ユリ/スイリ |
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事実。 事実なんてものはどこまで行っても主観的なものでしかないのだから、あらゆる物事は「~だろう」で語る以外になく、その物自体はどうしたって観測することができない。 たとえば目の前に林檎があったとして、あたしたちは定規を持ち出したりカラースケールを並べたりすることで、ある程度までは「こういう林檎だよね」と頷き合うことができるけれど、結局のところ、彼、あるいは彼女が見ている林檎が、あたしの見ている林檎と同じものだなんて証明できやしないのだ。 彼女にとっての林檎は青いものかも知れず、 あたしにとっての赤は彼の青かも知れない。 そうした限界が世界にはあるから、平和に続いていた日常も、ある日、些細な出来事が切っ掛けとなって崩れてしまう可能性だってある。 しかし、だから何だと言うのだ。 あたしたちは最初っからそういう風にして続いてきたのだから、これから先も同じように続いて行くのだろうから、そんな揚げ足を取ってみたところで暇潰しにもなりゃしない。重要なのは「赤くて丸くて甘そうだから林檎だろう」なんて初歩的な推論の積み重ねであって、あたしたちがそれをどう受け入れるかが問題なのだから、見えもしない世界の真実なんて、知ろうとするだけ時間の無駄じゃないか。 推論。 手にとって見ることができる目の前の現実から――推論。 それはあたしたちの日常だ。 そして取りも直さず、それがあたしのモットーでもあるけれど、それにしては長くて面倒臭いので、手っ取り早くこう言い換えることにしている。すなわち、 日々是推論なり。 1 「ダウトです」 と。 満面の笑みで言い放たれた。 夜も八時を大分回ったレジカウンターである。 全国展開している本屋だけれど、この支店は郊外に位置していると言うこともあって、日が落ちるとそこまでのお客は訪れない。今日は他に作業もないので暇を持て余していたところ、何の流れか、同じくシフトに入っている可耶(かや)とお互いのモットーの話になったのだった。 「……何がダウトなんだよ」 眉根を寄せて返すと、上品な微笑みを浮かべたまま言われる。 「だって、有理(あかり)ちゃんがそんなに頭良さそうなこと言うわけがないじゃないですか。カントなんて知ってるはずがありません。そんなの、わたしの有理ちゃんじゃないです。絶対に認めません」 「遠回しに馬鹿って言ってる?」 あんたのものになった覚えもないし。 ……まぁ、見栄を張ったのは否定しない。実際、可耶が言うところの何とかカントかはよく知らないし、モットーと言われて一席ぶつ気持ちになったのも認めよう。だけど、一息に「ダウト」はあんまりじゃないだろうか。 可耶は慌てたように両手を顔の前に上げる。 「ば、馬鹿だなんて言うつもりはありません! ちょっとお茶目で素敵なのがわたしの有理ちゃんだって、そう言おうとしただけです!」 「とりあえず『わたしの』を外そうか?」 「…………。え?」 「きょとんとした顔すんな! あたしはあんたの彼氏か何かか!」 「やです、有理ちゃんったら。こんなに可愛らしい男性がいるわけないじゃないですか」 「ちょっとときめいた! くそう! ……ん」 「あ、いらっしゃいませ」 「いらっしゃーせー」 …………。 「それはともかく」 お客が去って行ってから、可耶は徐に口を開く。「あんな賢そうな台詞、やっぱり有理ちゃんっぽくないです。どなたかのご影響ですか?」 「やっぱり失礼な物言いだな」 「そうでしょうか?」 小首を傾げた。……本当に、こいつは。 上品な物腰に、楚々とした佇まい。少し色素の抜けたゆるふわカールな出で立ちも相まって(もちろん髪の話だ)、大人しく黙っていれば深窓の令嬢って感じなのに、口を開けば即座にこれだ。 天然お嬢様、佐敷可耶。 もう一生口を閉じてな。 「『この唇で一生お前の口を閉ざしてやる』? ……そ、そんな……よろしくお願いします」 「言ってねぇ!」 あとたぶん百合。 たまに目が怖い。 と、可耶は不意に正気を取り戻すと、細い指を思案げな様子で自分の唇に当てた。 「でも、『日々是推論なり』ですか……面白いですね。では折角なので、有理ちゃんがどうしてそんなモットーを持つようになったのか、まさに推論してみましょう」 「へぇ」 気の利いたことをはじめるじゃないか。 それなら見守ってやることにしようか。幸い、カウンター付近には人影もないことだし、お客がやってきてもあたし一人で充分に対応できるだろう。 「むむむ」 テンプレートな声を上げながら目を瞑る可耶。折角なのでその間、真面目に職務を全うしようという心遣いからあたしはカウンターの整理をはじめようとしてやめた。きっちりと四隅を揃えられたイベントの広告にこれまた整然と収納された文具の数々。……そうじゃん、そもそもやることがないからこんな話になったのだった。て言うか可耶、完璧に整頓しすぎ。こういうところは流石お嬢様といった感じだ。 ちらと彼女の方を見ると、目を閉じて唸っている姿が小動物じみていて愛らしい。……いやいやいや、あたしにそっちの気はないぞ、惑わされるな。これは仮初めの姿、本当の可耶はこんなんじゃない……いや、でも、可愛いな。この顔で迫られたらちょっと払いのけられる自信がな、 「有理ちゃん!」 「ふぁっ!?」 抱きつかれた。 え、今? ちょ待っ。 「可耶――」 見ると、上目遣いに瞳を潤ませた可耶の顔がすぐ傍にあった。頬はうっすらと上気していて、絹のように細やかなキメさえ見える……やば、鼻血出そう。と言うか仕事中にそんなこと、いくらなんでも問題に―― 「どこの馬の骨に奪われたんですか!?」 「何の話だ!?」 清々しいほど文脈を無視してきた! 全くわけが分からんぞ! 可耶は涙ぐみながら続ける。 「だって、だって、女性が急に変わるのなんて殿方の影響しか考えられないじゃないですか! どなたかと交際されているんですね? どこまで行ってしまったんですか? Aですか? Bですか? それともまさか、Zですか!」 「待って何か誤解してる! あと全体的に言い回しが古い!」 「ご相手はご学友ですか? それともご教授ですか?」 「話を聞け!」 ご教授ですかは日本語としておかしいし! 取り乱す可耶をやっとの思いで引きはがし――こんなところを客に見られでもしたら非常にまずい――今が仕事中であることを思い出させると、ようやく正気を取り戻したようだった。いくら有線が流れているとは言ってもあの声は心臓に悪い。周囲を何度か確認し、可耶にもちゃんとした姿勢に戻ってもらったあと、噛んで含めるように言い聞かせる。 「……いい、可耶。あたしが身の丈に合わない知識を身につけているからと言って、それを男と結びつけるのは早いから」 「自覚はされていたんですね」 「うっさい。いや、男と言えば男だけどさ、モットーの原点は親父だよ」 可耶がハッと目を見開いてこっちを向く。 「……お父上と……ご交際……?」 んなわけないだろ。 