ブラコン姉の年末大掃除

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 僕の姉はブラコンである。そして、両親は買い物に出掛けてしまった。その両親から下された指令は『お姉ちゃんと二人仲良く掃除をしていなさい』だ。
 そんなことを言ったもんだから、姉は鼻息を荒くしながら僕のズボンに手をかけて「この中も掃除しなくちゃいけないわよね?」などとほざきだした。
 ズボンを奪われはしたが、僕は命からがらトイレに逃げ込むことに成功した。
「ねえ、鍵を開けなさい。そんなとこに閉じこもってたら掃除が終わらないでしょ」
 姉はドアを叩いたりノブをガチャガチャ回したりと、ホラー映画さながらの演出をみせている。
「嫌だよ。ここを出たら今度はパンツを脱がせるんだろ」
「……当たり前じゃない。私は『二人の中をよく掃除していなさい』と言われたのよ」
  どの世界にそんなこと言う親がいるんだよ! しかも、そんなとこ掃除しようとしたら逆に汚れるわ!
 くそ、なにか反撃の手段はないか。
「姉ちゃんが僕のズボンとったことお母さんに言いつけちゃうよ」
「あら、それなら大丈夫よ。股間のあたりを濡らして洗濯機に入れておいたから、なにか訊かれたら『なにか出した』って一言だけ伝えておくわ」
 鬼かコイツ! この前ベッドの下のお宝が見つかってただでさえ気まずいのに、さらに問題ぶっこむんじゃねーよ!
 僕は中学一年、姉は中学三年。いろいろ気になる年頃だろうが、僕以外の人間に興味を抱いてほしい。
「姉ちゃん、ブラコンはよくないんじゃないかな」
「嬉しいわ! 私のことを心配してくれるのね」
 ダメかあ! 察してくれない。それどころか扉の向こうで鼻唄が聞こえ始めた。どんだけ嬉しいんだよ。
 両親が帰ってくる前にこの状況を打開したい。扉の向こうには姉がいて、もちろん鍵を開けることができない。そしてここはトイレ。あるのはトイレットペーパーと便器ぐらい。
 そうだ!
 僕はトイレットペーパーを適当に取ると、おもむろに便器に投げ流した。
「ああスッキリした!」
 姉に聞こえるように、わざと大きな声を出した。
「なに、大きいのでも出たの?」
「ああ、そうだよ」
 なにが悲しくて実の姉に大をした報告をしなくてはならないのか。実際はパンツすら脱いではいないのだが、臭いものを出したと思わせればここから離れるだろう。その隙に部屋に戻ってズボンを履き、洗濯機のズボンを回収すれば良い。完璧なプランだ。
「そんなところにいると臭うかもしれないよ」
「……私、あなたのものならば全て受け入れられるわ」
 コイツやべー奴や。『世界中が敵になろうとも、私だけはあなたの味方よ』みたいな、くさい台詞よく言えるな。いや、くさいのは有りもしない僕のクソか。
「ところで、そろそろ二人とも帰ってくるんじゃないかな。ちゃんと掃除しとかないと怒られちゃうよ」
 実際問題はそれなのだ。年末の大掃除をしてないとなれば大目玉は免れないだろう。両親からは『二人がふざけていて掃除をしなかった』としか見えないのだから。しかし、意外な返事が聞こえてきた。
「もうすぐ終わるから待っていなさい」
「え? なにが」
「なにって、掃除よ」
 声を聞く限り姉は扉の向こうにいる。しかし、掃除をしているという。どういうことだろう。
「クスクス。扉を開けて床を見てみなさい」
 罠か。いや、あの姉に限ってこんな見え透いた嘘はつかないだろう。
 僕は鍵を開け、おそるおそる向こうの廊下を覗き込んだ。
 そこには姉の名前が表示されているスマートフォンが置いてあった。それは紛れもない僕のスマホだった。素早くそれを取るとトイレに戻って鍵を掛けた。
 僕は額に手を当てて「やられた」と小さく呟いた。
 僕と姉はスマートフォンを持たされている。中学生でも持っている人は持っているし、もちろん持っていない人もいる。持っているからといって珍しいことでもない。
 姉は僕の携帯をズボンから抜き取ると、通話状態にしてトイレの前に置いていったのだ。
「――いつからだ」
「洗濯機の話からよ。そのまま洗濯してポケットにティッシュとか入ってたら大変じゃない。そのときに鼻を近づけてクンクンしてたら涎が付いちゃったけど許してね」
 ティッシュを洗濯して大変なことになることを見越すとは、なにげに有能なのかと思ったけど前言撤回。さりげなくヤベーのカミングアウトしてんじゃねーよ! しかも、股間が濡れてるのは水じゃなくてお前の涎じゃねーか! 『なにか出した』なんて言われたら絶対信じちゃうよ。
「くそったれ!」
 通話を切ると、思わずそんな言葉が出てきた。
 なにか打つ手はないか。今出れば部屋に行けるかもしれない。しかし、通話を切ってしまった今、姉がどこにいるのかがわからなくなってしまった。
 スマホを見ると、両親が買い物に出て三時間ほど経っていた。いくらなんでもそろそろ帰ってくるだろう。万事休すか。
 その時、慌ただしい足音が響いてきた。
「ねえ、本当はお姉ちゃんずっとトイレ我慢してたの。お願いだからそこから出てきて」
 ――僕はこの時を待っていた!
