ペロペロ |
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――気がつけば、真っ白でなにもない部屋に後輩と二人きりだった。 「先輩、ここ、どこなんでしょう……?」 黒髪の天使的美少女、後輩の備藤ちかこ(びとう ちかこ)が上目遣いで僕の裾をちょこんと摘まんでくる。わりと深刻な状況なのだが、そんな時にも関わらず、僕は彼女からふわりと漂う匂いにふんすーふんすーと思わず鼻の穴を広げてしまった。ずっとかいでいたい……。すんごいよ、これ。備藤ちかこの香りの芳香剤あれば売れるよ絶対! 備藤ちかこはその端正な顔立ちと、ブレザーの制服越しにもはちきれそうなミラクルoppaiと、oppaiが揺れるたびにサラサラの黒髪が踊るのがすんばらしい、超清楚系美少女なのだ。性格も明るく優しい。 男子の間では天使を具現化すれば『備藤ちかこ』になると言われているくらいだ。あまりの可愛さからファンクラブが設立されており、その人気ぶりは学校内外問わない。放課後になると駅前にある『散歩道』という喫茶店に会員は集まり、日夜備藤ちかこに関する情報交換や、備藤ちかこのプロマイドが売買されている。かく言う僕もその会員の一人であり、彼女に片思いをしている人間の一人だ。 だって仕方ない。僕にとって彼女との出会いはあまりにも印象的だったから。 始業式の放課後のことだ。 ぽかぽかした春の日差しに誘われ、学校の桜並木の一角にあるベンチで僕は惰眠をむさぼっていた。 すると「クスッ」という声が聞こえ、どこか懐かしくも、穏やかな気持ちになるような香りが鼻腔をくすぐった。目を開けると、備藤ちかこの大きな瞳がまじまじと僕の顔を覗き込んでいたのだ。 春の風に翻るスカートのすそからスラリと伸びた足。紺のニーハイと形の良いひざは健全な色気に溢れていた。 反面チラリと覗くふとももの素肌の眩しさはぐらりとくるくら妖しい魅力に溢れていたのだ。 一目ぼれだった。 しかも、出会いはそれだけで終わらず、その後すぐにちかこは僕が所属している吹奏学部に入部してきて、しかも同じ楽器を志望し、パート練習の間ずっと同じ時を過ごす間柄にまでなってしまった。そんなわけでなにかとこの後輩とは縁があるのだ。 だからこそもしかしたら、もっと親しい関係になれるかも、と何度身分不相応な妄想をしたことだろうか。 「先輩……どうしたんですか?」 「はっ」 ちかこの声にお空に飛びかけた意識を掻き集めた。今はそんな妄想に浸っている場合じゃないのだ。 ついさきほどまで僕らは放課後の廊下を歩いていたはずだった。 部活のトランペットのパート練習を終えて、合奏のために音楽室へと向かっていたはずなのだ。 それがふと、うとうとと、耐え切れないほどの眠気が突如襲い、いけないいけないと目を開いたら、夕映えの影が落ちる廊下は消え失せていた。 無機質な電灯が照らすこの白い部屋に、いつのまにか二人して突っ立っていたのだ。 しばらく二人で馬鹿みたいに口をぽかんと開けていたが、いつまでもそうしてもいられず、とりあえず僕は目の前にあったドアのノブを捻ってみたり、力いっぱい引いてみたり、押してみたり、とび蹴りを繰り出してみたり、ぶん殴ってみたり、開けゴマと唱えてみたり、「開けてくれませんか?」としなを作っておねだりしてみたりもしたのだが、うんともすんともしなかった。 それから僕らは四畳半ほどの広さの白い部屋をくまなく調べてみたが、どこにも外へ出られるそうなところは見つけられなかった。先ほど確認した開かずのドアのほかには、窓も排気口もなにもなかった。わずかな隙間さえ見当たらない。 「先輩、あれ、なんでしょう……」 天井を見ると、ジジジ……と放送器具があやしげに黙っている。だれか監視しているのか、小さなカメラもついている。うん、そろそろ間違いない。というか僕はわりと最初っからこの状況の原因となるものに心当たりはあった。一応、色々とやってみたのは様子を見て反応をうかがうためであり、隣にいるちかこに怪しまれないためでもあった。しかしこれは、これはほぼ間違いないな……。僕の額から汗がひとすじ、たらりと流れるのを感じていた。 ――僕はこの部屋を何度も見たことがある。 ところで、僕には十六歳年上の姉がいる。 家では母親以上に頭が上がらない存在で、会社では完璧超人とも言うべき働きぶりで仕事をするうるわしのオフィスレディだ。美貌も三十を越えてむしろますます磨きがかかったのではないかというぐらいなのだが、しかしその実何とは言わないが何かの泥沼につかったままの女性である。週末になれば家の中でぐーたらし、僕の部屋に入り浸って、『歯を食いしばり愛を叫ぶ男共の汗水書物』を読んだり、『いけないことしよ?』とか言う姉が弟を襲う近親相姦ものを、よりにもよって弟である僕の前で読んだりしているのだ。 姉の部屋には天井すれすれまで積み重なった薄い書物が積み重なっており、そのいくつかにこういう白い部屋をかいま見たことがある。 昔は憧れの姉でそれこそべったりだった僕ではあるが、そんなあられもない姉の姿を見せ付けられるのはかなりのショックであり、見るに堪えないものだった。ドン引きした僕が知らず知らず距離を取るようになってしまったのも無理はないだろう。 そんな姉が魔法を習得していることを一ヶ月前に僕は知った。姉が三十歳になったときらしい。 童貞は三十歳になると魔法使いになると言われているのは知っていたが、まさか姉が魔女になるとは。『○○しないと出られない部屋』というのを諸兄、諸姉はご存知だろうか。姉はその力の使い手になってしまったのだ。 魔法を習得してしまった姉は能力を把握するため手ごろな実験台である弟、つまり僕を使って色々試すのがこの一ヶ月間の習慣になっていたくらいなのだが、三日前『自分の好きな人の名前とその子になにをしたいのか口にしないと出られない部屋』に放り込まれたのだ。泣く泣く口に出したのは、今もぼくの顔をじっと下から覗き込んでくる女の子の名前。そして彼女に対して抱いていた願望さえ、伝えてしまった。 「先輩……、私、こわいです」 「だ、大丈夫だ、ちかこは、僕が守る」 「先輩……? なんか鼻息荒いんですけど……? 大丈夫ですか?」 いやむしろピンチなのは備藤さんである。備藤さんは純真無垢で清廉潔白なのであって、けしからんことは一切ゆるされない。なぜなら備藤ちかこファンクラブは一種の宗教と化しており、十戒なる教えを遵守し、実行している。備藤ちかこに不純な目的で近づくような不埒なる輩をひそかに闇へと消しているのだ。ゆえに普段ならばこの場で備藤さんにいやらしいことなどしようものなら即刻執行部の人間がやってきて『闇に滅せよ』と憎悪に燃える闇の炎で僕を焼き尽くそうとしてくるはずだ。そう、普段ならば。 「先輩鼻血噴き出してますけど」 「いや、大丈夫だ、僕はちかこを守る、守ってみせる」 「何からですか?」 主に僕から、である。が、そんなことは言えない。 あの部屋で備藤ちかこの名前を口にしたとき、「ふ、ふーん、じゃ、じゃあ、協力してあげようかしら。いつも実験台になってくれたお礼に」と姉が言っていたことを思い出す。 まさかこれが姉の言う『協力』なのだろうか。 僕が歯を食いしばって心からあふれ出してくる愛欲に耐えようとしていると、はっとして僕と備藤さんは口をつぐんだ。 ジジッジジジ……。とうとう何か放送されるようである。 『え、えーっと、お集まりいただきありがとうございます』 来た。間違いない。姉貴の声だ。