雪舞う聖夜のHVST |
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「たーすーけーてー」 どこか間延びした悲鳴は、事態の深刻さを伝えるのに不十分だった。 ここは樅(もみ)の木町。元々は田畑が点在する田舎町だったが、近年はベッドタウン化が進み、新しい住宅街が増えつつある。その中の一つ、北欧建築の戸建てが並ぶ界隈で事件は起こった。 冬休み中の小学生たちが屋外で遊んでいるところへ、突如現れた男が一人の児童を攫(さら)っていったのだ。 白昼堂々、衆人環視の中、児童が拉致される。 これだけでも大事(おおごと)なのに、状況を更に奇異ならしめているのは、賊の外見が原因だった。 先端に白いポンポンの付いた赤い三角帽、赤いコートに同色のズボン。黒いブーツを履いて白い大きな袋を担いでいる。 そう、見た目は一応サンタクロースなのだ。 いわゆる〈サンタクロース〉は、肩に担いだ大袋をものともせず家屋の壁をよじ登り、屋根の上に到達した。かと思えば北風のような速さで駆け出し、軒先から棟(むね)、更に反対側の軒先へ。端まで来たらカモシカを思わせる跳躍で、軽やかに隣の建物へ飛び移る。人外の機動力だ。 「だーれーかー」 幼い声は〈サンタクロース〉が担いでいる大袋の中から聞こえる。 可哀想に、その声に応える者は居ない。道行く人々は現実離れした光景を、唖然として眺めるだけだった。 ――否。 町なかを爆走する四駆のオフロード車が一台。冬空からの日光を浴びて銀色に輝くそれは、安全性を度外視して住宅街へ進入する。近道だと判断したのか、車幅ぎりぎりの細街路を行くものだから、道路脇の物が次々に跳ね飛ばされていく。空き缶や粗大ゴミ、ダストボックスに路上の自転車、サトちゃん、ペコちゃん、通りがかりのワンちゃんは……辛うじてセーフ。四駆はがむしゃらに〈サンタクロース〉を追いかけているようだった。 道が開けた辺りで運転席のパワーウィンドウが下がり、車内から無骨な銃身が姿を現した。運転席から見て右頭上を疾駆する〈サンタクロース〉を的と捉え、ショットガンの銃口が向けられる。 発砲。 惜しくも標的を外れ、新築間もない家の屋根が建材を撒き散らす。 間髪入れずにリロード、すぐさま第二弾。しかし当たらない。賊の移動速度が想像を超えているのだ。 それならばと次は予想進路を狙う。 命中。 放たれた散弾は〈サンタクロース〉の足を直撃、非致死性のラバーボール弾だが賊のバランスを失わせるには充分だった。 屋根から転がり落ちる赤い姿、路上駐車されていた軽自動車でワンバウンドしてから大通りに落下する。それきり動かなくなった。 キッ、とブレーキ音をさせて四駆が停車する。運転席から姿を現したのは、見目麗しい女性だった。 歳は二十前後といったところ。長い黒髪を襟首辺りで一つに結わえ、キャップ帽を目深に被っている。ティアドロップ型のサングラスを掛けているので表情は読めないが、固く引き結んだ口が意志の強さを思わせる。 やや小柄ながらも適度に鍛えられた身体は、しなやかさと力強さを併せ持っているようだ。タクティカルベストを羽織り、迷彩柄のパンツに編み上げのブーツという服装は、まるで戦場帰りの兵士。彼女は大振りのショットガンを携え、注意深く間合いを取りながら〈サンタクロース〉に話し掛けた。 「久しぶりだね、この変態野郎」 知った仲であるかのような口ぶりだ。とはいえ、再会を喜ぶ間柄でもないらしい。 「ずっとそうしてなさい」 銃を構えた瞬間、相手が動いた。地面に這いつくばった姿勢から、一直線に向かってくる。その様子は、獲物を捕食せんとするコモドオオトカゲを彷彿させた。 射撃、装填、更に射撃。 飛びかかってくる〈サンタクロース〉に問答無用で銃弾を浴びせる。全弾直撃したはずなのに、敵は止まらない。あと少しで手が届きそうなところで――再装填が間に合った。 顔面へ。 至近距離からの発砲を受けて、さすがの相手も吹き飛ぶ。もんどりうって転がり、ガードレールを越えて、道路沿いにある深めの水路へ落ちていった。負わせたダメージからして、這い上がってくるには少々の時間を要するだろう。 今のうちに。女性は構えを解き、路上の大袋に近付いた。中でもぞもぞ動いているので、攫われた子供は無事なようだ。 結ばれた袋の口を解いてやると、中から七、八歳の子供が出てきた。お尻をさすりながら苦笑いを浮かべている。 「あー、びっくりしたー」 あれだけ恐ろしい目に遭ったというのに、本人は至って呑気である。 「ありがとう。おねーさん、誰?」 問われた彼女はこう答えたのだった。 「私は二瓶ナコ。〈変態サンタクロース〉の専門家だよ」 ■ ■ ■ 今から九年前、栗須磨町という田舎町であった出来事だ。 屈強な〈サンタクロース〉が町を訪れ、誰彼構わず大人たちに徒手格闘の勝負を挑んできた。勝てばプレゼントを渡すが、負けた場合は幼女を差し出せという条件で。 もちろん、これを相手にする常識人はいないだろうから、〈サンタクロース〉はすごすごと帰るはずであったが……何と、勝負を受けた大馬鹿野郎がいたのである。 その名は二瓶貴光。ナコの父親である。 勝負の結果、貴光は〈サンタクロース〉――蔵臼惨多(くらうすさんた)の必殺技である〈爺射刺・喰捨人(ジイィザス・クライスト)〉の前に砕け散り、敗北を喫した。 危うく、戦利品としてお持ち帰りされそうになった当時十歳のナコだったが、兄の機転によりそれは回避されたのだった。 兄の二瓶清正が蔵臼に出した条件は、翌年に再び勝負すること。今度の相手は父親に代わり、清正自身。当時は引きこもりの陰キャだった彼にとって、決して有利な条件ではなかったが、蔵臼を納得させるにはやむを得ないことだったのだろう。 酔狂なことに蔵臼は清正の申し出を受け入れ、こうして翌年の再戦が実現した。 清正は自身を極限まで鍛え上げ、翌年のクリスマスには、格闘技の素人ながらも蔵臼に会心の一撃を見舞うほどに成長していた。途中、劣勢に立たされることもあったが、持ち前の妄想力により〈覚醒〉し、勝利を収めたのだった。 と、ここまで聞けば『妹の窮地を救った兄』という美談に思えるが、ナコの考えは違う。 自分の意志とは無関係に、勝負の『景品』にされた挙げ句、筋肉ダルマのようなおっさん――蔵臼のことだ――に抱き上げられてスカートの中のぱんつを見られるとか、加齢臭の酷いあの男に頬ずりされるとか、散々な目に遭わされた。あれが原因で、ナコは洗ってないタオルの匂いを嗅ぐと卒倒してしまうほどのトラウマを植え付けられたのである。 以来、彼女は蔵臼――いや、〈変態サンタクロース〉そのものに復讐心を燃やし続けている。 「私が〈変態サンタクロース〉の狩りを始めたのは、そういうわけなんだよ」 そう言って、ナコは自身の昔話を締めくくった。 「へえ、大変だったんだねー」 助手席でスマホゲームをやりながら、先ほど助けた児童が適当な相槌をうつ。まだ幼い身だから、ナコの壮絶な人生を理解できないのだろう。いや、むしろその方がいいのかもしれない。 ナコは車を運転しながら、隣の児童を観察した。 年齢は七歳と言っていた。北欧の血が混じっているのか、全体的に色素が薄め。