《金鹿隊》は二度死ぬ |
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夏休みに入って、もう一週間。暑くてとても机に向かう気力がない。 宿題なんかほっぽりだして、私とあかりはソフトクリーム片手に街を歩きながら、ウィンドウショッピングに明け暮れていた。 時折、ショップに入って、クーラーの恩恵にあずかる。 そのうちの一店。私は一番目立つところに掛けてあったワンピースを手に取って、あかりの身体に当ててみた。 「このレースのワンピ、あかりに似合うよ」 「んー、でもレースの柄はつばさの作ってくれたこれの方が素敵でしょ?」 そう言って、あかりはふんわりとした総レースのワンピースの裾をつまんでくるりと回る。レース地が涼やかでふわりと花の香りがした。 ね? と小首を傾げて笑った顔に思わず顔が熱くなる。 確かに、それは私があかりのために作ったワンピースのうちで最高傑作を自負しているものだけど、あかりもそれに気づいてくれたみたいだ。……そんなに気に入ってもらえて嬉しい。 思わず照れ笑いをすると、あかりは抱き付いてきて私の頬っぺたをつつき始めた。 「あー、この子いっちょ前に照れてる。かーわいい」 「ちょ、ちょっとやめてよ。お店だよ、ここ!」 おそらく赤くなっている顔で抗議しても、あかりは喜んでますます体を密着させてくる。じっとりと身体が汗ばんできた。店員さんの目が心なしか微笑ましいものを見る目になっている気がする。 そんな感じで生ぬるくなった店内の空気を、――サイレンの鋭い音が切り裂いた。 私たちは弾かれたように身体を離した。店員さんが慌てて、避難誘導を始める。 「竜が出没したようです! 皆さん、急いでシェルターへ避難してください! シェルターは、三つ隣の――」 その言葉が終わらないうちに、私たちは店を飛び出した。 大通りは逃げ惑う人々でごった返しており、あかりが手を繋いでくれなきゃはぐれそうだった。あかりのやわらかい手が私の手を強く握っている。緊張からか少し冷たい手だ。 引っ張られていく先は――、シェルター?! あかりは、私だけをシェルターに預け、自分は竜の元に向かう気だ! 私は足を踏ん張ってブレーキを掛けた。 「いやだ、あかり! 私も一緒にいく!」 「駄目だよ、つばさ! つばさに傷の一つも付けたら私が後悔するの! そうでなくても、あなたのこと隊長に任されているんだから」 「じゃあ、じゃあせめて、あかりが飛ぶところまでは見届けさせて! それが終わったら必ずシェルターに入るから」 「つばさ……!」 聞き分けのない私に怒っているのかな。振り向いたあかりは余裕のない表情だった。 その時、空を見上げていた人から驚きの喚声が上がった。 つられて見上げると、雲の切れ間から、白い竜の巨体がうねっていたのが見えた。小さな戦闘機がその竜に纏わりついている。でもまだ二、三機しかいない。 「もう、時間がない。……わかった、つばさ。一緒に行こう」 「うん!」 進路変更して、近くにあった六階立てのビルを二人で駆けあがる。息が切れるも足を止めるわけにはいかない。竜を退治できるのは私たちだけで、飛び立つのが遅れるとそれだけ街に危機が迫る。 ――屋上に到達した。 照り付ける日差しでコンクリートが熱せられ、軽く陽炎が立っている。 あかりが振り向いて笑った。 「でもこうしてみると、つばさが来てくれてよかった。最期に会いたい人がつばさだったから」 「あかり、縁起でもないよ!」 流石に怒る。これから命を懸けた任務に赴こうというときに、そんな冗談笑えない。 「ごめんごめん。でも本音だから許して、ね」 「……死んだら許さないからね」 「うん、わかってる。大丈夫だよ。こうしてつばさの作ってくれた飛行服があるんだから」 あかりはワンピースの裾をつまんで笑う。私は、むぅと膨れて見せた。 そうして、私たちはお互いの額をこつんと合わせる。 「つばさを守れますように」 「あかりが無事に帰ってこれますように」 数瞬無事を祈って、ぱっと顔を上げた時には、あかりはもう一流のパイロットの顔だった。 「よし行くね、つばさ。私が出撃したら、ちゃんとシェルターに入るんだよ?」 「わかってる。必ず無事に帰ってきてね」 にっこり頷くと、あかりは屋上の端まで全速力で走って行って……。 ――屋上から飛び降りた。 空に一瞬ふわりと浮いたあかり。瞬きの間に私が作った柔らかな服が硬化し、変形し、あかりの身体をメカニカルに覆っていく。両腕は斜め後ろに固定され、あかりは胸をそらす。まるで飛行機のような体勢になった。そして、鋼をまとった腕は立派な翼になり、――完全に戦闘機になった。 ゴゥッと、アフターバーナーをふかして、あかりは飛び立っていく。白い竜の元へ。 ふと同じような轟音が聞こえて、辺りを見回すと――やはり、数軒先のビルからも少年少女たちが、一斉に屋上から飛び降りていった。その身に着ているのは、金色の鹿の刺繍があるフライトジャケット。 ――私たちが所属している《金鹿隊》だ。私たちは非番だったけど、今日はこんな近くで哨戒をしていたんだ。 仲間たちは刹那に戦闘機に変形すると編隊を組んで飛び去って行く。竜を倒すために。 その場に残っているのは、同じくフライトジャケットを着た大人の男性だった。全員降りたのを確認して、自分も飛ぼうとしたようだが、ふと私と視線が合った。 (鹿島和泉(かしまいずみ)隊長――) 私の亡くなった祖父の友人であり、今の私の保護者だ。一緒に住んでいる。《金鹿隊》の隊長でもある。そして、私が戦うことを許してくれない人。おかげで私は祖父の跡を継いで、飛行服をつくる任務に就くことになった。私も空であかりを守りたかったのに。 じっとりと睨むと、鹿島隊長はため息をついたようだった。シェルターの方を指さして、早く避難するように指示してくる。形ばかり頷くと、疑わし気に首を振られた。だが、時間もないようで諦めたようだ。 隊長は、再度シェルターを指さすと、今度こそ屋上から飛び降り、戦闘機に変身、竜を殺しに向かった。 (シェルターには入るけど、別にすぐにじゃなくても、……いいよね) ぺたりと屋上に座り込んだ。空を見上げれば、白い竜は《金鹿隊》の統制だった動きに翻弄されているようだった。 苦し気な竜の咆哮が響き、戦闘で剥がれた竜の鱗がバラバラと降ってくる。畳二枚分はある巨大な鱗が街を破壊していく。 悔しくて仕方がなかった。 なんで私ばっかり、皆の帰りを待たなきゃいけないんだろう。守る力は私も持っているはずなのに。 コンクリートのじりじりとした熱を足に感じながら、私はため息をついた。 □□□ 竜は無事に討伐されたが、その日の夕食は最悪だった。 気晴らしに付けたテレビのニュースもただのBGMにしかならない。 隊長は遠慮なく私を責める。私も全力で言い返す。 