御嬢さまのトリック |
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私は夕食に並んだ鴨肉のローストを口に運びながらお父様に話し掛けた。 「お父様、私、車の運転免許証の取得記念に仔猫を一匹飼いたいのですが?」 「ふむ。マリアのライセンス取得には素直におめでとうと言いたいが私は動物が嫌いでね」 お父様は屋敷のダイニングルームの長い机の向こうで蕁麻疹の出た腕をかき始めた。お父様は軽度の猫アレルギーだった。 「では一つ賭けを致しませんか? 私がお父様に気づかれず、仔猫を屋敷に持ち込めれば猫を飼っても良い。もし気づかれたなら、猫を飼うのを諦める。いかがでしょうか?」 「マリアは押しが強いな。ではその賭けに乗ろうじゃないか。だが約束は守ってもらうよ」「えぇお父様……」 私は一つ微笑むとお父様と契約を交わした。 翌日。早速、私はペットショップに行った。アクリルの窓のついたゲージの向こうでエジプシャンマウの仔猫がこちら見ていた。黄金色の体に、ヒョウ柄を蓄えたその容姿は、知性と気品が溢れていた。一目惚れだ。私はこの仔猫を買うことに決めた。 私は購入した仔猫の頭を駐車場で撫でた。 「あなたは今日から私の家族よ。そうね名前はマウにしましょう。エジプシャンマウのマウよ。マウ、あなたの顔は賢さで溢れているわ。だからこれから五分間だけ静かにしておいてね。完璧なトリックであなたを屋敷のなかまで運んで見せるわ」 私はそのまま父に借りたベンツS550を運転すると屋敷に帰ってきた。正門のところで守衛の中村に呼び止められた。中村は真面目を絵に書いたような男だった。助手席側のガラス窓を軽くノックすると私を車から降りるように促してきた。 「お父様から厳しく車を見張るように言われていますので」 私は素直に車を降りた。中村は普段見ない女の守衛と一緒に車の検査を始めた。さて中村は私の見つけた車のなかの密室を見つけられるかしら。 中村はまず運転席の扉を開けた。当然見える場所にマウはいない。次にシートのしたを覗いた。そこには荷物すらない。勿論、高部座席にもマウは乗っていない。 中村は車を半周すると助手席の扉を開けた。助手席のシートのしたを覗くがやはりマウはいない。中村は慎重にダッシュボードを開けた。そこにあるのは旅行用の地図と、曇り取り用のガラスクリナーだけだった。 中村はそのまま車の後ろに回ると、トランクルームを開けた。そこにはお父様のしまい忘れたゴルフバックがあった。 中村はゴルフバックから全てのクラブを抜き取るとバッグの奥を覗いた。それからバックの全てのチャックを開けてみるが、予備のゴルフボール以外、出てこなかった。中村はトランクを閉めると運転席に戻ってきた。 そのままボンネットのオープンレバーを指で引くと、車の前に回り込み、エンジンルームを覗いた。そこにはまだ熱を持ったままの機械が詰まっているだけだった。 中村はまだ諦めない。ポケットのなかから、鏡のついた指し棒を取り出すと、車の裏側を覗き込んだ。職務に忠実な男だとは思うけど、猫一匹を運ぶのに車を改造したりはしないわ。 「よろしいかしら?」 「最後に少し……」 私の問いに中村は女の守衛を呼んだ。女はジェスチャーでスカートを捲るように要求して来た。中村は背を向けた。私は素直にスカートをまくって見せた。女の守衛は言った。 「問題ございません」 私は中村に笑顔を見せるとベンツに乗り込んだ。そのまま屋敷の駐車場まで来ると車を止めトランクルームを開けた。 「マウ、さすが私が見込んだだけはあるわ。あなたはどんな猫よりも賢い」 私はマウに頬ずりすると仔猫を抱きしめ家のなかに入った。 「さあ自由にお遊び」 マウはヨチヨチとカーペットを歩きリビングで紅茶を楽しむお父様の足元に飛びついた。 「猫、どうやって中村の目をかいくぐったんだ。あいつは私の見込んだ男なんだぞ」 「中村は少し真面目過ぎるんじゃないかしら。恐らく私生活でも無事故無違反。たぶんそこが裏目にでたのね」 「どういう意味だ」 「お父様は車のスペアタイアがどこに隠してあるかご存知ないんですか?」 お父様はそこで始めて気づいたようだった。 「そう。大抵の車はトランクルームのパネルの下にスペアタイヤを隠してあるんですよね。私は車の教習所で習いましたけど、事故でも起こさないかぎり、大抵の人はその隠し場所を忘れてしまいますからね。では約束通り」 私はそう言ってマウを抱きかかえると自分の部屋に隠れてしまった。 |
彩太 2017年12月31日 01時06分41秒 公開 ■この作品の著作権は 彩太 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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