「どうなってんだよ!」「ふざけんな! ここから出せっ」「何をする気だ!」とりあえず叫んでおく。はよ、はよ。……あ、いや、まちがった。 『この部屋からは、ある条件をクリアしないと出ることができません』 「なんだって!」 僕は天も張り裂けよと言わんばかりの身振りで驚いて見せた。もうこれ決まった、と心の中では拍手喝采である。 「一体、私たちは何をすればいいんでしょうか……?」 備藤さんが身を乗り出す。そして僕も身を乗り出す。さあ、二人は何をすればいいんだ、はやく教えてくれ! 命令してくれ! はよ! はよ! 無機質な声で放送は続く。 『お二人はここでセッ……』 ジジッ……ジジッ……。 『……や、やーっぱ、やーめた。えっと、男の子は女の子に抱いている願望を女の子に告白し、それを女の子が叶えるまで、部屋から出ることが出来ません。い、以上!』 「せ、って、なんなんでしょうね、いったい、なんでやめたんでしょう」 「さ、さぁ……」 と言いつつも、大体予想はできる。途中で切れたとはいえ、せのあとに続く行為をしろと、つまりは僕の願望を叶えてもいいと、そう言いたかったのだろう。だとしたらやっぱりやめた、はかなり困る。こんなにお膳立てしてもらってなんだが、そんなこと、どうやって切り出せというんだ。僕にそんなことをちかこに頼む勇気があると、姉貴は本気で思っているとでもいうのか! 無理だ、だって僕、童貞だもん。 童貞なめんな。 ったく、仕事は最後まできっちり果たせよな姉貴。 さて、どうしたものか。 僕は頭を垂れ、ふと考えた。 脳裏によぎるよこしまな考えに、何度も首を振った。それはイケナイことのように思われたから。 だって備藤ちかこはみんなの天使なのだ。 ファンクラブの会員の一人でもある僕がその天使を汚すなどあってはいけないことだった。 それにえっちなことをすれば会員規約の第三条『備藤ちかこの嫌がるようなことはしてはならない』に著しく抵触するおそれがあるのだ。 やっぱ、だめだよね……。そうだよ、だめなんだよ。 僕は何度もだめ、えっち、だめ、絶対と心の中で繰り返した。 しかし理性という名のシバリを受けるには、僕の気持ちは純粋に素直すぎたみたいだ。結局は本心に嘘はつけなかった。 『えっちしたい……』 顔を上げたとき、熱く膨らんだ頬が涙で濡れていた。 『ありがとう姉貴』 僕が姉貴に感謝をしていると、裾を引っ張られている感触が落ちた。見るとちかこが突然ぺたんと膝を崩して床に座り込んでしまっていた。 「先輩、私、協力します! こ、このままこの部屋に一生いるなんて嫌です。お家に帰りたいです。どうしたらいいんでしょうか。先輩、助けて下さい。私協力しますから! なんでもしますから、先輩、私に何をしたいのか、ちゃんと言って下さい!」 「な、なんでも……?」 慰めるつもりで伸ばした手が彼女の黒髪の肩に触れた瞬間、思いがけない胸の痛みに打たれて、僕はその場にひざまずいた。手のひらがじんじんしびれていた。 「どうしたんですか先輩、顔が真っ青ですよ」 「い、いや、なんでもない。それよりも、なんでも、というのは、本当になんでもかい?」 「はい、なんでも、とは、なんでもです!」 「そ、そう。な、なら僕に、この、ぼ、僕に……せ、せ、せせ、せ」 $ & $ 「僕に、せ、せ、せ」 「先輩、さあ、早く言ってください! せ、いったいなんですか?」 私は、目を泳がせている彼=室渕密(むろぶち みつ)が決定的な言葉を紡ごうとしているのを見て、『計算通り!』と心の内では口が裂けるかの如く笑っていた。 もちろんばれないように、表情はさも敵国に身を捧げるお姫様の如き様相である。万が一にもこの状況を作ったのが私なのだとばれることはあるまい。 ばれたら私は自刃する覚悟だ。そうなったら恥ずかしくて死んじゃうもの……。 でも、これでついに先輩と、いや密と結ばれる。 密は知らない。 私、備藤ちかこが、 密の姉、室渕蜜であることを。 私が三十歳になったとき、魔法が使えるようになってしまったことは、密も知っている。が、その能力は『○○しないと出られない部屋』に限定されていると思い込んでいることだろう。 違うのである。 魔法が使えるのだ。この魔法というのはかなりの万能性があり、私はドラエモンの道具並みのチート能力を手に入れてしまったのだ。 使い方次第では多分世界征服できるくらいの。 いややらんけど。やるとなったら大変だって、絶対。 しかも自分に発現したということはやっぱりどこかに自分と同じ能力を持つようになった人が少なからずいるということかもしれないじゃない。もしも対立するようになったら色々と面倒だ。異能バトル勃発である。殺し合いなんてしたくない。そうじゃなくてもどこかの国の秘密機関が接触してきて、面倒な仕事を押し付けられちゃう、なんてこともあるかもしれない。そう考えると、むやみに使うのは賢明ではないだろう。 と、こんな感じで、これでも私は悩んだのだ。うんうん、と頭をフル回転させて、この能力をどう使おうかと。 で、結局のところ、私がこれを使ってしたいことは最初から一つしかなかった。 端的に言えば、私は弟が好きだった。 密が生まれた瞬間からそれはもう大、大、大、大好きだった。 母親以上にべったりと密に張り付いたし、母親に密を取られたりしたらわんわんと泣いた。ちなみに私はそのとき高校生だった。あまりの泣きっぷりに『あんたが赤ちゃんみたい』と呆れられたものだ。 みんなから白い目で見られることもしばしばあるくらいの溺愛っぷりだったのだが、私はちっともそれを気にせず密の世話をしつづけた。 密のおむつを代え、密をだっこし、密とお風呂に入り、密がはいはいすれば私もはいはいし、密が初めて立つ姿を目撃したのも勿論私だった。年長になった密とおままごとでお医者さんごっこをしたりしたこともあったっけ……。 どれほど一緒にいても飽きることはなかったし、なによりも密の一挙一動が私のツボだった。 抱き上げると私の脇やら首の部分やらに顔を埋め、鼻をスンスン鳴らしてくるところも、無邪気な笑顔で私を疑うことのなく見つめてくる眼差しも、いちいち可愛くて、さながら北斗神拳で秘孔突きされているようだった。 極めつけは、小学校入学間際に放った、 『ボク、将来はお姉ちゃんと結婚する』だ。 うん、しよう! と私は思った。 しかし、いざ結婚しようと思ったとき私たちの前には途方も無く高い壁があった。 そう。私たちは血のつながった実の姉弟なのだ。 結婚したくても、できないのだ。 なんだよ法律。国家権力のこんちくしょう! 私はこのとき、この世界に蠢く不条理をこれ以上なく実感し、わが身に降りかかった運命の悪戯を嘆かずにはいられなかった。 無論、私とて本当に結婚ができると思っていたわけじゃないが、そう思う気持ちは理屈ではないのだ。 だけれどそのとき同時に弟の将来のことも考えた。もしも私がこのまま接し続ければ、弟はどうなってしまうだろうか、と。今のまま姉にべったりでは密の自立心が育たないだろう。成長していくためには自分と言う存在は邪魔なのかもしれない――それが悩んだ末の結論だった。こうして私は密が小学校になったのを期に距離を取るようになった。私は泣く泣くこの身を引き、密と結婚することを諦めたのだ。 そんなこんなで時は流れ、密も高校生になった。姉にべったりだった昔の面影はなく、密は健全な男子生徒として青春を謳歌しようとしていた。私と密は普通の姉弟よりちょっと仲がいいくらいの関係に落ち着いていた。 で、肝心の私は、というと。 