「なぜ、避難しなかったんだ」 「避難はしましたよ! ……すぐにじゃなかったけど」 「ほらみろ。もう少し自分を大事にしろ」 堂々巡りだ。容赦なく麻婆豆腐は冷めていく。 「隊長は過保護なんですよ。あかりや皆が危険な目に遭っているのに、自分だけ安全な場所にいるなんてできません!」 「……俺は、お前の祖父からお前を託されたんだ。みすみす危険な目に遭わせてたまるか」 そう言って、麻婆豆腐をかきこむ隊長。すぐに、うっと呻いた。 「お前、わざと激辛にしたな……」 「はて、なんのことでしょう?」 とぼけた顔で水を差し出す。隊長はそれを一気飲みした。私は麻婆豆腐をかきまわしながらため息をついた。 「……どうして、私を戦わせてくれないんですか?」 学校の授業では問題なく飛行できている。戦闘も問題ない。 なのになぜ。 「飛行服を作れるのは、あの人から技術を学んだお前だけだ。失うわけにはいかない……といっても納得してなさそうだな」 言い返そうと、私が膨れながら口を開いた。その間隙を狙ったかのように――テレビからあるニュースが流れた。 『合衆国で本日3人の死刑囚の死刑が執行されました』 弾かれたように二人でテレビを凝視する。 『近日中に都市に竜が現れる見通しです。各都市の飛行隊は警戒態勢をとってください』 正直またかという気持ちで一杯だ。 世界は《徳》を中心に回っている。 大昔、来世と魂が科学的に観測された。東洋の宗教観である輪廻転生が確実に存在すると確認された今、気になるのは自分の来世だ。いったい自分は『来世何になるんだろう』。羽虫か、家畜か、それとも人間か。 それは自分の行いでしか測れない。だが、誰だって来世人間になりたいのだ。 そのため、社会の仕組みが、善行を重ねることを目的として目まぐるしく変わっていった。ブラック企業は撃滅し、汚職は激減し、寄付が増え、経済は好循環した。世界は確実に幸せに向かっていた。 その一方で、拭いきれない罪を犯し、来世竜になるものが出てきた。竜は現世に現れ、恨みを晴らすように都市を破壊する。人間たちを殺す。 その蛮行を阻止するために結成されたのが、《金鹿隊》をはじめとする飛行隊だ。飛行服を纏い、戦闘機に変身できる少年少女。竜と戦うための組織。 なんで少年少女なのかは知らない。子供の方が運動神経がいいからだとも、飛行服との適合性が高いからだともいわれている。 隊長がしかめ面でつぶやいた。 「また警戒態勢か。シフトがきつくなるな」 「私をシフトに入れてもいいんですよ」 「……」 隊長は、もはや相手にするのも疲れたらしい。無言で麻婆豆腐をかきこんでいる。 私もため息をついて、食事に集中する。本当に隊長は過保護だ。 □□□ 「くそっ、また落とされた!」 「誰か、つばさを止められる奴いないのかよ!」 オープン無線からは敗者の悔しがる声。私は飛びながら次の獲物を探す。空は十機ほどがひしめき合っているが、私からすればまだ空は広い。 旋回しきれなかった一機を追尾し、背後をつく。それから、ペイント弾のバルカンをしこたまお見舞いしてやった。尾翼側からコクピットまで。追い抜きがてら一文字にバルカンが火を噴く。……撃たれたやつは、戦闘不能判定を受けて空域から離脱していった。 (あと九機……) 昨日の八つ当たりがてら、全機落としてやるつもりだった。 「今日のMVPは伊藤つばささん、撃墜数十五機でした。それでは今日の訓練を終わります。みなさんお疲れさまでした」 学校の飛行術の先生が、にこやかに授業の終了を宣言する。 みんなの飛行服はペイント弾でドロドロだった。無傷なのは《金鹿隊》エースのあかりくらいのものだ。私は少し掠って、右足に赤い塗料が付いている。 着替えるためのロッカールームには、誰よりも早く入るようにしている。 何故って、私の悪口大会が開かれる前に退散したいからだ。圧倒的戦果を誇る《金鹿隊》の面々が、一度も戦場にでたことのないド素人に負けるのはいたくプライドを刺激するらしい。 しかし、今回は予定が狂った。飛行術の先生に「早く戦場にでるように」と説得を受けていたからだ。竜によって撃墜され、死んでいく生徒たちは後を絶たない。なので、より高い戦力をいつまでも遊ばせておく余裕はないというのだ。曰く、戦力の高い生徒は全体の生存率を底上げする貴重な存在で~云々。 まったくもってその通りだ。先生にはむしろ鹿島隊長を説得してほしい。……と進言してみたら、渋い顔をされた。とっくに説得はしたらしいが、うまくかわされたとのこと。なぜ隊長がそんなに私を出撃させないことに意固地なのか、先生も分からないらしい。 何はともあれそのせいで、完全に出遅れた。悪口タイム中のロッカールームの外で私は固まった。 「ったく、あんだけ殺せるのに、なんで戦場に出てこないんだよ!」 「隊長のお気に入りだからじゃね? 《金鹿隊》の『鹿』は鹿島隊長の『鹿』なんだから、もう私情入りまくり。どうせつばさからお願いしたんだろ。『私を戦場に出さないで、こわいの~』って」 「飛行服作りなんて、技術あれば誰でもできるんだろ? 自分にしかできないなんて厨二くさいこと言って言い訳するなんて、ばっかじゃねーの」 思わず耳を塞いで、壁を背にしゃがみ込んだ。 違う、私は戦場に出たいんだ。飛行服が自分しかできないのも嘘じゃない。普段着にも外出着にも使える飛行服は私にしか作れない。生地加工技術は私だけのものだ。 (なんでうまくいかないんだろう) 戦場に出してくれないことも、仲間内でどんどん立場の悪くなることも、もう私にはどうしようもできない。 (なんかもう、疲れちゃった……) うなだれていると、不意にフライトブーツの靴先が視界に入った。 「どうしたの、つばさ! 具合悪いの?」 ビクッと肩が跳ねる。見上げるとあかりだった。慌ててしーっと口の前に指を立てる。幸いロッカールームの中にまで、あかりの声は聞こえていないようだった。悪口を話題の本人が聞いてたなんて、お互いに気まずいことこの上ない。 声を潜めて答える。 「……具合は悪くないよ。授業ではしゃぎすぎて疲れただけ」 あかりは首を傾げた。 「なら、早く着替えた方がいいんじゃないかな。ほら早く、ロッカールーム入ろう?」 あかりに手を引っ張られる。 「いや、いまはちょっと……」 「? なんかあるの? ロッカールームに」 私がどう差し障りのない嘘を言おうと考えてると、……当のロッカールームからでかい声が飛んできた。 「――だからさ、つばさは授業でだけイキがってる無能だよ。そうじゃなきゃ、戦場に出てこれない臆病者さ」 あかりの顔が般若になるのを、初めて見た。 「なんですってこの――!」 怒り心頭のままロッカールームに乗り込もうとするあかりを、羽交い絞めにした。 「ストップストーップ!」 「っ、なんで?! つばさは悔しくないの!?」 「悔しいよ! 