どらえげーと

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 一、

「ついに完成したのじゃ!」

「ん? 今度は一体どんなものを作ったんだよ、博士?」

「聞いて腰を抜かすなよ、殺介(コロスケ)君。このゲートはのぅ、手を入れた人にとって六時間以内に必要となるものを取り出すことが出来るという、とても画期的な発明品なんじゃ。その名も」

 キレテツ博士がわざとらしく一呼吸置く。そして

「どらえげーとー」

 何故か妙に間延びした声で、その発明品の名を高らかに謳い上げた。


 二、

 俺は殺介。
 一子相伝の暗殺拳『サイレントヒル・レクイエム』の使い手ではあるが、それ以外はごく普通の高校生(童貞)。
 今もキレテツ博士の研究所で有意義に高校生活をサボっている。
 
 対して『どらえげーと』なるインチキくさい発明品を堂々と誇示する爺さんは『あなたの街のマッドサイエンティスト』ことキレテツ博士。
 一般人な俺には理解不能な発明品ばっかり作っているが、たまには意外と役立つものを作ることもある。そう、たとえば……

「博士、凄いニャ! 天才ニャ!」

 キレテツ博士の怪しげな発明品に、無邪気な歓声をあげる彼女。
 語尾からお察しのように、頭にはもちろんネコミミ。
 彼女は闇夜(やみよ)ちゃん。以前は名前の通りのネクラな性格で、飛び降り自殺をしようとしているところに「死ぬならワシの発明に付き合ってほしいのじゃ!」とキレテツ博士が説得し、発明品『ねこみみもーど』で明るいネコキャラへと見事転身した。
 ちなみにおっぱいが大きい。
 とてもいいことだ。揉ませてほしい。

「ふふん、そうじゃろ? ワシって天才じゃろ? よーし、では栄えある『どらえげーと』の初体験者を闇夜ちゃんにお願いするかの」

「嫌ニャ!」

「ほへっ!?」

「そんな怪しげなゲートに手を入れるなんてしたくないニャ! 死ねニャ!」 
 
 もっとも性格が明るくなったと同時に、闇夜ちゃんは素直に思ったことを口にするようになった。
 まぁ博士の発明品だし、こんなものだろう。
 それに闇夜ちゃんが断固拒否する姿勢を取った時、その巨乳がぷるんと揺れた。
 実にいい。柔らかそう。舐めまわしたい。

「むぅ。ならば殺介君、君がやるのじゃ!」

「え? 俺もヤだよ。博士がやればいいじゃねぇか」

「何を言う、ワシに万が一があったらどうするんじゃ!」

「万が一があるかもしれないものを他人に勧めるあんたこそ何言ってんだ!」

 かくして発明品の前で「お前がやれ」「あんたがやれ」「ふたりがやればいいニャ」とやりあい始める三人。
 てかね、この『どらえげーと』なる発明品、姿形は某ワープ扉とそっくりなんだけど、開かれた扉の向こう側が真っ暗闇ってのが怖いんだよ。下手に手を突っ込んだら最後、いきなり中に引きずり込まれてもおかしくないじゃないか。



 三、

 ……そんなわけで。

「闇夜ちゃん、もっとぎゅっとして! ぎゅっと!」

 俺は背中にしゃがみつく闇夜ちゃんに声をかけた。
 素直な闇夜ちゃんは言われるがまま、さらにぎゅっと体を密接させてくる。
 背中に当たるたわわな弾力が何とも心地よかった。

 結局『どらえげーと』に手を突っ込むのは俺になってしまった。
 闇夜ちゃんに右腕へ抱きつかれ、そのおっぱいを押し付けられてお願いされては、さすがの俺も受けざるを得まい。
 でも万が一にもあちらの世界に引きずり込まれてはたまらないので、残りのふたりには俺の体に抱きついて何かあった時は引っ張ってもらうことにした。
 ちなみに先頭が俺、次に闇夜ちゃん、そして最後尾にキレテツ博士という順番だ。

