うんこではないです |
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警告:うんこではないですがうんこです。少しでも苦手な方はご注意ください。 〇 「ねえ月子ちゃん」と陽子 「なあにお姉ちゃん?」とわたし。 「キスってどんな味だと思う?」 「は? 何いきなり? 相手の口の中の状況によるんじゃない?」 「ふうん。じゃあ一か月歯を磨いてなくて、膿んだ口内炎を噛み潰した後の人が相手だったら?」 「考えられる限り最悪のキスの味だろうね」 「えーっ? 最悪って月子ちゃん、口にうんこ入ってる人よりも? やだーっ」陽子は頬に手を当ててけらけら笑う。 「……ねえお姉ちゃん。お姉ちゃんのその言動が通用するのって小学生までだからね」わたしは目を細くして言う。 「うん知ってる。だってあたし小学校の高学年の頃には既にクラスのみんなにフルシカトされてたもんねっ。きゃははっ」陽子はやけに楽しげに笑う。 「『陽子菌』とか言われてたもんね……」わたしは表情を引きつらせる。 「でも月子ちゃんはずっと友達でいてくれたよねっ」 「わたしもあんたしか友達いなかったもん。それよりさあ、お姉ちゃん、いったいなんでまたキスの味とか言い出したの?」 「だってほら月子ちゃん。あれ」 陽子が指差した先には喫茶店の看板があった。林の中に埋もれるようにして立っているツタ塗れの店の、ボロボロになった錆色の看板。確かに『キスの味』と書いてある。店名だろうか。 八月の初旬である。十六歳にしてニートであるわたしたち双子姉妹は、ママに拝み倒されて二人で始めたスーパーのレジのアルバイトを初日でバックれて、街をふらついていた。 理不尽な客や偉そうな店長の愚痴を陽子に言いながら、嫌なことから逃げられた解放感を味わっている内はまだ良かった。しかし無軌道に歩き回っている内に見知らぬ林の中に迷い込んでいて、気が付けばこんな喫茶店の前に辿り着いていたのだ。 「でもなんかボロボロなお店だね。潰れてんじゃない?」とわたし。 「でも営業中って描いてあるよー」と陽子。 「マジで? 隠れ家的な店なのかな? 本当に開いてるんなら願ったりなんだけど……もう喉からから」言いながら、木々の隙間からわたし達を照らし続ける灼熱の太陽に視線をやる。クッソ暑い。 「ここで休もうよぅ月子ちゃん。そいでから店員さんに道訊いて家帰ろう」 「妥当だね。そうしよっか」 わたしと陽子は喫茶店『キスの味』に入って行った。 〇 「いらっしゃい」 ほっそりして背の高い店員さんが出迎えた。二十歳前くらい。目が大きくて髪が長くて、肌が白い。わたし達姉妹も器量ならかなり良い方だと思っているけれども、この人も相当、美人だ。胸ポケットに付いているネームプレートには、『御園』と描いてある。 「カウンターの席へどうぞ」 勝手に案内されたカウンターの席でお冷を貰う。ひぃひぃ言いながお冷を呑んでいる陽子の肩までの髪が汗で頬に張り付いていたので、指先で払ってやる。とぼけた瞳も頬の朱色も大昔から何も変わらない。自分と同じ顔だけれど、いつまでも眺めてられるくらいには可愛らしい。 「ご注文はどうされますか?」 瀟洒な笑みを浮かべる御園。わたしはメニューを取り出してぱらぱらとめくってから、目を剥いて陽子に報告した。 「ど、どうしようお姉ちゃん。このお店コーヒー1980円だよ」 「え? うわ本当だ。ぼったくりじゃん」 「わたし達二人合わせて三百円くらいしか持ってないよね? 支払いとかどうしよう?」 「お冷だけ飲んで出て行こうよ。外暑かったから一時間くらいゆっくり休んで、あとおトイレも借りよう。ちゃんとおしっこしないとね。あと雑誌の棚にジャンプ置いてあったら読んで行こうよ。今週のジャンプ買う当番あたしだけど、それ免除ねっ!」 「厚かましいにも程があるでしょ……」わたしは言った。「っていうかそれズルい! お姉ちゃんが得するだけじゃんっ! ダメだからね。もしジャンプ棚にあってもお姉ちゃんの当番が来週に繰り越しになるだけで、免除とかしないんだもんねっ」 「ええ~、ケチだな~」 などと言い合っていると、店員の御園がわたし達に言った。 「冷やかしは困ります」御園は目を細めた。「冷やかしは困ります。とても困ります」 「いやでも実際お金ないから……」とわたし。 「冷やかしは困ります。とても困ります」御園は頬を持ち上げ、笑っていない瞳でわたし達を見すくめる。そしてメニューを開き、ある一点を指で示した。「お金がなくても注文できるメニューがあります。こちらを召し上がって行って下さい」 メニューの御園が指差した箇所には、『スペシャルフルコース:代金無料』とあった。