悔しいけど、ああ言いたくなるのも分かるんだ……」 血を吐く思いで、思いの丈を吐き出した。あかりはひるんだようだった。 「つばさ……」 「どんどん学校には生徒がいなくなって、明日死ぬのは自分かもしれないと皆が思っている。どんどん学校が荒廃していって、皆殺気立ってる」 「……」 「そんな中、戦場にも出ずに、後方でぬくぬくしている同級生がいたら、悪く思うのも当然だよ。しょうがない……」 あかりは痛まし気に首を振った。 「違うよ、つばさ。つばさはちゃんと仕事をしてる。《金鹿隊》全員の飛行服のメンテも作成も、死に装束作りもしっかりやってくれるじゃない。自分の役目をちゃんと果たしてる人の悪口を言う権利はどこにもないよ」 そういってあかりは私を抱きしめた。 いつの間にか涙がぼろぼろ出ていて、自分でも驚く。 「泣かないで。ちゃんとつばさが頑張ってるのは私が知っているよ」 「でもでも、私の仕事は命張ってるみんなに比べたら、そんなに大したことじゃなくて……」 しゃくりあげながら言い募る。頭がぐちゃぐちゃで何も考えられない。 あかりは笑いながら言った。 「大したことだよ! つばさのおかげで、私たちは竜とも戦えるし、どんなに遺体がぐちゃぐちゃでも綺麗な死に装束を着せて見送ってもらえる。それがどんなにありがたいか。最期までつばさのお世話になりたいって人はたくさんいるんだからね」 あまりに予想外の言葉を聞いたせいで、私は泣くのをわすれてきょとんとした。 「……そうなの?」 「そうなの! 自分のことは案外気付けないものよ」 あかりは私の涙の痕の残る頬を、その両手でそっと包むと、私としっかり目を合わせた。 「もっと自分の仕事に誇りを持ちなよ。……そうだ、今度新作の死装束出してよ。白一色じゃなくてさ。つばさの刺繍ならもっと綺麗な死に装束できると思うんだ。特に私の死に装束は花の刺繍がいいな」 ね? とあかりは笑顔でお願いしてくる。 私は言葉に詰まった。 頷きたい。それがあかりの頼みなら、なんとしてでも。 でも……。 「ごめん、あかり。それはできないの。死に装束は白一色じゃないと駄目で。刺繍も他にどんな模様も染めも禁じられてるから」 ごめん、と謝ると、あかりは首を振った。 「ううん、じゃあ仕方ないね。でも代わりに外出着にも使える飛行服でフェミニンなの作ってくれる? こんな可愛いつばさの隣に立っても恥ずかしくないやつ」 そういってあかりは私の頬っぺたをむにむにと引っ張った。 「わ、私は、可愛くないって! むしろあかりの隣に立つのにこっちが着飾んなきゃいけないんだから」 「ふふふ。可愛いなぁつばさは」 (可愛くないって言ってるのに、もう!) いつの間にか落ち込みは消えて、私の心内はもうあかりの新しい飛行服でいっぱいだった。本当にあかりはすごい。いつも私に安らぎをくれる人。 「ありがとう、あかり」 「ん、どういたしまして」 あかりのおかげで、今度こそロッカールームに入れそうだった。 □□□ 夢を見た。 祖父の工房の夢だ。 小さな私はとても可愛がられていて、優しい祖父は私が仕事場に出入りするのも許してくれた。それどころか、私の落書きめいたスケッチを改良して飛行服の刺繍に使ってくれたり、賢しげに染め方に口を出しても、うんうんと頷いてその通りに染め上げてくれたりもした。そして「つばさは天才だなぁ」ってよく褒めてくれた。 ……今思えば、優しいというより、孫に甘いお爺ちゃんだったと思う。 しかし、そんな祖父も唯一、死に装束に関してだけは、頑として私のお願いを聞いてくれなかった。 ある日、小さな私が白い死に装束に一生懸命ライオンのアップリケをつくったことがあった。その場では褒めてくれたが、その日の夕方、私はおじいちゃんが、その死に装束を焼却炉で燃やしているのを目撃してしまった。 ショックで一晩中泣いた。 でも子供ながらに負けん気の強かった私は、だんだん悲しみよりも怒りの方が勝ってきて……とうとう翌日、おじいちゃんに問い詰めた。 その時の答えを今も覚えている。 『すまん、死者のための死に装束は白しか認められてないんだ。理由はおまえがもっと大人になった時に話すから、今は勘弁してくれ』 見上げたおじいちゃんの顔は悲し気だった。孫の作ったものを燃やした罪悪感から? いやもっと深い悲しみだった。まるで、その理由を教える日が、永遠に来なければいいと思っているような。 そうだとしたら、その願いは叶った。 祖父は、私に理由を話さないまま病死した。秘密を私に明かさずにほっとしているような、安らかな死に顔だった。 今思えば、病床の祖父相手にしてでも、無理やり聞いとけばよかったと思う。 □□□ あかりが死んだ □□□ あかりは竜に撃墜された。暴れる竜の尾があかりに直撃し、叩き潰したのだ。 無線を傍受した私はシェルターから必死に這い出した。逃げ惑う人々の間をかいくぐって、街中に墜落したあかりを必死に探す。 ……あかりの遺骸は、まるで肉塊だった。 いつの間にか自分の口から、ああ、ああああ、とうめき声のような叫び声のような声が、漏れていた。 私は震える手であかりの遺骸をかき集め、掬い取って、胸に抱きしめた。びちゃびちゃと血なのか肉なのかわからない塊が滴り、私の服をまだらに赤に染め上げた。 「なんで、なんで……」 まるで呪詛だ。なんで死んだ。なんで殺された。なんで私はあかりを守れなかった。全部自分のせいにしか思えなかった。 結局、私は竜の討伐を終えた《金鹿隊》の仲間が来るまで、遺骸を抱きしめて絶望していた。 □□□ 『――死に装束は、刺繍も染めもない白でなければならない』 『私の死に装束は花の刺繍がいいな』 あかりのお葬式は多くの人が集まった。 《金鹿隊》の面々も、学校の友達も、ボランティア活動先の図書館の人たちも、行きつけの喫茶店のマスターたちも、もちろん親族も。私も。 みんな本当にあかりが大好きだった。最期に顔を見たかった人も大勢いるだろう。 しかし、あかりだった肉塊には顔はもうなかった。潰れてしまっていたのだ。 壇上で花に囲まれた、あかりの笑顔の遺影。その下の棺には頭すら納められていない。 あの棺の中には、私がかき集めた肉塊が、白い死に装束と花に囲まれて安置されているはずだ。 ……結局、白い死に装束の裏地に、あかりの好きなスミレの刺繍を入れた。飛行服屋としての禁忌を犯したことになるが、もうどうでもいい。 祟るなら祟れ、呪うなら呪え。いずれ私も死ぬんだ。どうでもいい。 私はあかりの笑顔を思い出して涙が止まらなかった。 私を慰めてくれるあかりは、もういないのだ。 □□□ あかりが最期に見た景色を見たい。 そう言って、鹿島隊長を困らせた。勿論許可は出なかった。もとより期待してなかったが、隊長を憎んでしまいそうだった。 哨戒班班長に口を利いてもらって、隊長に内緒で哨戒班に入れてもらった。 