「そっちの方向から考えを外して? ……ま、性格が男っぽいことからも分かるだろうけどさ、あたしには親父の影響が微妙に強いらしいの。そこに来て、昔っから小難しいことばっか聞かされてきたから、その中からモットーができてきたってわけ」 「なるほどです」 「て言うか、推論できるほどの材料はなかったけどな、……ん」 「あ、いらっしゃいませ」 「いらっしゃーせー」 …………。 お客が去り、話題は途切れ、あたしたちの間に束の間の静寂が下りる。 レジのデジタル表示で時刻を確認すると八時四十分頃。上がりの時間は二人とも九時なので、このほとんど仕事じゃない仕事の時間も残り二十分ほどだ。 さて。 あとは何をして退屈をやり過ごそう。 「ところで有理ちゃん」 本当に束の間の静寂だった。 ……まぁ、こいつと一緒の時点で退屈なんてできないよな。 「なにさ」 「今のお客さん、割と頻繁にいらっしゃいますよね」 「ん、あぁ」 言い方は悪いがくたびれたスーツの初老のおっさんで、うちに来る度に女性ファッション誌や子供向け雑誌を買って行くので記憶に残っている。あと、気を遣ってはいるのだろうけど、うっすらと煙草の匂いがするのも印象の一つだ。 「あの客がどうかした?」 「毎回、領収書を出して行かれます」 「だね」 そうだ。それも特徴の一つだ。 変わった特徴ではあるけれど、別にそれほどの手間ではないし考えることでもない。些細な会計でも領収書を所望するお客はごまんといるのだ――いや、流石にごまんは言い過ぎだけども。 しかし可耶は、じっとあたしの顔を見つめたまま視線を外さない。 「……何よ。顔に何かついてる?」 「分かりませんか、有理ちゃん」 「ん?」 「推論ですよ、推論。今こそ推論の出番です」 今こそと言われても……。 「何を推論するのさ。あのお客は家族からお使いを任されてるんだろうなってことくらい、普通に分かるでしょ?」 「そうじゃありません、それならレシートでいいはずです。寧ろそちらの方が、明細も載ってて便利じゃないですか」 「まぁそうだけど」 領収証に記載されるのは金額だけだ。 要求されれば宛名や但し書きも書くけれど、あのお客は毎回「そのままでいいです」と言って去って行く。 「どうして領収書なんでしょうか」 可耶は瞳を伏せる。あぁ、そういうこと。 どうして利点のない領収書を毎回求めるのか、と気になっているのだろう。でも、それだって取り立てて考える必要はないことだ。推論っちゃ推論だけど、色々な要素を組み合わせて行けば推測は立つのだから。すなわち―― 「小遣いをパチンコにでもつぎ込んでるんでしょ」 2 「……え?」 可耶がきょとんとした顔を向けてくる。 ……なんだその目は。鳩が豆鉄砲喰らったみたいだな。 「なんでそうなるんですか?」 「え? 何でも何も、そんな感じするでしょ?」 「えっと、推論、ですよね?」 口ごもりながら続ける。「あたしは有理ちゃんが、人を見た目で決めつけるような人じゃないって分かってますけど、一応聞きますね? ……決めつけとかじゃなくて、今のは推論、ですよね?」 「そうだけど、どうしたの」 「最初から説明してください」 毅然とした態度で。 凜とした瞳で。 真っ正面から要求された。 そんな構える必要のある質問? 「上がるまでに」 何から? ……あ、バイトからか。 残り時間は十五分ほど。説明の最中にお客が来ることも考えると、正味十分くらいか。なんで制限を設けたのかは分からないけれど、それだけ時間があるなら、全部説明するのにもまぁ充分か。 「んー……じゃあまず、あのお客はパチンコ屋とかに行ってる」 「ダウトです」 言下に疑問を挟まれた。 早っ。って言うか「ダウト」はそういう使い方じゃないし。 「何がよ」 「領収書を出しただけでその推論は成り立ちません。女性ファッション誌を買ってるくらいですから、女装癖があると考えた方がまだ自然です」 「その推論もどうかと思うけど……おっさんだし」 「性癖に年齢も性別も国境もありません」 「そんな話はしてない」 世の中の男性は可耶のレジに女性誌を持っていってはいけない。 もれなく男の娘だと認定される。 「んじゃ、そこから……えっと、あのお客はスーツを着てた」 「はい」 「で、毎回のように煙草の匂いがする。そういう職場だってことも考えられるけど、禁煙が半強制的なこのご時世、職場でつけた匂いだって可能性はそんなにない。それに、消そうとしているみたいなのにそれでも匂うってことは、それなりに吸ってるって考えられる……ここまでいい?」 「ん……少し引っ掛かりますけれど、はい」 「そこに来て、来る度にその匂い。毎日煙草をバカバカ吸える職場は少ないだろうから、可能性としては『毎日、仕事後にどこかで匂いをつけてる』ってのが高い。そんな場所って言ったら、まずはパチンコ屋とかが頭に浮かぶ」 適当な喫煙所とかでもいいのだけど。 まぁ、つっこまれないなら先に進もう。 「んで、負けてるわけだ。だからお金がない。……家庭持ちってのはいいんだよね? 結構な頻度でお使いを任されてるところを見ると、あまりその中での地位は高くない。だったらたぶん、使えるお金はお小遣い制。そのお小遣いもギャンブルにつぎ込んでしまった――これは困った。だから領収書を、」 「ダウトです!」 可耶が指を突きつけてくる。 お嬢様、はしたない。 「はぁ……今度は何?」 「だから、わたしが分からないのはそもそもそこなんです! ホワイダニットを省略しないでください、いじけますよ!」 「……知ってる、可耶? そういうのを『駄々をこねる』って言うの」 「じゃあ、さしずめ有理ちゃんはわたしのお母さんですね」 「さしずめるな。せめてお姉ちゃんくらいにして」 すると可耶は、また上目遣いにこちらを見上げて、 「教えて? お姉様……」 と。 「…………」 鼻をつまんで天井を仰ぐ。 お姉ちゃん、理性が飛ぶかと思った。 「有理ちゃん?」 「あんた、確信犯でしょ……」 「何の話でしょうか」 「とぼけんな女豹」 瞳まで潤ませやがって。役者かあんたは。 ともあれ、上がるまでに説明を終えなければならないのだから、脇道に逸れている時間はあまりない。飛びかけた理性の襟首をふん掴んであるべき場所へと戻す。 「会計してて、気づかなかった?」 「有理ちゃん、主語が抜けてます」 「だから、あのお客の会計に違和感を覚えるところはなかったかって」 「え」 あたしの言葉を受けて、可耶は再び「むむむ」と考え込む。優しく見守ってやりたいのは山々なのだけど、生憎、だから時間はそんなにないのだ。可耶が勝手に決めた制限だ、別に守る必要はこれといってないにしても、一応助け船を出してやる。 「考えてみ。領収書を家族に渡すのとレシートを渡すのとでは何が違うのか――言い換えれば、領収書とレシートの間にある違いは何なのか」 「違い。……領収書に記載されるのは金額だけで、明細は載りません。でも金額を誤魔化そうとしたところで、商品の単価は商品に書いてあるんですから、すぐにばれます。一部をポイントで支払ったところで、あのお客様が多めに受け取れるのは微々たる金額でしょう。むむむ……」 「そ。