ただしコメ印の隣に『完食できなかった場合ペナルティがございます』とも記載されている。 「あ、これすごいよ月子ちゃん。タダだって」陽子が嬉しそうに言う。「スペシャルフルコースだって。すごいねぇこれにしない?」 「いや、でもこのペナルティって……」わたしは眉を顰める。「すごく怪しい。どんなペナルティがあるっていうのさ?」 「命に関わる場合もあります」御園はニコニコ笑いながら言った。「その代わり、完食していただいた場合、美味しく召し上がっていただいたお礼に33万4千円を差し上げます」 「33万4千円?」陽子は目を剥いた。「すっごいっ! そんなにあったらあたし達一生遊んで暮らせるよ!」 「甘く見てんな人生……」わたしは言った。「ちょっと待って? なんでごはん食べただけでそんなお金もらえるの?」 「シェフである私が腕に寄りをかけて作ったスペシャルフルコースでございます。美味しく食べていただいたことに対する、ほんのささやかな感謝の気持ちです」と御園。 「チャレンジメニュー的な奴なのかな?」陽子は首を傾げた。「すっごい量が多いとか、辛いとか……」 「いいえ。量はふつうのランチ並。女性の方でも十分完食できる量ですし、激辛などという食を冒涜した趣向の低俗な料理を当店はお出しいたしません。栄養満点かつ安全な、他では味わえない珍味の数々をご賞味いただけますよ」 「なんかすっごいよ月子ちゃん」陽子は大興奮だった。「ゴハン食べて33万4千円もらえるんだってさ! やろうよやろうよ」 「いやでもお姉ちゃん、完食できなかったら命に関わるって……」 「注文していただいたからにはきちんと完食していただきたいというだけのことです。実際、これまでに注文いただいた方の中に食べきれなかった方はいらっしゃいません」御園は頬に壮絶な微笑みを浮かべる。「皆、美味しく完食していただき、賞金を受け取って帰っていただきました」 そう言うと、御園は店の奥に引っ込んで、大きな封筒を持って帰って来る。お札がぎっしり詰まっていた。 「ここに33万4千円、しっかりと用意しています。スペシャルフルコース、どうかご注文なさってください」 そう言われるとちょっと気になっても来る。胡散臭いが、所詮は食事をするだけの話だ。今までの挑戦者が全員完食して帰って行ったというのであれば、わたし達にも食べ終えられる公算は高い。バイトバックれた分のバイト代をママに誤魔化す為にはお金が必要で、33万もあれば一生とは言わないまでもしばらく遊んで暮らすことができる。 「しょうがないなぁ」わたしは言った。「やってみる? お姉ちゃん」 「うんっ」 陽子は笑顔で頷いた。 数分後、わたし達は猛烈な後悔を味わうことになる。 人生を甘く見ていたのは、わたしも同じだったのだ。 〇 「では改めてルールを説明させていただきます」カウンターに座るわたし達に、御園はニコニコとして言った。「これからお出ししますスペシャルフルコースは、栄養満点にして安全な珍味の数々でございます。そのすべてを完食していただいた場合、謝礼として33万4千円を差し上げますが、途中で食べるのをやめた場合、ペナルティは命に関わる場合がございますので、どうかご注意ください」 「はぁい」陽子は元気よく言った。「あたし何来ても大丈夫だよー」 「よろしい」御園は頷く。「それではご用意させていただきます。でぇはぁ……内藤さぁん、来てくださーいっ!」 両手をメガホンの形にした御園が店の奥に向かってそう呼ぶと、全身が緑色の全裸のおっさんが、四つん這いでやって来た。 目を丸くするわたし達。背は百七十センチ程で腹はでっぱり手足は痩せ細り、バーコード頭にメガネを引っ掛けて、顔中脂汗塗れのそのおっさんは、意外な程敏捷な動きでぴょんとカウンターに飛び乗る。そしてわたし達の方へ子犬のようにつぶらな瞳を向けた。 異常な点がいくつかある。まず全身が緑色であり、額に三つ目の大きな目があるのだ。額の瞳はどこか虚ろであり、作り物が嵌まっているだけなのか、さもなくばただのペイントであるかのようだった。 「なにこいつ?」わたしは身を退きながら言った。「裸のおっさんじゃん。きったないもん見せないでよっ」 「おっさんではありません。ルナア鳥の内藤さんです」 「はあ? ルナアチョー?」 「ルナア鳥です。西暦2810年にソクチビ半島で発見された新種の鳥類です」 「これのどこが鳥類だっていうの?」 「鳥類ですよ? 卵だって産みます」言いながら、御園は内藤の頭を撫でる。「ほら、内藤さん。あなたが鳥類だっていう証拠を見せましょう。鳴いてみてください、ほらほら」 「ぴよぴよ」 「ほらぁ。鳥類でしょう?」 「バカにしてんのかっ!」誇らしげな内藤と御園に、わたしはカウンターを叩いた。