「……それ、あかりのフライトジャケットか?」 学校の屋上から飛び立つ前、班長が遠慮がちに聞いてきた。 「うん、ご家族から形見分けでもらったの。ふふ、ぴったりでしょ?」 そう言って笑うと、班長は痛まし気な顔をした。……なにかおかしかっただろうか? 「お前、ちゃんと食って寝てるか? 顔色悪いし、隈も濃い。そんなんじゃ、隊長じゃなくても心配するぞ」 私は自分の顔に手を当てた。ざらざらした皮膚が、手を引っ掻いた。 「……そんなにひどいかな」 「憔悴した顔っていうんだろうな、そういうの。国語の小説で読んだ。未亡人の話だったけど」 未亡人、ね。笑えない冗談だ。 私は首を振って、気持ちを切り替えた 「班長そろそろいこう?」 「おう、あんまり無理するなよ。お前に何かあったら、隊長に怒られるのは俺なんだからな」 「わかってる。無理を聞いてくれてありがとう」 班長は頷いた。皆を集めて、整列させる。私は一番後ろの端っこに並んだ。 「哨戒とはいえ気を抜くなよ! この間の死刑囚たちはまだ全員竜になってない。また不意打ちで現れるかもしれないからな。警戒を怠るな!」 「「「はい!」」」 班長が檄を飛ばし、班員は全員で応じた。隊長一人と班員四人に私が加わって六人。みんな学生とはいえ、歴戦の戦士だ。 「よし、出発!」 隊長が一番に走りだし、全員がそれに続く。六人は一斉に学校の屋上から飛び降りた。 落下の瞬間、心臓が一瞬縮み上がる。このまま落ちたら死ぬのだろうか。 その思いは杞憂だというように、フライトジャケットが変形をはじめる。腕に纏わりつく鉄の感触。がっちりと固定される両腕。流れる合金が顔を覆い、バイザーになる。視界に計器類が映った。 変形を終えると、もう自分は戦闘機だ。 バーナーをふかし、大空へ飛び立っていく。同じく変形を終えた五機と編隊を組んで、今日の哨戒ルートへ向かった。……奇しくも、あかりが撃墜された空域だった。 これが、あかりが最期にみた景色か。 吸い込まれそうな青空に、あかりも惑うことがあったのだろうか。 守るべき街は真下に広がっている。白くたなびく雲を、頼れる仲間たちと共に突っ切った。まるで生身で空を飛んでいるかのような、解放感。 じわりと涙が出てくる。少し安心する。あかりにはせめて綺麗なものを見て欲しかったから。この空の青さを前に、わずかでも安らぎを感じていられただろうか。 無線から、その感慨を一瞬で破る声がした。 「レーダーに竜の反応!」 ざわりと、一瞬で鳥肌が立った。レーダーには確かに、巨大な影が映っている。 会敵まであと少し。 今度は班長の声。 「つばさ! お前は空域を離脱しろ!」 予想外の命令に、思わず素っ頓狂な声が出た。 「な、なんで!」 「お前に戦わせたとなれば、今度こそ俺が隊長にどやされるからだ!」 そんなこと言ってる場合か! 必死に言い返す。 「馬鹿言わないでよ! 今は一人でも加勢が欲しいときでしょ! 私の飛行術の成績知ってるくせに!」 「実戦と学校の授業じゃ違うんだよ! こちとら遊びじゃないんだ!」 「私だって命懸ける覚悟なんかとっくにしてるわよ!」 ぎゃあぎゃあと言い合ってると、今度は別の班員が割って入ってきた。 「やってる場合ですか! とにかく班長は指揮を。つばさは、本部へ応援を要請してください!」 強い口調に、思わず二人とも従ってしまう。 「わ、わかった」 「ご、ごめんなさい」 とにかく、無性に戦いたかった。 □□□ 雲間から現れた竜は、目にまばゆいオレンジ色をしていた。まるで合衆国死刑囚の囚人服の色のようだった。大きさは、百メートル以上。 バカでかい。竜の大きさは、人間だったころ犯した罪の大きさに比例すると言われているが、なるほど、生前は凶悪犯だったらしい。 いや、もう冷静に傍観している場合じゃない。 確かに五機の連携は見事だ。だけど周囲を飛び回るばかりで、攻めあぐねているのが分かる。いつもなら海に誘導して、そこで落とすらしいのだが、この竜はなかなか街の上空からどかなかった。もう少し戦力が必要だ。 なにより腹の底がチリチリと疼きを上げて仕方なかった。こいつらのせいであかりは死んだのだ。目の前が赤くなる。ぶっ殺したい。 「班長、加勢するよ」 「……ッ、ああ頼む!」 その言葉を待っていた。 私は太陽に向かって駆け上った。竜がまぶしさで私を見失う。その瞬間、反転急降下! ミサイルの狙いを定め、喉あたりの、たった一枚の鱗めがけてミサイルを発射する。 命中! 竜が怒りで濁った叫びを上げる。私を睨みつけて、追ってきた! 狙ったのは逆鱗、だ。竜の急所であり、ここを触られるとどんな温厚な竜も激高するという。 ああ、考えてる暇もない。上も下も分からないほど、必死に逃げ惑う。 ――確かに学校の授業とは違う。圧倒的なプレッシャーで潰されそうだ。後ろに生臭い吐息を感じる。追いつかれたら、一噛みであの世逝きだ。 それでも必死に逃げて、――海についた。 ここまで来ると遠慮する必要もない。哨戒班の五機も一斉に攻撃を始めた。 私も、ありったけのミサイルを逆鱗に正確に叩き込む。バルカンで目を焼き、口の中にもミサイルを放り込んだ。死ね死ね死ね死ね! 「すげぇな。鬼のようだ……」 誰かが恐れるようにつぶやいた。 どうでもいい。竜は死ねばいい。全部、全部死ねばいい。 ぐちゃぐちゃの肉塊だったあかりの感触を思い出す。可哀想に。可哀想に。 たった一つの殺意の塊となる。 竜が弱ってきた。怯えたように身をくねらせる。逃げようとする。追いすがる。 「逃げるな! 戦え! 戦えよ!」 弱い生き物には強気で、自分が劣勢になると哀れっぽく逃げる。こんな生き物にあかりが殺されたとは思いたくはなかった。 もう、いたぶるのはやめだ。殺す、殺す! バルカンの照準を逆鱗に合わせる。ミサイルで散々に穴をあけた、その傷口めがけて……。今まさに―― 「?!」 発射ボタンを押したとき、射線に誰かが割り込んできた。 慌てて銃口をそらすも、バルカンはもう発射されてしまった。一秒百二十発。誰かにむかって吸い込まれていく……。 尾翼に三発、穴が空いた。一瞬後、ぱっと戦闘機から赤い血が流れだす。 「た、隊長ッ!?」 無線から、班長の叫び声が聞こえた。 確かによく見ると、『誰か』は隊長機だった。血を滴らせた隊長機――。 (うそ、なんで。隊長が……) 目の前が真っ白になる。なんてことを……。呆然と思考が凍りつく。 隊長機は数瞬、ふらついていた。 しかし、立て直してまっすぐに竜に突っ込むと、ミサイルで逆鱗のえぐられた傷を正確に爆破した。 竜は最期の咆哮を上げて、力尽きた。ふらりと巨体が傾ぐと、浮力を失い、海面に落下していく。 天にまで届かんとする、すさまじい水しぶきを上げて竜は海中に沈んでいった……。 □□□ 「お前、竜を、殺していない、だろ、な……?」 