重要なのは『金額しか記載されない』ってところ。何を買ったか、なんで支払ったかは明記されない」 「……あ。そういうことですか」 腑に落ちたように顔を上げる。 「お会計の違和感」 可耶は言う。 「つまり有理ちゃんは――あの人が『毎回クレジットカードで支払ってる』ってことを言いたいんですね」 「そういうこと」 あたしは頷いた。そうなのだ。あの客は毎回クレジットで支払う。 たかだか雑誌数冊の会計でクレジットカード。ときには一冊でも。 現金を持たない主義ってことも考えられなくはない。けど。 今までに積み重ねた推論と合わせて考えると、別の事情が見えてくる。 ……もちろん、全部想像に過ぎない。でもこれで「どうして領収書を?」という可耶の疑問には一応答えられる。 「クレジットカードの現金化」 それでいいだろう。 「あのお客は現金の持ち合わせに困ってるから、お使いを利用して小金を手に入れようとクレジットで支払った。でもレシートをそのまま渡すと思惑がばれてしまう。……奥さんにいい顔はされないだろうね。カード会社の規約的にも微妙なところだし」 結論に触れる。 「だからたぶん、『金額しか記載されない』領収書を毎回のように出してくんだ」 3 「……その手口に味を占めて、お金に困ってないときでも『領収書を』って言うようになったんだろう。あとで支払うんだから根本的な解決にはなってないけど、それを言うならギャンブルの類を先にやめてるだろうし」 以上、推論終了。 可耶は信じられないとでも言いたげな表情であたしの顔を見る。 「すごいです。……あの一瞬でそれだけのことを考えたんですか? 有理ちゃん、何だかシャーロック・ホームズみたいです!」 「まさか」 あれだけの時間で考えられるか、こんなもん。 常日頃から「そうなんだろうな」なんて思っていただけだ――日々是推論なり。それはつまり、日常的に推論の網を張り巡らせているという意味合いであって、謎にぶつかったときに一朝一夕で結論を導き出せるといった類のモットーじゃない。 それに、これはあくまで推論だ。あのお客から直接真実を確かめるなんてわけにはいかないだろうし、重要なのは真実そのものなんかじゃなくて、あたしたちが事実をどう受け取るかというところにあるのだから。 実際、可耶の疑問はこれで解消されたわけだ。 胸の前で手を組んでから、「うーん」と大きく背伸びを一つ。 「ふぅ……ま、こんなもんでしょ。良い退屈凌ぎにもなったし、そろそろ上がりだね」 ちら、と時刻を見ると、八時五十七分。視界の端っこに、うちの制服である紺色のエプロンを身につけた人影も捉える。接客を挟んだので途切れ途切れの説明にはなってしまったけれど、何だかんだで時間内には可耶の疑問に答えられたようで、ちょっぴり達成感を覚えた。 やって来た交代要員に業務の引き継ぎを済ませ(特にないんだけれど)、可耶の方を振り返る。 「じゃ、行こっか」 「はい」 二人で連れ立ってカウンターを出る。 自動ドアになっている内扉をくぐると、エントランスじみた空間へ。 書店の内部は暖房が効いていたけれど、そこはもう、外扉一枚でしか外の世界と隔てられていないので、そこそこ冷えた。息が白くなるというほどではないにしても、肌寒いという次元は通り越しているような温度。 出てすぐ右手に設けられている階段を上っていると、「はーっ」と掌に息を吹きかけてから、感心したように可耶は言う。 「それにしても意外です。そんな特技があったんですね、有理ちゃん。何か、看板に偽りあり、って感じがします」 「っぽくないことは認めるけどさ、褒められてる気がしないぞ、それ」 「じゃあ、猿に烏帽子の方でしょうか」 「よーし分かった、戦争だな」 「え? いえ、決して貶しているわけじゃ……!」 慌てたようにおろおろし始める可耶。 悪意がないだけ質が悪いな、このお嬢様……あたしが苛めているみたいじゃないか。 「分かってる分かってる」 頭をくしゃくしゃと撫でてやりながら、階段脇の壁に貼られたアルバムの新譜やら、ゲームの新作やらの告知ポスターを横目に上へ。その間可耶は「あうぅ」なんて小さく鳴いていたけれど、髪が乱れるくらいのことは罰として受け入れてもらおう。 二階に辿り着くと、店舗部分の自動ドアは素通りして廊下の奥の方へ。お手洗いを横目に、通路に張られた「関係者以外立ち入り禁止」のベルトパーテーションを抜けると、そこが荷物やらエプロンやらを置いている休憩室だ。 がちゃがちゃとボタンロックを解錠していると、横から可耶が口を出してくる。 「ところで、有理ちゃん」 「『ところで』が多い日だな」 笑いながら扉をがちゃり。 先に部屋の中へ入ると、一も二もなく着ているエプロンを脱ぎに掛かる。……傍から見ている分には可愛く見えないこともないのだけれど、いざ自分が着ているとなると、どうも似合っていないような気がして好きくないのだ。 可耶にはとても似合ってるんだけども。 猿に烏帽子と言うなら、こっちの方だよなぁ。 「――今度の日曜なんですけれど、良ければ映画でもご一緒しませんか?」 「ん?」 エプロンを頭から通している体勢のまま、視線だけで振り向く。 手の甲を体の前で重ねて、可耶は照れたような笑みを浮かべていた。 4 ポスターの数々からお察しの通り、店の二階ではレンタルのDVDやCD、あと普通にゲームの販売や古本を取り扱っている。 最近はこの辺りでも割かし見かける、いわゆる複合書店というやつだ。立地の話もあって客層は年配の人が多いけれど、それでも別に若い人が少ないというわけではなく、まぁそれなりに繁盛している。あたしと可耶はまだ二階のシフトに入ったことはないのでよく分からないが、どうも本やゲームの買取も行っているらしく、近辺では重宝されていると言えるだろう。 そして、来る日曜の昼時。 「お待たせしました」 待ち合わせ時間ぴったりにやって来たお嬢様は(あたしは五分前に着いた)、オフホワイトのショートダッフルに藍色の膝下丈スカートという、冬にしては微妙に気合いの入った装いだった。……うん。いや、 「映画館にでも行くんだったっけ?」 「え? いえ、わたしの家じゃ?」 当然のように答えが返ってくる。 それは知ってる。知ってるからつっこんだのだ。 「もうちょい砕けた服装で来りゃあいいのに……スカートは寒くない?」 「えへへ、折角の逢い引きですから。どうでしょう、似合っていますか?」 その場で控えめに一回転。ふわりとスカートを揺らして、可耶は気恥ずかしそうに微笑んだ。……やばい、ちょっときゅんとした。 でも逢い引きって言うな。 ちょいちょい言葉の端々がおかしい。 「あー……ま、寒いし中入ろっか」 それとなく視線を外して促す。バイトに来るときは色気のないブラウスにジーンズとハウスルールで定められているので、可耶の私服姿をお目に掛かるのはこれが初めてのことだった。ちょっとあたしに対する攻撃力が高すぎて直視できない。 何せ素材が素材だ。普段の服装は破壊力あるだろうな……と察してはいたけれど、まさか今日、「逢い引き」用のコーデを見ることになろうとは。 可耶から映画の提案をされたのが、つい先日のことである。 