「一億歩譲ってそいつが鳥類だったとして、どうすんの? 丸焼きにして食べるの?」 「いえいえ。ルナア鳥は一般に食用に向かず、どこをどう調理したところで汚いおっさんの脱ぎたての靴下かの如きおぞましい味しかしないのです。その代わりに……一つとても素晴らしい特質を持っていまして」 言うと、御園は両手にゴム手袋を嵌め始めた。そして内藤の股から飛び出しているおぞましい突起物に手を触れると、あろうことかそこにガラスコップをあてがい始めた。 「は? いやちょっと待って。あんたなんてとこ触ってんの?」 「言っておきますがこの部位は生殖器ではありません。ご心配なさらず」 「じゃあそこはいったいなんなのよ?」 「ルナア鳥に備わる異次元へのゲートです!」御園は気の触れたような表情で言い放った。「ルナア鳥のこの部位はポンチイケウホと呼ばれているのですが、その奥はウコウボという異世界の泉に繋がっています。その泉に満たされたコッシオという液体は豊かな栄養に満ち溢れているのみならず、その珍味たるやまさに甘露の味わいと呼ばれています」 御園は嬉々とした表情で、ルナア鳥の内藤のポンチイケウホから黄金色の液体をコップ二杯分絞り出す。そしてやたらに泡立ったそれらをわたし達姉妹の前に一つずつ置いた。 「ああ。これこそが超一流シェフであるこの私が長い歳月をかけて編み出した珍味中の珍味! 他所では味わえない至高のドリンクなのですっ! どうかご賞味なさってください。さあっ!」 「誰が飲むかっ」わたしは言った。「これ小便じゃないの。頭おかしいんじゃない、あんた?」 「小便ではないです。コッシオです」御園は目を閉じて頷いた。「少々泡立っていますが、これは糖尿病という希少な病気にかかったルナア鳥が出すコッシオ特有のものであり、格別に高級であるとされています。滅多に味わえるものではありませんよ? さあさあ」 「どうしよう月子ちゃん。こんなのやだよ……」陽子は涙ぐんでわたしの方を見る。 「そうだよねっ! こんなのふざけてるよねっ!」わたしは憤慨した。 「あたしっ! こういうジュースは絶対にストローで飲むって決めてるのにっ!」 「ジュースじゃねぇからっ!」わたしは吠えた。「何飲むにしてもストローでいったん泡立てて遊ぶもんなあんたな? 汚いからやめろってママにどんだけ言われてもそれやるんだから……」 「ストローならご用意いたします」御園はストローを差し出した。「いくら泡立てていただいてもかまいませんよ」 「わぁい。ありがとうっ!」陽子は嬉々としてコッシオにストローを差し込む。「ぶくぶくぶく……楽しいな、楽しいな……ぶくぶくぶく……」 「実の姉がおっさんの小便泡立てて遊んでるよ……」わたしは頭を抱えた。「ガ〇ジだと知ってはいたけど……それにしたって見たくない光景ってものはあるよ。地獄かよここは……」 「あれ月子ちゃん? どうしたの? 飲まないの?」 「は? いやだってこんなただのおっさんの小便……」 「だってこれ、コッシオって名前で、異世界の泉を満たす液体なんでしょ?」 「ピュアッピュアかあんたは……。違うよ絶対。どう見ても今この店員、おっさんのちん〇んから小便絞ってたじゃん?」 「ち〇ちんではありません。ポンチイケウホです」御園はニコニコとして言った。「ルナア鳥の排泄器は股の間ではなく胸部にございます。人間でいうと乳首にあたる場所ですね。つまんで刺激すると青紫色の液体が十メートルばかし飛んでいくのですが、それがいわゆる尿という訳です。出すとこ見ますか?」 「誰が見るかよっ!」 「つ、月子ちゃん? これ、なんか変な味がするよぅ」陽子が隣で涙ぐんでいた。「なんかおしっこみたいな味だよぅ……」 「飲んだのかよ……」わたしは頭を抱える。「つかなんでおしっこの味知ってるの?」 「いやだってあたし月子ちゃんのおしっこ飲んだことあるし」 「はあ? どういうことよそれ?」わたしは身を退いて言った。 「いやだって月子ちゃんおねしょするでしょ?」 「あ? ……い、いや。小学校の五年生くらいまでね? そのくらいまではね? たまにすることもねあったよでもね?」 「今でもたまにするでしょう?」 「…………それがどうしたの?」わたしは目を背けて額から汗を流す。 「前に月子ちゃんがおねしょした時、朝起きたらベッドの真ん中あたりに黄色い水たまりできてたから、どんな味かなって飲んでみたの」 「なんで飲んだし!?」わたしは我が身を抱いた。「キモいキモいこの姉キモい!」 「月子ちゃん寝る前に練乳かけたかき氷食べてたから、甘いのかなって気になって」 「ふざっけんなよ! なんてことすんのよ? 切るよ姉妹の縁!」 「ひ、酷い! なんでそんな心にもないこというの?」 