「絶対手を離さないから安心して手を突っ込む……ニヤッニャッ!? ちょっと博士、お尻に何か固いものが当たってるニャ!」

「なんだとジジイ! 貴様、その歳で何やってやがる!?」

「まだ何もしとりゃせんわ。しかし、殺介君がいつまでもグズってるようなら、ワシの愚息がメルトダウンしてもおかしくはないのぅ」

「にゃー! 殺介、早く突っ込むニャー!」

 闇夜ちゃんが「早く! 早く突っ込んで。もう我慢できない!」なんてエロい妄想をかきたてる言葉を連発するので、しばし聞き入っていたい気持ちになった。
 が、このままではキレテツ博士が暴走してもおかしくないので、俺は意を決して『どらえげーと』に手を突っ込む。

「……あ、あれ?」

 何の反応もなかった。
 手を突っ込んだら突然光を放つとか、引きずり込まれるとかもなく、それどころか手に何か触れる様子もない。
 真っ暗闇で見えない向こう側で、俺は手を上下左右に振ってみせる。
 でも、何も触れない。

「おい、博士。何にもないぞ、壊れてるんじゃないか、これ」

「そんなわけなかろう。今、『どらえげーと』は手を突っ込んだ殺介君の未来をサーチしておるのじゃ。もう少しすれば未来で必要となる何かが手に現れるはずじゃぞい」

「ホントかなぁ。信じられな……おっ!?」

 突然、ずっと虚空を空振りするばかりの手に何かが押し付けられた。
 咄嗟にぎゅっと握り締める。
 なんだろう、粉薬が入ったアルミ製の袋みたいな感触だ。

 俺はぐいっと『どらえげーと』から手を出して、指を開いた。

「え? こ、これはまさか……コンドーム!?」

 え? なんでコンドーム?
 最初は意味が分からず、驚いてしまった。
 が、『どらえげーと』の内容を思い出すにつれて、別の意味で興奮してきた。
 手を突っ込んだ人の、この先六時間以内に必要となるものが現れるという『どらえげーと』。
 そこでコンドームをゲットしたということは、それってすなわち!

「大失敗だニャー」

「おかしいのぅ、どこでミスったのじゃろう?」

「おい待て、お前ら! それってどういう意味だ!」

 心底つまらなそうな様子で立ち去ろうとするふたりに思わず怒鳴った。

「えー、だって殺介にコンドームなんて一生必要ないニャー。断言出来るニャー」

「断言するな! あ、それとも闇夜ちゃんはコンドームなんか使わず俺には生で」

「死ねニャ!」

 最後まで言うことなく否定されてしまった。

「うーん、理論は完璧だったはずなんじゃがのぉ」

 その横でキレテツ博士が試しとばかりに『どらえげーと』に手を突っ込む。
 どうやら俺の結果を見て、とりあえず安全と判断したらしい。

「ありとあらゆる可能性世界へアクセスし、その中からこれから六時間以内に体験する確率が極めて高い事象に必要なものが現れるはずなんじゃが……」

 キレテツ博士がぶつくさ言いながら手を引き抜く。

 その手には『東大名誉博士』と書かれた身分証明書が握られていた。

「やっぱり大失敗ニャ!」

「不良品だな」

「ちょっと待つのじゃ、お前ら。きっとこの発明が世に認められて、学会に復讐を果たしたワシを東大は終身名誉博士として迎え入れ……おおい、お前ら、ちょっとは人の話を聞くのじゃー」

 有り得ない妄想に陶酔するキレテツ博士を置いて、俺は博士の家を後にするのだった。


 四、

 博士の研究所を後にして向かった先は学校だった。
 俺は高校生。だから学校に行くのは当たり前だ。
 べ、別にコンドームのお相手を探す為に学校へ向かうわけじゃないんだからねっ。勘違いしないでよっ!

