女神転生 |
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「大体あの人は勝手なのですよ」 ゼウスの頭脳の一部に閉じ込められ、住まうメティスはひとりごち、これからどうしたものかと思慮を巡らせていた、思慮の女神であるゆえ。 「大体予言なんてものがあるからいけないの、神託を受けた予言者が、神が、予言したことは100パーセントなりたつととか、ほんと恐ろしい世界です、このギリシャ神話の世界というのは」 それはそうと、何故私がゼウス様の頭脳の一部をストレージし、意識媒体を置いているかが問題なのですが……それはこれからごゆっくり語らせて頂きます。 ゼウスは確かにいい男です、彼の童貞を奪ったのは私でしたし、そのせいで母ガイアに嫉妬されたこともありました。「息子とその一族と一番に関係をもつのはこのガイアじゃなきゃいけないんだから、あなたムカつく!」まあなんかアレな母親ですが、これでも私の義母でもありますので。 フツーに部族巻き込んで戦争になりそうなところをゼウス様があいだをとりもってくれたのですから、やはり彼は私にとっていい男なのです、例え私を飲み込んでいる間にヘラという正妻を持つといった行動に出た、憎い男であっても、憎さ以上にそういった行動に出る彼の心に好奇心が魅かれたのです。。 自信のある男とは言葉とは裏腹に、大体セックス下手って言われますけど、ゼウス様もやっぱりねということはありました、そのことをゼウスに話すと彼は不機嫌になってだんまりを決め込むんですよ、幼いところがあるんです。まあお義母さん、ヘラが怖いのは置いておいて。 なんか男女の事が起こると、めんどくさいって言うのでしょうか、しょうが無いっていうのでしょうか。 「メティス殿、変身が得意と聞いているが」 「はい変身できないものはございません」 私はなんにでも変身出来ましたし、また変身させることも出来るのです。 知恵の神の源泉は好奇心、汲めども尽きぬ好奇心ですわ。……今一番知りたいものがあるのです、このメティスに求婚してきたゼウス様の心に興味がありました、神の中の王の心に興味が…… 予言ではこのメティスと彼の間に出来た息子はゼウスを凌駕する子に育ち、やがてゼウスを倒すとされています。彼が父ウラノスを倒し、神々の王の座に着いたように、血は争えないということでしょう。 駄菓子菓子、彼は私をあきらめはしないのですよ、そのことは間違いないのです、望んだものは全て手に入れようとする彼だから、そこに惹かれたというのもこのメティスなのですわ。 「ではメティスよ、そなたはエロスにもなれるのか」 「お安い御用です」 エロスとは少年の姿をした神で、その矢に刺されたものは目の前にいるものに恋に落ちるという能力の可愛らしい神様なのです。 まばゆい光を放ち、私はエロスに変身しました。 そしてその矢をつがえ、彼に向けました。 「ゼウス様、お許し下さい……」 ぷひゅんっというかわいく弦が鳴って、彼の身体に当たりまして。 「胸の鼓動が聞こえるようであろう? 恋に落ちている者を更に惚れ込ませるとは、ますますそなたが欲しくなった」 わたくしを抱き寄せ、耳を心の臓にあてがわれゼウス様はおっしゃりました。 変身すると、その能力までも真似できるところが特徴ですの。 「ああゼウス様……お慕い申しております」 「おおメティスよワシもじゃ、しかしメティスよ、ワシはそなたと子を設ければ……」 彼を失うことになるのですわ、何という恐ろしい予言でしょうか、悲劇の運命なのでしょうか。 「わたくしに善い考えがございます」 好奇心がむくむくと湧き上がってきていました、そしてこの予感はもしかしたらその決められた運命を変えられるかもしれない、そんな女の予感があったのです。 「善い考えと? ワシの父が生まれてきた子供を飲み込んだ様にか?」 ゼウスの父クロノスは母ガイアとの子供を全て、生まれながらにその腹に納め、自己の保身を計ってきたのですが…… 「そうです、あなたの御父上がなさったように……このわたくしを、メティスを呑み込むのです」 「ば、ばかな事を!」 「二人が契りを結ぶのが出来ないというのなら、私は貴方の一部となりたい」 本心だったし、謀る必要もあったし、好奇心が何よりものを言わせたのですわ。 「で、できるものか……」 「子供ができているといっても?」 嘘、真っ赤な嘘です。