「わたしの夜尿癖なんてあんたにゃ関係ないでしょうがよっ!」 「関係あるよ! 大ありだよ! 一緒に寝てるんだから月子ちゃんがおねしょしたらあたしの寝床まで冷たくなっちゃうんだからねっ! だから気を付けてって言ってるのに、月子ちゃんいっつも夜中にジュースばっか飲むんだもん! 寝る前におしっこしとこうってお姉ちゃんがどれだけ言ったって、全然聞いてくれないし……」 「し、知るかよそんなのもう!」わたしは顔を赤くしてそう怒鳴り、そして溜息を吐く。「やめよう。こんな痴話みたいな姉妹喧嘩してたって何も解決しない。……それよりも陽子、わたし達はこの嫌がらせみたいな液体をどう飲み干すのかを考えるべきだよ」 そうなのだ。わたし達はこの黄金色の液体を飲み干さなければならないのだ。このフルコースとやらは完食しなければ『命に関わる』ことになっている。こんな狂気染みたドリンクを平気な顔で出してくるキチガイ店員のことだ。逃げ出そうとしたら本当に危害を加えて来る可能性もある。 「そ……そうだね月子ちゃん。ごめんね嫌なこと言って。おねしょで一番つらい思いをしているのは月子ちゃんなのにね……。お姉ちゃん、デリカシーがなかったよ」 「うんうん。とりあえず夜尿から離れようかお願いだから? ね? 「う、うん」言いながら、陽子はストローから内藤のコッシオをちゅうちゅう吸う。「まっずい」 嫌そうな顔をしながらも徐々にコッシオを飲み干していく陽子。こいつすごいな。アホそうに見えて実際アホだが妙な根性は昔っからある奴なのだ。 こいつが頑張って飲んでるのにわたしが拒否し続ける訳にもいかない。黄金色の液体の詰まったコップを口に当て、泡立ったそれを意を決して飲み干した。 どんな味がしたかって? 思い出したくもない。 〇 「ドリンクを最後まで味わっていただいてまことにありがとうございます」御園はニコニコとして言った。「次なる料理をお持ちいたしますので少々お待ちください」 ドリンクを飲み干してSAN値を削られたわたしは憔悴しきって御園の動向を見守った。割とけろっとした顔をしている陽子の存在がちょっとだけ頼もしい。 「次の料理はなぁに?」陽子が言った。「今のジュース嫌な味したから、次はちゃんとおいしいのにしてね?」 「ええそれはもう。珍味中の珍味でございます」御園は自信満々にニコニコとした。「ドリンクの次は野菜料理! 生野菜のスティックでございます」 御園はまずは皿に入ったキュウリやニンジンの野菜をわたし達の前に置いた。そして手で深さのある皿を用意すると、内藤さんの尻の近くにあてがう。さらには内藤さんの(人間でいうと)肛門にあたる部位に、手袋をした指先を突っ込んだ。 「んほぉおおおっ!」 内藤は充血した両目を大きく見開いて気持ちの悪い奇声を発した。さらには肛門から茶黒い粘性を帯びた物体をブリュブリュビチビチと吐き出して、深皿の中をあふれ出さんばかりに並々と満たした。 「特製ソースでございます」御園は言いながら茶黒い物体に満ちた皿をわたし達の前に差し出した。「野菜に付けてお食べください」 「うんこじゃねぇか!」わたしは怒声をあげた。「うんこじゃねぇか! これ食べろっていうのわたし達に? ダメだろそれは! 規約的にダメだろ!」 「性的興奮を齎すことを目的とはしていないので問題はありません。ただただ不愉快かつ下品なだけです」御園はニコニコ笑いながら言い切った。「そもそもこれはうんこではないです」 「うんこじゃなきゃなんなのさ?」 「UNKOです」 「アルファベットにしただけじゃん?」 「うんこは無関係です。英語の頭文字を並べた略称です」 「何の略なのよ?」 「『U(アルティメット)』『N(ナチュラル)』……」御園は思い悩むように目を伏せて、そしてにっこり笑って続けた。「……『KO(コ)』です」 「力尽きんなよ! KとOもまともに考えてやれよ!」 「私こないだ英検三級落ちたのでこれが限界です」 「ちゃんと勉強して挑めよ!」 「ルナア鳥の臀部にあるこの部位はナアリシと呼ばれているのですが、ここもやはり異世界へのゲートとなっています。ウチヨクチヨと言う名の異世界を満たす伝説の物質……それがUNKOなのです。一度食すれば集中力や記憶力が増すのみならず、高血圧や高血糖に作用するばかりか、コレステロールや中性脂肪を抑える効果をも持ちます。お肌も綺麗になり、ダイエットにも効果的です」 「わざとかってくらい胡散臭い!」 「どうしよう月子ちゃん。あたしこんなの無理だよぅ!」キュウリを握りしめて目に涙を溜めた陽子が言った。 「そ、そうだよねお姉ちゃん。いくらお姉ちゃんでもこれは食べられないよね?」 「あたし……お野菜なんて千切りにしたキャベツしか食べれないのにっ!」 