正義の戦士ケンエンシャー |
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ここは街のファミリーレストラン。 人々が幸せな食事を楽しむ為の場所である。 窓際の日当たりの良い席で、五歳の子供を連れた若い女性が食事をしていた。お子様ランチをおいしそうにフォークで突いている我が子を眺めながら、女性は幸福そうに目を細めている。 そんな牧歌的で平和な光景に、一人の男が割って入って来た。 その男が近づくなり、あたりの人間たちはその異様な臭気に眉を顰めた。一度鼻に張り付いたら簡単には引き剥がしようのない、独特で不快な……そう、それはニコチンの臭いであった。 間違いようがない……その男の正体は世にもおぞましき、喫煙者だったのだ! 「よっこいせ」 喫煙者は女性の隣の席に腰掛けると、おもむろに懐から煙草を取り出した。そしてそれを恰好付けた動作で指の間に挟むと、唇にあてがおうとした。 「ちょっと待ってください」女性は焦燥を表情に浮かべた。「子供がいるんです……タバコはやめてください!」 この女性の要求は当然と言って良かった。何故ならば、煙草の煙が人の健康を著しく害することは科学的にも明らかであり、増して子供がそれを浴びようものなら、全身の穴という穴から流血してたちどころに死亡することは必至であるからだ。 「何ぃ? 煙草をやめろだってぇ?」喫煙者は頬を酷薄に歪める。「くくく……それは出来ない相談だなぁ?」 「な……何故ですか? わたしは子供の命を守りたいだけです!」 「ふふふ。……どうやら、貴様にはこの文字が見えていないようだなぁ」 そう言って、喫煙者は壁に貼られた看板を指さす。 『喫煙席』 「そ……そんな……。確かにここは喫煙席……。しかし……だからと言って……」 「ここが喫煙席である以上、正しく分煙している俺の喫煙を誰にも止めることはできない! 食らうが良い! 必殺」喫煙者は煙草の煙を肺一杯に吸い込み、吐き出した。「『呼出煙・ブレス』!」 「ぐぁあああ!」 喫煙者の吐いた呼出煙・ブレスを浴び、子供は激しく嘔吐しながら全身の穴という穴から流血して死亡した。 「やめてぇええ!」女性は絶叫する。「どうしてわたしから息子を奪うの? わたしはただ、喫煙席の方が日当たりが良いからそこで食事をしていただけなのに!」 「くははははは! それが間違いよ!」喫煙者は煙草の煙を再度吸い込む。「貴様もここで終わりだ! 食らえ、『呼出煙・ブレス!』」 「そうはさせん!」 レストランのガラス窓を突き破りながら、女性と喫煙者の間に飛び込んだ全身黒タイツの男がいた。背中には大きな赤いマントを背負っており、胸には煙を放つ煙草に大きなバッテンを付けた『禁煙マーク』の書かれた布を張り付けている。 「俺の名前は『ケンエンシャー』! すべての喫煙者を滅ぼし、世界に平和をもたらす者だ!」 そうこうしている内に煙が届いて女性は死んだ。 喫煙者は立ち上がり、ケンエンシャーを強く睨みつける。 「貴様がケンエンシャーか。噂は聞いている。だが、この俺に勝つことができるかな?」 そう言って喫煙者は先ほど吸った煙草の煙をケンエンシャーに吐きつける。 「必殺……呼出煙・ブレス!」 ケンエンシャーの全身が、喫煙者の放つ悪のブレスに包まれる! 全身を死の煙で犯されたケンエンシャーに命はないと思われた。 「ふん。何がケンエンシャーだ。造作もな……」 「薄汚い喫煙者よ、貴様はここで終わりだ」 調子に乗る喫煙者の背後から、死神が冷酷な言葉を放った。驚愕して振り向く喫煙者が見たのは、その手に薄緑色のガムをつまんだケンエンシャーの姿だった。 「バカな……いつの間に……」 「我々非喫煙者は煙草を吸っていないので、とても健康状態が良い。貴様ら喫煙者などとは運動能力が違うのだ。……食らえ!」 ケンエンシャーは手にしたガムを喫煙者へ向けて放り投げた。ガムは空中で巨大化し、全身を包み込むほどとなって喫煙者に襲い掛かった。 「うぐぅううう!」全身をガムで覆われ、身動きの取れなくなった喫煙者は、ガムの中からくぐもった悲鳴を上げる。 