しかし仕方がないのです、もし悪いというのなら、騙されたほうが悪いのですわ。 「な、ななな、な、何! まことか!」 顔面蒼白になるゼウス様、いよいよ予言が現実味を帯びてきたのですから。彼がそうしたように、生まれた子に神の王座を奪われる時が近づいていると彼は焦ったのでしょうね。 「間違いありません」 腹をさすり、憐れを誘うように、死に行くものを哀れむように、だがしかし最後に頬に手のひらを添えて許すように…… 「私をお呑み込み下さいませ、愛しているというのならば、それで直ぐにわたくしがいなくなるわけではありません」 男というものは、いざというときの判断が鈍るものですわ、しかしわたくしの様な女はいざというときは腹が据わっているものです。 「さあ、貴方の大好きな甘い甘いネクターに変身しましょう」 ゼウスが蜂蜜から作られた甘い酒を大好物なのをわたくしは知っていて、まばゆい光とともに一杯の極上のネクターに変身して見せました、無論味香り、全てが極上の酒でございます。 「むむ」 思わず唸り、その芳香に誘われ、思わず一口と口に付けてしまう、「旨い……」などという言葉では表現できないくらいすばらしかったでしょう、もう無言で一気に飲み干すゼウスさま。メティスの変身能力で為れないものは無いのですから、わたくしの神技は完璧ですわ。 こうしてメティス自身はゼウスの血と肉になり、そこに意識として頭脳という密室に住むことになったのでありますが、そこは思慮と知恵の女神。わたくしには計略がありました、謀無くして無謀な真似は出来ませんもの。 意識媒体となり、ゼウスさまという密室の中でメティス自身はゼウスの深層意識の奥の奥にまで入り込んでいきました。 空にはティタン神族、キュプロス族、ヘカトンケイル族が神界を狙っていまして、それをゼウス様の雷がそれを守っているのでございます。神界にはゼウス様の記憶の宮殿(マインドパレス、メモリーパレス)がございます、それはそれは巨大な三層構造の宮殿でして、その中に入った私はその知識の絵画に圧倒されました、思慮の女神のメティス自身として大変興味深く、好奇心を駆り立てられるではありませんか! わたくしは夢中になって宮殿中の絵画をむさぼりましたわ。 やがて宮殿には巨大な地下迷宮がある事を突き止めました、わたくしは当然興味がありますので、翼をひろげ深層意識の中に旅立っていきます。 記憶の宮殿の地下の更に奥にまで飛翔し、ありとあらゆる知と精神を覗き込みましたわ。これこそがメティス自身の好奇心のなせる業で、そのために神の中の王ゼウスに入りこんだのですから、愛する男の身体に入り、そしてその全てを見たいと、知りたい、考えたかったのです。 身体をのっとることなど造作も無いことでした、イカヅチの力を操り、ありとあらゆる神を従える権力もおもいのまま……しかしわたくしはあることに気が付いたのです、いえ予感としてはきっと存在しているだろうという『感じ』はあったのですから、わたくしはゼウスさまの呑み込まれることを選択したのです。 意識の階級最下部にそれが潜んでいて、そんなものがこの彼の中に宿っていることにひどく興味を引かれました。 「貴方はいつからそこに?」 「fd時sdん着んあjぢお……」 余りの深層意識にまで潜ると、意識自体がそれを言葉にすることにできないらしく、さしものメティス自身もどうしたものかと思案してしまいました。 その意識の形はメティスと比較しましても、引けを取らないほどの美貌を持った少女で、何かに怯えて外に出たがらないでいるように見えました。 会話が成り立たないのなら、意識を混ざり合わせ、その意識を感じてみるしかないのです。しかしそれは危険なことでした、メティスという自我が意識が溶けてしまうかも知れません。それでもなにか知の好奇心に突き動かされるようにして、わたくしはその少女と手を重ね、彼女を抱きよせ、その意識を感じようとしました、女の予感に従って、好奇心に突き動かされて…… 「! 貴方は……」 やはりメティスの考えていた通りでありました。彼の深層心理での願望を叶えてあげることできるのは他ならぬこのメティスなのだと、これはもう運命なのだと直感いたしました。 「そして私は転生することになりましょう」 少女の意識がメティスに取り込まれ、融合を始めてしまっていたが、彼女は純粋なメティスではなくなり始めていたが、かえってその方が都合がいいかもしれない、メティスはそう考えることにしました。 