来られるだろうし、色んな人に迷惑かけちゃうなあ」
「いっせ……!?」
「このクリスマスコンサートを楽しみにしてる子供たちも多いしなあ~。もうずっと家に帰れない患者さんもいてねえ~。特にご高齢の患者さんは、君たちみたいな若い子に会えるのを楽しみにしているしねえ、うーん、残念だなあ」
「あ、あの……」
「いや仕方ないよ、気にしないで。院内の責任はいつだって院長の僕がとるから。君は何も心配しなくていいからね~」
「うぐ……」
 ここで無理矢理『出ろ!』と言ってくれれば、反発心で断ることもできたのに、フォローされてしまうとかえっていたたまれなくなってしまう。
 ましてや、普段から患者さんと接する医者からの『患者さんのために』という言葉は、ただの女子高生が口にするよりずっと重く、断ることの重大性を改めて実感させられる。
「……う、ああ、んんん、うぐぐぐぐ……」
 目を閉じ、歯を食いしばる十数秒の後に。
 わたしは、クリスマスコンサートへの参加を受けることにした。 





                    * * *



 指揮をする手を止め、歌が止まるより早く出た声はすでに叱責の響きをはらんでいた。
「――メグ。まだ弱い」
 びくっ、と一年生の肩が震えた。後輩たちの視線が彼女に集中し、小さい体がますます小さくなっていく。
「前にも言ったよね? もっと声を張って。もっと強く自分を出して。あなたのところだけ弱いから、全体がアンバランスになる。ただでさえ人数が少ないの。わかってるの?」
「は、はい……」
 蚊の鳴くような声、という形容がぴったりなか細い返事だった。こんな声では、強く歌えと言っても難しいだろう。だが、合唱である以上バランスを崩すわけにいかない。
「もう一回」
 右手を上げて構えると、ピリッとした緊張感に包まれる。メグの体はガチガチに固まっているが、リラックスさせる言葉など私は知らない。
 まず自分がしっかり歌えるようにならなければならない。それは合唱であっても同じこと。
 手を振るうと、一斉に歌い出す。が、すぐに手を止める。
「メグ、まだ弱い」
「はっ、はい」
「メグ、雑にならないように。丁寧に、強くを意識して」
「はいっ」
「メグ」
「はいっ」
「もういい。一度離れて」
 度重なる注意の後の指示に、声にならないざわめきが音楽室に広がる。
 横で聞いていたウタが、メグを庇うように声を挟んだ。
「ヒビキ、さすがにそれは」
「あなたは黙っていて。今は私の時間」
 みんなで楽しくというウタのスタイルは否定しない。だが、私には私のやり方とイメージがある。口を挟んでほしくない。
 メグは性格的にも、目立つ方ではなく地声も小さい。単純に「声を出せ」と指示しても他の子ほど簡単ではないことはわかっている。だが、だから弱くていい、バランスを崩していいという理由にはならない。
 メグはぐっと歯を食いしばり、震える声で言った。
「……す、すみませんでした。別室で自主練します」
 列から離れて音楽室から出ようとした小さな背中に、「何を言っているのかしら」と呆れた声をかける。
「誰が出てけなんて言った? 一度離れて、ウタの隣で聞いていなさいって言ったの」
「え……?」
 ぽかんとするメグ、いや後輩たちも戸惑っていた。
 ヒビキだけが、得心したように頬を緩めている。
「みんなも、合唱は一人一人の歌声で作るもの。だから一人一人が、みんなで歌う完成したイメージを持たないとダメ。全員で理想の歌を歌い上げるため、そのために一人一人が理想の歌を歌い上げる。それが合唱だと私は思っている」
 つかつかとメグに歩み寄り、丸くなった小さな背中を叩く。
「まずみんなの歌を外から聞いて。そしてもう一度、私達が歌い上げようとしている理想の歌のイメージをしっかり固みなさい。そして、足りない一ピースを埋めるために、自分が歌うべき理想の歌をイメージする。理想のイメージができれば、後は歌えるように練習を繰り返すだけ。わかった?」
 ぽんぽんと肩を叩く。
「私達には、あなたが必要なの。自信を持ちなさい」
 メグの目端がじわと滲み、かすれた返事を確認して指揮に戻る。
「もう一度。最初から全部通します」
 右手を挙げると、先ほどまであった緊張感が若干和らいでいた。安心したような、あるいはちょっとニヤニヤしているような、そんな後輩たちを集中しなさいと睨みつける。
 程よい緊張感と、目標を共有し共に研鑽し合える喜び。
 楽しい、と感じる自分がどこかにいて、メグにニヒヒと笑いかけるウタの言うこともあながち間違いではないと感じた。