時間が流れれば弟への愛も当然薄れるはず、そう楽観的に考えていたのに、ちっともそうはならず、むしろ私はさらにひどく弟愛をこじらせてしまっていた。最近では、密と同じ部屋で密が吐いた空気を吸ってると思うだけでお股がジュンとくるくらいである。そんなレベルになりながらも、ちゃんと我慢はできていた。しかし決して結ばれないし、結ばれてはいけないという意識もさらに激しさを増し、私の心深くを幾度も幾度も苛んだ。ちゃんと弟離れすべきだと家を出ようかと何度考えたかしらないが、いざ出ようとすると、弟に会えない寂しさに耐え切れない。結局私は弟の傍から離れられずにいる。 とはいっても表向きはどこにでもいる干物の姉を演じていたつもりだ。 時々我慢ができなくなって、弟のパンツをすーはーすーはーしてしまったり、弟がお風呂から出るタイミングを見計らって『あら入ってたの?』ととぼけながらさりげなく弟の全裸を視姦したり、弟のベッドで行き場のない思いを解消したりしたくらいで、とにかく、なんとか、演じることはできていた、と思う。 そう、密の迷惑にはならないよう、私は細心の注意を払ったし、決意もしていた。 そしてこのままずっと死ぬまでこの想いは秘めておくつもりだった。 が。 そこでまさかの魔法能力発現である。 イケナイことだと思いつつも、溢れ出てくる誘惑を私は留めることができなかった。 密と恋人になって結ばれてみたい、という誘惑に。 気がつけば私はそれを叶えるための計画を衝動的に立てていた。 計画はこうだ。 弟の高校に後輩として入学、弟を誘惑、自分に告白させることにした(だって私から告白して万が一断られたら立ち直れないし)。そして高校を卒業すると同時に、自然消滅で別れる。 私の願いは叶えられるし、弟には女性経験を積ませることができるし、弟の将来を邪魔することも無い、まさに完璧な計画のように、私には思えた。 こうして桜並木での印象的な出会いの演出から始まる、備藤ちかことしての私とその先輩である密との学園生活が始まったのだ。 早速密と同じ部活に入り、同じ時間を過ごした。もちろんその間私は何度も密が告白してくるよう仕向けた。同時にそしらぬ顔で密に近づこうとしてくる雌を誅した。 『先輩は特別です、ちかこって呼び捨てでいいですよ』と密に囁いて、周りの男子生徒に対する態度と密への態度とのギャップを作り、特別感を煽ったりもしたのだが。 残念なことに、密は予想以上にへたれなうえ鈍感だった。 ちっとも告白しようとしてこないのだ。 もう、ほんと困った子。そんなとこもすごくかわいい! お姉ちゃんそんな密の情けないところもほんと好き! とはいえこのままではいつまで経っても埒が明かないので、ついにしびれを切らした私は、姉という立場を利用し、魔法が使えるということを密にあえて告白した。密が自分をどう思っているのか知るためだ。 実験と称し何度も『○○をしないと出られない部屋』に密を放り込むことで能力が限定されているという思い込みを作りつつ、『自分の好きな人の名前とその子になにをしたいのか口にしないと出られない部屋』にしても怪しまれることが無いようにした。ちなみにこの部屋は私が魔法で造った異次元空間であり、ドアがついているのは見せかけだ。出るか出られるかは私の思うままなので条件とかは当然でまかせである。 とにかく、こうした全ての苦労を経た末、もしも違う名前が出てきたらどうしようとビクビクしながら、ついに三日前のことである、今までの努力が結実することになった言葉を私は聞くことができたのだ。 『ちかこのカラダを使って思う存分、せから始まるような行為をしたいんだ。それはもうあんなとこからこんなところまで、すみずみまで、ちかこの全身をしゃぶりつくしたい』 私の花芯を熱くさせる、すごいセリフだった。 本来なら、スピーカーでその願いを言うはずだったのだが、恥ずかしくて自分からは言えなかった。だって私も女の子だもん。 とはいえ結果オーライである。 今こそ、弟と結ばれる時! 密の筆おろしする相手が自分であれば、と何度妄想したことか! それが今、まさに、この瞬間、叶えられるのだ! 万感の思いで密の言葉を待っていた私だが、 「先輩……?」 なかなか、 「せ、せ、せ」 から次にいかない。 もどかしい。そこまで出せばあとはエックスを発音するだけではないか。 仕方が無いのでさりげない支援攻撃をすることにする。 「さっきから、せ、ばかりですよ。もう、なんですか、はっきり言ってください」 上目遣いをしなから、密の手をぎゅっと握ると、『は、はうっ』と密ははあはあと淫らな息を吐き出していた。私も声が漏れそうになったがなんとか堪える。や、やめて、そんな声出されると、お姉ちゃん、どうにかなっちゃうよ。 「ちかこ!」 密は私の手を振りほどくと、床に這いつくばるように土下座した。ついに意を決したようだ。さあ、思い切ってエックスと言っちゃいなさい! お願い! お姉ちゃんもう我慢できないから! 今とってももんもんしてるから! こうして密はついに、 「ちかこの、せ、せ、せ、背中を! というか全身を! ぺろぺろさせてください!」 「……」 告白した。が、なんか違う。 思ってたのと違う。 確かにせはつくけど、なんで中になっちゃうんだろう。なんでぺろぺろなんだろう。密は犬になりたいのかしら。だめ! 犬じゃだめなのよ密! もっと獣になって! 狼になって! 私を襲って! お互い激しく腰を打ちつけあう獣になろうよ! 「ご、ごめん、引く、よね。こんな、お願い」 「あ、いや、その……」 一瞬、今自分がどういう反応を返すべきなのかわからなくなった。だが、とりあえず、今の私は備藤ちかこなのだと思い直す。全校男子生徒の憧れの的、天使とまで謳われる美少女であり、こんなときでも相手を思いやる女の子。こういうときにがっついたりしないし、むしろえっちなことなんて一切考えたこともありません! みたいな反応を返すのが正解のはず。 「そ、そんなこと、無いとはいえませんけど、正直、ちょっと引きましたけど。でも、先輩の頼みですし、この部屋から出るためですから、我慢は、できなくも、ありません。でも、なんで、ぺろぺろしたいんですか? それに背中をぺろぺろって、どういうことですかそれ、くすくす、先輩、なんか犬みたいなことをいいますね、もうカワイイ。カワイイわんちゃんなら、私もっとほかのことを先輩としたくなっちゃうかも」 よし! これで間違いない。ちゃんと天然を演出しつつ、次の展開へ持っていきやすいように誘導できている。きっと、密は恥ずかしかったんだろうな。だって密ってばへたれだから。大丈夫、何度だって、お姉ちゃんが導いてあげる! ちゃんとお姉ちゃんで筆下ろしさせてあげるから! 「いや、他のことは、いいんだ!」 あれ? 「僕はただ、ちかこの背中から始まって、脇の下に、それから耳の穴を経由して、首筋をなぞり、鎖骨のラインを舐めまくってちかこの体からあふれる匂いを感じて夢見心地になりたいだけなんだ! あとへその中をしゃぶりつくし、太ももをなめたあと、膝の裏、ふくらはぎも味わい尽くしてみせる! そしてちかこの足を! そのローファーの中で熟成された紺色のニーハイを、充満したちかこの足の匂いを! 思う存分嗅いでいたいだけなんだ! そして最後は、そう最後は! おっと、これはさすがにまだ言えないな。とにかくもう、それ以外のことなんでどうでもいいんだ! とにかく、背中から順番にちかこの全身をしゃぶりつくすっていうのがちかこに出会ってから今までずっと抱いていた願望なんだ! もう、これ以外、なにも考えられないくらい、僕はそれをしたいんだ!」 