 学校に着くと、ちょうど昼休みだった。
 紛れ込むには丁度いい。先生方には何も言わず、あたかも「え、ちゃんと午前中からいましたよ」って顔をして午後の授業に臨むとしよう。

 もっとも、無能な教師たちはそれで騙せても、クラスメイト達はそうもいかない。

 教室の扉を開けると、人気者な俺の登場に彼らは一斉に沸き立つ。
 その様子はあたかも昼時の食堂のようだ。
 そんな彼らの脇を俺はクールに通り抜けて、まずは自分の席へと向かう。

「…………」

 と、そこへクラスメイトの女の子たちが立ち塞が……否、座り塞がった。

「……あの」

「ぎゃははは! それ、ウケルー! って……あ、何?」

「え? いや、えーと、そこ、俺の席で……」

「だから何? 見て分かんない? 私たち、いまお昼ご飯食べてんの。それとも何、ご飯を食べるのを止めて、どこか行けとでも言うの?」

「いや、そういうつもりじゃ……すんません、失礼しました」

 俺は回れ右をした。
 ったく、俺の席に座りたいのなら座りたいと素直に言えばいいのに、この恥ずかしがりやさんめっ。

「なによあれ、まるで私たちが悪いみたいじゃない。昼休みになってのこのこ学校にやってくる殺介の方が悪いわよねぇ、絶対!」

 ……おまけに俺を呼び捨てにするとはカノジョ気取りかよ。まったく参るね、どうも。
 でもすまんな。財布の中のコンドームをお前たちに使うわけにはいかないんだ。

 と、その時だった。

「おらおらおらー! 静かにしろ、てめぇら!」

 いきなり教室の扉が乱暴に開かれたかと思うと、マシンガンやら拳銃やらを手にし、マスクで顔を隠した連中が入ってきた。

「な、なんだ!?」

「え、あの人たち、銃を持ってる!?」

 騒然とする中、五人の銃装備した男たちが次々と入ってきて黒板の前に立ち並ぶと

「我らは過激集団『スクール・オブ・ソドム』。これよりこのクラスは我らが占領した!」

 そう宣言して、各々銃を構えた。

「『スクール・オブ・ソドム』だって? 一体何の真似だこれは?」

 そこへ学校で一番、いや失礼、俺に次いで二番目に女の子にモテるサッカー部のキャプテンが皆を代表して連中へと問いかける。

「あんたらマスクで顔を隠しているが、その中年太りの体型からして、どう見ても学生じゃないな? いい年したおっさんが真昼間からサバゲーごっこかよ!」

 ほぉ、さすがはナンバーツーだ。この状況においても動じず、連中の体型から年齢を見破るとはたいしたものじゃないか。

「……貴様、威勢がいいな。さぞかし女の子にモテるだろう?」

 そんなナンバーツーに、マスク姿の連中のひとりが銃口を向けながら逆に質問を投げかけた。

「はぁ? それが一体何だって言うんだ?」

 訝しむナンバーツー。
 その後ろで女の子たちが「そうよ、彼は学校で一番モテるんだから!」「きゃー、カッコイイー」と黄色い声援を送る。
 おいおい、お前ら、いくらナンバーツーが頑張っているからって、ウソはダメだろ、ウソは。
 学校で一番モテるのはそいつじゃなくて俺――

「ふん。やはりモテモテか。だったら死ね!」

 やにわにマスクの男の拳銃が火を噴いた。
 その瞬間、ナンバーツーの右肩が血を噴き出し、体全体も吹き飛んで机を薙ぎ倒した。

 教室が静寂に包まれる。が、すぐにでも未曾有の大恐慌が訪れるのは想像に難くない。きっと全員がパニックに陥って、一斉に教室の後ろ扉へと殺到するはずだ。

 ならば、やるなら今しかない。
 俺はすすっと足を進めた。

「おい、お前。どこに行くつもりだ?」

 しかし、あっさりマスクメンに見つかっちゃったヨ。

「いや、お構いなく。便所メシは馴れてますんで」

 しゅたっと片手を上げて教室の後ろ扉に手をかける。

「誰が外に出ていいと言った?」

 マスクメンのひとりが銃口をこちらに向けながら歩み寄ってくる。
 クラスメイトたちは必死になってバリケードを作り、男が近づくのを阻止……しようとはしなかった。むしろモーゼの十戒よろしくがばっと左右に分かれて、男のために道を作る。