「禁煙ガムだ! 貴様のような喫煙者は、これでも食って煙草をやめるが良い!」 「うぐぅうう。うぐうぅうううう!」 喫煙者はその場で窒息してのたうち回り、やがてどかんと気味の良い音を立てて爆発四散! 薄汚いその全身はこの世から消滅し死亡した。 「うおおおお! ケンエンシャーが勝ったぞー!」戦いを見守っていた周囲の人々は快哉を上げた。「俺達のレストランが救われた! ありがとう! ケンエンシャー! ありがとう!」 「当たり前のことをしたまで。礼には及びません」ケンエンシャーはクールに答えた。「また、何か困ったことがあったら言ってください」 そう言って颯爽とレストランを去っていくケンエンシャーを、人々は拍手で見送った。 「待ってください!」 そんなケンエンシャーに、背後から声をかける少女の姿があった。 その少女、年齢はおそらく中学生くらいではないだろうか? 薄桃色の艶やかな髪を二つ結びにし、大きな瞳は澄み切ったレモン色。桜色の唇と真っ白な肌を持っている、如何にもヒロイン然としたプリップリの美少女だった。 「何か用かな?」 「実は……ケンエンシャーさんにやっつけて欲しい人がいるんです」 「それは喫煙者なのか?」 「もちろんです! すごく悪い喫煙者が、兄の会社に現れ、煙草を吸い始めたんです」美少女は懇願するように言い、頭を下げた。「このままだとお兄ちゃんの会社が潰れてしまう……。お願いしますケンエンシャーさん! どうか、どうかお兄ちゃんの会社を救ってください……っ!」 〇 そこはとある企業ビルの中。 勤務時間中だというのに、ぷかぷかと煙草を吹かす卑劣なる男の姿があった。悪しき喫煙者である。 この男は喫煙者の中でも特に劣悪な存在であると言えた。何故ならば、皆が懸命に働いているその最中に、煙草を吹かしているのである。それで同じ給料をもらうというのだから、勤務時間の私的利用甚だしい、唾棄すべき極悪人であると断言できた。 「あの……主任、ちょっとよろしいですか?」 一人の若いOLがおずおずとした様子でそのおぞましき喫煙者に声をかけた。 「何の用だね?」 「今は……勤務時間中です。皆、働いているんです。どうか、どうか煙草を吸うのはやめてください……」 「くくく……OLくん、どうやら、君には一つ気付いていないことがあるようだ」 「な、なんですか、その気付いていないことというのは……」 「そこを見ろ」 喫煙者が指さした先には、『喫煙室』と描かれた看板があった。そう! この卑劣な喫煙者は、喫煙室で煙草を吸っていたのである! 「そんな……まさか、ここが喫煙室だっただなんて……」 「ふははははははっ! そうさ! 俺は喫煙室で煙草を吸っているにすぎん! 正しく分煙しているこの俺を、誰も止めることはできないのだ!」 「な、なんてことなの! 腐った人間の屑である喫煙者を、誰にも咎められないだなんて!」 「ふははははははっ! 会社の喫煙ルールを守って素早く喫煙し、能率良く仕事をしてやるぜ!」 「そうはさせん!」 喫煙室の扉をぶち破り、ケンエンシャーが喫煙者の前に姿を現した。 「来たか! ケンエンシャーめ!」喫煙者はほくそ笑んだ。 「悪の喫煙者め! 貴様の人生最後の喫煙はもう終わりだ! これでも食らえ!」 ケンエンシャーは懐から取り出した禁煙ガムを喫煙者に放り投げる。喫煙者は口から煙を吹きだして迎撃したが、しかし実体のない煙ではそれを防ぐことができない。たちまち巨大化した禁煙ガムに、人の形をしたものが飲み込まれていく。 呼吸を奪われた敵が爆発四散するのも、最早時間の問題だろう。ケンエンシャーは肩をすくめ、鼻を鳴らした。 「ふん。雑魚がっ。煙草等吸っているから、この程度の技も躱せぬのだ」 「それはどうかな?」 後ろから声がかかり、思わず振り向くケンエンシャー。勝ち誇るケンエンシャーの背後に、ガムの中に閉じ込められたはずの喫煙者の姿があった。 「何? ……どういうことだ。それではあのガムの中にいるのはいったい……?」 