柔らかそうな長い茶色の髪と、ぱっちりした二重の目。瞳は澄んだブラウンで、この世の穢れなど一切知らないようだ。身なりはシンプルなコートにスキニーパンツ、スウェードのショートブーツといった程度だが、細部の洒落たデザインや生地の良さからして、裕福な家庭の子供に思える。であれば、この子がどこかのんびりしていて世間ずれしたような印象なのも頷ける話だ。 「そういや、名前聞いてなかったね。何ていうの?」 「ショウタ」 「え?」 聞き間違いだろうか。 「君の名前だよ?」 「うん。だから僕の名前はショウタ」 「てことは君、男の子?」 「そうだよ」 彼はナコを見て、にっこり微笑む。その笑顔が、なんとまあ可愛いこと。写真に収めて飾りたいほどである。 ナコは思わず、ごくりと喉を鳴らしてしまう。 女顔でいかにも美少女という雰囲気なのに、付いているものは付いているという。 ああ何てことだ。妄想が膨らんでしまうではないか。 この子に半ズボンを履かせて白いハイソックスを合わせてみたいとか、女装させて男の娘にしてみようとか、おねーさんが色々教えてあげようかって気持ちに少なからずなってみたりとか、この子が恥ずかしそうに顔を赤らめてるところを見てみたいとか考えて、自分の中で何かが「キュン☆」となるのを感じちゃったりとかした。 「おねーさん、前ー?」 「え、前に何が付いてるってー?」 気づいた時にはもう遅かった。ナコの運転する四駆は、道路沿いの電柱にまっしぐら。とっさにハンドルを切るが間に合わない。轟音と共に、車内の二人を衝撃が襲った。 ナコは、しまったと思いつつもこんなことを考えるのだった。 ――仕方ないよね、だって可愛いんだもの。 [完?] 「痛たた……」 ナコはハンドルで強打した顔をさすりつつ、隣のショタコン――ではなくショウタくんを見た。 「おねーさん大丈夫?」 逆にこちらを気遣う余裕がある程度に、彼は無事らしい。交通事故発生にも関わらずスマホゲームを継続中。将来有望なマイペースさである。 幸いエンジンはかかるので、ナコはそそくさと四駆を元の車線に戻す。周りに人や車がいなくて良かったと思いつつ、何事も無かったように運転を再開した(注:公道で交通事故を起こしたら必ず警察に連絡しよう!)。 「家まで送ってあげるよ。ショウタくんのお家はどこかな?」 せめて年長者としての威厳を保とうと、ナコはそう切り出した。 「うーん、わかんない」 「そうなの?」 遠くから攫われてきたのだろうか。だとしたら、土地勘のない町に連れてこられて心細いことだろう。 「お母さんかお父さんに電話できる?」 ナコがショウタの持つスマホを指しながら言うと、彼は首を横に振る。 「ううん。パパもママも電話出ない」 「なんで?」 すると僅かな間を置いて、彼はこう答えた。 「……仕事中だから」 小声で言う彼の横顔は、ちょっぴり寂しそうに見えた。 今どき共働き夫婦は珍しくないと聞くが、そういう家庭で育った子供を間近で見るのは初めてだ。こんな姿を目の当たりにしては、何かせずにはいられなくなる。母性とはこういう感覚のことを言うのかもしれない。 「そっか。じゃあ警察かな」 と言いつつ、ナコは後部座席に積んである銃火器を思い浮かべた。いずれもネットで購入したエアガンなので、法に触れてはいないはず。ただ、屈強な〈変態サンタクロース〉に対抗するため多少は威力が強くなるよう改造してある。果たしてお巡りさんがこれを見逃してくれるかどうかは、甚だ怪しいところである。 「他に頼れる家族はいない? お兄さんとかお姉さんとか、おじいちゃん、おばあちゃんでもいいんだけど」 ショウタは首を横に振る。心当たりがないらしい。 「うーん、困ったな……」 「明日なら」 ショウタがナコの袖をやんわり掴む。 「明日ならママが帰ってくるから、それまで一緒にいちゃダメ?」 信号待ちなのをいいことに視線を合わせると、ショウタのすがるような目がそこにあった。 よしきたわっしょーい! と握り拳を作りそうになる。 そうそうこの顔この顔! 子供は誰かに頼りたい時、無意識に魅力的な表情を作るようにできている。なぜなら、そうすることで大人が手を差し伸べずにはいられなくなると本能で知っているから。これまで何度も子供たちを助けてきたが、この子は格別だ。そうだ、なんならいっそのこと私がこの子のママに――などと、ちょっぴり危ない思考に陥りそうなナコだった。 「そ、そお? 困ったなー、おねーさん忙しいんだけどなー、うわははははは」 よだれと鼻血を拭き拭き、ナコはいたいけな美男子を正面から見据えた。 「でもお願いされちゃ断れないよね。わかった、明日までおねーさんと一緒にいようね」 「わぁ、ありがとー」 ぱあっとショウタの顔が輝く。これぞ天使、ザ・エンジェル、ああこりゃもう辛抱たまんねぇぜ(←?)。 この時だけは、可愛い子供を攫っていく〈変態サンタクロース〉の気持ちが少しだけ解ったような気がした。 「ところでさ」 ショウタが話題を変える。 「さっきのサンタさん、何だったの?」 スマホをポケットに収めているので、興味の対象が変わったようだ。 「ああ。あれはね、サンタさんじゃないの」 ナコは極力自分を抑えて言った。憎き相手を思い浮かべるだけで、心中(しんちゅう)が穏やかでなくなる。 「ただの変態だよ」 「変態?」 「うん。毎年クリスマスの時期になるとね、可愛い子供を攫いに来るの」 そうなのだ。 なぜ例年化しているのか原因は不明だが、少なくともナコが被害に遭って以降から、日本各地で同じような不審者が度々現れている。 「さらう、ってどういうこと?」 「勝手に連れていく、ってこと」 「連れてってどうするの?」 「それは……」 ナコは言葉に詰まる。変態が可愛い子供を連れ去ってまでやることといえば、あんなことやこんなこと、とにかく子供には説明できないことばかりなのだ。 「ま、まあ色々ね。怖い話だからやめとくよ。要するにあれは『悪者の偽サンタ』ってところかな」 「ふーん」 ショウタは怪訝そうな顔をしながらも、一応は納得したようだ。 「あの偽サンタ、強かったね」 「そうだね」 偽サンタ――ナコは〈変態サンタクロース〉と呼んでいる――は確かに厄介な相手だ。いくら銃撃しても立ち上がり、目的を完遂しようとする。ナコが使う武器が非致死性のものであることを差し引いても、あの頑丈さは異常である。彼女をお持ち帰りしようとした蔵臼でさえ、ラバーボール弾の直撃は効いていたというのに。 あの者を倒すことは不可能。だからナコが取り得る方法は、子供が攫われそうなところへ駆けつけ、足止めをしている間に子供を逃がすか、あるいは連れ去られた子供を奪還するかのいずれかしかない。 攫われる可能性のある子供たちの数を考えれば、途方もない作業にも思えるが、クリスマスが終われば〈変態サンタクロース〉の襲撃は収まるので、それまでの辛抱だ。 「でも大丈夫。おねーさんが守ってあげるから。また君が襲われたら助けてあげるね」 ナコはウィンクして見せる。 「おねーさん、すごーい」 「でしょー」 車内が和やかな雰囲気に包まれる。台風一過した後の穏やかな海のように。 こんな時がずっと続けばいいのに。