「どうやら本当に死にたいらしいな。だったらお前が最初に――」

「待てっ!」

 男が引き金を絞り込むように人差し指を収縮させていくのを、奴らの仲間のひとりが一喝して止めた。
 さっきナンバーツーを撃った男だ。

「そいつをこっちに連れて来い!」

「し、しかし」

「いいからこっちへ連れてくるんだ」

 どうやらそいつが『スクール・オブ・ソドム』のリーダーらしい。
 俺に近づいてきた男は命じられて忌々しそうに拳銃を下げると、俺の手を掴んで強引に引っ張ってきた。
 成すすべなく連行される俺。クラスメイトの女の子たちから「やめて!」「殺介さんにひどいことしないで!」なんて声が……ちっとも上がらないのは何故だ? 理解できん。

「ほお。貴様、なかなかいい面構えをしている」

 黒板の前に連れて来られた俺の持ち物検査を仲間に命じると、リーダーと思われる男がくいっと顎を持ち上げて見つめてきた。
 え、ちょっとやめて。そっちの趣味はないんだけど。

「貴様、さぞかしモテないだろう?」

「ああ、男にはモテたことがないぞ。むしろ世界中の女にモテる俺に嫉妬されて仕方ないぐらいだ」

 俺は大真面目に答えたつもりだったが、何故か男は大笑いした。
 い、いかん、気に入られてる? お尻が危ない!?

「リーダー、やっぱりこいつ、持ってましたぜ!」

 すると俺の財布の中身を調べていたマスクマンが何かを摘んでリーダーの男に手渡した。

「あ、それは!」

「はっはっは。モテないくせに万が一のことを考えてコンドームを財布に忍ばせる。それでこそキモ童貞だ!」

 リーダーが手に取りひらひらと振って見せるのは、言うまでもなくキレテツ博士の発明品『どらえげーと』でゲットしたコンドームだ。

「きゃー! 殺介のくせにキモーイ!」

「一生童貞の癖にコンドームを持っているなんて超ウケルー!」

「キモいわキモいわキモくて死ぬわー!」

 突如としてクラスメイトの女の子たちから巻き起こる「キモい」の大合唱。
 え、いや、違うんだって。
 確かに俺は童貞だけど、このコンドームは六時間以内に使うことになっていて、それはつまり童貞脱出ってことで、だけどほら俺って紳士だからやっぱりちゃんと避妊はしなくちゃいけないなって思ってコンドームをこうして持ち歩いているわけで……。

「ああっ、ちょっと待て。違うぞ、お前ら! 俺はお前らが考えているようなキモい考えでこれを持っていたわけではないんだ。否認させてくれ!」

「避妊させてくれ、だって! キモーイ!」

「そうじゃねぇ!」

 なんだよこれ。なんなんだよこれ。なんでコンドームを持っていたことがバレただけでこんなことになっているんだよ?
 
「ふっ、モテない童貞のくせに女体を夢見てコンドームを持つ……か」

 そんな涙目の俺に、マスクメンのリーダーがぽんぽんと肩を叩いて言う。

「いいぞ、お前を我ら中年童貞集団『スクール・オブ・ソドム』の特別戦闘員に迎え入れよう。さぁ、銃を取れ。今から我らとともにこの教室を制圧し、男たちは皆殺しにして、警察が制圧してくるまでの間、存分に女体の神秘を追求しようではないか!」

 
 五、
 
「それはまた災難じゃったのぉ。で、それからどうしたんじゃ?」

「決まってるだろ。全員、俺の暗殺拳『サイレントヒル・レクイエム』の餌食にしてやったわ」

 その日の夜、俺はぐったりしながらキレテツ博士に昼間学校で起きたことを話した。
 リーダーの誘いを断り、マスクメンたちを『サイレントヒル・レクイエム』で「永遠に夢の中で『キテレツ大百科』の再放送を見る」という終わりのない終わりに叩き込んでやったのはいいものの、その後に警察から長々と事情聴取を受けてとても疲れてしまった。