無線から聞こえてきたのは、痛みに耐える隊長の喘ぎ声だった。 お前って、私のことだろうか。口が凍ったように動かない。返答したのは班長だった。 「だ、大丈夫ですか、隊長!? 尾翼ってことは撃たれたのは足ですよね! 早く帰投しましょう」 「悪い、おれが聞いてるのは、つばさ、だ。お前は、竜を、殺してない、よな……?」 名指しで水を向けられて、ようやく口が回り始めた。 「ッ、はい! 竜を仕留めたのは隊長です。私は殺していません!」 「そうか、……は、おまえは、絶対に殺すな、頼む、から……」 なぜか泣きそうな声だった。 私が竜を殺すと何かあるんだろうか? いや、今はそんなことどうでもいい。隊長を、隊長を、撃ってしまった。私は呆然と謝った。 「隊長、撃ってしまって……、その、すみません」 「射線に、俺が割り込んだのが、悪い。気にするな……」 気にしない、わけがない。本当に頭が真っ白だ。 私はあかりに続いて、隊長まで失うところだった。それも自分の手で……。悔やんでも悔み切れない。 隊長は優しい声で言った。 「よくやったな、皆。さぁ、帰ろう」 苦しいだろうに、何でもないように帰投を促す隊長。私は意気消沈して、隊列に加わった。 胸が苦しくて仕方なかった。 □□□ あれから、私は哨戒班に正式に加わった。竜を絶対に殺さないことを条件に。 友軍誤射の件は隊長自らが、自分が悪かったと正式に発表したが、皆には少し遠巻きにされた。 ……どちらかというと、私の戦場での鬼めいた気迫におびえているらしい。班長が笑いながらそう教えてくれた。 私はしばらく、気の抜けたように哨戒を行った。 竜に対する憎しみはまだ心のどこかにくすぶっていたが、隊長を撃ってしまった時の身も凍るような恐怖を思い出すと、冷や水を浴びせられたように火が消えた。 あかりを亡くした上に、隊長まで失ってしまったら……。わたしは……。 その恐怖に、夜中、何度も飛び起きた。 嫌だ。何を無くしても、それだけは嫌だった。隊長まで失ったら、私は一人だ。 耐えられない。 だから、だから――隊長は絶対に守ろう。竜なんか……どうでもいい。どうせ復讐しても、あかりは帰ってこないんだ。もう、隊長さえ生きてくれればそれでいい。 そう決心してからは、強かった。竜に対する止めは隊長や仲間が請け負ってくれて、私は仲間を守ることと竜を追い込むことだけに集中できた。 《金鹿隊》の生存率は目に見えて上がった。以前飛行術の先生が言っていた、『戦力の高い生徒は全体の生存率を底上げする』とうのは本当だったらしい。 あの時のように、ロッカールームで私の悪口を言う人はもういない。みんなに受け入れてもらえて、私は安心した。隊長も複雑そうながら、「よくやった」と褒めてくれることが増えた。 こうして、私が死ぬ最期の時まで、私は竜をただの獲物として見ることができると思っていた。 あの時まで――。 □□□ 「レーダーに竜反応! 会敵まであと1分」 間の悪い竜だ。よりによって、《金鹿隊》が全員揃っている時に現れるなんて。 憎しみでいっぱいだった数か月前とは違って、今は竜を哀れむ余裕さえある。今度も竜を追い立て、海上で撃ち落とすだけだ。けれども油断はしない。いつも通りにやるだけだ。ぐっと操縦桿を握りしめる。 ところが、いざその竜を目にした途端、どくんと心臓が嫌な音を立てた。 誰かが無線で、きょとんとした声を上げた。 「なんだあの竜、……花の模様か?」 白い竜だった。純白の鱗が日の光を反射し、艶やかにきらめいていた。 その竜の右ももから背中にかけて、紫の花の紋様が咲いている。……スミレの花だ。 私が、あかりの死に装束の裏地に刺繍で描いた、あのスミレ、そのままだった。 「……ッ!」 心臓の鼓動がどんどん早くなる。嫌な予感が私の身体を縛っていた。 (まさか、……。いやだ、やめて……!) なんで、死に装束は白しか認められておらず、いかなる模様も染めも許されないのか。 どうして祖父は、死に装束の理由を教えたがらなかったのか。 隊長が私に竜を殺させなかったのはなぜなのか。 ――その竜を見た時、全ての糸が繋がった気がした。 死に装束に模様や染めを許さなかったのは、竜になった時、その模様や色が竜の体表に現れるからだ。 祖父が死に装束の理由を教えてくれなかったのは、《金鹿隊》の殉職者が竜になる事実が、子供には酷だと思ったからだ。 隊長が私に竜を殺させなかったのは、かつての仲間を私の手で討たせることを惨いと判断したからだ。 もしも、もしもそうなら、……あの竜の正体を、私は知っている! (あの竜は、……まさか、――あかり!?) そう判断した途端、私の身体は発作的に動いた。……竜を狙っていた仲間に向かって威嚇射撃をしたのだ。 「――ッ。てめぇ、つばさ! 何考えてやがる!」 辛うじてロックの音に気付いて避けた仲間が、無線で怒鳴る。 私も、ヒステリックに怒鳴り返した! 「だめ、竜を撃たないで! あの竜は、あの模様は――!」 「それだけは言うな!」 鹿島隊長が、割り込んで叫んだ。と、同時に頭がくわんと揺れた。力が抜ける。 「……ッ、なに」 隊長が私だけに聞こえるように、無線を絞った。 「お前の機体に仕込んでいた脱力ガスだ。誰か一人を付けるから、お前は本部に帰れ」 「隊長! あれはあかりなんです! 証拠もあるんです! 殺さないで、殺さないでください……」 涙が溢れて止まらない。なりふり構わず嘆願する。頼むから、あかりをもう一度殺すことなんてしないで――! 帰って来た答えは、惨いものだった。 「――悪い、それは無理だ……」 「!」 反射的に震える手で、ミサイル発射ボタンを押す。隊長めがけて一直線に飛ぶソレは、隊長が撒いたチャフであらぬ方に飛んでいく。 無線から皆の驚愕する声が聞こえる。 「つばさが乱心した!」 「やべぇって。竜だけで手いっぱいなのに、つばさまで暴れ出したら……!」 暴れる力なんか、残ってない……。意識を保つだけで、精一杯だった。 くそ、皆をと、めない、と……。 「……つばさは俺が連れていく。皆は竜を海上まで誘導しろ。すぐ戻る」 隊長の声を最後に私の意識は途絶えた。 □□□ 目が覚めたら病院だった。しかも一人部屋。 起き上がろうとして、手足が拘束されていることに気付く。 暴れようとして、……すぐにどうでもよくなった。 泣きつかれた後のように、奇妙に気分が落ち着いている。きっと点滴に鎮静剤が混ざっているに違いない。 (――あかり) あれから、あの白い竜は討伐されたんだろうか。あかりは二回も殺された。それも元の仲間に……。 じわりと涙が浮かぶ。死にたくて仕方なかった。可哀想なあかり。できることなら、あの時あかりに殺されてしまいたかった。 あふれる涙が、枕に吸い込まれていく。 ガチャ、と扉が開いた。 「目を覚ましたのか?」 「……最悪な気分ですけどね」 声でわかった。隊長だ。 