そう思った矢先。ふと、ショウタがバックミラーを見上げて言った。 「あれ、何かな?」 「ん?」 バックミラー越しに見ると、道路の向こうから赤い豆粒のようなものが近付いてくる。 ナコは振り向く。と同時に、こちらへ迫ってくるものの正体に気付いた。 「さっきの奴か!?」 そう、先ほど撃退したはずの〈変態サンタクロース〉である。 復活するのが早すぎやしないだろうか。「アイル・ビー・バック」なんてレベルではない。相当なダメージを負わせたはずなのに、もう回復しているとは、とても人間に思えなかった。 ――いや、そもそも人間ではないのかも。 ナコがそう考え直したのには理由がある。迫りくる敵の顔は、至近距離から銃撃を受けた為か皮膚が剥がれ落ち、骨格がむき出しになっていたのである。 むき出しと言ってもスプラッターな感じではなく、皮膚が合成樹脂を貼り合わせたものらしく、それに覆われていたのは金属製と思われる黒いドクロ。両眼には赤く光るレンズがはめ込まれていた。 まさかサイボーグ? 何でそんなものが? 「ていうか、考えるのは後でッ!」 信号が青に変わるが早いか、ナコはアクセルペダルを踏み込んだ。四駆が唸りを上げて急発進する。 バックミラーで敵の様子を確認。〈変態サンタクロース〉は短距離走のアスリートよろしく駆けている。恐ろしいことに、速度は落ちるどころか益々加速していた。 「ちょ、マジ!?」 さすがのナコも戦慄した。ガチで追いかけられたのは今回が初めてだったのだ。恐らく奴は、ショウタを捕獲するまで諦めないのだろう。今年の〈変態サンタクロース〉はやけにしぶとい。 「高速に入るよ、しっかり掴まって!」 ナコに言われるまま、ショウタが両手でシートベルトにしがみつく。 ナコは高速道路の進入口に向けてハンドルを切った。 タイヤのこすれる音。料金所を通過し、高速道路に入る。ナコはアクセルペダルをベタ踏みした。 車は更に加速。後方の〈変態サンタクロース〉が遠ざかっていく。これなら逃げ切れるかもしれない。 ――と考えたのが甘かった。 ドン、と音を立てて車体が揺れる。次の瞬間、フロントガラスの向こうに逆さまのドクロが現れた。〈変態サンタクロース〉が車の屋根に飛び移ったのだ。 ナコは、はっきりと見た。目の前にいる人外の敵を。 「くッ!」 恐怖に慄(おのの)いている暇は無い。こいつを振り払わなくては。 ハンドルを荒々しく切り、車体を右へ左へ。相手も落とされまいと必死にしがみついている。 運転席から後部座席に手を伸ばす。手探りで銃身の短いサブマシンガンを引き当てると、ナコは運転席の窓からそれを突き出した。 「落ちなさいッ!」 フロントガラスにへばりついた相手めがけて、フルオート射撃。これもラバーボール弾だが、車体から引き剥がすだけならこれでもいい。 残弾が尽きそうな頃に、ようやく敵の両手が剥がれた。今が好機! ナコは乱暴にハンドルを切ると、サイドブレーキを引いて車体を横滑りさせた。悲鳴のような音を立てて、四駆は車線の分岐点にあるクッションドラムへ―― 激突。 その反動で〈変態サンタクロース〉は路上に投げ出される。 車は停止。リスタートさせようにも、なかなかエンジンがかからない。今のショックで不調になったようだ。クッションドラムである程度は衝撃が和らげられる計算だったが、予想以上にスピードが出ていたらしい。 「おねーさん、あいつ生きてる!」 そんなことだろうと思っていた。だから早く逃げなければならないのに。 敵は何事もなかったように起き上がり、こちらへ向かってきた。車が動かないと分かっているのか、余裕綽々といった様子で歩んでくる。 これはマズい。 ナコは決断を迫られた。ここは車を放棄するべきか。しかしそれではすぐに追いつかれてしまう。ならばここでショウタを逃し、自分は残って足止めするのはどうだろう。奴が人間でないと分かった以上、ありったけの武器を使っても気休めにしかならないかもしれないが。 その時だった。 「必ィィッ殺、〈爺射刺・喰捨人(ジイィザス・クライスト)〉ォォォッ!」 聞き覚えのある声と共に、視界の端から人影が踊り出た。いきなり現れたその人物は、突き出した右手を〈変態サンタクロース〉の腹部にめり込ませ、次の瞬間には天高く打ち上げていた。 この技の使い手は、この世に一人しかいない。そう、ナコにトラウマを植え付けた張本人である。 「ふははははははは!」 路上に叩きつけられた敵を見下ろして高笑い。腕組みした上半身裸の〈サンタクロース〉は、満足げな顔をしてこう名乗ったのだった。 「――蔵臼惨多、ここに見参!」 それからというもの。 何とか危機を脱したナコとショウタは、蔵臼の隠れ家へと避難したのだった。 隠れ家は山奥にあるポツンと一軒家。夕方頃から雪がちらついているので、四駆(あの後エンジンがかかった)でなければここに辿り着くのは難しかっただろう。家の造りはフィンランドの山林にあってもおかしくないようなログハウスで、床面積は広め。リビングの暖炉では赤々と火が焚かれている。変態親父のくせに家がやたらお洒落なところが、ナコにとっては面白くなかった。 蔵臼からソファに座るよう促されたナコは、これに従うことなく、代わりにハンドガンを構えた。 「あんた、忘れたとは言わせないよ」 ナコは敵意をむき出しにする。確かにさっきは危ないところを助けて貰ったが、それはそれ、これはこれ、である。 「あんたのせいで、私がどんな思いをしたか……!」 あの出来事さえなければ、自分は普通の少女として学校に通い、素敵なイケメンとの恋愛を楽しめただろうに。だけど現実はそうさせてくれなかった。蔵臼が現れたせいで、自分の周りにはろくでもない男しかいないと思い知らされた。以来、男には頼らないというポリシーを掲げ、町に恋人たちが溢れるクリスマスには毎年のように〈変態サンタクロース〉狩りに明け暮れる――これのどこがイマドキ女子のやることか。 「……あの時の幼女か。覚えておるぞ」 蔵臼は真面目な顔で答える。サンタクロースの格好(ただし上半身は裸)をしていなければ、それなりに絵になる風情だ。 「だったら話が早い。ここで復讐させて貰うからね」 ナコは引き金に指をかけた。 蔵臼は微動だにしない。 「復讐したいなら、それもよかろう。だがな、お主だけであの子を守れるのか?」 彼の視線の先にはショウタがいる。無垢な子供は、我関せずといった様子でソファに座り、スマホゲームで遊んでいる。 「それは……」 蔵臼の言うことには一理ある。今年の〈変態サンタクロース〉は毛色が違うらしく、ナコ一人では対処が難しそうだ。その点、蔵臼の戦闘力は頼りになる。一人では無理でも、二人ならあるいは。そんな気にさせられてしまう。 だが、目の前にいるのは仇敵。そうそう簡単に割り切れるものではない。 「悩んでいるようだな。ならば一つヒントをやろう」 ナコの葛藤を見透かしたように、蔵臼が言った。 「お主に〈奴ら〉の座標を教えていたのは誰だと思う?」 〈奴ら〉とは〈変態サンタクロース〉のことだろう。 ナコは息を飲んだ。もしかしたら、という考えが脳裏をよぎる。 