「糞だけ食ってろよ!」わたしは机を叩いた。「あと胡麻ドレッシングな? あれ浸す程かけないとその千切りキャベツも食べられないもんなあんたな? ちょっとでも刻んだニンジンとかの異物混ぜてあったら一口も受け付けないもんな?」 「そうだよぅお野菜嫌いなんだよぅ……。あ、でもあれなら食べれる。ポテトサラダ!」 「ハム以外の具材が混ぜてあったらそれもダメじゃん?」 「ママが良く作る奴、刻んだキュウリ混ぜてあるもんね。あれ意地悪だよね」 「いっつもキュウリだけ摘出してわたしの皿に移すよねぇ。……一回間違えて口に入れちゃった奴を、わざわざ吐き出してまでわたしの皿に移して来た時は、あんたの見切り時を真剣に考えたもんだったよ……」 「ねえ月子ちゃん? ちょっとお願いがあるの」陽子は両手を擦り合わせながらわたしに頭を下げた。「すっごいわがままだし、月子ちゃん、ひょっとしたら怒ったり呆れたりするかもしれないんだけれど……聞くだけ聞いてくれない?」 「なによ? じゃあ言うだけ言って見て?」 「このソースはあたしが食べるから、月子ちゃんお野菜食べてくれない?」 「願ったりだよっ!」わたしは目を剥いた「ええマジで? マジでいいのその取り引き? そのUNKO全部お姉ちゃんが食べてくれるっていうの?」 「食べるよ。なんかすっごいまずそうだし、うんこみたいな色してるけど、でもうんこみたいなだけでうんこじゃないならお野菜よりも全然マシだよっ」 「あんたのキュウリやニンジンに対する嫌悪感は底知れないものがあるな」わたしは表情を引きつらせた。「いいよ。じゃあ食べられるもんならそのUNKO、一人で全部食べてみな?」 「う、うん」陽子は御園を見上げて言った。「スプーンちょうだい?」 「……はいどうぞ」御園は銀のスプーンを陽子に差し出す。「できたら野菜に付けて召し上がっていただきたいのですが……まあ食べ方は人それぞれですね?」 陽子は恐る恐ると言った表情でスプーンをUNKOに浸して、掬いあげる。茶黒い粘性の物体がなみなみと乗ったそれを、陽子は意を決して口に流し込んだ。 「うぐっ?」陽子は目を大きくし、顔を大きくしかめさせる。そして堪えるような表情を浮かべたかと思ったら……たまらず何かを吐き出そうとするように口元に手を添えた。 「あらあらあら。お客様? ダメですよぅ?」そこにすかさず御園がにじり寄り、陽子の手首を掴んで口を押えた。「一回口に入れたものを吐き出すなんてぇ……そんな粗相はいけませんねぇ」 「んぐ? んぐぐぐぐ。んぐ」目を白黒させる陽子。 「ほらほらほらぁ。ちゃんとごっくんして? ごっくんしたら一口分、減りますから。ほらぁ、召し上がってくださいよぅ」御園はニコニコしながら陽子の口を押え、鼻を撮んだ。 「んぐーっ! んぐっ。ンググーッ!」陽子は目から涙を流しながらもだえ苦しむ。 「飲み込んだら息ができますよー。ほらほらぁ」御園はサドスティックに頬を捻じ曲げる。 「ングググーッ。ングッ、ングググッ。ン、ンンー……ごくん」 陽子の喉が鳴ると、御園はそっと陽子の口から手を離してやった。陽子は目からぽろぽろと涙を流し、両手を握りしめてがくがくと身体を震わせた。 「た、助けてっ。助けて月子ちゃんっ!」陽子は縋るような眼をわたしに向ける。「無理無理無理! まっずい! これすっごいにっがくてまっずくてくっさい!」 「だろうなうんこだもんな! 誰がなんと言おうとそれはうんこだもんな?」わたしは泣き喚いた。「絶対無理だって!」 「うんこではありません。UNKOです」御園はニコニコ笑う。「ほらほらあなたも召し上がってくださいな」 御園はスプーンを置くと、キュウリを手に取ってたっぷりのUNKOを塗り付けてわたしの口へと持って行く。 「は? いやいやちょっと待って。わたしは野菜担当だってばっ」 「お姉さんにだけ美味しい思いをさせて良いんですかぁ? お野菜だけ食べるのは料理のコンセプトに反しています。それでは完食した内に入りません。あなたにもソースを付けたものを食べてもらいます」 御園の目はマジだった。有無を言わさぬ迫力があった。 「ま、待った! 分かった。分かったからそんなたくさんソース付けたのは勘弁して? ちょん付けでっ、ちょん付けで勘弁して!」 「ダメですよぅ。この料理はソースをたっぷり付けないと本来の味を楽しめないのです」 「ふつう逆だろうがっ! 野菜本来の味を楽しむ為にソースは控えめだろうがっ!」 「野菜本来の味って、このキュウリその辺のスーパーで廃棄されてた奴ですよ?」 「買って来たものですらないのかよ! ま、待って? そんな強引に、強引に口に突っ込んでくるのはやめて? 