 練習が終わると、後輩たちを帰してウタと二人でクリスマスコンサートの計画にとりかかった。
 すでに十二月に入り、クリスマスコンサートまで三週間と少ししかない。本来なら言いだしっぺのウタと後輩たちに任せてもいいのだが、彼女たちに任せてとんでもないことをさせられてはたまらないので、私も参加する。
 何より、やるからにはきっちりやりたい。
「入院患者って言っても、年齢性別様々だからね。やる曲目は幅広く考えないと」
「うん、それに季節に合わせてクリスマスソングもやりたい」
「できるだけメジャーどころを探しましょう。みんなが知っているように」
「えー、あんまり歌ったことない曲とかに挑戦してみたいなあ」
 唇を尖らせながらも、クリスマスコンサートの成功を一番願っているのはウタである。聞くところはきちんと聞いてくれた。
 流行の歌、演歌、童謡やクリスマスソングなど、各人から歌いたい曲の希望を挙げてもらったリストを眺めながら、何を歌うか、どう繋げるかを話し合う。
「あと、衣装も考えないとね」
「普通でいいでしょ」
「えー、クリスマス感だそうよー。サンタ帽とか被ってさあ」
「それくらいなら、まあ」
「あとサンタっぽい短いスカートとか」
「却下」
 高校生としてのTPOを逸脱した案は排除する。
「あとダンス……」
「却下!」
 そんなこんなで話し合いに没頭してしばらく。
 いつの間にか、随分と暗くなっていた。テストが近いこともあり後輩たちは早めに返し多分話し合いに多く時間は取れたが、あまり遅くなってもいけない。
「そろそろ帰ろうか。続きは明日、一旦あの子たちも混ぜてからやりましょう」
「だね」
 ノートをカバンにしまい、帰り支度を済ませる。
 さて帰ろうとしたところで、ウタがじっと窓の外を見ていた。
「どうかした?」
「雪……」
「降ってきたの?」
「全然」
 なんだよ。
「降ってないならいつも通りじゃない。何をそんなまじまじと見る必要があるのよ」
「もう冬なんだなって。もうすぐ卒業なんだなって思ったら、ちょっとね」
 ウタの声は、どこかいつもの軽い拍子ではなく、どこか憂いを帯びているように聞こえた。
 つられるように、私も窓の外に視線を向ける。音楽室からの見慣れた景色は、もう暗いこともあって大して心を動かされるようなものではなかったが、『見慣れた景色』がもうすぐ見れなくなると思うと、確かに少しだけ感傷的な気分になったような気はした。
 ちらりとウタの横顔を覗き見る。
 良い機会かな。
「ウタ」
「なに?」
「ごめんなさい」
「なにが?」
 どこか楽しそうに、ウタが聞き返してくる。
「おととし、私達が初めて合唱部としてコンクールに出たとき」
「……ああ」
 ウタが懐かしそうに目を細める。
 私はコンクールの発表後、ウタを思いきり引っ叩いた。
「……どうして、わたしを叩いたのかな」
「あなたが手を抜いたように思ったから」
 青空ウタは、控えめに言って私と同等以上の歌声を持っている。そんな彼女の声から、あるべき真剣さを感じなかった。
 当時の三年生は、本気で上を目指そうとする人たちだった。名門校と比べれば人数は少ないし、相応の歴史やノウハウ、有名な顧問がいるわけでもないのだが、練習から一生懸命やる人たちだったことは、背中を見ていてわかった。
 もちろん全国レベルには遠く及ばないのはわかっていたが、それでも真剣な先輩たちは尊敬したし、少しでも上に連れて行ってあげたかった。
 そんな先輩たちを同じように見ていながら、どうして真剣に歌わないのか。
 あのとき、私にはわからなくて、ガマンできなかった。
 今なら、わかる。
「……あなたは、きっと楽しいから歌うんだと思う。だから、誰かと比較するような歌は向いてない」
 青空ウタは、天才だ。だからこそ、精神的な部分が強く影響するのかもしれない。
「わたしはね、ヒビキ。あのとき、叩かれてちょっと嬉しかったんだ。なんでかわかる?」
「性癖?」
「ちがーう!」
 私が思わず眉を顰めると、両手を挙げてわざとらしくウタが怒る。
「あのときは、あれで充分だって、心のどこかで思ってた。手を抜いたわけじゃない。でも、自分の最高の歌が歌えてないのはわかってたし、どうせ誰も気づかないと思ってた。でも、ヒビキが気づいてくれた。そして本気で怒ってくれた。ああ、すごいなって思ったんだ」
 彼女の綺麗な瞳が、まっすぐに私を射抜く。同姓が好きなわけではないのに、心臓がドキッと大きく跳ねた。
「この子となら、わたしはきっと本気で楽しく歌えるって」
 手放しで称賛されると、どうにも恥ずかしくてたまらない。普段から人のことを褒めるのに躊躇しないウタだけど、今ほど明け透けに言われると冬だというのに顔が熱くなるのを感じる。
 何と言っていいのか、おそらくはお互いに次の言葉を悩んでいた時、ちょうどよくチャイムが鳴った。いつの間にか、完全下校時刻になっていたようだ。
「帰ろうか」
「だね」
 どちらからともなく、二人で歩き出す。
 もうすぐ高校生活が終わる。最後のやり残しが、どうやらクリスマスコンサートになったようだと、今になってようやく気付いた。
 最高の歌を歌おう。私は私の中で、強くそう誓った。
 