「ふふふ……こういうことだ」 喫煙者がガムの中に手を突っ込むと、先ほどまで戦いを見守っていたはずのOLを引っ張り出した。窒息し、死にかけている。 「な、なんてことだ……」 「ふはははははっ! 俺の吐く煙は、他人の視界を奪うことに長けている。貴様の視界を奪った隙に、そこにいたOLと入れ替わったのさ!」 「し、しかし喫煙者は皆ニコチンによって健康を害されていて、その運動能力はアオミドロ程度にまで下がっているはずだ! どうしてそんな芸当が出来る? 貴様……ただの喫煙者ではないな?」 「ご名答! これが俺の真の姿だ!」 そう言った喫煙者の全身がまばゆい光に包まれ、真の姿を露にした。 全身を上等なスーツに身を包み、背後には黒色のマントを背負っている。何より異形なのはその頭部である。火をつけた煙草の先端部分が人の頭ほどの太さになってスーツから飛び出しており、そこに人間の顔がくっ付いているのだった。 「なんだそのおぞましい姿は? 何者だ?」 「答えてやろうケンエンシャー。俺は貴様を倒す為、狂科学者わかば博士によって作られた改造喫煙者! その名も……」 喫煙者は意味もなくその場を飛び上がり、意味もなく空中で前転して意味もなく着地した。 「ニコチンマン!」 何ということだ! 喫煙者は、悪の改造人間、ニコチンマンだったのだ! 「俺の目的は、喫煙者と非喫煙者が手を取り合う美しき世界を作ること! 正しく分煙する者を虐げ弾圧する嫌煙者をすべて潰し、喫煙者達を救うのだ。その為には貴様が邪魔なのだ、ケンエンシャー!」 そう言ってニコチンマンはケンエンシャーに指を突きつける。 「ここで煙草を吸っていれば貴様が現れると聞いていた。貴様はもう終わりだ、ケンエンシャー! 食らえ、『ハイザラ・スリケン』!」 ニコチンマンは懐から取り出した灰皿を勢い良くケンエンシャーに投げつけた。 恐るべきスピードで高速回転しながらケンエンシャーに迫りくる灰皿は、まさに手裏剣の如き切れ味を誇っていた。二枚、三枚と繰り出される灰皿に、ケンエンシャーはたちまち全身をズタズタにされてしまう。 「グァアアー!」 「ははは! どうだ、痛いか? そして次なる攻撃を食らえい! 『ヒャクエンライター・インフェルノ』!」 ニコチンマンは懐から取り出した百円ライターに火を付け、炎を放った。その炎の量と勢いたるや百円ライターのスケールを遥かに凌駕しており、ケンエンシャーはたちまち火炎の中に飲み込まれてしまった。 「グァアアアアア! グワァアア!」 「グハハハハハ! どんな煙草より良く燃えるなぁ! ケンエンシャー!」 ようやくニコチンマンの攻撃が終わる。焼き尽くされ、全身に火傷を負ったケンエンシャーは、最早その場で突っ伏し、うずくまるしかなかった。 ケンエンシャー、敗れる。 〇 「ぐ、ぐぅう。む、無念……だ」 「ふん。雑魚は貴様だったようだな、ケンエンシャー。これに懲りたらもう喫煙者の命を奪うのは止すんだな」 そう言って、横たわるケンエンシャーを置いてその場を去ろうとするニコチンマン。 「いいえ。まだ終わっていません、ニコチンマン」 そんなニコチンマンを、呼び止める声があった。 戦場となった喫煙室の壊れた扉の前に立つその姿に、ケンエンシャーは見覚えがあった。桃色の髪とレモン色の瞳を持つその美少女は、先ほど、自らの兄の会社で煙草を吸い始めた喫煙者を殺戮するようケンエンシャーに懇願し、この場所へ案内した相手だったのだ。 「戦いぶりは見事です。しかし、とどめを刺さなければ何の意味もありません。そうですね、ニコチンマン?」 「わ……」ニコチンマンは驚愕の表情で美少女を見詰める。「わかば博士……どうしてここに」 その名前を聞いて、ケンエンシャーはよろよろと立ち上がり、美少女……わかば博士を指さした。 「き、貴様。俺をここに導いた民間人。……正体はわかば博士だったのか」 「そうです。わたしこそが、この男をニコチンマンに改造した天才美少女中学生、わかば」わかば博士はポケットから煙草を取り出して口に咥えた。 「俺を……騙したのか」 「ええ。あなたをニコチンマンにぶつける為、あなたの方から来てもらいました。