落ちてるから! ソースがボタボタ落ちて体にかかってるから! やめて、やめ、や……うぐぐ、ウグググーッ!」 〇 御園によって顔中をUNKO塗れにされながらも、わたし達はどうにか生野菜スティックを完食した。 「鼻が曲がりそうだよぅ月子ちゃん」ぼろぼろと涙を流しながら陽子が言う。 「鼻の下にUNKO付いてるからね」わたしは溜息。「ほらナプキン置いてあるからこれで鼻の下拭いときな? 気休めにはなるから」 「ありがとう月子ちゃん」 御園は嬉々とした表情で何やらパスタを茹でていた。市販品丸出しのパスタを鍋の中に放り込み、テキトウに湯がいて水を切って皿に移す。 「次の料理で最後です。題して……『スパゲッティミートクソース!』」御園は言った。 「ミートソース? やった! それならあたし好きだ」と陽子。「やったよ月子ちゃん。やっとまともなものが食べられるね?」 「……あんたには学習能力とか想像力ってものはないの?」わたしは溜息。「つか『ミート』と『ソース』の間に、すごく不穏な一文字が混ざってた気がするんだけど」 「もう一度言いましょうか? スパゲッティミートクソースです」はっきりした発音で御園。 「……それはちょっとまずくない? だいたいどんなものが来るか予想できるんだけど、色んな意味でそのまんまだし、著作権上の問題も……」 「この程度のパロネタはラノベなんかだとむしろ好まれるものなのでは? それにあなたの仰りたいであろう作品群は既にパロディもオマージュもされ尽くしていて、今更私達が怒られるとは到底思えません」 「ねえねえ月子ちゃん。何の話をしてるの?」陽子がわたしの袖を引く。 「……あんたは知らなくていい」わたしは頭を抱えていた。 御園はニコニコとゆでたパスタの乗った皿を内藤の尻の下に持って行き、ナアリシを手袋付けた指でほじくった。 「んほぉおおっ!」嬌声を上げる内藤。ぴちゃぴちゃと情けない音と共に僅かに漏れ出す微量のUNKO。 「ほらほら内藤さん。量が物足りませんよ。二回目だからって情けないですね。もっと奥までほじらないとダメですか?」ニコニコ笑いながらナアリシを穿り回す御園。 「んほっ。んほほっ。んほぉおおっ!」脂汗をかきながら下半身に力を籠める内藤。 「そんなに汗かいちゃダメですよ内藤さん。額のメイクが落ちるじゃないですか? あなたは第三の目を持つ新種の鳥類、ルナア鳥なのですよ?」言いながら人差し指の根元までナアリシに突っ込む御園。「二度目の排泄くらい、余裕でこなしてくれなければ困ります。ほぉらあ、ぶちまけてぇー」 「んほぉおおおお! ンホォオオオオオオァアアアアッ!」 鼓膜の裂けるような悲鳴が聞こえたかと思ったら、ブリュブリュブチャブチャというおぞましい音と共に、内藤のナアリシから大量のUNKOがまき散らされた。 「最早地獄でしかない……」わたしは身震いする。 降りかかるUNKOでまっ茶色に染まったパスタ。御園はニコニコと微笑みながらミートクソースとパスタをフォークで混ぜ合わせると、わたし達の前にぽんと置いた。 「お待たせしました。スパゲッティミートクソースです。超一流シェフの私が完成させた至高の料理です」 「食べ物に謝れよぉおおお!」わたしは悲鳴をあげた。「つかどこにミート要素あるの? 偽装表示だろうがよ!」 「内藤さんは年に一回肉料理を与えたり与えなかったりしているので、このソースにも多少のミート要素はあります」 「もっと頻繁に食べさせてやれよぉっ」 「普段は豚の餌を与えています。大のごちそうですね?」 「わたし達が食べさせられてるものに比べたらなんでもごちそうだよ! つかてめぇさっきから見てたら一流シェフ自称してる割に碌な料理してないじゃんかよっ! 野菜とかパスタに糞かけて終わりって、どこが一流だこらっ!」 「失礼な。パスタ茹でる時ちゃんとお塩を入れましたよ?」御園は頬を膨らませる。 「たいした一工夫だなおいっ!」わたしは吠えた。 「つべこべ言わずに召し上がってくださいな」言いながらフォークを指し示す御園。「この料理は啜って食べなければならない上に、硬めに茹でてありますのでかなりの回数の租借を必要とします。どうぞクソースを味わいながらゆっくり食べてくださいな」 「悪魔かよこいつ……」わたしは頭を抱えた。「いったい……いったいどうしてわたしはこんなことに……」 「が、がんばろうよ月子ちゃん。これで最後だよ?」陽子が励ますように言った。「お姉ちゃんもたくさん食べるから。一緒にがんばって、なんとか完食しよう? ね?」 「……つーかさぁ?」わたしは陽子を睨みつける。「そもそもの話さぁ……あんたがこの喫茶店見付けなければ、わたし達こんな目に合ってないよね? あんたの所為じゃん?」 