                     * * *



 リハーサルで来たときは、休日の病院って随分と寂しいんだなと感じていた。
 一般外来はやっていないので外から来る人が滅多にいない。一階の受付は歳のいった警備員が二人いるだけで、フロアが広い分だけガランとして見えた。
 なのに、今日は随分と雰囲気が違う。
「ねえウタ」
「なに?」
「こんなに、聞きに来てくれる人いるかな?」
「さあ」
 ウタは素っ気なく答え、院長先生を見つけてかけていく。
 一階からエスカレーターで上がれる二階には、たくさんの椅子が並べられていた。横におおよそ十から十五、縦は三十か、はたまた五十以上あるだろうか。ステージになる部分からは最後尾がもはや見えず、規模だけならちょっとしたコンサート会場のようだった。
 いや、事実コンサート会場なのか。
 病院スタッフらしき人は看護師さんだけでなく、私服でカメラを持った人もいる。スーツ姿の男性や、入院中らしいパジャマを来た子どももいて、随分気が早いなと思う。
 コンクールとはまた違った緊張感を味わっていると、後ろから声をかけられた。
「ヒビキ先輩」
「どうかした? メグ」
 不安そうな後輩は、おずおずと疑問を口にした。
「今日、これから、歌うんですよね?」
「そうよ」
「伴奏は……?」
「そりゃあ、いつも通りピアノで……」
 言いかけて、ふとそう言えばピアノが見当たらないことに気づく。病院側とのコミュニケーションはウタに任せきりだったが、そういえばピアノはどうするのだろう? 病院にあるのか、それとも学校から持ってきたのか。
 ウタは院長先生と話している、聞くには都合がいい。
 小走りで駆け寄ると、何やら不穏な空気になっていた。
「え、どういうことですか先生、ピアノは病院で使っているのがあるって」
「いやいや~、それがどうも、使う人がいなくなって久しく、古くなったこともあって処分してしまったということで。一応そちらにも連絡はしたはずなんですが~」
「知りませんよ、そんなの。実際そんなの来てないし……あ」
「ウタ」
 後ろから肩を叩く。話は途中参加だが、おおよその流れはわかる。
「あったの?」
「う……」
「あったのね?」
「……はい」
 しゅんと小さくなってしまった元合唱部部長に、やれやれと肩をすくめた。
「……ごめんなさい」
「いえいえ、きちんと確認をしておくべきでした~。こちらの落ち度でもありますし~」
 申し訳なさそうに責任の一部を請け負う院長先生。
「誰が悪いかの話をしている場合ではないでしょう」
 ひとまず二人が落ち着いたところで、現実的な話に戻す。
「アカペラの曲もあるけど、基本的にはピアノ伴奏を予定しています。このままでは予定しているプログラムを消化できません。至急ピアノの手配をお願いします」
「し、しかしそうは言っても~、すぐにはとても~」
「学校から持ってくるにしても、トラックとか使わなきゃ無理だし、そんな余裕はないよ」
「グランドピアノである必要はありません。小さめの電子ピアノなら移動も難しくないでしょう。パート練習で使っているのが学校にあるはず。それでいいわね?」
「う、うん」
 ウタが頷き、院長先生も異論はないようだった。決定と見て、すぐに合唱部唯一の男子生徒を呼ぶ。
「勝又!」
「は、はい!?」
 ひょろりとした細い背中をびくりとさせて、何事かと私の方を振り向く。
 厳しい態度が多い私に対して割とビクつく後輩は多いが、そのトップ2がメグとこの勝又だった。
「ちょっと来なさい」
「え……僕、またなんかしました?」
 肩を縮こまらせて駆け寄る後輩に、素早く指示を飛ばす。
「今すぐ学校に戻って、普段練習で使ってる電子ピアノを持ってきて。移動はタクシーでいいわ。お金は院長先生が出してくれる。ですよね、院長先生?」
 すっとそちらに目をやると、うっ、と言葉を詰まらせてから、「も、もちろんです」と胸を叩いた。
 勝又が院長先生からお金を受け取り、エスカレーターで一階へと降りたのを見送ると、時間を確認。コンサート開始まで、残り十五分を切っていた。
 イスの方を見れば、すでにいくつかの椅子が埋まりつつある。エレベーターの方から少しずつお客さんらしき人も来ていて、どうやら空席とスタッフを相手にしたコンサートにはならず済みそうだ。
 電子ピアノが遅れる場合を想定し、プログラムの変更を院長先生と相談した後、改めて合唱部のメンバーを集めて変更に関する打ち合わせを行う。曲順の入れ替えと勝又の不在はあるが、やること自体は変わらない。
「すごいねえ、ヒビキは」
「何が?」
「アクシデントにも冷静に対応して。わたしはテンパっちゃって、わたわたするだけだったのに」
「何言ってんだか」
 心から呆れてため息する。
「あなたが言い出したコンサートなのだから、アクシデントの一つ二つは想定内に決まっているでしょ」
「うにゅむ……」
「それに」
 小さく頬に笑みを刻んで、付け足す。
「この程度のことで動揺してたら、私は私が理想とする私になれない。このくらいのピンチ、むしろあったほうがありがたいわ」
 ほら、行くわよ、とウタを招いて準備に戻る。
 席はすでに四割ほど埋まっており、このペースならいい具合に入りそうな雰囲気だった。