 しかも、結局六時間経ってもコンドームを使う機会なんて訪れなかったし。

「やっぱり失敗作だろ、『どらえげーと』」

「いや、そうとも言い切れんぞい。例えばもし『どらえげーと』でコンドームを手に入れていなかったら、殺介君は学校に行かなかったじゃろ?」

「おい、それじゃあまるで俺が『ぐへへ、一体俺の初体験の相手は誰になるのかな? 出会いを求めて学校へGOだ!』って考えていたみたいじゃないか!」

「実際その通りじゃろうが」

「…………」

 もちろん肯定はしないが、敢えて否定もしないでおこう。

「つまり『どらえげーと』がコンドームを出してくれたおかげで、殺介君は本来なら凄惨な学校占領事件になるところを、最低限の被害で抑えることができたのじゃ」

「俺に甚大な風評被害が出ているのだが!?」

「それにワシの『東大名誉教授』の身分証明書じゃがの」

 おい、無視して話を変えてるんじゃねーよ!

「散歩してたら迷子の幼女を見かけての。どれ、お母さんを一緒に探してやろうと連れて歩いていたら、あやうく警官に幼女誘拐と間違えられそうになったんじゃ。じゃが例の身分証明書を見せることで信頼させ、ことなきを得た」

「身元偽造じゃねーか!」

「これもすべて『どらえげーと』のおかげじゃ」

 また無視して無理矢理結論に持って行きやがったよ、このジジイ。
 てか、あまりに微妙すぎやしないか、『どらえげーと』?
 確かにコンドームを使用するお相手を求めて学校に行ったら、何故かテロリストと鉢合わせして学校の危機を救うことになった。
 キレテツ博士も身分証明書のおかげで事案にならずに済んだ。
 なるほど、役立ってはいる。でも、なんか根本的なところで間違っているような気もするぞ。
 ……まぁ、キレテツ博士の発明品だから所詮こんなものなのかもしれないけど。

「というわけで殺介君、再度『どらえげーと』の実験をするぞい」

「まだやんのかよ……」

「当然じゃ。なーに安心せい。一回目の実験の結果を踏まえて、微調整をしておる。今度はもっと当事者に必要なものを出してくれるはずじゃ」

「ホントかよ?」

 疑いつつも『どらえげーと』に手を突っ込む。
 しばらくして手に握らされたものは……。

「げっ!? なんでポン刀なんて物騒なものがでてくるんだよっ!?」

 刀身だけで六十センチ以上ある、波紋も美しい見事な日本刀。さぞかし名のある逸品に違いないだろうが、これを一体どうしろと? お宝鑑定団に「いやー、生前に祖父が借金のカタとして手に入れたもので……」とか言って持ち込めばいいのか?

「ふむ。殺介君が刀、そしてワシはこれか……」

 興味深げに呟くキレテツ博士の手に握られたものを見て、俺はさらに眉を顰めた。
 リボルバーの拳銃だった。
 
「おいおい。なんなんだよ、これ。六時間以内に戦争でも起きるのか?」

「あるいは街中がゾンビで溢れかえるのかもしれんのぉ」

 戦争もイヤだが、そいつも勘弁だ。

「てか、今度こそ完全に失敗だろ。微調整が明後日の方向を向いてるぞ」

「おかしいのぉ。そんなはずはないのじゃが……」

 頭を捻るキレテツ博士。悪いけど、おかしいのはあんたの頭の方だ。

 ところが。

「……博士……殺介君……」

 そこへふらりと闇夜ちゃんがやってきた。
 頭にはいつもようにネコミミ。でも、どこか様子がおかしい。とろんと蕩けるような目つき、赤く色付く頬、胸元は大きくはだけていて胸の谷間が顕わになってしまっている。

「ど、どうしたんだ、闇夜ちゃん?」

「……したい」

「へ? 死体?」

 まさか闇夜ちゃんがゾンビに!? なんてこったい!?
 思わず頭を抱えつつも、闇夜ちゃんの状態を確かめようと注意深く近付く。
 決してあらわな胸元をよく見ようって魂胆ではない。

 パンッ!