「え……? いやちょっと待って月子ちゃん」陽子は困惑したように目を丸くする。「そ、そんなこと言われたって……あたし悪気があった訳じゃないし……」 「さっきのソースだって、結局はわたしも半分くらい食べさせられたし。あんたソースは自分で食べるって言っておきながら、その約束破ったでしょ」 「そ、それはその……思ったよりずっとまずかったから。だから、一人じゃとうてい食べきれなくて……しょうがないじゃない」 「あんたそういうとこあるわ。どん臭くって、いつもわたしに迷惑かけといて、自分は言い訳ばっかで……」 言いながら、わたしは自分が酷い八つ当たりをしていることに気付いていた。 アタマのゆるいこいつに迷惑をかけられてきたのは事実なのだ。しかし今回のことはどちらに責任があるという話ではないし、そうでなくとも誰かの所為にして自体が好転する訳ではない。自分がちょっと楽になりたいからって大事な片割れを罵るだなんて、してはいけない行動だ。 「……ごめん陽子」わたしは反省して陽子を見る。「ただの八つ当たりだよ。本当に、ごめ……」 陽子は泣いていた。 無表情のままぽろぽろと涙を流していた。拳を握りしめて泣いていた。わたしは目を丸くする。何があっても平気そうに笑っているこいつが、こんな悲しそうな顔をするなんてめったにないことだから。 「ごめんね月子ちゃん。いつも迷惑かけてるね」陽子は涙を拭った。 「い、いや。迷惑かけられてるとは思ってるけど、でもお姉ちゃんだし、ちょっとくらいなら別にかまわないよ」 「ううん。本当にたくさん迷惑かけてるよ。例えばね、小学生の時、自転車で二人乗りしてる時、あたしがじゃれて月子ちゃんに目隠しして、トラックに轢かれちゃったりとかしたじゃない?」 「一緒に生死を彷徨ったねぇ……」わたしは遠い目をする。 「あと……看護学生の親戚のお姉さんの注射器盗んでお医者さんごっこした時とか、あたしが月子ちゃんにジュース注射しちゃったこともあるし……」 「意識不明の重体になったなあそういや……」わたしはこめかみに手をやる。 「本当に、本当に色々な迷惑かけた。本当に酷いことしてきたっ。本当にごめんなさい」陽子は瞳に涙を溜め、決意に満ちた表情を浮かべる。「ねぇ月子ちゃん、あたし、このスパゲッティ一人で全部食べるよ」 「は、はあ? なんでそんなこと……」 「一人で全部食べるから……だから、今まであたしが月子ちゃんにかけて来た迷惑の内の……ほんのちょっとだけを許して欲しいの。だからね……これからもずっと、仲良しでいてっ」 陽子はフォークを手に取ると、スパゲッティミートクソースを絡ませて、ためらいながらどうにか口に運んだ。 「う、うぐぐっ」苦しそうな顔でそれを咀嚼する陽子。「んぐ。んぐぐぐ。んぐ。……ごっくん」 飲み込んで、陽子はぶきっちょな握り方でパスタを持ち上げ、口に入れていく。そして涙をボロボロ流しながら本当に苦しそうにそれを噛み潰して、飲み込んでいく。 「食べるからね。全部食べるから」陽子はそう言って一心不乱にフォークを動かす。「月子ちゃんの為に……お姉ちゃん、がんばるからねっ」 尋常じゃないまずさのはずだ。UNKOのクサさとニガさはわたしも身をもって思い知っている。口の周りまっ茶色にしてパスタを食べている陽子の顔色は青白く、今にも嘔吐しそうであり、それでいながら手を止める様子が一切なかった。本当に陽子は、わたしの為にこのパスタを一人で完食しきるつもりなのだ。 「て、店員さんっ!」わたしは手を挙げた。「わたしにもフォークを下さい」 「はいどうぞ」御園はフォークを手渡して来た。「どうぞ、召し上がってください」 「いいよ、月子ちゃん。あたしに食べさせて」陽子が言った。 「ううん。わたしも食べる。お姉ちゃんにだけつらい思いをさせたりしないよ」 「でもあたし、月子ちゃんには本当に迷惑ばかりかけて……」 「迷惑なんてお互いさまでしょ?」 「そんな……どう考えてもあたしの方が……」 「ママを殺そうとしたわたしが麦茶に煙草の煮汁混ぜて、あんたが飲んじゃったことあったじゃない? 病院に運ばれてさ。あれはわたしがあんたにかけた迷惑でしょ?」 「そんなのは全然いいんだよ」陽子はぶるぶる首を横に振る。 「寝てるあんたの鼻と口ガムテープで防いだらどうなるか気になって、本当にやって殺しかけたこともあったじゃん? あれだって迷惑だよ」 「脳に酸素いかなくて余計にバカになったけど、でも月子ちゃん、きちんと謝ってくれたじゃない? いいよっ」陽子は拳を握りしめる。 「あんたが五年くらい一生懸命可愛がって世話してたペットの猫を、わたしがおもしろ半分に鍋で煮込んだこともあったじゃない? 骨だけになるってネットで見たから……」 「それは……酷いと思ったけど、でも月子ちゃん一緒にお墓作ってくれたから、許したよっ!」