部屋の入口に視線を向けると、紙袋を手にした隊長が緊張した顔で立っていた。 「話がしたい」と、隊長は言った。 望むところだ。 頷くと、隊長はベッドのそばの椅子に座って私の顔を覗き込んだ。 「顔色が悪いな……」 「もっと悪くなりそうな話を持ってきたくせに?」 動かない身体で睨みつける。隊長はため息をついた。 「なるほど、もう察しはついてるのか」 私は静かに首を縦に振った。 「でも全部分かるわけがない。答え合わせしてくれませんか」 「言ってみろ、お前の推測を」 私は口を開いた。 あの白い竜、――つまりあかりは、また殺されたこと。 白い死に装束しか許されなかったのは、竜の体表に模様が出るのを防ぐため。 そして芋づる式に《金鹿隊》の死者が竜になることが明らかになるのを防ぐため。 隊長が私に竜を殺させなかったのは、かつての仲間を私の手で討たせない温情のため。 理由も含めて、全て語り終わった時、隊長は深いため息をついた。 「おおむね正解だ。つばさは鋭いから、バレた時戦場で暴れないように、機体に脱力ガスなんて仕込んだが、……俺の先見の明も大したもんだ」 「認めるんですね」 「ああ。少し俺の話を聞いてくれ」 私は無表情に促した。 「お前の察しの通り、竜を殺すことは大罪で、竜殺しはもれなく来世竜になる。つまり《金鹿隊》で竜を殺したものは、竜に生まれ変わって俺たちに殺される運命だ。……《金鹿隊》の名の由来を知ってるか?」 「隊長の名字、『鹿島』の『鹿』の字を取ったものじゃないんですか?」 隊長は首を振った。 「《金鹿》を縦に書くんだ。すると『鏖(皆殺し)』という字になる。――俺はこの部隊に所属する人間が竜になれば、その竜を鏖にする。そういう覚悟で名付けた名だ」 「――ッ!」 思わず絶句する。 「じゃあ、私たちは隊長に、仲間に殺されるために、竜を殺すんですか!?」 「違う。《金鹿隊》は市民を守るための組織だ。その目的に偽りはない。……ただ、全員死ぬことを運命づけられた隊というだけだ」 ――怒りが、怒りが湧いてくる。 「そんな、そんなのって……!」 怒りで興奮している私をみて、隊長は寂し気に笑った。 「でも、そんな運命から逃れさせてやりたいって思うやつが一人現れた……」 「……!」 竜を殺せば、来世竜になる。その運命から逃れるには……? ――《金鹿隊》で唯一竜を殺してない人物。そんなやつ、一人しか……。 「そう、お前だよ」 隊長がかたくなに私を戦わせなかったのも、竜を殺そうとする寸前に身を挺して割って入ったのも、全部そのため……? 最初から? 絶句したままの私の頭を撫でると、隊長は立ち上がった。 「俺はお前を殺したくない。……お前が俺を殺したいのは分かるがな」 私は隊長を見上げた。明かされた事実がショックで、なんといっていいかわからなかった。 「せめて俺が死ぬまでは、誰にもこのことを話さないでくれ。自分たちがかつての戦友を殺していたという事実は重すぎる」 「……隊長も死ぬんですか」 隊長は今度こそ笑った。 「《金鹿隊》に例外は無い。俺もいつかは死ぬ。竜に殺されるか、それとも他の理由かは知らないが――」 ああ、と隊長は思いついたように言った。自嘲気味ににささやく。 ――お前が殺してもいいんだぞ。あかりの仇、討ちたくないか? 「隊長があの竜を――あかりを、殺したんですか……?!」 殺意が燃え上がる――と思っていた。 でも胸に去来したのは、どうしようもない虚しさだった。 涙が溢れて、止まらない。 「わ、わたしが、隊長を殺せるわけないでしょう!? あなたがいなくなったら私には何もなくなる。あかりが死んだのに、これ以上大事な人をなくすなんて、……耐えられない。卑怯ですよ、そんなたきつけ方は」 隊長は私の告白に驚いたように目を瞬かせていたが、やがてじぶんの前髪をくしゃりと搔き上げるように額を押さえた。後悔しているようだった。 「悪かった」 病室に沈黙が落ちる。頭が真っ白で何も考えらえない。 気が付いた時には、自然と口が開いていた。 「ねぇ、私はどうすればいいんですか?」 そうだな、と隊長もぼんやりと考え込んでいるようだった。 「心の思うままに、かな」 「……?」 「俺もお前も自分勝手で、自己中心的だ。もう、手の施しようもない。だからここまで来たら、いっそそれを貫き通せばいい」 自己中心的と謗られても、反発する心は起きなかった。だから、素直な気持ちで心の思うままに願いを口にできた。 「私はあなたの望みを叶えたい。もう私の内にはなにもないから」 隊長は虚をつかれたように、瞬きした。 「俺の望み? お前が竜に関わらず、一生を穏やかに過ごすことだけど……」 「そんなの私じゃない」 一刀両断に切り捨てると、隊長は苦笑した。 「だろうな。お前はそんなタマじゃない」 「だからそれ以外の望みです」 心のままに、あなたも願いを吐き出せばいいんだ。 その意を汲んだのか、隊長は静かに一言だけ口にした。 「共犯者に、なってくれ」 「共犯者……?」 「同じく竜の正体を知っている者として、俺を支えてくれ。元仲間だった竜の死を一緒に悼んでほしい。……ただし、お前は竜を殺すな。竜殺しの運命からお前だけは逃れてくれ」 先ほどの願いとは真逆。だからこそわかる、これがあなたの本当の願い……。 「わがままですね。」 「だめか?」 「あなたが竜に殺されそうになったときは、私が竜を殺しますよ。あなたを失いたくないので」 それでいいのなら、と私は頷いた。 「ありがとう、つばさ。……竜に関しては、俺が気張れば済む話だ」 隊長は長年の肩の荷が急になくなったかのように、ほっと安堵の息をついた。 ……この人は一体どれだけの重責を抱えていたんだろう。竜の秘密を抱えて、街を守るために元の仲間を殺して、それを誰にも話せずに――。 それを想うと胸が苦しくて、またぽろりと涙がこぼれる。 隊長はそれを拭って、私に掛けられた布団を引き上げてくれた。 「そろそろ薬が効いてくる。もう寝とけ」 ぽんぽんと布団を叩くと、隊長は紙袋の中身を棚に収め始めた。やはり私の入院用品のようだ。 「隊長は?」 「俺はこの後報告書を書きに本部に戻るが……」 じっと見つめると。隊長は、うっ、と呻いた。 「……まぁ、お前が寝付くまでは、いてやるよ」 だから安心しろ、と言われて、私は急にまぶたが重くなってきた。本当に安心してしまったらしい。たしかに、色々あって疲れた。 「たいちょう……」 「ん?」 「私をおいて、しなないでくださいね」 すぅっと意識が途切れる。答えを聞かないままだったが、隊長は当たり前だと笑ってくれた気がした。 □□□ 数年が経った。 私は変わらず隊長を支えたし、隊長は私に竜を殺させてくれなかった。 私たちは何人もの隊員の死を見送り、竜に転生して帰って来た隊員を二度目の死に追いやった。何度も何度も何度も……。 