これまで自分が〈変態サンタクロース〉の正確な居場所を把握できていたのは、スマホにそれを知らせるメールが届いていたからだ。 メールの差出人はいつも匿名、本文の内容は座標を示した数字と地図だけ。そして最後は必ず同じ言葉で締めくくられていた。 「『清正の為に』」 蔵臼がその言葉を口にする。 「あんたが……!」 「さよう。吾輩なら奴らの居場所が分かるのだ。罪滅ぼしに聞かせてやろう」 そう言って、蔵臼は語り始めたのだった。 「子供たちを攫うサンタクロースは、人間ではない。自律式のアンドロイドなのだ」 彼の話を要約すると、以下のようになる。 〈変態サンタクロース〉のベースは、とある研究機関が開発したサンタクロース型アンドロイドだという。AIを搭載したこのロボットは、両親のいない子供たちに夢を与える目的で造られた。しかし開発途中に発生した『ある事故』が原因で、暴走を始めたそうなのだ。 「事故って、何があったの?」 ナコに聞かれ、蔵臼は苦々しい表情になった。 「うむ。あれは七年前の冬だ」 七年前といえば、ナコがトラウマを植え付けられた翌年である。 「吾輩と清正は、顔を合わせる度に肉体言語で語るほどの仲になっていた」 清正――つまりナコの兄は、蔵臼と拳を交えて以来、格闘技に目覚めたらしい。互いに死力を尽くして闘った二人の間には友情が芽生え、よきスパーリングパートナーとなったようだ。 「あの日も普段どおり『語り合って』いたのだが、互いに熱くなってしまってだな……」 無駄に自信満々な性格であるくせに、今の蔵臼は歯切れが悪い。 「二人して研究所に突っ込んでしまったのだ」 その結果、プログラミングに使われていたスーパーコンピューターが破損し、サンタクロース型アンドロイドのAIに異常が生じたのだという。 「……で、あいつらがクリスマスに子供を攫うのは何でなの?」 「それは恐らく、スーパーコンピューターに挟まれた吾輩と清正の思考パターンが、プログラムに刷り込まれたからだと――」 じゃきん、がしゃん、ずどん。 「ぐばっ!?」 ナコのショットガンが唸った。 「やっぱりあんたが原因なんかい!」 そう叫ばずにはいられなかった。 しばらくして。 鼻の穴にティッシュを詰めていた蔵臼が話を再開した。 「だから吾輩も責任を感じて、今日までに何体か撃退してきたのだ」 ナコはショットガンに弾を込めながら聞いた。 「さっき、あんたには奴らの居場所が分かるって言ってたよね。どうして?」 「それは闘士の第六感とでも言おうか」 「あ、そう」 銃口を向けられ、蔵臼は慌てて両手を振った。 「待て待て待て! 真面目な話だ。格闘技を極めていくと、精神が研ぎ澄まされていくから、近くに戦闘力の高い闘士がいると自然に分かるようになるのだ」 野生の勘みたいなものだろうか。 「あとは連中が狙いそうな子供は、吾輩や清正の好みが反映されている。故に、ある程度の当たりは付けられるというわけだ」 結局は類友ってことだ。もはや怒る気にもならない。 「次の質問。アニー……じゃなくて兄さんはどうしたの?」 随分前に見限った兄だが、一応は肉親である。行く末が気にならないわけではない。 「清正は……廃人になってしまった」 「うそ……」 スーパーコンピューターに挟まれたから、電気ショックを受けたのだろうか。いくら何でも悲惨過ぎる。 「部屋に閉じこもり、毎日のようにパソコンのモニターを眺めて……『咲音ちゃんかわいい、ぐえへへへ』などと言ってな」 後で聞いた話だが、咲音ちゃんとは美少女育成ゲームのキャラクターのことらしい。 「……前より酷くなってるじゃないの」 ちなみに以前の兄は、重度のシスコンだった。 「そういうわけで、吾輩は貴重な戦友(とも)を失った。だからこの戦いは、清正の弔い合戦でもあるのだよ」 呆れるような内容だが、蔵臼には蔵臼なりの戦う理由があるようだ。 「そう。じゃあ最後に聞かせて」 ナコは、暖炉の前でスマホゲームをしているショウタを見た。 「あの子を見て、どう思う? 欲情するようなら、あなたを協力者にはできない」 「問題ない。吾輩の歪んだ性癖は、もう過去のものだ」 意外だった。確かに、今の彼は以前に比べて少し筋肉が衰えているようだし、顔に刻まれた皺は深くなっている。そんな見た目の変化に伴って、考え方も変わったのかもしれない。 「殊勝ね。何かきっかけでもあったの?」 蔵臼という男に、少しだけ興味が湧いたから聞いてみた。 「娘ができたのだ」 「へ? へぇぇ……」 思わず変な声が漏れてしまう。あの変態野郎が人を愛し、その証(あかし)を授かっていたとは。この日で一番驚いた瞬間だった。 「愛する我が子に出会った時、吾輩はそれまでの過ちに気付いた。こんなに可愛い子を奪われたら、親はどれほど哀しみ、怒りを覚えるのか、ようやく解ったのだ」 親の愛情が理解できるようになったという。それを聞いて、少しだけ彼を赦してもいいかという気持ちになった。 「娘さんは今どこに?」 「こっちだ」 蔵臼はナコに背を向ける。彼が案内した先は、別室にあるパソコンの前だった。部屋には誰もいないから、離れた場所にいる娘とネットのカメラを介して話すのかもしれない。 彼がパソコンのマウスを動かすと、モニターがスタンバイ状態から起動中の画面に切り替わる。間もなくそこに表示されたのは、きらきら輝く瞳の美少女だった。 ――アニメ絵調の。 『わぁい、おっはよーパパ! 会いたかったよー』 「おおー萌香や、吾輩も会いたかったぞ。いい子にしていたか?」 『うん!』 美少女育成ゲームのキャラクターと親しげに話す蔵臼を見て、ナコはやっぱり叫ばずにいられなかった。 「あんたもかい!」 ナコは深々と溜息をついた。 「まあいいか。じゃあ一時休戦ってことにしとく。あの子を親元に返すまでは協力してくれる?」 蔵臼は鷹揚に頷く。 「ただし、この件が終わったら次はあんたを始末するからね」 あくまで今は協力関係だ。自分たちは決して仲間ではない、そう強調しておきたかった。 「よかろう」 ナコの考えを察したのか、〈元祖・変態サンタクロース〉は挑発するような笑みを浮かべた。この表情、見ているだけで腹が立つ。やはりこの男は好きになれそうにない。 「して、お主に策はあるのか」 問われて、ナコは考えた。 このまま逃げ続けるのは得策ではない。〈変態サンタクロース〉への攻撃が『逃げるためのもの』になってしまうと、どうしても威力が鈍る。こちらの武器には限りがあるから、中途半端な攻撃を続けているうちに底をついてしまう。それに相手の襲撃を受けてから対処することになるので、いつ戦闘が始まるのか予想できない。となると常に気を張っていなければならず、いずれ精神的に疲れてしまう。結果、ジリ貧となってしまうわけだ。 それよりはまだ弾の数に余裕があるうちに、一気呵成の反撃へ転じてみるのもいい。幸い、今のこちらには蔵臼という戦力もあることだし。 敵の目的ははっきりしている。ショウタを連れ去ることだ。だったらそれを逆手に取り、彼を囮にしてこちらの有利な場所まで誘い込めばいい。敵が餌につられてテリトリーに入り込んだ瞬間、総攻撃を仕掛ければさすがに倒せるだろう。 と、そこまで考えてナコは踏みとどまった。ソファでスマホゲームをしている彼を見て、自分の考えに問題があることに気付いたのだ。 ――あの子を『利用』するのか? 〈変態サンタクロース〉との戦いは、そもそも自分と蔵臼が当事者だ。ショウタはただ巻き込まれたに過ぎない。そんな子をわざわざ危険にさらすなんて、大人としてやってはいけないことだ。この子を守ると誓った以上、安全に親元へ返すのが本来果たすべき責任ではないのか。 ナコはかぶりを振った。ショウタを物のように考えていた自分を恥ずかしく思う。 「……少し、考えさせて」 「そうか」 蔵臼はそれ以上何も言わなかった。 ナコはリビングへ戻り、スマホゲームで遊んでいるショウタの隣に座った。 「お話は終わった?」 画面から目を離さないまま、ショウタが聞いてくる。この子はこの子で、大人たちに気を遣っていたらしい。 「うん、終わったよ」 「そう」 とだけ言って、彼はゲームの世界に戻っていく。今はいいところらしく、会話する気にはならないようだ。 無言の時が流れる。部屋を満たすのは暖炉の薪が燃える音と二人の息遣い(蔵臼は別室で『娘』との会話を楽しんでいるらしい)、あとはショウタがプレイしているゲームのサウンドぐらいだ。 ショウタのスマホからは勇ましい雰囲気のBGMが流れ、それをバックに、金属がぶつかり合う音や爆発音といった効果音が鳴り響いていた。 出会った時からずっと遊んでいるけど、この子はどんなゲームをしているのだろう? マナー違反かなと思いつつ、ナコはショウタのスマホ画面を覗き見た。 画面の中では、長剣を構えた戦士が巨大なモンスターと戦っていた。戦士はショウタの操作に従ってフィールドを駆け回り、モンスターに怒涛の攻撃を仕掛けている。 戦局は不利だといえる。モンスターはカミツキガメのようなフォルムをしており、見た目通りに守備力が高めに設定されているようだ。ショウタのアバターがいくら斬りつけようとも、ダメージを示す数字が「1」しか表示されない。いっぽうモンスターからの攻撃は強力で、直撃を受ける度にアバターの体力ゲージが、ごっそり削られていくのだった。 「あー」 ショウタが天井を仰ぐ。モンスターの突進を喰らい、体力ゲージがゼロになってしまったのだ。スマホの画面はブラックアウトし、リトライの意思を確認するメッセージが表示された。 「ダメだったかー」 「そうだねー」 ナコが相槌をうつ。 「今のモンスター、強いんだね」 「うん。硬すぎるよー」 不満そうに口を尖らせたショウタを見て、ナコは思わず笑ってしまった。まるで〈変態サンタクロース〉に手を焼いている自分と同じだ。 「〈チートサンタさん〉来てくれたら勝てるのになー」 「何それ?」 「すっごい強いの。助けに来てくれたら、あっという間にモンスターをやっつけちゃう」 自分が熱中していることだからか、ショウタは饒舌である。 彼の話した内容は以下の通りだ。 ネット配信されているこのゲームは、ネット上でシェアされた世界で、各ユーザーが自由にプレイできるという。中世風の格好をしたアバターを自分に見立てて、普通に生活してもいいし、畑作業をして得た作物を売買してもいい。アバターの外見を自由に設定できるので、ネットの世界でお洒落を追求することもできる。ただこれらは特殊な遊び方で、やはり一番多いのはモンスター狩りだ。 モンスターはシェアされた世界の各地に生息しているとされ、〈冒険者〉となったユーザーは自分で選択した職業に見合った戦い方でモンスターを狩る。たとえば戦士は剣や斧を使い、弓兵はボウガン、魔法使いは攻撃魔法というように。 モンスターを倒せば、シェアされた世界だけで流通している貨幣を得ることができ、収入が多ければ多いほど、良質な装備を手に入れることができるというわけだ。 モンスターと戦う時は単独である必要がなく、ネット上で知り合った他のユーザーと協力することも可能である。 知り合いのユーザーがログインさえしていれば、自分の座標と応援要請のメッセージを送信して、助けに来て貰えるという。 ショウタの言う〈チートサンタさん〉は、昨日からログインしている素性不明のユーザーらしいのだが、その実力は桁違いとのことである。誰もが倒すのに苦労する巨大モンスターを、武器ひとつ持たず素手の攻撃だけで倒してしまうそうなのだ。 この正体不明のアバターは、誰とも意志の疎通を行わない。ただ助けを求めれば、いつでも戦闘に駆けつけて強敵モンスターを倒してくれる。楽して成果を得たいユーザーにとっては、便利な舞台装置なのである。 一夜にして有名になったこのアバターは、期間限定であるサンタクロースの服装をしており、そのためユーザーからは〈チートサンタさん〉と呼ばれるようになったのだった。 「へぇ、そうなんだ」 と相づちをうったナコは、ふと思うところがあって聞いてみた。 「助けに来て欲しいときは、仲間に自分の居場所を教えるんだよね」 「うん」 「どうやって居場所を送るの?」 「これ見て」 ショウタがスマホの画面を見せてきた。シェアされた世界の地図が表示され、その中の一点に赤い杭が打ち込まれている。 「この赤いのが僕の居場所。これをタッチすると、僕の位置が仲間に送られるんだ」 表示されている地形は、どこか見覚えのある地形だ。これはもしかしたら。 ナコは自分のスマホを取り出し、地図アプリを立ち上げた。 ショウタが見せている地図と、ナコのスマホに表示されている地図を見比べてみると、あることに気づいた。 「やっぱり。この世界の地図は、実際の世界の地図情報を反映させてるのか。だったら、ゲームの世界の座標は――」 実際の世界の座標と同じ。これでは見ず知らずの相手に、自分の居場所を教えているようなものだ。 ここで今日の出来事を思い返す。〈変態サンタクロース〉に追い掛けられた時、ショウタはゲーム継続中だった。なぜ自分たちの居場所が特定されたのか疑問だったが、何者かがゲームの機能を悪用してショウタの座標を把握したと考えれば合点がいく。 「てことは〈チートサンタさん〉って……」 サンタクロース型アンドロイド、すなわちナコが言うところの〈変態サンタクロース〉なのではないだろうか。だとしたら、奴はインターネットにアクセスして自分好みの子供を探していたことになる。AIの学習能力が悪い方向に発揮されているとしか思えない。 ――いや待てよ。 ナコは天啓を得た。敵を誘き出すのに最適な方法があったではないか。 ゲームを再開した隣の美男子を見ながら、彼女は決意を固めるのだった。 ■ ■ ■ 十二月二五日午前零時。 前夜祭(イヴ)の終わりと共に、聖なる夜が始まった。この世の穢れを浄化するかのように、純白の雪が辺りを覆い尽くす。まだ雪は止みそうにないから、夜明け頃には山間部で膝丈ほどの積雪になっているだろう。 ホワイトクリスマスの到来に、都市部ではお祭り騒ぎとなっているだろうが、それとは裏腹に、郊外より更に離れた山林ではきな臭い空気が漂っていた。 雪を踏みしめる音。暗闇に紛れて、黒いドクロ顔の〈サンタクロース〉が目的地に向かっている。昨日に拉致し損ねた児童の座標が分かったのだ。 今から十五分と四十二秒前、その児童から「チートサンタさん、助けて!」とのメッセージと、現在の座標が送られてきた。