あっさり騙されてくれましたね。これだから、煙草を吸っていない人間は集中力が足りないのです」 わかば博士は煙草に火を付ける。そう、この美少女は喫煙者の中の喫煙者、恐るべき未成年喫煙者だったのだ! 「さあニコチンマン! とどめを刺すのです! あなたが持つ最強の必殺技で!」 「し、しかし……あの技は。俺にはあの技は危険であるように思えるのです!」 うろたえるニコチンマン。わかば博士は首を振る。 「その技でなければケンエンシャーを殺すことはできません! 嫌煙者たちのリンチにあって殺されそうになっていたあなたを救った恩を忘れましたか? 命令を聞きなさいニコチンマン!」 「う、う……」逡巡し、しかしニコチンマンは最後にはわかば博士の命令に従った。「うぉおおお! 食らえぇええ」 ニコチンマンはポケットから取り出した煙草をまるごと一箱口分に突っ込み、まとめて火を付けた。そして勢い良く煙を吸いつくすと、煙草を吐き捨てて叫んだ。 「『ワールドエンド・呼出煙ブレス』!」 ニコチンマンの口から吐き出された煙は、やがて喫煙室中を覆いつくし、真っ白な死の色へ染め上げた。ほんの僅かでもそれを吸ってしまうと、優れた耐久力を持つケンエンシャーであっても、百パーセント命はない。 ケンエンシャーは傷だらけの肉体を引きずって、どうにか喫煙室を飛び出した。しかし、死の煙は喫煙室の外へも及び、オフィス中を白く染め上げていた。 ケンエンシャーは息を止めたままビルの中をかけずりまわり、階段を上り、屋上へと逃げ延びる。そして煙が出てこないように、屋上の出入り口を入念に閉鎖した。 空を見る。そこでケンエンシャーが見たのは、世にもおぞましい光景だった。 ビルの窓から立ち上る死の煙が、空を真っ白に染め上げている。煙は無限大に増殖し、やがてこの世界を覆いつくすかのように思われた。そうなってしまうと、ニコチンに耐性のない非喫煙者の命はない。 世界の危機だった。 「なんということだ……」 背後でニコチンマンの声がした。彼もまた、別の入り口からこの屋上へやって来ていたのだ。 「何をしてくれたんだ! ニコチンマン!」ケンエンシャーは憤怒の叫びをあげた。「これが貴様の望みか? これが貴様の望んだ世界なのか?」 「ち、違うんだ! 俺の望みは、あくまで喫煙者と非喫煙者が手を取り合って平和に過ごす世界! こんな……こんな非喫煙者を皆殺しにする未来等望んでいない」ニコチンマンは膝を着き、嘆くように言う。「こんな危険な技だとは聞かされていない! なんだか悪い予感がしたから使わないようにしていたが……まさか世界を滅ぼす程だったとは」 どうやら、ニコチンマンは自らの『ワールドエンド・呼出煙ブレス』の効果を理解していなかったらしい。知らないまま、自らを改造したわかば博士の命令に従って、技を使ったに過ぎなかったのだ。 「ちくしょう……博士は知っていたんだな。そもそも、俺は、このために作られたんだ。嫌煙者達の世界を終わらせ、どこでも好きなだけ煙草が吸える新世界を始めさせる為の、悪魔の兵器だったのか……」 「嘆いていても仕方がない」ケンエンシャーは言った。「今は一人でも多くの非喫煙者をできるだけ遠くへ避難させることを考えなければ……。おまえも協力しろ、ニコチンマン」 「無理だ! この煙はすぐに世界を覆いつくす。逃げ場などどこにもない!」 「ならどうしろというんだ?」 「俺に考えがある」ニコチンマンは立ち上がる。決意に満ちた表情だった。「俺が、この煙を吸いつくす」 その言葉を聞いて、ケンエンシャーは驚愕して目を見開いた。 「バカな……そんなことが出来るとでもいうのか?」 「出来る! 煙はまだ広がっていく途上だ。今ならまだ間に合う。ニコチンマンである俺は、通常の喫煙者の何万倍もの煙を吸うことができるはずだ」 「しかし吸うことはできたとしても、いくらおまえでも、これほどの量の煙を吸ったらその後は……」 「命はない、だろうな」ニコチンマンはニヒルに笑った。「しかし、俺も大の男だ。自分のケツは自分で拭く。知っているか? 