「……であるからして……とうことでね~、この病院も創立から~、かれこれ~……」
 延々と続く院長先生の開幕宣言に、患者さんたちにも不満そうな気配が漂っていた。
 時間になっても、電子ピアノを取りに行った勝又は戻ってきていなかった。とはいえ開幕時間を遅らせるわけにはいかない。患者さんの体力に限界があるからだ。
 伴奏なしで始めざるを得ないクリスマスコンサートだが、その開幕での院長先生の言葉がすでにげんなりするほど長い。
「ねね、ヒビキ」
「なに」
 合唱部のメンバーが一列に並び、私の隣に立っているウタが囁く。
「これ、もう無理矢理止めた方がいいかな」
「……一応、ピアノが到着するまでの時間稼ぎかもしれないけど」
「ないでしょ」
 ウタに断言され、同意せざるを得なくなった。世の多くの校長といい、どうしてこう大人というのは長い話をしたがるのか。
 ウタがさっと部員たちに目くばせすると、列から一歩前に出た。
「……であるからして~、つまり~……」
「はーい院長先生ありがとうございましたー!」
 すっと話に割り込み遮ると、背中を押して物理的に遠ざける。
「いや、まだ話は」
「ありがとうございましたー! いやー良いお話でしたね! 良い歌を聞くとリラックして眠くなる! 良いお話を聞いてもリラックスして眠くなる! でもメインはわたしたちの歌ですから! ここで眠っちゃダメですよみなさん!」
 くすくす、と観客席から笑い声がする。それに気をよくしてウタが続け、完全に入り込む間を失くした院長先生が脇へ引っ込む。
「さて、本当なら自己紹介をしたいところなのですが、長い話を聞いた後にまた長い話を聞いても眠くなるだけでしょう。ということで、自己紹介代わりに一曲、さっそくですが歌いたいと思います」
 すっとウタが右腕を掲げる。伴奏がないため、ウタが指揮を振って入りだけ合わせる。
 誰もが聞いたことのあるイギリス民謡『We Wish You A Merry Christmas』。
 最初は静かに、しっとりと歌い上げる
 きちんとしたステージではないから、雑音も多い。子どものぐずる声、足音。パイプ椅子の軋む音も混じる。
 だが、きちんと発生した声は、弱くても遠くまで届く。
 この曲は同じメロディ、歌詞を繰り返す。その度に声を大きく、そして強くしていく。
 まるで水面に広がる波紋のように、歌声がフロアを満たし、支配していくのを感じた。
 わずかに聞こえた音に拾おうと、歌に集中してくれる。そんな彼ら彼女らの耳を、綺麗な歌声で魅了していく。
 たった一曲、三分とかからない曲を歌い終えた瞬間、フロアは静寂に包まれた。
 そして、わあっと大きな拍手が巻き起こる。
「ありがとうございます! ではでは、続けてまいりましょう! 『サンタが町にやってくる』! みなさん、張り切っていきましょう!」
 そういうと、ウタは手拍子を始めた。ついで合唱部のメンバー、周囲の病院のスタッフさんも手を叩いてくれるが、患者さんの方の反応はイマイチだ。
 まあ仕方ない。こういう場で拍手をしたり合いの手を求めても、なかなか恥ずかしがってやってくれないのが常なのだ。が。
 ウタは歌い始めると、イスの間を縫うようにしてスキップし始めた。
 私達も後に続き、拍手を求めるようにアピールする。先頭を行くウタは、歌声と拍手、即興らしきステップと笑顔で、どんどん手拍子を集めていく。特に子供たちには手を振ったりして、一番彼女が楽しんでいた。
 ウタが中央に、通路を十字に並ぶようにして合唱部が並び、手拍子を伴奏にして歌う。人数は少ないが、だからこそステージを気にせず歌える。後輩たちも、子ども好きな子は手を振って、人見知りな子は小さなステップがまた可愛らしい。
 私は最初の位置から動かなかったが、多少はダンスの練習もした方がいいかもしれないと思う程度には、楽しそうに見えた。
 曲が終わると、手拍子が拍手に代わる。
「さてみなさん、突然ですが、本来ここにあるはずだった、ピアノがなんとありません!」
 えー、と患者さんや、特に病院スタッフの茶番じみた合いの手が入る。
「その原因ですが……」
 ウタがちらりと院長先生の方を見る。院長先生がぎょっとするが、半分以上ウタのせいだろう。
「なんと、あわてんぼうのサンタさんが忘れてしまったのです!」
 彼女はそういうと、「そこで!」と一際声を張り上げた。
「今、一生懸命取りに行っていますので、これからみんなで、あわてんぼうのサンタさんを呼びましょう!」
 ここまで言えば、誰だって次に何を歌おうとしているのかわかるだろう。歓迎の拍手に合わせ、歌うのは『あわてんぼうのサンタクロース』。