それが自身の安全を脅かす行為だと知らずに。 目的地まであと少し。車一台がやっと通れる幅の道を行くと、その先に民家があった。丸太を組んで造られたログハウス。住人はまだ起きているのか、室内から明かりが漏れている。その明かりが辺りをぼんやりと照らしているから、建物が暗闇の中に浮かび上がっているように見えた。 機械仕掛けの〈サンタクロース〉は、正面玄関へと進む。あの向こうに目当ての児童がいる。玄関前の階段まであと少し―― 爆発した。 ■ ■ ■ (……よし!) ナコは手応えを感じていた。この手のトラップは、十一歳の頃から嗜(たしな)んでいる。当時の自分は蔵臼の襲撃に怯えていたから、自宅周りに罠を仕掛けることで自己防衛を図っていたのだ。 それが八年の時を経て、今では敵の進路が概ね予想できるようになっていた。故に彼女が設置した地雷は、想定した通りの効果を発揮したのだった。 夜空に高く打ち上げられた〈変態サンタクロース〉。ナコはその様子を茂みの中から見ていた。敵が飛んでいく方向、高さ、いずれも申し分ない。その先には第二のトラップが待っている。 「うむ、けっこう!」 屋根の上では、蔵臼が待ち構えていた。 彼はボディビルダーのような逞しい肉体にも関わらず、鳥のような身軽さで跳躍する。 「ハァァァイヤァァァッ!」 空中で前転、遠心力を利用した胴廻し回転蹴りだ。蔵臼の踵が〈変態サンタクロース〉の鳩尾に突き刺さり、敵は地面へと急降下。 激突。雪が舞い散り、きらきらと光を反射させる。 「ふんッ」 音もなく着地した蔵臼が、追撃の一手。しかし相手のほうが早かった。 〈変態サンタクロース〉は俊敏な動きで起き上がる。かと思えば後方に飛び退き、蔵臼と間合いを取ろうとした。 「逃がさんぞォ!」 再び雪が舞う。蔵臼が人並み外れた脚力で地を蹴ったからだ。白銀に輝く粒子の中を突っ切り、彼は瞬時に間合いを詰める。 顔面へのワン・ツーはあくまでフェイク、そこから左のボディブロー、右膝関節へのローキックへと繋ぐ。相手がバランスを崩したところで、蔵臼は身をかがめた。 「撃て!」 「うるさいっ!」 ナコは茂みから現れ、サブマシンガンを連射した。作戦の計画段階では、タイミングはこちらで決めると言っておいたのに。蔵臼に指示されたような気がして面白くない。 銃に込められているのはラバーボール弾なので、〈変態サンタクロース〉を破壊することは不可能だ。しかし、敵の注意を反らすにはこれで充分。 「けっこうけっこう!」 嬉しそうな声を上げる蔵臼。彼はナコとの共闘が楽しくて仕方ないらしい。 しゃがんだ姿勢から水面蹴り。視界を奪われていた〈変態サンタクロース〉は、膝下を刈り取られたように転倒した。 ここで第三のトラップ発動。 ナコがナイフでロープを切ると、それまで樹上に繋ぎ止められていた丸太が落下した。 予め計算した通り、敵は落下地点で大の字になっている。そこを目がけて御柱のような大木が―― 轟音が山中に響いた。 丸太が地面にめり込んでいた。その下には〈変態サンタクロース〉の頭部がある。動きが止まったので、頭の中にあるICチップの破壊に成功したのかもしれない。 ナコが立てた作戦は、予想以上の結果をもたらした。予めトラップを仕掛けておいて、ショウタから借りたスマホを使い、〈チートサンタさん〉に応援要請のメッセージと現在の座標を送る。その上で蔵臼と二人で持ち場に配置し、敵が来るのを待った。すると〈変態サンタクロース〉が姿を現したので戦闘を開始。あとは見ての通りである。 計画段階から勝算はあった。というのは、〈変態サンタクロース〉が戦闘用アンドロイドではないと知っていたからだ。本来の用途は子供たちにプレゼントを配ることだから、敵を効率的に倒す方法まではプログラムされていない。加えて、格闘技のような日常生活には無い動きに対処する術もないので、攻撃は全部まともに受けることになる。こうなると、あとは頑丈さと素早さだけがネックになるから、それに見合った戦い方をすればいいのである。 敵の敗因は、ショウタのスマホから送信された座標を鵜呑みにし、まんまと罠の中へ誘い込まれたことだ。人間のように疑うことなく、もたらされた情報を盲信してしまうところが、AIの限界と言っていいだろう。 ちなみにショウタは今、別の場所に匿われている。ゲームができないので、退屈な時を過ごしているはずだ。 「さて、これをどうしようか」 動かなくなった〈変態サンタクロース〉を見下ろし、ナコが言った。 「燃えないゴミの日に出すわけにはいかんしな」 蔵臼が腕組みする。 「どれ、ここはやはり持ち主に返すべきか」 と言って彼がしゃがみ込んだ途端、異変が起こった。 地面に突き刺さった丸太が横倒しになる。そちらに目を奪われている間に、人影が視界の端をよぎった。 「うぐおぉぉぉぉ!?」 蔵臼の声がフェードアウトしていく。見れば、彼が〈変態サンタクロース〉に顔面を掴まれて、森の奥へと連れ去られるところだった。 まだ生きていたのか。 ナコは茂みに隠していたアサルトライフルを掴み、後を追う。 今晩は長い夜になりそうな予感がした。 乱暴に投げ捨てられた蔵臼が、雪原を転がる。彼は回転を利用して起き上がり、構えを取った。 「第二ラウンド開始というわけか、よかろう」 蔵臼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。先ほどの闘いが物足りなかったようだ。 両者は間合いの外で対峙する。一方は両手を肩の高さにして構え、相対するは無構え。 ――否。 「ほう?」 蔵臼が意外そうな顔をした。〈変態サンタクロース〉が同じ構えを取ったのである。 ますます嬉しそうな顔をする〈元祖・変態サンタクロース〉。耐えきれなかったのか、先に飛び出したのは彼のほうだった。 「いざッ!」 一足飛びに距離を縮める。左のジャブ、と見せかけて右のロングフック。相手にしてみれば、視界の外から拳が飛んできたように錯覚するはずだ。 ところが。 〈変態サンタクロース〉は頭を下げて躱す。続いて反撃。地面から伸び上がりざまに天を衝くようなアッパー。硬い拳が蔵臼の鼻先をかすめていった。 (……学習してる!?) ナコは瞠目した。戦闘用ではないはずのアンドロイドが、格闘技の動きをしている。AIが蔵臼の動きを学習し、戦う術を得たのだ。恐ろしいほどの処理能力である。 当初、蔵臼はこの状況を楽しんでいた。強敵と戦うことが何よりも好きな彼のことだ、それも当然である。だが戦いが長引くにつれて、〈変態サンタクロース〉の動きがみるみるうちに洗練されていく。加えて、機械は疲れることを知らない。消耗し始めた蔵臼が、次第に攻撃を喰らうようになってきた。 「ぐッ!?」 ワン・ツーからのローキック。蔵臼が足止めされたところで、神速の前蹴り。鍛え抜いたはずの腹筋を貫かれ、蔵臼は数歩下がる。 その時だ。 〈変態サンタクロース〉は身を低く屈ませ、右手を鉤爪の型にする。 (あの構えは!?) ナコは目を見開いた。幼い頃に見た光景がフラッシュバックする。 次の瞬間、攻撃が放たれた。 縮地とも言える疾さで間合いを詰められ、気づいた時には敵の鉤爪が蔵臼の腹部を捕らえていた。