あれれ? どうしよう弟が変態だ。 なんか思ってたのと違う。 え、『ちかこのカラダを使って思う存分、せから始まるような行為をしたいんだ。それはもうあんなとこからこんなところまで、すみずみまで、ちかこの全身をしゃぶりつくしたい』っていうのは、こういうことだったの? 普通じゃないよ、そんなお願い。 本物の変態のにおいがするよ! お姉ちゃんまさかの展開に大パニックだよー! お姉ちゃんこれでもシミュレーションや知識はばっちりだけど実体験はないの! 初めてなの! 性にうといの! それなのにいきなりの弟の性癖の告白は、お姉ちゃんにはまだハードルが高いよ! 受け止めきれないよ! お姉ちゃんは普通にエックスがしたいよ! 「ごめん、こんなことを頼んで。引くよね。でも、これが僕の紛れもない本心なんだ。でも、僕、精一杯舐めるから。だからお願い! ちかこの体を、全身全霊で舐めさせてほしい! なめなめさせてほしいんだ!」 密、大丈夫? お姉ちゃんが言うのもなんだけど、言ってること本当に変態だよ! でも。 私、ああ、なんてこと、なんてだめな弟なんだって思うと、私なんか……。ああ、密、見ないで、そんな子犬のような目で、はあはあ、私を見ないで! 「密……、そんな目、ずるい」 「あれ、ちかこ、今僕を呼び捨てにしなかった?」 「あ。ごめんなさい、いきなりのお願いで、私混乱しちゃって、変なこと口走っちゃいました」 「いや、無理もない。こんなお願い、するほうがおかしいもの。でも、それだけ、僕はちかこの全身を舐めまわしたいってことなんだ。ほんと、ごめん」 いや謝るくらいなら『舐めまわす』とかも言わないほうがいいと、お姉ちゃんは思うな。 私以外だったら絶対ドン引きだよ? しかし、いけないいけない、あまりにも興奮しすぎて思わずボロが……。どこからバレるかわからないのだ。気をつけなければ。 私は溜息を吐き、 「もう、先輩は変態ですね。いずれにしてもこの部屋から出るためですから、私に拒否権はありません。先輩の、好きに、してください」 少し恥ずかしくなってプイと私は密から目を背ける。正直戸惑いは大きいけど、ここまで密に求められるのは、なんであれ悪くない気持ちだった。 「ありがとう! じゃ、早速」 すると、密はそれが当たり前であるかのような自然な動作で私の体を正面から抱きしめてきた。 密は私の身長より頭一つ分高いが、胸板は貧弱そのものだった。それでもできる限りの優しさを感じさせる手つきで、私の頭を抱き寄せてくれている。 耳朶を打つのは密の心臓の鼓動。激しく鳴っていた。その鼓動に私もなんだか緊張してくる。息苦しくなって呼吸すると密の匂いが鼻腔いっぱいに広がった。クラリと目蓋の裏に光のようなものがちかちかと瞬く。 「こんな無茶なお願い、聞いてくれてありがとう。でも、今からすることはさ、別に誰でもいいってわけじゃないんだ。僕がこんなお願いをするのは、ちかこが、その……」 ドクンドクンとさらに密の心臓が速くなっている。私もなんだかそれに釣られるように、心臓が騒がしくなっていく。ドンドン速くなる鼓動に、ドンドン吸い込まれていく意識に、どれほどの時間が経過したかのかわからなくなってきた頃、 「ちかこが、す、好きだから、なんだ。だから、ちかこにしか、こんなお願い、できないよ。ちかこじゃないと、だめなんだ。それはどうか、知っておいてほしい、かな、って。ご、ごめん、迷惑かなこんな時に。だけど、ちかこが本当に嫌なことはしないし、僕はしたくない。ちかこ、本当に、いいの?」 「せん、ぱい……」 ずるい。今そんなこと言うなんて。電流のような衝撃がドクンドクンと血液の鼓動と一緒に駆け巡って、熱い感情の塊に頭から足の爪先まで痺れてしまう。ぼうっとしてしまう。 「わ、私も、実は、ずっと。ずっと、好きだったんです。だから、先輩の、好きにして下さい」 言葉と一緒に涙がぽろりと、こぼれた。 とめどなく、流れていく。 止めようとすると、ひっくと口からしゃっくりが出てしまう。 今私は、幸せだった。 そう、私はずっと好きだった。 密がこの世界に生まれてきた時から、今までずっと。ずっと好きだった。 ずっと言えなかったことが、今、やっと伝えられた。 「先輩、好きです」 私がそう零した唇に、密の唇が軽く押し当てられた。 すぐに唇から感触は消えたが、慌てて密の腕の中からその顔を見上げると、密の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。 「ありがとう。僕、幸せだよ」 くしゃっと満面の笑みで言ってくる。 その顔は本当に、幸せそうで。 ああ、もう。なんて、幸せなんだ。口元がどうしようもなく緩むのがわかる。 ふにゃあと全身から力が抜けていくような幸せだった。 「好き、です」 こんなたった一言が、今までずっと、ずっと言えなかった。 私の世界は、ずっと密で回っていたのに。 密がいなきゃ、私はもう私じゃいられないのに。私は密がいなきゃ生きていられないのに。 なのに、絶望的なまでに、私とあなたは結ばれない。結ばれてはいけない。 だって、私とあなたは姉弟。たったそれだけで色んなものが私たちを引き裂こうとやってくる。ぐちゃぐちゃにしていく。 だから、ごめんね。こんなことして。ひどい姉だよね。 備藤ちかこが、あなたの姉だと知ったら、密は絶対傷つくもんね。 しかも密が卒業するまで、なんていう条件を勝手につけて、言い訳してこんなことしてる。こんな私のわがままで、これから密をどうしようもなく傷つけることになるかもしれない。だけど今だけは。 今だけは、密の後輩として、密の女として、密の腕の中に抱かれていたい。 できればこのままずっと。 この密室の中で、ずっと私たち二人だけの時間を過ごしていたいよ。 「ちかこ、服を、脱がすよ」 頬を伝う涙を指の腹で拭い、私の耳元で密はささやいた。 当たる吐息に、ふ、はっ、と我慢しようとしても声が口から勝手に出てしまう。 それから密はぎこちない動作で私のブレザーをまず脱がし、襟元に手を伸ばした。 シュルリと布の擦れる音がする。ネクタイが外され、今度はブラウスのボタンに手をかけた。ひとつひとつ、ゆっくり、外されていく。 私はあまりの恥ずかしさに、手の甲を額に当てて、半目でチラリと密を見つめた。 じっと目を大きく見開いて私の衣服を脱がそうとしている密の顔はあまりにも真剣そのもので、かわいいな、と思いながらやっぱり私はそれを直視できず、目蓋をぎゅっと閉じてしまう。 三番目のボタンが外されると、閉じ込められていた胸の部分がぶるんとあらわになったのがわかった。 「せ、先輩、あの、はず、かしいです」 「うん、そうだよね。でも、もう少しだから」 私は両手で視界を覆う。 緊張で汗が全身から噴き出ていくのがわかる。脇汗とかほんとやばいと思う。やだ、私、今から密に舐めまわされるのに、汗まみれだよ。いやだよ、こんなの。臭いとかひかれないかな、大丈夫かな。でも今更やめられないよ。 期待と不安が入り交じり、緊張に体を硬くしてしまう。 そんな葛藤も、進んでいく事態の前では翻弄されるための材料にしかならないらしい。 最後のボタンが外され、ビクッと肩が震えた。荒くなる息をすーはーと整えながら、私は脱ぎやすいように両手を後ろに伸ばした。腕からそでが引き抜かれていく。ついに上半身は水玉模様のブラジャー一着だけになってしまった。 