 ユニークな歌詞に合わせて、ジェスチャーをつける。えんとつを覗いて落っこちるところで、くすくすと笑う声が聞こえた。
 楽しい雰囲気のまま、歌が終盤に近付くとみんながステージに戻ってくる。
 そして歌い終わったとき、ウタがさあっと腕を伸ばして視線を集め。
「では、あわてんぼうのサンタクロースがプレゼントのピアノを持って登場です!」
 いやそんな打ち合わせしてないでしょ、などと止める間もなく。
 本当に来るのか? という疑問は、本当にエスカレーターから上がってきた人物に氷解し。
 大いに眉を顰めた。
「……え?」
 そこにいたのは、ごく普通の知らないおじさんだった。
 彼はフロアすべての視線を集めていることにひどく戸惑った後、そそくさとその場を離れる。
 ぽかんとしたまま、ウタへと注目が集まる。
「あー……あれー? おっかしーなー」
 ぽりぽりと頭を掻く姿は、本当にテンパっているのだろう。
 ここからのプログラムは、もうアカペラでは辛い。本当にどうしようと考えた時。
「お、お待たせしましたー!」
 エスカレーターを駆けあがり、一メートルちょっとの電子ピアノを掲げた勝又が入ってきた。
 真っ先にウタが駆け寄り、
「やった! ありがとー! みなさん! あわてんぼうのサンタクロースがようやく間に合いました!」
「はっ? あわてんぼう?」
「いいから、こっち来て準備して」
 私は困惑気味の勝又を引っ張り、電子ピアノを設置。スイッチを入れて……うん、動く。
 伴奏担当の子に後を任せて次の曲の準備に入ろうとして。
 ふと、電子ピアノを取りに行った勝又がずぶ濡れなことに気づく。てっきり急いでいたから汗をかいたんだろうと思っていたが、とてもそんな量ではない。
「どうしたの? これ」
「急にすごい雨降って来ちゃって。タクシーで来たのにこれですよ。なんか道路も混んでるっぽいし」
 この病院はきちんと防音がしてあるのか、雨音など全く聞こえなかった。振り返って窓を見れば、確かに時間の割に随分暗い。
「まあいいわ。そのままじゃ風邪ひくから、体拭いて先に着替えて来なさい」
「着替えなんてないですよ」
「あっちに使ってない着ぐるみのトナカイがあるから」
「僕だけコスプレですか!?」
 他は制服にサンタ帽をかぶっただけだ。
「ほら、つべこべ言わない。早くしないとあなたメインの曲をカットするわよ」
「い、行ってきます!」
 ぬれねずみの後輩を送りだし、伴奏の準備も整っていよいよメインディッシュに入っていく。
 ステージでは、ウタが次のプログラムに向けて順調に進行していた。
「さて、ここからは古今東西、冬の名曲を歌っていきたいと思います。これから歌う歌は、合唱部のメンバー一人一人が、自分で選んだ歌で、その子がメインで歌います。どうか聞いてください」
 ウタが一歩下がって列に戻ると、代わりに一人が前へ出る。そして、勝又トナカイが客席からのくすくす笑いを引きつれて戻ってくるのを待って、次の曲へと移った。
 できるだけいろんな世代の人に喜んでもらえるよう、幅広く選曲する。そういう決め事の通り、いろんな曲を選んでくれた。選んだ人をメインに据え、他のメンバーがバックコーラスを担当する。
 ある者は石川さゆりを。
 ある者はレミオロメンを。
 ある者は洋楽からワムを選び。
 ある者が選んだ山下達郎を王道的に歌い上げる。
 引っ込み思案のメグが恥ずかしそうに歌った童謡の『ゆき』に、多くの人が優しい笑みを浮かべていた。
 そして、ウタはかの有名な『アナ雪』から。
 楽しむことを信条とする彼女にとって、この場は最高のステージだったのだろう。
 今まで一番、最高の歌声だった。
『ありのままの自分』
 ウタとともに歌いながら、なんとなく歌詞の中にあるフレーズに感情移入する。みんなで、楽しく。誰より彼女らしく、一番楽しんでいるウタの背中を眺めながら、ああこれが彼女の真の歌声なんだと理解する。
 彼女の背中に、わずかな嫉妬と悔しさ。そして大きな負けん気と、一緒に歌ってきたことへの誇りを感じた。
 一際大きな拍手の後に、やや息の荒いウタとハイタッチして位置を入れ替わる。
「やり難くしてくれちゃって」
「ヒビキなら超えてくれるって、信じてるから」
 言ってくれるわ。ニヤリと口端を歪めて、即席の客席を見渡す。
 コンサートももう終盤。体調不良などもあって、どんなに良い歌を歌っても途中退席する人はいるだろう。雑音もそれなりにするし、一人の歌手として最高のステージとは言い難い。
 でも、やはり聞いてくれる人がいるというのは楽しい。
 この気持ちが原動力になり、歌う力になる青空ウタという少女の気持ちは、今なら理解できる。
 息を整え、伴奏者に目線で合図を送った。
 そのとき。