しかし、今上映されているタイトルがいまいちパッとしないものばかりだったので、なら、店で何本かDVDを借りて観ようかという話になったのだった。ちなみにお嬢様は「ジブリを観たいです」と仰せられた。……今やってるわきゃない。 「というわけで、今日はジブリの鑑賞会なのです」 「なんで説明口調なんだ。知ってるっつーの」 「『思い出のマーニー』とかどうでしょうか」 …………。 そのチョイス、あんたと観るには危険な気がするんだ……。 「楽しみです」 そんなあたしの懸念を知ってか知らずか、可耶はやたらと上機嫌な様子で自動ドアをくぐって行く。この娘、今日まであまり映画を観る機会に恵まれなかったのだろうか。今にスキップでもはじめてしまいそうな調子だ。 二人して風除室(このエントランス部分をそう呼ぶらしい)に入ると、とりあえずは休憩室の方へと歩を進める。バイトをしていると社割で多少会計が安くなるのだけど、その代わりに名札がないとレンタルできないので、まずはエプロンの胸元につけられているそれを取りに行く必要があるのである。 と。 そんなわけで可耶と一緒に階段を上っていると、踊り場の辺りで、やけに慌ただしそうな様子の社員さんと鉢合わせる。 「あれ、花谷さん。なんか忙しそうっすね」 「ん? あぁ、お二人さん」 わたしたちの姿を認めると、花谷さん(店長補佐を務めている)は階段の途中でぴたりと立ち止まり、苦々しげな笑みを浮かべて見せた。何か面倒事でもあったのだろうか。それを受け、可耶も顔に疑問符を浮かべる。 「何かトラブルでしょうか? お困りのようですけれど……」 「あぁ、ちょっとなぁ。いや、トラブル自体はもう解決したんだけど」 そう言いつつも、顔が更に苦み走る。 「万引きがあってな。しかも相手が女子高生と来たもんで、しばらく店長の身動きが取れなかったんだよ。……全く、この忙しい時間帯に要らん手間を」 じゃあな、と言い残して花谷さんは階段を駆け下りて行く。 それは申し訳ないときに来てしまった。 どんな対応になったのかは分からないけれど、未成年が相手ともなれば、少なくとも保護者やら警察やらが来るまで、店長はそれに掛かりっきりだったはずだ。ただでさえ忙しい休日の昼間、最大の戦力が減ることになってさぞや大変だっただろう。 花谷さんの後ろ姿を見送ってから、何とも言えない表情で可耶が振り向く。 「ちょっと地が出てましたね、花谷さん」 「それだけ腹が立ったんだろうな。……ま、早いとこDVDだけ借りて帰ろうか」 ん。 可耶の家に行くのに、あたしが「帰る」はおかしいか。まぁいいや。 とにかく、いつもなら誰かと立ち話をすることもあるけれど、そんなに忙しいのなら今日は止しておいた方がいいだろう。そこは可耶も同意見のようで、「そうですね」と小さく首肯する。 さっさと階段を上り。 「立ち入り禁止」を抜け。 休憩室の前へ。 花谷さんから万引きの話を聞かされて上機嫌に水を差された様子の可耶だったけれど、気を取り直したのか、来たときと同じように妙なテンションでボタンロックを解錠しようとして普通に失敗した。「あれ?」何故か気が急いているようで、首を傾げながら何回も押し間違える。埒があかない。代わって、あたしが横から解錠してやった。 「すみません、お手数をお掛けしました」 「なんで番号忘れるのさ……」 何だろう、調子が狂う。 やっぱりいつもと可耶の様子が違う気がする。 まぁ、プライベートと仕事時のテンションが同じでも困るのだけど。 そんなことを考えつつ、がちゃりと扉を開けた瞬間だった。 「……ん?」 違和感。 それなりに見慣れたはずの空間に、そこはかとない違和感を覚える。 原因は考えるまでもなく分かった。異臭だ。何かこう、鼻を突くような不快な臭いが休憩室の中にうっすらと立ちこめていて、ドアの開閉とほとんど同時にそれが漂ってきたのだ。 だけど、改めて観察してみると、それ以外の様子もいつもと異なっていることに気づく。たとえば、普段は部屋の中央を陣取っているはずのテーブルが左方向へ妙に寄っていたり、テーブルが移動したことで空いた部分の床に、雑巾か何かで乱暴に拭かれた形跡が残っていたり。 「ふうん」 誰か、昼食でも零したのだろうか。 あまり長く留まりたいとは思えない臭いだったけれど、別に耐えられないほどではないし今回は名札を取りに来ただけだ。とっとと回収して映画を選ぼう――それくらいに考え、あたしがエプロンの方へ一歩踏み出そうとしたときだった。 「駄目です、有理ちゃん!」 「ぐへっ」 後ろから襟首を掴まれた。 思わず変な声が出た。 こ、この、 「何しやがんだコラ――」 振り向いた目と鼻の先に、可耶の顔があった。 反射的に仰け反る。近っ。て言うか顔ちっさ。 ……いやいや、そうじゃなくて。 「現状保存です」 ずずいっと身を乗り出され、後退りまでする羽目になる。 いきなり何言ってんだとか、いくら何でも近すぎないかとか、いきなり人の襟首を掴むんじゃねぇよとか、言いたいことが多すぎて一瞬混乱したけれど、可耶の顔に浮かんでいるその色を目にして、とにかく良くない予感を覚えたことだけは確かだった。 だから、先に釘を刺しておこうと考える。妙な遊びには付き合わな、 「――有理ちゃん、事件の臭いがします」 5 たとえば、人の容姿から推論をしたあたしを「ホームズみたい」と言ったり。 たとえば、領収書のくだりで「ホワイダニット」なんて言葉を口にしたり。 たとえば、ジブリの中でもミステリ要素を含むタイトルをチョイスしたり。 ……彼女の言動を観察していれば、気づないことではなかったと思う。だけど気づいていたところで、あたしに何ができたと言うのだろう。 何が言いたいかと言うと、まぁ、つまり。 「げほっ……可耶。あんた、ミステリとか好きでしょ……」 あたし息も絶え絶えにそう言うと、可耶は「なんで分かったんですか」と目を瞠った。 んなもん、誰でも分かるわ。って言うか、 「事件って、何言ってんのさ」 息を整えながら、睨み付ける。「あと首締まった」 今日の可耶は普通に可愛いんじゃないかと思い始めた途端にこれだ。ちくしょう、恨むぞ休憩室。あたしの理想の可耶を返せ。 「す、すみません……つい手が出てしまって。でも、有理ちゃん、ここの様子が変な感じなんです」 「分かるけどさ」 変な臭いはするし、テーブルの位置はおかしいし、違和感を覚えるというところまでは分からなくもない。でも、それを一足飛ばしに「事件」と決めつけてしまうのはどうなのだろう。 溜息を吐き、エプロンの掛かっているラックに指を指す。 「……事件でも何でもいいけど、名札がないと何も借りれないだろ。それに現状保存も何も、いつか他のバイトとかが入ってくるでしょ、ここ。鍵でも掛けるつもり?」 勝手にそんなことをしたら間違いなく怒られる。 と言うか、もう入ってる可能性だって高いのだから、あんまり意味ないし。 すると可耶は、両手を重ね合わせて一言。 「なるほど。なら何も気にせず調査ができますね」 …………。 墓穴を掘った。 