ブラジャーで胸の大部分が隠れているとはいえ、なんだか密に見られていると思うだけでどうしようもなく興奮するし、落ち着かない。少しでも気持ちが落ち着くように胸の部分を腕で隠すように抱きしめる。たぷんとした感触が腕の辺りに当たる。 ごくりと密が喉を鳴らしていた。 胸のサイズは室渕蜜としての私の身体と変わらない93だが、今の備藤ちかこは後輩感を演出するためあえて身長を低く設定している。だからか、いつもより重量があるように感じられた。 「ちかこ、……僕に背中を見せてほしい」 「……は、はい。で、でも、あの、その、スカートとかも、脱がなくてもいいんですか?」 てっきり全裸にさせられるのかと思っていた。 訊いた瞬間、まるで私が自分から脱ぎたいみたいじゃないかと、後悔した。 備藤ちかこはこんなこと言わない。こういうときは何も言わず、されるがままになっていたほうが後輩としての武器も活きるかもしれないのに。これじゃ、密にふしだらな女の子だって思われちゃうかもしれない。 「ううん。いいんだ。スカートは脱がなくてもいい。靴やソックスも、まだ。あと脱いでほしいのは、一着だけ、たった一着だけなんだよ。さあ、背中を向けて」 言われるがままくるりと背を向けた。見えたのはドアもなにもない壁。 白いのっぺりとした壁をじっと見つめながら、私はスカートを脱がされなくて良かったかもしれないと考えていた。 私の下着はすでにぐっしょり濡れていた。まだなんとか滴り落ちるほどの水分を含んではいないが、もう少ししたら太ももへと伝ってしまうくらいになるかもしれない。 つまり時間の問題ではあるのだが、今の時点ですでにぐっしょりだと密にばれるよりはましな気がした。 「外すよ」 あ。 ホックが外された。布一枚分の重量を腕で受け止める。あとは組んだ腕を解けば、私の上半身を覆うものはなにもない。 「さあ、腕を上げて。ブラジャーを脱ごうか」 「でも、先輩。その、恥ずかしいんです。ごめんなさい、やっぱり、ブラジャーは」 ぎゅうっと勝手に目蓋が視界を塞ごうとしてくる。考えよりも先に口から恥じらいの言葉が出てしまう。計算などできない。ただ、ただ恥ずかしいのだ。 「だめだよ。でも、大丈夫。胸を覆うことは、ブラジャーじゃなくても、できるよね?」 「え……、どういうことですか?」 「ほら、ちかこが今していること。それでいいんだよ」 え、どういうことだろう。 私はそろりと目蓋を上げ、胸の部分に視線を下ろすと、たわわに膨らんだ肌の突起部分を包むように、自らの両手が覆っていた。それは全くの無意識で、意図しないものであったが。 えっと、つまり、これは。 手でブラジャーの代わりをしろってこと? 「ちかこはこれから、ずっと手で胸の大事な部分を、自分で覆うんだよ。絶対、動かしちゃいけない。動かしたら、僕に見えちゃうからね、いい? 絶対、手で胸を隠すんだよ」 ああ、密。密あなた頭大丈夫? やっぱり密はすっごい変態さんだよ。 すっごいよ。 なんでこんなこと考えられるの。 お姉ちゃんすっごい興奮しちゃうよ! 「ひゃい」と自分の口から返事になりきれない声がこぼれた。 「さあ、両手を上げて」 密に言われるがまま、私は両手を天井へ突き出した。ぶるんと乳房が揺れて、私のローファーにブラジャーがファサリと落ちるのを感じた。 私はむっちりとした胸を再び手で覆う。それを見計らって、密は言った。 「さ、始めようか。いい。これから、僕はちかこの全身を、思う存分舐めまわし、撫で回し、しゃぶりつくすから。嫌って言っても、舐めまわすから」 ああ、密。そんなことを耳元でささやかないで。おかしいよ、絶対。こんなこと真剣な声で言うの、おかしいよ。 「も、もう、いちいちそんなこと言わないでください。さ、さっさと、してください。こ、こんなこと早く終わらせて、さっさと部屋から脱出したいですから。さあ、早く、してくださひゃああん!」 背中にふうと密の吐息が当たった。それだけで、私の身体は反応してしまった。ふう、ふう、と肩甲骨の部分や首の部分に、どうやらわざとらしい、当てている。吐息が当たるたびに、くすぐったさと、それとは違うなにかが私の神経を伝って迸る。 吐息に気を取られていると、今度は私の腹に密の片手が回った。 ぐるぐると、へその部分を中心にして円を描くようにゆっくりと撫で回してくる。 その動きにくすぐったさは微塵もない。お腹をマッサージしようとしているらしい。まるで密の手から伝わる熱が私の子宮と繋がって伝導していくみたい。 すっごく気持ちいい。 さっきまでの吐息の、びっくりした感じのあとだからだろうか、この確かな感触に安心感を覚えて、口からふうと溜息をこぼしてしまう。その瞬間、 「ひゃあん」 ざらついた舌が背骨をなぞるように上から腰のあたりまで這った。 粘液を帯びた、密の舌の感触と、へそを撫でる指先が連動して、私の意識は一気に真っ白になる。 「ふ、はあ、あああ、ふうん」 だが、舌は止まることなく、今度は私の片側の肩甲骨を舐め、ときには肌を口に含んでちゅっと音を鳴らしてくる。もう一方の肩甲骨も舐めまわしたあと、 「脇を舐めるから、右腕、上げて」 「――……!」 崖から飛び降りるような気持ちで、左腕で胸の部分を覆いながら私が片腕を上げると、もわりとした熱気が脇から逃げていくのがわかる。すごく汗ばんでいるのもわかる。 もうさっさと終わらせてほしいのに、すうと密は鼻を鳴らすばかりで、舐めようとしてこない。すんすんと、何度も何度も私の脇のにおいを嗅いでくる。 「せ、先輩、や、やめてください、それ。ほ、本当にはずかしい、ですから!」 「ちゃんと毛を剃っているね。別に剃ってなくてもいいけど。ああ、それにしても、やっぱいいね。ちかこのにおいだ……。僕、このにおいが好きなんだ。ちかこに出会ったときから、このにおいにどうしようもなく惹かれた。ああ、ちかこ、本当に、いいにおいだ」 顔が耳の先まで沸騰したように熱くなって、いやいやと私は首を振る。 ようやくじゅるりと音を立てながら、密は私の脇に顔を埋め一心不乱に舐めまわしはじめた。縦横無尽に動く舌が肌に触れるたび、私は鮮烈に走る快感に身体を震わせた。 手の甲を口にあて、漏れていく声を少しでも抑えようとしていると、満足したのか密は脇から口を離した。 そして、私の耳に口を運び、囁いた。 「ちかこ、好きだ」 「あ、は、や、ちょっ、せんぱ、それ、反則、って、ひゃあああああ」 柔らかい密の舌が、私の耳の穴を貪りはじめた。 時に激しく、時にゆっくりと、テンポよくなんども舌を出し入れし、合間に『ちかこ、好きだ』を繰り返してくる。しかも、腹を撫で回す行為は継続しており、子宮と耳の神経が繋がっていくようだ。 って、ああ、なんか、あれ、やばい。なんか、やばいの、きてるのがわかる。ああ! 「ふっ、はああああ! ふわあああああ!」 ぷしゅっと、何かが下半身から噴出し、腰が砕けた。 下半身の力が抜けた私の身体を、密が黙って抱きとめてくれる。 そのまま床へと私の腰を下ろしつつ、なおも耳を舐めることはやめない。 え、なに、もう。なんなの、密。あんた、初めてじゃないの? これ、初めての人がやるようなことじゃないんじゃないかな! 私初めてだからよくわかんないんだけど、もうお姉ちゃんなんだかこれを知っちゃったら普通のえっちじゃ満足できないくらいのことされているような気がするんだけど! 私は床にできた染みの点々を切れ切れの息を吐き出しながら見ていると、今度はちゅっと顎にキスをしながら密は顔を下ろし、首筋をぬろーっと舐めた。