そこから更に手をねじ込まれ、力のベクトルが水平から垂直方向へと変化する。 敵が繰り出したのは〈爺射刺・喰捨人〉。蔵臼の必殺技だった。 「ぐふぉぉぉぉっ……」 まさか自分の技を盗まれるとは思いもしなかっただろう。蔵臼は夜空に高々と打ち上げられたのだった。 上昇、滞空、そして落下。 地面に叩きつけられた蔵臼は、ピクリともしなかった。打ちどころが悪かったのか、失神してしまったらしい。 勝者となった〈変態サンタクロース〉が振り向いた。赤い目がナコを見ている。こちらへ歩いてきた。彼女を排除すべき障害だと認識したのかもしれない。 ナコは逃げた。こんな化物相手に、銃だけで対等に戦えるはずがない。過去のトラウマが襲ってくるように思えて、涙がこぼれた。 「はあっ、はあっ……」 どれだけ走っただろうか。木々の間を縫うように逃げてきたので、すぐに追い付かれはしないだろう。 足が痛い。体も凍えてきた。そろそろ休みたい。少しだけなら腰を下ろしても―― 「……ダメだ」 弱気になりそうな自分に喝を入れる。ここで休んだら、きっと立てなくなる。そうなったら最後、二度とショウタのもとには戻れない。 あの子を守ると約束したんだ。そう自分に言い聞かせ、ナコは走り続ける。やがて目の前の木々が開けた。 「!?」 この時ほど、己の判断ミスを悔やんだことはない。ナコが辿り着いたのは、切り立った崖の上だったのである。 がさり、と背後の茂みが鳴った。森の動物ではない。無感情な敵がそこに立っていた。 「ぐぅぅぅ……!」 諦めるのはまだ早い。 ナコはアサルトライフルを構え、射撃した。しかし相手はラバーボール弾の嵐をものともせず、歩み寄ってくる。 弾切れ。 「これならっ!」 腰のホルスターから銃を抜く。迫りくる敵に照準を合わせ、至近距離から発砲した。打ち出されたのは弾丸ではなく、二本の電極。ナコが撃ったのはテーザー銃だった。 〈変態サンタクロース〉の体に電極が突き刺さり、数十万ボルトの電気が流れる。機械仕掛けの相手だからこそ有効な手段に思えた。 スパークが起こり、目の前の敵が痙攣する。数秒もすると、焼け焦げたような匂いと共に煙が出てきた。 あと少し! そう思った時には電流がストップしていた。バッテリー残量がゼロになったのだ。 惜しかったな。そう言われた気がした。 〈変態サンタクロース〉が腕を振るう。 「がっ!?」 金属製の腕がナコの頬を直撃し、彼女は吹き飛ばされた。あと少し威力が強ければ、崖の下に転落していただろう。 頬が痛む。だけど心はもっと痛い。 過去の恐怖と向かい合う為に、今日まで戦ってきた。普通の女の子であることを諦め、長い時を費やしてきたのに。自分のやってきたことは何だったのか。 悔しい。心が折れそうだ。 機械仕掛けの〈サンタクロース〉が手を伸ばしてくる。このまま崖の下へ突き落とせば排除完了だ。あとはクリスマスが終わるまでにショウタを探せばいい。 もうダメだ、とは思わないことにする。こうなったら最後まで強がってやるんだ。 ナコは唇を引き結び、目の前の敵を睨みつけた。 (――あんたは!?) 信じられない光景があった。 倒されたはずの蔵臼が、〈変態サンタクロース〉の背後から飛び掛かったのである。もはや闘士のプライドは欠片もない。意地汚く、どこまでも卑怯に。 背中にしがみついたまま、蔵臼は敵の腕を取る。そこから関節技へ。打撃技を得意とする彼がサブミッションを選択したのは、意外としか言いようがない。やがて力負けした敵の腕が、あり得ない方向に折れ曲がった。 〈変態サンタクロース〉は蔵臼を振り落とそうとするが、両足でしっかりホールドされているから容易ではない。その隙にもう一本の腕も奪われ、反撃が困難になった。 蔵臼は敵から離れると、今度は力士のように突進する。相手の腰にしがみつき、崖まで一気に寄り切ろうとしていた。 あと少しで転落しそうなところで、機械仕掛けの〈サンタクロース〉が踏みとどまる。 「何で……?」 ナコは問う。 「これが吾輩なりの償いだ」 蔵臼は尚も前進していた。 「先ほどの共闘、楽しかったぞ。お主と再会できて良かった」 何故そんなことを言うのか。これではまるで、最期の場面ではないか。 「それではこれにて。メリークリスマス!」 そう言うと、蔵臼は〈変態サンタクロース〉もろとも崖の下へと落ちていったのだった。 ナコは一人で森の中を歩く。 もう追っ手は来ないだろう。あの後、奈落の闇から衝突音が聞こえたから。いくら頑丈なアンドロイドといえども、さすがにあれだけの高さから墜落すればひとたまりもあるまい。 蔵臼の隠れ家から遠く離れたポイントに、自分の車を停めておいた。損傷だらけの四駆は、エンジンをかけたままにしてある。なぜなら、中にショウタがいるからだ。 時刻は間もなく明け方となる。待ちくたびれてしまったらしく、ショウタは静かな寝息を立てていた。 子供の寝顔は天使のよう、とは誰が言い出したことか。なるほどそれは真理だ。邪気のない顔を見ているだけで、心が洗われていく。 ナコはショウタの前髪を払ってやると、運転席に身を滑らせた。 車を運転して、山道を下り、町を目指す。ショウタの家がどこなのか分からないけれど、とりあえず最初に出会った場所まで行ってみようか。 細い一本道から、舗装された国道へ。そういえば高速道路を使ってここまで来たんだっけか。じゃあ高速に乗ろう。 夜明け前の高速道路は、がらんとしていた。まるでこの世に自分たちしか居ないかのように。 同じような風景の中、ぼんやり車を走らせていたら、向こうの空が明るくなってきた。夜明けを迎えたのだ。空は濃色、本紫、青紫と次第に色を変え、やがて茜色が混ざり始める。高速道路を降りた頃には、太陽が完全に姿を現していた。 「……ん」 助手席のショウタが身じろぎした。彼は眠い目をこすりながら起き上がる。 「あ、おねーさんおはよう」 「おはよ」 こんな時、にっこりと微笑み返してあげられたらよかったのに。今はそれだけの余裕が無かった。 「おじちゃんは?」 蔵臼のことだろう。インパクトのある姿だから、居ないことに直ぐ気付いたようだ。 「……おうちに帰ったよ」 本当のことを言ってはいけない気がして、とっさに嘘をついてしまった。 「そうなんだ」 あっけらかんと言うショウタ。それだけで、彼は何も知らないのだと分かる。ナコは安心していいのか、よくないのか、複雑な気持ちになった。 「偽サンタはどうなったの?」 無垢な質問が飛んでくる。最後の場面を思い出して、ナコは歯を食いしばった。 「やっつけたよ」 「本当!? おねーさん、すごーい」 憧れのヒーローに向けるような目で、ショウタはナコを見つめる。彼はナコが敵を倒したと思っているようだ。 実際は違う。奴を葬り去ったのは蔵臼だ。だから本当の意味でのヒーローは、彼の方なのだ。 「じゃあ、これでもう終わりなんだね」 「……うん、終わり。全部、終わったの」 ナコは鼻をすする。寒さのせいではない。 「あれ? おねーさん泣いてる?」 「泣いてない」 「泣いてるよ」 「泣いてないってば」 ショウタのスマホに着信があるまで、このやりとりは続いたのだった。 「この度はどうもありがとうございましたー」 のほほんとした調子で礼を言い、深々とお辞儀。