押すとクラスの女子全員が誇張しすぎたツンデレになるボタン |
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「押す?」 クラスメイトの夏原涼(なつはらりょう)にそう訊かれた俺は即答した。 「押さない」 「なぜ?」 「どうせロクでもないものに決まってるから」 夏原はイカれた男だった。 全国高校模試トップの成績を誇りながら、その才能をひ〇つ道具のような得体のしれないナニかの開発に費やし、完成するたびに周囲を実験台にしようとするのが常だった。 そしてその実験台筆頭は、どういう訳か全国模試で学年最下位の俺・園部直弘(そのべなおひろ)なのである。 「見てみたくないか? 女子たちが全員誇張しすぎたツンデレになった姿を」 「見たくない。そもそも、誇張しすぎたツンデレが何なのか分からない」 「なるほどな。それならこのテストボタンを押すといい」 「押すとどうなる?」 「女子たちが全員誇張しすぎたツンデレになる」 「キャンセルは?」 「できない」 「できねーのかよ! ならどうしてテストボタンなんて名称にしたんだよ」 「君が騙されるかと思ってな」 夏原はしたり顔を浮かべる。そこはそういう表情じゃないと思うのだが。 「残念ながら失敗だ。俺は絶対に押さんぞ」 「絶対に、か。何か理由があるのか?」 「……逆に訊くが、ないとでも思っているのか?」 軽音楽部の演奏する音がオーケストラのそれになったり、図書館の本がオールひらがな表記になったり。夏原の手によって起こされた学校内の怪異は数知れない。 「女子の中にいるのか? 誇張しすぎたツンデレになっては困る人間が」 「……別に、そんな奴いねーよ」 「いま、間があったな。そういう時は嘘をついているって、近所のヤマジくんが言っていたぞ」 「子供に教えてもらってんじゃねーよ! そのぐらい17年間の人生経験で学べや!」 夏原は天才だが、人格的には不足している部分も多かった。 他人の感情の機微には特に疎いらしく、その結果がこの得体のしれないボタンという訳だ。 「園部。お前、恋をしているのか?」 「……してねーよ」 「ふむふむ、してる……と。相手は誰だ?」 「教える訳……じゃなかった。そんな奴はいねーよ」 「相沢夏希か? 石田美帆か? 宇野沙良か?」 「全員聞くつもりか! そんな奴はいねーって言ってんだろ」 「川島ちはるか? 斎藤美雪か? 高橋萌か?」 「……」 「米田舞奈か? 病菊恵里か? 渡辺ひかるか?」 「……ッ」 「病菊恵里(やみぎくえり)か。なるほど」 夏原は再びしたり顔を浮かべた。今度はちょっとムカつく。 「それで、病菊のどういうところが好きなんだ?」 「……は? 俺は別に」 「病菊とセックスしたいのか?」 「ブッ!」 唐突な発言に噴き出すも、夏原はふざけた様子もなく真面目だった。 「お前、いきなりそんなこと言うか普通?」 「普通、とはなんだ? 好きな相手とセックスしたくなるのは自然な感情だと、恋愛教則本には書いてあったが」 「それは……」 確かにそうかもしれない。夏原が読んだという本が正しい本なのかどうかは怪しかったが。 「私は生まれてこの方、恋愛感情も性欲も抱いたことがなくてな。だから教えてくれ、好きな相手とセックスをしたいという感情について」 「教えねーよ! そんな恥ずかしいこと話せるわけねーだろ」 「さもなければこのボタンを押す」 「急に脅迫!?」 夏原はボタンに指を掛けた。咄嗟に教室内を見回すも、女子たちは平和そうにお喋りを続けているだけである。 「教えてくれなかったらこいつらがどうなるか……分かってるよなぁ?」 「急に悪人みたくなったなお前」 「それで、愛情と性欲の比率は? 何対何だぁ?」 「……」 「仕方ねぇ、カウントダウンだ。3,2、1……」 「分かった、分かったから! ……教えるよ」 「ケッ、さっさと言えってんだノロマがよぉ」 夏原はどうやら悪人ロールプレイを楽しみだしたらしい。 