 目の前が真っ暗になった。

「えっ?」
 真っ白になった頭が、一瞬の間を置いて停電と理解する。
 すでに夕方近く、雨が降っているとなれば窓からの光も期待できず、緑色の非常灯が微かな光で照らすだけ。どこからともなく聞こえてくる何かしらの機器のアラーム音が、余計に不安を煽った。
 動揺する声、落ち着かせようと声を張る病院スタッフ。子どもたちも多く、パニックになったら収拾がつかない。
 大丈夫。そう自分に言い聞かせる。
 私にできることは何か。
 否、私にしかできないことは何かを考える。
 決まっている、歌うことだ。
 呼吸を整え、今響かせるべき歌声をイメージし、全力で歌い上げる。
 悲鳴一歩手前の声が交差するフロアに向けて、思いを込めて。

 ――――いま、わたしのねがいごとが

 電子ピアノは停電中は使えない。必然的にアカペラになる。
 大丈夫。届く。

 ――――かなうならば、つばさがほしい

 丁寧に、しっかりと。
 私の中にある理想の声を、歌を、響かせる。

 ――――このせなかに、とりのように

 混乱が徐々に収束していく。
 後ろで、ウタを中心に後輩たちがまとまった気配も感じた。
 きっと、合わせてくれる。

 ――――しろいつばさ、つけてください

 明かりが点く。
 伴奏が生き返り、一瞬で呼吸を合わせる。
 私達の声と心が重なり、空気が変わる音がした。

 ――――このおおぞらに、つばさをひろげ とんでいきたいよ

 ――――かなしみのないじゆうなそらへ つばさはためかせ

 ――――いきたい

 間奏に入った瞬間、大きな歓声が湧き起こる。
 どうやら怪我人もいないようだ。病院スタッフがあちこち駆けまわる姿が見えたが、コンサートが中断させられる様子はない。
 最後まで歌い切り、礼をすると再び拍手の雨が降る。
 振り返ってウタと位置を入れ替わる。ニヒヒ、と笑う彼女に、私もニヒヒと笑い返した。
 みんなの前に立つと、いたずらっ子じみた笑みは消し、元合唱部部長らしくしゃんと背筋を伸ばす。
「名残惜しいですが、次の曲が最後になります。この曲は、わたしとヒビキ、三年生二人の希望を通してもらい、選びました。わたしたち三年生にとって、もちろん後輩たちにも、みなさんにも、伝えたい思いが、歌詞の中に込められていると思うからです。
 聞いてください 『Believe』」
 ウタが列に戻る。
 考えてみれば、『私達』で歌う最後の曲になるのか。名残惜しさを感じながら、全てぶつけようと気を引き締める。
 良い歌が歌えた。一人一人が理想の歌を歌い、声がピタリと重なる。そして、誰もが今を楽しんでいる。
 私達は、進む。きっと誰もが、進むのだ。
 いくつもの終わりを経験し、そのたびに新しい何かを、未来を信じて始める。
 万感の思いを込めて、私は最後まで歌い上げた。