仰々しいモットーを掲げてはいるけど、あたしは別に推理とかそういうのが特別に好きなわけではないのだ。寧ろ、日頃から余計なことを考えている分、できれば避けて行きたいくらいのもので。 だけど、何となく可耶のスイッチが分かってしまった今、彼女が次に取りそうな行動も予測できてしまう。可耶、あんたは次にこう言う。す―― 「推論をしましょう」 やってしまった。 モットーなんか披露するんじゃなかった。 はぁ、と頭を抱えるあたしを余所に、可耶は好奇心と真剣味が入り交じった表情で雑巾の跡へと屈み込む。……ここで「いいから早く借りてこう」なんて言いでもしたら、本当にいじけ始めるんだろうな……。 ちょっと見てみたい気もするけれど。 このあとずっといじけられても困る。 仕方ない。 「それで、何か分かったの?」 覚悟を決めて声を掛ける。正直、今日は半端じゃなく冷えるし、DVDを借りたら早く可耶の家に行きたい。一緒にテレビを囲んで炬燵でぬくぬくだ。いや、炬燵なんてあるかどうかは知らないけれど、とにかく可耶を納得させるだけの仮説をでっち上げてしまおう。 まぁ、幸か不幸か、この前の一件以上に推論は立ちやすい。と言うか、もう丸々立ってしまっていると言ってもいい。 誰かが休憩中、たぶん、ここで汁物か何かを食べていた。だから臭う。それを床に零してしまったけれど、拭くためにはテーブルの足が邪魔だった。だから動かした。どうせ、考えてみてもそんなところだろう。推論もへったくれもありゃしない。 「ねぇ可耶。これってさ」 「違うと思います」 「…………」 きっぱりと否定された。 まだあたし、何も言ってないのに……。 「これだけなら有理ちゃんが思っている通り、汁物か何かを零してしまっただけ、という可能性も確かに考えられます」 「心を読まないで」 「手玉に取るように分かります」 「思い通りに動かされてたまるか……」 質の悪い以心伝心だった。 深窓の令嬢なんかじゃなく、もしかすると悪役令嬢なのかも知れない。 ……しかし「これだけなら」? 可耶の言わんとするところがよく分からない。テーブルの位置、部屋の臭い、床の跡。それだけじゃないと言うのだろうか。 すると可耶は、あたしの疑問を見透かしたように(手玉に取ると言うだけのことはある)、顔だけを動かして「あれです」と短く示す。何だろう、と視線の先に目を向けると何のことはない、そこには型落ちのテレビがあるだけだった。 入り口から向かって部屋の左手前隅、胸ほどの高さのテレビ台に、DVDプレーヤーとセットで設置されているものだ。バイトに入り始めた最初の頃、業務の段取りや接客マナーを勉強するために、あのテレビで研修のDVDを見せられた記憶がある。 あれのどこに推論の材料があるんだ――と、口にしようとして。 「ん」 引っ掛かりを覚える。 頷いて立ち上がると、可耶は小さく首を傾げた。 「はい。何故かあのテレビ、画面が壁の方向へ向きがちなんです。あれだけ状況にそぐわなくて、どうにも困っています」 「確かによく分かんないけど」 「そうでしょう?」 テレビは、言うまでもなく画面を見るためのものだ。 その画面が壁の方へ向いてしまったら、本来の目的を達することはできやしない。もっとも、完全に壁と平行になっているわけではないので見られないことはないだろうけど、見辛さを考えるとかなり不便な配置だし、何よりこんな風にする理由が思い当たらない。 「ということで、考えてみたんです」 髪を揺らしながら、可耶はこちらに向き直る。「あのテレビが普段通りの向きだったなら、どうだったのかって。なので、少しその向きを追ってみたんですが」 テレビ台の傍まで歩いて行くと、可耶は本来画面が向いているはずの方向から、指で垂直に線を延ばして行く――すると。 「……床の跡」 「はい」 偶然の一致、と考えるには早すぎるか。 と言うことは。 ……どういうこと? 「普通はこんな向きになってるはずない……誰かが動かしたのは間違いないけど……この跡と何の関係が……って言うかそもそも関係なんて……」 推論なんてものは結局のところ、点を結び合わせて行ったら絵になりました、なんて感じの作業でしかないので、関係のない点を繋いでしまったら関係のない絵が浮かび上がってきてしまう危険もあるのだ。 領収書のときみたいに、ある程度全体像を想像できればその後の方向性も分かるのだけど、今回は肝心の絵自体が全く見えてこないので、方向性も何もありゃしない。大体、だからあたしは謎にぶつかったときに一朝一夕で結論を導き出せる性格じゃないんだって。 「まずは方向性……向きと跡に関係があるなら、どっちをやったのも同じ人間だ……ならそいつには、画面が見えると都合が悪かった? ……でもこのテレビ映らないしなぁ……」 研修のために置かれているようなものだ。 電波は通っていないはず。 だから「番組を見たくなかった」なんて理屈は通らない。 もし映ったとしても、電源を消すなりすればいい話だし。 ん。 映る? 「……映りたくなかった?」 目を上げる。 DVDを見るときくらいにしか使わないのだから、十中八九テレビは点いておらず、画面は真っ暗だったはずだ。そして、真っ暗だったのなら――周りの景色が「映る」。ちょっとした鏡のように。 あたしの独り言に、可耶が反応した。 「あ、きっとそうですよ、有理ちゃん! 画面の向きを変えた人は――」 方向性が見えてくる。 「――自分の姿を見たくなかった」 6 「間違いありません! では有理ちゃん、試しに映ってみてください!」 「は?」 思わず顔を向ける。「いや、別にいいけどさ……これ動かしちゃっても」 いいのだろうか。 と、あたしが言い終わる前に、可耶は「よいしょ、よいしょ」とテレビの向きを直し始めていた。現状保存とか言いだしたの、あんたじゃなかった? ……ま、事件なんて起こってないに決まってるから、別にいいんだけど。 元に戻し終えると、良い仕事をしたみたいな雰囲気で可耶が言う。 「整いました。では、張り切ってお願いします」 「張り切りはしないけど……」 「なら、割り切ってお願いします」 「…………」 言われるがまま、画面の前に立つ。 うん。 映る。 映るっちゃ映る。 凄い微妙に。 「可耶。これ、そこまでくっきりとは見えないぞ?」 鏡としての用途なんて想定されていないだろうから、当たり前だけど。すると可耶は、不満そうな色を瞳に浮かべながら、 「そうですね、体の線がぼやけています。……スレンダーなのがいいところなのに」 「あんたの好みは聞いてない」 だけど、ともかく。 この程度にしか映らないというなら、さっきの「映りたくなかった」なんてのは推論として落第だ。第一、そこまで自分の姿を見たくないなんて状況が想像し辛いのに、ぼんやりとしか映らないのなら更に可能性は低くなるだろう。 そろそろ考えるのにも疲れてきて、ぐぅ、と唸る。 「方向性が見えたと思ったのになぁ……こんなの、どうしたって鏡にはなんないじゃん。姿が映ったとしても、分かるのはせいぜい動きくらいのもんで」 「――『動き』?」 