 銃声が聞こえたのはまさにその瞬間のことであった。

「なっ!?」

 驚いて振り返ると、はたしてキレテツ博士が『どらえげーと』で手に入れたリボルバーを構えていた。

「お、おい、博士! いくら闇夜ちゃんがゾンビになったからって、いきなり撃つことはねぇじゃねーか!」

 幸いにも銃弾は闇夜ちゃんに当たらなかったから良かったものの、あんなものを喰らったらいくらゾンビになったとはいえひとたまりもない。

「ちっ。躱したか。じゃが今度は外さんぞい」

 しかしキレテツ博士は俺の言葉なんか無視して、さらにもう一発撃ち込もうとトリガーを絞る。

「このコンバットマグナムの前に安らかに眠るのじゃ、殺介君!」

「俺ぇ!?」

 思ってもいなかったことにキレテツ博士のターゲットは闇夜ちゃんではなく、俺だったらしい。
 まったく躊躇せず、放たれる銃弾。
 俺はすかさず横っ飛びして魔弾を躱す。

「なっ!? 一体どういうことだよ、博士!? どうして俺を――」

 殺そうとするんだ? と聞くつもりだった。
 しかし、そんな俺の言葉を遮って、

「したいニャン! 子作りしたいニャーー!」

 闇夜ちゃんがとんでもないことを叫んだので、俺はなんとなく察しがついた。

「博士、これってまさか?」

「そう。『ねこみみもーど』が暴走して、闇夜ちゃんは発情期に入ったのじゃ!」

「そしてそのお相手を務めるために邪魔な俺を消そう、と?」

「ふん。勘のいいガキは嫌いじゃよ!」

 キレテツ博士がリボルバーを三度撃ち込む。
 それを俺は躱すことなく、横っ飛びした先に落ちていた日本刀を一振りし、銃弾を弾き飛ばした。

「いつかこういう日が来るんじゃないかと心のどこかで思っていた」

 俺はゆらりと立ち上がった。

「そうじゃな。所詮ワシと殺介君は二匹のオオカミ。一匹のネコを仲良く分け合うことなぞ出来まい」

 キレテツ博士がリボルバーをズボンとシャツの間にしまう。
 ここに来て休戦、というわけではない。
 早撃ちで俺を殺そうって腹だ。

「決着をつけよう」

 俺も応えるように日本刀を構える。

「おもしろくなってきやがったのじゃ!」

「今宵の斬鉄剣は一味違うぞ!」

 博士のリボルバーが火を噴く。
 俺はダッシュしながら銃弾を刀身で弾き返すと、博士目掛けて日本刀を振り下ろす。
 半身を引いて避ける博士。
 逃さないとばかりに、振り下ろした日本刀を薙ぎ払う俺。
 しゃがみ込んで追撃を躱しながらリボルバーを二発放つ博士の攻撃はさすがと言えよう。
 が、その捨て身の攻撃も俺の必殺『サイレントヒル・レクイエム』の前では恰好の餌食に――。