                    * * * 



「おつかれ」
 不意に後ろからかけられた声に振り返ると、ウタが温かいお茶とホットレモンを持って立っていた。
「どっちがいい?」
「お茶」
 お茶を受け取り一口飲むと、酷使した喉が潤うのを実感する。
「みんなは?」
「いま片付けの手伝いしてる。院長先生はいいって言ってくれたけど、甘えすぎてもね」
「私達はいいの?」
「いいってさ」
 コンサートが最高の形で終わって、患者さんたちやそのご家族が戻っていくのを見送った後、私は大きな山を一つ越えた安堵感と達成感に、フロアのソファーで座り込んでいた。手伝わなければと思いつつ、体がうまく言うことを聞いてくれない。
 ここは後輩に甘えよう。
「ヒビキ」
「なに?」
「ありがとね、今まで」
「なにを急に」
 笑いながら、同じ気持ちになっている自分に気づく。冬になると、私はいつも温かいお茶で、ウタは必ずホットレモンを選ぶ。
 お茶はカテキンの殺菌作用があり、ホットレモンはビタミンが豊富で体に良い。常に喉の保護を最優先する意識の高さ故だ。
 同じレベルの意識と歌唱力で切磋琢磨できた彼女の存在は、私にとっても大きなものだった。
「私はね、正直に言うとあなたのことあんまり好きじゃない」
「えええっ!?」
 目玉が飛び出しそうな顔をしたウタに、「しょうがないじゃない。息合わないし、しょっちゅうぶつかるし」と重ねる。
「でもね、あなたといた三年間は、かけがえのないものになった。ううん、私の高校三年間に、あなたがいてくれて良かった」
「ヒビキ……っ!」
 ウタが鼻をすする。
「そうだよね、わたしも! わたしたち、これからもずっと友達だよ!」
「…………」
「何でそこで黙るの!?」
「いや、友達と言われるとどうかなって。私はこれから私の道を行く。あなたはあなたの道を行くわけで。下手すると、もう二度と交わることもないかもしれないし」
「ひどっ!」
 不満げに唇を尖らせるウタに、私はくっくと笑ってごまかす。
 ぷんぷんと膨らませた頬を元に戻したウタが、話を切り替えた。
「わたしの進路ってさ、まだ話してなかったよね」
「ああ、そういえば」
 私は音大志望であることは以前から伝えてあったが、ウタのは聞いていなかった。彼女のことだから、普通の大学へ行っても変わらず歌ってそうなものだが。
「驚かないで聞いてくれる?」
「驚かないわよ」
 どうせ突拍子もないことを言うのだろう。仮に宇宙へ行くと言っても驚かない自信がある。

「わたし、旅人になる」

「はああっ!?」
「あっ驚いた」
「そりゃ驚くわよ、というか、むしろ呆れるというか」
 えへへ、とウタは悪びれる様子もない。
「正直言うと、迷ってたんだ。でも、ヒビキを見てたら、やっぱりやるべきだって思った」
「私が旅人になる指標になったということなら心外ね」
「そうじゃないよ。ただ、目標に向かって、なりたい自分に向かって一直線に歩んでいくヒビキを見て、羨ましくなったんだ。わたしもヒビキみたいに、なりたい自分になる。やりたいことを、やる」
「それが旅人?」
「そう。病院だったり、避難所だったり、日本も世界も、苦しんでいる人や辛い思いをしている人っていっぱいいると思う。いろんなところへ行って、そういう人たちを歌で元気づけて、楽しい思いをさせてあげたい。そして、わたしも楽しく歌いたい。あなたは偽善というかもしれないけど、それならわたしは世界で一番の偽善者になりたい。一番大きな自己満足のために歌いたい」
 まっすぐに未来を見つめる彼女の瞳は、キラキラと輝いていた。
 夢の見過ぎと、笑ってやることもできたかもしれない。だが、彼女をずっと見てきた身からすれば、彼女なら実現できるような気もする。
 何より、他人から見れば私の夢も似たようなものだろう。
「良いんじゃない。あなたらしくて」
「うん、わたしらしいわたしでいたい」
「私が世界一の歌手になったら、特別に世界同時中継のボランティアコンサートでセッションしてあげてもいいわ」
「ヒビキこそ、上手く行かなかったらわたしと一緒に世界回る?」
「いやよ、振り回されるのが目に見えてる」
「えー、行こうよー、普通の旅行でもいいからさー」
「もっと嫌よ」
「ひどっ!」
 そんなことを言い合いながら、窓から外を眺める。
 さて、気の利いた言葉で後から恥ずかしい思いをしそうなやり取りを締めたいと思うのだが、良いものが思いつかない。
 一緒に歌うのは今日で最後でも、まだ学校で顔を会わせることは何度かあるだろう。合唱部の指導も頻度は減らしても来るだろうし、さてどうしたものかと考えて。
 ふと、脱いで膝に置いてあったサンタ帽が目に入り、ああこれだと思い至る。
 ちらりとウタに目を向けると、彼女も同じことを考えていたようだ。
 飲みかけのお茶とホットレモンをぶつけ、乾杯し、同じ言葉をつぶやく。