片方の鎖骨を指でつつと撫で、もう片方の鎖骨に舌を当て、なぞることを繰り返す。不意に私のへそを撫でていた手が離れ、私の口からああ、という声が漏れてしまう。 ずっと私の腹を撫でていた感触が止まって、初めてそれがどれほど私を気持ちよくさせてくれていたのか、分かったからだ。 物足りない、と感じたそのとき、密の温かい舌が私のへそに入り込んだ。 「ちょっ、先輩、そんなに、必死になって、ひゅうっ! ふうううん! な、舐めすぎですよ! ああ、もうだめ、許してええ」 ちゅっ、ちゅぱっ、ちゅぱちゅぱっ、と唾液を塗りつける舌の感触に、私はとことん翻弄されてしまう。 鮮烈な快感に、私は胸を覆っていた手を密の後頭部に回してしまう。 すると、何度も何度も丹念に私のへそをしゃぶりつくす密の頭頂部に私の乳房がたっぷんたっぷんと当たった。乳房で攻撃をしているみたいになってしまっていた。 ようやくへそなめ攻撃をやめ、密は顔をあげた。 慌てて私は自分の乳房を腕で覆った。今更だが、なんとなくそうしないといけないような気がしたのだ。 「ああ、とっても、とってもおいしい。やっぱりちかこの肌の味は、特別だ。すっごくすっごくおいしいよ!」 「そ、そんなこと満面の笑みを浮かべて言わないで下さい!」 「さ、あともう少しだよ。ちかこ、ごめんね。だけどもう少しで終わるから」 「あ、ちょっ、先輩」 私は慌ててプリーツスカートのひだを抑えた。 「どうしたの?」 私は力の抜けた全身を振り絞って正座した。 「あの、ちょっと、今は」 「うん。いいよ、待つ。ちかこがだめって言うなら、僕我慢するよ」 密、なんか待てって飼い主にいわれてエサを物欲しげに見つめる犬みたい。 そんな犬みたいな密に胸がキュンとなりながら、私は濡れそぼった下着をどうしようかと今更ながら考えた。いやどう考えてもこれはすでにアウトで、床に明らかにやばいくらいの染みと液体を滴らせているのだし、ばればれではあるが、それでも太ももから伝う自分の愛液を見られるのはなんか恥ずかしい。というか十六歳下の弟に翻弄されっぱなしのこの状況。予定が違う。本当は私が密を先導するつもりだったのに。なんだこれは。なんでこうなった。 私はただエックスがしたかっただけなのに! エックスも、なにもしてないのに! さっきから私やられっぱなしで、反撃ができないではないか! こ、ここは、魔法で反撃すべきだろうか。もうエックスしちゃおうかしら! などと思っていると、 「ごめん、やっぱ、だめかな。もう、やめようか? ああ、なんで僕は。ごめん、ちかこ、こんなことして、トラウマになっちゃったかな」 私が傷ついたと勘違いしたのか、密はおろおろとうろたえはじめた。 そんな情けない密の姿に私はなんとなくほっとして、「クスッ」と表情を緩めてしまう。さっきまで私を翻弄し続けていた男の子の面影はどこにもなかった。そんなギャップに胸の奥からとめどない愛おしさが溢れてくる。 「い、いいえ。大丈夫です。す、少しだけ、いやかなりですけど、恥ずかしくなっただけで、あの、先輩、引かないでほしいんですけど……」 「うん、なに?」 なんと言い出せばいいのか、わからなくて、プリーツスカートのすそをぎゅっと握り締めて恥ずかしさを堪えていると、手の甲に密は自分の手を重ねてきた。その手の温もりに勇気を貰う。 「あの、今、私、すっごい、パンツの布の部分が濡れてて。だから、あの、それを先輩が見たら、どう思うか、わかんなくて、引かないでほしくて。その、ごめんなさい。私、こんなになってるの、先輩に見られたくなくて……、だけど、あの、部屋から出るためですから、だから」 「うん……。でも、大丈夫だよ。ちかこの気持ち、わかるよ。ごめんね。でも、僕はそんな ちかこが、カワイイって思うよ」 私の手の甲を翻し、密は指の間に自分の指を滑り込ませた。 ぎゅっと、どちらからともなく互いの指を絡めさせる。 そんな何気ないスキンシップに、私はこれからすることの覚悟を決めることができた。 覚悟が決まった途端、自分の上半身に塗り込まれた密の唾液の香りが鼻にまとわりついてきて、私の不安だった気持ちは変な気分へと変貌してしまい、切なさに股の奥が疼いて、たまらなくなってしまう。 「さ、足を伸ばして」 「は、はい」 密の手をぎゅっと握り締めながら、私は足を崩し、腰を床に下ろして両足を伸ばした。 すると、密は繋がった私の手の甲にちゅっと接吻をしたあと、振りほどき、その手をそのままプリーツスカートの下に隠れたふとももを撫でるのに使った。 もう片方は私の背中に回っていて、ぽんぽんと安心させるようなリズムで叩いてくる。 しばらくそうしたあと、やおら、密は私のスカートを捲り始めた。 もう少しで下着が見えそうで、私の姿勢からは見えないくらいのところで捲るのをやめ、太ももへと密は顔を近づけていく。 「や、やっぱ、恥ずかしいです。先輩!」 「大丈夫、大丈夫」 つつ、と私のパンツの向こうからあふれ出ていた粘液を密が舐めとっていくのがわかる。そのまま舌で密の唾液を塗りつけられて上書きされていくのが、わかる。まるで密の物だとマーキングされているような変な心地になった。 密は指でなおもふとももを撫で回しながら、舌で愛撫を繰り返す。 私の口から、嬌声があがり、たちまち先ほどまで感じていた鮮烈な衝撃と同じものが全身を突き抜ける。 不意に私の右腿の裏側に密は手を滑りこませ、私に片膝を立てさせた。 「や、やだ、これ、先輩に、パンツ、見られちゃってます、よね? も、もう、や、やだ」 「大丈夫、見てないよ。見てるのは、これから舐める膝裏だから」 「本当ですか? って、どっちにしても恥ずかしいですけど!」 「ははは、じゃあ、そろそろ、いくよ」 水音が膝裏から聞こえる。私の背中側から身体を伸ばした姿勢で密の舌が私の膝裏を這い回って、その刺激が私の全身をのたくらせる。 行為は膝へと移行、それからニーハイ越しに、唇を押し当て始めた。ニーハイ越しに伝わるものなんて、わずかなものなのだが、今までの鮮明な感触に震えていた身体にはちょうど良いくらいの心地よさがあった。 ちゅっちゅっと、密はどんどん足の爪先へと身体を移動させ、片膝を立てた私の正面に座った。改めて私と向き合った密は真っ直ぐに私の目を見て、 「さて、そろそろ、僕にとって最後に要求したい行為の次に期待していた大本命がやってきました! やっとだ! やっとここに辿り着いた! はあはあ、もう、待ちきれないよ。僕はおいしいものを、最後にとっておくタイプなんだ!」 きらきらっと瞳を輝かせる。ほんと子供みたい。やってることは明らかに大人な行為なのに、男の子ってこういうものなのかな。 もう、とくたくたになっている私はそれに反応する気力すら失せそうになっていた。 同時に、次はどんなことをされるのかという悦びに身体の奥が疼き、期待してしまっている。ああ、これはあれだ。もう、私、この密の舌先や指が身体を伝う感触から逃れられなくなってるんだ。まさにこの密室みたいに、私の心を、密という男の子の傍から離れられないようにされちゃっているんだ。 「も、もう。なんで足なんて。くさい、だけですよ、そんなところ」 「そんなことないよ。ちかこのにおいがくさいわけないじゃないか。ちかこのにおいなんだぞ。ちかこは自分を過小評価しすぎだ。ちかこはもっと自信を持つべきなんだよ」 「いやですよ、そんな自信。でも、なんでそんなに、私のにおいがイイんですか?」 「うん。それはね……。