追え! |
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※下品や不愉快な内容を含みます。
幻の幻獣・シマヤマオオコネコタヌキを追え!!
熱帯のジャングルを真上から太陽は覗いており、またギャアギャアと恐怖心に訴えかける内部を満たす音は逆に音楽と言えなくもなく、そしてこれは彼らにとってある共通する意味を持つ初めての夏だった。
「調査隊の皆さん、気を付けて下さい。ここから先は、クソみたいな毒蛇が出ます」
一つの生き物であるようなジャングルの内部にて、服を着る習慣のない原住民の言葉はこうして通訳の口から伝わる。
汗をぬぐう。日本から調査隊に参加しているジェイソン北村の脳裏は、祖国の涼やかな夏のイメージによって満たされていた。文明を拒んだこの地において、クーラーの代わりは大きな葉っぱだ。「それさっきは便所の紙じゃなかったっけ?」という言葉は、おそらく通訳されなかった。
笑えてくる。この地の過酷さときたら、全く当初の想定を逸脱していたのだ。甲子園の開会式のようだ。時折意識が稀薄になっていることもあり、その度に水筒を飲む必要があった。あたかも儀式のように。どうやら今もその時で、億劫ながらも腰のポーチへ手を伸ばそうとする。
「キタムラ!! アブネーゾ!!」
と突然叫んだのはアメリカから調査隊に参加しているジェイソンジョンソンだった。北村が気にせず一歩を踏み出すと、次の瞬間、腕を激しい痛みが襲っていた。
意識が覚醒する。
「……え?」
1mlの量で人間を120億人殺せる毒を持つという蛇ドンダケヤネンが、しっかりとその顎で北村の前腕を捉え、ぶらぶらとぶら下がっていた。現地民で案内役のドミネルさんが金属の輪っかをぶら下げた腕を振り乱しながら錯乱して大声で叫んだ。通訳が「だから言ったろうが!!」と叫ぶ。
数瞬遅れて現実に追いついた北村本人が「ウワアアアアア!!」と絶叫するのを皮切りに調査隊全体に騒ぎが広がった。「ドミネルさん!! これどうしたらいいッスかねええ!!??」
頼りの全裸男は慌てて早口で対処法らしきことを叫ぶが、テンパりやすい性格のため通訳が聞き取れていなかった。ヤバいヤバいヤバい本当に死ぬ。
見ると調査隊にイギリスから参加しているジェイソンステ●サムが斧を振り上げて北村の方を向いていたので、まさに一瞬にして血の気が引いた。こいつ日本で許されないアレをやるつもりだと確信し、「アンラクシ、ノーセンキュー! ノーセンキュ―アンラクシ!!」と叫ぶ。「違う!! 腕を出せ!!」日本語でステ●サム。
ハッとした。いくら強力な毒であっても、心臓に回るよりも先に腕ごと切り落としてしまえれば、真の危機を回避できる。幸いにして噛まれたのは左で、利き腕ではなかった。
ちなみに北村は自動車を運転する時は左利きだ。それを彼が自覚したのはマクドナルドのドライブスルーでフライドポテトを買った時のことで、安易に利き腕で運転しようとして左手をポテト係にした瞬間極端に運転が下手になってその時は死にかけた。
「運転はまた練習すりゃいいじゃねえか!!」
とイギリスのジェイソン。
道理だ。何であれ死ぬよりはマシであることは疑いようもなく、その覚悟を決めようと思っていた矢先、通訳が叫んだ。「キタムラさん!! 肛門に指を入れるんです!!」ついにドミネルさんの言葉を聞き取れたのだった。
北村はイギリス人の存在など忘れズボンを素早く下ろし、そしてよどみなく肛門に右手人差し指を挿入した。感じるはずの痛みも感じないまま。「何本ですか!?」「二本です!!」続いて中指を入れる。
「次は!?!?」
半泣きの叫び声の後、ジャングルが静かになる。
北村の肉体がパタリと地面に横たわっていた。
ギャアギャアという静寂が辺りに舞い戻ってくると、通訳は呆然としている調査隊を見渡した。
「この地では、ドンダケヤネンに噛まれた人はこの姿勢で死ぬべきという風習があります。皆さんも覚えて下さい」
と英語とヒンドゥー語とオランダ語とひんたぼ語と藤原竜也の真似で順番に言った。
ふとドミネルさんがちんちんを構えるのを見て、調査隊も倣ってズボンを脱ぐ。
「アイツはいい奴だった」
「いい奴だった」
この地で死者への礼儀を表す行為として、みんなで死体にほかほかの小便をまいた。
一同は幻の幻獣を求めてさらに危険なジャングルの奥地へと進み、全員ドンダケヤネンに噛まれて死んだ。この夏は彼らが死んだ初めての夏となった。 |
点滅信号
2019年08月11日 12時08分46秒 公開 ■この作品の著作権は 点滅信号 さんにあります。無断転載は禁止です。
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- ■作者からのメッセージ
- ◆テーマ:
・太陽:×
・恐怖:○
・音楽:×
・はじめての夏:○
◆キャッチコピー:ジャングルあなおそろし。
◆作者コメント:健康に気をつけて過ごしましょう。作者は今年から日焼け対策を始めました。
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