 メリークリスマス、と。


燕小太郎

2019年12月30日 21時33分09秒 公開
■この作品の著作権は 燕小太郎 さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:私の三年間に、あなたがいてくれてよかった。
◆作者コメント:まずは冬企画開催、おめでとうございます!
 今回も完成がギリギリでやべえやべえと思っとりましたが、投稿期間が普段より一日長い四日間だったのでどうにか間に合いました。
 一つでも多くの作品と感想が集まる企画になることを祈っています。

 それでは、よろしくお願いいたします。

2020年04月02日 17時16分34秒
作者レス
Re: 2020年04月03日 20時40分43秒
Re:Re: 2020年04月08日 08時58分44秒
2020年03月15日 21時16分36秒
作者レス
Re: 2020年03月18日 00時22分17秒
Re:Re: 2020年03月22日 15時45分20秒
2020年03月15日 21時10分11秒
作者レス
2020年03月08日 17時00分10秒
作者レス
Re: 2020年03月08日 23時56分24秒
Re:Re: 2020年03月14日 04時39分54秒
Re:Re: 2020年03月10日 15時15分36秒
Re:Re:Re: 2020年03月11日 02時07分35秒
Re:Re:Re:Re: 2020年03月14日 04時42分01秒
Re:Re:Re:Re: 2020年03月11日 13時41分59秒
2020年03月01日 18時13分51秒
作者レス
Re: 2020年03月02日 23時31分39秒
Re:Re: 2020年03月04日 23時55分15秒
Re:Re:Re: 2020年03月07日 16時54分45秒
2020年02月29日 12時20分50秒
作者レス
2020年02月23日 16時37分12秒
作者レス
Re: 2020年02月25日 07時40分41秒
Re:Re: 2020年02月25日 17時50分23秒
Re: 2020年02月24日 09時07分34秒
Re:Re: 2020年02月25日 17時49分23秒
2020年02月17日 19時34分05秒
作者レス
Re: 2020年02月18日 22時45分02秒
Re:Re: 2020年02月20日 17時48分36秒
Re:Re:Re: 2020年02月20日 22時48分12秒
Re: 2020年02月18日 21時00分07秒
Re:Re: 2020年02月20日 17時47分25秒
2020年02月09日 20時35分04秒
作者レス
Re: 2020年02月10日 21時21分25秒
Re:Re: 2020年02月13日 21時14分45秒
2020年02月02日 16時23分11秒
作者レス
Re: 2020年02月05日 19時44分44秒
Re:Re: 2020年02月06日 19時24分19秒
Re: 2020年02月02日 21時37分04秒
Re:Re: 2020年02月06日 19時19分19秒
2020年01月25日 11時54分34秒
作者レス
Re: 2020年01月26日 08時24分53秒
Re:Re: 2020年02月01日 07時12分00秒
2020年01月19日 21時04分59秒
作者レス
2020年01月14日 22時39分33秒
+20点
Re: 2020年01月16日 19時07分53秒
2020年01月14日 18時43分16秒
作者レス
Re: 2020年01月15日 06時58分33秒
Re:Re: 2020年01月18日 20時36分52秒
Re: 2020年01月14日 22時10分08秒
Re:Re: 2020年01月14日 23時37分44秒
Re:Re:Re: 2020年01月18日 20時38分14秒
2020年01月13日 05時05分10秒
作者レス
Re: 2020年01月13日 21時09分53秒
2020年01月12日 21時11分09秒
+20点
Re: 2020年01月16日 18時47分39秒
2020年01月12日 20時55分31秒
+20点
Re: 2020年01月16日 18時27分51秒
2020年01月11日 23時44分57秒
+50点
Re: 2020年01月16日 18時26分09秒
2020年01月11日 17時36分15秒
+50点
Re: 2020年01月16日 18時22分18秒
2020年01月11日 17時15分13秒
+30点
Re: 2020年01月16日 18時21分00秒
2020年01月04日 17時20分42秒
+30点
Re: 2020年01月15日 06時12分53秒
2020年01月04日 00時09分45秒
+20点
Re: 2020年01月15日 05時52分49秒
2020年01月03日 17時52分29秒
+20点
Re: 2020年01月15日 05時51分07秒
2020年01月03日 15時27分09秒
+30点
Re: 2020年01月15日 05時49分21秒
2020年01月03日 15時13分56秒
+30点
Re: 2020年01月15日 05時42分52秒
2019年12月31日 18時09分40秒
+30点
Re: 2020年01月15日 05時40分08秒
合計 12人 350点

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