「特にテレビと臭いなんて全然繋がらないし、今のとこ自信があるの、『誰かがご飯を食べてて、それを零した』くらいの推論だけだし……」 ホント、テレビが滅茶苦茶邪魔者だ。 可耶がそこに拘っている以上、その要素を組み込まないと納得はしてくれないだろうと思ってたけれど――どう考えたって繋がらないものを無理に繋げようとしたって、結局こじつけになってしまうのは目に見えてるんだから、さっきの台詞ではないけど、あれだけ独立した違和感だって割り切ってしまうしかないんじゃないだろうか。 「あー、分かんない! ……ねぇ可耶。やっぱりこれ、偶然色々な違和感があるだけだと思うんだ。推論しようとしたところで、最初っから何も起こってないならあんまり意味がないし、そろそろ諦めて――、 …………。……可耶?」 途中で振り向いて、気づく。 ――可耶の顔色が、明らかに悪くなっていた。 元々の色が白いことを差し引いても、顔面蒼白と言っていいほどに血の気がひいた表情になっている。何か信じられないことに気が付いてしまったような様子で、瞳の焦点が僅かに合っていない。 え。 さっきまで普通に話していたので、その急激な変化に着いて行くことができず、あたしはその場にフリーズしてしまう。一体どうしてしまったのだろう? この臭いで、具合でも悪くしてしまったんだろうか。 俯いて、口を開く。 その声は弱々しく掠れていた。 「有理ちゃん。……さっき、階段で会ったとき、花谷さん、『万引きがあった』って、仰ってましたよね」 「え? あ、あぁ」 そう言えば、そんなことも言っていたけれど。 それがどうしたと言うのか。 「すみません。いきなりつかぬことを、伺いますが。この臭い……有理ちゃんは本当に、何かを食べていた臭いだって、そう思いますか」 臭い? どうだろう。何かを拭いたような跡が床に残っていたから、昼食でも零したのだろうと思って、食べ物の臭いだと決めつけはしたけれど。実際はそうだっていう証拠なんてどこにもない。ただ、そう考えるのが自然な流れだと思って、 ……いや、違う。それは床の跡に引き摺られた解釈であって、臭いそのものを考慮して導き出した考えであるわけではないのだ。ならあたしははじめ、この部屋に入ってきたときはどう思った? この臭いをどう感じた? そうだ。 鼻を突くような不快な臭い――「異臭」と表現した。 途切れ途切れに可耶は続ける。 「……さっき、有理ちゃんが『動きしか映らない』って言ったときに、思ったんです。テーブル、その『動き』をするのに邪魔だったから、動かしたんじゃないか、って。それで、その『動き』さえも見たくなかったから、テレビの画面を変えた――いえ、変えるようにお願いしたんじゃないか、って」 「…………」 「この部屋は、内側からなら鍵が掛かるようです。ボタンロックがあるのに更に施錠できるということは、おそらくここで働いている人たちでも入れない、ある種の、密室が作れるということでしょう」 「……可耶?」 さっきから、彼女が何を言っているのか分からない。 「わたしは、こんなことを考えてしまう自分が嫌です。……有理ちゃんは、考えもしなかったというのに。だから」 そこで彼女は、今までの言いよどむ気配とも異なるはっきりとした逡巡を見せて、でも、決然と迷いを振り払うかのように顔を上げる。 「――今日の予定は、なしにしましょう?」 それは、今にも泣き出してしまいそうな笑い顔だった。 7 「は――?」 いやいやいや、待てよ。 今までの話が、どこでどうなったらそんな結論に繋がるんだ。あんたが何か辿り着きたくもない解釈に至ってしまったのは分かるけれど、それはあくまでここで起こったであろう出来事でしかなくて、二人で映画を観るっていう予定とは関わりのないことじゃないか。 しかし彼女は、決壊しそうな表情のまま続ける。 「わたしは、この職場が大好きです。ここで働き始めたお陰で、有理ちゃんとも会うことができました。店長さんにも、とてもお世話になりました――なのに、それなのに、こんなことを考えてしまう自分が本当に……嫌です」 嫌です、と。 可耶は小さく繰り返した。自嘲するどころか、他でもない自分自身を心の底から軽蔑するような調子で。 「ねぇ可耶。はじめから説明してもらってもいい? どうやったら休憩室の出来事が、今日の予定の中止に繋がるのさ。……あんた、楽しみだって言ってたじゃん。わたしも可耶と、また仲良くなれたみたいで嬉しかったのに」 「だからです!」 ほとんど悲鳴のように彼女は声を絞り出す。 「これ以上一緒にいたら、またわたしは有理ちゃんのことを好きになってしまうから……でも、それは駄目なんです! こんな考えを臆面もなく浮かべてしまうような自分が、有理ちゃんと一緒にいていいはずがないんです。……こんな自分と一緒にいたら、有理ちゃんまで穢してしまうかも知れません」 そんな言葉を聞きながら。 すうっ、と頭の芯が冷えて行くような感覚を覚える。 「だから、それだから。わたしの方からお誘いしておいて本当に申し訳ないのですけれど、今日の約束は――」 「ストップ」 手を上げて制する。 可耶はまだ何か言いたげな様子だったけれど、構わずあたしが顔を見つめ続けると、すんでのところで言葉を飲み込んだようだった。それを確認してから、あたしは意識的に目を伏せて今までの言葉と推論を思い出し始める。 可耶の考えを辿って行く。 彼女はまずテレビの向きに拘っていたからその要素は推論の中に含まれているはず、実際彼女は鏡としての画面のあり方に触れていた――どうやって? あたしが言ったところの「動きしか映らない」って事実を中心として、だ。加えて「変えるようにお願いしたんじゃないか」と口にしたのだから、可耶はここに「変えた人物」と「お願いした人物」の二人がいたと考えていることになるけれど、それは誰か。はじめ、あたしに向かって万引きの有無を確認したことから考えると……万引きの犯人、つまり花谷さんが言った「女子高生」と、対処に掛かりっきりだった「店長」あたり。 店長が万引き犯相手にテレビの向きを変えるようお願いするなんてのは考えにくいから、変えて欲しかったのは万引き犯の方、つまり、可耶の言葉で言い換えれば「『動き』さえも見たくなかった」のは女子高生の方――『動き』。……見えてきた。可耶が言ったところの「密室」で、二人で行って、その後に異臭を残しかねない、『動き』。 可耶にとっては不本意な、考えたくもない仮説。 「……そういうことか」 目を上げて、再び可耶を見る。 「あんたは『店長が万引きした女の子を脅して、行為を強要した』って考えたんだね」 びくり、と小さな肩が震えた。 そして、可耶はあたしから視線を逸らす。 「軽蔑したでしょう……?」 「何がさ」 「わたしは、店長さんが良い人だと、知っています。……本当に、お世話になっているとも思っています。なのにわたしは、そんなはずないって分かっているのに、そう考えてしまったんです」 こんな恩知らずが、と吐き捨てるように呟く。 「有理ちゃんと仲良くなっていいはずが――」 「ダウト」 ――言葉尻を断ち切る。 全く、本当に。 このお嬢様は。 そのまま歩み寄って行って、頭の上にそっと掌を乗せる。