「やったニャー! 『どらえげーと』からイケメンが出てきたニャー」

「今夜は眠らせないぜ、闇夜ちゃん」

「望むところだニャン。早速ふたりでいいことをするニャー」

「おっけー。ところであそこで争っているふたりは闇夜ちゃんの知り合いかい?」

「知らない人たちニャ」

 イケメンに嬉しそうに抱きつく闇夜ちゃん。
 イケメンもまた闇夜ちゃんの腰に手を回して、ふたりはイチャイチャと研究所を出て行ってしまった。
 
「なぁ、殺介君や」

「なんだよ博士?」

「あそこは仲良く三(ぴー音)で良かったのかもしれんの」

「今更遅いわっ!」

 
 六、

「俺は思い違いをしていた」

 闇夜ちゃんと謎のイケメンがどっかでニャンニャンしている頃、俺は真面目な顔をしてキレテツ博士に語りかけた。

「俺はこれまで何も考えず『どらえげーと』に手を入れていた。が、それではダメなんだ。本来こいつは何かしらの願望を抱きながら手を入れるものだったんだ!」

 そう、六時間以内に起こる未来とやらを、俺は「未来のことなんだから分かるわけがない」と諦めていた。
 でも、そうじゃない。
 たとえ未来のことでも「これから〇〇したい」と願い、気持ちと肉体をその状況に保った状態で『どらえげーと』に手を突っ込めば、きっと自分の欲する未来を掴む事ができるはずだ。
 
 それは闇夜ちゃんの例を見ても明らかである。

「なるほど。なので殺介君は闇夜ちゃんにあんなことやこんなことをしようとしていたモヤモヤを解消することなく、むしろヤりたい、ヤりまくりたいと気持ちを昂ぶらせたまま『どらえげーと』に手を入れるわけじゃな?」

「ざっつらいと。悪いな博士、ご老体のあんたはすぐに萎えたようだが、若い俺はまだビンビンなんだっ!」

 闇夜ちゃんたちが去ってそこそこ時間が経つが、俺の昂ぶりは一向に衰えない。
 むしろ今頃ヤりまくってるんだろうなぁって考えると、かえって体の一部が鋼のように硬くなるのを感じた。

「殺介君、悪いことは言わん。やめておくのじゃ。なんだか嫌な予感がする」

「ははっ、らしくないことを言うじゃないか、博士。いつもはなんだかんだと俺を実験台にするくせに」

 それほどまで俺に抜け駆けされるのが悔しいか? 
 まぁ気持ちは分かるが、だが断わる!

「さぁ、出て来い純情可憐なロリ巨乳少女! 俺と楽園(エデン)にいざ行かん!」

 俺は『どらえげーと』に手を入れた。
 しばらくして、何かを掴む。
 だが、それはなんだかとてもごつごつとしていて――。

「うおっ! や、やめろ、出てくるんじゃねぇ!」

 俺が慌てて振り解いて『どらえげーと』から手を引き抜こうとする前に、そいつがひょいと頭を出した。
 日焼けした肌に負けないぐらい笑顔が眩しいアニキであった。
 
「やぁ! 私を呼んだかい?」

「呼んでねぇ。俺は純情可憐なロリ巨乳少女を求めているんだ!」

「はっはっは、女の子なんてつまんないぞぉ。それよりもこの私が君を真の楽園へと連れて行ってあげようじゃないか」

 俺が両手で防ぐにも関わらず、アニキが「むんっ!」と気合を入れて『どらえげーと』から出てくる。
 案の定、筋肉ムキムキのアニキであった。

「くっ、くそ! 喰らえ、サイレントヒル・レクイエム!」

「わっはっは、そんなものは効かんぞ。なんだかんだでアニメ不毛の地・静岡でも次第に状況は改善されつつあるし、この秋には沼津を聖地とした『ラブライブ! サンシャイン』の第二期を控えている! 『夏色キセキ』の頃とは違うのだよっ!」

 ば、バカな……俺の『サイレントヒル・レクイエム』が効かないだとぉぉぉぉぉぉぉ!?
 
「さぁ、溜めに溜めた君の欲望を全て受け止めてあげよう。私の鍛え上げた大臀筋による吸引力は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「いやああああああああああああああああああ!!!!!!」

 その夜、俺は新たな世界の扉を開かされた。
『どらえげーと』がその後どうなったのかは知らない。
タカテン 1nxaNUk4a2

2017年08月13日 20時05分10秒 公開
■この作品の著作権は タカテン 1nxaNUk4a2 さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:ぱぱらっぱらー、どらえげーとー
◆作者コメント:ゲート企画開催おめでとうございます!
盛り上げていきましょう!

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2017年08月17日 18時42分44秒
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2017年08月14日 20時27分01秒
+20点
合計 13人 140点

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