 心理学にミラーリング効果と呼ばれるものがある。これは、好意を持つ相手の仕草や動作を無意識に真似てしまうものだ。例えば、友達が水を飲んだ時に意識をしていないのに自分も水を飲んでいた、または、自分が笑顔で話しかけると相手も笑顔で返してくる、これがミラーリング効果だ。
 僕が仕掛けた罠は『トイレットペーパーを便器に流す』、これだけ。姉はこの音を聞いて僕の仕草を妄……じゃなくて想像したはず。無意識にトイレを刷り込まれて催してしまったのだ。
「ごめんなさい。私が悪かったわ」
 こうなれば形勢逆転だ。
「どうしようかな。ズボン取られたからこのままじゃ出られないな」
「ズボンね。わかったわ」
「洗濯機に入れたやつじゃダメだよ。ちゃんと部屋から持ってきてね」
 姉が駆けた。そして、十秒足らずで戻ってきた。僕の私物の配置を暗記してるのかコイツ……。
「もう我慢できないから」
 姉のすすり泣く声が聞こえてきた。
 さすがにやり過ぎたか? 僕は仕方なく鍵を開いた。
 雪崩れ込むように姉が入ってきて、すれ違いに僕はトイレから抜け出した。
「――覚えてなさい」
 扉が閉まる瞬間、暗くて重い言葉が姉から放たれた。
 怖くてちょっとちびったけど問題はないハズだ。トイレから出た今、僕に死角はない。
 姉がトイレから出る前にパンツを洗濯機に入れて、姉の涎が付いたズボンと共に洗濯した。部屋に戻った僕は服装を整えて漫画を読むことにした。
 異変に気がついたのは、洗濯機が知らせる洗濯終了のアラームを聞いてからだ。姉がトイレから出てきていない。
 トイレで良からぬことでもしてるんじゃないだろうな。あの姉なら便座すら舐めそうだ。僕は勇気を出してトイレの扉を叩いた。
「なにやってるの?」
「なにもしてないわよ」
「じゃあ出てきたら?」
「私はまだいいわ。それよりも、あなたはトイレ大丈夫?」
 トイレ? そういえば、さっきはトイレットペーパーを流しただけだから、僕は出していない――。
 気になりだしたら洪水のように溢れ出してくるのが本能というものらしく、僕は一気に尿意を催してしまった。
「僕もトイレしたいからここから出てよ」
「どうしようかしら」
 クソ。僕がしたことを逆手に取られてしまった。しかし、意外なことに鍵の開く音が響いた。
「私はそこまで意地悪じゃないわ」
 姉がそう言うと、静かに扉が開いた。でも、僕の姉はブラコンだ。なにもないわけがない!