罪の意識を抱えきれなくなった時は、二人でじっと寄り添って、死んだ隊員たちに思いをはせた。 相変わらず重責はあるが、二人ならずっと耐えられると思っていたのだ。 ……ずっとなんかないってこと、あかりの死で私はよく知っていたはずなのに。 □□□ 竜が三体同時に現れた。初めてのことだ。 最近、史上初で大量に死刑を執行したそうだから、その煽りを受けたのかもしれない。 何日にも亘る死闘でなんとか全部仕留めたが、隊は壊滅した。隊長も虫の息だった。よりによって私を庇ったせいで! 隊長と私と予備の飛行服を繋いで、輸送機形態になる。コクピットには班長。貨物室に隊長を含む負傷者を寝かせて、私たちは必死に手当をしていた。 「――ッ、私を置いて死なないで、って昔言いましたよね!」 泣いているのか怒っているのか、自分でもわからない。多分両方だ。 「悪い、な。」 「やめてくださいよ! 謝るくらいなら生きてください!」 失血が酷い。手で患部をきつく抑えて、直接圧迫止血を試みる。でもだめだ。隊長の血がだらだらと私の手を伝い落ちる。命そのものがこぼれ続けている気がして、恐ろしさに震えた。 (このまま隊長が死んだら――!) 最悪の予想が頭に纏わりつく。考えたくないというのに、隊長は何でもないかのように口に出す。 「もし、俺が死んだら、班長に全部任せて、お前は脱隊しろ……」 「そんなこと、できるわけないでしょう!」 私はすでに主戦力だ。主力が突然抜けるとなれば、下手打つと皆が死ぬことになる。 「でも、お前は俺を見捨てられないだろ? お前にはどんな形であれ、竜を殺してほしくないんだ……」 ハッとした。隊長は自分が竜になった時のことを言っているんだ……。 私が竜となった隊長を殺して、来世竜になることを恐れている。 ……そこまで言うなら、私は竜を殺さないという約束を守りたい。けど、竜となった隊長を見捨てることなんかできない。 迷っていると、隊長が震える手で、私の頭を自分の方に引き寄せて、耳打ちしてきた。 「お前は、普通に生きて、いい来世を送ってくれ。竜になんかなるな」 「……ッ、隊長……!」 その一言を言うために、全身全霊を使ったのだろう。 隊長は、目を閉じて、少しばかり深いため息を吐いた。ごとんと、首の力が抜け、隊長の心臓は停止した。 「隊長!! ねぇ、冗談止めてください! 死なないで!」 必死に心臓マッサージを行う。それこそ、街に着き、病院に収容されるまで。 医者がそっと、私の手を止めさせる。そして腕時計の時間をみて、痛ましそうに言うのだ。 「21時31分。ご臨終です」 この瞬間、《金鹿隊》隊長、鹿島和泉は、この世のどこにもいなくなった。 帰ってくるときには、竜となって、私たちを殺しに来るのだ。 □□□ 数ヶ月、史上最大級の黒竜が現れた。およそ五百メートル。今まで相手にしてきた竜の五倍はある。 竜の大きさは、犯した罪の大きさに比例するという説があった。そして竜殺しは大罪である。一番竜を多く殺した隊長ならば、この大きさも納得だ。 「……おかえりなさい、隊長」 私と、生き残りの隊員たちは学校の屋上で、揃って空の黒竜を見上げた。 「ほ、本当にアレが隊長なのか……?」 隊員たちは震える声で囁き合っている。 「私が隊長に着せた、絞りの黒の死に装束と同じ模様の竜でしょう? 見て、逆鱗の位置に白い花の模様が咲いている。私が前に言った通り」 あかりのすみれの紋様が浮き出た位置を逆算して、死に装束を使って逆鱗の位置に紋様を浮き出させられないかと思ったのだ。狙い通りだ。 隊員たちには、『竜を殺すと来世竜になること』を話してある。半信半疑で、ショックも受けていたようだが、証拠を見せられては納得するしかないようだ。 ……だが、受け入れられるかは別だ。 「た、隊長を殺すなんて、俺にはできない……」 「俺も……」 「だって、仲間だったんだぜ。あの人は」 皆、あかりを竜だと見破った時の私と、同じ反応をしている。 あの時、隊長は私の慟哭をどんな思いで聞いていたんだろう。あの時の隊長と同じ立場に立っているのに私にはわからなかった。 だから、私は私の考えを語りかける。 「《金鹿隊》は市民を守るため、竜と戦う組織。だから、市民さえ守れればいい。それ以外は私たち次第なんだよ」 「私たち次第って……」 戸惑った顔で皆は顔を見合わせる。私は何でもないようにいう。 「例えば、竜を街から追い出せば殺さなくてもいいとか」 「そんなの、そんなの許されるはずが……」 私は首を振った。最初からあきらめては何もなせない。 「偽物の街をつくって、竜を誘導してもいい。もしかしたら竜と仲良くする方法もあるかもしれない」 「夢物語だそんなの。現実的じゃない……」 「やろうとすれば叶うかもしれない方法を、諦めることこそが非現実的だよ」 ざわざわと皆がざわめく。 「だから、まずは竜のことを知らなければいけない。これからの私たちのために」 私は自分に言い聞かせるように、言葉を結んだ。 しばらく沈黙が降りしきって、……隊員のうち一人が、覚悟を決めたように言った。 「わかった。俺達だって、知らなきゃいけないことがたくさんある。俺は竜になる連鎖を断ち切りたい。竜とはいえ仲間殺しなんて、後輩たちにさせられねぇよ」 力強く頷く面々。私は笑った。 「じゃあ、実験に付き合ってよ。不可能を可能にする、第一歩だ」 仲間たちはきょとんとした。 □□□ ずっと考えてた。竜を殺しても竜にならずに済む方法を。 答えはずっと簡単なことだった。 □□□ いつも通りに竜の逆鱗を刺激して、海上まで黒竜を誘導する。 黒竜は、人間だったころの隊長とは思えないほど、短慮で激しやすいようだった。これならいけるかもしれない。 「本当に行くのか?」 「うん、協力お願いね」 海上で仲間たちと最後の通信を交わす。ここから先は私も生きて帰れるかわからなかった。身を包む飛行服は、成層圏まで行けるジェット戦闘機だ。 合図とともに、隊員たちは竜を空へと追い立てる。私は竜の逆鱗に激太のアンカーを打ち込んだ。竜が悲鳴の咆哮を上げる。大気がビリビリと震えた。思わず恐怖心がちらりと顔をのぞかせたが、唾を呑み込んで圧殺した。 「準備完了! 伊藤つばさ。行きます!」 空に向けて一直線に飛ぶ! 目指すは成層圏! 竜は剥がれそうになる鱗に引っ張られるように、私の後ろを飛び始めた。 私を戦闘機ごと食えばこの苦痛は終わると判断したんだろう。竜はアンカーのワイヤーをたるませるほど加速してきた。 まだまだだ、私も速度を上げる。フルスロットル。 計器の針がぐんぐんと上がり、最高速度マッハ2を記録した。再びピンとワイヤーが伸びた。 「ぐっ……!」 速度が出るということは、身体にも圧力がかかるということである。計器を見ると9G。地上の9倍の圧力だ。体重50㎏の私は450㎏の圧力にさらされている。