びくり、と再び痙攣するように体が震えるのを感じ取った。あたしは構わず撫で続ける。 「そんなはずないって思ってるんでしょ?」 首肯。 「そう考えるのは嫌なんでしょ?」 再び、首肯。 だったら何も問題ないじゃないか。いや、確かに店長はとんだとばっちりで気の毒だと思わないでもないけれど。……そんな考えを、他ならぬ可耶自身が受け入れたくないって思っているなら。 「――いいじゃん、それで」 ハッとしたように、可耶は顔を上げる。 だってさ。 事実なんてのはどこまで行っても主観的なものなんだから、結局はあたしたちの判断に任せられるしかない。 重要なのは、それをあたしたちがどう受け入れるかというところにあって、事実そのものは大した問題になりはしないのだ。言ってしまえば、そんなものは全部、ただの推論に過ぎないのだから。 手にとって見ることができる目の前の現実から――推論。 それがあたしたちの日常だ。 もちろん、事実を事実として受け入れることは大事だけれど、確信のない憶測までをも事実として受け止める必要はない。嫌なら嫌で構わない。それはあくまで主観的に、考えの持ち主に委ねられるべき事柄だ。 「大体、考えついちゃったこと自体はあんたの意志なんかじゃないでしょ。それは違う、それは嫌だっていう感情の方があんたの意志でしょ? ならいいじゃん。確かにあたしには考えつかなかったけれど、それは咄嗟に答えを出すのに向いてないだけの話だし」 「で、でも」 「それに、受け入れたくもないその推論を話してくれたのは、もし本当だったら、あたしまで危ないかも知れない、って考えてくれたからでしょ?」 「……それは、そうですが」 「だったら軽蔑なんてするもんか」 わしゃわしゃと髪を撫で回してやる。今度は鳴きこそしなかったけれど、拒否もせずされるがままになっている。 でも、そうしながらあたしは考える――さて、どうしたもんか。 あたしだって店長がそんな悪漢だとは思わないけども、悪いことにこの推論、微妙に筋が通ってしまっているのだ。それはつまり、放置すれば可耶の中で「店長=悪漢」という可能性が残り続けてしまうことになる。このお嬢様のことだから、ふとした拍子に罪悪感を覚えるということも充分にあり得るだろう。そんな禍根は残したくない。 だったらやるべきことは決まっている。 「よし、推論崩すか」 「え?」 可耶が驚いたように顔を上げる。「く、崩せるんですか?」 「簡単だろ」 胸を張って見せる。 ふん、あたしを誰だと思っているんだ。……誰でもないけどさ。 「日々是推論なり」を信条に、平成のシャーロック・ホームズと(可耶から)讃えられる、天下御免の迷探偵、平塚有理とはわたしのことである――こんな推論を崩そうとするなら、手っ取り早くて有効な方法が、一つほどある。すなわち、 「直接聞けばいいんだよ」 可耶がきょとんとした顔を向けてきた。 しかし数瞬の後、その顔はぎくりとした表情に変わる。 「だ、駄目です! そんなことして、もし本当だったら有理ちゃんが、」 「大丈夫。要するに、違和感の原因が特定できればそれでいいんだからさ。それに、万が一危なくなったとしても――」 ――がちゃり。 扉から聞こえた突然の物音に、二人とも動きを停止させる。 ボタンロックを解錠する音。 ……早速おいでなすった。 がちゃり、がちゃりと続けざまに音は鳴り響く。その合間、あたしは怯える可耶を安心させるために小さく笑いかけて、言いかけた言葉を最後まで続けた。 「――あんたのことは守ってやるからさ」 がちゃり。 扉が開かれる。 8 「……あれ? 何やってんの、お二人さん」 扉の隙間から姿を現したのは、花谷さんだった。 休憩の時間にでもなったのだろうか、すでにエプロンの紐を解いている。……都合がいい。違和感の原因を突き止められるなら誰に訊くのでもいいのだし――まぁ、最悪の場合、花谷さんまで共犯者という線も考えられなくもないのだけど。 「いや、ちょっと気になることがあるんすよ」 「ん? 気になること?」 花谷さんは怪訝そうな顔で繰り返す。あたしと同じ考えに至ったのだろう、可耶が服の裾を掴む感触を覚えたけれど、構わずに切り出す。 「はい。何か今日の休憩室、色々と違和感が――って言うか、この部屋臭いません?」 ……さて、どうなる。 正直、花谷さんに訊ねただけで全ての違和感が解決するとは思っていない。だけど一つでも理由が分かったのなら、その分だけ推論の説得力はなくなって行くのだ。つまり、それだけ可耶が罪悪感を覚える余地が減ずるということでもある。 あたしの言葉を受けて花谷さんは鼻をひくつかせていたけれど、やがて「あぁ」と得心がいったように眉を顰めた。 そして。 「……休憩室に捨てんなっつってんのに、またか」 ゴミ箱の方へ歩いて行くと、その中をゴソゴソと漁って。 ひょい、っと。 黒い袋を摘まみ上げた。 「あ」 思わず声が出る。 ――サニタリー袋。 「いや、俺が食べた弁当の臭いとも交じってるけどさ、こんな風に臭いが籠もることがあるから、これはトイレチェックのあと、カウンター裏のゴミ箱に捨てろって二階の奴らには言ってるんだが……まだこっちに捨てやがる奴がいるみたいだな」 何遍言わせるつもりだ。 花谷さんが毒づくのを尻目に、あたしたちはポカンとするしかない。 ま、待って。 まだ終わってない。それだけじゃ決め手にはならない。 「そ、そうなんすね……あたしはてっきり、ここで何か零したからかと。ほ、ほら! 床に拭いた跡が残ってますし!」 「ん? あぁ、これはさっき、さっき言ってた弁当を落としてな。……全く、万引きと言いゴミ袋と言い、何て日だ」 「じゃあ、机の位置とかテレビの向きが変わってるのは……!」 「おぉ? 何かあったか、平塚さん? 仕事中もそれくらいの意欲があると嬉しいんだけどなぁ。きみの挨拶、ちょっと投げ遣りっぽくてアレなんだよ」 「……花谷さんには言われたくないっす」 うっさいな。 こういうのが好きなお客もいるし。たぶん。 「ははは、まぁ言えてるな。で、何だっけ――机だったか。 まぁ、ゲーム機本体の買取をするときって動作確認が必要でさ、それをここでやってるんだよ。本体をテレビの近くに置きたいからそっちの方向に机を動かして――それからテレビにコードを接続するんだけど、」 溜息をつく。「……このテレビ、ブラウン管だろ? 裏にコード繋ぐところがあるんだけど、これ、割と奥行きがあるせいでやり辛くてさぁ。ちょっと回転させてから繋いでんの。そろそろ買い換えろって話だけどな。 そんで、色々と直してくの忘れた。俺が」 「俺が」 「そう、俺が。すみませんでした」 頭を下げられた。 …………。 もう、ポカンとするしかない。 って言うか、臭い以外は全部あんたが原因じゃねぇか! 「許さない……」 「へ?」 「いや、何でもありません」 あんたの所為で、どれだけ可耶が悩んだと思っている。 しかも全部あっさりと解決しやがって。 「行くよ、可耶」 あたし以上にポカンとしている可耶の腕を取って、名札を回収してからずんずんと休憩室を出て行く。顔は振り返ってやらなかった。 