あ、ちょっと、待って」 私の足首を掴み、ふくらはぎが床から離れるくらいになると、密はかかとからローファーが脱がしにかかり、その際、もわりと溢れる靴底にたまっていたにおいを嗅ぐためだろう、かかととローファーの隙間に鼻をくっつけて、しゅごーしゅごー! と思いっきり吸い込み始めた。そして恍惚とした顔になっていた。 だめだ、この子。 もう何度思ったか知らないけど、もうこれはだめだ。 こんな姿を普通の女の子に見せたら、振られるに決まっている。 ってか、さすがの私もドン引きである。 だが、私の場合、そんな弟のダメな一面を見せ付けられるとお股が反応してしまう癖がついてしまったらしい。 すごく興奮した。 「は、はあ、先輩。も、もう、だめ、だめですよ。そんな、あは、吐息がかかとにかかって、くすぐったいです! あ、ああ! もう、やめ、あはは、やめてください」 やがて満足したのか、吸い込むのをやめ、靴を完全に脱がすと、一瞬だけローファーの内底をぺろりと舐め、床に置いた。 「ふう、ごちそうさまでした!」 ひどい。 なんてひどいんだ。 そこで満足な顔しちゃ、お姉ちゃんだめだと思うの。 もうちょっと自分がどんなに変態な行為をしているのか、自覚したほうが良いと思うの! 「で、なんでちかこのにおいが良いか、だったね。そうだな、でもこれは、やっぱりちかこは怒るかもしれないから。どうしよう」 「あの、こんなことしておいて、怒るもなにも、今更だと思うのですが……。というか、こんなことされているのですから、私にも知る権利はあるんじゃないでしょうか?」 「そうか、そうだよね……」 アンニョイな顔を浮かべながら密は私の靴下の足裏をくんくんと嗅いでいる。 やめて! そんな神妙な顔で、私の足のにおいを嗅がないで! スリスリと頬をこすりつけるのもやめて! なめるのもだめだから! って最後にまさかのフガフガ、ガブガブだとう! 「は、はあ、ふうん、くううん、ちょ、先輩、もう、真面目に聞いてるのに」 「僕も至って真面目だ! 真剣だ! このにおいをかぐためなら、喜んでこの命を差し出せるくらいにね!」 「そんなの嫌ですよ……もう」 溜息を吐く私を尻目に、密はもう片方の靴を脱がしにかかっていた。 「先輩……、本当に、わたしの足のにおいがすきなんですね……」 「そりゃあもうね」 先ほどと同じ行為、ローファーが脱げる瞬間のにおい堪能したあと、靴の内底をなめ、靴下をくんくん、すりすり、ぺろぺろ、鼻をくっつけてもう一度思いっきり吸い込み、最後は靴下のあちこちを軽く甘噛みするというサイクルを繰り返したあと、先輩はぽつりと言った。 「ねえ、ちかこ。初めて会ったときのことを覚えてる?」 「はい。よく覚えています。あの桜の木の下のベンチで、気持ち良さそうに眠っている先輩の顔は一生忘れないと思います」 そう、印象的な出会いを演出しようという狙いはあったが、ああいう出会い方をするというのは全くの偶然で、だからこそ、意図しない胸のときめきを私は感じていたのだ。 「僕はね、あのときちかこの顔も、その時に見えた膝も、ふとももも、なにもかも綺麗だとは思ったけど、もっと印象的だったのがちかこのにおいだったんだ」 「におい、ですか?」 「そう、におい」 密がどこか遠いところを見るように目を細めた。……私の靴下を脱がしにかかりながら。 色々と台無しなような気もするが、まだ話をしてくれるだけましというものか。 うん、やめようか。 ぴったり張り付いた靴下の隙間を広げて足のにおいをかごうとすのはやめようか。 だめだよ、そんなことしたら、お姉ちゃん、ほんとだめだと思うの。 っく、でも、悔やしい。 私とっても興奮しちゃってる! 密がわたしのにおいをこれでもかっていうくらいかいでくる人間としてダメな姿に、私さっきから何度も頂点に達しちゃってる! 「僕はね、初めて出会ったとき眠っていたから、当然目を閉じていたんだ。本当に眠かったから笑い声ぐらいじゃ、目を開けたりしなかったと思う。でもね、あのとき、『におい』がしたんだ。懐かしくて、心の奥底から求めたくなるような、においが」 「先輩……」 「なんでそんなに、求めていたのか、というとね」 紺色のソックスが完全に脱がされ、素足が密の眼前にさらされた。 私がそれに気を取られていると、 「お姉ちゃんの、においだったんだ」 一瞬、何を言われたのか、耳を疑った。え、今、なんて言ったの、密? 「み、密、それって、どういうこと?」 あ、と思ったが、素の返事をしてしまう。 まさか、ばれているのか、とドクンと高鳴った。 「あ、いや、ちかこは知らなかったっけ。僕にはね、十六歳上の姉貴がいるんだ。僕にとっては実の母親よりお母さんみたいな存在で、昔はそれこそいつも姉貴の、『お姉ちゃん』の後をついてまわるくらいの、お姉ちゃん子だった。僕はさ、お姉ちゃんが大好きで、お姉ちゃんも僕のことを好きだと思っていた。だから『お姉ちゃんと結婚する』なんて馬鹿なことも言っちゃったりしてたんだ」 呼吸が止まる。 密の一言、一言が、耳じゃない、心臓に突き刺さるかのようだった。 「でも僕が小学校に入るくらいのとき、突然お姉ちゃんは僕を避けるようになった。もちろん、お姉ちゃんは露骨に避けるようなことはしなかったけど、だっこしてほしくてお願いしても時々しかしてくれなくなったり、ほっぺにキスしようとするとダメだって言われたり……。何気ないことだけど、距離を感じるようになって、しかもそれはだんだん大きくなっていくような感じだった。今じゃ僕にとってはお姉ちゃんは『姉貴』で、家では干物になってる、だらしのない姉貴、そしてそれを呆れながら見る弟、みたいな」 だけどさ、と密は続けた。 「ちかこに会ったとき、ちかこのにおいをかいだとき、そのときに感じていた『お姉ちゃん』に対する『好き』っていう気持ちが蘇ってくるような感じだった。ああ、僕、確かにあのとき、おねえちゃんが大好きだったな、って」 ああ、密。 密。 全てを聞いてあふれ出すのは、備藤ちかことしてじゃない、室渕蜜としての、異性としての好きとかそういうものじゃない、世界でたった一人の弟に対する、純粋な愛情だった。 そうなのだ。 私は密が好きだ。 だけど、それは恋人に対するものだけじゃないのだ。姉としての愛情も、ちゃんと持っていたのだ。 だからこそ私は密の姉でいたかった。 ずっとずっと変わらない、家族としての姉でありたかった。 だけど、いつしか胸を巣食うようになった愛情が、私を苦しめた。 何度も何度も罪の意識となって、私の心を苛んだ。 いつしか、私の中の愛情はひどく歪んで、取り返しのつかない形に変わってしまった。 だから甘える弟を突き放した。 それは弟のためを思ってのことでもあったが、自分を守るための行動でもあった。 でも、でも! 私だって、本当は、密の姉でいたかったのだ! できるならずっとずっと、弟に頬ずりし、弟といちゃいちゃしていたかったのだ! 私の涙腺が熱を帯び、次から次へと大粒の涙がこみ上げてきた。 「あ、ちかこ。ごめん、違うんだ、これは別に姉のにおいが好きっていうわけじゃなくて、ただ似てるなって思っただけで、今はちゃんとちかこじゃないとダメで、姉貴とかどうでもよくて、ってああ、ごめん泣かないで!」 ぽたりぽたりと勝手にあふれ出してくる涙を止めるすべはなく、私は子供のように泣いた。 「う、うう、ぐす、うええええん! えぐ、ふぐう、うえええええん!」 「ああ、ちかこ、ごめん! ごめんって」 「密、みつうう」 「え、ちょっ、ちかこ!」 「みつ、違うの。