ムカつくことこの上ないが、うっかりボタンを押されてしまったら取り返しがつかない。 ここは一時の恥と割り切るべきだろう。 「……2対1だよ」 「ほう、愛情の比率の方が高いのか。つまり愛があるからセックスをしたいというわけかぁ?」 「そうだよ! 俺は病菊が好きだからセックスしたいの!」 瞬間、教室がシンと静まり返った。 教室中に響くほどの大声を発してしまったのに気付いたのは、クラス中の視線がこちらに向けられてからだった。 「園部君……」 一人の女子が俺の名を呼びながら歩み出てくる。 病菊恵里は今日も可愛かった。 ぱっちりとした瞳に、ニキビ一つないきれいな肌。 太ももは見えず、膝が見える程度の絶妙なスカート丈。 そして小説によく出てくる”鈴の音のような”声。 「病菊、これはその」 誤魔化す言葉が見つからない。 病菊が更に一歩進み出てきて、もう終わったと思った時だった。 「わたしも、園部君が好きだからセックスしたい!」 再び教室は静まり返った。 しかし今度は5秒後に、教師が飛び込んでくるんじゃないかというほどの盛り上がりを見せた。 「ちょっと病菊さん、マジ?」 「いきなりセックスしたいとか大胆ー」 「お、俺の恵里ちゃんがぁ……」 クラスメイトが好き勝手言い出すのをよそに、俺と病菊は向かい合っていた。 「病菊……」 「園部君……」 まさか、こんな形で想いが通じ合うことになるとは。 夏原の発明品は迷惑でしかないと思っていたが、今回ばかりは感謝するべきなのかもしれない。 そう、思っていた矢先だった。 「あっ、なにこのボタン? 押してみようポチっとな」 俺や夏原が制止する間もなく、病菊はボタンを押してしまっていた。 「や、病菊?」 見たところ何も変化はない。他の女子たちも同様だ。 ただ、みんな一様に俯いたまま黙り込んでしまい―― 次の瞬間、”それ”は始まった。 「ちょおっとおォォォォ、園部くぅんんんンンンンン!!!?」 「は、はいっ!?」 「かぁッ、勘違ぁいしないでェェェェェよねェエエエェェェェエエエ!!? 好きィってイイイイイイイイイったけど、そぉれはぁ人とぉしてェェェなんだからねぇェェェエエエエエエエYeahYeahYeah!!??」 「……はい?」 何を言っているのか分からない。 ただ一つ言えるのは、耳をつんざくような大声も、イナ〇ウアーのような奇妙なポーズも、普段の病菊には全く似つかわしくないということだ。 「まァでもぉぉぉオオオオオオウ、アンタァがDoしてもってイイイイイイイイイうならぁぁぁぁぁAh、つぅきあってアゲナァァァァァァくもないけどねぇェェェェ!!?」 「……はぁ」 どうやら、これが”誇張しすぎたツンデレ”の姿らしい。 夏原の話を聞く限り元には戻せないようだが、これではあまりにも女子たちが可哀想だろう。このままでは彼女たちの将来にかかわる。 「なぁ夏原」 「なァによォォォォォ」 「えっ?」 「べぇつぅにィィィィィイイイイ、アンタァを実験台にしてきたのはァァァァァ、アンタァがバァカそォオオオオオオオオオオオオオオオで丸め込みやすそぉおオオオオオオオオオオオオオだったからでェぇぇ、アンタァのことが好きってわけじゃぜんぜェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエんないんだからねぇェェェェエエエエ!!?」 「……」 教室内は依然として混乱している。 それでも俺は、事態の収拾に乗り出す前にどうしても言いたいことがあった。 気持ちを落ち着け、それから小さく息を吸って一言、 「お前、女子だったんかいっ!!!」 |
クロウ ybRLeslnVk 2019年08月09日 07時06分56秒 公開 ■この作品の著作権は クロウ ybRLeslnVk さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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