地下の地下から飛翔し、地上を遥か彼方に聳え立つ宮殿最上階、そこに住まう大神ゼウスにメティスは会いに行きます。 「ゼウス様、今日は折り入ってお話がございます」 もうそのときにはゼウスはヘラを誘惑し、遂に結婚することをメティスは知っていたのであるが、全くメティスは動じていなかった。 「ヘラとの結婚の話か……」 内心恐々としたゼウスだったが、彼の意識の全てを知ることのできるメティスに隠せるわけも無い、開き直るしかできないのだ。 「大神ゼウス様は、男神の中の男神ゼウス様はある願望をお持ちなのですね」 「な、なんの話であるか」 彼がひた隠しにして、彼すらも知らないことになっている意識とメティスは今融合状態なのだ、隠しておけるものではない。 「貴方様は女神になりたいと望んで居られる、女になりたいと、そしてゼウスという自分自身に抱かれたいと願っておられる」 「ち、違う、そんな……」 「持っていますよね、違わないですわよね」 間違いは無いのだ、自信ではない確信なのだ、意識に偽証は不可能。彼女は見て感じてしまったのだから。 「提案があります、いいえこれは命令といったほうがいいかもしれませんが、ゼウス様に逆らうことはできないはず、さあ心を開いて」 恋多き男の後ろめたさを逆手に取った、提案という形の命令。 「その中身とは……」 さしものゼウスというど、惚れた弱みには敵わない、メティスの前にたじたじである。 「ゼウス様を女神に変身させ、このメティスが男神になって貴方は私に抱かれるのです、ゼウス様の体内という閉鎖空間で起きていることならあの嫉妬深いヘラにもわかりますまい、それに貴方様はそれを望んでおられますよね? このメティスには全てお見通しですわ」 奇抜で大胆、エキセントリックなエロくて、エモい提案であった。 絶対神ゼウスの中に存在していた女性願望と融合したメティスの知恵だ、思慮の神の勇気なのだ。 女に変身したゼウスが、惚れた女神に抱かれる、ゼウスの望む究極の美女となって、ゼウスの本当に望む姿の男子に抱かれることができるのだ、メティスの力を使えば。 「ううう、しかし、もしそのようなことが他の神々や人間達に知られたら……」 きっと心の琴線に触れたのだろう、目くるめく理想に手が届くのならという思いと、もしばれたらという想いが錯綜していた、ゼウスは悩んだ、悩みに悩み3日ほどヘラを避けたほどである。 しかし、 「私たちの秘密にしておけば何の問題もありません」 結局メティスのこの言葉に押され、ゼウスは提案を受け入れることにした。 二人は手を取り合い、互い互いに目を閉じる。間もなくまばゆい閃光が二人を包み、二人は変身に入った。 全てゼウスの望むとおりの、パーフェクトな容姿を満たし、彼の心まで女性に変えるように、ゼウスが望む、ゼウスの女心に叶う男神になるために……これがメティスの愛の形なのだ。 そうして、 美少年か美少女か見分けがつかないような筆舌に尽くしがたい美貌の二人が生まれ、そして二人は抱き合った、求めあった、貪りつくした、これほどの恍惚を二人は味わったことなど無く、これからもまた感じ得ないほどの快感で、余りの快感に痺れ、痛みを覚えるほどで…… そしてメティスが遂に果てると不意に彼女は姿を消した。 その後、ゼウスの意識は懐妊し、彼女? は生みの苦しみを味わう。 これがプロメテウスにラブリュスと言う斧で自分の頭を叩き割りなんとかするように命じる一大事件の真相である。 そしてメティスはゼウスの娘、アテナとして転生を果たす。 ゼウスの秘密を知り、そのためなのか誰よりもゼウスの寵愛を受けた彼女にはこのような秘密が隠されていたのだ。 こうして女性の心も男性の心も理解する彼女の文化はヘレニズムに強い影響をもたらしたという。 血なまぐさいバルカン半島諸国において、最も真っ当な国として、ギリシャは今もその名を地図の上に残している。 了 |
かもめ 2018年01月02日 06時21分01秒 公開 ■この作品の著作権は かもめ さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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Re: | 2018年01月22日 23時23分51秒 | |||
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