夏空の定義 |
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映画の青空があった。
ちなみにこれは比喩ではない。この高校の校庭が、映画の撮影スポットに使われたことが過去にある。
深海に光を灯した様な明るい空色。白雲のきらめきにはロマンがある。
これからもっと暑くなるのかと思うと、教室の窓の外を睨むぼくの眉間に力がこもる。
2−Bの学生らは、夏服にチェンジしていた。男子は半袖シャツ、女子は水色のセーラー服である。
この町は夏がよく似合った。海が近くにあって、観光スポットなのだ。ノスタルジック。長い坂道、古いバス停、温泉宿&観光物産館、電車が山のトンネルに入るシーンも日常的に見かける。
地球に夏があって助かった。だって、それくらいここは夏に依存している。
「はじめての夏ってステキじゃない?」
たとえば、この言葉を好きな子からかけられたとする。
おっきい目は群青色で、ヘアスタイルは犬の尻尾みたいなツインテールである。リアルに想像できる。
もしアニメであったら、青のイメージカラーの美少女の女子は幼くほほ笑む。にんまりしたほっぺのやわらかさに心がほてる。クラスの女の子がシャツの第一ボタンを外しているのに、彼女だけはきっちりしめていて、汗もちゃんとハンカチで拭く。
性格は元気いっぱいで、運動はがんばるのに結果がいまいちだ。
テストは国語の点数が高いらしく。数学が苦手。科目は音楽が個人的に好き。春夏秋冬、スマイルで乗り切る。お友達にとても優しい。ひとりぼっちの時はおでこにつまらないの文字が浮く。吹奏楽部に入部していて、全校生徒の前でフルートを披露する時、とても可愛らしく音を奏でて、ぼくの目を釘付けにする。
ダメだ、リアリティがありすぎてこわい。でも、自分の好きになった子を妄想する時って、誰でもこれくらいの熱量を持ってしまうものと思いたい。
はじめての夏。その言葉の魅力を興味津々で問われたぼくは、もちろん自分なりに考えて、かっこよく回答したいとがんばる。
夏の時期なら決まっているぜ? 気象庁の定めた7月から8月さ。
……これを自慢げに説明してどうする。自分的にはくそつまらない。
御託はよろしい。
ちがう、もっとロマンチックに開幕してやる。
今この時、ぼくの夏は始まった。
君のツインテールが、ぼくの席から小さくカーブして。
にんまり、愛くるしい子犬の笑顔がこちらを見た瞬間。
ぼくが夏を一番に感じたのはそこだ。
君がぼくの夏を作った。
君を中心にぼくの世界が回っている証拠だ。
この答えに、真夏の女神は七色の花束が芽吹く笑みで喜んでくれた、なんて……。
じりじり、校庭は熱で揺らめいている。
ちら、ぼくは両目を前の席に戻した。
しっとり、彼女は、窓から大空を見ていた。
例の映画の青空がリアルに広がっていた。
深海の青に浮く眩い白雲。光の宇宙を見る幼顔は儚げに絵に映える。
天国の白線がやわらかいほっぺから、俺らを別ける様に机の下の床に差す。
朝のHRが始まる、二分前。
妄想の中でしか会話したことがないクラスメイトの女子は、ざわめく教室の窓際最前列の席で、薄い水色のセーラー服のスカート上に両手を置いたままである。
お嬢様の部屋みたく揺らめくカーテン。その波と同じ方向に、犬の尻尾みたいな小ぶりのツインテールをふりふりして、群青のおっきい目でぼんやりする。
おでこにはつまらないの五文字があった。
ぼくはとっても期待していた。
にまっ、暇つぶしに君の笑顔がこちらを見て。
いつまで経っても鍵がかかったままのぼくの夏の扉を、勢いよく開け放ってくれる、瞬間を。
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林檎歌劇 ezzopQp0r2
2019年08月09日 06時14分37秒 公開 ■この作品の著作権は 林檎歌劇 ezzopQp0r2 さんにあります。無断転載は禁止です。
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- ■作者からのメッセージ
- ◆テーマ:
・太陽:×
・恐怖:×
・音楽:×
・はじめての夏:○
◆キャッチコピー:「はじめての夏ってステキじゃない?」
◆作者コメント:YouTubeで流れる企業のCMっぽい。個人的に好みならうれしいかもです。
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