上げた顔は息子にそっくりだ。 ショウタに電話をかけてきたのは、彼の母親だった。電話で話した時は穏やかな女性という印象だったが、実際に会ってみると「浮世離れしている」といったほうがしっくりくる。ナコがショウタを自宅まで送ると言えば、疑いもなく住所を教えてくれたり、親が不在の間にあった出来事について何も尋ねなかったり。こちらの素性を確かめることもせず、ナコのことは『息子と遊んでくれた上に家まで送ってきてくれた親切なお姉さん』としか思っていないようだ。 「おねーさんと一緒で楽しかったよー」 「あら、そう。良かったわねー」 愛おしむように母親が子の頭を撫でる。見た目は三十代後半、茶色がかった髪をボブカットにしている。ピアスの装飾は透明なストーンのみ。落ち着いた柄のカシミアマフラー、白いコクーンタイプのコートには汚れ一つない。見る限り、シンプルながらも良い物を身につけることを重視しているようだ。 「私も夫も、なかなかこの子を構ってあげられなくて。色々と親切にして頂いたようで、本当にありがとうございましたー」 「いえ、私は……」 と言いかけたが、何と説明したら良いものか悩ましい。考えた末に、ナコは苦笑いで誤魔化すことにした。 「ママ。あっちでパパが待ってるんでしょ? 行こうよ」 ショウタが急かす。 母親が言うことには、父親が海外に赴任しているので、今年はそちらで一緒に年越しするのだそうだ。 「はいはい。それじゃあそろそろ」 母親はショウタの手を引き、軽く会釈しながら遠ざかる。 「またねー、バイバイ」 将来が楽しみな美男子は、ナコに手を振り振り歩き出す。名残惜しそうでないのが少し残念だが、深入りすると為にならないので、これでいいかと思うことにした。 「元気でねー」 精一杯の笑顔で別れを告げる。 ナコはショウタの後ろ姿を見ながら、いつまでも、いつまでも手を振り続けるのだった。 [完……??] 「うむ。やはり子供はいいものだな」 降って湧いた声。ナコは瞬時に振り返る。 「あんた……なんでここに⁉」 そこにいたのは、蔵臼だった。ところどころに擦り傷があったり、服が破れていたりしたものの、本人はいたって元気である。 「なんでと言われてもな。今日はクリスマスだ。子供たちがいるところにサンタクロースが来るのは当然だろう?」 そこまで言うと、彼はニヤリと笑みを浮かべた。 ――ああ、この顔だ。この顔を見ていると純粋にムカついてくる。 「何せサンタさんは『子供が好き』だからな!」 どこかで聞いたようなフレーズだ。前に聞いた時は『好き』の種類が違っていたような気もするが。 「説明になってないっての」 ツッコミを入れたら、笑みがこぼれた。 さっきまでは蔵臼が死んだものと思っていたから、自分は誰に復讐すればいいのかと泣き叫びたい気分だった。しかし仇敵が生きていたなら話は別。ナコは自分の中に活力が蘇って来たのを感じた。 「おお、お主も笑ってくれるか。吾輩も嬉しいぞ」 ナコの考えが読めない蔵臼は、ずれたことを言う。 「ええ。私もすっごい嬉しい」 これは本音。だってこの手で積年の恨みを晴らせるのだから。 「そうかそうか。案外、我々は気が合うのかもしれんぞ」 「そうかもね」 心にもない一言。ナコは隠し持っていた武器を、そろそろと取り出す。 「ところで提案なのだが。お主さえよければ吾輩と旅をせぬか? サンタクロース型アンドロイドは、まだ日本各地に散っておる。奴らを殲滅するのが我々の使命だと思うのだ」 この男は何を言っているのだろう。 元々はこいつと馬鹿兄貴が撒いた種ではないか。それをなぜ私が刈り取らなければならない? 冗談もほどほどにして欲しい。 「ん、どうだ?」 彼の誘いに対する答えはノー。いじめられっ子がいじめっ子と仲良くなるぐらい無理な話だ。 「あー、それは遠慮しとくわ」 「ふむ? 悪い話ではないと思うが。戦線離脱した清正の為にも――」 じゃきん、がしゃん、ずどん。 蔵臼が振り向いたタイミングで、ナコはショットガンを思いっきりぶっ放した。 「ぐぼぉ⁉」 ラバーボール弾によって顔面を強打され、鼻血を放出しながら地面に転がる〈元祖・変態サンタクロース〉。 憎き相手の無様な姿を見て、ナコの体の中を、ぞくぞくぞくっという快感が突き抜ける。 ――あぁあぁぁぁぁぁぁぁぁたまらない! やっぱり復讐っていいわ。気持ちがスッキリする。 「な、なぜだ⁉ ここは互いに健闘を讃え合い、友情やら恋愛感情が芽生える場面ではないのかッ!」 「やかましいっ! 『ノット・ビー・バック』とか言いたくなるまで、弾をお見舞いしてやろうかぁぁぁぁ‼」 逃げる蔵臼。追うナコ。 そんな二人を、町の人々は怪訝そうに眺めている。 今年のクリスマスも、なんやかんやで騒がしくなりそうだった。 [完!] |
庵(いおり) 2019年12月30日 16時16分32秒 公開 ■この作品の著作権は 庵(いおり) さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2020年02月03日 00時29分44秒 | |||
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Re: | 2020年02月03日 00時22分28秒 | |||
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Re: | 2020年02月03日 00時14分37秒 | |||
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Re: | 2020年02月02日 23時44分38秒 | |||
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Re: | 2020年02月02日 23時37分20秒 | |||
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Re: | 2020年02月02日 23時27分17秒 | |||
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Re: | 2020年02月02日 23時05分13秒 | |||
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Re: | 2020年02月02日 22時51分41秒 | |||
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Re: | 2020年01月18日 18時16分31秒 | |||
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Re: | 2020年01月18日 18時05分30秒 | |||
合計 | 10人 | 160点 |
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