煙草を吸って良いのは、二十歳を超えた一人前の大人だけなんだぜ?」 そう言って、ニコチンマンは空を見上げた。そして立ち込める煙に向けて、唇をすぼめ、大きく息を吸い始めた。 凄まじい肺活量だった。周囲の空気ごと死の煙がニコチンマンの方へと吸い込まれていく。白い煙に染め上げられた空はわずかずつ張れていき、やがて微かに青空を覗かせるまでになった。 「ニ……ニコチンマン! ニコチンマーン!」 ニコチンマンの瞳の血管が千切れ、目が充血し、全身は激しく震え始めた。真っ青な顔色で死の煙を吸い続けるニコチンマンの表情は、命を投げ打つほどの凄まじい男の覚悟で満ち溢れていた。 やがて煙は晴れ、太陽が覗いた。美しい世界を取り戻していく。あれほど色濃く空を覆っていた煙は跡形もなく、何事もなかったかのような元通りの世界が残されていた。 「うっ……」煙を吸いつくしたニコチンマンが、その場で尻もちをついて倒れ伏した。 「ニコチンマンっ」ケンエンシャーがニコチンマンに駆け寄った。「大丈夫か? すぐに手当てを……」 「無駄さ。分かるんだ。俺は間もなくニコチン中毒で死ぬ」 ニコチンマンは遠い目をする。 「後悔はない。だが……一つ心残りだ。俺は見たかった。全ての喫煙者と非喫煙者が手を取り合う、平和な世界を…………」 その言葉と共に、ニコチンマンの全身から最後の力が消えた。 「ニコチンマァアアン!」 世界を救った英雄の死に、ケンエンシャーは慟哭した。 〇 ここは街の公園。子供たちが駆け回り、大人にとっての憩の場となる、平和な空間である。 そんな公園のベンチにて、大股を広げて煙草を吸う喫煙者の姿があった。 「くけけけけっ。公園の綺麗な空気を汚して吸う煙草は美味いなあ」 そこにやって来る、一つの人影があった。黒いタイツに赤色のマント。胸には禁煙マーク。 そう……その姿はケンエンシャー! 「げげっ。ケ、ケンエンシャー。ま、まずい」 ケンエンシャーの手が喫煙者に向かって伸ばされる。死を覚悟した喫煙者が目を閉じたその時……ケンエンシャーは喫煙者の手から煙草を奪い取った。 「喫煙所は」ケンエンシャーは煙草の火をもみ消すと、言った。「あっちだぞ」 ケンエンシャーはやや遠くにある喫煙所を指さす。 「へ……へ?」 殺されると思っていた喫煙者は目を丸くして、媚びたような笑顔を浮かべながら「サーセン」と言ってそそくさと喫煙所へ走って行った。 そんな姿を見送って、ケンエンシャーは息を一つ吐く。そして空を見上げて、呟いた。 「どこにいるんだ……」 ケンエンシャーは空にニコチンマンを思い浮かべる。世界を救う為に散っていった、ケンエンシャー最大の好敵手の姿を。 「どこにいるんだ……わかば博士。必ず見つけ出してやる。そして、ニコチンマンの仇を打つのだ」 決意を新たに、ケンエンシャーは歩き始めた。今もどこかで喫煙者と嫌煙者が憎み合っている、ニコチンマンの守った美しいこの世界を。 |
粘膜王女三世 2019年12月27日 00時00分07秒 公開 ■この作品の著作権は 粘膜王女三世 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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作者レス | |||
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Re: | 2020年03月16日 17時21分29秒 | |||
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Re: | 2020年01月17日 02時12分09秒 | |||
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Re: | 2020年01月17日 01時59分53秒 | |||
合計 | 10人 | 120点 |
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