身体が潰れそうだ――。 竜は……? バックカメラの映像をモニターに出す。まだまだ大丈夫そうだった。もっとも見掛けだけの話だが。 まだまだ、上昇する。高度12㎞で-70℃。 ――竜の身体が凍ってきた! まだ息はあるが、大分弱ってきている。 (ここだ!) 私はワイヤー外し、竜を自由にさせた。 すると竜は身をくねらせてさらに上に上昇する。成層圏では高度と共に気温が上昇する。おそらく爬虫類の竜にとっては、身体を温めるため、本能で太陽に近づこうとしているのだろう。さらに上空ではどんどん酸素が薄くなるとも知らずに。この分だと、こちらに戻る前に窒息するだろう。 竜の姿が点となり、やがて見えなくなった。 私はそれを見届けて、地上に帰還した。 学校の上に着地すると、仲間たちがわらわらと寄ってきた。 「ど、どうだったんだ」 「うまくいったよ。竜は自殺した! これなら私は竜を殺していないから、竜に転生することはない……はずだ」 自信たっぷりに言い切ることはできなかった。なぜなら、私はまだ死んでないから竜に転生するかどうかなんてわかるわけない。思わず口ごもる。 「でも第一歩にはなったんだろ? 上出来じゃないか! 検証はこれから進めていけばいい。よくやったな、つばさ」 そう言って班長がバシバシと私の背を叩いた。そうしてみんな口々に、私を褒めてくれた。 私は、照れて少し笑った。 あれから、何度か同じ方法で竜を大気圏外に追放した。 そのうち実行した一人は、別の任務中殉職したが、彼が竜として転生することはなかった。 実験は成功したのだ! これで隊員が竜になる連鎖は断ち切られ、私たちは竜となった仲間を殺すことはなくなった。 私は抜けるような青空を見上げて、隊長に語り掛けた。 ねぇ、隊長。私は普通に生きることはできなさそうだけど、竜にならずに済みそうです。 これからもどうか見守っていてください □□□ 数百年後のどこかの街で。 街中を歩きながら、顎の下に花の形のあざのある男が、隣の女の子に文句を言いました。 「やっぱり宇宙は苦しかったぞ、つばさ。お前にも危険なやり方だったし、相変わらず無茶をする」 女の子は心外だと言い返します。 「んな! 竜に人間の時の自我が残されてるって知ってたなら、もっと穏便な方法をとりましたよ! あの時は何も知らなかったんだから仕方ないでしょう?」 男はさもありなんと、自分の顎の下を撫でました。アンカーで貫かれた傷はありませんが、ここを撫でるのが癖になっているようです。 「まあ、竜にならないっていう約束を守ってくれたんだからチャラにするか」 女の子はむくれています。 「もう、偉そうに言いますね。あなたこそ『私を置いて死なないで』って約束破っておいて、よくもまぁ……」 ぶつぶつと恨み節が続きます。前世でのことはよほど腹に据えかねてるようです。 男はポンポンと、女の子の頭を軽く叩きました。 「悪かったよ。お詫びに、今日は何でも奢ってやる」 ぱっと、女の子は顔を明るくしました。現金なものです。 「やった。じゃあ、ショッピングしましょう! あ、もちろんあかりの分も奢ってくれるんですよね。これから三人で会うんですから!」 女の子は嬉しそうに小首を傾げます。 男はうっ、とひるみました。古今東西、女の子たちの買い物は長いことで有名ですので、ちょっと気が進まなかったのです。 女の子はにこにこと、男を見上げます。男は目をそらします。 しばらくの沈黙の後、……男は諦めたように頷きました。 「よしよし、人生諦めが肝心ですからね」 前世で人一倍諦めの悪かった女の子が言うと、シャレになりません。 あ、街路樹の下で右足にスミレのあざのある女の子が、手を振っています。 「あ、来た来た! もう遅いよ、二人とも!」 「ごめん、あかり! お待たせ!」 それからみんなできゃいきゃいと、ショッピングに繰り出しました。 そして、三人は平和な世界で、いつまでも仲良く暮らしましたとさ。 |
北斗 2018年08月12日 22時36分47秒 公開 ■この作品の著作権は 北斗 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2018年09月23日 11時56分35秒 | |||
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作者レス | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時54分19秒 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時50分13秒 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時47分00秒 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時42分09秒 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時39分41秒 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時37分03秒 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時34分29秒 | |||
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+20点 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時32分27秒 | |||
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+30点 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時27分06秒 | |||
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+10点 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時25分33秒 | |||
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+10点 | |||
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Re: | 2018年09月23日 11時19分23秒 | |||
合計 | 12人 | 270点 |
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