 姉は便器に腰を下ろしていて、艶のある太股を晒し、脱ぎかけのズボンが膝下にかかっていた。ズボンの中央には薄いピンク色をした下着があり、僕は息を飲んでいた。
「どうしたの? 出したいんでしょ?」
「こんな状態でできるわけないだろ!」
「じゃあ、これならできるかしら」
 姉は上目遣いで僕を見ながら、両足を開いたのだ。大事な部分は上着に隠れていて見えない。僕のお宝のように、見えそうで見えないというのは、なんとも興奮を煽るものだ。
「ちょっ! 早く履いてトイレから出てよ」
「私はかまわないって言ってるじゃない」
 姉は僕のお腹を押してきた。
「男は立ちながらでも出せるでしょ。私は足を広げてるから、この隙間に出しなさい」
「立ちながらは出ないけど」
「え?」
「え?」
 まあ、出せなくはないけど、女の姉にはわかるまい。
 姉は首を傾げ、怪訝な顔つきだ。
「……よくわからないけど、私はこのまま動かないわよ」
 クソ、ここまでか。グッバイ僕の貞操。グッバイ僕の清らかな日々。
 僕は姉の鼻息を手に受けながら、ズボンのチャックに触れた。
「――あなた達なにしてるの」
 突然の十三年間毎日聞いている声に、僕は錆び付いたブリキのように首をゆっくり回した。母が口元を抑えて立ち尽くしていた。床には買ってきた卵が潰れて落ちていた。
「いや、これは……」
 僕は姉に視線を向けた。姉だって自分がブラコンだなんてバレたくないハズだし、なにか良い手が浮かんでいるだろう。しかし、発せられた言葉は衝撃的なものだった。
「この子我慢できないって無理矢理入ってきたの。私はやめてって言ったんだけど、どうしても我慢できないって。鍵を掛け忘れた私も悪いけど、男の子だから仕方ないのかな」
 ……マジかよコイツ。さっきまでと全然違うじゃねーか。しかも、『男の子だから仕方ない』とか、僕が姉にいかがわしいことをしようとしていたみたいになってるし。逆なんですけど!
「どうしたんだお前たち」
 車を停めた父が、玄関から首だけを覗かせている。
「ちょっとお父さん聞いてください! この子ったらトイレで――」
 あー! 僕の人生終わった。
 涙ぐむ僕の服を姉が引っ張った。姉は悪戯がバレた子供のように舌を出しながら上着の裾をたくし上げていた。
たてばん jQYhbezob6

2018年12月30日 22時49分09秒 公開
■この作品の著作権は たてばん jQYhbezob6 さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆テーマ:冬の年末大掃除
◆キャッチコピー:扉の向こうには死が待っている
◆作者コメント:年末といえば大掃除ですね。
僕は大掃除なんてしないで、この作品を書いていていました。久しぶりに執筆だし、三時間程度でのできあがりで、個人的には満足のできあがりです。
 主催、運営、参加者の皆様、この場に立たせていただきありがとうございます。
 今年も残り少ないですが、楽しんでいきましょう!
 ……ちなみに、僕はミラーリングが嫌いで、友達と飲むタイミングをずらしたりします。

2019年01月16日 18時59分38秒
作者レス
2019年01月13日 23時37分29秒
+10点
Re: 2019年02月06日 22時46分00秒
2019年01月13日 23時30分40秒
+20点
Re: 2019年02月06日 22時39分53秒
2019年01月13日 22時36分18秒
+20点
Re: 2019年02月06日 22時34分08秒
2019年01月13日 20時25分05秒
+10点
Re: 2019年02月06日 22時27分19秒
2019年01月13日 20時02分36秒
+10点
Re: 2019年01月27日 22時17分46秒
2019年01月13日 17時18分51秒
+10点
Re: 2019年01月27日 20時40分36秒
2019年01月12日 23時03分20秒
+10点
Re: 2019年01月27日 20時38分04秒
2019年01月12日 19時43分21秒
+20点
Re: 2019年01月16日 19時50分07秒
2019年01月11日 08時48分03秒
+10点
Re: 2019年01月16日 19時42分11秒
2019年01月06日 17時10分18秒
+20点
Re: 2019年01月16日 19時34分00秒
2019年01月03日 23時02分32秒
+10点
Re: 2019年01月16日 19時21分20秒
2019年01月02日 16時42分07秒
+10点
Re: 2019年01月16日 19時14分35秒
2018年12月31日 08時29分36秒
0点
Re: 2019年01月16日 19時07分57秒
合計 13人 160点

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