陽子は握りしめた拳を掲げた。「月子ちゃんのやることならあたし何だって許すよ!」 「わたしだってあんたと同じくらい迷惑かけてるんだよ」わたしは陽子に微笑んだ。「お互いさまなんだよ。お互いに迷惑かけることもあるけれど、それでも許し合って、助け合って、今日までやって来たんじゃない?」 「月子ちゃん……」 「だから、このパスタは二人で一緒に完食しよう? この先どんなにつらいことがあったとしても、一緒に乗り越えて行こうよ」 「ありがとう……ありがとうね、月子ちゃん」陽子は感無量と言った表情で涙ながらに頷く。 「じゃあ……食べるね」わたしはフォークにスパゲッティミートクソースをたっぷり絡ませ、口に運ぶ。「うっおぇえええっ! ゲロゲロゲロゲロっ!」 「つ、月子ちゃぁああん!」吐しゃ物と共にミートクソースを吐き出したわたしの背中を、陽子は必死の形相でさすってくれた。 「ま、ま……負けてたまるかあああっ!」クソースに塗れたパスタに、わたしは必死で食らいつく「うおりゃぁあああっ! あああああっ!」 わたしは食った。一心不乱にスパゲッティミートクソースを食った。 何度も何度もつらくて吐き出しそうになって実際三回くらい吐いたけど、それでも陽子と二人で励まし合いながら量を減らした。 全身が痙攣し、顔中ゲロとUNKO塗れになって、それでもわたし達は諦めなかった。そしてついにはわたしの持ったフォークが最後のパスタを絡め取り……口の中へと消えた。 「完食……ありがとうございますっ!」御園はほほ笑んだ。「今までフルコースに挑戦した方は皆途中で逃げ出そうとしたので、強引に捕まえて無理矢理口に料理をねじ込んでいたのですが……自分達の意思だけで食べ終えたのは、あなた達が初めてです」 言いながらスパゲッティミートクソースの皿を下げる御園。四つん這いの姿勢で拍手をする自称鳥類の内藤。 「本当に、本当におめでとうございます。どうかまた……いつでもいらしてくださいね」 御園は言う。わたしは大いなる決意を持ってそれに返事をした。 「二度と来るか」 〇 33万4千円の入った封筒を受け取って、わたし達は喫茶店『キスの味』を出た。 「すっごいお店だったねぇ……」青白い顔をして陽子が言った。 「本当だねぇ……」わたしは言った。「もう……しばらく茶色いものは見たくもない……」 顔中まっ茶色にした陽子と二人、林の中を歩く。まだ口の中にクソースの味が残っている。 どう歩けば街へ出られるのかは、御園に教わっていた。 「本当に33万円ももらっちゃったねぇ。あの人、案外良い人なのかもしれないよ」陽子がそう言って微笑んだ。 「あんたのその純粋さはたまに尊敬したくなるわ」わたしは肩を竦めた。「……ちゃんと完食できたのはお姉ちゃんがいてくれたお陰だよ。ありがとうね」 一日も高校に行かずにニートになったわたし達には、この先きっと様々な困難が待ち受けているはずだ。しかしそれにも、陽子と一緒なら立ち向かっていけるような気持がした。地獄のフルコースを一緒に耐え抜いたように。 陽子はアホだし迷惑な奴だけれども、それでもかけがえのない家族で家族なのだ。お世辞にも性格の良いとは言えないわたしと無条件に一緒にいてくれて、優しくて真っ直ぐな親愛をくれる。 「ううん月子ちゃんのお陰だよ。あたし本当に、月子ちゃんいて良かったよ」ほほ笑んだ陽子はそう言って、わたしの肩を掴む。「ねえ月子ちゃん。良い?」 産まれた瞬間からずっと一緒にいるその顔に、わたしはじっと見詰められる。鏡を見ているかのように同じ顔だけれど、姉の表情にはわたしにはない綺麗な安らぎが備わっていて、じっと見ていると吸い込まれそうな心地になるのだ。 「な、なに?」わたしは目を丸くする。「良い、って、何を……? ん、……むぐぐっ」 陽子はわたしの唇に自分の唇をかぶせて来た。 大人同士がやるみたいな熱烈なキスだ。たっぷり一分ほど唇を吸われ、腰が抜けそうになったところで陽子の顔が離れる。心臓を高鳴らせるわたしの顔を、唾液でつながったままの陽子がじっと見つめた。 「どうかな月子ちゃん? わたしのキス、何の味がした?」 林の影に立つわたし達を声量な風が撫でつけた。わたしは唇を拭い、陽子を見つめ返しながら……心から正直にこう答えた。 「うんこだよ」 |
粘膜王女三世 2017年08月13日 23時58分01秒 公開 ■この作品の著作権は 粘膜王女三世 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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