「え、ちょっと平塚さん、怒ってる? そんなに机直さなかったのが、」 バタン。花谷さんが言い終わるのを待たずに扉を閉める。そこでしばらく途方に暮れていればいいのだ。 あたしたちの煩悶に反し、あまりにもあっけない幕切れだった。 店の外に出ると、寒さが足元から這い上がってくるようだった。 あたしですら寒いのだから、可耶に至っては考えるまでもないだろう。一刻も早く可耶の家に行きたい。一緒にテレビを囲んで炬燵でぬくぬくだ。……いや、だからあるかどうかは知らないのだけど。 しかしまぁ。 とんでもない勘違いをしたもんだ。 「……本当に、ご迷惑をお掛けしました」 信号待ちで立ち止まると、可耶は改まって頭を下げてくる。 「気にしないでよ。全部、あの花谷とか言う社員もどきが悪いんだ」 「それはちょっと失礼では……」 少しだけ調子が戻ってきたようで、あたしの言葉に苦笑する。いいんだよ、あたしの可愛い可耶を泣かしかけた罰だ。 借りてきたDVDはお嬢様ご所望の通り『思い出のマーニー』含むジブリ数点に加え、途中で可耶がミステリ好きだと判明したのでそっちのジャンルも数点。選んでいる最中に訊いたところでは、自宅のマンション(アパートでないところがイメージ通りだ)には読み掛けの小説が山ほど積んであるそうな。……割と乱読派らしい。 信号が変わり、再び歩き始めると、可耶はぽつりと呟く。 「……実は、初めてなんです、わたし」 「え? 何が?」 「一人暮らしをはじめて、自宅に友達をお連れすることです」 へぇ。 その「初めて」にあたしが選ばれたってことか。……嬉しく思う反面、少しだけ彼女の気持ちを想像して寂しくもある。そうなんじゃないか、って思ってはいたけれど。 照れたように提案をしてきたことだとか。 今は上映されてないジブリを「観たいです」と言ったことだとか。 いつもとはテンションが違ったことだとか。 ……自宅へ戻るにしてはTPOを弁えない服装なことだとか。くつろぎ辛いでしょ、その格好は。あたしだったら無理だ。 そんな諸々から推測した可耶の心境は、どれもこれも彼女にとって良いものではなくて、だから「なしにしましょう?」と言わなければならなかった寂しさは想像して余りあるものがあった。逆に言えば、それだけ真摯に向き合われているということで、ちょっとこそばゆかったけれど。 顔を覗き込んで、笑いかける。 「んじゃ、今日は楽しまなきゃいけないね」 「はい、今夜はお楽しみです。……優しくしてくださいね?」 「もう少し言葉を考えよう?」 て言うか「優しくして」はおかしいだろ。 やっぱり確信犯だなあんた。 そうこう話しているうちに、今度は踏切に差し掛かる。小気味良い音と共にゆっくり歩くようなスピードで遮断機が下りてくる。二車線の狭い歩道に面したレール。 「……でも、初めてお連れするのが有理ちゃんで良かったです」 「プレッシャー掛けないでよ……」 苦笑する。あたしはそんな大したもんじゃないのに。 モットーだって半分くらいは親父の受け売りだ。自分の経験から導き出した、とかいう感じのものじゃない。あたし自身は、まるで空っぽ。初めてのお客に招かれるほどの価値があるかと訊かれれば、そんなものはないだろう。 「でも、あのときの有理ちゃん、格好良かったです」 …………。 あのとき? 「言ってくれましたよね。守ってあげるから、って」 「ん、あぁ」 「本当に、嬉しかったです」 「……うん」 遮断機が止まる。 降り注ぐ日差しの中、あたしたちの言葉も止まる。 空気は冷たかったけれど、言葉も途切れてしまったけれど、こうして並んで立っているだけで温かいような奇妙な気持ちに襲われる。彼女の気持ちを想像して、守りたい、と思ったのは本心だったから。それを「嬉しかった」と言われて、こっちまで嬉しくなったのは本当だったから。 ……なんだよこのムード。 ちょっといい話で終わっちゃいそうじゃん。 「あと、抱かれてもいいな、と思いました」 「とうとうストレートに言ったな!」 なんて。 そう返しても良かったのだけど。ってか、そうするべきだったのだろうけど。 毎回毎回翻弄されるのも何だか癪に障ったので、このムードに乗じ、今度はこっちから逆に焦らせてやろうと軽口を叩いてみる。いや、叩いてしまった。 「なら今日は寒いし、一緒に布団入って映画観よっか。……朝まで寝かさないから」 かちん、と可耶は表情を強張らせた。 そして、ほんのり頬を染めたかと思うと。 顔を逸らして、こくり、と一言。 「……よ、よろしく、お願いします……」 と。 え。 ちょ。 ――カンカンカンカン。 大音量で鳴り響く警報音の中、目の前を電車が通過して行く。耳まで真っ赤になっているであろうあたしを取り残して、我知らぬスピードであっという間に彼方へと去って行く。 遮断機が上がる。 「…………」 「…………」 その後。 家に辿り着くまで、あたしたちは終始無言だった。 |
瀬海 G3b0eLLP4o 2018年01月02日 15時34分48秒 公開 ■この作品の著作権は 瀬海 G3b0eLLP4o さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2018年03月01日 20時53分25秒 | |||
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Re: | 2018年03月01日 20時25分28秒 | |||
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Re: | 2018年02月16日 19時20分47秒 | |||
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Re: | 2018年02月16日 18時58分43秒 | |||
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Re: | 2018年02月12日 13時20分19秒 | |||
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Re: | 2018年02月10日 23時29分36秒 | |||
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Re: | 2018年02月10日 22時57分41秒 | |||
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Re: | 2018年02月10日 22時42分14秒 | |||
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Re: | 2018年02月01日 08時30分14秒 | |||
合計 | 13人 | 230点 |
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