お姉ちゃんはね、ずっと密のことが大好きだったんだよ! でも色々あって、密のことを思って、だから、密ごめんねええ、うえええええん!」 「って、なんであれ、ちかこ。……もしかして、さっきの話を聞いて、僕のお姉ちゃんの代わりに慰めようとしてくれているのか?」 「うん、そう。そう!」 「ちかこ……。本当に、優しいな。ありがとう」 全く備藤ちかこが密の姉の蜜であることには気付かないようだ。都合が良かったので、頷いておいた。 しばらく密の胸に顔を埋めて私はわんわんと泣く。 密はそんな私をあやすようにぽんぽんと頭を叩いてくれた。 どれほど、そうしていただろうか。 ようやく落ち着いてきた。そんな私を見てか密は肩を掴んだ。 「じゃあ、そろそろ、いいかな」 「はへ?」 「理由は話した! あとは、ただちかこの足の裏を嗅ぎ、フィニッシュへと向かうだけ!」 「そういえば、そのフィニッシュっていったいってひゃああああああああああん!」 きらりとその瞳を光らせ、密は私の素足に飛び掛った。 先ほどの会話によってすっかり姉としての意識が高くなっていたので、だめ、そんなことだめなのよ、と少し抵抗するように足を動かすが、密は足首をがっちりキャッチ! そのまま限界まで大腿を広げられる。 私は姉としての意識から、思わず素で言ってしまう。 「だめ! だめええ! 密、や、やめて!」 「ははは、もうちかこ。まだお姉ちゃん役のままなのかい? しょうがないな。じゃあ、そのままお姉ちゃんの役でいいよ。お姉ちゃん、僕、舐めるよ! お姉ちゃんの足をぺろぺろするよ!」 「ちょっ、違うの、密、い、いやああああああああ!」 姉としての尊厳にかけて、今は、そんな気になれなかった。 だって、私、お姉ちゃんだから。 お姉ちゃんは弟とこんなことしちゃいけないんだ。 お姉ちゃんが間違っていたんだ。 今からでもいいから、やめなきゃ。 そう、本気で思っていた。 だが、足の親指や、指の間を舐めまわされるたびに、どんどんその意識が薄れていくのがわかる。だめ! 流されちゃだめ! 堪えるのよ! だめ、今は、今だけは……! 今、だけは、 「ってこんなの、堪えられるかあああああああ!」 わかっていた。 抵抗が無駄だというのは。 大体、自分が姉であって、弟とこんなことしちゃいけないなんてことは、誰に言われ無くても、ずっと、ずっと考えていたことなのだ。 散々考えて、悩んで、悩みまくって、悩みきって、こうして備藤ちかことなってしまったのだ。今更少し頑張ったくらいで弟に対して抱く異常な愛欲を止められるくらいなら、とっくのとんまにやめられてる! ああ、でも、弟からのあのセリフは効いた。 そう、だから、わずかでも抵抗はできたのだ。 しかし、柔らかい密の舌の、密がこぼす吐息の、密の唾液のにおいに塗れた身体で、密との情事においに立ち込める四畳半の部屋の中にいて、どうして堪えられるだろうか。 だって、私、密と同じ部屋で呼吸しているだけでお股がジュンとしてしまうんだぞ! 無理だ! もう、ほんと、無理! 私はそれから足がふやけるまで舐めまわされ、しゃぶられ続けた。 しかも、姉としての意識が強まったことにより、罪悪感というスパイスがこれでもかというくらいに高まり、それが余計に私を興奮させてくれた。結果、全身が性感帯のようになって私は密の激しい舌使いに幾度も翻弄され、失神しそうな衝撃を幾度も経験しながら、何度か実際に気を失うほどだった。 ようやく、 「ふー、満足、満足。さ、最後だよ」 密が私の足を離してくれた頃には、もう私の意識は半ば無くなっていた。 「み、みふ、も、もう、ひゃ、ひゃんべんしへ」 回らない舌を必死に動かして勘弁してくれと訴えるが、密は気にせず、 「ああ、でも。これはさすがに、告白するのは勇気がいるな。こんなこと言ったら、確実に引かれるもんな。でも、部屋を出るためだもんね。仕方ない、仕方ない」 ニコリと無邪気な笑顔で、 「ちかこのアスタリスクをなめさせてくれ」 とんでもないことを言い放った。 「ア、 アフハリフフ?」 「そう、アスタリスク」 なんだろう、星の名前? 突拍子も無い単語に、私は回らない頭で必死に考えていると、のそり、密が私のスカートに手を伸ばした。 え? なんで、密。なにをするの? まさか、え、そんな、嘘でしょ? そこはさすがにお姉ちゃんでも引くから! 絶対嫌だから! だめ、そうだ! はやく魔法を解かなきゃ! あ、でも、集中しようにも、今は頭が回らない! だめ! あ、ちょ、密! だめ! パンツ脱がしちゃだめ! え、嘘でしょ! 本気じゃないでしょ? そんなとこ、え、 「だ、ダメ、そこは絶対ダ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 私はその衝撃に、ただきつく両足を密の両側頭部に絡ませることしかできなかった。 $ & $ 「ただいまー」 ほくほく顔で家に僕は帰宅した。 いやあ、最高だった! もう、文句なし。ちゃんと最後はアスタリスクまで味わいつくせたし。 「お、おかえり……」 「あ、姉貴! 今日はありがとう!」 「そ、そう……。でも、ちょっとやりすぎじゃないかしら」 姉貴がなぜかもじもじしながらお尻の部分を撫でていた。 なんだろ、尻がかゆいのかな。 まったく干物の姉はこれだから! 「……でも、あれやんないと、さ。条件クリアしないからさ。し、仕方なかった」 やりすぎという指摘には口ごもるしかなかった。 確かに、あれはやりすぎだという自覚はあった。 これでも僕は常識がないわけじゃないのだ。ただちょっとあのときはよくわからないテンションにい取り付かれていただけなのだ。言い訳だが。 「とにかく、姉貴のおかげで、ちかことも付き合うことができたよ! 本当にありがとう!」 「そ、そう。よ、良かった。でも、その」 「うん……?」 「あ、あんまり、ちかこっていう子にのめり込まないほうがいいんじゃないかしら」 びくびくと、姉貴が忠告をするように言ってきた。少し水を差されたような気持ちになったが、きっと姉貴は僕のことが心配なんだろう、と思いなおした。 「うん、ありがとう。でも、そうだな。今は別れるとか、そんなことを考えて付き合うなんてできないよ。だってこれからなんだもん。楽しみにしたいじゃん」 「そ、そう、でも、もしも、別れることになったら、どうする?」 「もう、姉貴は心配性だな。そのときは、そのとき考えるけど、そうなったらショックだろうな。もしも僕が嫌いになったから、とかじゃないなら、なんとか寄りを戻そうと思うだろうな」 「そ、そう……」 姉貴はなぜか言葉を濁して、下唇を噛んでいた。 なんでだろう。 どうして、そんな、どうしようもないことをしてしまった後のような顔をするのだろう。 突然、姉貴が僕の身体を抱きしめてきた。 「姉貴……? 大丈夫か?」 「ううん。なんでもない。密、ごめんね」 「なんで謝るんだよ」 「そうだよね。でもごめん」 「なんだよ一体」 ぐすぐすと泣く涙を受け止めながら、姉貴からふわりと香る匂いに、僕はちかこの顔を思い出していた。 |
金木星 2018年01月02日 20時44分50秒 公開 ■この作品の著作権は 金木星 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re:Re: | 2018年02月05日 09時45分21秒 | |||
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